(評論)新枢機卿が誕生してー枢機卿をめぐる”神話”を壊す(Crux)

(Credit: AP Photo/Andrew Medichini.)

‎‎(2022.8.28 Crux Editor  John L. Allen Jr.)

 ローマ – 教皇フランシスコが27日、80歳未満で教皇選挙権を持つ16人を含む20人の新しい枢機卿を叙任した。フランシスコにとって八回目の新枢機卿叙任となったが、新枢機卿が誕生するたびに、”誤解”が生まれ傾向がある。ここでは、枢機卿について考える際に避けるべき 3 つの考えの誤りを示そうと思う。

 まず第一に、西側の“予想屋”たちが、ほかのケースと同じように、枢機卿を”リベラル”か”保守”かで分けようとする、自然的な傾向がある。

  これは一般に、米国と欧州の枢機卿については、かなりうまく機能するようだ。たとえば、米サンディエゴ教区長のロバート・マッケルロイ新枢機卿が、米国の司教団の”伝統的な重心”よりも左にあると考えるのは、少々単純化しすぎとはいえ、間違ってはいない。

  バチカンの典礼秘跡省長官で英国出身のアーサー・ローチ新枢機卿も、前任長官のロバート・サラ枢機卿よりも進歩的と言える。

  ただ、欧米の領域を出ると、そのような分類法が通用しなくなる傾向がある。例えばインドでカースト制度で最下層のダリット(不可触民)出身の初の枢機卿となったアンソニー・プーラ大司教を、そのような方法で区別することは注意を要する。東ティモール初の枢機卿となったヴィルジリオ・ド・カルモ・ダ・シルバ大司教はどうだろうか?

 彼らについては、リベラルか、保守か、どちらの側にいるのか判別できないだけでなく、そもそもこのような分け方ができないことが多いだ。たとえば、開発途上国の高位聖職者は、教義に関しては非常に伝統的であることが多いが、社会正義の問題に関しては非常に進歩的だ、というように。

  さらに、彼らの視点は、主として、それぞれの置かれた地域の状況に基づいている。おそらく、ナイジェリアの新枢機卿、ピーター・エベレ・オクパレケ大司教は、トランスジェンダーの権利や米国ではリベラルか保守かを分ける基準のようになっている中絶を法的に認めるかどうかよりも、自国を覆っている政治・社会腐敗、宗派間の暴力、治安問題にずっと大きな関心を持っている。

  要は、カトリックは世界的な信仰で、教皇フランシスコの治世下で、そのことが枢機卿団の中身に大きく反映されるようになってきている。したがって、従来のような欧米の視点に重きを置いて”分析”しようとするのを、止めねばならない、ということだ。

*枢機卿たちにバチカンの”専門家”を期待するな

 「枢機卿なら、バチカンの裏も表も知っているに違いない」と思い込む傾向が部外者にはあるが、実際はそうではない。新たに枢機卿となった人のほとんどは、任命を受けてまず最初に、バチカンの”権力回廊”が「北極のツンドラや太平洋の孤島と同じように、自分にとって”未知の世界”だ」と気づくだろう。

 たとえば、今、金融犯罪の疑いでバチカンで裁判にかけられている 10 人の被告のうち 3 人以上の名前を挙げられるのは、教皇選挙権を持つ新しい枢機卿16人のうち 2 人だけの可能性が高い。

 新枢機卿のほとんどが名前を挙げられるのは、アンジェロ・ベッチュウ枢機卿だろう。彼は、2020年に枢機卿としての特権をはく奪されたにもかかわらず、教皇の”お陰”で枢機卿会議への出席が認められている。

 だがそれ以外は、バチカン市国の委員会議長で行政庁長官のフェルナンド・ベルヘス・アルサガ大司教などを除けば、バチカンをだましたとして訴えられた2人の金融業者、ラファエレ・ミシオーネやジャンルイジ・トルツィの名前を含めて名前を挙げることのできる新枢機卿はいないだろう。

 フランシスコが教皇職について以来、バチカンから遠く離れた地域で働き、過去にもバチカンで働いた経験がないばかりか、ほんのわずかな期間でもバチカンで過ごしたことのない者から、数多くの枢機卿が選ばれるようになって、バチカンの事情に疎い枢機卿がますます増えている。50パーセントの確率で、ローマの料理店で枢機卿たちの夕食の世話をするウエイターの方が、枢機卿たちよりもバチカンの”パワーゲーム”について語ることができる、と言うことができる。

 あなたがバチカンの現状を気遣うカトリック信徒なら、そのことを知り合いの枢機卿に伝えても何の問題もない。だが、彼がバチカン内部で実際に何が起こっているかについて、あなたよりもよく知っていると期待しないほうがいい。

 

*枢機卿たちは、互いに気心の知れた親友ではない

 枢機卿に関する当然と思われるが、実は誤った思い込みは、枢機卿団は昨日現在で総員 226 人、うち教皇選挙権を持つのが132 人と言う非常に小さな”クラブ”だから、お互いがとても親密な関係にあるに違いない、と考えることだ。

  Crux が最近、新枢機卿の一人に、「あなたが個人的に知っている枢機卿は何人ですか」と聞いたところ、返事は「7 人くらい」だった。この答えは平均の下限かも知れないが、枢機卿の多くが互いを知らない、というのは事実である。これまで「ありそうもない」と考えられた場所に”赤い帽子”を配る、という教皇フランシスコの枢機卿任命の傾向を考えると、それは極めて自然なことだ。ナイジェリアのエクウロビア大司教である新枢機卿が、たとえばシンガポールやモンゴルの枢機卿と知り合いだと言えるだろうか?

 実際、多くの観測筋は、明日から始まる 2 日間の枢機卿会議の本当の狙いは、表向き言われている「バチカン改革について意見を交換すること」ではない。これまで述べたように、これらの枢機卿のほとんどは、バチカンについてよく知らないから、”短期集中コース”を有意義にするには 2 日間ではとても足りない。それでも、お互いが顔を合わせる機会を提供し、互いの関心や経験について、つかの間の感触を得るのが、本当の狙いとすれば、それはそれなりに意味のあることだ。

 そのような結果となるのは仕方がないが、”その時”がいつ来たとしても、今回の枢機卿会議の結果が、教皇選びに影響を与えることは否定できない。

*現教皇の下で加速する“馴染みのなさ”が次期教皇選挙に与える影響は

 2005 年の教皇選挙に参加したある枢機卿が、さまざまな評判のある候補者に関する分厚い説明書を持っていたことを思い出す。彼はローマに向かう飛行機の中でその説明書を読み込んだが、「候補となり得る枢機卿たちについて、それまでほとんど知らなかったので、そうせざるを得なかった」と語っていた。

 (その教皇選挙では、結局、教理省長官を長く勤め、立場上、多くの枢機卿から知られていたヨゼフ・ラッツィンガー枢機卿が教皇に選ばれたのだが、結果が出るまで、彼が選ばれるという確信を持った者はいなかった。)

 この、枢機卿同士の”なじみのなさ”は、教皇フランシスコの下でさらに深まっている。これはつまり、枢機卿たちが次の教皇を選出するために集まったときに多くの時間が費やされるのは、候補者を立てて争うことよりも、”候補者紹介”となることを意味する。

 以上で述べてきたことを要約すれば、次のようになるだろう。

 「枢機卿を見るときは、期待値を下げるように。彼らが、教皇職には及ばないものの、教会で高い地位を占めてはいるが、率直に言って、その地位が、あなたが本当に知りたいと思っていることの多くを含め、すべてのことに関する専門家にすることはない」。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年8月29日