(評論)教皇はプーチンを止めるために何ができるのか(LaCroix)

What can Pope Francis do to stop Putin?
(2013 年 11 月 25 日、ロシア大統領がバチカンを訪問中のウラジミール・プーチンと教皇フランシスコ=ROPI/ ZUMA PRESS/ MAXPPP)

(2022.10.4 La Croix  Loup Besmond de Senneville and Marguerite de Lasa | Vatican City)

 ロシアのウクライナ軍事侵略に終止符を打つ教皇フランシスコの取り組みを、二つの視点から見ることができるだろう。 1 つは宗教史家の視点、もう 1 つは政治学者の視点だ。

 教皇は2日の日曜日の正午の祈りに先立つ説教で、「ロシア大統領」に前例のない訴えを行い、ウクライナの 4 つの地域の併合を非難するとともに、世界の指導者たちに、戦争の「狂気」に反対し、「対話のためのイニシアティブ」を取るよう強く求めた。

 では、このような教皇の努力は、この戦争を終わらすために、どのような効果があるのだろうかーバチカンでLaCroix特派員を務めるLoup Besmond de Sennevilleは、ローマ・フレンチ・スクールの近現代研究のディレクター Laura Pettinaroliに聞いた。

 

*「フランシスコは前任の教皇たちと歩調を合わせている」

 2日の教皇の発言は、4代前の教皇ヨハネス23世とある程度一致している。1962年10月のキューバのミサイル危機の際の 口頭での介入だった。この時も、ロシアの前身のソ連が、米国の喉元のキューバに核兵器を持ち込もうとし、ケネディ大統領がフルシチョフ首相がぎりぎりのやり取りをする中で、ヨハネ23世は、恐ろしい戦争を強く警告した。フランシスコも、戦争が「血の川」の「恐怖」をもたらしており、「過ち」であり、「狂気」であり、最も弱い存在である子供たちも巻き込んでいると非難した。

 戦争の暴力に問題は、ベネディクト 15 世 (1914-1922) とピオ 12 世 (1939-1958) の中心的な関心でもあり、戦争に対して、人類の団結と連帯の根本的な地平を想起させることを意図していた。

 さらに、フランシスコは、武力による領土拡張は国際法の原則に反するとして、ロシアの行動を非難したが、これは、1960年代のバチカン外交の、多国間主義と少数者の権利を強力に促進する伝統的な姿勢をもとにしたものだ。

 また、これまで試みられなかった方法も含めて外交ルートを通じての和平実現の努力を、ロシア、ウクライナ両国の大統領と世界の政治指導者たちに求め、必要なら教皇自身が調停役となる意思を改めて暗に示した。ロシアがウクライナ軍事侵攻を始めて以来、バチカンはレオ 13 世 (1878 ~ 1903 年) とベネディクト 15 世が行ったように、このような暗示を繰り返した来たが、1901 年に教皇レオ 13 世によって平和実現のために奉献された「ポンペイのロザリオの聖母」のように、フランシスコの訴えが効果的を挙げるかどうか、判断することは難しい。

 ヨハネ 23 世が行った1962年の訴えは、国際世論を動かし、バチカン、ソ連、ロシア正教会の間の緊張緩和の原動力としての効果をもたらした。ベネディクト 15 世の1917年夏の第一次世界大戦中の平和への訴えは働きかけは、短期間でもあり、効果がなかった、と多くの人が考えているが、彼の提唱した内容は、翌1918 年に ウィルソン米大統領によって、平和実現にに必要な 14 項目に取り上げられました。

*「教皇の外交は他国の外交と同じくらい無力だ」

 同じくLaCroixのMarguerite de Lasaは、パリの国際戦略関係研究所  のFrançois Mabille部長(地政学側面からの宗教研究)から次のような見解を得た。

 2日の正午祈りでの教皇フランシスコの言明には、2 つの本質的な意味がある。カトリック教徒、特にウクライナのカトリック教徒にとって、教皇は、自身を仲介者として名乗りをあげ、初めて、ウラジーミル・プーチンを極めて強く批判する発言をした、と受け止められた。

 この言明は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して以来、プーチンが犯した行為に対する分析の誤りから抜け出すことを可能にし、それによって、この軍事侵攻に関して教皇が示してきたこれまでの姿勢とバランスをとることに貢献している。

 侵攻が始まった2月以降の教皇の姿勢は、ロシア政権の現実と、そのイデオロギー的な支援者としてモスクワ総主教庁が果たす役割についての誤解をもとにしていた。信仰開始時に、教皇は、”侵略者”の名を挙げるのを避けた。

 2日の教皇の言明のこれまでの発言との大きな違いは、国際法に言及し、ロシアによるウクライナの4つの地域の併合を非難したことだ。教皇は歴代教皇の立場に倣って、平和の実現、そのための調停、紛争の終結を求め、ロシアとウクライナの両当事者に直接、訴えた。

 だが、教皇の今回の厳しい発言が、今起きていることそのものに影響を与えるとは思わない。

 教皇は今、仲介者、対話者としての地位を再び確立しているが、政治指導者たちと同じように、これは非常に困難な仕事だ。ロシアがウクライナに侵攻した瞬間から、バチカン外交は国家の外交と同じように無力なもののと、自由が利かなくなった。教皇は、プーチンが核兵器の使用に進む危険性を強調して、対話と平和の実現を再び訴えている。だが、軍事的対応を続ける政治指導者たちから危機脱出のための提案を聞いていない段階で、この訴えの効果はどうなのだろうか。私たちは、この危機的状況の中で、教皇から宗教的あるいは政治的な言葉が発せられるのを期待しているのだろうか?

 教会は「地政学的な立場」を取るべきか、それとも人道的な対応に徹するべきなのか?ロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まって以来、教皇は、この二つの間で揺れ動いてきた. ここで、教皇の立場が、彼の個人的な信念から来るものと、パロリン国務長官やイエズス会など他のネットワークからもたらされる意見の間でどのように精緻化されているのかを、理解することは興味深いだろう。

 バチカン国務省の外務局長として外交を担当するギャラガー大司教は、5月に教皇の従来の意見と異なる立場を取り、「ウクライナには一定の範囲内で自衛する権利がある」と言明した。「平和の人」でありたいフランシスコの個人的な信念は、(2日の言明以前の)これまで、バチカン国務省の立場を明らかに損なう言明の基調をなしてきた。国務省の立場は、教皇の言明よりも外交的であり、専門的であり、武器による自衛に関する教会の立場に沿っているにもかかわらず、である。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2022年10月5日