・カトリック教会の”選挙の季節”への一考察(Crux)

(2022.8.14 Crux Editor  John L. Allen Jr.

  教皇フランシスコはこれまで、”辞任の危機”に瀕していることを否定し、それは聖職者主義の悪や移民の尊厳に関する彼の巧みな言葉と同様、”大ヒット語録”の一つになっている。*間もなく退任されるとは、とても見えないが

 教皇は85 歳で、変形性関節症で右膝の急性の痛みに苦しんでいるが、先日は一週間のカナダ訪問をし、今月下旬には新枢機卿任命式とそれに続く枢機卿会議を予定。28日にはイタリア中部の都市、アキラに出かけ、9月に入って4日にヨハネ・パウロ一世の列福式、さらに13日からカザフスタンへ3日間の旅に出る。さらに、実現すればだが、彼が教皇職に就いて以来、最も緊張を強いられるウクライナの首都キーウ訪問の可能性もある。

*教皇の健康状態に過剰反応するようになっている

 第一に、私たちは今、(教皇フランシスコの)健康をめぐるあらゆる問題に過剰反応するようになっている。ヨハネ・パウロ二世の治世の後半を知る人なら、それがよく分かるだろう。弱弱しく見えたり、大きな行事をキャンセルせねばならなくなると、すぐに、それを教皇職の終わりと結び付けたものだ。

 フランシスコの支持者たちは、彼が去ることを望まず、終わりが近づいているとほのめかす人を激しく非難するだろうし、批判者たちは、終わりが近い、という噂を信じたがるだろう。

 バチカンは、教皇の健康に関する情報の公開に非常に慎重だ。「教皇にも、プライバシーを守る権利がある」という奇妙な考えに固執しているため、教皇の健康状態、受けている治療、あるいは彼の医療チームがどのような判断をしているのか、などについて詳細な最新情報を手に入れることはできない。フランシスコは昨年、結腸手術を受けたが、術後に公式の医療報告はなく、医師が彼の身体的な状況についての見通しについてどのように判断しているかも分からない。 だから、いつまで教皇職を続けられるのか、誰にも分からないし、最善の対応は、彼の動静に一喜一憂しすぎないことだろう。

*”後継候補”の言動に関心が集まってくる

 第二に、私たちは、バチカン報道をめぐる(‎米国の大統領予備選挙シーズンの先陣をきる)”アイオワ州党員集会”の段階に入っている。この段階では、教皇候補として名を挙げられた人の振る舞いはすべて、”選挙力学のレンズ”を通して見られるのだ。

 例えば、イタリアのボローニャ大司教、マッテオ・ズッピ枢機卿は現在、教皇フランシスコが取り組んでいる課題の継承者である後継候補として最有力視されている。彼は、イタリアの司教協議会の会長を務めているが、イタリアは9 月 20 日に総選挙が予定されるなど”政治の季節”を迎えており、彼の言動は、イタリアという国の今後に影響を与えるだけでなく、仮にフランシスコの後継者となった時にどう振舞うか、などと絡めて評価されるようになるだろう。

 同様に、ハンガリーのブダペスト大司教、エルドー・ペーテル枢機卿は、フランシスコの路線と決別するであろう保守的な後継候補と見なされている。ハンガリーで絶え間ない論争の的となっている移民・難民問題に関する枢機卿の言動は、”教皇レース”で非常に重要なものとなろう。 この面で、「”葉巻”は、時には単なる”葉巻”だ」-つまり、司教たちは時には、司教としてー”選挙綱領”の一部と意識せずにー行動する必要がある、ということを覚えておく価値はあると思う。

*8月下旬の枢機卿会議とケレスティヌス 5 世教皇の墓前訪問

 第三に、今、バチカンでは、主要なメディアによる報道の”景気循環”の時期に来ている。バチカンに関係するすべての大きなイベントは、”本番前の舞台稽古”と見なされるからだ。

 その経験則により、8 月のカレンダーの27日から30日にマルをつけよう。教皇フランシスコは新枢機卿の任命式で、自身の後継者を選ぶ新たなメンバーを創出し、後継候補になる潜在的な可能性を持つすべての枢機卿と顔を合わせる。その一方で、ベネディクト 16 世教皇の自発的退任前にしたように、700年前、存命中に教皇職を退いたケレスティヌス 5 世教皇の墓にも足を運ぶ予定だ。

 この一連の行事はマスコミの報道を飽和状態にし、大げさに言えば、第二次大戦の連合軍ノルマンディー上陸作戦やケネディ米大統領暗殺をめぐる報道にも匹敵する騒ぎになるかもしれない。

 言い換えれば、機は熟していようと、いなかろうと、カトリック教会の”選挙の季節”は近づいている。ヨハネ・パウロ二世の時と同じように、実際にその時が来るまでにいくつかのヤマがあるかもしれないが、そのことで不平を言うのは、天気について不満を述べるのと同じようなものだ。好むと好まざるとにかかわらず、来る時は来る、のだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

 

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2022年8月17日