・世界55カ国の民主主義に関する世論調査―G7で際立つ日本国民の民主主義制度への不信(言論NPO)

(2022.8.18 言論NPOニュース)

 世界は自国の民主主義の状況をどう見ているのか。言論NPOが昨年、世界の7団体と実施した「世界55カ国の民主主義に関する世論調査」結果がこのほど明らかになった。(2022.8.16)

 調査では、多くの国で代表制民主主義の仕組みに対する市民の信頼が壊れ始めていること、その中でも、日本国民の自国の民主主義に対する信頼が際立って後退していることが明らかになっている。

 この調査は、フランスのファンダポール財団や言論NPOなどの7団体が協力して昨年の7月に行ったもの。調査はG7各国などの55カ国で行われ、47,408名が回答している。

 世界各国の民主主義の状況を55カ国で比較できる世論調査はほかに例がなく、調査では民主主義の仕組みやそれぞれの機能の信頼、さらには中国やロシアなどに対する意識など108もの設問をそれぞれの国民に尋ねている。

*世界で問われる選挙の意味、日本では政党から民意が離れている

 今回、調査に協力した55カ国では有権者の投票によって代表を選ぶ代表制民主主義の制度を取り入れており、市民は表現などの自由や選挙を尊重している。

 今回の調査では各国でそうした民主主義の社会に対しては根強い信頼が見られるものの、多くの国で民主主義制度を構成する様々な仕組みが、信頼を失い始めていることが明らかになっている。

 まず、選挙によって物事を進めるため、投票の仕組み自体は有意義だと感じている人は55カ国全体の回答者の70%と圧倒的であり、国民の政治参加の舞台である選挙自体には強い信頼が見られる。

 だが、国別でみると、政治家が国民の願いを顧みないために投票自体に意味はないと感じる国民が4割を超える国も14カ国存在している。先進的な民主主義国とされるG7の国でも、フランスでは国民の41%が選挙自体に意味はないと回答しており、日本にもそうした人は35%存在する。

 また、17カ国では、半数以上の国民が選挙プロセスに透明性がないと感じており、選挙制度自体に問題があると考えている。選挙プロセスの不透明さを感じる人は、G7加盟国でもイタリアが51%と半数を越え、日本も48%と半数に近づいている。

 政党と民意の繋がりは民主主義国に不可欠であり、今回の調査に参加した55カ国のうち40カ国では半数を超える人が国内に自分の意見を代弁する政党があると回答している。ところが、日本では63%もの人が自分の意見を代弁する政党は国内にないと回答しており、政党から民意が離れている。これはG7の中でも突出した傾向である。

*問:国内には、あなたの意見を代弁する政党があると思いますか?

00.gif

【座談会】世界の民主主義はなぜ信頼を失ったのか―世界55カ国の世論調査を分析するー

(2022.8.17 言論NPOニュース)

出演者:出演者:池本大輔(明治学院大学法学部政治学科教授)内山融(東京大学大学院総合文化研究科教授)吉田徹(同志社大学政策学部教授)

司会者:工藤泰志(言論NPO代表)

 世界55カ国の民主主義の世論調査は、言論NPOがフランスのフォンダポール財団など7団体で昨年の夏に行ったもので、その分析結果が明らかになったことで、「世界の民主主義はなぜ信頼を失ったのか」をテーマとした言論フォーラムを開催しました。

4人.jpg 議論には池本大輔氏(明治学院大学法学部教授)、内山融氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)、吉田徹氏(同志社大学政策学部教授)が参加し、司会は工藤泰志(言論NPO代表)が務めました。
今回の世論調査結果では、世界各国で民主主義の様々な機能に関して信頼低下が浮き彫りとなっています。

 議論では、「世界の民主主義の信頼が後退している背景に世界で進む経済的格差や分断の拡大に対して民主主義が解決策を提示できていないこと」や、その他にも、「民主主義を支える規範そのものが壊れ始めていること」や、「SNSのエコーチェンバー現象が分断を拡大させていること」「エリート層と一般層の相互不信など」といった要因も提示されました。

 その中でも、日本の傾向は際立っており、政党や議会、政府などへの信頼が世界55カ国やG7各国と比べても低いものとなっており、これらに関しては、「日本では代表制民主主義の回路が目詰まりを起こしている」との指摘がありました。

 議論では、こうした日本における政治不信と代表制民主主義の機能不全をどうするか、に議論が集まりましたが、調査結果では「日本人の中に民主主義、それ自体に対する期待は根強く残っている」ことも明らかになり、「民主主義の修復をどうするかは私たち次第だ」との意見が出されました。

 ただ、日本の調査では、「議会や政党の制度疲労だけではなく、学校や労働組合を含めた社会の制度自体が制度疲労していること」も明らかになり、特に「非営利組織に対する信頼度が低い」という結果が着目され、「デモクラシーを支える自発的組織・結社の力が弱い」ことが民主主義の脆弱性にもつながっていると指摘され、「まず社会の中の横のつながりを作り直さないといけない」と、市民社会が民主主義立て直しのカギとなるとの発言が各氏からは相次ぎました。

 その際に、市民社会に根差した組織政党が発達してこなかった政党側の改革についても発言がありました。その上で「政治と社会をつなぐ多様なチャネルや、そのアクターを増やすための仕掛けづくりが必要であり、市民の政治参加の回路を増やすことが必要」だとの提案も相次ぎました。

 議論を受けて最後に工藤は、「分厚い市民社会をつくためにプラットフォームを作るべきとの指摘は非常に重要だ」と応じつつ、言論NPOとしてもそうした取り組みを今後も進めていく考えを強調。そのための作業を再開したいと語りました。

⇒調査結果を基にして行われた座談会はこちら
⇒代表・工藤のインタビュー「強い政治不信 拭う決意を」(8月17日付・読売新聞朝刊)はこちら

詳細な調査結果はこちら(無料登録・会員の方限定)

このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年8月19日