(カトリック・あい年頭論評)「危機」を「機会」に-日本の教会のリーダーに求められる自覚と努力

(カトリック・あい年頭論評)

 新型コロナウイルスの世界的大感染が悪化の一途をたどる中で新年を迎えた世界、そして日本。その日本の教会にとって2021年は、苦難を機会に変えるための重要な年となりそうである。

 2020年は日本の教会にとって苦難の年だった。新型コロナウイルスが猛威を振るう中でミサなどの典礼が、信徒以外の人たちの参加をお断りし、信徒の参加人数さえも制限せざるを得なくなっている。内外に開かれた出会いの場としての教会共同体の活動はほとんど停止状態が続いている。このような状態が長期に及んでいることで、教会から遠ざかり、ミサ典礼に参加しないことが常態化する人も増えている。欧米のカトリック教国の中には、今後、コロナ感染が終息しても、教会に戻らない信徒が全体の一割を超えてしまうという予測出しているところもある。

 そうした苦難に追い打ちをかける象徴的な出来事が、高位聖職者の相次ぐ帰天だった。バチカンと日本の教会を繋ぐキーパーソンである駐日バチカン大使、ジョセフ・チェノットゥ大司教が9月に、12月に入って、前東京大司教の岡田武夫・名誉大司教が19日に、さらに現役の浜口末男・大分司教が28日に天に召された。

 相次いでの逝去は痛恨の極みだが、日本の教会にとっての打撃は、コロナ危機の長期化で苦難の中にある教会の導き手となる司教ポストの空白だ。東京教区にはその業務の多忙さから従来、補佐司教が置かれてきたが、菊地大司教が就任されて3年を超えた今も、空席のままの状態が続いている。仙台教区も3月に平賀徹夫司教が辞任して以来、司教ポストが埋まっていない。司教任命権者の教皇への実質的な推薦権を持つバチカン大使の信任が遅れ、司教新任の遅れに直結する事態が続く中で、さらに大分教区の司教ポストが空いてしまったのだ。

 加えて深刻なのは、日本の教会のリーダーのリーダー、司教団のトップ、司教協議会の会長が自身の教区で問題を抱え、適切な指導力を発揮できていないように見えることだ。

 日本のカトリック司教協議会会長の高見三明・長崎大司教のお膝元、長崎大司教区では、現在、2億5000万円という教区財政規模からみて巨額の”教区会計上の重大な不手際”(長崎教区報12月号)の発生と対応の不手際、聖職者による女性信徒への性的虐待訴えに、さらに高見大司教の発言で精神的苦痛を受けたとして損害賠償を求める訴えを長崎地裁に起こされる、という二重の問題が起きている。

 だが、高見大司教は、9月の教区評議会臨時総会で、責任者の辞任の可否を問う質問が出たことに対して、「 監督者としての私の責任を痛感し、 申し訳なく思っています。総辞職という道もありますが、 私は、 自分が辞任することでは責任をとることにはならないと考えています。むしろ、 まずは教区会計の健全化・透明化を早急に推し進め、 教区組織の在り方の再検討を図り、 さらには司教と司祭の生活を刷新し、 信徒の皆様の信頼回復に努めることが責任の取り方であると考えています」(教区報12月号)と、政治家や企業のトップが”引責辞任”を避ける際に使う発言をしたものの、いまだに「信頼回復」のための決定的な措置をとったという話が聞こえてこない。

 コロナ禍で、司教団の長として日本の司教団一体となった取り組みを率先して行うでもなく、先に、岡田名誉大司教、浜口司教が相次いで亡くなった際にも、12月31日現在に至るまで、カトリック中央協議会ニュースを見る限り、一行の弔文も寄せておられないようだ。

 高見大司教は1946年3月21日生まれだ。司教定年は75歳ということになっているが、慣例では、教皇が「余人をもって代えがたい」として留任を強く求められる以外は、75歳一杯、つまり76歳の誕生日直前までが事実上の任期、ということになる。だが、ご自身の教区の問題についてさえ、信頼回復のための抜本的対応がされる気配がない。日本の教会で、教皇フランシスコが繰り返し言われている「コロナ危機を機会に変える」ための指導力を発揮できるのだろうか。この日本の教会にとっても、長崎教区にとっても重要な1年余を、いったいどうなさるおつもりなのだろうか。

 教皇フランシスコは、世界の教会のコロナ危機を機会に変えるための指針として、昨年10月に新回勅「Fratelli tutti(兄弟の皆さん)」を公布された。これより先の5月に公布5周年を迎えた環境回勅「ラウダー・ト・シ」を考察する特別年の開始を宣言、12月8日には「聖ヨセフの年」を始めること、さらに2020年3月からは使徒的勧告「(家庭における)愛の喜び」を学び直す特別年を始めることを発表されている。

 だが、新回勅について言えば、「カトリック・あい」がすでに昨年11月に試訳を完成させ、1000件を超える閲覧件数となっているにもかかわらず、日本の司教団は新回勅の翻訳どころか、信徒に対して新回勅の”存在”すら公式に明らかにしていない。教皇のこのような数々の特別年の呼びかけにどのように応えていこうとするかも、定かでない。

 東京大司教区はこれまで2年にわたって準備して来た新宣教司牧方針を年末29日に発表し、教皇のこのような意向も反映する形で教区としての新たな取り組みを始めようとしているのは高く評価できるが、特定の教区に留まらず、日本の教会全体が「危機を機会に変える」ための真剣な具体的取り組みが必要だ。そして、そのためには、日本の教会のリーダーとしての司教たちを束ね、先導するトップの自覚に加え、そのトップを支える司教たちの努力が強く求められている。

(「カトリック・あい」代表・南條俊二)

2020年12月31日

・「(家庭における)愛の喜び」の特別年へバチカンが手引書

(2020.12.27 Vatican News Adriana Masotti) 

 教皇フランシスコが27日、来年3月から一年を使徒的勧告「(家庭における)愛の喜び」の特別年とすると発表されたのを受け、バチカンの信徒・家庭・命の部署は声明を出し、現代の課題に直面する家族に寄り添うための小教区、司教区、大学、教会関係機関の活動を支援する方針を示した。

 この特別年は、使徒的勧告発表から5周年を迎える来年3月19日に始まり、第十回世界家族大会がローマで開かれる再来年の6月26日までを予定し、大会には教皇フランシスコも出席される。

 同部署は声明で「新型コロナウイルスの大感染の経験は、教会の最小単位としての家庭の重要な役割を浮き彫りにし、家族間の共同体的なつながりの重要性を示しています」としたうえで、 「教皇フランシスコは、『愛の喜び』の特別年に計画される霊的、司牧的、文化的活動に世界中のすべての教会共同体が参加し、信徒一人一人が家族の愛の証人になるように勧めます」と述べた。

 そして、「家庭の霊性、形成、そして結婚の準備のための司牧的な活動、若者たちのための情操教育、そして、日々の暮らしの中で秘跡の恵みを生きる夫婦と家族のため」に、同部署も支援を提供する用意があることを示し、その一環として、「世界中の家庭に影響を与える今日的な問題に関連する形で、この使徒的勧告の内容と意義を考え、学ぶための国際的な学術シンポジウム」を準備することを明らかにした。

*特別年の目標は

 来年3月の『愛の喜び-家庭』の特別年開始に先立って、同部署はその目的と活動について説明し、司教区と小教区の取り組みのための具体的提案を示す手引書製した。それによると、特別年の目標は、使徒的勧告「(家庭における)愛の喜び」に盛り込まれたメッセージを広めることだ。

 具体的には第一に、人々が「心と生活を満たす喜びとして家庭の福音を体験する」(使徒的勧告200項)ために、勧告の内容をもっと広く共有すること。手引書には、「賜物をいただいていることの喜びと、教会と社会への贈り物であること喜びを見出し、体験する家庭は「世界の暗闇の中で光になることがでる」(66項)と書かれている。

 第二に「それ自体が人間愛の変容の力」を持つ結婚のかけがえのない価値を宣言すること。

 第三に、家族が「家庭使徒職の積極的な仲介者」となれるようにし、若者たちが「愛の心理と自身の賜物の中で成長することの重要性」を知るようにすること。

 これらを目標に、特別年の一年を通して、家庭司牧の理念と活動を広げ、それがより横断的に、夫婦、子供たちと若者たち、お年寄り、そして困難な家庭的状況にある人々すべてを包むものとするように勧めている。

*具体的な提案

 そして、特別年を通して、司教区と小教区が取り組むことのできる具体策として、結婚の準備プログラムの強化や新婚夫婦への寄り添い、子育ての方法に関する親のための集まりの開催など、を提案している。手引書は「家庭生活の素晴らしさと課題について考え、意見を交換する集まりを広げることは、社会的に見た家庭の価値を認識し、困難にある人々に寄り添うことのできる司牧者と家庭のしっかりとしたネットワークの構築に繋がっていきます」と述べ、危機に瀕しているカップルに対する配慮と助けにも言及している。

 また手引書では、高齢者も「司牧上配慮すべき」対象であり、「『捨てる文化』と社会的無関心を克服することに努めねばならない」と強調。若者に対する司牧には「家庭、結婚、純潔、前無の人生、ソーシャルメディアの使用、貧困、被造物への敬意などについて深く考え、議論する活動を取り入れる必要があります」(40項参照)とし、ちいさな子供たちにも特別に注意を払うことを勧めている。

 

*家庭と教会の互恵関係

 特別年に向けて明確にされるのは、家庭司牧を確立し、司牧活動従事者、神学生、司祭の育成を深化し、それによって、家庭と共に、現代社会の課題に対応することへの、強い願望だ。 手引書は、それに向けて、「”家庭教会”と教会の相互協力関係を作ることが重要」(200項)とし、そうすることで、かけがえのない賜物として、互いを発見し、その価値を認めるようになる、と強調している。さらに、「子供たちが秘跡を受ける機会、結婚の準備の期間、教会の重要な祝日や記念日などに、福音宣教を育てる時間を作ることで、家庭における宣教の使命を果たしていくこと」を勧めている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2020年12月29日

・タイで、韓国で…外国人労働者が悲惨な状態に置かれている(LaCroix)

world/southeast-asias-migrant-workers-united-in-misery (タイで行われている新型コロナウイルス検査、12月22日にタイでは、感染者が新たに427人確認されたが、その大部分が、首都バンコク近郊、サムットサーコーン県の魚市場に関係している人々だという。 (Photo by Xinhua/Rachen Sageamsak/MaxPPP)

(2020.12.24 LaCroix Benjamin Freeman )

 二つの別の人々が関係する二つの別の国で起きた一見、無関係な出来事には、大きな共通点がある。それは、いずれも、東南アジアからの多数の移民労働者が日常的に直面している虐待と搾取を証明している、ということだ。

タイの州、サムットサーコーン県のプラスチック工場。最近、その地域では、ミャンマーからの移民労働者の間で新型コロナウイルス感染者が多発していたが、ある工場の経営者が12月22日夜、ミャンマー人労働者24人の移民労働者を車に乗せ、バンコク郊外まで行って、道路脇に置き去りにした。

 現地の警察幹部は「労働者たちは、『自分たちがどこに連れて行かれるのか知らされず、ただ雇用主の命令に従った』と言っている」と記者たちに説明した。工場経営者は、自分の工場でコロナ感染者が出るのを恐れて、彼らを追い出すことを決めたようだ。

 さらに翌日の23日、同じ工場で働いていた3人の移民労働者が放棄されたことが明らかになった。工場経営者は、州の封鎖規則違反などいくつかの罪状で取り調べを受けている。

 一方、トムソン・ロイター財団によると、2015年以降、韓国で少なくとも522人のタイ人移民労働者(ほとんどが未登録)が死亡している。ソウルのタイ大使館によると、死者の14割は原因不明、残りは事故、自殺、健康関連の原因によるものだった。

 今年に入ってからだけでも、韓国では122人ものタイ人移民労働者が亡くなり、「社会の最も不利な立場にある移民労働者が、適切な医療を受けずに苦しみながら、日常的な困難や虐待に耐えざるを得ない状況に置かれている」という見方が強まっている。

 トムソン・ロイター財団によると、「タイ外務省から、情報公開請求に応じて得られたデータによると、2015年から2018年の間に韓国で死亡したタイ人の数は他のどの国よりも多い283人だが、2019年と2020年の統計は入手できなかった」という。

 現在、推定約18万5千人のタイ人が韓国で外国人労働者として働いており、その多くは農業と製造業で労働集約的な仕事をしている。彼らの過酷な労働と生活実態についていくつかの報告が出ており、国連の国際労働機関(ILO)の”労働移民”の専門家、ニリム・バルア氏は「注意と調査が必要だ。政府に登録されていない移民労働者は最も保護されておらず、彼らの健康と安全が懸念されている」と述べている。

 韓国当局はこれまでのところ、調査結果についてコメントすることを拒否しているが、ソウルのタイ大使館の関係者は、「死者の多くは過労と、それに関連する要因による可能性がある」と語った。「多くの違法なタイ人労働者は、おそらく適切な投薬なしの過労と健康の問題から、睡眠中に予期せず死亡していると思われます。労働者たちは、苛酷で不衛生な仕事を引き受けており、現地の公的な医療を受けることができない」と語った。

 移民労働者が適切な医療を受けることができない現状は、特にタイ、ベトナム、インドネシア、ネパールからの在留登録をしていない人々に打撃を与えている。

 「ビザがない場合、医療へのアクセスが遮断され、病院に行って手術を受けるのに1000万ウォン(約90万円)も必要になります」と韓国のAsane  Migrant Workers Centerのマネージャー、ウ・サムヨル氏は語った。 「タイ人を含む、在留登録のない外国人労働者は病気になっても、致命的な犠牲を払うまで痛みをこらえて働くことになる」。

 言い換えれば、韓国におけるタイ人移民労働者の状況は、タイにおけるビルマ人、カンボジア人、ラオス人の移民労働者の状況と共通している。国籍に関係なく、東南アジアおよびそれ以外の地域の移民労働者は、共通の悲惨さを味わっているようだ。

 ILOは、2017年現在で、東南アジア出身の外国人労働者は二千万人を超え、そのうち七百万人近くが、この地域の他国で働いていると推定している。

 「これらの労働者が社会的保護を受ける権利は、多くの国の場合、法律上は自国民と同じ扱いになっているが、実際には、不平等で差別的な扱いを頻繁に受けている… 問題は、ほとんどの東南アジア諸国で移民労働者の苦情を解決するためのメカニズムが働いていないことだ。虐待を受けている時に、それを申告し、善処してもらう手段が提供されていない」とILOは報告書で説明している。

 こららの地域の数多くの貧しい人々は、より良い賃金を得て、少しでも良い生活ができるようにと、他の国に働きに出ている。だが、彼らはしばしば、苛酷な労働環境に置かれ、正当な報酬を支払うことをしない雇用者に翻弄され、国にいる時よりも長く貧しい生活を強いられる。

 運が良ければ、自分たちの国をより良くしようとする慈善団体から助けを受けることができるかも知れない。例えば、韓国の非営利団体、南楊州市移民福祉センターは、未登録外国人労働者に無料の医療を提供している。だが、新型コロナウイルス大感染の影響を受け、現在、事業の縮小を余儀なくされている。「未登録労働者の中には糖尿病の治療薬が必要な人々がたくさんいます。だが、コロナのために無料医療サービスの継続が難しくなっており、それが事態を悪化させている」とセンターで奉仕している司祭は窮状を訴えた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

LA CROIX international is the premier online Catholic daily providing unique quality content about topics that matter in the world such as politics, society, religion, culture, education and ethics. for post-Vatican II Catholics and those who are passionate about how the living Christian tradition engages, shapes and makes sense of the burning issues of the day in our rapidly changing world. Inspired by the reforming vision of the Second Vatican Council, LCI offers news, commentary and analysis on the Church in the World and the world of the Church. LA CROIX is Europe’s pre-eminent Catholic daily providing quality journalism on world events, politics, science, culture, technology, economy and much more. La CROIX which first appeared as a daily newspaper in 1883 is a highly respected and world leading, independent Catholic daily.

2020年12月26日

・マカリック、ベッチウが関係する二訴訟ーバチカンに新たな難問?(Crux)

(2020.11.22  Crux  Editor  John L. Allen Jr.)

 ローマ 発–この数日の間に、2つの全く別の訴訟が2つの異なる国で起こされ、それに何らかの形でバチカンが関与している。米国では、元枢機卿で元司祭のセオドア・マカリックの性的虐待の被害者とされる4人がバチカンを訴え、イタリアでは、アンジェロ・ベッチウ前列聖省長官(枢機卿)が情報誌を名誉毀損されたとして1200万ドル(約12億円)の損害賠償を申し立てた。

 一見すると、どちらの訴訟も、かなり分かりやすい。自分を被害者とする人々は、その苦痛に対する金銭賠償を望んでいる。ただし、ベッチウについては、自分の名声が傷付けられたことに対する賠償だ。

*マカリックによる性的虐待被害者4人がバチカンに損害賠償請求

 だが、実際には、完全に”世俗的な法廷”に提起された二つの訴訟は、古典的な教会の難問を引き起こす。それは①カトリック教会の司教は、バチカンの「被雇用者」なのか②専門的解釈では、教皇に選ばれるには、枢機卿でなければならないのかーである。

 マカリック事件から始めよう。米ニュージャージー州のニューアーク連邦裁判所に、高名な弁護士のジェフリー・アンダーソンを原告代理人とする提訴内容は、被害者とされる4人の主張に基づいているーうち3人は未成年だった1980年代にマカリックから性的虐待を受け、もう一人は司祭で1990年代に虐待されたが、いずれも、「教会のために」をそのことを忘れるように言われた、という。提訴内容によると、マカリックはバチカンの「被雇用者」であったことから、損害賠償の責任はバチカンにある、としている。

 バチカンが米国の裁判所での性的虐待訴訟で損害賠償の当事者として名指しされたのはこれが初めてではない。だが、これまでの訴訟は、バチカンの主権免除(注:国際民事訴訟において、被告が国または下部の行政組織の場合、外国の裁判権から免除される、というもの。国際慣習法の一つ)のために、いずれも却下されている。

*司教は、「バチカンの被雇用者」か?

 主権免除の数少ない例外の1つは、外国政府が従業員または代理人を通じて米国で事業活動を行い、その従業員が公的な立場で行動している間に不法行為を行った場合だ。 たとえば、1980年代後半、連邦裁判所は、サンフランシスコでナイジェリア政府公務員が賃貸していたアパートの損害について不法行為の例外の下で同国政府を訴えるのを認めている。

 以前のバチカンの訴訟は一般に、司祭はバチカンの被雇用者であると主張しようとしていたが、これは基本的に証明が不可能だー世界には40万人以上の司祭がおり、バチカンは明らかに彼らの監督者ではない。現地の司教あるいは修道会の上長が監督者だ。

 この訴訟は6年後、集団訴訟を支持するのに十分な他の被害者を見つけることができない段階で取り下げられたが、レナが現地の司教の自治権を強力に擁護する、デトロイトの聖心神学院の教会法学者、エドワード・ピーターズから提出した2つの長い覚書を上申した後だった。

 「司教はバチカンの被雇用者に過ぎない」との主張は「教会の構造の根底にある基本原則に反している」とピーターズは書いている。第二バチカン公会議(1962-65)で決議された教会憲章で、「司教は、ローマ教皇の代理と見なされるべきではない」としている事実を引用していた。

 しかし、米国民法では、雇用と解雇の権限は一般に雇用者/従業員関係のリトマス試験と見なされており、もちろん、司教に関しては、教皇だけが、雇用、解雇のいずれも行うことができます。訴訟は中途で断念されたため、裁定されることはなかったが、「マカリック訴訟」は同じ問題を真っ向から裁判で争おうとしているようだ。

*ベッチウが伊有力週刊誌に1200万ドルの損害賠償求める訴訟

 ベッチウに関しては、彼はかつて教皇の首席補佐官、そしれバチカン列聖省長官、さらに枢機卿として持っていた権限の観点から、自分がバチカンの資金を不適切に運用したとされていることについての申し立てだ。ベッチウは、またハロッズの倉庫だった不動産を高級マンションに改装するために購入したことを含む4億5,000万ドルの資金不祥事も関係している。

 こうしたベッチウ問題を一番、積極的に報道したきた報道機関は、イタリアで最も有名な二つの週刊誌の一つL’Espressoで、ベッチウは同誌に対して、同誌とバチカンの検察当局が自分を中傷する組織的なキャンペーンを展開したとして、総額1200万ドルの損賠賠償訴訟を起こした。(訴訟では、L’Espressoの彼の「辞任」に関するオンライン報道のメタ・データを引用して、同誌が、彼自身が知るより前にそれについて知っていた、つまり、バチカンの誰かが同誌にリークしたことを示唆している。)

 損賠賠償請求を正当化するために、原告弁護人はベッチウがどのような損害を被ったかを説明する必要があった。説明の中で、枢機卿の権限として付与されていた次期教皇選挙への参加権を奪われ、「次期教皇になる機会を失った」と主張している。

*「教皇選挙権持つ枢機卿」は教皇になる必要条件か?

 だが、 教会法は、教皇に選ばれる条件としているのは、「洗礼を受けた男性信徒」であり、枢機卿ではない。もっとも、枢機卿でない人物の教皇選出は、14世紀を最後に、それ以降、現在に至るまで起きていない。だから、「de jure(法律上正しい)」とは言えなくても、「 de facto(既成事実)」として、枢機卿が条件になっている、とすることは恐らく可能だろう。

 言い換えれば、”世俗”の裁判官が、カトリックの内部関係者が何世紀にもわたって議論してきた問題に答えるよう、求められるかもしれない。バチカンがらみの二つの訴訟いずれも、そこまで行くかどうか、まだ分からないが、ここしばらくの間、教会論の博士号保有者は、大西洋の両側で、法務コンサルタント料金の”ミニ・ブーム”に備えることになるかも知れない。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年11月23日

・中国、インド、タイ‥. 宗教規制で最悪はアジア地域ー米有力シンクタンク調査

(2020.11.19 カトリック・あい)

 米国の有力シンクタンク、Pew Research Centerがこのほど世界の国別、宗教規制状況分析を発表した。

 それによると、信教の自由への侵害は2018年時点で、調査を始めた2007年に比べて大幅に悪化、とくに、調査対象198国・地域のうち、宗教団体に対して逮捕・拘束、暴行など脅威を与える行為がされている国が増えており、政府による規制が「強い」あるいは「とても強い」が2017年の52か国から2018年には56か国に増えている。

 56か国の地域別では、25か国がアジア・太平洋地域、18か国が中東・アフリカ地域だ。規制の程度が最も強くなっているアジア・太平洋地域での、宗教団体への政府による規制の内容は、教会・寺院などの施設、備品の損壊、信徒の拘留、追放、虐待、殺害にまで及んでいる。

 国別では、中国が宗教規制で、調査国・地域の中で最悪の状態を続けており、評価(悪いほど高い)は10点満点で9.3点に達している。これは、中国政府が、かねてから法輪功といくつかのキリスト教系団体を全面活動禁止しているほか、各種の宗教団体の一定の宗教活動を禁じ、宗教的な行事をしている場の襲撃、信徒たちの拘禁、拷問などがなされている。新疆ウイグル自治区では、ウイグル人、カザフ人などイスラム教徒の拘束作戦が続けられており、少なくとも80万人が強制収容所に入れられ、棄教を迫られている。その人数は最高で200万人に達している可能性もある、という。

 またフィリピンでは、三つのユナイテッド・メソジスト教会宣教会が国外退去、あるいは人権侵害の捜査に関与して滞在査証の発行差し止めなどの措置を受けている。ミャンマーではロヒンギアのイスラム教徒が虐待を逃れるため隣国バングラデシュに脱出するなど、大規模な難民の発生が続いてる。カチン族とシャン族の地域では政府軍と反政府軍の衝突激化で、大部分がキリスト教徒の宗教少数者が故郷を追われている。

 インドでは、anti-conversion lawsが、宗教少数派に影響を与えており、北部のウッタル・プラデシュ州では9月に、ヒンドゥー教徒に不当なやり方で改宗を迫ったとして、271人のキリスト教徒を逮捕するなど、弾圧を強める動きが出ている。ジャム・カシミール地方では、警察官4人が遊牧民のイスラム教徒の家族から8歳の少女を誘拐、暴行したうえ殺害したとして、逮捕されている。

 タイでは、政府が2018年に、難民認定を求めて他国から流入して来た宗教少数派の人々を含む数百人を法的地位がないとして逮捕した。その中にはパキスタンからのキリスト教徒、アハマディア・モスレム教徒、ベトナム南部高地のキリスト教徒などが含まれている。

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 Pew Research Centerの調査分析報告の全文はhttps://www.pewforum.org/2020/11/10/in-2018-government-restrictions-on-religion-reach-highest-level-globally-in-more-than-a-decade/でご覧になれます。

2020年11月19日

♰”マカリック報告”-教皇、聖職者性的虐待の根絶へ教会の決意新たに

(2020.11.11 Vatican News staff writer)

 教皇フランシスコは11日、水曜恒例の一般謁見で、前日に国務省から発表されたマカリック元枢機卿(元米国ワシントン大司教)の性的虐待に関する報告書に言及。虐待を受けた被害者全てに心を寄せ、聖職者による性的虐待という悪の根絶への教会の決意を新たにされた。

 教皇は、一般謁見でインターネットを通じて参加している世界の聖職者、一般信徒に向けて、「元枢機卿セオドア・マカリックの苦痛な事件に関する報告」を受けて、「このような悪を根絶するという教会の公約を新たにします」と述べられ、その後、しばらく沈黙の祈りを捧げられた。

 461ページにのぼる文書と証言で構成される”マカリック“報告”は、司祭、司教、枢機卿としてのマカリックの行為について、歴代教皇を含めた教会関係者たちがどのように認識し、どのような判断をしたかについて、2年にわたる詳細かつ徹底した調査の結果をまとめたものだ。

 同報告について、ピエトロ・パロリン国務長官は、「聖職者の性的虐待問題に関わるすべての人々に、自分たちが行う判断、あるいは判断しないことの責任の重さを改めて認識してもらうこと。それを強く求めるものだ」とし、「過去の辛い経験から学び、深く反省し、将来何ができるか」を問い返し、行動で示す機会とするよう、全世界の聖職者に求めている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2020年11月12日

・「マカリック報告は”結果”を生む」と虐待問題の専門家は期待(Crux)

(2020.11.11 Crux Rome Bureau Chief Inés San Martín)

 

 アルゼンチン、ロサリオ発–聖職者による性的虐待問題の第一人者、教皇が設けた未成年者保護の委員会のメンバーで、教皇庁立グレゴリアン大学の未成年者保護センターの所長であるハンズ・ゾルナー神父が10日午後、Cruxの電話インタビューに応じ、元枢機卿セオドア・マカリックに関するバチカンの報告は、「事実の隠蔽、否認、説明責任の否定、不誠実が引き起こす問題がどれほど深刻であるかを示したもの」と語った。

 神父はまた、今後、同様の調査報告書が他にも出てくるものと考えている、とし、「それは、例えば司教の任命に至る順序に関して成果をもたらすことが期待される、教会の手続きに対する厳密な調査をもとにしたもの」と述べ、「今回の報告書は、そうしたバチカンの取り組みの重要な一歩。”最後の一歩”にならないと確信している」と強調した。

 ”マカリック報告”で明らかにされたことの一つは、マカリックの犯罪行為については聖職者だけでなく、政府当局も承知していたことだ。

 この報告書では、マカリックの性的虐待を訴える匿名の手紙が1992年と1993年に駐米バチカン大使、米国カトリック司教協議会、さらに米国の複数の枢機卿に送られていたことが明らかにされている。そして、その後、マカリック自身が手紙の一部を「米連邦捜査局(FBI)の友人」に送り、差出人を調べるよう求めたが、実際に調べが行われたかどうかは不明だ。

 マカリックに対する訴えについての、補佐官からマサチューセッツ州ミドルセックス郡の検察官に送られた一ページのメモも明らかにされているが、何もなされなかった。マカリックの性的虐待について証拠を発見した時、郡当局が介入する必要があったかどうかについて、ゾルナー神父は「そうすることが、私が役所に期待すること。当該の人物が政治化だろうと、有名なスターだろうと、教会の指導者だろうと、誰であるかに関係なく、すべきことです」と言明。

 だが、「世界の一部の地域ではー性的虐待問題についてだけ話しているのではありませんがー地方政府当局と罪を犯している人々との間で”談合”がなされています」 と指摘し、「これは腐敗と談合の問題として扱われるべきです」と述べた。

インタビューの主な内容(英文)は以下の通り

(英文)

Crux: First of all, what’s your overall reaction to the report?

Zollner: I think it’s a very important step, it is very extensive, very detailed, and very well researched piece of investigation. I would say it really takes seriously the commitment that the pope and through him the Church has taken after the so-called summit on child protection that took place February 2019, in regard to transparency and accountability. I really think that this is a good example of how seriously these whole questions of cover up and denial and non-compliance and insincerity should be dealt with. It is a probe into Church procedure which hopefully will have consequences, for example in regard to the process of appointing bishops.

I think it’s an important step, and I’m sure this will not be the last one of its kind.

C: When you say this won’t be the last one of its kind, do you have any specific ones in mind? For instance, I’ve spoken with victims in Chile who want to see the Scicluna report. Do you think there’s any hope of that information seeing the light of day, in a similar shape and form?

Z: This was a clearly defined task for this report, and the pope made it very clear that this had to be done thoroughly and to be published. So the task was very clearly defined from the beginning. I think that needs to also be true for other reports, so I’m not thinking really of something from the past because as far as I know, no such task was given to anybody else concerning anybody else in particular.

But I’m pretty sure that in the future we will have other reports concerning either persons or countries.

 

C: Do you have any country or person in mind when you say a report might be ordered soon?

Z :No, I don’t think of a particular country, but I mean, I’m pretty sure that we will have more news coming up over the next weeks, months and years. And now that we have this unprecedented step taken by the Holy See at the decision of the pope, you have a door open, so to say, and I’m pretty sure that for similar cases, a similar procedure will be chosen.

 

C: At this point, McCarrick is 90 years of age and his crimes have expired under the statutes of limitations. How important would it be if, in the future, these investigations are ordered when the crimes are still perusable in civil courts, and the Holy See worked together with civil authorities to make sure that priests are not only removed from the priesthood but also go to jail when it’s merited?

Z: I know that the Holy See does that if and when the proper request comes in. This is a normal procedure if the ways of communication and of making formal request is done properly, I know that the Holy See cooperates. The problem is often allegations come about 25, 35, 45 years after the abuse has taken place, and in many countries, state authorities be there a statute of limitations be there or not, won’t or can’t follow up anymore because there’s little proof to establish the veracity of this fact, reason why state authorities won’t act.

The Holy See does cooperate. But it can only cooperate when legal action takes place on the civil grounds and authorities ask for help through the proper channels.

 

C: You mentioned that you though this report was an important step. But when things of this magnitude come up, there’s usually a “but,” such as “it’s a good first step but more can be done, could have been said, accountability could still take place.” Do you have a “but” for this report?

Z: Within the limitations of personality rights and confidentiality which you would expect in any legal procedure in a state or in the Church, I think that this report has produced an enormous amount of evidence. It shows clearly that they have looked in detail I don’t know how many pages of documents.

I have been asked many times “don’t you think the Holy see will just scrap it,” or that “[the Church] would use the pandemic as an excuse,” and I always said that I knew they were working on it and that I was confident that it was going to be published. And now we have it, we have 460 pages, and you see where you can point out personal responsibility, you can see where the system does not work, and where the combination of both bring about such a disaster as the promotion of this person to become a cardinal and continue the abuse.

The “but” is what consequences do we really draw from this report, and how fast the process for the appointment of bishops will be influenced by the reading of such a report. I repeat what I said: I believe that there should be a more thorough process to see who are capable candidates for becoming bishops, and these questions should not only be asked in the clerical context, meaning, people from the hierarchy and from “inside” so to say. You need those who can give their advice from a different perspective because this is necessary and, in the end, it’s helpful for the effectiveness of the ministry.

Because what damage has been done to the Church in the United States and everywhere else by appointing a person as archbishop of Washington of whom at least three bishops knew that there were not only rumors, but had some kind of evidence that this was true?

 

C:  From reading the report, it emerges that civil authorities might have known, or should have known, about McCarrick’s crimes. How important is it for civil authorities to intervene when they see such a pattern? Because this is not a “Church matter,” it’s a crime or criminal behavior.

Z : This is what I expect for civil authorities and offices to do, and to intervene. It’s what they’re meant to do, independent of who the person is: a politician, a famous star or a Church leader. This is clear.

 

C: We’re all part of keeping each other accountable…

Z:   Yes! But you see that in some parts of the world there has been collusion between State authorities and people who committed crimes, and I’m not talking only of abuse. But this has to be dealt with under those questions of corruption and collusion. Unfortunately, this takes place in many places of the world and in many areas of society.

 

C:   Any final thoughts for readers or survivors who, upon reading this report might revisit their experiences and frustrations?

Z:   Yes. I have already gotten feedback from survivors who said that they’re very angry when they read this. I can only say that we should be grateful to those who had the courage and determination to speak out, even after years and even after having not been believed in the first instance. I would say that as difficult as it is to digest, and as horrible as it is to read this, it is also a sign that survivors have brought about a process that, ultimately led to the publication of this report, and we can hope that from there, other steps will follow.

Follow Inés San Martín on Twitter: @inesanma

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年11月11日

・「”マカリック”を生んだのは聖職者主義だ」ー米国の教会指導者たちが自省の弁(Crux)

 2002年4月24日、教皇ヨハネ・パウロ二世とのバチカンでの2日間の会合を終えて記者会見するジェームス・フランシス・スタフォード枢機卿(写真左=バチカン信徒評議会議長)、セオドア・マカリック枢機卿(中=当時・ワシントン大司教)、米国カトリック司教協議会のウイルトン・グレゴリー会長(右=ベルビル教区長)。聖職者による性的虐待問題で激論が戦わされた臨時会合の後だった。 (Credit: Pier Paolo Cito/AP.)

 

(2020.11.11 Crux National Correspondent John Lavenburg)

U.S. Church leaders point to clericalism as reason for rise of McCarrick

 ニューヨーク発—バチカン国務省が”マカリック報告”を公表したのを受けて、米国のカトリック教会の有力指導者たちは、マカリックが何十年にもわたって性的な違法行為と虐待の告発を受けていたにもかかわらず、司教、大司教、そして枢機卿と昇進し続けること許した「聖職者主義の文化」の問題をそろって指摘した。

 *ニューヨーク大司教のティモシー・ドラン枢機卿は現地時間10日午後のラジオ番組「ドラン枢機卿と語る」で、「マカリックは、聖職者主義の文化すべてよりも、もっと非難されるに値する唯一の人物」と指摘。

 「本当の悪役は1人しかいません。テッド・マカリックです。そして2番目の悪役は、あえて言わねばなりませんが、『聖職者たちを法に優先し、彼らに特権を与え、誰に対しても説明責任を負わない』という、教会内部の”空気”。私たちはそれを『聖職者主義の罪』と呼びます」と批判を込めて語った。

 さらに、「これは悲劇的な”空気”」であり、そのような”空気”の中で、当時の若い神学生たちには(注:性的虐待を受けたことを)訴える場がなく、仮にそうすれば、神学校から追い出されてしまう恐れ、言い出せなかったのだ、と述べた。

(注:聖職者主義clericalism)=聖職権主義]、あるいは教権主義とも言う。ギリシア語で「聖職者の」を意味する「クレーリコス」( κληρικός)に由来する語・概念であり、もとは、特定の宗教権威・権力(教権)やその聖職者による国家社会支配を、肯定・容認・推奨・支持・支援する立場のことを指したが、現在では、カトリック教会内部で、あるいは一般社会で聖職者が絶対的な権力を持つように振る舞うことを当然とする”時代錯誤的”な考え方、行動を指すことが多い=「カトリック・あい」)

 

 *シカゴ大司教のブレイズ・キューピッチ枢機卿は、10日午後の時点で449ページの報告書全文を読んでいなかったが、概説を読んだ限り、「問題のある文化」を浮き彫りにしている、と語った。「私たちは匿名の告発を真剣に考慮する必要があります。まず被害者を第一番に置き、ケアをし、そのことで動かされねばならない」とする一方、マカリックがカトリック教会で昇進を続けていったのを許したことについて、誰も非難しなかった。

 ただし、ニュージャージー州の4人の司教について、報告書ではこのうちの3人が当時の駐米バチカン大使のガブリエル・モンタルボ大司教に、マカリックに対する性的虐待の訴えについての調査のために、「不正確で不完全な」情報を提供した、としていることについては、「彼らは、正確な情報を伝えるべきだったし、そうする責任があった」と批判したうえ、こうした個別の行為は問題の一部に過ぎず、もっと大きな問題は、当時存在した”(注:聖職者主義の)文化”にある、と述べた。

 さらにキューピッチは「被害者へのケアが足りなかった。この問題全体に関して、私がいつも言ってきたのは、子供を部屋の真ん中に置き、注目し、注意を払えば、事実が明らかになります」とし、「今回の報告書が、私たちが責任を負うべきものに目を向け、互いに説明責任を負い、透明性を保つ機会になることを願っている」と強調した。

 

 *フロリダ州ペンサコーラ-タラハシー教区のティモシー・ワック司教は、この報告書でニュージャージー州の3人の司教が自分たちが提供すべき情報に誠実ではなかった、と指摘している箇所を読んで、「深い悲しみ」を感じた、と述べた。そして、マカリックを当時、調査した時点で真実が明らかにされなかったことを「狂気」と呼び、「これは真実が隠されている時に、物事が雪だるま式に膨らんでしまう完璧な例です」と語った。

 また、マカリックのワシントン大司教への昇進を認めた聖ヨハネパウロ2世の対応にも批判の目を向けるとともに、マカリックを昇進することに果たした教皇の振る舞いは、「私たち全員が罪人であることを思い出させるもの、とした。だが、それは教会における教皇の重要性を奪うものではなく、「それは、教皇を含む私たち全員が罪人であることを示している。『すべての聖人には過去があり、すべての罪人には未来がある』という諺があるが、聖ヨハネパウロ2世の振る舞いを見て、地球上の誰も彼が完璧だとは言わなかった。私たちが報告書で見たように、教皇は間違いを犯したのです」と批判した。

 これからの対策として、ワック司教は、教会が聖職者に説明責任を負わせる制度を続けることを望んでいること、新任の司教として、聖職者たち全員が享受している「自主性」に驚いていることを認め、それが「特に聖職者たちに責任を負わせる教区レベルに人々を配置することが、各地の司教たちにとって重要である理由です」と述べた。

・・・・・・

 また米国のカトリック教会の他の何人かの指導者たちは、この報告書が出されたことに感謝する声明を発表し、「カトリック教会にとって、透明性をもって前に進むことために、”欠かせない第一歩」としている。

*ニュージャージー州メツチェン教区のジェームズ・チェッキオ司教は、報告書で述べられた内容に「うんざりし、愕然とした」と述べた。マカリックが同教区の初代司教であり、そこで彼の虐待の一部が起きた、とされているからだ。「この報告書は、間違いなく悲しみ、不安、欲求不満、怒り、嫌悪感、痛みを引き起こします」としたうえで、「教会が単に間違いを認識し、赦しをめるだけでは不十分です。誠実さと透明性をもって前進するために、これらの”酷い章”を記憶しておく必要があります」と自省を込めて語った。

*米国カトリック司教協議会の会長、ロサンゼルス教区のホセ・ゴメス大司教は10日発表した声明で、「司祭、司教、あるいは他の誰かに性的虐待を受けたことで苦しんでいるすべての人々を助けることに尽力している」と弁明。「兄弟の司教たちと私は、虐待被害者たちが前に進めるのを助け、彼らの苦しみが繰り返されないようにするために、私たちができることは何でもする、と誓っていることを知っていただきたい」と理解を訴えている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年11月11日

(VaticanNews解説)「教会の歴史の悲劇の一ページ」-”マカリック報告”を受けて

(2020.11.10 Vatican News  Andrea Tornielli)

 バチカン国務省は10日、未成年性的虐待で枢機卿のタイトルを剥奪され、さらに司祭職を追われた米国の元ワシントン大司教、セオドア・マカリックに関する膨大な調査書類と証言からなる報告書を公表した。以下はその概要である。

*不完全な情報もとにワシントン大司教に任命

 マカリックを2000年にワシントン大司教に任命した際、聖座は、部分的で不完全な情報をもとにそれを行なった。今回の調査で明るみになったのは、(注:知っていたはずの問題の)省略、過小評価、そして後で間違いが証明されたいくつかの選択であるーそれには、バチカンが求めた人物評価の過程で、聞き取り調査の相手が知っていたことを全て開示したとは限らなかったことも含まれる。2017年に至るまで、マカリックに関して、未成年者に対する性的虐待、脅し、傷害についての詳細な告発は全くなかった。虐待を受けた時点で未成年だった被害者からの報告があった2017年、教皇フランシスコは直ちに対応し、既にワシントン大司教区の長を定年で退任していた,この高齢の枢機卿の肩書をはく奪し、されに司祭職を取り上げた。

 この報告書の膨大な量の情報とりまとめ、そして公表は、マカリックに関わる意思決定過程を徹底的に調べ上げ、その結果は必ず公表しなければならない、という教皇の要請に対応するものだ。また今回の報告書公表には、マカリックのような人物を教会の高位聖職者の地位に就かせてしまったことで傷つき、苦しんでいる米国のカトリック教会共同体への教皇の司牧的配慮も働いている。

*”過ちの歴史”を繰り返さないために

  報告書の特徴は、内容の完全さだけでなく、提供する概観にもある。概観によって、考慮する必要のあるいくつかの重要なポイントを明らかにしている。

 最初のポイントは、犯された過ちに関するものだ。これらは、”過ちの歴史”が繰り返されるのを避けるために、すでに教会内で新しい規則の採用につながっている。 2つ目は、マカリックによる未成年者の性的虐待に関する具体的な告発が、2017年に至るまで、なかったことだ。

 1990年代に、軽微な虐待をほのめかすいくつかの匿名の手紙が、米国の枢機卿たちとワシントンのバチカン大使によって受け取られていたのは事実だが、手紙には、虐待などの詳細、被害者の氏名などが明らかにされていなかったー具体的な説明がされていなかったため、残念ながら、信頼できる情報とは見なされなかったのだ。

 

*最初の具体的な告発は2017年に

 未成年者に関する最初の具体的な告発は、今から3年前に出され、それを受けて、教皇フランシスコが直ちに教会法にもとずく対応に着手、二つの決定を下した。一つは、名誉枢機卿の地位をはく奪したことであり、もう一つは司祭職を解任したことだ。教会法上の調査を含む手続きが始まった際、進んで証言した人々は、真実が知られるようにしたことで称賛されるべきであり、自分たちが経験した辛い過去を語るという苦痛を克服しながら対応してくれたことも、感謝されるべきだろう。

 報告によれば、マカリックが最初に司教候補者とされた1977年、ニュージャージー州のメツチェン教区の司教に任命された1981年、さらにニューアーク教区の大司教に任命された1986年に、本人の昇進に否定的な情報ー道徳上の振る舞いに関する情報-の提供を求められた人はいなかった。

 1990年代半ば、教皇ヨハネ・パウロ二世がニューアーク教区を訪問される前に、同教区から、マカリック大司教の神学生と司祭に対する振る舞いに関するいくつかの訴えについての、最初の非公式な”評価”がなされたことがある。評価を行ったのはニューヨーク大司教のジョン・オコナー枢機卿だったが、米国内の司教を含む関係者から情報を集め、検討の結果、教皇のニューアーク訪問に「障害」はない、と判断した。

*オコナー枢機卿のマカリック昇進を否定する意見

 マカリック問題で重要な点は、彼が(注:さまざまな問題が浮上していたにもかかわらず)マカリックがワシントン大司教に任命されたことにある。 マカリックが伝統的に枢機卿のポストになっているワシントン大司教になる可能性が出てきた何か月かの間、彼の人物評価について、肯定的な意見が影響力のある人々から出される中で、オコナー枢機卿からの否定的な意見が出されていた。彼は直接情報を持っていないことを認めつつがら、1999年10月28日付けの駐米バチカン大使あての手紙で、マカリックの新しいポストへの任命は間違いであると思う、と説明していた。その理由として挙げていたのは、マカリックを巡る様々なうわさーマカリックが過去に、司祭館で若い成人と、ビーチハウスで神学生とベッドを共にしていたなどーから判断して、深刻なスキャンダルの危険がある 、というものだった。

*教皇ヨハネ・パウロ二世の最初の判断

 この点について、教皇ヨハネ・パウロ2世によってなされた最初の決定を強調することが重要だ。教皇は駐米大使にこれらの告発の根拠を検証するように求めました。繰り返しになるが、マカリックの人物評価に関する書面による調査には具体的な証拠は含まれていなかった。なお、大使から相談を受けたニュージャージーの4人の司教のうち3人は、調査内容が「不正確で不完全」なことを明らかにする情報を提供した。

 教皇ヨハネ・パウロ二世は1976年以来マカリックを知っており、米国訪問中にも彼に会ったが、当時の駐米大使ガブリエル・モンタルボと司教省長官のジョバンニ・バチスタの、マカリックを候補者リストから外すように、との提案を受け入れた。長官たちは、具体的な詳細が無くても、高位聖職者をワシントンに移すリスクを冒すべきではない、と主張した。彼らは、訴えが根拠のないものと見なされたとしても、再び表面化し、困惑とスキャンダルを引き起こす可能性があると確信していた。こうしたことから、マカリックはニューアーク教区に留まる運命にあるように思われていた。

*マカリックからの手紙と教皇の心変わり

 ところが、その後、マカリックの人事を巡る流れを根本的に変える何かが起こった。自分がワシントン大司教の候補になっていること、その人事を保留するべきだとする意見があることをしったマカリックは、2000年8月6日に教皇ヨハネ・パウロ二世の個人秘書であるスタニスラフ・ジウィス司教に手紙を書いた。手紙で、マカリックは、自分が無実であると言明し、 「老若男女、あるいは聖職者か一般人かを問わず、いかなる人とも、性的関係を持ったことは一度もありません」と訴えた。

 教皇はその手紙を読み、マカリックが真実を語っており、否定的な「噂」はまさに噂であり、根拠のない、あるいは、少なくとも、証明されていない情報だけだ、と確信した。したがって、当時の国務長官のアンジェロ・ソダーノ枢機卿に出した指示を通して、ワシントン大司教の候補者リストにマカリックを載せ直し、ワシントン大司教に彼を選んだのは、教皇ヨハネ・パウロ二世だった。

 報告書で引用されている証言によると、その期間の文脈をよりよく理解するために役立つと思われるのは、教皇がポーランドの大司教であった数年間に、当時のポーランドの共産党政府が司祭と司教の信用を傷つけようとして、嘘の告発を使ったことを経験していた、ということだ。

*教皇ベネディクト16世の判断は

 さらに、マカリックがワシントン大司教に任命された時点では、成人あるいは未成年の性的虐待の被害者は、大司教の不適切な振る舞いに関して訴えるために、バチカンあるいは駐米バチカン大使と接触していなかった。加えて、ワシントン大司教に就任してしばらくは、マカリックの振る舞いについて不適切とされることは、何も報告されなかった。だが、彼に対する成人への性的嫌がらせと虐待の訴えが再び表面化し始めた2005年になって、新しい教皇ベネディクト16世は、ワシントン大司教としての任期を2年間延長することを認めていたマカリックに早期引退を求めた。 マカリックは翌2006年にワシントン大司教区の長としての地位を離れ、名誉大司教となった。

 報告書は、この時期に、カルロ・マリア・ヴィガノ大司教が駐米バチカン大使として、マカリックの成人との関係に関わる情報について、上司であるバチカンの国務長官に報告し、事態の深刻さを告げている。だが、彼は警鐘を鳴らす一方で、証明されるような事実が無いことも理解していた。当時の国務長官、タルシチオ・ベルト―ネ枢機卿は、この情報を教皇ベネディクト16世に直接伝えた。その段階では、被害者に未成年がいないことになっており、問題とされる人物がすでに大司教区の長を退いている枢機卿であることから、教皇はマカリックの調査に公式の教会法に基づく手続きを開始することはしなかった。

*マカリックに「制裁」ではなく「勧奨」

 その後の数年間、マカリックは、バチカン司教省からの「出来る限り静かで控えめな生活を送り、公の場に頻繁に顔を出さないように」との指示を受けていたにもかかわらず、活動を続け、駐米バチカン大使の暗黙の了解のもとに、ローマを含めて海外にも頻繁に出かけた。マカリックがバチカンから、出来る限り控えめな生活を送るようにとの要請を受けていることについて、数多くの議論がなされた。だが、報告書で公開された文書や証言からみて、彼に「制裁」が課されたことは一度もなかったのは明白である。

 それは「制裁」というよりも「推奨」であり、2006年に本人に口頭で伝えられ、2008年に文書で伝えられたが、それが教皇ベネディクト16世の率直な願望だ、とはしていなかった。マカリックの善意と尊重を前提とした「推奨」だった。マカリックは活発に活動を続け、旅行を続け、バチカンから権限を与えられていないにもかかわらず、様々な国で宣教活動を行い、それが容認されていることを示した。

 2012年になって、マカリックに対する新たな訴えを受けたビガノ駐米大使は、司教省から調査の指示をうけたが、今回の報告によれば、彼は指示された調査を全て実行したわけではなく、従来なされていた手法をそのまま取り続け、マカリックの活動、米国内外の旅行を制限するような重要な措置をとることをしなかった。

*フランシスコ教皇がとった厳正な措置

 フランシスコが教皇に選ばれた際には、マカリックはすでに80歳を超えており、投票権を失っていた。マカリックは相変わらず、習慣となった旅行を続け、一方で、就任した手の教皇には、マカリックに対する性的虐待の訴えの深刻さを知らせるような文書や証言は報告されていなかった。報告されていたのは、マカリックがワシントン大司教に任命される前に、彼に対する訴えと「成人との不道徳な行為に関連する噂」だけだった。この段階では、マカリックに対する訴えは教皇ヨハネ・パウロ二世によって調査され、否認されており、また、前任のベネディクト16世の教皇在任中、マカリックが活発に活動していたことを良く知っていたため、教皇フランシスコは「前任の教皇たちが採用した方針」を修正する必要がある、とは考えなかった。

 このようなことから、教皇フランシスコが、マカリックに課されていた制裁や制限を無効にしたり、弱めたりした、というのは、真実ではない。2017年に、未成年者に対する性的虐待の訴えが初めて出て来た時に、これまでの流れが全く変わったのだ。教皇は即座に対応し、枢機卿の地位はく奪、司祭職の解職という重大で前例のない措置に踏み切った。

 

*カトリック教会が得た教訓は

 この報告書を通して提供される膨大な量の証言や文書で語られているのは、間違いなく、最近のカトリックの歴史における悲劇のな一ページであり、教会全体がそこから学ぶ痛ましい事の次第である。実際、マカリック事件のレンズを通して、2019年2月の未成年者の保護に関する全世界司教協議会会長会議の結果を受けて教皇フランシスコが講じた措置のいくつかを読むことができる。

 たとえば、自発教令Vos estis lux mundiーバチカンの関係部署間の、バチカンと各国司教協議会などとの間の情報交換に関する指示、初期調査への首都大司教の関与、訴えに対する敏速な対応、教皇秘密の廃止、などを含むーがそれだ。これらの決定はすべて、実際に起きたことを考慮に入れ、機能していなかったこと、手順が適切に踏まれていなかったこと、遺憾ながらさまざまなレベルで過小評価さらたことから、学んでいる。教会は、今回のマカリックのケースを含めて、性的虐待との戦いから、学び続けている。それは、今年7月に、匿名の訴えを破棄しないよう司教や修道会の会長たちに求める教理省の指針からも明らかだ。

 

*傷口は開いたままー必要な「へりくだり」と「悔い改め」

 以上が、この報告書に示された証拠文書で明らかにされた全体像ー従来知られていたことよりもずっと詳しく、複雑な事実を再構成しようとしている。過去20年の間、カトリック教会は、聖職者による性的虐待に対する苦悩、未成年者の保護を保証する必要性、この現象と戦うことができる規範の重要性を、従来よりも強く意識するようになった。また、弱い立場にある成人を性的虐待や、権力の乱用から守る必要性をいっそう強く認識し始めた。

 カトリック教会にとって、米国とバチカンにおいて、セオドール・マカリックーかなりの程度の理解力と心構えを持っており、聖職者内部と同様、政治的な分野でも多くの人間関係を織り合わせることのできる高位聖職者ーの関わる問題が、傷口ー何よりも、彼が被害者たちにもたらした痛みと苦しみーは開いたままだ。この傷は、新たな法律や効果的とされる行動規範だけでは対処できない。なぜなら、この犯罪は、(注:宗教上、道徳上の)罪でもあるからだ。この傷を癒すために、へりくだりと悔い改め、神の赦しと癒しを求めることが必要なのだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2020年11月11日

・教皇フランシスコ=バイデンはヨハネ・パウロ二世=レーガンの関係になるか(Crux)

(2020.11.8 Frux Editor John L. Allen Jr.)

Could Francis, Biden find each other like John Paul II and Reagan?

In this April 29, 2016, file photo, Vice President Joe Biden shakes hands with Pope Francis during a congress on the progress of regenerative medicine held at the Vatican. (Credit: Andrew Medichini/AP.)

 ローマ発= 2020年の米大統領選挙の激動の”ほこり”が落ち着き始め、ジョー・バイデン候補以外が郵送投票のトップに躍り出る可能性はなくなってきたようだ。

 というわけで、バイデンが米国で2番目のカトリック教徒の大統領になるだけでなく、基本的には教皇フランシスコと同類ー中道左派、の一種のカトリック教徒です。中央左派、概して人道主義、そしてグローバリストーであり、二人の関係は、教皇の側近の一人が米国におけるカトリック保守派とプロテスタント福音派の関係について述べた「嫌悪の教会一致」とは、まったく無縁だ。

 ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州のラストベルトの激戦州でのカトリック信徒の投票の小さいながらも重大な変化によって、バイデンが優勢になったとすれば、次期大統領は彼の選挙対策本部とカトリック教会の関係に感謝の気持ちを抱くかもしれない。

 仮にトランプ大統領が再選されれば、世界をリードするハードパワーである米国とソフトパワーであるバチカンの間に、さらに4年間の深刻な対立の舞台が設定されることになっただろう。バイデンが次期大統領に選ばれることで、教皇は、先月発表した社会回勅「 Fratelli Tutti」で「近視眼的で、過激で、怒りっぽく、攻撃的なナショナリズム」と呼んだものに対する強い懸念を共有する人物をホワイトハウスに得ることになる。

温厚さの確率を高める、バイデンの勝利の信じられないほど限られた力は、見つけることができるならどこでも友人を必要とするだろう、という事を意味し、教皇が最近、米国で作り上げた中道左派の枢機卿3人の指導体制ーシカゴのブレイズ・キューピック、ニューワークのジョセフ・トービン、そしてアトランタのウイルトン・グレゴリーーを見て、バイデンは、彼ら全員が自分に友好的であることに気付くだろう。

確かに、新しいバイデン政権の陣容が具体的になるにつれて、すべての関係が心地よいものになるとは限らないかもしれない。トランプ大統領が選挙直前にエイミー・コニー・バレット氏を米連邦最高裁の判事に任命するのに成功した結果、バイデンの出身母体である民主党から圧力がかかり、「生命問題」をめぐる緊張が引き起こされる可能性がある。

中国に対する姿勢についても、大統領選挙中のバイデンの発言が、トランプと同じくらいにタカ派的だったことから、バチカンが先に中国と合意した司教任命に関する暫定取り決めの延長を巡るバイデン新政権との意見対立が続く可能性がある。

第二次大戦後、米国が関わった戦争の大半が民主党の大統領の下でなされたことの影響も注目される。「平和教皇」のフランシスコが、将来、バイデンが国際紛争に関わる必要が出てきた場合に、抑えに回ることが考えられる。

40年前、ヨハネ・パウロ二世教皇とレーガン米大統領は、気の合う同士であることを知り、結果として歴史が変えられた。ソ連共産主義は政治的、道徳的に嫌悪すべきものだという確信を共有し、東西冷戦の象徴であるベルリンの壁を崩壊に導く連鎖的な出来事を開始するのに寄与したーそれは、ハードパワーの米国とソフトパワーのバチカンが、欠けることなく、まっすぐに、しっかりと繋がった立場をとり、まばゆいばかりの諸々の可能性を示すものだった。

 ヨハネ・パウロ二世とは概して、いずれも「保守派」だった。今回は、いずれも「進歩派」と広く見なされている教皇と大統領が、世界の舞台を共有し、パートナーシップを築く可能性がある。だが、フランシスコは83歳、バイデンは77歳。いずれも、個人的なドラマの最終章に入ることを意識する必要がある。

 さらに、バイデンは個人的に誠実なカトリック教徒であるとされ、教皇と肩を並べて立つ機会を得る可能性がある。2011年に教皇ベネディクト16世を訪問し、2013年に教皇フランシスコの就任の際、副大統領として米国の代表団を率いてバチカンに行き、そこでの会議での基調講演で、一年前にガンで亡くした長男に言及し、がん治療体制充実の必要性を熱を込めて訴えた。バチカン関係者にとって、赤の他人ではない。

 では、この新たな”ヨハネ・パウロ二世=レーガン同盟”が戦う”悪の帝国”は何だろうか。

 一つは、新型コロナウイルスの大感染。世界は再び高まっている大感染の脅威に直面しており、破壊的な影響は経済、医療体制だけでなく、教会と国の関係を含む、ずっと広範囲の問題を深刻化させている。教皇と米大統領は、危機への対処で協調関係を築くことができる。

 さらに深く、現在進行中の地政学的な精神のための闘争がある。ここでは、フランシスコとバイデンが世界について一つのビジョンを示し、トランプが別のビジョンを示している。

 前者は、教皇が先日発表した社会回勅「Fratelli Tutti」で示した、グローバルで、多面的な、広範で進歩的な人間主義ー国際的な連帯を支持し、貧しい人々を優先し、国境を相対的なものとして扱おうとするものだ。対立ではなく対話を支持し、課題に直面する際の科学的、技術的、制度的な専門知識を高く評価する。

 後者は、強力な大衆迎合的なナショナリズムー世界を家族としてではなく、国家利益のため政治的、経済的な権力闘争を最優先する必要のある場、と見なす。内外からの脅威から国を守る必要性を前提とし、世界的な連帯よりも国家の繁栄、そしてエリートや支配者層に関する懐疑と敵意を前提にしている。

 そして、今後、今後数年間で、バイデンとフランシスは共同のエネルギーを、彼らの理想の実現に傾けられる可能性がある。そして、それが成功した場合、彼らの務めが終わった時に、世界が今とは大きく異なって見える可能性がある。

 いずれにせよ、そのような世界の再編の可能性が、これからの4年の歳月をかけて進むことを、通常程度のカトリック信徒としての関心をもって見ていく必要があるだろう。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年11月8日