・教皇の存命中退任に因縁のある”ラクイラ訪問”が”憶測”を呼んでいる(Crux)

(2022.6.6 Crux/Associated Press  Nicole Winfield  

 ローマ発—バチカン広報が6日、教皇フランシスコが8月28日に、ケレスティヌス5世教皇(在位:1294年7月5日 – 12月13日)が始めた祝祭出席のためイタリア中部のラクイラを訪問される、発表した。

 ケレスティヌス5世はベネディクト16世教皇以前に存命中に退任した数少ない教皇の一人。イタリアとカトリックのメディアの間は、85歳のフランシスコが先月に車椅子の使用を余儀なくされた歩行上の支障など身体的な問題が増えてきていることから、ベネディクト16世に倣うことを計画しているのではないか、との憶測が流れている。

 このような憶測は、先週、フランシスコが21人の新枢機卿を任命、正式就任のための枢機卿会議を8月27日に召集する、と発表したことで、さらに勢いを増した。新枢機卿の任命で、次期教皇の選出権をつ132人のうちフランシスコの任命による枢機卿は83人と過半数を大きく上回る。枢機卿の投票行動を規制することは誰にもできないが、彼の司牧方針を共有する次期教皇が選ばれる可能性が以前より高くなったと言えるだろう。っています。

 教皇はまた、新司教就任のための会議に続いて2日間の枢機卿会議を開き、6月5日に発効したバチカン改革の仕上げをめざす新使徒憲章について説明することも予定している。新使徒憲章では、女性が教皇庁の部署のトップとなる道を開き、聖職者の教皇庁での勤務に任期を定め、教皇庁を、世界の現地の教会に奉仕する機関として位置づけるなど、カトリック教会史上、画期的な内容を含んでいる。

 バチカン改革という重大な使命を帯びて2013年に教皇に就任したフランシスコは、これまで 9年の間、積極的にその使命を果たすことに努め、いくつかの分野で改革を実現している。そして、さらに改革の仕上げをめざす新使徒憲章の発効翌日、というタイミングでのラクイラ訪問の発表。バチカンとイタリアでは通常、8月から9月中旬までが休暇のシーズンであり、重要な経済・社会活動以外のすべてが動きを止める。

 そのシーズン中の 8月下旬に枢機卿会議を招集し、新しい枢機卿を就任させ、バチカン改革の仕上げへの理解と協力を求めることにしたことは、教皇が、尋常ではない行為を念頭に置いていることを示唆している、と見ることが可能だ。

  教皇が訪問を予定するラクイラの大聖堂には、在位5か月で辞任した隠者の教皇、ケレスティヌス5世の墓がある。 2009年に前教皇のベネディクト16世が地震で荒廃したラクイラを訪れ、その墓で祈った。当時、この前教皇の振る舞いが重要な意味を持つことを理解した人は誰もいなかったが、その4年後、85歳になったベネディクト16世は「教皇職の激務をこれ以上続けるための力が心身ともになくなった」として、ケレスティヌス5世に倣って辞任している。

 バチカン広報の発表によると、教皇フランシスコは8月28日にミサを奉げるためにラクイラを訪れ、ケレスティヌス5世の墓のある大聖堂の「聖なる扉」を開く。この日は、ケレスティヌス5世が教皇勅書で定めたラクイラ大聖堂の赦しの祝祭の日に当たる。「毎年行われるこの祝祭の締めくくりに来られる教皇は、これまで誰もいませんでした。それが、教皇フランシスコは、赦しの秘跡を記念するために来られるのです」「世界のすべての人々、とくに戦争や内紛で被害を受けた人々が連帯と平和の道を見つける力となることを願っています」とラクイラ大司教のジュゼッペ・ぺㇳロッチ枢機卿は語った。。

 前教皇が引退を決断した時、教皇フランシスコは、「将来の教皇が同じことをするための”扉”を開くもの」と、その決断を賞賛していた。自身は、教皇就任当初、2年から5年の短い在位を想定していたが、就任から 9年を経た今、辞任を決断する兆候を見せておらず、重要な懸案も残している。

 年内の海外訪問先として、コンゴ、南スーダン、カナダ、カザフスタンを計画中のほか、2023年10月には”シノドスの道”の締めくくりとも言える世界代表司教会議を予定。カトリック教会の”地方分権化”の推進、バチカン改革の継続的な実施も、これから軌道に載せねばならない。

 しかし、教皇は右膝の靭帯の緊張に悩まされ、苦痛により歩行が困難になり、手術など抜本的対応が必要になっている。だが、昨年7月に大腸を33センチ切除する手術を受けた際に、麻酔の強い副作用に苦しめられたことから、友人たちに「もう手術は受けたくない」と話したと伝えられている。

 教皇の最側近で友人でもあるオスカル・ロドリゲス・マラディアガ枢機卿(ホンジュラスのテグシガルパ大司教)は今週、スペイン語のカトリックサイトReligionDigitalの取材に、「教皇の辞任の話には、根拠がない。”目の錯覚”、”脳の錯覚”だと思う」と語った。

 米ニュージャージー州のキーン大学の教会史専攻のクリストファー・ベリット教授は「大半のバチカン・ウオッチャーは、教皇フランシスが結局は退任すると予測しているが、ベネディクト16世が亡くなる前、ということはない」。引退教皇は 95歳で、肉体的に弱ってはいるが、気力はあり、バチカン庭園の住まいに時折、来客を迎えている。「フランシスコは、退任教皇が2人いるようなことはしないだろう」と言う。

 そして、教皇のラクイラへの訪問に関連しては、「ベネディクト16世の2009年のラクイラ訪問の意味について、ほとんどの関係者が考えることをしなかった。その訪問から、『彼が退任しようとしている』と読み取った記事が多く書かれたかどうかは覚えていない」が、「余り深読みしないほうがいい。フランシスコのラクイラ訪問は、まさに『司牧的訪問』であるかもしれない」と語っている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年6月8日