(2013 年 11 月 25 日、ロシア大統領がバチカンを訪問中のウラジミール・プーチンと教皇フランシスコ=ROPI/ ZUMA PRESS/ MAXPPP)
(2022.10.4 La Croix Loup Besmond de Senneville and Marguerite de Lasa | Vatican City)
ロシアのウクライナ軍事侵略に終止符を打つ教皇フランシスコの取り組みを、二つの視点から見ることができるだろう。 1 つは宗教史家の視点、もう 1 つは政治学者の視点だ。
教皇は2日の日曜日の正午の祈りに先立つ説教で、「ロシア大統領」に前例のない訴えを行い、ウクライナの 4 つの地域の併合を非難するとともに、世界の指導者たちに、戦争の「狂気」に反対し、「対話のためのイニシアティブ」を取るよう強く求めた。
では、このような教皇の努力は、この戦争を終わらすために、どのような効果があるのだろうかーバチカンでLaCroix特派員を務めるLoup Besmond de Sennevilleは、ローマ・フレンチ・スクールの近現代研究のディレクター Laura Pettinaroliに聞いた。
*「フランシスコは前任の教皇たちと歩調を合わせている」
2日の教皇の発言は、4代前の教皇ヨハネス23世とある程度一致している。1962年10月のキューバのミサイル危機の際の 口頭での介入だった。この時も、ロシアの前身のソ連が、米国の喉元のキューバに核兵器を持ち込もうとし、ケネディ大統領がフルシチョフ首相がぎりぎりのやり取りをする中で、ヨハネ23世は、恐ろしい戦争を強く警告した。フランシスコも、戦争が「血の川」の「恐怖」をもたらしており、「過ち」であり、「狂気」であり、最も弱い存在である子供たちも巻き込んでいると非難した。
戦争の暴力に問題は、ベネディクト 15 世 (1914-1922) とピオ 12 世 (1939-1958) の中心的な関心でもあり、戦争に対して、人類の団結と連帯の根本的な地平を想起させることを意図していた。
さらに、フランシスコは、武力による領土拡張は国際法の原則に反するとして、ロシアの行動を非難したが、これは、1960年代のバチカン外交の、多国間主義と少数者の権利を強力に促進する伝統的な姿勢をもとにしたものだ。
また、これまで試みられなかった方法も含めて外交ルートを通じての和平実現の努力を、ロシア、ウクライナ両国の大統領と世界の政治指導者たちに求め、必要なら教皇自身が調停役となる意思を改めて暗に示した。ロシアがウクライナ軍事侵攻を始めて以来、バチカンはレオ 13 世 (1878 ~ 1903 年) とベネディクト 15 世が行ったように、このような暗示を繰り返した来たが、1901 年に教皇レオ 13 世によって平和実現のために奉献された「ポンペイのロザリオの聖母」のように、フランシスコの訴えが効果的を挙げるかどうか、判断することは難しい。
ヨハネ 23 世が行った1962年の訴えは、国際世論を動かし、バチカン、ソ連、ロシア正教会の間の緊張緩和の原動力としての効果をもたらした。ベネディクト 15 世の1917年夏の第一次世界大戦中の平和への訴えは働きかけは、短期間でもあり、効果がなかった、と多くの人が考えているが、彼の提唱した内容は、翌1918 年に ウィルソン米大統領によって、平和実現にに必要な 14 項目に取り上げられました。
*「教皇の外交は他国の外交と同じくらい無力だ」
同じくLaCroixのMarguerite de Lasaは、パリの国際戦略関係研究所 のFrançois Mabille部長(地政学側面からの宗教研究)から次のような見解を得た。
2日の正午祈りでの教皇フランシスコの言明には、2 つの本質的な意味がある。カトリック教徒、特にウクライナのカトリック教徒にとって、教皇は、自身を仲介者として名乗りをあげ、初めて、ウラジーミル・プーチンを極めて強く批判する発言をした、と受け止められた。
この言明は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して以来、プーチンが犯した行為に対する分析の誤りから抜け出すことを可能にし、それによって、この軍事侵攻に関して教皇が示してきたこれまでの姿勢とバランスをとることに貢献している。
侵攻が始まった2月以降の教皇の姿勢は、ロシア政権の現実と、そのイデオロギー的な支援者としてモスクワ総主教庁が果たす役割についての誤解をもとにしていた。信仰開始時に、教皇は、”侵略者”の名を挙げるのを避けた。
2日の教皇の言明のこれまでの発言との大きな違いは、国際法に言及し、ロシアによるウクライナの4つの地域の併合を非難したことだ。教皇は歴代教皇の立場に倣って、平和の実現、そのための調停、紛争の終結を求め、ロシアとウクライナの両当事者に直接、訴えた。
だが、教皇の今回の厳しい発言が、今起きていることそのものに影響を与えるとは思わない。
教皇は今、仲介者、対話者としての地位を再び確立しているが、政治指導者たちと同じように、これは非常に困難な仕事だ。ロシアがウクライナに侵攻した瞬間から、バチカン外交は国家の外交と同じように無力なもののと、自由が利かなくなった。教皇は、プーチンが核兵器の使用に進む危険性を強調して、対話と平和の実現を再び訴えている。だが、軍事的対応を続ける政治指導者たちから危機脱出のための提案を聞いていない段階で、この訴えの効果はどうなのだろうか。私たちは、この危機的状況の中で、教皇から宗教的あるいは政治的な言葉が発せられるのを期待しているのだろうか?
教会は「地政学的な立場」を取るべきか、それとも人道的な対応に徹するべきなのか?ロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まって以来、教皇は、この二つの間で揺れ動いてきた. ここで、教皇の立場が、彼の個人的な信念から来るものと、パロリン国務長官やイエズス会など他のネットワークからもたらされる意見の間でどのように精緻化されているのかを、理解することは興味深いだろう。
バチカン国務省の外務局長として外交を担当するギャラガー大司教は、5月に教皇の従来の意見と異なる立場を取り、「ウクライナには一定の範囲内で自衛する権利がある」と言明した。「平和の人」でありたいフランシスコの個人的な信念は、(2日の言明以前の)これまで、バチカン国務省の立場を明らかに損なう言明の基調をなしてきた。国務省の立場は、教皇の言明よりも外交的であり、専門的であり、武器による自衛に関する教会の立場に沿っているにもかかわらず、である。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
(注:L A C ROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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亡くなったウクライナ兵士たちの葬儀で涙にくれる母や妻、子供たち
(2022.9.24 Vatican News Sergio Centofanti)
ウクライナへの軍事侵略の長期化で、ロシアのプーチン政権が窮地に追い詰められる中で、核の脅威がより現実的になり、和平実現か、想像を絶する危機につながる戦いの継続を選ぶのか、関係国は大きな岐路に立っている。
ロシアのウクライナ侵略は短期の電撃戦で”勝利”する はずだったが、ウクライナ側の決死の抵抗で、双方に死、嘆き、そして破壊をもたらしている。
プーチン政権は、この侵略を「一握りのいわゆる『ナチス』の支配から、ウクライナ国民を解放する」という名目で始めた。
だが、ロシア国民の中に「ウクライナの領土は自分たちのものではないし、ロシアに”征服”されるのを望まない土地で命を落としたくない」と声を上げる動きが出てきた。
「国の指導部やその子供たちが戦いの最前線からはるか離れた安全な場所にいる時に、意味のない戦いに出て、砲弾の餌食になるのはごめんだ」と多くのロシア国民は思っている。
そして、自分自身の命を救うために、今起きているのは、プーチン大統領が決定、実施した徴兵から逃れる動きだ。
プーチン政権は、国際的な強い批判に遭っている。「最も近い」と思っていた友好国でさえ、支援の手を実質的に緩めつつある。愚かな侵略戦争を続けようとやっきになればなるほど、国際的な孤立は深まっている。
今、プーチン政権がすべきことは、侵略戦争に勝つことではなく、早期に終結するために勇気を奮うことだ。
侵略戦争を始めた当事者は、勝利を手にしなければ、自分の立場が危険にさらされる、と考える。したがって、現在の状況は極めて危険だ。絶望的な状況に追い込まれた者は、絶望的な振る舞いをする恐れがある。そして、核兵器の使用も辞さない、という脅しが、今や公然となされている。
勇気と絶望の距離は大きい。だが、勇気ある人々が数を増やして団結すれば、歴史を変える可能性がある。歴史は教えているー「不正義が常軌を逸した時に人々は立ち上がる」と。私たちは今、歴史のそうした大きな転換点にいるのだ。
最大の問題は、プーチン政権が、柔軟に使える選択肢を使い果たしていることだ。選択肢は二つしかない。勇気をもって侵略戦争を終わらすか、それとも続行し(注*核の使用を含む)威嚇を現実のものとすることで、すべてを危険にさらすか、である。後者を選べば、致命的な破局がもたらされるだろう。… 神が私たちをお守りくださいますように。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
(9月4日に列福されるヨハネ・パウロ一世教皇、1978年8月26日に新教皇に選出されたが、在位44日で帰天した)
ローマ — 1978 年 9 月 29 日の早朝、ローマのアパートにいたステファニア・ファラスカは突然の電話の音に目を覚ました。受話器を取った父親の耳に、バチカンで司祭として働いていた叔父の声が響いたー「教皇が亡くなられた」。それを聞いた父がうろたえて言ったー「亡くなってしまった!」。当時15歳だった彼女は、今でもその瞬間をはっきり覚えている、という。
世界中の数え切れないほどの人々がそうしたように、ファラスカの父親が、65歳の新教皇が就任からわずか1か月余りで、なぜ亡くならねばならなかったのか、理解に苦しみながら、まず頭に浮かべたのは、その年の 8月上旬に80歳で亡くなった教皇パウロ 6 世のことだった。アルビノ・ルチアーニとして生まれたヨハネ・ パウロ 1 世は、その人生よりも、謎に包まれた突然の死について、世界中の多くの関係者に記憶されている。
*”前後の二人の教皇”はすぐに列聖されたが…
(写真は、ヨハネ・パウロ1世の自筆のメモ)
カトリックのジャーナリストとなったファラスカは、この10年以上にわたって、ヨハネ・ パウロ 1 世の突然の死をめぐる問題ではなく、彼の司祭、司教、枢機卿、そして教皇としての生き方が列聖に値することを、バチカンに納得させるのに苦労してきた。そして、年間第23主日の4日、教皇フランシスコは、ヨハネ・パウロ1世を、列聖への最後のステップである福者に列する。
列福への正式な取り組みは、教皇が亡くなって 5 年を待つ必要があるとされてきた。ヨハネ パウロ 2 世が2005 年に亡くなられた後、「今すぐに聖人に!」という多くの声に応え、そのルールは放棄されたが、ヨハネ・パウロ1世の列福に向けた作業が始まるまでに25年もかかった。
「ヨハネ・パウロ 1 世は、前後2人の教皇に〝挟まれた“方でした」とファラスカは言う。2人とは、ヨハネ・パウロ2世ー彼の後継者であり、史上最も長く教皇の座にあったーと、前任者であるパウロ 6 世ー第二バチカン公会議を取りまとめ、在位は15年に及んだーだ。いずれもすでに列聖されている。だが、この二人の間に挟まれたヨハネ・パウロ1世に「興味を持つ歴史家は一人もいませんでした。忘れ去られたように、時は過ぎ去っていきました」とファラスカ。
*バチカンの巨大金融スキャンダルの最中の突然の死に、”毒殺”疑惑
だが、ジャーナリストたちは、”誰がやったのか”については関心を持ち続けた。司教、枢機卿時代から誰にでも笑顔で接し、「ほほえみの教皇」と呼ばれたヨハネ・パウロ1世がバチカン宮殿の寝室で遺体が発見されたことは、当初から疑惑の的となった。死後数時間のバチカンの説明は一貫しなかった。第一発見者について、最初は「男性秘書」と言い、ほどなく、「朝のコーヒーを持ってきた修道女」に言い換えた。
「最初から『修道女が第一発見者だ』と言えば、疑惑を持たれることはなかったでしょう」とファラスカは言う。その修道女、シスター・ヴィンチェンツァは、教皇の家族によく知られていました。彼女たちは、「教皇の寝室に女性が入るのは不適切だと思われるので、教皇が亡くなっているのを最初に見つけたのは自分だ、と公言しないように」とバチカンから注意された、という。
当時、バチカンは、バチカン銀行をめぐる巨大金融スキャンダルの渦中にあった。当時バチカン銀行の総裁だったマーキンカス大司教(故人)とイタリアの銀行、さらにイタリアの有力地下組織を巻き込み、ヨハネ・パウロ1世が亡くなって間もなく、イタリアの個人銀行、アンブロシアーノ銀行の頭取がロンドン中心部のブラック・フライアー橋の下で死体となって発見された。
突然の死をめぐる疑惑は、この問題と結びつく形で深まったーヨハネ・パウロ1世はこの金融スキャンダルに徹底的なメスを入れようとしていたのではないか?バチカン官僚機構の腐敗を根絶することを計画していたのではないか?
英国の著作家、デイビッド・A・ヤロップは1984年に出版した「In God’s Name: An Investigation Into the Murder of Pope John Paul I(神の名において: 教皇ヨハネ・パウロ1世の殺害に関する調査)」で、バチカンが「ヨハネ・パウロ1世は亡くなる前の晩、ベッドに入る前に胸の痛みを感じたが、大事を取ることなく就寝し、心臓発作を起こし、死に至った」と結論付けているのに対して、「本来なら直ちになされるべき検死が行われなかった」のは、”不都合な真実”が明らかになるのを防ぐためだったことを示唆し、「バチカンとバチカン銀行につながる秘密結社のメンバーに関係を持つ殺し屋によって毒殺された」と結論付けた.
*「バチカンの周囲の人々が、彼を働かさせ過ぎ、適切な健康管理を怠ったのが、命を失った原因」とも
1987年、別の英国人ジャーナリスト、ジョン・コーンウェルは、当時のユーゴスラビアで聖母マリアが出現したという主張を調べる目的でバチカンに来たが、あるバチカンの司教から、、ヨハネ・パウロ1世の死の「真実」を書くように求められ、そのためにヨハネ・パウロ1世の担当医や遺体を整復した専門家などに主題できるように手配することを約束した。
その結果をもとにコーンウェルはベストセラー、「A Thief in the Night」を出版したが、彼はそこで、ヨハネ・パウロ1世は「無視されて死んだ」と結論付けた。
取材に対して、コーンウェルは「バチカンのど真ん中で起きた、配慮の欠落でした… (ヨハネ・パウロ1世の周りにいた)人々は、適切な助けを怠り、彼を働かせすぎ、適切な健康管理もしていなかった」と批判、「言い換えれば、彼らは、ヨハネ・パウロ1世に敬意を払っていなかった、ということです。取るに足らない教皇だと考え、『ピーター・セラーズに似ている』とまで言ったのです」と述べた。(カトリック・あい注:ピーター・セラーズはコメディアン出身のと英国の俳優で、しばしば不器用な役を演じることがあったが、三度、アカデミー男優賞の候補となり、ゴールデングローブ賞を受賞した名優。54歳で早逝)。
またコーンウェルは「この問題に関心を持つ人々の中には、私が一人の司教を含め、(疑惑を持たれた人々について)殺人に関与したとする証拠を見つけることができなかった、と失望する人もいた」とし、それは、「私が取材で出会ったバチカン内部の人たちの間に、ヨハネ・パウロ1世を”排除”しようとする陰謀があったことを確信する人たちです」と語った。
*「列福は『教皇だから』ではない、因習にとらわれず、信望愛に生きた方だから」
ファラスカは、「ヨハネ・パウロ1世は、教皇だったので列福されるのではありません」とし、 「信仰、希望、慈愛において模範的な生き方をされたからです。彼はすべての人にとっての模範。本質的な美徳の証人だったからです」 と強調する。
ヨハネ・パウロ1世は,それまでの教皇の型を破り、説教や講話で自分自身のことを伝統的な「私たち」ではなく「私」と呼ばれたが、「彼は、それまで何世紀も続いてきた因習を吹き飛ばす、そよ風のようでした… 彼の『口語』で語るという選択は、神学的な選択でした」 と説明した。関連して、彼女は、ヨハネ・パウロ1世が最も大切にしていた本の中に、マーク・ トウェイン、ウィラ・キャザー、それに、司祭探偵「ブラウン神父」シリーズの作者であるギルバート・キース・チェスタートンの著作があったことにも注目している。
*「ヨハネ・パウロ1世が叙階のきっかけになった司祭が教皇に執り成しを求め、奇跡が起きた」
列福されるために、神への執り成しの祈りに起因する奇跡が必要とされる。ヨハネ・パウロ1世に関しては、その奇跡は 2011 年に起きている。脳の炎症と敗血症性によるショックでブエノスアイレスの病院に緊急入院した11 歳の少女がいた。 彼女の両親は近くの教区の司祭に、瀕死の娘のため病院に祈りに来てくれるよう懇願した。これに応えて、病院に来たダブスティ神父は、少女が助かるように誰に執り成しを求めるべきか考えたが、突然、ヨハネ・パウロ1世が頭に浮かび、彼に執り成しを願う祈りを捧げた。そして彼女は、医学的に説明のつかない回復をした。
だが、世界の信徒の誰からもほとんど忘れ去られていた教皇の名前が浮かんだのはなぜなのだろうか。ダブスティ神父は、ファラスカの取材に、「私は 15 歳の時、新しく選ばれたヨハネ・パウロ1世が話されるのを聞いて、司祭になる決心をした。新教皇がとても素直で喜びに満ちていたから」、それが彼に執り成しを求めることにつながった、と説明している。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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(Credit: AP Photo/Andrew Medichini.)
ローマ – 教皇フランシスコが27日、80歳未満で教皇選挙権を持つ16人を含む20人の新しい枢機卿を叙任した。フランシスコにとって八回目の新枢機卿叙任となったが、新枢機卿が誕生するたびに、”誤解”が生まれ傾向がある。ここでは、枢機卿について考える際に避けるべき 3 つの考えの誤りを示そうと思う。
*”リベラル”対”保守”という枢機卿の”分類”は欧米以外では困難
まず第一に、西側の“予想屋”たちが、ほかのケースと同じように、枢機卿を”リベラル”か”保守”かで分けようとする、自然的な傾向がある。
これは一般に、米国と欧州の枢機卿については、かなりうまく機能するようだ。たとえば、米サンディエゴ教区長のロバート・マッケルロイ新枢機卿が、米国の司教団の”伝統的な重心”よりも左にあると考えるのは、少々単純化しすぎとはいえ、間違ってはいない。
バチカンの典礼秘跡省長官で英国出身のアーサー・ローチ新枢機卿も、前任長官のロバート・サラ枢機卿よりも進歩的と言える。
ただ、欧米の領域を出ると、そのような分類法が通用しなくなる傾向がある。例えばインドでカースト制度で最下層のダリット(不可触民)出身の初の枢機卿となったアンソニー・プーラ大司教を、そのような方法で区別することは注意を要する。東ティモール初の枢機卿となったヴィルジリオ・ド・カルモ・ダ・シルバ大司教はどうだろうか?
彼らについては、リベラルか、保守か、どちらの側にいるのか判別できないだけでなく、そもそもこのような分け方ができないことが多いだ。たとえば、開発途上国の高位聖職者は、教義に関しては非常に伝統的であることが多いが、社会正義の問題に関しては非常に進歩的だ、というように。
さらに、彼らの視点は、主として、それぞれの置かれた地域の状況に基づいている。おそらく、ナイジェリアの新枢機卿、ピーター・エベレ・オクパレケ大司教は、トランスジェンダーの権利や米国ではリベラルか保守かを分ける基準のようになっている中絶を法的に認めるかどうかよりも、自国を覆っている政治・社会腐敗、宗派間の暴力、治安問題にずっと大きな関心を持っている。
要は、カトリックは世界的な信仰で、教皇フランシスコの治世下で、そのことが枢機卿団の中身に大きく反映されるようになってきている。したがって、従来のような欧米の視点に重きを置いて”分析”しようとするのを、止めねばならない、ということだ。
*枢機卿たちにバチカンの”専門家”を期待するな
「枢機卿なら、バチカンの裏も表も知っているに違いない」と思い込む傾向が部外者にはあるが、実際はそうではない。新たに枢機卿となった人のほとんどは、任命を受けてまず最初に、バチカンの”権力回廊”が「北極のツンドラや太平洋の孤島と同じように、自分にとって”未知の世界”だ」と気づくだろう。
たとえば、今、金融犯罪の疑いでバチカンで裁判にかけられている 10 人の被告のうち 3 人以上の名前を挙げられるのは、教皇選挙権を持つ新しい枢機卿16人のうち 2 人だけの可能性が高い。
新枢機卿のほとんどが名前を挙げられるのは、アンジェロ・ベッチュウ枢機卿だろう。彼は、2020年に枢機卿としての特権をはく奪されたにもかかわらず、教皇の”お陰”で枢機卿会議への出席が認められている。
だがそれ以外は、バチカン市国の委員会議長で行政庁長官のフェルナンド・ベルヘス・アルサガ大司教などを除けば、バチカンをだましたとして訴えられた2人の金融業者、ラファエレ・ミシオーネやジャンルイジ・トルツィの名前を含めて名前を挙げることのできる新枢機卿はいないだろう。
フランシスコが教皇職について以来、バチカンから遠く離れた地域で働き、過去にもバチカンで働いた経験がないばかりか、ほんのわずかな期間でもバチカンで過ごしたことのない者から、数多くの枢機卿が選ばれるようになって、バチカンの事情に疎い枢機卿がますます増えている。50パーセントの確率で、ローマの料理店で枢機卿たちの夕食の世話をするウエイターの方が、枢機卿たちよりもバチカンの”パワーゲーム”について語ることができる、と言うことができる。
あなたがバチカンの現状を気遣うカトリック信徒なら、そのことを知り合いの枢機卿に伝えても何の問題もない。だが、彼がバチカン内部で実際に何が起こっているかについて、あなたよりもよく知っていると期待しないほうがいい。
*枢機卿たちは、互いに気心の知れた親友ではない
枢機卿に関する当然と思われるが、実は誤った思い込みは、枢機卿団は昨日現在で総員 226 人、うち教皇選挙権を持つのが132 人と言う非常に小さな”クラブ”だから、お互いがとても親密な関係にあるに違いない、と考えることだ。
Crux が最近、新枢機卿の一人に、「あなたが個人的に知っている枢機卿は何人ですか」と聞いたところ、返事は「7 人くらい」だった。この答えは平均の下限かも知れないが、枢機卿の多くが互いを知らない、というのは事実である。これまで「ありそうもない」と考えられた場所に”赤い帽子”を配る、という教皇フランシスコの枢機卿任命の傾向を考えると、それは極めて自然なことだ。ナイジェリアのエクウロビア大司教である新枢機卿が、たとえばシンガポールやモンゴルの枢機卿と知り合いだと言えるだろうか?
実際、多くの観測筋は、明日から始まる 2 日間の枢機卿会議の本当の狙いは、表向き言われている「バチカン改革について意見を交換すること」ではない。これまで述べたように、これらの枢機卿のほとんどは、バチカンについてよく知らないから、”短期集中コース”を有意義にするには 2 日間ではとても足りない。それでも、お互いが顔を合わせる機会を提供し、互いの関心や経験について、つかの間の感触を得るのが、本当の狙いとすれば、それはそれなりに意味のあることだ。
そのような結果となるのは仕方がないが、”その時”がいつ来たとしても、今回の枢機卿会議の結果が、教皇選びに影響を与えることは否定できない。
*現教皇の下で加速する“馴染みのなさ”が次期教皇選挙に与える影響は
2005 年の教皇選挙に参加したある枢機卿が、さまざまな評判のある候補者に関する分厚い説明書を持っていたことを思い出す。彼はローマに向かう飛行機の中でその説明書を読み込んだが、「候補となり得る枢機卿たちについて、それまでほとんど知らなかったので、そうせざるを得なかった」と語っていた。
(その教皇選挙では、結局、教理省長官を長く勤め、立場上、多くの枢機卿から知られていたヨゼフ・ラッツィンガー枢機卿が教皇に選ばれたのだが、結果が出るまで、彼が選ばれるという確信を持った者はいなかった。)
この、枢機卿同士の”なじみのなさ”は、教皇フランシスコの下でさらに深まっている。これはつまり、枢機卿たちが次の教皇を選出するために集まったときに多くの時間が費やされるのは、候補者を立てて争うことよりも、”候補者紹介”となることを意味する。
以上で述べてきたことを要約すれば、次のようになるだろう。
「枢機卿を見るときは、期待値を下げるように。彼らが、教皇職には及ばないものの、教会で高い地位を占めてはいるが、率直に言って、その地位が、あなたが本当に知りたいと思っていることの多くを含め、すべてのことに関する専門家にすることはない」。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
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教皇フランシスコはこれまで、”辞任の危機”に瀕していることを否定し、それは聖職者主義の悪や移民の尊厳に関する彼の巧みな言葉と同様、”大ヒット語録”の一つになっている。 *間もなく退任されるとは、とても見えないが
教皇は85 歳で、変形性関節症で右膝の急性の痛みに苦しんでいるが、先日は一週間のカナダ訪問をし、今月下旬には新枢機卿任命式とそれに続く枢機卿会議を予定。28日にはイタリア中部の都市、アキラに出かけ、9月に入って4日にヨハネ・パウロ一世の列福式、さらに13日からカザフスタンへ3日間の旅に出る。さらに、実現すればだが、彼が教皇職に就いて以来、最も緊張を強いられるウクライナの首都キーウ訪問の可能性もある。
このように見てくると、教皇が退任の準備に入ったようには、とても思えないだろう。にもかかわらず、関係者の共通認識となっているのは、フランシスコの教皇職は”始まりよりも、終わりに近い”段階にある、ということだ。 教皇ヨハネ・パウロ2世が亡くなったのは84歳。ベネディクト16世が自ら教皇職を降りたのは85歳。過去100年間に教皇職を8人が務めたが、役務を終えた年齢は平均で78歳だった。確かに、フランシスコは80代にしてはしっかりしており、エネルギッシュだが、それでも今、いつ終わってもおかしくない時を過ごしている、と言える。
*”その時”に備え、マスコミの準備は進む
バチカン問題の専門家たちは、このことをすべて知っている。つまり、”その時”を迎える準備はすでに順調に進んでいるのだ。世界の主要テレビ ネットワークの幹部たちはローマに頻繁に出入りして、”ビッグ ショー”がいつ起きても対応できるように場所と人員を確保し、ジャーナリストたちは教皇の亡者原稿と後継者候補のリストを用意している。少々ぞっとするかもしれないが、これが”報道ビジネス”の本質だ。教皇の治世の終わりに向けた段階に入る中で、何が起こるかについての簡単な案内を試みてみよう。.
*教皇の健康状態に過剰反応するようになっている
第一に、私たちは今、(教皇フランシスコの)健康をめぐるあらゆる問題に過剰反応するようになっている。ヨハネ・パウロ二世の治世の後半を知る人なら、それがよく分かるだろう。弱弱しく見えたり、大きな行事をキャンセルせねばならなくなると、すぐに、それを教皇職の終わりと結び付けたものだ。
フランシスコの支持者たちは、彼が去ることを望まず、終わりが近づいているとほのめかす人を激しく非難するだろうし、批判者たちは、終わりが近い、という噂を信じたがるだろう。
バチカンは、教皇の健康に関する情報の公開に非常に慎重だ。「教皇にも、プライバシーを守る権利がある」という奇妙な考えに固執しているため、教皇の健康状態、受けている治療、あるいは彼の医療チームがどのような判断をしているのか、などについて詳細な最新情報を手に入れることはできない。フランシスコは昨年、結腸手術を受けたが、術後に公式の医療報告はなく、医師が彼の身体的な状況についての見通しについてどのように判断しているかも分からない。 だから、いつまで教皇職を続けられるのか、誰にも分からないし、最善の対応は、彼の動静に一喜一憂しすぎないことだろう。
*”後継候補”の言動に関心が集まってくる
第二に、私たちは、バチカン報道をめぐる(米国の大統領予備選挙シーズンの先陣をきる)”アイオワ州党員集会”の段階に入っている。この段階では、教皇候補として名を挙げられた人の振る舞いはすべて、”選挙力学のレンズ”を通して見られるのだ。
例えば、イタリアのボローニャ大司教、マッテオ・ズッピ枢機卿は現在、教皇フランシスコが取り組んでいる課題の継承者である後継候補として最有力視されている。彼は、イタリアの司教協議会の会長を務めているが、イタリアは9 月 20 日に総選挙が予定されるなど”政治の季節”を迎えており、彼の言動は、イタリアという国の今後に影響を与えるだけでなく、仮にフランシスコの後継者となった時にどう振舞うか、などと絡めて評価されるようになるだろう。
同様に、ハンガリーのブダペスト大司教、エルドー・ペーテル枢機卿は、フランシスコの路線と決別するであろう保守的な後継候補と見なされている。ハンガリーで絶え間ない論争の的となっている移民・難民問題に関する枢機卿の言動は、”教皇レース”で非常に重要なものとなろう。 この面で、「”葉巻”は、時には単なる”葉巻”だ」-つまり、司教たちは時には、司教としてー”選挙綱領”の一部と意識せずにー行動する必要がある、ということを覚えておく価値はあると思う。
*8月下旬の枢機卿会議とケレスティヌス 5 世教皇の墓前訪問
第三に、今、バチカンでは、主要なメディアによる報道の”景気循環”の時期に来ている。バチカンに関係するすべての大きなイベントは、”本番前の舞台稽古”と見なされるからだ。
その経験則により、8 月のカレンダーの27日から30日にマルをつけよう。教皇フランシスコは新枢機卿の任命式で、自身の後継者を選ぶ新たなメンバーを創出し、後継候補になる潜在的な可能性を持つすべての枢機卿と顔を合わせる。その一方で、ベネディクト 16 世教皇の自発的退任前にしたように、700年前、存命中に教皇職を退いたケレスティヌス 5 世教皇の墓にも足を運ぶ予定だ。
この一連の行事はマスコミの報道を飽和状態にし、大げさに言えば、第二次大戦の連合軍ノルマンディー上陸作戦やケネディ米大統領暗殺をめぐる報道にも匹敵する騒ぎになるかもしれない。
言い換えれば、機は熟していようと、いなかろうと、カトリック教会の”選挙の季節”は近づいている。ヨハネ・パウロ二世の時と同じように、実際にその時が来るまでにいくつかのヤマがあるかもしれないが、そのことで不平を言うのは、天気について不満を述べるのと同じようなものだ。好むと好まざるとにかかわらず、来る時は来る、のだ。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.
(2022.6.19 Crux | Senior Correspondent Elise Ann Allen)
ローマ発–ウクライナの首都キーウのラテン典礼カトリック教会のヴィタリー・クリヴィツキー司教は、イタリア司教協議会の機関紙Avvenireのインタビューで、 教皇のウクライナ訪問は希望の源だが、安全上の懸念と、「ロシアによる現在のウクライナ侵攻に関する教皇の最近の発言のいくつか」を考えた場合、現在は実現可能ではない」と述べた。
司教は、「教皇が苦しむ人々の真っ只中においでになることは、私たちウクライナのカトリック教徒にとって大きな希望。教皇がこれまで繰り返し、停戦を訴え、人道援助の実施に具体的に行動されたことで、私たちは親密さを感じており、世界の教会を巻き込んだ、絶え間ない祈りにも感謝している」と述べ、「実際にウクライナを訪問されれば、私たちにさらなる勇気を与えてくださることになるでしょう」と期待を込めた。
ただし、教皇訪問の時期については、今ただちに、とお願いするわけにはいかない、との見方を表明。その理由として、「ほとんどのウクライナの兵士が、ロシア軍の侵攻を止める戦いの最前線に出ている中で、訪問の際に必要な安全を保障するのが難しい。それだけでなく、ロシアの軍事侵攻が始まった時点と比べて、国民の間には、教皇の最近の言葉が間違っているとし、歓迎しない声がでていることも、ある」と説明した。
司教は、教皇のどの言葉が、そのような見方をされているのか具体的には語らなかったが、ロシアの軍事侵略からウクライナを守る武器を持った戦いを支持することに教皇が躊躇していること、さらに、米欧の北大西洋条約機構(NATO)がロシアのウクライナ侵攻の引き金になった可能性がある、とあたかも米欧側に責任があるかのような見方を教皇が示唆したことが、ウクライナの内外で論議を呼んでいることは、良く知られていることだ。
教皇フランシスコは、14日発行のイエズス会の学術誌LaCiviltàCattolicaに掲載された編集者との対話で、ロシアのウクライナ軍事侵攻について言及し、「そこには、 抽象理論に基ずく”善玉””悪玉”は存在しない。地球規模の、互いにひどく絡み合った要素をともなった何かが、新たに起きている」と述べ、「ロシア分の凶暴さ、残酷さ」を弾劾したものの、この戦争の動機として武器取引を批判。そのことが、バチカンの観測筋の中に「教皇は、ウクライナへの武器支援に反対している」との見方を生んでいる。
また教皇はここで、ロシアの軍事侵攻が始まった2月24日より前に会ったある国家元首が、「NATOが、ロシアの玄関口で、怒鳴り声をあげている。NATOの振る舞いは、戦争につながりかねない」と警告していた、と語り、NATOにこの紛争の責任の一端があるとの考えを示唆していた。
さらに、教皇は今年の聖金曜日の4月15日に行われた十字架の道行きで、ロシア人とウクライナ人の女性たちに一緒に十字架を担うように求めたことも含めて、ロシアの軍事侵略開始以来の言動に、一部から批判が続いている。
教皇は、先に、ロシア軍による戦争犯罪があったとされるウクライナの都市、ブチャから届けられたウクライナ国旗に接吻した場面を写真にとられ、停戦を呼び掛け、交渉を支援することを提案したが、ウクライナへの軍事侵略者としての「ロシア」あるいは「プーチン」を、これまで一度も名指ししていない。
また、教皇は先月のイタリアの日刊紙Corriere della Seraのインタビューで、「他国がウクライナに武装支援することが適切かどうか」の問いに対して、「私は答えることができません。あまりにも距離があり過ぎます」としたうえで、 「明らかなことは、その場所で武器がテストされているということです。 ロシア人は今、戦車がほとんど役に立たないことを知っており、他のことを考えています。 武器は、戦争でテストするために作られている… 武器取引は醜聞です。わずかな人しか使わない」とも述べている。
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このような教皇の発言は、彼の敵対者だけでなく友人たちからも非難されている。その中には、ヴェノスアイレス時代からの長年の友であり、ウクライナのギリシャ・カトリック教会を監督しているスビアトスラフ・シェフチュク総大司教も含まれている。
シェフチュク総大司教は、LaCiviltàCattolicaでの教皇の発言を受けた形で、最近のビデオメッセージで、「この戦争の原因はロシア自体にある。 そして、ロシアの侵略者は、外部の侵略者の助けを借りて、問題を解決しようとしている」と反論。「ウクライナに対するロシアの侵略は、外部の挑発によって起きたものでは、まったくない」と主張した。
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教皇は最近、戦争に関する彼の「曖昧な」レトリックに懸念を抱くウクライナ人の小グループと、ほぼ2時間にわたって会見した。
クリヴィツキー司教は、イタリア司教協議会の機関紙Avvenireとのインタビューで、教皇がウクライナ訪問を実現するためには、「教皇の訪問に関する”コンセンサス”を再構築する必要がある」と述べ、「それには時間がかかる。教皇がキーウを訪問されれば、大きな喜びをもって迎えられるだろうが、現時点では、その条件が整っていない」と指摘している。
2017年に教皇によってキーウ総大司教に任命されたクリヴィツキーは、約800万のこの都市で約20万人のラテン儀式カトリック教徒を司牧している。「教皇が依然として戦争の阻止に貢献できると思うか」の問いに、「確かにそう思う。バチカンは、私たちとロシアの間の仲介者として基本的な役割を果たすことができる」とする一方で、両国の停戦交渉には「調停者」が必要だが、「教皇のことを、もはやsuper partes(注*調停に当たって両当事者いずれにも公平である者)と見なさない 人もいる」と述べた。
ただし、このような教皇の発言をめぐって、一部に教皇の姿勢に懸念を示す声が出てはいるものの、「教皇とバチカンの外交関係者が、停戦交渉開始の前提となる両当事者による対話実現の種を蒔いていること」には、確信を表明している。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
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Sister Dolores Zok, bottom left, with some Ukrainian displaced people who stayed with her congregation after fleeing their country. (Credit: Sister Dolores Zok.)
(2022.6.3 Crux Rome Bureau Chief San Martín)
ローマ発–ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻を命じてから3日で、100日目を迎えた。この間、700万人近くのウクライナ国民が国外に避難を余儀なくされ、そのほとんどが女性と子供だ。
隣国ポーランドは少なくとも400万人の避難民を受け入れており、そのうち少なくとも2万1000人にとって、女子修道会が運営する1000の施設や修道院がなければ、安心して避難できる場を見つけることはできなかっただろう。
Mission Congregation Servants of the Holy Spirit(聖霊奉侍布教修道女会)のシスター、ドロレス・ゾクはCruxの電話取材に、「ポーランドには今も、新たな避難民が到着し続けています。先週の土曜日に電車でワルシャワに行きましたが、ブダペストから多くのウクライナ人、特に女性と子供たちが目立ちました」と語る。
そして、「他の欧州諸国では、避難民は3か月しか滞在できませんが、ポーランドでは、現在18か月滞在できます。そして 、短期滞在の後、カナダ、ドイツ、あるいは米国に行こうとする人たちもいます」と説明。
ポーランド修道会協議会の会長でもあるシスター・ゾクによると、同国の主要な修道会はこれまでに自分たちの管理・運営する550の修道院や施設を避難民に開放し、2万1000人に住まいや食事の提供などの支援を行っている。「支援のためには、例えばガス代など出費が重なります。これからどうやって支援に必要な資金を確保したらいいかを考えると、夜も眠れない日が続いています」と訴えた。
以下は、シスター・ゾクのインタビューの要旨。
Crux:ポーランドの女子修道会は、ウクライナから避難して来た人たちために、修道院や関連施設を開放しています。現在の状況はどうなっていますか?
Zok:戦争が始まった時、私たちは、予期しない事態に非常に驚き、ショックを受けました。多くのウクライナ人がポーランドに到着し始め、私たちは彼らに門戸を開くことに決めました。主な修道会がポーランド全体で約850か所の施設を避難民に開放しています。ウクライナに残った人たちのための避難所が95か所あり、そこでもポーランド人のシスターが奉仕しています。
国境の町、プシェミシル、ジェシュフ、ルブリンなどには、避難先に向かう途中の人たちの一時休憩の場所として、いつもにぎわっています。また避難民は、ポーランド中の修道院に助けを求めて訪れます。私たちの聖霊奉侍布教修道女会は、国際的な奉仕活動を展開する修道会ですから、その経験を生かすことができる。私の修道院だけで現在50人を受け入れています。彼らのために敷地内の建物の一つを改装し、彼らが生活できるようにしました。もちろん食事も提供しています。また、女性たちの中には仕事を探しに出かける人もおり、子供たちは学校に行くので、うまく順応できるように、ポーランド語を教えています。
そうしている間にも、避難民の入国は続いています。私は先週の土曜日に首都のワルシャワに出掛けましたが、ハンガリーのブダペストから、たくさんのウクライナ避難民、特に女性と子供たちが到着していました。他の欧州諸国は、避難民の滞在を3か月しか認めていませんが、ポーランドでは現在、18か月の滞在を認めています。ここから、さらにカナダやドイツ、米国に行こうとする人もいます。
Q: ウクライナからの避難民のうち、ポーランドの修道会が関わった人の数はどれほどでしょう?
A: 私が持っている統計によると、現時点で、ポーランドの女子修道会が550か所の修道院や関連施設を避難民に開放し、約2万1000人を支援しています。滞在期間は、数日、10日など様々で、短期滞在の後、仕事を見つけて別の所に引っ越した人もいれば、海外に出た人もいます。
Q: 1つの修道院で1000人以上のウクライナ人を受け入れている、という話もありますが?
A: それは事実ですが、そうした修道院は国境にあり、人々は数日の短期滞在です。食事をし、睡眠をとり、必要なものを手に入れたら、他の町に移って行きます。
Q: 収容している避難民への食事の提供はどうしていますか。光熱費なども含めた出費の増加にどのように対応していますか?
A: 私たちの修道院は、ポーランド西部のラチブシュにあります。特にロシアがウクライナ侵攻を始めた当初は、自宅に避難民を受け入れることのできない多くの住民が、私たちのところに「避難民のために」と食料、衣服、薬などの物資を持ってきてくれました。今はめったにそういうことがないので、費用は修道院で負担していますが、カリタス・ポーランドや、ローマの修道会総長連盟を通しヒルトン財団から、そして米国その他の国の多くの財団から財政支援を受けています。また、国にも、非難民を受け入れている一般家庭と同様、いくらかの支援を求めることができます。そして、私たちは国際的な修道会なので、その助けを得ています。
Q: ロシアのウクライナ侵攻が始まった時の、ポーランドの人々が見せた対応をどう思われましたか?
A: 本当に驚きました。感動的でした。 私は第二次世界大戦前にドイツの一部だった地域の出身です。ドイツ系の人々がいて、戦争中にロシア軍が私たちを酷く苦しめました、当時を知っている年配の人たちは、そうした苦しみを覚えています。 ですから、非難してくるウクライナ人を迎えようと何人のもポーランドの人々が国境に行くのを見て、とても心を打たれました。
多くの家庭がウクライナの人々を自宅に受け入れ、よく世話をしてくれていますが、何か月も続けるのが難しい家庭もあります。速やかに平和が回復され、人々が政府の適切な支援を受けて、故郷に戻れるのを願っています。 また、多くの避難民はウクライナに戻ろうとする一方で、長期滞在が認められていない欧州の他の国々からポーランドに来る人が続いている、ということも指摘しておきます。
Q: あなたが出会ったウクライナ人のほとんどが帰国を希望しているのでしょうか?
A: 私の知る限り、そうです、彼らはどうしても戻りたいのです。彼らは、私たちと非常によく似ていて、自分の国をとても愛しています。非難している間も、心はウクライナにあり、自分の子供たちの未来を確かなものにするために、どうやって働けばいいかを考えています。ウクライナに関するニュースを絶えず追っています。
Q: ウクライナ侵攻が始まって以来、夜遅くまで眠れずに心配していることがありますか?
A: 私の活動に資金援助を受けていますが、光熱費が高騰を続けるなど、支援活動に支障が出ないか心配です。それよりももっと心配なのは、私たちが与っている避難民の家族のことです。ロシアの軍事侵攻で多くの家族が離れ離れになっており、父や夫、兄弟はウクライナに留まっています。彼らの心理的な苦痛がとても気がかりです。多くの人々が悲しみに打ち勝ち、ロシア人を赦すことは難しいかもしれません。軍事侵攻が始まる前は、多くのウクライナ人とロシア人は友達同士でしたが、和解には、時間がかかるのではないかと心配しています。
Q: 他に何かおっしゃりたいことは?
A: 私は、ロシアの軍事侵攻の犠牲者を助けるために米国の人々が行っているすべての努力を称賛しています。 彼らは、ウクライナの人々の生活に非常に関心を持っています。 私たちは具体的な支援、物資、資金、そして危機に適切に対処するための貴重な提案を得ることができます。米国政府は、さまざまな方法で私たちを本当に助けてくれており、具体的な提案をしています。 しかし、他の国々も、もっと多くのことができると思います。
私は、この戦争がすぐに終わることを祈ります、そして、心の中にウクライナの人たちを持っている私たちは、ロシアの侵攻が止まった時、彼らが自国を再建する準備ができているように望んでいます。ウクライナの人たちには、物的にも、精神的にも、私たちの助けが必要です。そして、 私たちは皆、キリストの希望のメッセージを必要としているのです。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.
(2022.5.13 La Croix Robert Mickens |Vatican City)
教皇フランシスコは現在も、ミサ、日曜正午の祈り、一般謁見、さらには海外訪問など積極的な活動を続けているが、間違いなく、教皇としての”最終段階”にある。
教皇は、膝の痛みのために車椅子の使用を余儀なくされているかかわらず、活動のペースを緩めていない。85歳の教皇は、2013年の3月にローマ司教に選出されたときよりも体重が重く、動作が抑えられている少ない可能性があるが、彼の心は相変わらず健全で機敏に見える。
だが、高齢と身体的な問題がブレーキになり始めていることは否定できない。近代の教皇で最高齢の記録は1903年に93歳で亡くなったレオ13世だが、フランシスコはこの10月で、それ以後の最高齢教皇だったベネディクト16世の引退時の年齢を超える。
そうしたことから、教会史上初のイエズス会出身の教皇の後継者についてのうわさ話が、バチカン関係者の間でかまびすしくなりはじめているのだが、教皇選挙権を持つ枢機卿(彼ら自身も潜在的な候補者だが)がどのような判断をするのか、予測は難しい。フランシスコがこれまでに選任した枢機卿は極めて多様であり、大半が知名度が低く、カトリックの人口が少ない地域出身者だ。しかも、国際的な活動経験のないの者がほとんどだ。
*数字が教えるのは…
現在、教皇選挙に投票する資格をもつ80歳未満の枢機卿は117人いる (教皇が選挙権を剥奪したアンジェロ・ベッチウ=73歳=は含まれない)が、6月6日の時点では、116人に減る。そして、フランシスコによって任命された枢機卿は、このうち67人。前任のベネディクト16世任命は38人、残りの12人はヨハネパウロ2世の任命だが、メキシコのノルベルト・リベラカレラ枢機卿は6月に80歳を超え、選挙権を失う。
現在の教皇が、自身の後継者を選ぶ枢機卿の6割近くを任命したという事実は、誰が後継者となるかを考える場合に比較的重要であるものの、枢機卿たちがシスティナ礼拝堂の中に突然、閉じ込められた場合、彼らが誰に投票するかは、定かでない。
教皇選挙権を持つ117人が一堂に会したことはない。教皇フランシスコは、2013年に教皇職に就いて10年目になるこれまでに、枢機卿団に新しいメンバーを加えるための枢機卿会議を7かい開いているが、2014年2月の最初の枢機卿会議を除くと、枢機卿全員を集める会議を開いたことはない。
影響力のある、選挙権を持たない”退職枢機卿”92人の動向にも注意が必要だ。彼らは、教皇選挙が行われる直前に、選挙権を持つ枢機卿たちとの間で開かれる会議で、極めて影響力のある役割を果たすことが可能だ。この会議では、ヨハネ・パウロ二世とベネディクト16世が選任した、選挙権を持たない枢機卿の数が、フランシスコが選任した者の3倍に達する。選挙権を持津者と持たない者を合わせた枢機卿の総数209人の全員が、教皇選挙前の会議に参加した場合、フランシスコに選任された者は92人だけとなる。
枢機卿団が一堂に会する機会は、2014年以降もたれていないことから、彼らを結び付ける具体的な傾向を引き出すことも難しい。彼らが、他の聖職者と区別される唯一の義務、教皇選挙権の行使がなされる時、どのようなタイプの教皇を選ぼうするのだろうか。
*フランシスコが掲げる課題に対応する教皇候補は
フランシスコが教皇職の間に実現しようとしてきた教会改革の野心的な、そして時には破壊的なプログラムを強く支持する枢機卿は多い。アルゼンチン出身の教皇は、自身が発出した最も重要な文書である使徒的勧告「福音の喜び」で描いた、生き生きと福音宣教を進める教会の青写真を心から受け入れる枢機卿たちから揺るぎない忠誠を表明されている。
枢機卿団には、フランシスコの課題に取り組む大物がおり、その回勅「ラウダート・シ」と使徒的勧告「兄弟の皆さん」を活動の主たる舞台にしているが、彼らの中に、次期教皇に選出されるのに十分な票を獲得できる者がいるだろうか?
世界代表司教会議に向けて進んでいる教会改革と”共働性”を作る試み―すべてのレベルでの教会活動と統治の本質的な要素ーがその中心にある。そして、バチカンのシノドス事務局長として精力的に活動しているマリオ・グレック枢機卿は、このカテゴリーでは、次期教皇のトップ候補だ。だが、65歳と若く、健康状態の優れていることが、ヨハネパウロ2世のような”長期政権”に戻りたくないと考える人々には考えされない選択肢だ。
グレック枢機卿と同じカテゴリーに属し、十分な票を獲得する可能性がある他の枢機卿としては、ボローニャのマッテオ・ズッピ枢機卿(66)が含まれる。彼も”若い”が、アフリカなど、彼の出身母体である聖エギディオ共同体が活発に活動している他の地域との関係は良好だ。
バチカンの67歳の国務長官、ピエトロ・パロリン枢機卿は、制度的規律の一部を回復しつつ、フランシスコの改革を続けられる人物として、教皇庁全体で関心を持たれている。北イタリア出身のパロリンは、バチカン外交官の道をひたすら歩き、司牧的な姿勢を強調している者の、教区の司祭や司教を務めたことはなく、それが彼の弱点と見なされている。
他のいわゆる”フランシスコの司教”たちは、おそらく、さまざまな理由で、次期教皇に選出されないだろう。
*”軌道を変えようとする候補者”は
枢機卿団の中には、フランシスコの進めている方法に懸念を示す者もいる。中には公然と反旗を翻す枢機卿もいるが、大部分は、大人しく黙っている。問題は、彼らの中に、好況として選出されるに足る支持票を得られる者がいるかどうかだ。
このカテゴリーに属する候補と考えられる者の1人は、ハンガリーのエステルゴム-ブダペスト教区長、ピーター・エルドー枢機卿だ。来月で70歳となる教会法博士は、年齢は理想的。教訓的で教義的に厳格だが、人的関係に細心の注意を払い、つながりを持つことに長けている。欧州司教会議評議会(CCEE)の会長を二期務め、バチカンの公用語であるイタリア語に堪能。ただ、ハンガリーの”泥棒・国家主義政権”に結託しすぎ、という評価が足を引っ張る可能性がある。
スリランカのマルコム・ランジス枢機卿(74)は、フランシスコの軌道を変えたいと考える”ベネディクト16世保守派”だ。バチカンでの2つの要職と教皇大使などを務め、教会活動に豊富な経験を持つ。かつて熱心だった旧ラテン語ミサ典礼への態度をトーンダウンさせたように見られ、宗教的迫害に対して率直に批判する有力者に浮上している。
”軌道変更”のカテゴリーには、レイモンド・バーク枢機卿やゲルト・ミュラー枢機卿のような、さまざまな理由で教皇候補とは目されない人々が含まれる。その一人にロベール・サラ枢機卿を加えたい、という誘惑に駆られるが、それは間違いだろう。6月で77歳になるガーナ人は、仲間の枢機卿、特に仲間のアフリカ人から、丁寧な姿勢と霊性で評価されている。
極めて保守的な人物が絶対に次期教皇に選ばれることはない、と確信する人は、2005年の教皇選挙を思い起こすといい。
*”妥協が生む候補者”
教皇フランシスコの後継者は妥協の結果選ばれる可能性が非常に高い。だが、それは必ずしも、その人物が穏健派、あるいは中庸であることを意味しない。有権者の様々な派閥から教皇に選出されるに十分な支持表を得られることを意味するのだ。
過去12年にわたって司教省の長官を務めてきたフランス系カナダ人のマルク・ウェレット枢機卿は、”軌道を変更”する人物の1人だ。骨の髄までベネディクト16世の弟子である彼は、フランシスコを支持していると見えるように態度を豹変させたが、古典的な神学的、司牧的直感は変わっていない。6月に77歳となるウェレットは”暫定教皇”としては良い年齢だ。
ピーター・タークソンとチャールズ・ボーもいくつかの点で注目に値する。
73歳のタークソンは、貴重な経験を積んでおり、バチカンの二つの部署で長を務めた際には、若干の傷を負っている。ガーナ出身の聖書学者で、教区司教を務めたこともある。カトリックの社会教育の強力な推進者だが、性道徳に関しては保守的な考えを持つ。彼の特徴は、典型的なフランシスコ派でもなく、ベネディクト16世派でもないことにあるかもしれない。
同じく73歳のボーは、2003年からヤンゴン(ミャンマー)の大司教を務めている。アジア司教協議会連盟の会長でもあり、宗教的な差別、迫害、不当な扱いに批判的立場を明確にするカトリック教会の最も強力で信頼できる指導者の1人だ。サレジオ会の会員で、この修道会のほとんどの会員に共通しているように、イタリアで勉強したことがない。
バチカン福音宣教省の長官であるマニラの元大司教であるルイス・タグル枢機卿は、アジアの主要な教皇候補と目されている。間もなく65歳になるフィリピン人にはある程度の支持が得られる可能性があるものの、ボー枢機卿の宣教司牧における勇気は確実に多くの注目を集めるだろう。
*”眠れる候補者”?
もちろん、現在の有権者の枢機卿の中には、”眠れる候補”や”万能札の候補”がいる可能性もある。通常、ローマの司教は西方典礼(西方典礼)の聖職者から選ばれると考えられているが、東方典礼カトリック教会の枢機卿もおり、教皇に選ばれるのを禁じる規則や規範はない。
バグダッドのカルデア総主教であるルイス・サコ枢機卿は、おそらくこのカテゴリーで最も説得力のある人物だ。戦争で荒廃したイラクの司教 を20年にわたって務め、7月に74歳になる。東方典礼の司教が教皇に選ばれることは、650年近くも起きていないが、枢機卿以外から教皇を選ぶことは禁じられていない。そうなることに賭けるべきではないが、できる限り最良の候補を見つけるために、網を広くかけるのはいいことだ。
言うまでもなく、教皇には、聖ペテロの座に就くのに適切な資質を持つ者ー枢機卿ーを選任する権限がある。教皇は、新しい枢機卿を任命するたびに、自分の後継者の候補を指名しているのだ。教皇フランシスコは11月に次の枢機卿会議を開く予定だが、枢機卿団の現在の有権者枠である120人の欠員を補填したり、その枠を超えるようにするために、11月よりも早く開くことを希望する声もある。ローマで好んで言われるように、「次の教皇は、まだ枢機卿になってはいない」かも知れない。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
(注:L A C ROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
LA C ROIX international is the premier online Catholic daily providing unique quality content about topics that matter in the world such as politics, society, religion, culture, education and ethics. for post-Vatican II Catholics and those who are passionate about how the living Christian tradition engages, shapes and makes sense of the burning issues of the day in our rapidly changing world. Inspired by the reforming vision of the Second Vatican Council, LCI offers news, commentary and analysis on the Church in the World and the world of the Church. LA CROIX is Europe’s pre-eminent Catholic daily providing quality journalism on world events, politics, science, culture, technology, economy and much more. La CROIX which first appeared as a daily newspaper in 1883 is a highly respected and world leading, independent Catholic daily.
French forensics investigators look at remains of bodies of burned civilians exhumed from a grave in the town of Bucha, Ukraine, April 12, 2022. (Credit: Valentyn Ogirenko/Reuters via CNS.)
ウクライナ西部で奉仕活動中のインド人修道女が、ロシアの兵士が彼らが侵入した地域で無実の民間人を”虐殺”している、と告発した。
仏アルザスに本部を置く聖マルコ・聖ヨセフの姉妹会のシスター・リジー・パイヤピリーは現在、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアとの国境に近いウクライナのムカチェヴォにいる。この町は、ロシア軍から激し攻撃を受けている東部からの避難民を受け入れ、国外脱出の中継点でもある。
シスターはCruxの取材に対し、「ロシアのウクライナ軍事侵攻では、武器の乱用だけでなく、罪のない女性と子供に対する虐殺と抑圧、そして残忍な性的暴行も伴っています」と語り、ロシア軍が犯している人権侵害と戦争犯罪の報道が真実であることを確認した。
*ロシア兵が非武装の男性が至近距離で射殺
「これが、私たちが『戦争』と呼ぶものの実態なのでしょうか?武器を持たない男性を至近距離から打ち殺し、子供たちの前で若い女性を、母親をレイプし、妊娠中の女性を残酷に傷つける… どうして、こんなに残酷の振る舞いができるのでしょう?」。
ロシアの軍事侵略が始まって以来、ウクライナ西部の修道院やその他の宗教施設は、避難民を積極的に受け入れてきた。そのほとんどは女性と子供たちだ。「避難して来た女性たち、少女たちは、自分たちが受けた虐待について語ります。ロシア兵から受けた残忍な行為に今も苦しんでいる。女性たちは、”戦争の武器”としてレイプの脅威を心身に刻み付けられています。あるロシア兵は、6歳の息子の前で母親を拷問し、殺害しています」と訴えた。
*息子の目の前で母親が…そして少女たちも…性的暴行の犠牲に
さらにシスターは、「残酷な性的暴行を受けた母親は、息子の目の前で、心身の苦しみに耐えられずに亡くなりました。 カーギフでは、車のタイヤの下に6体の女性の遺体が見つかりました。ロシア軍は大量虐殺を行なっており、道端に遺棄された遺体には腕も脚もない。埋葬に何日かかるか分からない状態です」と述べ、 「これは無実の人々の虐殺です。文明社会はそれを承認することはできません」と強く批判した。
そして、 ウクライナでの悲惨な戦争は「(ロシアが最初にクリミアとウクライナ東部の一部を占領した)8年前に始まりました。2月24日にロシアが始めた今回の軍事侵略は、私たちにとっての”聖金曜日”になりました。イエスがゴルゴタの丘に上ったとき、顔と衣が血で覆われていたことを私たちは知っています。同じことが今日、ウクライナでも起きている。罪のない人の血は至るところで流されています」と語った。
*侵略が進むほど、さらに多くの無実の人の血が流される
シスターは、「聖母マリアが愛する子が掛けられた十字架の下で嘆き悲しんだように、ここには、子供たちを悼む多くの母親たちがいます。私は、『マリアがウクライナの母親たちのために、主に執り成しをしてくださる』と確信しています。マリアは、母親たちの痛みを理解なさいます」とする一方で、「ウクライナにとって、ロシアの侵略が進めば進むほど、さらに多くの罪のない人々、特に女性と子供たちが命を落とすでしょう。ここには、ロシア兵に性的暴行を受けた9歳、10歳、そして11歳の少女たちがいる。今日、ゴルゴタは、本当にウクライナにあるのです」と嘆いた。
*聖母マリアは、母親たちの嘆き悲しみを分かってくださる
それでも気を取り直し、 「主の復活が、(主が亡くなられた)聖金曜日の後に来ることを、私たちは知っています。神が私たちと共におられることを信じ、知っています。主が復活される日も、私たちのためにやってくるでしょう。そして、私たちの苦しみは終わります。復活の夜明けが、私たちにも来るように祈りましょう」と自らを励まし、「イエスは、私たちのために死にました。そして、私たちの苦しみを知っておられ、理解してくださいます。私たちは主の復活、そして、ウクライナにとっての希望と平和の復活を待ち望みます」と力を込めた。
*主よ、害をなす人々の心をあなたに開き、戦いを止めてください
シスターはまた、歴史を共有する正教会の国であるウクライナとロシアが戦い続けていることを悲しみ、 「神の民が争っている。兄弟が平和から離れ、互いに戦っている。これは悲しむべきこと。どうか、神が、害をなす人々の心をあなたに開かせ、この戦争を止めてくださるように、ウクライナの平和を祈りましょう」とロシアとウクライナの人々、そして世界の人々に訴えた。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
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An aerial view of Mariupol devastated by the bombings (ANSA)
(2022.4.20 Vatican News Lisa Zengarini & Alessandro De Carolis)
バチカン・人間開発の部署暫定長官のマイケル・チェルニー枢機卿が20日、ロシア軍の攻撃で崩壊寸前のウクライナ・マウリポリの避難所から脱出できずにいる母親たちから、教皇フランシスコ宛てに出した手紙の内容を明らかにした。
ロシア軍が激しい攻撃でマリウポリのせん滅を図ろうとし、これに対してウクライナ兵たちがアゾフスタル製鉄所に立てこもって抵抗を続けているが、製鉄所の構内には約1000人の市民が避難しており、ウクライナ政府は、彼らを安全に製鉄所から脱出できるよう努めている。
ウクライナのイリーナ・ベレシチューク副首相は20日の声明で、ウクライナ軍が安全を確保しているザポリージャへの”人道回廊”を設定する「予備的合意」がロシア側と出来ている、とし、20日午後から女性、子供、そして高齢者を対象としてマウリポリ、とくに同製鉄所からの避難が始まるだろう、と期待を述べている。
*マリウポリにはまだ10万人が脱出できずにいる!
2月24日にロシア軍が侵攻する前に40万人が住んでいた港湾都市マリウポリは、7週間にわたる執拗なロシア軍の攻撃で徹底的に破壊され、数千人にのぼる市民が殺害されているが、なお、推定10万人が、食料、電気、飲料水、負傷者を手当てする医薬品の支援も得られないまま、市内に閉じ込められている。ロシア軍が、同市からの避難を妨害し、約束した”人道回廊”を非難する人々に発砲する事態も伝えられ、動けずにいるのだ。
*枢機卿に託された教皇への2ページにわたる手紙
こうした危機的状況にあるマリウポリの母親たちのグループは、民間人と負傷した兵士を避難させることができるように支援を求める教皇フランシスコ宛ての手紙をチェルニー枢機卿に託した。「マリウポリを守る母たち、妻たち、そして子供たち」が署名した2ページの手紙は、ウクライナ国営テレビ「UATVチャンネル」の記者サケン・アイミュルザエフから枢機卿に渡された。
枢機卿はVatican Newsに、「この手紙の内容は、教皇がこれまで繰り返し批判されてきた全面戦争の理不尽さに、さらなる証拠を提供するものです」と述べ、教皇の次のような返事を読み上げた。
「戦争で破壊されたウクライナに平和がありますように。ウクライナは、残酷で無意味な戦争の暴力と破壊によって苛酷な試練に遭わされています。耐えがたい苦痛と死の恐ろしい闇夜の地に、希望の新たな夜明けがすぐに来ますように!平和のための決断をさせましょう。人々を苦しめる“力自慢”に終止符が打たれますように。どうか、戦争に慣れてしまわないように!私たち皆で、バルコニーから、そして街中で、ひたすら平和を願いましょう!」
*人道にもとる大惨事だ
母親たちの手紙は、数週間にわたる執拗な砲撃によって「灰になり」、「21世紀のヨーロッパにおける前例のない人道にもとる大惨事」の震源地となった、虐待されたこの都市の苦しみと苦しみを語っています。
署名者たちは、この大惨事が、国際人道法によって保護されるべき人々にとって、「無差別攻撃」、不当な破壊、そして言いようのない苦しみを含む、この都市の包囲の「容認できない」問題に改めて世界の人々が注意を向けるよう、強く求めている。
*苦しんでいる人を助けることはまだできます!
母親たちは、教皇がウクライナ問題に介入し、市民や治療うけらえないでいる負傷兵士たちを出来り限り早く街から避難できるように働きかけてくれるように求め、「連日、死者の数が増える中にあっても、苦しむ人たちを助けることはまだできます」と訴えている。
枢機卿は、「この絶望的な中に置かれている人々の請願は、戦いを止め、人道回廊を開くのを助ける力を持つすべての人々にも向けられています。これはまさに、今の状況が必要としていることなのです」とし、「ウクライナの兄弟姉妹、そしてこの恐ろしい戦争の非合理性が存在する世界の他の多くの場所ので苦しんでいる人々に、復活の喜びをもたらさねばなりません」と強調した。
*アゾフスタリ製鉄所の1000人の女性や子供たちの避難を助けて!
この母親たちに教皇への手紙は、特に、ロシア軍によって陥落寸前のアゾフスタリ製鉄所に避難している女性、子供たちを主体とする約1000人の市民にもっと目を向けるよう求め、「ロシア軍の攻撃が始まった当初は、人々はウクライナ軍と共にいれば、安全が確保され、食糧、水、そして医療儲け続けられると考えていました… しかし、”要塞”と思っていた場所が”閉鎖空間”になり、食料や飲料水の供給さえ受けられなくなっています」と窮状を語るとともに、教皇がマリウポリから安全に脱出できるよう助けてくれることが「真の父としての行為、良き羊飼いの助け、そして真の慈悲の行為となるでしょう」と結んでいる。ll possible to help those suffering
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)