(評論)ローマで教皇退位の可能性をめぐる憶測が再燃(La Croix)

(2025.3.8  La Croix  Anna Kurian=Agence I.Media)

 教皇フランシスコが2月14日からローマのジェメリ総合病院で治療を受けているが、四旬節に入った”永遠の都”では教皇の退任の可能性をめぐる憶測が再燃している。

 教皇は、自身の司牧はad vitamつまり終身である、と繰り返し述べる一方、前教皇ベネディクト16世の前例に従い、(体調など条件次第で)退任する可能性があることも示唆してきた。アルゼンチン出身の教皇は、ローマの年老いた司祭のための施設での生活や、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂での告解司祭としての奉仕を想像しながら、自身の引退について、長年にわたって思いを巡らせてきた。だが、 これまでは、それは仮説の域を出ず、教皇自身も常に退任する理由はない、と語って来た。

*「教皇が退任を表明しても、誰も驚かないだろう」

 

 しかし、退院予定日も定まらない長期の入院が続く中で、この問題が再び浮上した。「今は”待機期間”。教皇が退任を表明されても、誰も驚かないでしょう」とバチカン内部のある関係者は語った。この話題に関する会話は開かれつつあるようだ。イタリアのジャンフランコ・ラヴァーシ枢機卿を含む一部の枢機卿は、退任の可能性について報道機関に示唆している。バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は、そのような話は「無益な憶測」だ、と一蹴しているが、水面下では、次期コンクラーベについて考え始めた者もいる。バチカン専門家の話では、「慎重に」対応されているという

*教皇の職務継続に懸念材料も、ヨハネ・パウロ二世教皇の前例

 

 だが、懸念材料もある。「病状は長引いている。もし回復したとしても、本来の職務を再開できるだろうか?まったく不透明だ」。英語圏のあるバチカン・アナリストは「ヨハネ・パウロ2世の最後の数年間に戻りたいと望む人は誰もいない」という見方が強まっている、と指摘した。ヨハネ・パウロ二世教皇の場合、亡くなる前の数か月における健康状態の悪化が教会の統治に影響を与えている、と一部の関係者は受け止めるようになった。

 8日までのバチカン報道官室の発表も、教皇の現在の容態は依然として「複雑」であり、長期的な予後も不明、と説明しているが、フランシスコの伝記作家であるオースティン・イべレイは「彼は、自分が弱く、か弱い教皇であっても構わないことを示唆している。車椅子の教皇でも、定期的に病気になる教皇でも構わないのだ」と語る。

 教皇は、前教皇に倣って“退任の伝統”を築いてはならない、という責任も感じているかもしれない。退任が日常的になれば、「将来の教皇が年を取るにつれ、それが退任を促すプレッシャーとなる」可能性があるが、イベレイは「長期にわたる退行性または衰弱性の疾患により、教皇としての職務を完全に遂行できなくなった場合は、退任を検討する、とも語っておられる」とも言う。

*教会法では、退任はあくまで「本人の自由意志」としているが

 教会法では、教皇の退任は本人の自由意志によるもので、正式に宣言された場合にのみ有効となる。教会法の専門家は「退任は教皇個人の決断でなされるもので、誰も強制できない」と強調している。これは微妙な問題を提起する—教皇が退任すべき時を見極める能力だ。専門家は「教皇が決定を下すことができない場合はどうなるのか? もし統治能力が欠如しているにもかかわらず、退任を拒否した場合はどうなるのか?」と問いかける。

 教会法は、教皇の職務が「完全に妨げられている」状況について言及している(第335条)。しかし、これは依然として法的に”灰色の領域”であり、特に教皇が意思を伝えたり表明したりできない場合においては、その状態が続くことになる。教皇フランシスコは、このような事態を想定され、2013年に体調不良により教皇としての職務を継続できなくなった場合に備えて辞任願に署名したことを明らかにしたことがあるが、この辞任願の詳細は明らかになっていない。

 

*病床から聖人認定の会議を招集されたが、日程は未定のまま

 

 このような不確実性の中で、ある発表がさらなる憶測を呼んでいる。ジェメリ病院の病室から、教皇フランシスコが聖人認定のための会議を招集されたが、具体的な会議の日程は明示されなかった。枢機卿会議は、枢機卿と教皇による公式会議であり、ベネディクト16世は枢機卿会議を招集した際に退位を表眼され、即座に退任日を定められた。

 教皇フランシスコは、選択肢を残しているのだろうか?もし彼が退位を検討しているのなら、それを実現するための下準備をしているだろう、というのがイベレイの観測だが、彼はまたこう言う―「しかし、それは彼が実際にそうするということではない。彼は単に可能性を留保しているだけだ」

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2025年3月9日

(評論)なぜトランプが、ホワイトハウスで「灰の水曜日」のミサを再開したのか?(La Croix)

(2025.3.7 La Croix  Youna Rivallain)

   四旬節が始まった3月5日、ホワイトハウスで大統領官邸のスタッフを対象とした灰の水曜日のミサが行われた。 トランプ米大統領がプロテスタントでありながら、カトリック信者に送った新たなシグナルだ。

*カトリック信者たちにトランプが送った新たな”シグナル”?

 

 ホワイトハウスのウエブサイトには、ミサはホワイトハウスの別棟にある「インディアン・トリート・ルーム」で5日午前8時30分から行われことが知らされた。「(カトリックの信仰を)実践しているすべての信者が出席するよう招待されている」と。これには、トランプ大統領とメラニア夫人のメッセージも添えられていた―「この灰の水曜日に、私たちは四旬節の聖なる季節を迎える何千万人ものアメリカのカトリック教徒やその他のキリスト教徒と共に祈りを捧げます」。

 この数時間後には、(カトリック信徒の)ルビオ米国務長官が額に灰の十字架を印したまま『フォックス・ニュース』のインタビューに登場し、バンス副大統領はテキサスとメキシコの国境への国賓訪問から戻る際、額に灰十字を受けたところを写真に撮られた。

 ホワイトハウスではトランプが初めて大統領に就任した後、2018年に初のミサが行われ、 約100人の職員が参加した。 その後も、2週間に1度、ミサを続けたとトランプ大統領の1期目に行政管理予算局長を務めたミック・マルバニー氏は述べている。ウォール・ストリート・ジャーナルの昨年の記事で、彼は「ミサは2020年まで続いたが、(カトリック教徒の)バイデン氏が大統領職を引き継いだ時、彼のチームにホワイトハウスでのミサを続けるよう勧めたが、彼らはそうしなかった」という。

 トゥーロン大学のマリー・ゲイト=ルブラン准教授(アメリカ文明学)は「これは、トランプがカトリック信者に対して行った、より広範なジェスチャーのパターンの一部です」と言う。 昨年の大統領選挙期間中、トランプは、米国人の約20%を占め、伝統的に主に民主党候補に投票してきたアメリカのカトリック教徒を何度も口説いた。「トランプは、『カトリック教徒が、(米国では)最も迫害されてきたキリスト教徒であり、特に、バンス氏を歴史上最も”反カトリック “だ、と批判したバイデン政権によって、迫害された』と主張していた』と説明。

 さらに、選挙中、トランプは、「大天使聖ミカエルへの祈りをソーシャルメディアに投稿し、いくつかの集会では万歳三唱を流した。 長老派プロテスタントの家庭で育ったトランプは、2020年以降、自らを『超教派のクリスチャン』と表現しているが、これは米国では福音派とほぼ同義だ」と述べている。そして、この戦略が功を奏し、大統領選ではカトリックの白人有権者がトランプを支持し、ラテン系カトリック信者の民主党票を大きく減らした、という。

 

*カトリック信徒の閣僚たちに”囲まれ”ているが、司教団は「移民問題」でトランプ批判

 しかし、トランプ政権2期目の幕開けは、特に同政権の非常に厳しい移民政策をめぐり、トランプ政権と米国カトリック司教団との間に公然たる危機が生じた。 2月18日、米国カトリック司教協議会(USCCB)は、米国政府との長年の協力案件である移民支援プログラムへの資金提供が突然停止されたことについて、トランプ政権を強く批判した。

 司教団の大多数が保守的で、特に家族政策と人工中絶問題ではトランプ大統領と同意見でありながら、移民政策では反対の立場をとったことから、微妙な立場だ。

 トランプ政権では、カトリック教徒の割合が非常に高い。副大統領、入国管理局長、労働長官、運輸長官、国務長官、教育長官、CIA長官などなど、「トランプはカトリック教徒に囲まれている』と言ってもいいのだが。

 自身がプロテスタントであるにもかかわらず、四旬節、さらには「灰の水曜日」を重視するのも、そのためだ。トランプを支持する福音派では、四旬節は「社会的慣習」として守られるものではなく、各自が自分の信念に従って、イースターの準備期間として自由に過ごすものだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2025年3月8日

(評論)トランプ政権下での道徳的・政治的混乱、米国のカトリック教会はどうするのか?(La Croix)

(2025.3.5 La Croix   J.P. Grayland)J. P. Grayland, a priest of the Catholic Diocese of Palmerston North (New Zealand), currently visit

 米国がトランプ新政権下で道徳的・政治的混乱に直面する中で、カトリック教会の対応はますます厳しく精査されるようになっている。

 教会の指導者たちはキリストの価値観を擁護しているのか、それとも分裂した社会を反映しているだけなのか?仮に米政府と国民の道徳的崩壊を目撃しているのだとしたら、カトリック教会は一体全体どうなっているのか?全米司教協議会が米国そのものと同様に深刻な分裂状態にあることは以前から知られていたが、政府と同様に機能不全に陥っているのだろうか?

 新保守主義者の宗教的アジェンダは数十年にわたって拡大し続け、MAGA(アメリカを再び偉大に)運動と同様に、「イエスは白人であり、中流階級で、英語を話し、マクドナルドを食べていた」という幻想に基づいている。

 カトリック教会と司教協議会における新保守主義者の状態は、共和党と民主党の政治的分裂を反映しているように見える。同様に、右派の道徳的破綻と左派の道徳的憤理(いきどおり)も反映している。

 一方、米国の貧困層は、医療、住宅、教育への適切なアクセスを欠いている。同様に、トランプ政権による対外援助予算の大幅削減が米国国際開発庁(USAID)に影響を及ぼしたことで、この支援に頼っていた多くの人々が路頭に迷うことになった。

*どの司祭がバンス氏にカトリックの教えを伝え、洗礼を授けたのか?

 

 教皇フランシスコが、トランプ政権の バンス米副大統領の「キリスト教の愛」への誤解を正そうとする書簡を発表したのは、時宜を得たものだった。このことは、ラテンアメリカ出身の世界の指導者の一人が、米国とその権力行使を恐れていないことを示している。また、洗礼を受けた兄弟の神学が誤っており、キリスト教の基本的な教義に対する理解のためにさらなる教理教育を必要としている場合には、それを正す用意があることも示している。

 ここで疑問が生じる。バンス氏をカトリック教会に入らせたのは誰なのか、そして、自分がキリスト教徒であることとキリスト教徒になることの違いを学ぶように彼を導くべきなのは誰なのか?

 教皇フランシスコの書簡は、政治の世界で、「キリスト教徒」であることと「カトリック教徒」であることの名目と実践の狭間で苦悩するルビオ米国務長官(もともとカトリック教徒だったルビオ家は、ラスベガス在住時に末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)の教会に通い、その洗礼を受けたが、1984年に家族全員が再びカトリックに戻っている)にとっても、生きた教訓となるだろう。真実を認め、それを公に認める勇気を持つ、という地雷原を歩むような交渉をする中で。おそらく、彼の魂を救うためには、彼が辞任する時が来たのかもしれない。

 

 

*バンス、ルビオ両氏とも、キリストの価値観を支持しないならいつでも教会から去れる

 

 カトリック教徒であるバンスとルビオは、政党や個人的な思惑よりも、世界的な舞台でより大きな存在感を放っている。彼らは、国内の有権者や国際社会に対して、米国のカトリック教徒を『代表」しているのだ。キリスト教徒として、またカトリック教徒として、等しく語る必要がある。イエスの価値観を伝え、神の聖霊の賜物と実りを生きるのだ。そうでなければ、彼らの意思決定、声明、真理の理解を導く優先事項を公に宣言すべきである。

 もしこの2人がキリストの価値観を支持したくないのであれば、神の「口から吐き出される」ことを避けるために洗礼の誓いを守る能力も意思もないのであれば、正式な手続きによって教会を去ることもできる。あるいは、5日から始まった四旬節の間に悔い改め、確固たる信念を持って、これまでの生き方とは異なる生き方を誓うこともできる。

*米国のカトリック司教団は歴史の正しい側に立てるのか?

 

 同様に、米国のカトリック司教団も、今、展開しているドラマにおける自分たちの立場を考え、ドラマが終わった時に、司教団として、また個人として「歴史の正しい側」に立つために何が必要か、を考える必要がある。

 私が彼らに対して抱いている懸念は、20世紀にチリ、スペイン、イタリア、クロアチア、ハンガリー、ドイツ、ロシアのファシスト政権に加担したカトリックの高位聖職者たちと同様に、彼らもまた「行動が遅すぎた」「行動があまりにも不十分だった」「共犯者だった」などと非難されるのではないか、ということだ。非難されたのは、自己の利益と経済的な安定を守るために行動したからだった。

 米国の司教たちは、展開するドラマにおける自分たちの立場を考慮し、この出来事が終わった後、会議や個人として『歴史の正しい側』と見なされるために何が必要かを考える必要がある。」

 右派ファシズムへのバンスの支持は、先月開かれたミュンヘン安全保障会議での演説や、ドイツの極右政党の政治指導者との会談(この政党は、ドイツ国籍を持つ者も含め、非ドイツ系住民の国外追放を望んでいる)から見て、疑いの余地はない。

 バンスの霊的指導者であり司教である人物は、今どこにいるのだろうか? 司教たちは、女性の選択の権利に関する立場についてバイデン大統領を厳しく追及したように、なぜバンスを厳しく追及しないのだろうか? ダブルスタンダード(相手によって価値判断や基準を変えるご都合主義)ではないか?

 右派カトリック信者によるトランプ米大統領の神格化について、私たちは「新しい使徒的刷新」の浸透を目にしている。この運動は、神(ユダヤ・キリスト教の神であり、イスラム教やヒンドゥー教の神ではない)がこの人物を、世界に救いをもたらす預言者として選んだと主張している。この見解によると、トランプ氏は新しい救世主であり、バンス氏とルビオ氏は、リンゼイ・グラハム上院議員らとともに、その”使徒”だ。

 「新しい使徒的刷新」では、トランプ大統領に反対する者は米国政府と「アメリカ国民」に反対していることになる、としている。カナダ人、メキシコ人、コロンビア人などは、彼らは含まれない。

 トランプ氏を取り巻く神聖な使命を、就任式のようなグロテスクなキリスト教の表現によって正当化することは偶像崇拝である。司教、神学者、どこにいるのか?

 分裂した米国カトリック教会は、その政治的責任に直面しなければならない。ミサに集まり、聖体拝領を受ける前に、司教も司祭も含めて信者たちは自らの良心を究明しなければならない。「飢えた人から食べ物を奪い、ホームレスを路上に追いやり、未亡人や子供、孤児から経済的支援を奪った場合、私はどのような権利で聖体拝領を受けるのか?」「もしあなたがこれらすべてを行ったのであれば、主の体と血を受けるにふさわしいのか、それとも、自らの非難を飲み食いしているのか?」と。

 

 

*分裂した米国のカトリック教会は、その責任と向き合わねばならない

 

 「当時はそれでよかったが、今は違う」「私たちは自国を守らなければならない」「彼らはただ乗りしている」というような反抗的な意見を耳にする時、イエスが説教を説いたのは、マンハッタンのアッパー・ウェストサイドの快適なアパートや、ボンダイビーチのアイスクリームカフェではなかったことを思い出してほしい。

 イエスは、ローマ帝国の占領下にあったパレスチナで、キリスト教徒の倫理的な生き方の道徳的基盤を説いた。そこは、権威主義的な軍事大国が自由を弾圧し、宗教指導者を操っていた場所だった。これらの指導者たちは、エジプトで苦難を経験し、真の預言者に導かれて約束の地に導かれた先祖の伝統を守ることよりも、敬虔さを外見で示すことのほうに関心があった。

 過激化した「キリスト教徒」は、一般的に「イエスを物語から排除した、偽りのキリスト教」を説いている。このような敵対的な文化の中で、山上の垂訓を説き、実践することは危険を伴う。しかし、洗礼の水を受ける時、私たちは皆、その危険を承知の上でそうするのだ。

(J. P. Graylandは、ヴュルツブルク大学(ドイツ)の典礼学部の講師である。パーマストン・ノース(ニュージーランド)のカトリック教区の司祭であり、最新の著書に『カトリック教徒。世俗的文脈における祈り、信仰、多様性』(Te Hepara Pai, 2020)がある

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二=聖書の邦訳は「聖書協会・共同訳」による)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
LA CROIX international is the premier online Catholic daily providing unique quality content about topics that matter in the world such as politics, society, religion, culture, education and ethics. for post-Vatican II Catholics and those who are passionate about how the living Christian tradition engages, shapes and makes sense of the burning issues of the day in our rapidly changing world. Inspired by the reforming vision of the Second Vatican Council, LCI offers news, commentary and analysis on the Church in the World and the world of the Church. LA CROIX is Europe’s pre-eminent Catholic daily providing quality journalism on world events, politics, science, culture, technology, economy and much more. La CROIX which first appeared as a daily newspaper in 1883 is a highly respected and world leading, independent Catholic daily.
2025年3月6日

・「第二次大戦終結と国連創設80周年、持続的な世界と平和の実現は、我々全員の努力にかかっている」世界主要の研究機関代表と政治指導者が「東京会議宣言」

(2025.3.5 カトリック・あい)

 世界の主要国の研究機関や国際機関、政府の代表30人が参加する、「東京会議}(言論NPO主催、読売新聞後援)が4日、2日間の議論を踏まえ、現在の世界の危機とそれに立ち向かう方策を盛り込んだ「東京会議宣言」を発表した。

言論NPOが発表した宣言の全文は以下の通り。

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  私たちは3⽉3⽇からの2⽇間、「東京会議2025」を開催した。東京での今年の議論に参加したのは、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、⽇本のG7の国にインド、インドネシア、ブラジルを加えた世界10カ国のシンクタンク代表に、国連や国際機関の関係者、世界各国の要⼈を併せた30名である。
今年、世界は第⼆次世界⼤戦の終結と国連創設の80周年を迎えている。だが、この歴史の節⽬の年、私たちの「東京会議」に突き付けられた課題はこの会議が8年前に始まって以来、最も重く深刻なものである。
2年前、私たちは現在の世界の「本当の危機」は、世界の困難に世界が⼒を合わせていないことだとし、今がまさに世界の対⽴をこれ以上悪化させず、世界の課題で多くの国が⼒を合わせる、その局⾯だと訴えた。
この会議が、「国際協調」の旗を⼀貫として⾼く掲げるのは、世界は⼒を合わせることでしか、持続的な世界の未来を描けないからである。国連は昨年9⽉の「未来サミット」で未来に向けた協定を加盟国間で合意している。安保理改⾰も含めたグローバルガバナンスの⽴て直しを国連が提起したのは、国連の80周年に国際社会の⾏動を期待したためである。

 ところが、今年、世界で始まったのは改⾰ではなく、むしろ逆の動きである。世界では、多国間主義や国連など国際組織の価値を認めない⼤国が、⾃国利益を優先する⽴場から⾏動し、守るべき⺠主主義の価値を巡り、戦後の世界を主導した⽶国と欧州の間で対⽴も始まっている。

 私たちは課題解決に向けた⼤国のイニシアチブと役割を否定するものではない。しかし、仮にその解決が⼤国の取引だけに委ねられるとしたら、国際社会の今後のあり⽅を変えてしまいかねない。それが私たちの懸念なのである。戦後、私たちが⽬指したのは「多国間主義」や国際紛争の解決に不可⽋な「法の⽀配」に基づく世界である。それをこれからも貫けるのか、それこそが、今年、私たちが取り組んだアジェンダなのである。

 この⼆⽇間の議論で私たちはこの課題を様々な⾓度から議論した。確認したことは⼆つである。

 第⼀は、歴史の逆⾏は認めるわけにはいかない、ということである。戦後の世界の仕組みは、1930年代の世界経済の分断と、あの⼤戦への多くの犠牲の上に築き上げたものだが、戦争の解決に対して国連は機能不全であり、戦後経済を⽀えた⾃由で開放的な経済も今では存在しない。この80年、急速に変化する世界が求める改⾰を国際社会が考えないこと⾃体が異例なのである。

 第⼆に、今ほど、「法の⽀配」や「多国間主義」を守り抜くために世界の「結束」が必要な時はない、ということである。⽇本の岸⽥前⾸相もこの会議で提起したが、G7が結束するだけでは多国間主義を守ることは難しい。その輪は、グローバル・サウスも含む新興国や発展途上国にも広げられなければならない。

 世界にはG7に対するBRICSの競争が存在する。双⽅に分かれて参加する私たち10カ国のシンクタンクが、多国間主義を守るためこの対話の場に集まるのはその先駆けである。世界の危機に世界はこれまで以上に⼒を合わせるべきであり、対⽴は乗り越えるべきである。こうした問題意識から、私たちは以下の4点の⾏動に焦点をあてた。

 まず、第⼀に国連が有効に機能していない現実を受け⽌めることから⾏動を始めるべきだ、ということである。私たちが会議前、この⽇本の専⾨家やこの会議の参加者に対するアンケートでも、国連はすでに機能せず、国連を軸とした「多国間主義」に基づく世界が壊れ始めていると回答する⼈は8割を超えている。
国連の⾏動で世界が動かないのは、⼤国が対⽴する国際政治の現実のパワーゲームによるものだけではない。世界を構成する主要国が、世界の持続的な発展と平和の役割を主導してこなかったからである。私たちは戦後の⾃由世界を⽀えた⽶国にその役割をこれからも期待するものだが、それだけに頼る世界は不安定である。主要国が未来のために主体的に協調できるプラットフォームは国連においても、また、その外においても国際社会の国々が再建しなくてはならず、少なくてもこの会議に集まる10カ国の⺠主主義国は、そのための責任を共有すべきである。

 次に考えたいことは、世界の課題に取り組む多くの国際機関の献⾝的な努⼒を尊重し、機能させることは我々の務めだということである。世界経済は成⻑しなければ、世界の課題に応えられず、投⼊できる資源が有限だということは理解すべきだが、⾃国利益だけを優先する世界がどれだけ危険かは、世界の歴史が教えていることである。私たちが守るべき世界の秩序は、法の⽀配の貫徹と⼈間の尊厳であり、多くの優先された課題に世界が⼒を合わせることである。国際組織のガバナンスは、この⽬的に専⾨的に集中できるように再定義すべきである。

ウクライナの戦争はすでに莫⼤な損失を重ねている。ウクライナの終戦はなんとしても実現すべきだが、問題はその終わらせ⽅にある。この交渉が侵略した側の意⾒に同調するだけで、ウクライナ⾃⾝やヨーロッパの不安に応えないなら、地域の持続的な和平は期待できない。この侵略戦争の今後には世界が関わるべきであり、国連や国際社会の関与を排除すべきではない。これはガザにおける恒久的な停戦と戦後処理も同様である。国際社会はガザの和平プロセスに関与すべきであり、双⽅がガザの将来を決定づける発⾔権を持つべきである。

最後に考えたいのは、「世論」と「輿論」は違うということである。これは、⽇本語の考え⽅だが、SNS空間を活⽤した事実を装ったフェイクなニュースがあふれる中で、この⼆つの国⺠の声に対する考えは、この会議でも共通した理解になっている。世論は、国⺠の感情的な思いに⽀えられる声だが、輿論は、課題解決の意志を持つ声である。国⺠の声はどちらも⼤切だが、この輿論の役割こそ世界の危機の局⾯で⼤事だと考える。

 世界の動向を正しく理解し、その解決を⾃分の問題として考え、それを話し合うことによって、課題解決の意志を持つ声がより強いものとなる。こうした「輿論」の可能性を、この会場はもちろん、世界の多くの⼈と共有することが「東京会議」の役割である。あの⼤戦と国連が創設され80周年、持続的な世界と平和を実現できるかは、われわれ、みんなの努⼒にかかっている。

2025年3月4日 東京会議

 

2025年3月5日

(評論)カトリック教会の”中枢”はジェメッリ病院10階の教皇個室に?(Crux)

 この2週間のカトリック教会の中枢は、もはやバチカン市国の使徒宮殿ではなく、ローマのジェメッリ病院10階の教皇個室にあった。

 教皇は就任当初から、予測不可能で衝動的という評判を得ており、側近や高官を困惑させている。長年にわたる多くのオブザーバーや協力者たちは、このようなスタイルは、たまたまではなく、一人で采配を振るい、他の誰にも屈服したり支配されたりしていないことを明確にする戦略だ、としている。

 要するに、これまでなされ、これからもなされ続けるであろう決定すべてが、フランシスコ自身から直接下されるものであり、フランシスコが何を考えているのか、あるいは次の一手が何なのかを知る 立場にある人物は、いたとしてもごくわずかなのだ。

 このようななさり方は、変性疾患で不自由になり、統治ができなくなったヨハネ・パウロ2世のような過去の教皇職で見られたシナリオを防ぐために考案されたものだ。ヨハネ・パウロ2世の協力者には、長年にわたり職権乱用と汚職の疑惑を取り仕切った国務長官アンジェロ・ソダーノ枢機卿や、個人秘書のスタニスワフ・ジヴィシュ大司教(後に枢機卿)らがいた。ベネディクト16世の場合、辞任前にはバチカンの運営を制御し続けるにはあまりに体が弱くなり、側近、特に国務長官のタルチシオ・ベルトーネ枢機卿に肩入れしていた、と観測筋は語っている。

 教皇フランシスコの場合、当初から彼がすべての重要事項の判断はご自身が行っており、ジェメッリ病院の病床からでさえ、そうされているのだ。バチカン内部ではなく、イタリア政府を通じて、教皇が統治を続けていることを示す明確な例がある。2月19日、入院して1週間近くの教皇は、ジェメッリ病院を個人的に訪問したイタリアのメローニ首相と面会された。首相は、その後の演説で、政府とイタリア国民を代表して、フランシスコの一日も早い回復を祈った。「いつものように冗談を言い合いました。 彼はユーモアのセンスを失っていません」と彼女は語り、記者団に、「教皇は『自分の死を祈っている人々がいる』と冗談を言われる一方で、『主は私をここに残すことを考えておられます』と話されました」と述べていた。

 情報筋によると、通常なら首相の面会を手配するはずのバチカンの担当部局は意図的に無視された。長期入院というデリケートな時期に、政府首脳が教皇に面会を強要するのは、ご本人が面会が望まれているという明確なサインがない限り、ありえることではなく、教皇ご自身が面会を働きかけた、と見方が強い。

 教皇はまた、入院中も重要な人事案件を処理し、重要な書類に署名し続けておられる。バチカンは、入院翌日の2月15日、教皇がシスター、ラファエラ・ペトリーニを3月1日付でバチカン市国総督府長官に任命した、と発表した。教皇が病院から正式に任命されたことれがいかに優先された人事か示すものだった。そして数日後の18日、教皇は、ケベック大司教区に対する被害者集団訴訟の一環として提出された性犯罪者リストに名前が含まれていたベイ・コモー教区のジャン=ピエール・ブレイズ司教のを受理しておられる。

 教皇は、2月22日に呼吸器系の危機で危篤状態に陥った後も、最側近のアドバイザーたちと定期的に会合を持ち、仕事を続けてきた。その危機の後、彼の訪問はより制限されているが、バチカンの財政を一掃し、大赤字を処理する戦いにおけるさらなる動きを含め、彼の承認を必要とする予定や決定は、ほぼ毎日、発表されている。

 バチカンは2月25日、教皇が、聖人への道を歩む複数の人物の列聖を進め、ベネズエラ人信徒福者ジュゼッペ・グレゴリオ・エルナンデス・シスネロスとイタリア人信徒福者バルトロ・ロンゴの列聖日を決定するための聖職者会議を承認した、と発表した。ただし異例なことだが、聖職者会議の日程は発表されなかった。

 国務長官のパロリン枢機卿と、総務局長のパーラ大司教との病院での会見では、日付のない聖体礼儀の開催そのものが承認された。 パロリン枢機卿とパーラ大司教によって承認手続きが行われたことと、聖体礼儀の日程が決まっていないことが相まって、前任の教皇ベネディクト16世が2013年2月11日に行われた列聖日決定のための聖体礼儀で自らの教皇職からの辞任を表明したように、教皇フランシスコも、その場で辞任を表明するのではないか、との憶測が飛び交った。

 教皇がカトリック教会を十分に統治できず、意思決定プロセスを制御できないと感じた場合、辞任されるのではないかという憶測は、以前からあった。フランシスコは、教皇就任当初、500年以上ぶりに辞任したベネディクト16世は「勇気ある」教皇であり、高齢化する教皇に新たな扉を開いた、と語っておられる。最近では、「辞任は考えていないし、するつもりもない」と強調しされていた。

 教皇が今の危機を乗り越えられたとしても、職務を続ける体力、統治能力に疑問があるのは確かだが、最も重要なことは、この決断そのものではなく、即位から12年経った今でも、教皇フランシスコの心境や最終的にどう決断されるのか、誰も断定的なことは言えない、ということだ。

 その意味で、病気にもかかわらず、フランシスコはフランシスコであり続けておられる。これまでで最も深刻な健康危機にもかかわらず、教皇フランシスコは決断を下すのは自分ひとりであることをはっきりと示され、側近たちをも困惑させ続けている。

 それゆえ、教皇の現在のジェメッリ病院滞在は、単に健康を回復するためだけではなく、ご自身の破天荒で “我が道を行く “スタイルを確固としたものにし、誰が糸を引いているのかについて誰もが混乱しないようにすることなのだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2025年3月2日

・ロシアのウクライナ侵攻3年ー容認はトランプ米大統領の巨大な道徳的失敗(Bitter Winter)

 (写真右:トランプ第一次政権時代のG-20サミットでのトランプとプーチン。似たような場面がまた見られる?)

 トランプ米大統領は、善と悪の概念を逆転させ、人権、信教の自由、民主主義に壊滅的な打撃を与えた。古いG-20サミットでのトランプとプーチン(クレジット)。似たような画像がまた見られるのでしょうか?

 Bitter Winterは、フェイクニュースを一つも公開したことがないことを誇りに思っている。私たちの意見の一部に同意しないだろう読者でさえ、それを認めている。

 時折、中華人民共和国やロシア連邦などの”ならず者国家”やその同盟国、あるいはプロの「カルト」ハンターからの声から「嘘をついている」と非難されることがある。いくつかのケースでは、彼らは、本質的に同じコインの裏表だ。その批判は、ジャーナリストが「二度与えられるニュース」と呼ぶものだ。

 ならず者国家、彼らの手下、プロの「カルト」ハンターは欺瞞の達人であり、連続した嘘の生産者であるため、彼らがBitter Winterを「嘘」と言うとき、賢明な読者はBitter Winterが事実と評価の両方で完全に正確であることを意味すると受け取るかもしれない。嘘つきがあなたに嘘をつくなら、それはあなたが真実を言っていることを意味するのだ。

 Bitter Winterは、ジャーナリズムやそれ以外の分野でよく見られる、境界を越え、宗教、信念、思想信条の自由と人権を守る、という中核的な使命を放棄することなく、アドリブによる政治評論を支持する誘惑に常に抵抗してきたことを誇りに思っている。

 私たちは、政治についてコメントしたり、特定の政党、人物、政治的側面を支持したりするように見えるときはいつでも、それが純粋に見かけの問題であることを明確にしてきた。私たちの焦点はもっぱら宗教、信念、思想信条の自由と人権を守ることに向けられており、政治的な議論に参加するのは、政治、イデオロギー、イデオクラシーが、その性質に関係なく、これらの本質的な自由を損なう場に限られる。

・・・・・

 2022年2月24日に始まったロシアのウクライナへの血なまぐさい侵攻から3年を迎えるにあたり、ロシアの致命的な侵略が人権に与えた深刻な犠牲、そしてBitter Winterが冒頭から記録してきたように、信教の自由に対する深刻な犠牲を読者に思い起してもらうことが重要だ。

 トランプ米大統領による、ロシアがウクライナに関して行った事実の露骨な歪曲に直面して、私たちは、特にそのような発言が基本的人権と宗教、信念、思想信条の自由に対する一般的な理解と尊重に深く影響を与えることを懸念し、黙っていることはできない。

 Bitter Winterを読んだ人は、署名者の他の著作は言うまでもなく、私たちと私が、憲法の歴史と、米国の一般的な自由、特に宗教や信仰の自由に対する伝統的なコミットメントを深く賞賛していることを知っている。そればかりか、私たちが過去に、ロシア、中国、そして”反カルト”批評家連中から、偏見的に親米的だと非難され(冷戦以来、ロシアと中国に対するあらゆる批判者に対する古典的で安易な非難だが)”CIAの給料をもらっているとさえ非難されてきたことも。私たちが反米的だ、と非難される理由はない。間違いや道徳的な失敗に対してお互いを諭すことは友人の義務の一部のはずだが、残念ながら誰も免疫がないようだ。

 2025年2月18日、フロリダ州マー・ア・ラーゴの私邸で行われたトランプ大統領の記者会見で、さまざまな問題に関する一連の大統領令に署名した後、トランプ大統領は、侵攻を通じて開始したのはロシアだという明確な事実にもかかわらず、「ウクライナが戦争を始めた」と主張した。翌19日には、ウクライナのゼレンスキー大統領が「(トランプは)ロシアが作り出した偽情報のバブルの中で生きている」と述べたのに反論し、ソーシャルメディアを通じて、「ウクライナには民主主義が欠けている」と非難し、ゼレンスキー大統領を「選挙のない独裁者」と呼んだ。

彼が考えを変える前に。そして、2019年にはトランプ大統領とゼレンスキー大統領。クレジット。

 これらは、善と悪の境界線を曖昧にする、馬鹿げた、根拠のない、悪意のある発言だ。さらに悪いことに、彼は本能的に「何が正しくて、何が間違っているのか」を区別できない、あるいはそうする気がないようだ。真実よりも詭弁と虚偽に頼っている。子供でさえ、トランプの主張に容易に反論することができるのに、世界で最も強力な国の指導者がそのような虚偽を広めているという事実は、その道徳的能力に深刻な疑問を投げかけている。

(左:このような場面が再び見られても・・その心の内は)

 ロシアのウクライナ侵略で引き起こされた危機におけるトランプ大統領の役割は、彼が世界の支配者であるからではなく、彼が指示する政策が世界的に大きな影響力を持っているために重要なのだ。

 2月19日、大統領はフロリダ州マイアミビーチで開催されたFuture Investment Initiative Institute Priority Summitでの演説で、ゼレンスキー氏を「控えめに成功したコメディアン」と揶揄し、この発言はカメラに収められ、後に彼のTruthソーシャルアカウントを通じて繰り返された。

 トランプは、自身の映画「ホーム・アローン2:ロスト・イン・ニューヨーク」やテレビ・ショー「アプレンティス」への出演でアカデミー賞を受賞しなかったことを忘れているようだが、彼の発言の背後にある意図は明らかだ。それは、ゼレンスキー大統領の信頼性を損ね、ウクライナ国民の士気をくじくことだ。

 この茶番劇は、低品質のテレビチャンネルで見られる最悪のB級映画の恐怖に似た、気晴らしに過ぎない。本当の問題は、ロシアが主権国家を侵略した国だと認めることを拒否し、プーチン大統領が意のままに民間人を殺害し、何千人もの人々を拷問し、何百万人もの難民を生み出し、インフラや都市を破壊し、核兵器を使用すると脅していることを何とも思わない、という、とてつもない道徳的失敗をトランプが犯していることだ。

 ロシアが、いわれなき戦争を正当化するために、ウクライナ人を「ナチスや悪魔崇拝者」とし、一部のロシアの宗教的最高指導者(その多くがプロの「カルト」ハンターとつながりがある)に支持されていることは、巨大な道徳的崩壊を露呈しているのに、である。

 

 

*自由、透明性、民主主義は常に守られるべきだ

 

 確かに、戦争状態にある国、この場合は超大国に侵略された国が、例外的な危機に対処するために、特定の政治的自由や言論の自由の側面を一時的に制限する必要がある(あるいは、そうせざるを得ない)ケースがあることを認識しないことも、とてつもない道徳的失敗だ。

 戦争、侵略、大量死、破壊の時代に戒厳令を発令し、選挙を延期することは、独裁制ではなく、時には必要なことでもある。トランプ大統領が好む飲み物と言われているダイエットコーラを、マー・ア・ラーゴの大切な友人たちと気軽に飲むのは、爆撃されたマリウポリの廃墟できれいな水を必死に探すのとは違う。これを理解しないことは、とてつもない道徳的失敗だ。

 ゼレンスキーは2019年4月21日にウクライナの大統領に選出された。彼を最初に祝福したのはトランプ大統領だ。元軍人でKGB幹部のウラジーミル・プーチンは、1999年から2000年まで首相として、2000年から2008年まで大統領として、2008年から2012年まで再び首相として、そして2012年から現在まで再び大統領としてロシアを統治してきた。彼は憲法の条文を2回変更し、2012年に大統領の任期を6年に延長し、2021年に再び大統領の任期を延長したことで、ソビエト連邦の崩壊以来、ロシアで最も長くトップに居続ける指導者として、84歳になる2036年まで大統領の座にとどまることを可能にした。ウクライナは「民主的な独裁者」が統治する国家なのか、それともロシアなのか?この単純な質問に答えないことは、とてつもない道徳的失敗だ。

 

 トランプ政権がウクライナの領土保全を再確認し、ロシアのウクライナ領土からの撤退を要求するG7宣言草案と国連決議の共同提案を拒否することは、とてつもない道徳的失敗だ。

 中華人民共和国は、自国と友好関係にある北朝鮮の軍隊も参加したロシアのウクライナ侵略を一貫して支持し、恥ずかしげもなく、和平交渉の「中立」当事者として自らを申し出てきた。宗教、信念、思想信条の自由と人権を侵害する国として名高い中国が、現在のウクライナにおけるロシアの恥ずべき行為を利用するのを赦すのは、大きな道徳的失敗である。

 もちろん、人間の行動は、決して白か黒かで簡単に区別できるものではない。さまざまな色のニュアンスが込められていることが多いのだが、何事にも黒白をはっきりさせようとし、善を守ることを拒否することは、とてつもない道徳的失敗。そして詐欺だ。

国際ジャーナリスト連盟(IFJ)会員、作家、翻訳家、講師。 イタリア国内外を問わず、紙媒体、オンラインを問わず、複数の雑誌などに寄稿している。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの了解を得て記事を転載します。

2025年2月28日

・長い苦しみの末に無罪を勝ち取った袴田氏に、教皇フランシスコが祝福されたロザリオが贈られた

(2025.2.26 Crux  Contoributer  Nirmala Carvalho, Munbai)

 袴田氏は、1966年に大豆ペーストメーカーの上司とその妻と2人の子供を殺害した大量殺人で有罪判決を受け、1968年3月に死刑判決を受けた。当初から無実を主張し、最初の自白は強要されたものであり、その事件は仕組まれた証拠に基づいていると主張。死刑囚監房で48年間過ごした後、新たなDNA鑑定により2014年に釈放された。10年後の再審で、警察が最初の有罪判決の時点で彼に不利な証拠を捏造していたことが判明し、袴田氏を無罪としたが、検察が控訴を拒否したことで、この判決は決定的なものとなった。

 菊地大司教は「袴田さんは、半世紀にわたる長期監禁と日常的な処刑の恐怖から、心理的に悪影響を受けています」と長期の収監中に受けていたストレスを強調。日本の司法制度では、法務大臣はいつでも死刑執行命令に署名することができ、死刑執行の朝になって本人に伝えられることになっており、いつ「その日」が来るか、怯え続けねばならない。

 大司教は、昨年10月の世界代表司教会議の総会に出席した機会に、教皇に袴田氏の無罪確定を伝え、教皇は彼の苦しみに対する同情と祝福の手紙とともに、祝福されたロザリオを、バチカンのパロリン国務長官経由で日本に送られていた。そして22日、菊地大司教が直接、本人に持参した。

 大司教は「私は個人的に、袴田さんと、妹の秀子さんが正義を貫いたこと尊敬しています。そして、無実が証明され、正義が行われたことを神に心から感謝します… しかし、袴田さんは多くのものを失いました。現在88歳の彼が失ったもの、彼の人生のほぼ50年分は非常に大きい。私たちは、正義が行われることを引き続き呼びかけ、国の公的な司法制度に関与する人々に対して聖霊の導きを願います。そうすれば、彼らは人々の利益のために適切な正義を行うることができる」と語り、また、「私たちは死刑の廃止を求め続け、拘留されている人々への支援を続けていきます… すべての生命は神の創造物であり、尊厳を持った神からの貴重な贈り物。最初から最後まで例外なく守られねばなりません」と述べた。

2025年2月27日

・「これ以上の悲しみは望まない、平和の名のもとに兄弟となりたい」ー教皇の抱擁の祝福を受けたイスラエルとパレスチナの平和活動家が語った

Pope Francis with Maoz Inon and Aziz Abu Sarah at the "Arena of Peace" event in Verona

Pope Francis with Maoz Inon and Aziz Abu Sarah at the “Arena of Peace” event in Verona  (VATICAN MEDIA Divisione Foto)

 

2025年2月27日

・米司教協議会が、難民援助停止のトランプ政権を憲法違反などで提訴、シカゴ大司教は「USAID凍結は何億の人々を危険にさらす」と批判

Archive photo of Cardinal Blase J. CupichArchive photo of Cardinal Blase J. Cupich  (2024 Getty Images)

2025年2月20日

・米大統領の海外援助打ち切りに世界の人道支援団体衝撃、イエズス会の援助機関も

JRS project in South SudanJRS project in South Sudan  (JRS)

*広がる人道危機

 

米政府の援助打ち切りで、米国の拠出金に頼っているUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やその他の米政府と連携して活動していた組織を含む、より広範な人道支援ネットワークが資金凍結の危機にさらされている。米国は世界の開発援助総額の40%以上を提供しているため、その影響はJRSだけに留まらない。

Br.シュプーフは「これはまだ第一波に過ぎない。他の人道支援組織が米政府の援助打ち切りに対する対応策を決定すれば、混乱の第二波が起こるだろう。世界の人道支援ネットワーク全体が苦境に立たされる。そして、難民の子供たちは教育を受けられなくなるだけでなく、前述の通り、学校が提供する安全と安定も失うことになる。また、多くの子供たちは学校で食事を受け取っているため、援助打ち切りは、即座に、救命を必要とする人道上の危機を引き起こすだろう」と警告。

このシナリオは、「人命救助」の意味そのものを議論に付すことにもなる。米政府は「人命救助」活動に関する一定の免除を想定しているため、プロジェクトの資金が精査されることになるだろうが、「では、人命救助とは何だろうか? もし飲み物や食べ物があれば、それで人命救助は終わりなのだろうか? ”死ななければいい”ということか?これは今まさに議論すべき重要な問題だと考えている」とBr.シュプーフは述べた。

*多国間主義の終焉?

 

Br.シュプーフはさらに、「米政府のこのような動きは、単に資金援助の削減にとどまらず、世界秩序のより深い変化をの前兆となり得る」とも指摘。

「もし多国間主義と価値に基づく世界秩序に別れを告げれば、それに代わるものは存在しない。これは新たな世界秩序への出発なのだ。教皇 フランシスコは、このような変化に対して繰り返し警告を発してきた。 米国の司教たちに宛てた最近の書簡でも、『人間の尊厳の真実を認識しない力によって始められたものはすべて、まずい形で始まり、最悪の形で終わるだろう』と警告されている」と強調した。

*「それでも可能な限り援助を続ける」

 

だが、現実がどうであれ、JRSは難民を支援し、可能な限り援助を提供することに引き続き努力する考えだ。「私たちは単なるサービス提供者ではなく、難民と共に歩む組織だ。危機的状況においては、私たちは避難を余儀なくされた人々と揺るぎない連帯を保つ。私たちにとって重要なのは、彼らと共にこの脆弱な事態を受け入れることなのだ。キリスト誕生の物語は、神が意図的に人間となることを選び、最も不安定な状況にある彼らと同一化することを伝えている。これが私たちに求められていることなのだ」とBr.シュプーフと述べた。

*緊急募金の呼びかけ

 

JRSは、今後2ヶ月間の緊急資金不足を埋めるために、150万ドルから200万ドルの寄付金を集めることを目指し、緊急募金(Jesuit Refugee Service (JRS) – Accompany, Serve, Advocate)を始めた。ただし、金銭的な寄付以上に重要なのは、世界的な政策において人間の尊厳の保護を擁護するであり、「私たちは政治権力を持つ人々に訴えかけ、今日ある集団から尊厳を奪うことは、明日は私たち全員に同じことが起こり得るのだ、ということを、彼らに思い出させなければならない」ことも強調した。

 

 

*教皇フランシスコのリーダーシップ

 

また、Br.シュプーフは「JRSのような組織にとって、最も弱い立場にある人々に対する教皇フランシスコの揺るぎない支援と擁護がどれほど重要であるか」ということも強調。

「教皇は、精神性に深く根ざした方だ。政治家ではないが、現実主義者。福音について語る時、善きサマリア人の例について瞑想する時、そして米国の司教団への書簡で、あなたが目にしていることは、あなたが生きている世界で起きていることなのだ、と言われている。『信仰とは単なる道徳的教義ではなく、行動における信仰』なのだ」と語っている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2025年2月18日

・ミュンヘン安保会議で米副大統領が引用したヨハネ・パウロ2世の言葉は”我田引水”?(Crux)

(2025.2.15 Crux  Managing Editor  Charles Collins)

 世界各国首脳や閣僚が安全保障について意見を交わすミュンヘン安全保障会議に出席した米国のバンス副大統領が15日の演説を、故ヨハネ・パウロ2世教皇の言葉を引用して締めくくった。

 2019年にカトリックに改宗したバンス氏は1月20日に副大統領に就任して以来、トランプ大統領の物議を醸すことの多い政策の道徳性を強調する際に、自身の宗教について語ってきが、教皇フランシスコは、今週、「ordo amoris(ラテン語で「愛の秩序」の意)」の教義に関するバンス氏の解釈に異議を唱え、不法移民の国外追放を目指すトランプ政権の取り組みを非難している。

 15日の演説でバンス副大統領は、「ウクライナ政策からデジタル検閲まで、すべてが民主主義の防衛として正当化されている。しかし、欧州の裁判所が選挙を無効にしたり、高官が選挙の無効化をほのめかしたりしているのを見ると、我々は自分たち自身に適切な高い基準を課しているのかと問うべきだ」と述べ、「トランプ政権は欧州の安全保障に非常に懸念を抱いており、ロシアとウクライナの間で妥当な妥協点を見出すことができると信じている。また、今後数年間で欧州が自国の防衛を大幅に強化することが重要であると信じている。しかし、私が欧州に関して最も懸念している脅威は、ロシアでも中国でも、その他の外部勢力でもない」と批判。

 さらに、「私が懸念しているのは、内側からの脅威だ… 欧州が、最も基本的な米国と共有する価値観のいくつかから後退している」とし、具体的に、「2年余り前、英国政府は、51歳の理学療法士で退役軍人でもあるアダム・スミス・コナー氏を起訴した。中絶クリニックから50メートル離れた場所で、誰も邪魔せず、誰とも接触することなく、ただ黙って3分間祈っていたのがその理由だった」と非難した。

 そして演説の最後に、「民主主義を信じるということは、我々の市民一人一人が知恵を持ち、発言権を持っていることを理解することだ」としたうえで、「市民一人一人の声を聞こうとしないのなら、どんなに成功した戦いであっても、ほとんど何も得られないだろう。 私の考えでは、この大陸、あるいは他の大陸でも最も傑出した民主主義の擁護者の一人であるヨハネ・パウロ2世はかつてこう言われた―『恐れることはない』と。たとえ国民が指導者と異なる意見を表明したとしても、私たちは彼らを恐れてはならない」と締めくくった。

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 副大統領は自分のカトリック信仰について隠し立てをせず、彼を批判する人々は、「”新”カトリック教徒がしばしば、教会の教えを誤って伝えている」と不満を訴えている。この会議での演説で、彼がヨハネ・パウロ2世教皇の言葉を使ったことに対しては、強い反論があるかもしれない。

 ヨハネ・パウロ2世は、冷戦終結時にレーガン米大統領と協力してソ連邦を崩壊に至らせたことで有名だ。1981年、北大西洋条約機構(NATO)国防大学校の関係者に対し、ヨハネ・パウロ2世は「平和に対する最大の脅威は、核兵器の備蓄だけでなく、利己的な目的のために平和そのものの概念を操作することである」と述べている。

 さらに翌年、同大学関係者との会合で、パウロ6世の言葉を引用し、「弱さ(物理的な弱さだけでなく、道徳的な弱さも含む)を伴う平和、真の権利や公正な正義を放棄した平和、リスクや犠牲を回避した平和、臆病さや他者の横暴に対する服従を伴う平和、そして従属を甘受する平和。これらは真の平和ではありません。抑圧は、平和ではない。臆病は、平和ではない。恐怖によって強制された和解は、平和ではありません」と言明している。

 ロシアは2014年に初めてウクライナに侵攻し、2022年には全面侵略を開始した。ロシアの攻撃は残忍で、都市部の民間地域に対する無差別爆撃や、数千人の民間人の死をもたらしている。バンス副大統領が演説を行っている最中、トランプ政権は、ウクライナとロシアに戦争の終結について話し合いをする、と発表した。トランプ大統領は今週、ロシアのプーチン大統領、そしてウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行い、ロシアが現在ウクライナの国土の約20%を侵略・支配している中で、戦争を終結させるための「取引」をしたいと述べた。

 これに対し、米ロ主導でロシア側に有利な“終結”がなされることを懸念するゼレンスキー大統領は、バンス副大統領との会談で、和平合意を結ぶためには「真の安全保障の保証」が必要であることを強調している。そして、多くの外交専門家は、現時点での、(米ロ主導の)和平は、ウクライナにとっての平和、すなわちヨハネ・パウロ2世が言われた「物理的にも道徳的にも脆弱な平和」「他者の横暴に対する臆病さと服従、そして従属への甘受」となることを懸念している。

 バンス副大統領は「欧州はヨハネ・パウロ2世の言葉を聴くべきだ」と言うが、聖人となったヨハネ・パウロ2世は、この時点では、ロシアとウクライナ間の交渉による解決を「真の平和」とは考えていなかっただろう。

 

2025年2月16日

・「バンス副大統領は、移民問題も教会の活動も分かっていない」-米司教団の移住委員会委員長が批判

(2025.2.13 Crux  National  Correspondent  John Lavenburg)

 ニューヨーク発 –全米司教協議会(USCCB)移住委員会の委員長、マーク・セイツ司教は、バンス米副大統領がカトリック教会による移民の定住支援について述べたコメントを「甚だしい誤解」と批判し、「バンス氏は明らかに私を知らない。私の心も知らない」と述べた。その一方で、同司教は副大統領との話し合いも提案している。

 「私はいつかバンス副大統領と腰を据えて話し合い、私たちの定住支援活動などに関するこれらの問題について話し合いたいと思います。なぜなら、彼は明らかに誤った情報を得ているからです。それは非常に残念なことです。そして、今、大きな拡声器を持つ人物からそのような情報が発信されると、非常に弱い立場にある人々に対する教会の活動にとって非常に有害なものになりかねません・本当に懸念すべきことです」と、セイツ司教は述べた。

 カトリックに改宗したバンス氏は、CBSがこのほど放送したニュース番組『Face the Nation(フェイス・ザ・ネーション)』で、米国の司教団が難民の再定住のために連邦政府から受け取っている数百万ドルを挙げ、「彼らは人道的な懸念を心配しているのか?それとも、実際には収益を心配しているのか?」と批判した。

 この発言に対しては、全米司教協議会(USCCB)から迅速な反論があり、その活動を擁護した。ヴァンスが示唆したように、会議の公表された財務報告書によると、USSBは2022年と2023年の両方で、再定住の業務費として連邦政府から1億ドルを超える資金を受け取っている。しかし、記録によると、USSBは毎年、難民再定住の取り組みに連邦政府から受け取った資金よりも多くを実際に支出しており、バンス氏の指摘は正確さを欠いている。

 12日、ジョージタウン大学で開かれたカトリック社会思想・公共生活イニシアティブの対話集会で、セイツ司教は「現在の状況」で助長されてきた偏見についても語り、トランプ政権や他の政治指導者の暴言に言及。「彼らは、移民すべてを犯罪者呼ばわりしている。そして、多くの人が少なくともそれを聞いて、『肌の色が茶色なら、つまり、彼らは悪い人間だ』と言うようになるのです」と強く批判した。

 トランプ政権が大量国外追放の取り組みの第一段階で移民を標的にし、すでに何千人も拘束して国外追放していることについて、「本当に、これらの人々について、私たちは、『あまりにも悪質なので、裁判も適正手続きも行わず、ましてや更生させる努力もせずに、グアンタナモ収容所に送り、彼らのことは忘れてしまおう』と言ってしまっていいのでしょうか?」と参加者に問いかけ、「以前よりも常に悪化する状況に人々を置くことは、利己的な見地から見ても認められない」と語った。

 移民問題に関する教皇フランシスコの米国司教宛ての最近の書簡では、トランプ政権の大規模な国外追放計画を批判しているが、セイツ司教は「教皇が私たちのために立ち上がり、私たちにはほとんどできないような雄弁さをもって、ある特定の方法で語ってくださった」と述べた。

 対話集会では、多くの発言者が、「トランプ政権の移民政策や移民に関する暴言が引き起こている恐怖」を強調。セイツ司教は、「多くの移民が自国で経験したトラウマが、彼らを自国から逃れざるを得ない状況に追いやり、その旅路で経験したこと」について語り、「今では多くの移民がそのような状況に戻らざるを得ない、と感じている」と指摘した。

 また、20代半ばのイエスという名の若者を取り上げ、先週のミサの後、彼は会衆全員の前でスピーチをし、温かいもてなしに感謝し、「移民コミュニティが今抱えている恐怖のただ中に留まるつもりはありません」と語ったと述べ、「このような話は、移民コミュニティ全体で繰り返されています… 多くの移民が『母国での生活がどんなにひどかったとしても、母国で命の危険を感じていたとしても、こんな生活は耐えられない』と言っている」と語った。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
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2025年2月15日

・バンス米副大統領、「トランプ政権は、信教の自由をこれからも優先していく」と言明(Crux)

(2025.2.6 Crux  National Correspondent  John Lavenburg)

 ニューヨーク発 – トランプ第一次政権の功績を誇示する中で、バンス米副大統領は5日、ワシントンD.C.で開かれた「信教の自由サミット」で、「第二次トランプ政権は引き続き、国内および海外で信教の自由の推進を優先していく」と断言。「あなたがたの政府の入り口の扉に信仰を置く必要はないし、トランプ大統領のリーダーシップの下で、そうする必要はありません。トランプ政権は、第一次政権の4年間の成果を復元するだけでなく、拡大することに専念しており、この2週間の成果は確実に拡大されます」と述べた。Vance says will continue to prioritize religious liberty

 カトリック信者である副大統領は、トランプ大統領が、中国との外交政策、欧州全域、そしてアフリカや中東全体を通じて、迫害された聖職者を救出し、ISIS(イスラム国)に脅かされた信仰団体に救済をもたらすなど、宗教の自由を推進したことを強調。

 また、副大統領は、トランプ大統領の1期目は、宗教の自由を守り、反ユダヤ主義と闘い、医療を提供する病院職員や信仰に基づく奉仕団体の良心的権利を保護し、宗教団体や企業が連邦政府と協力するための障壁を取り除くなど、断固とした行動を取ったことで、「米国の宗教的信条を持つ人々にとって最高水準の指標」を示した、と語った

 新政権について、副大統領は、中絶施設の入口を封鎖したとして逮捕されたプロライフ(生命の尊厳)派の抗議者数名を恩赦したことや、連邦政府による検閲を禁止する大統領令、「宗教者の米国人に対する連邦政府の”武器化”を終わらせる」ための大統領令によって、すでに重要な進展があった、と述べた。

 そのうえで、「今、私たちの政権は、信教の自由を単に重要な法的原則としてではなく、国の内外において守るべきもの」とし、「信教の自由を守る取り組みの一環として、外交政策において新教の自由を尊重する体制と尊重しない体制の違いを識別することが必要であり、私たちの政権はこれを行う用意がある… 国の内外で、信仰を持つすべての人々の信教の自由を完全に確保するためには、まだまだ多くのことを行わなければなりません」と決意を語った。

 また、副大統領は、「信仰は米国文化の基盤」と述べ、信仰を持つ人の使命はは「お互いを尊厳を持って扱うこと、困っている人を助けること、道徳的原則に基づいた国家を築くこと」であり、信教の自由は法的な保護を意味するだけでなく、「信仰を育てる文化を養うことで、男女が神から与えられた同胞の権利を、十分に理解できるようにすること」でもある、と述べた。

 最後に副大統領は、「教会は、異なる人種、異なる背景、異なる生活環境の人々が、共通のコミュニティへの献身、そしてもちろん神への献身のために集まる場所であったし、今もそうです… そこは、企業のCEOと従業員が神への崇拝において対等な立場に立つ場所。教会の席だけでなく、奉仕活動や慈善活動、病気や悲しみ、あるいはもちろん新しい命の誕生を祝う際に、人々が団結する場所です」と語り、「これらは、今日の立法者が育むべき絆や美徳ではないでしょうか… うれしいことに、第一次トランプ政権には確かにそれがありました。2期目のトランプ政権では、さらに強固なものとなるでしょう」と言明した。

2025年2月6日

・米国の司教たちの間でトランプ大統領の移民排除政策に対する批判広がる

移民(2025.2.1 カトリック・あい)

 トランプ米大統領が就任早々に移民排除の強硬策を取り始めたことに対して、米国のカトリック司教の間で批判の声が広がっている。以下に Catholic News Agencyの1月31日付けの記事を翻訳、引用する。

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   移民税関執行局(ICE)の捜査官は、上司の承認を求めることなく、教会や学校のような場所で逮捕する権限を新たに与えられたが、大統領が主に「最も危険な犯罪者」に焦点を当てた「アメリカ史上最大の国外追放作戦」を約束した後、すでにいくつかの主要都市で逮捕を増やし始めていると報じられている。

   トランプ大統領のその他の初日の命令には、数多くの選挙公約を遂行するものとして、米国南部とメキシコの国境での国家非常事態宣言、物議を醸した前任期の「メキシコ残留」国境政策の復活、麻薬カルテルの「外国テロ組織」への指定が含まれていた。

  トランプ大統領が署名した別の命令は、両親の法的地位に関係なく、米国領土内で生まれた個人の生得権市民権を廃止するプロセスを開始したが、州の連合が主導する重大な法的課題の中で、裁判官はすでにその命令を阻止している。

 移民に関する米国司教委員会委員長でエルパソ教区長のマーク・ザイツ司教は、1月23日の声明に「不法移民全員を『犯罪者』や『侵略者』と表現し、法の下での保護を奪うなど、あらゆる集団を中傷する大胆な一般化」を非難した。彼は、そうすることは「私たち一人一人をご自身の姿に似せて創造した神に対する侮辱だ」と書いた。

 マイケル・バービッジ司教は、1月31日にトランプ政権の国外追放の取り組みに反論する声明を発表し、教皇フランシスコと彼の兄弟司教たちが「人間の尊厳の保護を求めるとともに、すべての国が国境を守る権利を確認している」と強調。「私はトランプ大統領と議会指導者たちに、人間の尊厳と共通善に対するカトリックのコミットメントを反映した国家移民政策を策定することを求める」と述べた。また、安全上の理由から必要な場合を除いて、神聖な空間に立ち入ることを控えるよう、法執行機関に促した。

 バージニア州アーリントンの高位聖職者は、彼の教区の移民コミュニティに感謝の意を表し、「私たちの教会と私たちの国に多大な貢献をしている」と述べる一方、不法に米国に入国した多くの移民が「重大な犯罪」を犯していることを認め、「カトリック教会のカテキズムが強調しているように、カトリックの教えは国境開放政策を支持するものではなく、むしろ、見知らぬ人をケアする義務が、国家をケアする義務と調和して実践されるという常識的なアプローチを強調している… 私たちは正義を支持する教会であり、法の執行に反対するのではなく、すべての人々と私たちの国の利益のために、慈悲と理解をもってその適用を支持する教会だ」と述べた。

 だが、多くの個々の司教の声明は、移民に直接向けられ、励ましと支援の言葉を提供し、教会が彼らを歓迎しているという保証を求めている。ミシガン州のカトリック司教たちは最近の声明で、「移民の兄弟姉妹を広く侮辱する大規模な国外追放と有害なレトリック」に対する懸念を表明した。彼らは「すべての移民の人間の尊厳に対する揺るぎない支持と尊重」を誓い、移民家族の安全と団結を保つ政策を支持するよう選出議員に促した。

 しかし、ミシガン州の司教たちは、移民に関するカトリックの教えは、完全に「開かれた国境」という考えを拒否し、国境の安全と思いやりのある歓迎の両方を優先するバランスの取れたアプローチを支持していることを明らかにした。彼らは「市民権への公正な道を提供することで、難民と移民を歓迎する人道的な移民制度」を求めた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2025年2月1日

(評論)トランプの二度目の大統領就任で米国のキリスト教会の深い亀裂が露わに(La Croix)

(2025.1.31  La Croix  Massimo Faggioli)

*聖公会の女性主教はトランプの政策に異議を唱えたが…

    トランプ大統領の2度目の就任式は、米国のキリスト教界に深い亀裂があることを露わにした。彼のビジョンを受け入れる聖職者もいれば、聖公会ワシントン教区のマリアン・ブッディ主教のように異議を唱える聖職者もいる。カトリック教会の権力との関わりは、今、清算の時を迎えている。

 トランプ米大統領の就任式で興味深かったのは、慈悲に根ざした最もフランシスコらしい言葉が、カトリック教会の指導者ではなく、プロテスタントの女性司教から発せられたことだった。

 トランプ大統領の2期目の就任式で、儀式に参加した聖職者たちのさまざまな対応が目についた。カトリックのニューヨーク大司教、ティモシー・ドラン枢機卿、ブルックリン教区のフランク・マン神父、そしてプロテスタントの男性牧師たちが祈りを捧げたことと、聖公会のワシントン教区初の女性主教、マリアン・ブッディ師が新大統領の前で説教をしたことの間には、際立った対照があった。

 ブッディ主教は、米国大統領に呼びかけを行う聖職者たちの長い歴史の一部となり、他の男性聖職者たちは、キリスト教指導者としての役割をまったく異なる観点から捉えるという、別の歴史の一部となった。私たちは、個人的な知恵と勇気の異なる例を目撃したが、同時に、”トランプ現象”の意味についての解釈も分かれることとなった。

 また、異なる教会と米国との関係にも違いが見られた。米国聖公会(世界的な聖公会の一員)は、カトリック教会を含む他の教会がもはやできなくなったり、あるいはする気がなくなったりしているような方法で、米国を批判することができる。ある意味で、米国聖公会は250年前まで北米を支配していた大英帝国の最後の名残りの一つであり、英国国教会の伝統の中で、国教または国家教会としての地位から与えられた独特な”預言的自由”を保持している。

 

 

*カトリック教会とアメリカの権力構造の有機的結びつき

 

 それとは対照的に、米国のカトリック教会は、そのメンバーの多く、さらには司教や枢機卿さえも盲目にするような形で、米国の権力構造とより有機的に結びついている。これは、既成教会のジレンマだ。 逆説的ではあるが、バチカンに存在する教皇庁に象徴される既成教会は、今日における米国の「ターボ資本主義」、急進的な個人主義、そして新帝国主義に対抗する、政府と国家のあるべき姿を侵食から守る数少ない砦のひとつである。

 米国の歴史における現在のこの瞬間は、キリスト教と”アメリカンドリーム”の関係を再考することを私たちに迫っている。トランプ支持派のキリスト教徒はもはや「保守派」とは呼べない。彼らは”超近代的”である。それは、ファシズムとナチズムが神話上のローマ帝国の過去への郷愁を織り交ぜ、未来主義とテクノロジー、社会の近代性と生政治を受け入れた1920年代と1930年代との類似点のひとつである。今日、新しい米国の”寡頭制”がもたらした疑いのない革新的な特徴がある。そして、トランプ主義は、技術的進歩と”post-democratic authoritarianism(超民主主義的独裁主義)”を混ぜ合わせた新たな近代化プロセスを開始しようとしている。

*米国カトリック教会指導部が見せるトランプの世界観に対する恐怖心、軽率さ、日和見主義的態度

 

 2024年11月から2025年1月の間に米国で起こったことは、単なる政権交代ではなく、体制の転換であり、それによって民主主義が危機に瀕している。

 欧州のカトリック教徒は20世紀に、米国のカトリック教徒にはない経験をした。憲法体制と法の支配を守ることが、保守的な姿勢となった。皮肉なことに、今日の米国司教協議会の指導部は保守的とは言えない。ポピュリズムがもたらす言葉の破壊に魅了され、トランプ主義の最も破壊的な側面に対して感覚が鈍くなっている。一部の聖職者が言うこと、そしてさらに重要なのは、彼らがトランプについて言わないことについて、私が最も驚くのは、特定の政策に対する彼らの立場ではなく、トランプによる組織的な言葉の腐敗や歪曲に対する彼らの沈黙である。

 人々の魂の世話をするのが役割である聖職者にとって、これは重大な懸念事項であるべきだ。多くの教会指導者は、トランプ氏のマーケティング的な言葉遣いに慣れてしまっている。彼のレトリックは、「偉大さを取り戻す」という約束の裏に隠された恐怖政治の手段となっている。反動的な世界観やトランプ氏への恐怖に駆り立てられている、というよりも、今日の多くのキリスト教徒は、私たちの言説文化に何が起こっているのかを、哲学的にも解釈学的にも理解できていない。

「カトリックの異なる世界観とアメリカンドリームの間には創造的な緊張関係があり、それが20世紀のアメリカ・カトリシズムにおける統合を生み出した。しかし、その総合は今、トランプの世界観に対する恐怖心、軽率さ、日和見主義的態度(あるいはそれ以上のもの)によって消し去られてしまった。

 米国のカトリックは、常にアメリカン・ドリームと相反する関係にあり、この新しい政治的・宗教的プロジェクトに対しては、保守派とリベラル派の両方から弁証法的見解が示されてきた。すなわち、ヨセフ・フェントンの第二バチカン公会議以前のトミズム、ジョン・コートニー・マレーの宗教的自由の神学、フランシス・スペルマン枢機卿の冷戦下の愛国主義とドロシー・デイの平和主義、フルトン・シーン司教のマルチメディアによる伝道活動とトーマス・マートンの郊外住民のための知的霊性などである。

 カトリック内部の原理主義的な傾向は、アメリカ文化の近代化の傾向に抵抗し、より穏健で対話的な新しい時代への動きと共闘した。それは、カトリックの典型であるet et、つまり「両方」を体現する不安定な均衡だった。カトリック的世界観とアメリカンドリームの間には「創造的な緊張関係」があり、それが20世紀の米国のカトリックにおける統合を生み出したが、それは、トランプの世界観に対する恐れ、軽率さ、日和見主義的な態度(あるいはそれ以上のもの)によって、今や消し去られてしまった。

*”トランプ2”に直面した米国カトリックはバランスを欠いた状態

 

 今という時代は、単なる一時的な混乱ではなく、少なくとも過去30年間にわたってその兆候が現れていた病であり、トランプの二度目の大統領就任に直面した米国カトリシズム内部のバランスを欠いた状態の危険性を露わにしている。

 その原因の一部は構造的な問題である。移民で構成され続けているこの教会において、移民が追い求めるアメリカンドリームを批判することは常に複雑な問題だったが、一部には、本来なら起こるはずのない知的・道徳的な崩壊もある。かつては、アメリカ・カトリシズムのなかのアメリカン・ドリームにも、その道徳的・文化的欠陥を認識しようとする声があった。

 そうした声のひとつは、宗教の自由と民主的機関の関係に関する研究で知られる、アメリカ人イエズス会の神父、ジョン・コートニー・マレー(1904~1967)によるものだった。1950年代には、彼は共有された意味の浸食に寄与していると見なした「技術的世俗主義」「実用的唯物論」「哲学的多元主義」といった主要な問題を指摘した。3月にワシントン大司教に就任するサンディエゴ教区長のロバート・マクエルロイ枢機卿は、1989年に出版したマレーに関する著書で次のように書いている。

 「技術的世俗主義と同様に、実用主義的唯物論は常に、米国における文化の明確に表現されない原理として機能してきた。しかし、技術的世俗主義が『核の冬』や『温室効果』の恐怖によって抑制されてきたのとは異なり、実用主義的唯物論は、米国人の文化的生活の形成原理としてますます強固になっているように見える」

 

 

*カトリックの社会思想と政治思想の新たな世代の出番が来た

 

 トランプの世界観の政治的・文化的台頭は、高度な「技術的世俗主義(AI、火星の征服、イーロン・マスクの「地球外での生活」プロジェクト)」、「実用主義的唯物論「ドリル・ベイビー・ドリル)」、そして抑制の効かない「哲学的多元主義(”オルタナティブ・ファクト”という表現は、トランプ支持派のメディア複合体が生み出した造語)」の勝利である。それは、無限の成長、成功が意味の尺度であること、「決して十分ではない」こと、「消費文化における商品としての宗教」といった既存のイデオロギーの延長線上にある。

 この世界観は、トランプ氏やマスク氏、J.D.ヴァンス米副大統領、そしてトランプ大統領の宮廷入りを狙う新興の”寡頭政治家”たちだけから生まれているわけではない。異なる政党やイデオロギーの対立を超えて、このバージョンのアメリカンドリームの側面を受け入れたり、アメリカ文化の問題点を見たくなくなったりしているカトリック教徒やその他の人々からも生まれているのだ。

 トランプは、アメリカンドリームの最新かつ極端で、ゆがんだバージョンである。ジレンマは、今日、アメリカンドリームへの無条件の憧れを擁護するか、あるいは民主主義、法の支配、人権を擁護するか、どちらかしか選べないことだ。

 しかし、両方を同時に守ることは不可能である。これはしばらく前から明らかであった。今では、より多くのアメリカ人とアメリカ人カトリック教徒にも明らかになっているはずだ。21世紀のカトリックの社会思想と政治思想の新たな世代の出番が来たのである。米国のカトリシズムと米国の関係は、トランプ主義によって、私たちの目の前で変化しつつある。トランプ主義をアメリカンドリームの繰り返しうる一つの形として認識するアメリカンドリーム批判は、どこで見出せるかが、今問われている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二=聖書の邦訳は「聖書協会・共同訳」による)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2025年2月1日