・4日に列福されるヨハネ・パウロ1世ー”長期政権”の教皇2人に”挟まれ”、死因は封印された‎(Crux)

(9月4日に列福されるヨハネ・パウロ一世教皇、1978年8月26日に新教皇に選出されたが、在位44日で帰天した)ソース画像を表示

(2022.9.1 Crux/ Associated Press  Frances D’Emilio)

ローマ — 1978 年 9 月 29 日の早朝、ローマのアパートにいたステファニア・ファラスカは突然の電話の音に目を覚ました。受話器を取った父親の耳に、バチカンで司祭として働いていた叔父の声が響いたー「教皇が亡くなられた」。それを聞いた父がうろたえて言ったー「亡くなってしまった!」。当時15歳だった彼女は、今でもその瞬間をはっきり覚えている、という。

 世界中の数え切れないほどの人々がそうしたように、ファラスカの父親が、65歳の新教皇が就任からわずか1か月余りで、なぜ亡くならねばならなかったのか、理解に苦しみながら、まず頭に浮かべたのは、その年の 8月上旬に80歳で亡くなった教皇パウロ 6 世のことだった。アルビノ・ルチアーニとして生まれたヨハネ・ パウロ 1 世は、その人生よりも、謎に包まれた突然の死について、世界中の多くの関係者に記憶されている。

 

*”前後の二人の教皇”はすぐに列聖されたが…

(写真は、ヨハネ・パウロ1世の自筆のメモ)

Relic of JPI

 カトリックのジャーナリストとなったファラスカは、この10年以上にわたって、ヨハネ・ パウロ 1 世の突然の死をめぐる問題ではなく、彼の司祭、司教、枢機卿、そして教皇としての生き方が列聖に値することを、バチカンに納得させるのに苦労してきた。そして、年間第23主日の4日、教皇フランシスコは、ヨハネ・パウロ1世を、列聖への最後のステップである福者に列する。

 列福への正式な取り組みは、教皇が亡くなって 5 年を待つ必要があるとされてきた。ヨハネ パウロ 2 世が2005 年に亡くなられた後、「今すぐに聖人に!」という多くの声に応え、そのルールは放棄されたが、ヨハネ・パウロ1世の列福に向けた作業が始まるまでに25年もかかった。

 「ヨハネ・パウロ 1 世は、前後2人の教皇に〝挟まれた“方でした」とファラスカは言う。2人とは、ヨハネ・パウロ2世ー彼の後継者であり、史上最も長く教皇の座にあったーと、前任者であるパウロ 6 世ー第二バチカン公会議を取りまとめ、在位は15年に及んだーだ。いずれもすでに列聖されている。だが、この二人の間に挟まれたヨハネ・パウロ1世に「興味を持つ歴史家は一人もいませんでした。忘れ去られたように、時は過ぎ去っていきました」とファラスカ。

 

*バチカンの巨大金融スキャンダルの最中の突然の死に、”毒殺”疑惑

 だが、ジャーナリストたちは、”誰がやったのか”については関心を持ち続けた。司教、枢機卿時代から誰にでも笑顔で接し、「ほほえみの教皇」と呼ばれたヨハネ・パウロ1世がバチカン宮殿の寝室で遺体が発見されたことは、当初から疑惑の的となった。死後数時間のバチカンの説明は一貫しなかった。第一発見者について、最初は「男性秘書」と言い、ほどなく、「朝のコーヒーを持ってきた修道女」に言い換えた。

  「最初から『修道女が第一発見者だ』と言えば、疑惑を持たれることはなかったでしょう」とファラスカは言う。その修道女、シスター・ヴィンチェンツァは、教皇の家族によく知られていました。彼女たちは、「教皇の寝室に女性が入るのは不適切だと思われるので、教皇が亡くなっているのを最初に見つけたのは自分だ、と公言しないように」とバチカンから注意された、という。

 当時、バチカンは、バチカン銀行をめぐる巨大金融スキャンダルの渦中にあった。当時バチカン銀行の総裁だったマーキンカス大司教(故人)とイタリアの銀行、さらにイタリアの有力地下組織を巻き込み、ヨハネ・パウロ1世が亡くなって間もなく、イタリアの個人銀行、アンブロシアーノ銀行の頭取がロンドン中心部のブラック・フライアー橋の下で死体となって発見された。

 突然の死をめぐる疑惑は、この問題と結びつく形で深まったーヨハネ・パウロ1世はこの金融スキャンダルに徹底的なメスを入れようとしていたのではないか?バチカン官僚機構の腐敗を根絶することを計画していたのではないか?

 英国の著作家、デイビッド・A・ヤロップは1984年に出版した「In God’s Name: An Investigation Into the Murder of Pope John Paul I(神の名において: 教皇ヨハネ・パウロ1世の殺害に関する調査)」で、バチカンが「ヨハネ・パウロ1世は亡くなる前の晩、ベッドに入る前に胸の痛みを感じたが、大事を取ることなく就寝し、心臓発作を起こし、死に至った」と結論付けているのに対して、「本来なら直ちになされるべき検死が行われなかった」のは、”不都合な真実”が明らかになるのを防ぐためだったことを示唆し、「バチカンとバチカン銀行につながる秘密結社のメンバーに関係を持つ殺し屋によって毒殺された」と結論付けた.

 

 

*「バチカンの周囲の人々が、彼を働かさせ過ぎ、適切な健康管理を怠ったのが、命を失った原因」とも

 1987年、別の英国人ジャーナリスト、ジョン・コーンウェルは、当時のユーゴスラビアで聖母マリアが出現したという主張を調べる目的でバチカンに来たが、あるバチカンの司教から、、ヨハネ・パウロ1世の死の「真実」を書くように求められ、そのためにヨハネ・パウロ1世の担当医や遺体を整復した専門家などに主題できるように手配することを約束した。

 その結果をもとにコーンウェルはベストセラー、「A Thief in the Night」を出版したが、彼はそこで、ヨハネ・パウロ1世は「無視されて死んだ」と結論付けた。

 取材に対して、コーンウェルは「バチカンのど真ん中で起きた、配慮の欠落でした… (ヨハネ・パウロ1世の周りにいた)人々は、適切な助けを怠り、彼を働かせすぎ、適切な健康管理もしていなかった」と批判、「言い換えれば、彼らは、ヨハネ・パウロ1世に敬意を払っていなかった、ということです。取るに足らない教皇だと考え、『ピーター・セラーズに似ている』とまで言ったのです」と述べた。(カトリック・あい注:ピーター・セラーズはコメディアン出身のと英国の俳優で、しばしば不器用な役を演じることがあったが、三度、アカデミー男優賞の候補となり、ゴールデングローブ賞を受賞した名優。54歳で早逝)。

 またコーンウェルは「この問題に関心を持つ人々の中には、私が一人の司教を含め、(疑惑を持たれた人々について)殺人に関与したとする証拠を見つけることができなかった、と失望する人もいた」とし、それは、「私が取材で出会ったバチカン内部の人たちの間に、ヨハネ・パウロ1世を”排除”しようとする陰謀があったことを確信する人たちです」と語った。

 

 

*「列福は『教皇だから』ではない、因習にとらわれず、信望愛に生きた方だから」

 ファラスカは、「ヨハネ・パウロ1世は、教皇だったので列福されるのではありません」とし、 「信仰、希望、慈愛において模範的な生き方をされたからです。彼はすべての人にとっての模範。本質的な美徳の証人だったからです」 と強調する。

 ヨハネ・パウロ1世は,それまでの教皇の型を破り、説教や講話で自分自身のことを伝統的な「私たち」ではなく「私」と呼ばれたが、「彼は、それまで何世紀も続いてきた因習を吹き飛ばす、そよ風のようでした… 彼の『口語』で語るという選択は、神学的な選択でした」 と説明した。関連して、彼女は、ヨハネ・パウロ1世が最も大切にしていた本の中に、マーク・ トウェイン、ウィラ・キャザー、それに、司祭探偵「ブラウン神父」シリーズの作者であるギルバート・キース・チェスタートンの著作があったことにも注目している。

 

 

*「ヨハネ・パウロ1世が叙階のきっかけになった司祭が教皇に執り成しを求め、奇跡が起きた」

 列福されるために、神への執り成しの祈りに起因する奇跡が必要とされる。ヨハネ・パウロ1世に関しては、その奇跡は 2011 年に起きている。脳の炎症と敗血症性によるショックでブエノスアイレスの病院に緊急入院した11 歳の少女がいた。 彼女の両親は近くの教区の司祭に、瀕死の娘のため病院に祈りに来てくれるよう懇願した。これに応えて、病院に来たダブスティ神父は、少女が助かるように誰に執り成しを求めるべきか考えたが、突然、ヨハネ・パウロ1世が頭に浮かび、彼に執り成しを願う祈りを捧げた。そして彼女は、医学的に説明のつかない回復をした。

 だが、世界の信徒の誰からもほとんど忘れ去られていた教皇の名前が浮かんだのはなぜなのだろうか。ダブスティ神父は、ファラスカの取材に、「私は 15 歳の時、新しく選ばれたヨハネ・パウロ1世が話されるのを聞いて、司祭になる決心をした。新教皇がとても素直で喜びに満ちていたから」、それが彼に執り成しを求めることにつながった、と説明している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年9月2日