・「フランシスコをもはや”公平な調停者”と見なさない人々がいる」キーウ総大司教が、教皇のウクライナ訪問に懸念(Crux)

(2022.6.19 Crux |Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 司教は、「教皇が苦しむ人々の真っ只中においでになることは、私たちウクライナのカトリック教徒にとって大きな希望。教皇がこれまで繰り返し、停戦を訴え、人道援助の実施に具体的に行動されたことで、私たちは親密さを感じており、世界の教会を巻き込んだ、絶え間ない祈りにも感謝している」と述べ、「実際にウクライナを訪問されれば、私たちにさらなる勇気を与えてくださることになるでしょう」と期待を込めた。

 ただし、教皇訪問の時期については、今ただちに、とお願いするわけにはいかない、との見方を表明。その理由として、「ほとんどのウクライナの兵士が、ロシア軍の侵攻を止める戦いの最前線に出ている中で、訪問の際に必要な安全を保障するのが難しい。それだけでなく、ロシアの軍事侵攻が始まった時点と比べて、国民の間には、教皇の最近の言葉が間違っているとし、歓迎しない声がでていることも、ある」と説明した。

 司教は、教皇のどの言葉が、そのような見方をされているのか具体的には語らなかったが、ロシアの軍事侵略からウクライナを守る武器を持った戦いを支持することに教皇が躊躇していること、さらに、米欧の北大西洋条約機構(NATO)がロシアのウクライナ侵攻の引き金になった可能性がある、とあたかも米欧側に責任があるかのような見方を教皇が示唆したことが、ウクライナの内外で論議を呼んでいることは、良く知られていることだ。

 教皇フランシスコは、14日発行のイエズス会の学術誌LaCiviltàCattolicaに掲載された編集者との対話で、ロシアのウクライナ軍事侵攻について言及し、「そこには、抽象理論に基ずく”善玉””悪玉”は存在しない。地球規模の、互いにひどく絡み合った要素をともなった何かが、新たに起きている」と述べ、「ロシア分の凶暴さ、残酷さ」を弾劾したものの、この戦争の動機として武器取引を批判。そのことが、バチカンの観測筋の中に「教皇は、ウクライナへの武器支援に反対している」との見方を生んでいる。

 また教皇はここで、ロシアの軍事侵攻が始まった2月24日より前に会ったある国家元首が、「NATOが、ロシアの玄関口で、怒鳴り声をあげている。NATOの振る舞いは、戦争につながりかねない」と警告していた、と語り、NATOにこの紛争の責任の一端があるとの考えを示唆していた。

 さらに、教皇は今年の聖金曜日の4月15日に行われた十字架の道行きで、ロシア人とウクライナ人の女性たちに一緒に十字架を担うように求めたことも含めて、ロシアの軍事侵略開始以来の言動に、一部から批判が続いている。

 教皇は、先に、ロシア軍による戦争犯罪があったとされるウクライナの都市、ブチャから届けられたウクライナ国旗に接吻した場面を写真にとられ、停戦を呼び掛け、交渉を支援することを提案したが、ウクライナへの軍事侵略者としての「ロシア」あるいは「プーチン」を、これまで一度も名指ししていない。

 また、教皇は先月のイタリアの日刊紙Corriere della Seraのインタビューで、「他国がウクライナに武装支援することが適切かどうか」の問いに対して、「私は答えることができません。あまりにも距離があり過ぎます」としたうえで、「明らかなことは、その場所で武器がテストされているということです。 ロシア人は今、戦車がほとんど役に立たないことを知っており、他のことを考えています。 武器は、戦争でテストするために作られている… 武器取引は醜聞です。わずかな人しか使わない」とも述べている。

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 このような教皇の発言は、彼の敵対者だけでなく友人たちからも非難されている。その中には、ヴェノスアイレス時代からの長年の友であり、ウクライナのギリシャ・カトリック教会を監督しているスビアトスラフ・シェフチュク総大司教も含まれている。

 シェフチュク総大司教は、LaCiviltàCattolicaでの教皇の発言を受けた形で、最近のビデオメッセージで、「この戦争の原因はロシア自体にある。 そして、ロシアの侵略者は、外部の侵略者の助けを借りて、問題を解決しようとしている」と反論。「ウクライナに対するロシアの侵略は、外部の挑発によって起きたものでは、まったくない」と主張した。

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 教皇は最近、戦争に関する彼の「曖昧な」レトリックに懸念を抱くウクライナ人の小グループと、ほぼ2時間にわたって会見した。

 2017年に教皇によってキーウ総大司教に任命されたクリヴィツキーは、約800万のこの都市で約20万人のラテン儀式カトリック教徒を司牧している。「教皇が依然として戦争の阻止に貢献できると思うか」の問いに、「確かにそう思う。バチカンは、私たちとロシアの間の仲介者として基本的な役割を果たすことができる」とする一方で、両国の停戦交渉には「調停者」が必要だが、「教皇のことを、もはやsuper partes(注*調停に当たって両当事者いずれにも公平である者)と見なさない人もいる」と述べた。

 ただし、このような教皇の発言をめぐって、一部に教皇の姿勢に懸念を示す声が出てはいるものの、「教皇とバチカンの外交関係者が、停戦交渉開始の前提となる両当事者による対話実現の種を蒔いていること」には、確信を表明している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年6月20日