・教皇フランシスコの後継者は…まだ枢機卿になっていない人から?(La Croix)

(2022.5.13 La Croix Robert Mickens |Vatican City)

 教皇フランシスコは現在も、ミサ、日曜正午の祈り、一般謁見、さらには海外訪問など積極的な活動を続けているが、間違いなく、教皇としての”最終段階”にある。

 教皇は、膝の痛みのために車椅子の使用を余儀なくされているかかわらず、活動のペースを緩めていない。85歳の教皇は、2013年の3月にローマ司教に選出されたときよりも体重が重く、動作が抑えられている少ない可能性があるが、彼の心は相変わらず健全で機敏に見える。

 だが、高齢と身体的な問題がブレーキになり始めていることは否定できない。近代の教皇で最高齢の記録は1903年に93歳で亡くなったレオ13世だが、フランシスコはこの10月で、それ以後の最高齢教皇だったベネディクト16世の引退時の年齢を超える。

 そうしたことから、教会史上初のイエズス会出身の教皇の後継者についてのうわさ話が、バチカン関係者の間でかまびすしくなりはじめているのだが、教皇選挙権を持つ枢機卿(彼ら自身も潜在的な候補者だが)がどのような判断をするのか、予測は難しい。フランシスコがこれまでに選任した枢機卿は極めて多様であり、大半が知名度が低く、カトリックの人口が少ない地域出身者だ。しかも、国際的な活動経験のないの者がほとんどだ。

*数字が教えるのは…

 現在、教皇選挙に投票する資格をもつ80歳未満の枢機卿は117人いる (教皇が選挙権を剥奪したアンジェロ・ベッチウ=73歳=は含まれない)が、6月6日の時点では、116人に減る。そして、フランシスコによって任命された枢機卿は、このうち67人。前任のベネディクト16世任命は38人、残りの12人はヨハネパウロ2世の任命だが、メキシコのノルベルト・リベラカレラ枢機卿は6月に80歳を超え、選挙権を失う。

 現在の教皇が、自身の後継者を選ぶ枢機卿の6割近くを任命したという事実は、誰が後継者となるかを考える場合に比較的重要であるものの、枢機卿たちがシスティナ礼拝堂の中に突然、閉じ込められた場合、彼らが誰に投票するかは、定かでない。

 教皇選挙権を持つ117人が一堂に会したことはない。教皇フランシスコは、2013年に教皇職に就いて10年目になるこれまでに、枢機卿団に新しいメンバーを加えるための枢機卿会議を7かい開いているが、2014年2月の最初の枢機卿会議を除くと、枢機卿全員を集める会議を開いたことはない。

 影響力のある、選挙権を持たない”退職枢機卿”92人の動向にも注意が必要だ。彼らは、教皇選挙が行われる直前に、選挙権を持つ枢機卿たちとの間で開かれる会議で、極めて影響力のある役割を果たすことが可能だ。この会議では、ヨハネ・パウロ二世とベネディクト16世が選任した、選挙権を持たない枢機卿の数が、フランシスコが選任した者の3倍に達する。選挙権を持津者と持たない者を合わせた枢機卿の総数209人の全員が、教皇選挙前の会議に参加した場合、フランシスコに選任された者は92人だけとなる。

 枢機卿団が一堂に会する機会は、2014年以降もたれていないことから、彼らを結び付ける具体的な傾向を引き出すことも難しい。彼らが、他の聖職者と区別される唯一の義務、教皇選挙権の行使がなされる時、どのようなタイプの教皇を選ぼうするのだろうか。

*フランシスコが掲げる課題に対応する教皇候補は

 フランシスコが教皇職の間に実現しようとしてきた教会改革の野心的な、そして時には破壊的なプログラムを強く支持する枢機卿は多い。アルゼンチン出身の教皇は、自身が発出した最も重要な文書である使徒的勧告「福音の喜び」で描いた、生き生きと福音宣教を進める教会の青写真を心から受け入れる枢機卿たちから揺るぎない忠誠を表明されている。

 枢機卿団には、フランシスコの課題に取り組む大物がおり、その回勅「ラウダート・シ」と使徒的勧告「兄弟の皆さん」を活動の主たる舞台にしているが、彼らの中に、次期教皇に選出されるのに十分な票を獲得できる者がいるだろうか?

 世界代表司教会議に向けて進んでいる教会改革と”共働性”を作る試み―すべてのレベルでの教会活動と統治の本質的な要素ーがその中心にある。そして、バチカンのシノドス事務局長として精力的に活動しているマリオ・グレック枢機卿は、このカテゴリーでは、次期教皇のトップ候補だ。だが、65歳と若く、健康状態の優れていることが、ヨハネパウロ2世のような”長期政権”に戻りたくないと考える人々には考えされない選択肢だ。

 グレック枢機卿と同じカテゴリーに属し、十分な票を獲得する可能性がある他の枢機卿としては、ボローニャのマッテオ・ズッピ枢機卿(66)が含まれる。彼も”若い”が、アフリカなど、彼の出身母体である聖エギディオ共同体が活発に活動している他の地域との関係は良好だ。

 バチカンの67歳の国務長官、ピエトロ・パロリン枢機卿は、制度的規律の一部を回復しつつ、フランシスコの改革を続けられる人物として、教皇庁全体で関心を持たれている。北イタリア出身のパロリンは、バチカン外交官の道をひたすら歩き、司牧的な姿勢を強調している者の、教区の司祭や司教を務めたことはなく、それが彼の弱点と見なされている。

 他のいわゆる”フランシスコの司教”たちは、おそらく、さまざまな理由で、次期教皇に選出されないだろう。

*”軌道を変えようとする候補者”は

 枢機卿団の中には、フランシスコの進めている方法に懸念を示す者もいる。中には公然と反旗を翻す枢機卿もいるが、大部分は、大人しく黙っている。問題は、彼らの中に、好況として選出されるに足る支持票を得られる者がいるかどうかだ。

 このカテゴリーに属する候補と考えられる者の1人は、ハンガリーのエステルゴム-ブダペスト教区長、ピーター・エルドー枢機卿だ。来月で70歳となる教会法博士は、年齢は理想的。教訓的で教義的に厳格だが、人的関係に細心の注意を払い、つながりを持つことに長けている。欧州司教会議評議会(CCEE)の会長を二期務め、バチカンの公用語であるイタリア語に堪能。ただ、ハンガリーの”泥棒・国家主義政権”に結託しすぎ、という評価が足を引っ張る可能性がある。

 スリランカのマルコム・ランジス枢機卿(74)は、フランシスコの軌道を変えたいと考える”ベネディクト16世保守派”だ。バチカンでの2つの要職と教皇大使などを務め、教会活動に豊富な経験を持つ。かつて熱心だった旧ラテン語ミサ典礼への態度をトーンダウンさせたように見られ、宗教的迫害に対して率直に批判する有力者に浮上している。

 ”軌道変更”のカテゴリーには、レイモンド・バーク枢機卿やゲルト・ミュラー枢機卿のような、さまざまな理由で教皇候補とは目されない人々が含まれる。その一人にロベール・サラ枢機卿を加えたい、という誘惑に駆られるが、それは間違いだろう。6月で77歳になるガーナ人は、仲間の枢機卿、特に仲間のアフリカ人から、丁寧な姿勢と霊性で評価されている。

 極めて保守的な人物が絶対に次期教皇に選ばれることはない、と確信する人は、2005年の教皇選挙を思い起こすといい。

*”妥協が生む候補者”

 教皇フランシスコの後継者は妥協の結果選ばれる可能性が非常に高い。だが、それは必ずしも、その人物が穏健派、あるいは中庸であることを意味しない。有権者の様々な派閥から教皇に選出されるに十分な支持表を得られることを意味するのだ。

 過去12年にわたって司教省の長官を務めてきたフランス系カナダ人のマルク・ウェレット枢機卿は、”軌道を変更”する人物の1人だ。骨の髄までベネディクト16世の弟子である彼は、フランシスコを支持していると見えるように態度を豹変させたが、古典的な神学的、司牧的直感は変わっていない。6月に77歳となるウェレットは”暫定教皇”としては良い年齢だ。

 ピーター・タークソンとチャールズ・ボーもいくつかの点で注目に値する。

 73歳のタークソンは、貴重な経験を積んでおり、バチカンの二つの部署で長を務めた際には、若干の傷を負っている。ガーナ出身の聖書学者で、教区司教を務めたこともある。カトリックの社会教育の強力な推進者だが、性道徳に関しては保守的な考えを持つ。彼の特徴は、典型的なフランシスコ派でもなく、ベネディクト16世派でもないことにあるかもしれない。

 同じく73歳のボーは、2003年からヤンゴン(ミャンマー)の大司教を務めている。アジア司教協議会連盟の会長でもあり、宗教的な差別、迫害、不当な扱いに批判的立場を明確にするカトリック教会の最も強力で信頼できる指導者の1人だ。サレジオ会の会員で、この修道会のほとんどの会員に共通しているように、イタリアで勉強したことがない。

 バチカン福音宣教省の長官であるマニラの元大司教であるルイス・タグル枢機卿は、アジアの主要な教皇候補と目されている。間もなく65歳になるフィリピン人にはある程度の支持が得られる可能性があるものの、ボー枢機卿の宣教司牧における勇気は確実に多くの注目を集めるだろう。

 

*”眠れる候補者”?

 もちろん、現在の有権者の枢機卿の中には、”眠れる候補”や”万能札の候補”がいる可能性もある。通常、ローマの司教は西方典礼(西方典礼)の聖職者から選ばれると考えられているが、東方典礼カトリック教会の枢機卿もおり、教皇に選ばれるのを禁じる規則や規範はない。

 バグダッドのカルデア総主教であるルイス・サコ枢機卿は、おそらくこのカテゴリーで最も説得力のある人物だ。戦争で荒廃したイラクの司教 を20年にわたって務め、7月に74歳になる。東方典礼の司教が教皇に選ばれることは、650年近くも起きていないが、枢機卿以外から教皇を選ぶことは禁じられていない。そうなることに賭けるべきではないが、できる限り最良の候補を見つけるために、網を広くかけるのはいいことだ。

 言うまでもなく、教皇には、聖ペテロの座に就くのに適切な資質を持つ者ー枢機卿ーを選任する権限がある。教皇は、新しい枢機卿を任命するたびに、自分の後継者の候補を指名しているのだ。教皇フランシスコは11月に次の枢機卿会議を開く予定だが、枢機卿団の現在の有権者枠である120人の欠員を補填したり、その枠を超えるようにするために、11月よりも早く開くことを希望する声もある。ローマで好んで言われるように、「次の教皇は、まだ枢機卿になってはいない」かも知れない。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年5月23日