(評論)レオ14世の教皇就任1か月、「継続性とバランス」というユニークな手法で”ハネムーン”は続いている

(2025.6.9  Crux   Senior Correspondent   Elise Ann Allen)

 ローマ 発- 5月8日のローマ教皇レオ14世の選出から1か月が経ったが、「ハネムーンの期間 」はまだ続いている。

 いわゆる 「ロールシャッハ・テスト 」と呼ばれる教皇職の段階は、人々が教皇に好きなことを投影することができるとされるものだが、レオ14世がその治世への道を歩み始めているように見えることから、まだしばらく続きそうだ。

 就任からわずか4週間で、新教皇は冷静さと自制心を示し、大きな決断を下す前に現場の状況を把握し、物事がどう動くかを理解することを好んだ。また、バランス感覚を発揮し、前任者との明確な継続性を表明する一方で、自分自身の優先順位や個人的なスタイルを切り開いている。

 

 

*統一を目指す羊飼い

 

 前任の教皇たちと異なり、レオは「改革派」、「伝統主義者」、「リベラル派」、「保守派」など、多くの識者が熱望するカテゴリーには、簡単に当てはまらない。南米での豊富な経験、欧州での滞在経験、そしてアウグスチヌス修道会の総長として世界のさまざまな地域と接してきたことで、非常に”丸み”を帯びた視点を持つようになった。

 そしてレオ14世は、教皇就任後1か月にして、自らを「統一者であり、交わりを育もうとする奉仕者」としてのスタイルを取り始めている。

 5月8日、教皇選出後初めて聖ペトロ大聖堂のバルコニーから挨拶したレオ14世は、キリストに従うよう信者たちに促し、こう言った—「私たち一人ひとりが、対話と出会いを通して橋を架け、いつも平和な一つの民として結ばれるよう助けてください」と。

 そして、5月18日の教皇就任ミサの説教の中で、次のように述べた—「私は、自分自身の功績もなく選ばれました。そして今、恐れおののきながら、皆さんの信仰と喜びの僕となり、皆さんとともに神の愛の道を歩むことを望む兄弟として、皆さんのもとに来ました」と。

 レオ14世はその説教の中で、教皇としての司牧の優先事項の”道しるべ”のようなものを示した—「愛と一致、これがイエスからペトロに託された使命の二つの側面です」。その際、彼は 「不和 」と 「憎しみ、暴力、偏見、差異への恐れ、地球の資源を搾取し、最貧困層を疎外する経済パラダイムによって引き起こされる多くの傷 」を嘆いた。

 そして、このような背景から、教会に対する彼の最大の願いは、教会が 「和解した世界のための“パン種”となる一致と交わりのしるし 」であり、「世界の中での一致、交わり、友愛の小さな“パン種” 」となることである、と語り、さらに、「私たちは、違いを打ち消すのではなく、一人ひとりの個人的な歴史とすべての人々の社会的・宗教的文化を大切にする一致を実現するために、すべての人に神の愛を捧げるよう求められています 」と強調した。

*継続性と独自性

 レオ14世はまた、就任当初から前任のフランシスコ教皇との明確な”連続性”を示しており、最初の発言で「シノダル(共働的)な教会」を呼びかけ、フランシスコの対話と友愛の「架け橋を築く」という言葉を使い、聖マリア大聖堂にあるフランシスコ教皇の墓を訪れている。

 また、5月18日の就任説教を含め、演説や説教の中で教皇フランシスコの言葉を繰り返し引用し、環境、貧しい人々、移住者への配慮、より大きな世界的友愛の意識を求めるフランシスコの呼びかけに共鳴している。

 その一方で、レオ14世は、伝統的に教皇が着用する赤いマント「モツェッタ」を復活させるなど、教皇の服装の選択から、民衆の信心深さを自ら表現するなど個人的な献身に至るまで、教皇が自分自身であることも明らかにしている。

 教皇フランシスコは、ローマ人に愛され、歴史的にイエズス会士にも愛されてきた聖マリア大聖堂の有名なイコン「マリア・サルス・ポポリ」をたびたび訪れていたが、レオは教皇に就任した最初の週に、ジェナッツァーノにあるアウグスティノ会が運営する「善き助言の母」教会を訪れ、このタイトルを持つマリア像の前で祈りを捧げた。

 フランシスコは、バチカンの聖アンナ小教区を訪問した際、バチカンとイタリアの国境を越えて友人に挨拶に行ったり、移民の主な目的地であるイタリアのランペドゥーザ島への訪問したりすることを頑なに主張し、側近が訪問に反対すると、「自分でチケットを買って、行きます」と言い切った。

 一方、レオ14世は、枢機卿としてほぼ毎日昼食をとっていたローマのアウグスヌス会本部を突然訪れ、共同体とともに過ごし、アウグスチヌス会の総長である友人アレハンドロ・モラルの誕生日を祝うなど、レオなりに自発的に行動している。

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 これまでのところ、レオは内部的には、いかなる決定も急がず、むしろ時間をかけて現状を把握し、組織や人事の面で大きな変化を起こす前に、物事がどのように機能しているかを理解しようとしていることを示し、当分の間、すべてのバチカン各省の長官など留任させることを決めた。

 例えば、教皇庁未成年者・弱者保護委員会会長のショーン・オマリー枢機卿とデリケートな性虐待問題について話し合ったり、オプス・デイの指導者と面会して、フランシスコの下で発足したものの完了しなかったグループの改革について話し合ったりしている。

 レオはまた、イタリアのアンジェロ・ベッチュ枢機卿とも会っている。彼はバチカンの「世紀の裁判」で金融犯罪で有罪判決を受けたが、教皇フランシスコの教皇職の後期で最も論争となっていた人物の一人であり、先に教皇選挙から除外されたことでも論争を巻き起こした。

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 人事では、バチカン各省の長官を留任させる一方で、奉献・使徒的生活会省の次官にシスター、ティツィアーナ・メルレッティを任命している。80歳を迎えた生命アカデミー総裁のヴィンチェンツォ・パリア大司教をレンツォ・ペゴラロ大司教と交代させ、ヨハネ・パウロ2世結婚・家族科学神学研究所の理事長をバルダッサーレ・レイナ枢機卿からレンゾ・ペゴラーロ司教に交代させた。

 そして、まもなく、司教省における自身の後継長官の任命や、75歳という司教定年を過ぎている列聖、典礼秘跡、キリスト教一致推進、総合人間開発、命・信徒・家庭の各省長官の後継者の任命という、新教皇自身の判断による重要な人事に手を付けねばならなくなる。

*擁護者となる

 レオ14世の教皇就任後1か月は”平静さ”が特徴となっているが、カトリック教会にとって多忙な聖年暦の中で行動し、教皇職の重みを伴う発言力を暫定的に行使し始めている。

 ウクライナやガザの和平を繰り返し訴え、人質の返還や援助、停戦を求めるだけでなく、ウクライナのゼレンスキー大統領やロシアのプーチン大統領とも電話会談をし、和平実現を最優先させたいという強い意志を示している。

 それだけでなく、微妙で、反発を招く可能性のある政治的な問題についても発言し始めている。

 教会の運動体、諸団体、新しい共同体の人々が参加して行われた8日の聖霊降臨の祝日のミサの説教では、femicide(ジェンダーに関連した動機による故意の殺人)と政治的ナショナリズムを非難。他者との関係における 「境界を開く 」聖霊の役割について語り、聖霊は 「疑い、偏見、他者を操ろうとする欲望のような、私たちの関係を乱す、より深く隠された危険を変容させる 」と述べたうえで、「私は、不健全な支配欲が関係し、最近多く起きているfemicideが悲劇的な形で示しているように、暴力につながる事例の発生を、深い悲しみとともに思い起しています」と述べた。

 教皇のこのfemicideへの言及は、長年にわたって家庭内暴力とfemicideの多発に悩まされているイタリアの社会・政治界全体に反響を呼んだ。イタリア政府は現在、加害者の最高刑を終身刑に処するfemicide防止法を検討しているほどだ。

 教皇はまたこの説教で「人々の間の境界を開く」という聖霊の役割についても語り、聖霊は「障壁を打ち破り、無関心と憎しみの壁を破壊」し、代わりに「偏見」や「悲しいことに、今や政治的ナショナリズムの中にも現れつつある排他的な考え方」の余地を残さない愛を育む、と指摘した。

 ”擁護者”としての教皇レオ14世の発言は、女性差別と欧米を含む世界の大部分を席巻している民族主義的ポピュリズムの動きを非難した教皇フランシスコの思いのいくつかを反映させながら、徐々に彼自身のスタイルとトーンで主張を始めている。

 レオ14世の最初の1か月を特徴づけているのは、バランスと冷静さ、行動する前に考えること、静粛に針を動かすことだ。彼が統治のプロセスに本格的に取り組み、彼の主張がさらに具体化するようになればなるほど、教皇としての蜜月期は衰える可能性が高くなるが、これまでのところ、「あまり波紋を起こさずに決断や発言を行う能力」を発揮しているようだ。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2025年6月10日

(評論)難題抱える教皇庁生命アカデミーの新総裁にぺゴラロ大司教任命(Crux)

(2025.5.29 Crux   Senior Correspondent Elise Ann Allen)

ローマ発– 教皇庁生命アカデミー(PAV)は27日、イタリア人で生命倫理の専門家で医師でもあるレンツォ・ペゴラロ大司教が新会長に任命されたと発表した。2016年から会長を務めていたヴィンチェンツォ・パリア大司教が4月に80歳を迎え、退任したのを受けたもの。

 ペゴラロ新会長は声明で、レオ14世教皇に会長任命に謝意を示すとともに、パリア大司教とその前任者であるイグナシオ・カルラスコ・デ・パウラ大司教と共に仕事をしたことは、「故教皇フランシスコの運営とテーマに関する指針に沿った、興味深く刺激的なものだった」と述べ、PAVが近年取り上げたテーマと方法論に沿って活動を継続し、「生命アカデミーの広範で卓越した国際的・宗教間協力の会員団体の専門性をさらに高めていく」と抱負を語った。

 さらに、「特に、生命倫理、教皇フランシスコが推進された学際的アプローチを通じた科学分野との対話、人工知能とバイオテクノロジー、および人間の生命のすべての段階における尊重と尊厳の促進というテーマを強調したい」と述べた。

 ペゴラロ新会長の任命は、教皇フランシスコが亡くなる前に検討されていた可能性が高い。教皇庁の役職は、80歳となった時点で自動的に終了することになったおり、教皇レオ14世は、フランシスコの既定路線を受け継いだもの、との見方もできる。

 新会長が「教皇フランシスコが推進する学際的アプローチを通じた科学分野との対話」の継続を強調した点は、パリア前会長との連続性を示している。前会長は、教皇フランシスコの在任中、近年、学会の範囲と目的を転換する動きを示していた。PAVは近年、科学的研究と対話の分野における学際的研究機関へと緩やかな移行を遂げており、教皇庁の科学アカデミーや社会科学アカデミーに似た形態に近づいている。

 後者の2つの機関では、キリスト教徒でない者や、教会の教えと著しく異なる見解を持つ無神論者や非信者も、それぞれの分野での科学への卓越した貢献を理由に会員に任命されている。このような緩やかな以降に加え、パリア前会長のいくつかの発言、文書、声明が、彼の在任期間中、特に最近5年ほどで浮上した様々な論争の的となっていた。

 例えば2022年7月、PAVは「生命の神学倫理:聖書、伝統、課題、実践」という書籍の出版で論議を巻き起こした。この書籍は過去のアカデミーでの議論の要約として位置付けられていたが、選りすぐられたメンバーによって作成されたもので、道徳規範(例えば避妊の禁止)とそれらの規範の具体的な牧会的適用との区別を主張する神学者の論文が含まれており、論争の的に。一部の論文には、特定の状況下で夫婦が人工避妊や人工生殖方法を選択することが正当化される可能性を暗示する内容が含まれていた。

 一部の学者は、「より保守的な立場の会員が文書の作成に参画しなかったか、参画した会員が文書の方向性を見極めた後、参加を辞退した」ことを明らかにした。その年の8月、PAVは、同アカデミーの公式ツイッターアカウントから投稿されたツイートにより、さらなる批判に直面した。

 そのツイートは、1968年に教皇パウロ6世が発表した回勅『Humanae Vitae』(人間の生命)——結婚に関する教会の教義を再確認し、人工避妊の禁止を堅持した文書——が教皇の不可謬性(教皇の誤り得ない教義)の対象外であり、変更可能なものであることを示唆する内容だった。

保守派の専門家たちは同年12月、教会の避妊禁止を擁護し、『Humanae Vitae』の全体を保持するよう主張する反論会議を組織した。2022年10月、パリア前会長が擁護した教皇フランシスコのPAV理事への任命を巡る論争も発生しました。任命されたマリアナ・マッツゥカトは、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのイノベーションと公共価値の経済学教授で、公けに中絶を支持し、米国の 最高裁の『ロー対ウェイド』判決の破棄を非難した人物だ。

2023年4月、パリアはペルージャのジャーナリズム・フェスティバルでの「安楽死に関する発言」でさらに論争を巻き起こした。安楽死と自殺幇助への個人的な反対を強調しつつも、イタリアで長年議論の的となっている自殺幇助を規制する法律の制定条件を提示しました。

 2024年8月、PAVは「終末期に関する小辞典」と題した文書を発表し、植物状態の患者への食事と水分補給の提供に関する規制を緩和した。教会が安楽死と自殺幇助への反対を再確認する一方、いわゆる「積極的治療」に関するバチカンの方針に新たな柔軟性が示された。

 特に、植物状態にある個人への食事と水分補給の提供義務に関する点で、バチカンは従来の立場から一歩踏み込んだ姿勢を示した。ペゴラロ新会長の任命は、ほとんどの観測筋によって比較的 routine な人事と見られています。これは、教皇がバチカン部門の長官や長官が退任する際、その次席を昇進させるのが通例であり、この任命はレオ教皇が選出される前に既に決定されていた可能性が高いからだ。

 その点で、レオ教皇がペゴラロの後任予定者として誰を副総裁に任命するかが、PAVの今後の方向性に関する教皇自身の考えを反映するより明確な指標となるだろうが、ペゴラロの任命は、最近の論争を受けてPAV内の学者たち之间に存在する複雑な感情をどう扱うかについて、疑問を投げかけている。

 一部の学者は、2005年から2008年までアカデミーを率いた保守派のエリオ・スグレッチア枢機卿の時代に戻りることを望んでいる。最近採用された柔軟性と対話的なアプローチは、多くのメンバーに不安を与えているからだ。

 ペゴラロ新会長は1985年にパドヴァ大学で医学と外科学の学位を取得し、道徳神学の修士号と生命倫理の上級コースの修了証書を取得している。科学的な観点からは、少なくとも一部のメンバーから、より強力な科学的資格を有していると評価されているため、歓迎される任命だ。

 彼はまた、欧州の医療と生命倫理の分野で高い評価を受けており、1993年に北イタリア神学部の生命倫理担当教授に就任し、ランツァ財団の倫理・生命倫理・環境倫理の先進研究センター(Lanza Foundation: Center for Advanced Studies in Ethics, Bioethics, and Environmental Ethics)の事務局長を務めている。また、1998年から欧州医療哲学・医療ケア学会会員であり、2005年から2007年まで同学会会長を務めている。2000年からローマのバンビーノ・ジェズ小児病院で看護倫理学教授を務めており、欧州医療倫理センター協会会員であり、2010年から2013年まで同協会の会長を務めた。さらに、国際倫理教育協会会員でもある。2011年には、教皇生命アカデミーの事務局長に任命された。

 また、神父としての地位を過度に強調せず、教会の教義を過度に押し付けない姿勢から、欧州の生命倫理学界で尊敬を集めている。そして世俗的な同僚から尊重されながら、自身の主張を明確に伝えることができている。2人の異なるアプローチを持つPAV会長の下で勤務し、両者と良好な関係を築いたペゴラロは、単に能力があり科学的に精通しているだけでなく、多様な人格や意見の中で円滑に働ける人物と見られている。。

 しかし、彼の立場に関する疑問も残っている。例えば、彼の安楽死に関する立場や、その立法化への支持、彼が提唱する「科学分野との対話」や「学際的アプローチ」の具体的な内容などだ。ぺゴラロが具体何を行うかはまだ不明ですが、確実なのは、彼は政治的・教会的分断が深刻な状況下で任期を開始し、この分断はPAV内部でも特に近年の一連の論争を経て顕著になっており、この状況を乗り切ることは容易ではないということだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2025年5月30日

(評論)急ピッチのバチカン幹部との会見で見えてくる教皇レオ14世の優先課題(Crux)

(2025.5.27 Crux   Senior Correspondent Elise Ann Allen)

 ローマ発 – これまでの歴史を振り返ると、新教皇の最初のバチカン幹部人事や会見の相手や内容をざっと見れば、司牧および行政上の優先事項に関して、何をまず第一に考えていることが少しは分かる。

 就任から1か月近く経った教皇レオ14世は、これまでいくつもの会見をこなし、いくつかの決定を行ったが、教皇就任式のためにバチカンを訪れた各国首脳たちの会談は当然のこととして、自身の最優先課題はすでに具体的に見え始めている。そして、全体としては、財政問題、聖職者による性的虐待問題、教皇庁の改革など、前任の教皇フランシスコが全うできなかった課題を引き継ぐ意向をうかがうことができる。

*金融犯罪で有罪判決の元枢機卿ベッチュと非公式に会見

 最も注目すべき会見の一つは、バチカンで「世紀の裁判」と称された金融犯罪事件(ロンドンでの不透明な不動産取引に関連し、バチカンが約2億5,000万ドルの損失を被った事件)で2023年12月に有罪判決を受けたイタリアのアンジェロ・ベッチュ枢機卿(76歳)との、5月27日の非公式の会見だろう。

 バチカンの民事裁判所で有罪判決を受けた最初の枢機卿となったベッチュには、懲役刑に加え約8700ドルの罰金とバチカン市国での公職の永久禁止の制裁が課せられているが、本人は一貫して容疑を否認し、控訴を申し立てている。

 レオ14世教皇を選出した教皇選挙の前、ベッチュは全体会議に出席し、自分には投票権がある、と主張したが、教皇フランシスコからの書簡を示され、投票権がないことを知らされ、参加を断念していた。全体会議に参加した枢機卿たちは、ベッチュが教皇選挙への参加を控えたことを感謝する声明を発表し、適切な司法当局が「事実を明確に確定する」ことを希望。好き教壇の一部には、ベッチュが不当な扱いを受けた、と考える者もいた。

 ベッチウと会見したことで、教皇は必ずしも彼を復権させたり、復職させたり、彼の容疑否認を認めるサインを出したわけではないが、少なくとも一部の枢機卿たちに不快な印象を残している、最も緊急かつ重要な課題の一つ対処しようと考えている可能性がある。

*前教皇と対立したサラ枢機卿に公式のポストを与えた

 ロバート・サラ枢機卿(典礼秘跡省元長官)に、名目上とはいえ公式の職を与えたことを考えると、教会だけでなく枢機卿団内の”好ましくない状況”についても、ある程度の修復を考えている、と見ることもできるだろう。

 教皇は5月24日、フランスで農民イヴォン・ニコラジックに聖アンナが現れてから400周年を迎える7月の祝賀ミサを主宰するの特別使節にサラを任命した。サラは教皇フランシスコと複数の問題で対立し、フランシスコが司祭の独身制廃止を検討していた時期に、当時存命だった元教皇ベネディクト16世との共著で独身制廃止を批判する本を出版し、ベネディクトとフランシスコが対立しているかのように見えたことで批判を浴びていた。

 伝統的なラテン語ミサの熱心な支持者であるサラは、フランシスコによってその活動が制限され、2021年に75歳の司教定年を迎えて退任するまで、実質的に手足を縛られた状態だったが、教皇フランシスコに軽視されている、と感じる保守派のカトリック信者にとって、英雄であり殉教者のような存在であり続けた。レオ教皇が彼に比較的責任のない地位を与えたことは、和解を示唆する努力と見なされている。

*教皇庁未成年者・弱者保護委員会のオマリー委員長との会見は、性的虐待問題重視

 

 だが、”軌道修正”で最も象徴的な会見の相手は、教皇が就任後、教皇就任ミサ出席のために訪れた人々以外に初めて公式に会見した人物。5月14日に会見した、ボストン大司教名誉職で教皇庁未成年者・弱者保護委員会の委員長、ショーン・パトリック・オマリー枢機卿だ。

 教皇選挙前に枢機卿団が連続して開いた全体会議では、教会が直面する最も深刻な問題として、バチカンの財政危機と聖職者性虐待スキャンダルが繰り返し取り上げられた。オマリー枢機卿を最初の公式会見の相手として選んだことは、特にレオ14世がペルーを拠点とするSodalitium Christiane Vitae(SCV)という使徒的生活団体との広範な経験を持つことから、聖職者による性的虐待がもたらしている世界の教会の危機への対処が、教皇在位中の最優先課題となることを示している。

 SCVは、教皇フランシスコが今年初めに死去する直前に解散させられたが、レオ14世は、ペルーでの司教時代と枢機卿時代を通してこの問題に個人的に関与していた。

 

 

*Opus Deiのトップとの会見は、改革巡る問題の早期解決の意向

 

 レオ14世は、5月12日にローマ教区の大司教代理であるバルダッサーレ・レイナ枢機卿と会見したが、テーマは、ローマの教皇大聖堂(サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂、フランシスコ教皇が埋葬されているサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、ローマ教皇の公式大聖堂であるサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂)の管理権を引き継ぐための式典に関するものだった。

 また5月14日には、今年の「希望の巡礼」の聖年を主催する関係者たちと、スペインのフェルナンド・オカリス大司教(「Opus Deiの責任者)と会見した。その主要テーマは、教皇フランシスコが命じたOpus Deiの規約改革に関する議論が中心だったとみられる。この改革は途上にあり、教皇がその代表と会見したことは、この問題を早期に解決したいという意向を示している可能性がある。

 

 同じ14日、教皇は、バチカン報道局が発表した日程表に載っていない非公式の会見を、バチカン奉献・使徒的生活会省の長官としてSCVの廃止令に署名し、他の複数の案件を管理するシスター・シモーナ・ブラムビッラと行った。

 

 

*使徒座管財局長との会見は、バチカンの財政問題も優先課題

 

 22日には、使徒座管財局(APSA)の局長、ジョルダーノ・ピッチノッティ大司教と会見し、バチカンの財政状況への対処も優先課題であることを示した。

 レオ14世は、バチカン各省の長官・幹部と会見を重ねており、15日には総合人間開発省の幹部全員と会見した。長官のミハエル・チェルニー枢機卿、次官のシスター・アレサンドラ・スメルリ修道女らだが、特に注目すべきは、教皇が5月27日にチェルニー長官不在の状態でスメルリ次官らと再び会見したことだ。これは、教皇フランシスコが亡くなる前、チェルニー長官が78歳で、司教定年の75歳を超えていることから、スメルリ次官を長官に昇格させる意向だったという噂が浮上していたことを念頭に置いたものとみられる。

 また教皇は16日、26日と教理省長官のヴィクトル・フェルナンデス枢機卿と続けて会見している。会見では、スロベニアのマルコ・ルプニク神父(元イエズス会士で著名な壁画家で、性的虐待で訴えられている)に関する継続中の問題について議論された可能性が高い。ルプニク神父は、30~40人の成人女性に対する性的虐待の容疑で告発されており、過去2年間でカトリック教会で最も注目された事件の一つとなっている。

 レオ教皇は当初、すべての省庁長官を現在の職位に留め、変更を行う前に時間をかけて聴取し、祈り、判断する意向を示していた。そのため、長官との会談は、人事決定を行う前に現状を正確に把握するための努力の一環であると考えられる。だが、オマリー枢機卿との会見や、一部の省庁長官よりも先にピッチノッティ大司教と会見したことなど、一部の会見は、教皇の優先事項を示唆しており、これは教皇選挙前に示された姿勢とも一致している。

 教皇はまた、オカリスとの会談などにおいて、教皇フランシスコの「未完の課題」に取り組む意欲を示しており、サラやベッチュとの和解も図りたいと考えているようだ。だが、いくつもの会見をどう解釈するにせよ、レオ教皇が本腰を入れて仕事に取り掛かろうとしていることは疑いようがない。過去2週間のスケジュールが示すように、彼はまさにその通りに行動している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2025年5月28日

(評論)「教皇は移り変わるが、教皇庁は残る」-教皇、教皇庁職員たちに前教皇の”路線変更”を表明?(La Croix)

(2025.5.26   La Croix (with I.Media)

 レオ14世教皇が24日、バチカンのパウロ6世ホールで教皇庁とローマ教区の職員約4000人と初めて会見、長い拍手喝采を浴びながら挨拶され、〝一致の使者”となるよう呼びかけられた。前任の教皇フランシスコとの間で”緊張関係”を生じており、新教皇がどのような話をするか注目されていた。

 教皇は挨拶の冒頭で、職員たちの万来の拍手に対し、「気をつけて… 拍手が長いと、私の挨拶も長くしなければなりません」としたうえで、これまでの職員たちの奉仕に感謝の意を表し、さらに拍手を誘った。

 

 

*前教皇の厳格な教皇庁改革が起こした職員の不安、士気低下に対処?

 

 この最初の会見は、故教皇フランシスコが進めた教皇庁改革による”敏感な時期”に行われた。故教皇は、一部の人々が「強硬な手法」と評した改革で、教皇庁の官僚機構に手を付けた。2022年の使徒憲章『Praedicate Evangelium』は、主要な教皇庁機関を再編し、聖座の透明性と福音宣教に重きを置くことを狙いとしていた。

 挨拶でレオ14世は、これらの改革を肯定し、福音宣教を優先する前教皇の意図を称賛し、特にフランシスコに先立つ聖パウロ6世と聖ヨハネ・パウロ2世の二人の教皇たちのビジョンを受け継いだものと指摘しつつ、「教皇は移り変わりますが、教皇庁は残ります」と述べ、「使徒座の記憶を生き続けさせ、教皇の務めが最善の方法で果たされるように」努めるよう、職員たちを励ました。

 教皇は自身の福音宣教の経験にも触れ、ペルーでアウグスチヌス会の修道士として20年間過をごし、さらにバチカンで司教省長官として2年間務めた自分自身が「この使命を、神が望む限り、私に委ねられた奉仕において継続する考えです」と述べた。

 前任者の刺激的なスタイルとは明らかに異なるレオ14世の控えめなトーンは、12年間の教皇フランシスコ在位中、革新的な改革への取り組みの一方で緊張を招いた教皇庁の雰囲気が続くことを懸念していた多くの教皇庁職員の琴線に触れたようだ。

 教皇フランシスコは2014年の講話で、教皇庁について「15の霊的病い」に侵されていると”診断”し、職員たちに蔓延する聖職者主義、出世主義、硬直性を率直に批判。”教会官僚”への持続的な批判は、教皇庁の幹部や一般職員の一部に強い不安を引き起こし、教皇在位末期には、教皇庁内部での士気低下について公然と語る者が増えていた。

*前教皇が取りやめた教皇庁職員への”コンクラーベ・ボーナス”支給を復活

 

 レオ14世は教皇就任からわずか2週間で、トーンを変化させ、その具体的な表明として、教皇庁職員全員に500ユーロのボーナス、退職者には300ユーロを支給することを承認した。これは、前教皇が緊縮政策をアピールするために廃止した伝統的な”コンクラーベ・ボーナス”を復活させる措置だ。

 レオ14世は、教皇庁の職員と管理者の間の緊張が依然として続く職場を引き継いだ。この緊張は、数年にわたるコスト削減と賃金交渉の停滞が背景にある。2024年11月、教皇フランシスコは教皇庁の年金基金の改革計画を発表し、「困難な決断」が迫っている、と警告した。これに対し、職員の間で懸念が広がり、バチカン一般職員協会(ADLV)は「緊張と不満の高まり」を訴える声明を発表していた。

 レオ14世が選出される3日前、教皇選挙に枢機卿たちが集まる中、ADLVは公開声明を発表し、教皇庁の継続的な予算危機——財務諸表はもはや公開されていない——を指摘し、推定で7000万ユーロの赤字が出ており、原因の一部は「外部コンサルティング会社への過度の依存」に起因している、と批判した。そして、レオ14世が選ばれた後、ADLVは新教皇の名前を「社会問題への特別な注目と、対話を通じた橋渡し的重要性の象徴」として歓迎する声明を出している。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2025年5月28日

・「 教皇レオ14世の『武装解除された平和』の訴えが、ロシアの教会と多くの人々の心を打った」ーモスクワの補佐司教が語る

Bishop Nikolaj Dubinin, Auxiliary Bishop of the Archdiocese of the Mother of God in Moscow, in the studios of Vatican NewsBishop Nikolaj Dubinin, Auxiliary Bishop of the Archdiocese of the Mother of God in Moscow, in the studios of Vatican News 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2025年5月23日

(評論)レオ14世のバチカンは、ロシアのウクライナ侵略停止のための調停者の役割を果たせるのか(La Croix)

(2025.5.22La Croix Mikael Corre

 西側の主要国に後押しされたバチカンは、教皇レオ14世のリーダーシップの下、ロシアとウクライナの会談の場を提供することを申し出た。これは、”アイデアの誕生”のストーリーの段階で、実現の可能性を云々するのはまだ難しい。

 2025年5月18日、教皇レオ14世の教皇就任式でのサンピエトロ大聖堂。(写真:ウィキメディア通信社選出からわずか4日後、教皇レオ14世は、東方教会の代表者と会見。あいさつの終わりに、”バチカンの壁”をはるかに超えて響き渡るメッセージを伝えた—「敵同士が出会い、互いの目を見るために、バチカンは利用可能です」。

 聖地、ウクライナ、レバノン、シリアを苦しめている暴力について、教皇は「平和を広めるために可能な限りのことをする」と誓った。その訴えは明確で、そしてそれは、聞き入れられた。

 その3日後の5月18日、故教皇フランシスコの葬儀ミサに出席したウクライナのゼレンスキー大統領が再びバチカンに戻り、レオ14世から私的な会見の形で迎えられた。その日の早い時間、教皇就任ミサの中で、レオ14世は「殉教したウクライナ」を取り上げ、「公正で永続的な平和のための交渉」を当事国指導者たちに促した。

 同じ18日、米国のバンス副大統領、ルビオ国務長官も教皇と会見し、さらにギャラガー国務省外務局長と会談した。バチカンの発表によると、バンス国務長官とギャラガー外務局長は「交渉による解決策」が「当事者間で模索されねばならない」との見解で一致。教皇は、米国訪問の正式な招待を受けた。

 その夜、バンス副大統領とゼレンスキー大統領は、ローマの米国大使公邸で30分間、議論を交わした。報道陣のカメラに向かって微笑み、2月のホワイトハウスでの険悪なやり取りから一転して親密な関係を印象付けた。ロシア・ウクライナ停戦の可能性、トランプ・プーチンの差し迫った電話会談などについて意見が交わされ、ホワイトハウスは「生産的な会議」だった、と評価した。

 翌19日、トランプ大統領は、プーチン大統領との電話会談の後、フランス、ドイツ、イタリア、フィンランドの首脳たちと、欧州委員会のライエン委員長とテレビ会議を開き、敵対行為の停止のための協調的な圧力をロシアにかけた。イタリアのメローニ首相は、バチカンに調停を働きかけるという課題を持って会議に臨み、20日にはレオ14世して、個人的にバチカンでの交渉を主催する意思を教皇から引き出した。

 現時点では、教皇のイニシアチブは、米欧の主要国の首脳からほぼ満場一致の支持を得ている。だが、レオ14世は、前任者が成し遂げられなかったことを成功させることができるのだろうか。故教皇フランシスコは、2022年2月のロシアのウクライナ軍事侵略開始後、平和を繰り返し訴えながらも具体的な成果を得られなかった。彼はそのフランシスコの遺産を受け継いでいる。フランシスコは、ロシアの軍事侵略が始まった当初、侵略者と被害者の役割を曖昧にし、ロシアの主張を受け入れるかのような印象を与えて広く批判されたが、後に軍事侵略反対の立場を明確にした。

 今、レオ14世は教皇就任当初から、世界の外交の場面に足を踏み入れている。ローマ在住のある外交官は「トランプ政権は戦争を終わらせたいという純粋な願望を持っている。おそらく、米国出身の教皇は、現時点では、外交の舞台でプレイすべきカードだ」と語ったが、バチカンの一部は慎重なままだ。「この調停が成功する可能性はほとんどない。そして、リスクは、トランプが忍耐力を失い、プーチンが彼を弄んでいることに気づき、ウクライナへの武器供給を増やす可能性があることだ」と、あるバチカンの関係者は警告した。バチカン主導の調停の展望は、依然として推測の域を出ない。

 一方、トルコは、イスタンブールで、ウクライナとロシアの代表団による直接会談の第1ラウンドを主催したが、これまでのところ、結論は出ていないが、双方が継続に関心を示している。レオ14世によって国務長官に再任されたパロリン枢機卿は、バチカンが「直接対話」を主催する用意があることを確認した。今の問題は、モスクワがその呼びかけに応えるかどうかだ。

 障害は政治のレベルにとどまらないかもしれない。教皇フランシスコの葬儀とレオ14世のミサに2人のロシア正教会代表が参列したが、軍事侵略が始まって以来、バチカンとモスクワ総主教庁の関係は凍結されたまだだ。

 ロシア側は、戦争を「形而上学的」と表現し、前線で殺されたロシア兵に救いを約束したキリル総主教に対するカトリック指導者の非難に、依然として激怒する声明を繰り返している。
 バチカンは、そのような声明を異端と見なしている。それでも、バチカンの調停が根付くなら、新たな宗教間対話への扉が開かれる可能性もある。そして、戦争の時代には、それさえも、希望の始まりとなるだろう。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2025年5月22日

(評論)「教皇フランシスコは亡くなったが、『Laudato si’』は今も生きている」-環境回勅発表から5月24日で10年

 (2019年9月9日、モーリシャス・ポートルイス=でのミサ会場で、信者たちから棕櫚の葉の歓迎を受ける教皇フランシスコ) [Photo via MaxPPP].

(2025.5.21  La Croix    Malo Tresca  and Lauriane Clément, Delphine Norbillier, Julie de la Brosse, Isabelle de Lagasnerie, Alban de Montigny

  epa07829574 Pope Francis arrives for Holy mass at the monument of Mary Queen of Peace, Port Luis, Mフランシスコは去ったが、Laudato si’は生き続けている—故教皇フランシスコが2015年5月24日に世界の環境危機に焦点を合わせた初の回勅を発表されて、24日で十年を迎える。この間、この回勅が自分の生き方や教会、世界にどのような影響を与えたのか、複数の関係者に聞いた。

 フランシスコはこの回勅で、生態系、経済、社会、そして精神的な危機が絡み合う今日の危機の根源に切り込んでいる。「すべての危機はつながっています」と述べた故教皇は、回勅で、科学的な真理に道徳的ビジョンを根拠づけることを、世界の指導者たちの誰よりも明確にした。

 「教皇フランシスコは、私たちよりはるかに巧みに危機を表現された」と、LaCroixの環境専門家ネットワークのメンバーである古気候学者のヴァレリー・マッソン=デルモットは語った。

 『Laudato si’』とそれに続く使徒的勧告『Laudate Deum (神をほめたたえよ)』が世界に環境革命をもたらさず、環境優先への転換に完全に火をつけられなかったことを嘆くことはできる。さらに悪いことに、気候変動否定論は今や”投票箱”にまで入り込んでいる。 

 だが、この回勅、使徒的勧告は、私たちの地球を守る動機づけの源、変革への道しるべ、そして現実主義と希望が両立可能だという証拠であり、依然として私たちに欠かすことができないものとして、あり続けている

 回勅十周年を記念して、La Croixは著名人にインタビューし、『Laudato si’』がどのように自分たちに課題を突き付け、鼓舞され、努力を促してきたかを振り返ってもらった。

*「世界の指導者によって書かれた最も包括的な環境文書」

 

=セドリック・ヴィラーニ(フィールズ賞受賞数学者、2013年から教皇庁科学アカデミー会員)=『 Laudato si’』を初めて読んだ時、私たちの世界的状況を明晰に総合的に語っていることに衝撃を受けた。世界の指導者によって書かれたエコロジーに関する文書としては、これまでで最も完全なものだ。教皇フランシスコは、科学的に厳密に地球の状況を分析し、いかなる主要な問題も逃していない。

 これほどバランスの取れた文章は珍しい。地球温暖化だけでなく、公害、水不足、生物多様性、社会的不平等、ロビー活動の破壊的影響などにも言及している。この文書が力強いのは、個人の責任と、強力な国際協定の必要性を結びつけているからだ。

 私は、コロンビア北部のシエラネバダに住むコギ族の人々と2週間暮らしたことがあるが、回勅の146項は、そうした先住民のコミュニティ、つまり「自分たちの領土を最もよく守る」コミュニティへの特別な配慮を促しており、私の心に深く響いた。

 科学者であり、不可知論者でもある私は、『Laudato si’』が科学と現実に根ざした精神的関与のモデルであると考える。科学的な世界の説明から始まり、私たち共通の家を大切にするための愛と力の源としての信仰を持ち込む。科学に耳を傾ける姿勢は、教皇フランシスコの特筆すべき点のひとつだ。

 世界的な盲目状態を前にして、『Laudato si’』は私に希望を与えてくれた。2017年から2022年までフランスの国会議員を務めていたときにも、私はこの本を読んでいた。その続編である『Laudate Deum』と、社会的補完物である回勅『Fratelli Tutti(兄弟の皆さん)』によって、教皇フランシスコは、これらの重大な問題に関して、知的リーダーシップの最前線に、教会を置いたのだ。

 

 

*「人類が、回勅の警告を真剣に受け止めずにいるのは、悲劇だ」

 

=コリンヌ・ルパージュ(弁護士、元フランス環境大臣、『Laudato si’』の出版当時、国連の『世界人権宣言』の策定に取り組んでいた)=2015年に『Laudato si’』が発表されたのは、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で地球温暖化対策に関する国際的な枠組みが採択されたわずか数カ月前のことだった。

 当時は、今日とは雰囲気が大きく異なっていた。コペンハーゲンでのCOP15の失敗の後、国際社会はようやく環境危機の緊急性を認識したように見えた。オランド仏大統領は、すべての人にとって住みやすい地球を確保するために、世界人権宣言を起草するよう、私に要請してきた。

 『Laudato si’』は勇気ある先進的なものだった。単に環境悪化を嘆くだけでなく、テクノロジーやトランス・ヒューマニズム(人間の能力を増強するために、現在及び将来のテクノロジーを利用することを提唱する哲学的・科学的運動)、そして「無限の成長」という神話に対し、深い問いを投げかけた。「人類が創造主だ」という概念に挑戦したのだ。

 その意味で、この回勅はディープ・エコロジー(生命の固有価値を尊重し、環境保護を重視する思想)の原則と密接に一致している。ディープ・エコロジーとは、人類による自然界の支配に疑問を投げかける哲学だ。教皇フランシスコは、すべての種の間の平等を主張するまでには至らないものの、動物や植物を問わず、すべての生命を大切にする義務を思い起こさせた。

 フランシスコは、人間を地球の所有者とする”創世記の解釈”を否定する。私たちは地球の保護者であり、管理者であるよう呼びかけている。その責任は、住みやすい世界を受け継ぐ未来の世代の権利を求める一部の人々の法的な主張を支えるものだ。フランシスコは私たちに、「兄弟姉妹として、誰も傷つけることなく生きるように」と呼びかけた。

 解決策は特に目新しいものではない。しかし、この回勅の強みは、その明快さと、包括性にある。生態系と人間の尊厳の両方を包含する、真のエコロジーへの転換を求めている。人類がこの警告を真剣に受け止めずにいることは、なんという悲劇だろう。私たちは今、その代償を払っているのだ。

 

 

*「『Laudato si’』は、驚きの書」

=ローラン・ベルジェ(フランスの民主労働総連合CFDTの元会長、現クレディ・ミュチュエル・アライアンス・フェデラル環境連帯研究所所長)=「私はカトリックの社会教説に親しんだ環境で育った。大学で歴史学を専攻していた時、ナントでのヴィルペレ司教の司教職(1936-1966年)に関する論文を書きながら、教会のテキストを読みあさった。それでも、常に教会の立場に同意してきたわけではない。だから、『Laudato si’』は率直に言って、心地よい驚きだった。

 教皇フランシスコは、気候変動と社会的不平等という2つの時限爆弾を結びつけた。平易な言葉を使って現代の課題に取り組み、私たちの社会で横行する消費者主義を明確な言葉で非難した。国際社会、特に裕福な国々に、責任を問いかけた。

 多くの政府が環境政策を後退させている今、この回勅はこれまで以上に重要な意味を持つ。そのメッセージは、CFDTの世界観や、クレディ・ミュテュエル・アライアンス・フェデラルの環境・連帯研究所で私が現在行っている仕事と一致している。

 回勅は私の職務を導くテキストというよりは、私が参考にした他の思想家や知識人の仕事と同様、堅固な基礎のようなものだ。2019年、私たちは複数のパートナーと共に「Living Well Pact」を立ち上げたが、環境問題と社会問題は深く絡み合っている、という回勅と同じ考えに基づいている。

 2020年に発表された回勅『Fratelli Tutti(兄弟の皆さん)』も印象的だった。フランシスコはグローバリゼーションを批判し、『私』から『私たち』へと焦点を移し、友愛と弱者の保護を呼びかけている。私の考えでは、教会は世界の挑戦に対して開かれた存在であり続けねばならない。カトリック教会の社会教説の父であるレオ13世の足跡をたどろうとする教皇レオ14世の選出は、私に希望を与えてくれる。

*「新教皇が、フランシスコの『Laudato si’』の遺産を引き継ぎ、私たちを導いてくれることを期待」

 

=フィリピン・サン・カルロス教区長のジェラルド・アルミナザ司教(化石燃料からの撤退と環境正義の提唱者)=教皇フランシスコが2015年1月にフィリピンを訪問され、その数か月後に『Laudato si’』を発表されたのは摂理にかなったことだった。フィリピンは、気候危機に対して最も脆弱な国のひとつであり、年間20~26件の台風や不規則な天候に直面している。気温は定期的に42℃を超え、地域によっては50℃に達することさえある。洪水や火山の噴火も加わり… 自然はまるで、私たちが学ぼうとしない教訓を教えようとしているかのようだ。

 『Laudato si’』は私の視野を広げてくれた。以前は、「危機が、人間にどのような影響を及ぼすか」だけに注目していた。今は、危機が生態系全体にどのような影響を及ぼすのかが分かる。フランシスコの 「インテグラル・エコロジー (人間の命を成り立たせている自分自身との関わり、他者との関わり、自然との関わり、神との関わりに、確かな調和を取り戻しつつ、皆がともに歩む人類共同体を作ろうとする考え方)という概念は、人権、尊厳、家庭生活、経済、正義、平和などすべてを包含している。すべてがつながっていることを思い起こさせ、他者や世界との関わり方を変えるよう私たちに呼びかけている。

 それは蜘蛛の巣のようなもので、1本の糸を引っ張れば全体が動く。フィリピンで起きたことは、フランス、地中海、アフリカに影響を与える。私たちは心を広げなければならない。どこに行っても、私はくつろげる。肌の色や言語、文化は違っても、私たちは皆、同じ共通の家に属している。

 そして、それは行動に移さなければならない。私が2013年から司教として奉仕しているネグロス島では、女性たちが30年以上前に石炭プロジェクトと闘い始めた。彼女たちの努力のおかげで、私たちは管轄する二つの州の知事を説得し、脱石炭と自然エネルギーの導入を約束させた。ネグロス島は、世界的な 「Hope Spot」(「Hot Spot 」をもじった言葉)となった。私たちは、汚れたエネルギーから脱却することが可能であることを示したい。

 今、私は、フランシスコのエコロジーの遺産を引き継ぎ、デジタル技術と人工知能の時代である今日の産業革命を通して私たちを導いてくれることを期待している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2025年5月22日

(評論)米歴史学者が語る「新教皇がレオ14世を名乗られた意味と、レオ13世の時代と私たちの時代」(Vatican News)

2021.05.15 Leone XIII Rerum Novarum

問:教皇レオ14世が10日、枢機卿たちとの初の面談で、「レオ」という名前を選んだいくつかの理由について説明され、特にレオ13世に言及されました。レオ13世は、「レオ」の名を冠した最後の教皇であり、19世紀後半の偉大な社会改革者でした。教皇がレオ13世の時代と私たちの時代とのつながりについて語ったことについてお話しください。

答: 教皇レオ13世は1878年から1903年まで在位された、20世紀最初の教皇です。彼が生きた時代は社会が大きく変化した時代であり、教会は当時の差し迫った社会問題の多くに対する答えを必要としていました。教皇レオ14世は、特に彼の偉大な、カトリック教会の社会教説のもととなった1891年の回勅『Rerum novarum)』に言及され、なぜ「レオ」を選んだのか語っておられます。

新教皇は、13世が、社会が大きく変化する時代に生きていたこと、その変化は、教会や教会の教義だけでなく、人間の尊厳そのものへの挑戦であったことを、認識されている。教皇が「レオ』を名乗られたのは、教皇レオ13世がちょうど新たな時代への移行の時代に生きたように、私たちも、そうした時代に生きていることを理解しておられることを意味しています。レオ13世は、社会主義と自由放任の自由資本主義という二つの危険の間に、カトリックの道、カトリックの解釈を織り込もうとしたのです。

実際、教皇レオ14世は、「今日の人類への挑戦と人間の尊厳への挑戦、特に人工知能の問題のために、教会がこれらの非常に深刻な問題に取り組む新しい時代を示すために、この名前をつけた」と語っておられます。

問:教皇はまた、新たな産業革命についても語られていますが、レオ13世は第一次産業革命がもたらした課題に取り組まれました。それについて少し説明していただけますか。

答:教皇レオ13世の時代には、大規模な都市化が進んでいました。人々は欧州と北米の農村から都市に移り住み、それによって劣悪な生活環境、劣悪な労働条件に遭遇しました。彼らは企業経営者たちによって労働組合の結成を妨げられ、既存のシステムを転覆させようとする新しい政治イデオロギーに惹かれました。

そうした中で、レオ13世は労働者の権利を強化しようとされました。労働者の仕事への尊厳と人間の尊厳、特に家族という重要な社会的単位における人間の尊厳を強化することを望まれたのです。

教皇レオ14世は今日、新たな転換期を見ておられます。その転換期とは、AI(人工知能)の台頭、ロボット工学の台頭がもたらすものであり、今後10年、20年、もしかしたらそれよりも早く、労働の尊厳、特にレオ13世が直面された”ブルーカラー”、つまり工場労働者ではなく、”ホワイトカラー”、つまりオフィスワーカー、コンピュータ・プログラマー、それを教える人の労働に対する挑戦が起きる。新教皇は、レオ13世同様、人類のこの重要な転換期を確実にする最前線に立ちたいと願っておられます。

教会は、過去二千年以上にわたって、このような根本的な転換期を通して常に人類に寄り添ってきました。教会は、人々が正義において、仕事の尊厳において、そして人間としての尊厳を保つために、自分たちの立場や生活を維持するのを助けることができる、真の、そして決定的な対応力を持っているのです。

問: あなたがおっしゃったことの中から2つ取り上げたい。ひとつは、労働者の尊厳だけでなく、仕事の尊厳についても言及され。また、レオ13世は労働者の苦境に対処されようとしたが、今は”ブルーカラー”の労働者よりも、”ホワイトカラー”の労働者が増えている。一方で、私たちはまた、モノづくりの仕事、発展途上国の人々によって先進国向けの製品を生産するような仕事で、人々が搾取されている世界の多くの地域を目の当たりにしています。そして、この2つのテーマは故教皇フランシスコにとっても非常に重要なものでした。レオ14世はそれを認識されていると思うが。

答:レオ14世は南米で司教を務めた経験から、搾取される労働者の問題に非常に敏感だと思います。世界各国の安価な労働力や、時には不幸にも奴隷労働に依存している世界的な経済システムの状況を知っておられます。ですから、レオ13世が第一次産業革命において声なき人々の代弁者であったように、レオ14世は、そのような人々の代弁者となるでしょう。レオ14世は13世の伝統を引き継ぎ、この世界におけるさまざまな不当な形態の搾取によって脅かされている人々の代弁者となるでしょう。その意味で、彼は故フランシスコの取り組みを受け継いでいくことにもなります。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2025年5月15日

(評論)レオ14世の第一歩は、フランシスコとの連続性を示しつつ、「合議制による統治」を明確にしている(LaCroix)

 (2025.5.12 La Croix   Nicolas Senèze

 教皇レオ16世の選出からこれまでの発言と見る限り、フランシスコとの強い継続性を強調しつつ、彼自身のアウグスティヌス的なタッチと、より大きな合議性で統治するという明確な意図が見て取れるようだ。

教皇レオ14世の最初のレジーナ・コエリ、バチカン市国、サンピエトロ大聖堂のロッジア、2025年5月11日。(P(picture alliance / Stefano Spaziani / Newscom / MaxPPP)

  新しい教皇の初期の動きは注意深く読まれ、広く解釈されている。彼は何をするのだろうか?彼は何を決めるのだろうか? バチカンでは、人々は徐々にフランシスコの後継者を知り始めている。ある関係者が言ったように「急がない、急がない、ゆっくり行こう」だが。

 それでも、教皇レオ14世の最初の発言と公の場への登場は、教皇制が形作られつつあることを垣間見せてくれる。フランシスコの遺産を継続し、唐突ではなく、慎重に進むことに努めているように見え、しかも、明確かつ確固と話すことを恐れない姿…

 11日の主日の正午の祈りで、彼はフランシスコの「第三次世界大戦の断片化」を描写するフレーズを繰り返し、教皇パウロ6世が国連の演壇から「これ以上の戦争はやめよう」と嘆願した1965年の嘆願を繰り返した。

 そのわずか数日前、8日木曜の夜に行われた最初の講話で、彼はすでに「すべての人に平和を」と呼びかけていた。日曜日には、ウクライナの「公正」で「永続的な」平和、捕らわれている人々の解放、拉致された子供たちの帰還を強く求めた。また、ガザでの停戦と人質の解放を呼びかけた。
 その同じ朝、この日が「世界召命祈願の日」であることを振り返りながら、再びフランシスコからのメッセージを引用し、前任者と同様に、彼らの人々の近くに生きる羊飼いの必要性を強調した。

*喜びに満ちた信仰と親しみやすい口調

 

 その同じ司牧的な精神は、前日土曜日の、ローマの東約50キロにある小さな町、ジェナッツァーノへの急遽の訪問中に示された。そこで彼は、かつて彼が総長を務めていたアウグスティヌス会に委ねられた善良な助言の聖母の礼拝堂で祈り、集まった何百人もの地元の人々に挨拶する時間を取った。それは彼にとって初めての公の外出であり、微笑みを浮かべ、親しみやすい教皇を印象付けた。彼の新しい役割が命じる注目に、まだ少し圧倒されているようにも見えた。

 フランシスコとのその連続性の感覚は、彼がジェナッツァーノから戻った後、前任者の墓で祈った土曜日の夜にも明らかだった。翌金曜日の朝、システィーナ礼拝堂の枢機卿たちとのミサで、教皇として初めての説教をし、「救い主イエスへの喜びに満ちた信仰」を宣言することの重要性を強調。そして、キリスト教の信仰があまりにも頻繁に「弱者や知性のない人々にとっては、ばかげたもの」と片付けられ、社会は「技術、お金、成功、権力、そして快楽」を好んでいる、嘆いた。

*第二バチカン公会議への全面的なコミットメント

 続けて新教皇は、「そのような場所では、使命を果たすことが急務です。信仰の欠如は、しばしば悲劇につながるからです。意味の喪失、慈しみの無視、最も劇的な形での人間の尊厳への攻撃、家族の危機、そして私たちの社会を深く苦しめる他の多くの傷です」と訴え、翌日、シノドスホールでの枢機卿たちとの会議でこのビジョンを強化した。

 そして、枢機卿たちに、「 求めるべき普遍的教会の姿は、第二バチカン公会議をきっかけに何十年にもわたって続いています。今日、私たちの完全なコミットメントを共に新たにしましょう」と促し、フランシスコの使徒的勧告『Evangelii Gaudium(福音の喜び)』のレンズを通して第二バチカン公会議を解釈する意向を明らかにした。

 フランシスコの教皇職の綱領として広く見なされているその画期的な文書から、レオ14世は、「全キリスト教共同体の宣教者による改宗」、「最も小さい者と拒絶された者への愛情深いケア」、「さまざまな要素と現実における現代世界との勇気と信頼に満ちた対話」など、いくつかの主要なテーマを強調した。また、第二バチカン公会議の『Gaudium et Spes(現代世界憲章)』を想起しました。

*彼自身のアクセントで、合議制のガバナンス

 フランシスコの脚本から深く引き出しながら、レオ14世はすでに彼自身のアクセントを加えている。前任者と同様に、彼は貧しい人々への懸念を共有している。しかし、1891 年に『Evangelii Gaudium(新しい事柄について)』を交付したレオ13世、その工業化に対する教会としての最初の主要な対応に敬意を表して、自身の教皇としての名に「レオ」を選んだことで、彼は新しいテクノロジー時代の課題に立ち向かう意欲を示している。AI(人工知能)、経済の混乱、人間の尊厳、正義、労働に対する新たな脅威など、今日の革命がもたらす課題について、カトリックの教説が語られることを望んでいる。

 最も注目すべきは、10日土曜の枢機卿との会議で、「合議制」の重要性を強調したことだ。これは教皇選挙の前の枢機卿団の全体会議で出された主要な批判の一つ、つまりフランシスコが時に孤立した形で統治したこと、に対する”返答”といえる。レオ14世は、「教皇の最も緊密な協力者」と表現した枢機卿たちとの密室での会話の前に、短く話すことで明確な声明を出したのだ。

 バチカンが「自由な会話」と呼んだ彼の目標は、「アドバイス」、「提案」、「提案」を集めることだった。「非常に具体的なこと」と彼は要求した。このやり取りは、レオ14世が聖ペトロ大聖堂のバルコニーからの選出直後の演説で呼びかけた「シノダル(共働的)な教会」を具現化する、新しい統治モデルへのシフトを示しているのかもしれない。

*「キリストが残るように消えなさい」

 フランシスコがイエズス会士であったのに対し、レオ14世はアウグスティヌス会士だ。そして、それが最も意味のある違いを示しているのかもしれない。若い頃、ロバート・プレボストは、アウグスティヌスの共同体における先任者の役割に関して教会法の博士号を取得している。その役割は、権威だけでなく、霊的な奉仕と共同体の識別力に根ざしていた。

 今、グローバルな共同体を率いることになったレオ14世は、教会は「その構造の素晴らしさや建物の壮大さ」で知られるのではなく、「その構成員の神聖さ」、つまり「神が召した者の奇跡を宣言するために選んだ人々」によって知られるべきである、と枢機卿たちに強調した。

 深くアウグスティヌス的な、キリスト中心のビジョンの中で、ほんの数日前に世界的な注目の中心にいた男は、彼が「教会で権威を行使するすべての人に対する無条件のコミットメント」と呼んだ印象的なアピールで締めくくられた。 「キリストが残るために姿を消すこと、彼が知られ、栄光を受けるために小さくなること、そして誰も彼を知り、愛する機会を奪われないように、自分自身を完全に捧げること」である、と。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2025年5月13日

(評論)新教皇レオ14世について、すでに分かっていること(そして予想されること)は(Crux)

Pope Leo XIV: What we know already (and what we can expect)

  Pope Leo XIV, with Monsignor Leonardo Sapienza, walks out of the Vatican’s Synod Hall on May 10, 2025. (Credit: Vatican Media.)

(2025.5.11   Crux  Contributing Editor   Christopher R. Altieri)

 枢機卿たちは教皇フランシスコの後任として教皇レオ14世をペトロの座に選んだ。

 ロバート・フランシス・プレヴォストとして生まれ、ローマでアウグスティヌス会の総長を務め、ペルーのチクラヨで司教を務めた宣教司祭がバチカンにやってきたのは2023年のことである。

 カトリック教会に前例がないことはないが、このようなことは過去にあまり例がなく、教会ウォッチャーを驚かせたことは間違いない。

*ハードパワーとソフトパワー

 従来の常識では、枢機卿が米国から教皇を選ぶことはないだろう、と考えられていた。それは、バチカンの 「ソフトパワー 」と米国の政治的(経済的、軍事的、文化的)影響力という 「ハードパワー 」が不健全な形で結合してしまう、という恐れを持っていたからだ。

 このような考え方を正当化する前例がないわけではなかった。

 14世紀の大半、教皇が、そして最終的には教皇の”宮廷と政府”すべてが、フランスのアヴィニョンという町に移された。アヴィニョン教皇庁は、当時欧州の覇権を握っていたフランス国王が、教皇選挙が機能しなくなったのを解決する方便として始まった。それはすぐに「アヴィニョンの捕囚」(時には「バビロン捕囚」)として知られるようになり、1309年から1376年までの70年間続いた。要するに、アヴィニョンを教皇庁に引き入れることは、教皇庁をアヴィニョンに引き入れることと同じか、それ以上に悪いことになるのではないか、という懸念があったのだ。

 「米国が政治的に衰退するまでは、米国から教皇が選ばれることはないだろう」というシカゴの故フランシス・ジョージ枢機卿の言葉は、長年にわたって広く使われてきた。時代の予兆を読み解く人々は、今、目撃していることは、その慣れ親しんが”知恵”の破棄を意味するのか、それとも予言の成就を意味するのか、おそらくその両方、と考えていることだろう。

*「レオ」という名前に込められた意味は

 いずれにせよ、「レオ」という名前には大きな意味がある。歴代教皇で最後に「レオ」と名乗ったのはレオ13世で、近代におけるカトリックの社会教説の父であり、産業革命の熱気に包まれた時代に、資本と労働の権利と義務に関する重要な回勅『Rerum novarum』を教会と世界に発出した。

 8日木曜日の夜、つまり教皇レオ14世が選ばれた夜に、教皇と食事をしたラディスラフ・ネメット枢機卿は、RTクロアチア・ラジオに対し、「教皇は21世紀に展開する『デジタル革命』を敏感に感じ取っておられる」と語った。「(教皇は)私たちは新しい革命の中にいると言いわれた。レオ13世の時代に起きていた産業革命と対比するように」。

 Cruxのチャールズ・コリンズが教皇選挙の数日前に鋭く指摘したように、メディアの報道(枢機卿の発言の報道、分析、識者の論評)は、枢機卿たちが、選挙にあたって、一方では「伝統的価値観」やラテン語のミサ、他方では同性婚や女性聖職者をめぐる論争に象徴される保守とリベラルの対立に焦点を当てた課題を念頭に置くであろうことを強く指摘していた。

 ひと言で言えば、「20世紀後半の論争」だ。これに対して、コリンズは「21世紀の前半は、人間であることの意味を問う社会だ」と書いている。これらの初期の兆候を、新教皇が認識しているとすれば、9日土曜日の朝、新シノドス・ホールに集まった枢機卿団を前に新教皇が行った講話で、教皇自身が可能性の残る疑念を取り除いたことになる。

 教皇レオ13世は、歴史的な回勅『Rerum novarum(新しい事柄について)』をもとに、最初の偉大な産業革命の文脈における社会問題に取り組んだ。そして、レオ14世は語った—「今日、教会は、もうひとつの産業革命とAI(人工知能)の発展に対応して、その宝である社会教説をすべての人に提供する」。

内に向けて、外に向けて

 教皇レオ14世が宣教司祭として、また世界南部の貧しい地域で司教として奉仕したこと、また、聖アウグスティヌス修道会の総長、そしてバチカンの司教省長官として教会行政で指導的役割を果たしたことについては、これまで多くのことが語られてきた。これらすべてが、教皇選出にあたっての、枢機卿たちの判断に重要な役割を果たしたことは間違いない。

 レオ14世がそれなりに評判の高い教会法学者であることは、初期の論評から判断すれば、特に教皇フランシスコ以降の教会の法学状況を鑑みれば、一般に考えられる以上に重要なことだ。

 フランシスコの治世の間、高位の教会関係者たちから批判されたことのひとつは、しばしば私的なものであったが、教会内の広範な見方は、フランシスコはこれまでペトロの座に就いた者の中で最も注意深い秩序ある立法者ではなかった、というものだった。

 例えば、教皇フランシスコが2015年に行った結婚裁判の構造改革は、普遍的に好意的に受け入れられたわけではなかった。フランシスコによる教皇庁の断片的な改革は、理論的には適っていたが、教会の中央統治機構を21世紀の行動に適した形にする実際的な細部への配慮に欠けていた。

 教皇フランシスコは、特定の問題を解決するために法的命令を出すことを好んだ。そのような物事の進め方は、目の前の問題にうまく対処できるかもしれないが、後々に困難を引き起こす傾向がある。フランシスコはその教皇職期間中、年におよそ5つのペースで使徒的書簡(motu proprio)を発布した。

 少し視点を変えてみよう。 教皇ヨハネ・パウロ二世は在位中の26年間で31通の使徒的書簡を発布した。フランシスコは、在位5年目の終わりに、それを上回り、最後までペースを緩めることはなかった。

 フランシスコの教皇任期中、最も重要な法改正は2019年に制定された「Vos estis lux mundi」だ。フランシスコは、教皇就任後、しばしば憂慮すべき不始末に悩まされたが、この法律を意味ある規則性や透明性をもって利用することに消極的であることが証明されている。そして、枢機卿たちは、自分たちが選んだ人物が事態を収拾しなければならないことを知っていた。

*クローゼットから”骸骨”を引き出す

 バチカンのオブザーバーたちがすぐに指摘したのは、レオ14世は虐待と隠蔽のケースを扱うのに不完全な記録を持っているということだった。彼が直面した告発のいくつかは、信憑性が非常に疑わしい方面からのもので、当時のプレヴォスト枢機卿の容疑を晴らすような審査結果が出されていた。

 だが重大な不始末の疑惑が残っている。そのひとつは、十分に根拠があるように見える。その疑惑とは、シカゴ大司教区の虐待司祭ジェームズ・レイ神父の事件に関するものだ。2000年にシカゴのアウグスチヌス会の管区長であった当時のプレヴォスト師は、性的虐待の疑惑があり10年近く聖職を制限されていたレイ神父を、アウグスチヌス会の所有する建物に住まわせた、というものだ。

 シカゴ大司教区は、小学校のすぐ近くにあるアウグスヌス会の建物にレイを受け入れる際、レイに対してされている聖職の制限を指摘したと伝えられている。当時のプレヴォスト師は、小学校側に警告を発することも、警告を発するように仕向けることもなかったようだ。

 レイの問題は、聖職者による性的虐待と隠蔽が世界的なスキャンダルに発展する2年前に起こったものだ。スキャンダルの世界的な表面化は2002年にボストンから始まったが、世界中に広がる前に、瞬く間に米国全土を巻き込んだ。

 聖職者による性的虐待と隠蔽の危機は、教会の最近の歴史の一部であるだけでなく、非常に長い歴史を持つ、現在の教会の一部であることは間違いない。この危機に関する教会の主要な専門家の一人であるイエズス会のハンス・ゾルナー神父は「私たちが生きている間にこの危機が終わることはないだろう 」と2019年3月に語っている。

 危機は2000年にはすでに私たちと共にあったが、スキャンダル、そしてスキャンダルが強いる意識は、地平線上にぼんやりとしかなかった。だが、間違いなく、人々を危険にさらし続けている。

 BishopAccountability.orgのアン・バレット・ドイルは、レオ14世の、聖職者の性的虐待に関連する記録を 「厄介なもの 」と呼ぶ声明を発表した。その1つの「例外 」は、ペルーを拠点とするカトリック系団体 「Sodalitium Christianae Vitae(SCV)」に対する制裁である。SCVの内部告発をした虐待被害者、ペドロ・サリナスは、プレヴォスト枢機卿がバチカンの司教省長官であった当時、この団体を制裁するため「極めて重要な役割 」を果たした、と語っている。

 とはいえ、バレット・ドイル氏は声明の中で、教皇レオ14世は、聖職者による性的虐待への対処で、「自ら進んでリーダーシップを発揮できることを証明しなければならないでしょう… 被害者とその家族の信頼を勝ち取るのは、教皇レオ14世にかかっているのです」と言明した。

 聖職者の性的虐待に関するプレヴォスト師の不完全な記録は、実際、枢機卿たちの間で遅ればせながら目覚めつつあることの表れかもしれない。それは、枢機卿たち、そして彼らが選んだ人物が、虐待と隠蔽がいかに重要な問題であるかを、ようやく理解したことを示しているのかもしれない。 彼らが教皇に選んだ人物が「クローゼットの外に出ている人物」、つまり、彼が精査され、弁解の余地がないことを知っている…。

 そう考えると、教皇レオ14世の選出は、枢機卿団が、聖職者による性的虐待とその隠蔽がもたらしている危機を、真剣に受け止めていることの表れなのかもしれない。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2025年5月12日

・新教皇レオ14世がご自身のモットーと紋章を公表

Pope Leo XIV and his coat of armsPope Leo XIV and his coat of arms 

 教皇レオ14世が10日、ご自身の所属修道会であるアウグスティヌス会のルーツを明確に反映した紋章とモットーを公表された。

 教皇レオ14世の紋章は、教皇のアウグスティヌス会士としてのルーツと、教皇在位中に推進しようと努める価値観、特に教会内の統一と交わりを明確に反映している。

 シールドは斜めに2つのセクションに分かれており、上半分には青い背景に白いユリが描かれている。

  盾の下半分は明るい背景で、アウグスティヌス修道会を思い起こさせる、矢で貫かれた心臓が描かれた閉じた本の図像が描かれている。これは聖アウグスティヌス自身の回心体験を直接参照したもので、彼は神の言葉との個人的な出会いを「Vulnerasti cor meum verbo tuo」(あなたの言葉は私の心を刺し貫きました)というフレーズで表現している。

  教皇レオ14世はモットー として、このアウグスティヌスの伝統を反映したモットー「In Illo uno unum」を選ばれた。これは「一において、我々は一つである」という意味だ。このフレーズは聖アウグスティヌスの詩篇第127章の解説から取られており、そこで彼は「私たちキリスト教徒は多数であるが、唯一のキリストにおいて私たちは一つである」と説明している。

  2023年、バチカンニュースのティツィアナ・カンピシ氏とのインタビューで、当時枢機卿だったロバート・フランシス・プレヴォスト師は、このモットーの重要性について次のように語っっている。

 「私の司教のモットーからもわかるように、一致と交わりはまさに聖アウグスチノ修道会のカリスマの一部であり、また私の行動や考え方の一部でもあります… 教会における交わりを促進することは非常に重要だと信じています。そして、交わり、参加、そして使命がシノドスの3つのキーワードであることはよく知っています。ですから、アウグスティヌス会の会員として、私にとって一致と交わりを促進することは基本です」。

 聖アウグスティヌスの詩篇 127 章に関する考察は、この考えの神学的根拠を強調している。 「キリストは頭であり体であり、一人の人間である。ではキリストの体とは何だろうか?それは彼の教会である」とアウグスティヌスは書いている。そして彼はこう付け加えている。「私たちキリスト教徒は多数ですが、唯一のキリストにおいて私たちは一つです。私たちは多数でありながら一つです。なぜなら、私たちはキリストと一つになっているからです。そして、私たちの頭が天にいるなら、その肢体も従うでしょう」。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2025年5月11日

(評論)新教皇レオ14世が直面する12の課題(La Croix)

(2025.5.9 La Croix   Arnaud Bevilacqua and Mikael Corre, Céline Hoyeau, Héloïse de Neuville, Matthieu Lasserre, Dorian Malovic, Mélinée Le Priol, Nicolas Senèze, Malo Tresca)

 虐待から外交、性倫理から教会改革まで、新教皇は相当な課題に直面している。La Croixは、レオ14世を待ち受ける12の主要な優先事項、つまり、緊張した世界と教会において、預言的な権威と信頼性の両方をもって語る彼の能力を形作る問題を概説する。(写真は pixabay.com より)(写真は pixabay.com より)

①女性と一般信徒の役割向上

 

 2024年10月の議会は、最も多くマークされました 教会の歴史における女性を含むシノドス。約50人の女性が参加しました。 シノドス第2会期で投票した。投票権 2023年に女性に与えられた米国聖公会の集会は、最も大胆なジェスチャーの1つでした フランシスコの女性に対する教皇の。

 もう一つの大きな変化は、 一般の人々(男性であれ女性であれ)が、バチカンの省のトップに立ったことだ。その最初の女性はシスター・シモーナ・ブランビラだった。そしてフランシスコの下で約20人の女性たちが主要なバチカンの部署のポストに配置された。

 新教皇がこれらの改革を覆すと期待する人はほとんどいない。だがしかし 彼はどの方向に進むのか?

 大きな問題の1つは、 女性に司祭叙階の道を開くのか。多くの神学者は、聖書的な根拠が強くないと考えているが、 彼らの叙階を否定し、それは公式に禁止されているが、” シノドスの道”の歩みの中で、繰り返し再浮上してきた。

 また、不確かなのは、これが、フランシスのビジョンであるかどうかだ。 「シノドス教会」—すべての洗礼を受けた人々を対話に導き、分かち合う教会。その 責任は、彼の教皇職を超えるかも知れない。

②緊張が深まる道徳と性に関わる問題への対処

 

 これは、教会で最も論争の的となっているものの一つだ。表に出して世界に語りかけることの難しさがもとになっている。世界中の信者たちは、それが 道徳と性的な教えに関わるものと受け止めている。

 2023年12月の出されたFiducia Supplicansで、 同性カップルの非典礼的祝福を条件付きで許可されたことで、緊張が頂点に達した。アフリカの一部の司教団は、これを拒否した この文書は、欧米の多くの人々が長年の懸案の解決の第一歩と歓迎したものの、受け止め方の”南北格差”が拡大し、統一性と一貫性が衰えた教会に分断の恐れが高まっている。。

 緊張の根底にあるのものの一つは、相対主義に対する保護手段として教義の明快さを求める声。 もう一つは、具体的な状況に対し、福音のメッセージが一連の禁止事項に還元されないようにする司牧的アプローチの要請だ。

 フランシスコは司牧的な道を確かに選ばれたが、それ以来、規範と実践の間のギャップ、混乱の深まりを懸念する声が上がっている。同性愛、避妊、生命倫理などの問題 は、新教皇の下での議論の中心であり続けるだろう。慎重なナビゲートが求められる。

③聖職者による性的虐待がもたらす危機への対処

 ベネディクト16世のリードに続いて、フランシスコは決定的な役割を果たしました 教会での性的虐待と戦うための努力、特に彼の2018 「神の民への手紙」と2019年の世界司教サミット。それでもなお やるべきことはまだたくさんあります-特に、虐待が頻繁に行われるグローバルサウスでは いまだにタブー視されているテーマです。

 虐待の発覚に最も動揺している国々は、 予防措置と報告プロトコルが実施されていますが、広大な地域ではまだ不足しています リスニングセンター、民事司法制度との協力、および適切 司祭の養成。重要なテストは、バチカンが完全な Vos estis lux mundiの地方施行、2019年の法令 司教が虐待を報告すること—まだめったに適用されないこと。

 性的虐待以外にも、より広範な課題が残っています。 精神的な操作と権力の乱用に対処すること、多くの場合、大人が関与すること、 レイまたは宗教的。新しい教皇は次のステップに進み、神学者を招待しますか そして司教たちは、より深い霊的、神学的、教会的な教訓を引き出すために このシステミックな危機?これまでのところ、教会の歪んだ質問 権力、身体、そして世界との関係は、ほとんど探求されてこなかった。

④世俗化された現代社会における福音宣教

 信仰にほとんど無関心に見える現代社会で、教会はどのようにして福音を宣べ伝えることができるのか。この問いかけは、従来から続いている欧米から、中南米やアフリカの一部へと広がっている。

 教皇選挙に先立って繰り返し開かれた全体会議で、多くの枢機卿が「 世俗化する世界への教会の対応が、今日の中心的な課題となっている」と指摘。「閉鎖された世界観の中で、人々は個人主義と主観主義に傾倒している」「では、どのように教会は、世界と関わるか に強い関心を持って行動しているか。それとも、疎外された立場に身を置いているのか」などの反省も出た。

 新教皇はどのような道を選ぶのか? そして、教皇、枢機卿たちの福音宣教の努力は、信徒たちの日々の生活を通した証しによって支えられなければならない。

⑤トランプの米国との関係をどう進めるか

 バチカンと米国メリカの関係は、 フランシスコの教皇在任中に最低となった。教皇は、 「資本主義の行き過ぎ」、つまり世界経済を「人を殺す経済」と呼び、 トランプ大統領の厳しい移民政策を非難した。トランプの移民問題担当者は「 私たちの国境を守るために、教皇は私たちに何をしてくれるのか。バチカンの周りにも、壁があるではないか」と反論した。

 バチカンは今、微妙な道を歩まなければならないだろう。 世界をリードする大国との開かれた対話を維持しながら、 人権に基づいた主張を続ける必要があるが、トランプを強力に支持する カトリック教徒(ある世論調査では、全信者の64パーセントが支持している)がいる中で、政治的問題だけでなく、伝統的な教義を信奉するに声に、どう向き合っていくのか。

 そして、もう一つの差し迫った懸念は、カトリック教徒であるバンス副大統領によって擬人化されたナショナリズム。新教皇は、 カトリック教徒を遠ざけない形で、教会の価値観を持って、これらのイデオロギーの流れに慎重に対処する必要がある。

⑥気候変動問題への対応

 フランシスコと彼の回勅「ラウダー・ト・シ」によって バチカンは、気候変動との闘いにおける主要な道徳的声となった。この遺産を受け継ぐ新教皇は、大きな課題に直面するだろう。それは、 より広い世界での「integral ecology(自然と人間の活動が密接に関わっていることを強調する、包括的な生態学的な考え方)」の深い一貫性を把握し、 生態学的懸念と「pro life(人工妊娠中絶に反対し、生命尊重の立場をとる人や団体、考え方を指す言葉です。具体的には、胎児の生命を保護し、中絶を合法化しないことを支持する立場)」倫理は矛盾していないようにするか、だ。

 フランシスコの「使い捨て文化」批判に対する批判もある。「彼は妊娠中絶と安楽死に反対されました。しかし、もっと 静かに、おそらく環境変革のためのより広範な連合を構築するための努力がひつようです」とある大学の学長を務めるシスターが語る。

  環境保護と、妊娠中絶や自殺幇助への反対は、 人生と自然に対する功利主義的な見方を拒絶する同じ論理から出ている。気候変動で言えば、今 世紀末までに地球の平均気温が3°C上昇する可能性があると予測されているが、 教会はこれへの対処を最優先事項としているにもかかわらず、具体的な行動に踏み込まず、「環境主義」にとどまっている。

⑦分断が進む教会で、どうやって一致を維持するのか

 

 フランシスコが始めた”シノドスの道”の歩みは、教会が抱える問題の深さを明らかにした。 教会における文化的および神学的分裂。多元主義が台頭する中で、教会はどのようにして一致を維持できるのか ?

 世界の一部の地域の教会では、教会 改革、特に性道徳と女性の役割などに関して意見が大きく分かれている。特にアフリカやアジアの一部では、より保守的な路線を提唱する声が強い。新教皇は、これらの相反する流れに巧みに対応することで分裂が決定的になるのを避けねばならない。

 重要な試金石は、新教皇が フランシスコが始めた ”シノドスの道”の歩みフォローアップ。その歩みで得たものを制度化するのか、それとも 教義の統一性を回復するために後退させるのか? どちらの選択にも、教会の一部を疎外するリスクがある。

⑧いまだ途上のバチカン改革の推進

 教皇フランシスコはバチカンに抜本的な改革をもたらす Praedicate EvangeliumのCuriaを交付し、実行された。福音宣教をバチカンの使命の中心に置き、省や委員会などの部署の再編成は大きく進んだが、改革の全体像はまだ出来上がっていない。特定の部署の統合・再編では、 役割と責任について混乱を招き、まだ調整中の部署もある。または人員の効率化などもまだ進んでおらず、 フランシスコが繰り返し言われた「地方分権化(権限のバチカンから現地教会への移譲)」も実現していない。

 新教皇は、これらの改革を確実に仕上げねばならない。バチカン行政の明快さと士気を高めつつ進める必要がある。一部の枢機卿は、財務の透明性を高めることも求めている。財政赤字を払しょくし、 不透明な支出をなくすことも課題だ。

⑨激動の世界でバチカン外交をどう進めるか

 新教皇は、フランシスコの野心的な外交課題を引き継ぐ。 ウクライナと聖地の平和に向けた努力を促進し、キリスト教他宗派、他宗教との対話の促進、そして、中東、アフリカ、およびアジアの一部で少数派となり、迫害されているキリスト教徒を守ることも重要だ。

 教皇フランシスコは、慎重な外交のモデルを好んだ。 多くの場合、対立よりも調停を選択した。これは彼の慎重な態度に表れていた。 中国へのアプローチと、ロシアとウクライナとの対話を維持するための彼の試みが続けられたが、東欧の司教たちと一部の人権擁護者などから、姿勢の曖昧さが批判されることもあった 。

 新教皇はこのような外交路線を続けるかどうかを決めなければならない。 フランシスコの”非同盟外交”継続のために、より率直で価値観に基づいたスタンスを採用するか否か。 いずれにせよ、新教皇は、 ロシアのウクライナ侵略や、トランプ米大統領の自国ファーストの教皇の中で、国連など国際機関が影響力を失い、国際規範の崩壊が進む中で、世界におけるバチカンの役割を再定義する必要があるだろう。

⑩キリスト教他宗派、他宗教との関係を深める

 第二バチカン公会議に始まったエキュメニズム(キリスト教の一致の運動)は、カトリック教会にとって、依然として中心的な課題だ。フランシスコの下で、エキュメニカルな対話が行われた。彼の2016年のギリシャ正教総主教との会談、さらにロシア正教のキリル大司教との歴史的な会談を実現したが、その後のロシアによるウクライナ軍事侵略によって、進展が妨げられた。

 キリスト教他宗派とのエキュメニカルな取り組みは続いているが、分断の動きもある。 特に福音派とペンテコステ派の教会は、急速に保守的な動きを強めい、グローバルサウスで、しばしばカトリックの教えが挑戦を受けている。

 こうした世界的な様々な変動の中で、新教皇は、カトリックのアイデンティティを損なうことなく、キリスト教の一致を、 政治的な目標としてではなく、分断された世界における福音の証人としてすすめねばならない。

⑪召命を復活させ、聖職者の生活を新たにする

 世界の多くの地域で司祭の不足が深刻化している。欧州と北米の国々でそれが顕著だ。一方で、 アフリカやアジアの一部などでは、司祭の需要が強い。そうした中で、課題は、まず、司祭の養成を確実にすること、 心と精神の両方を形成することだ。もう一つの課題は、聖職者の間での士気の低下にどう対処するかだ。 最近の教会改革への対応で混乱したり、性的虐待と高位聖職者による隠ぺいなどで、司牧活動への気力を失くすケースも目立っている。

 新教皇は、構造的な問題にも取り組む必要がある。一般信徒の教会における主導的役割の拡大、終身助祭の昇進などの改革、または 教区制度の見直しなど、司祭減少の中で、活気を取り戻す具体的取り組みが求められる。

⑫危機の世界に必要なのは「希望」をもたらし、人々の心に触れる能力

 今日の世界は「不安」によって特徴づけられている。気候変動、 戦争、経済の不安定さ、社会のなどなど。多くの人々、特に 若い人々は、人生に意味を見つけるのに苦労している。教会は、そうした世界、人々に、答え以上のもの、「希望」を提供せねばならない。

 ”絶望の解毒剤”として、教皇フランシスコはしばしば「喜び」「慈しみ」「優しさ」について語った。教会は”戦乱”に満ちた現代社会で、教会は自己を守る「要塞」になてはならない、苦しむ人々のための「野戦病院」になるべきだ、と繰り返し訴えた。新教皇はそのアプローチを継続する必要がある。そして、教会の壁を越えて、人々の心に響く、新しい言葉を語ることが求められる。

 新教皇の信頼性は、 教義の明確さや制度的な管理だけにかかっているのではない。何よりも、人々の心に触れる能力だ。あるバチカンのオブザーバーが言ったように、「現在の分裂の時代に、人々は 自分の心の奥底にある恐怖や願望に語りかけ、『癒しへの道』提供できる人を求めている」のだ。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2025年5月9日

(評論)米国人教皇レオ14世の誕生の背景に時代の変化、故教皇の課題取り組みの継続を枢機卿たちは望んだ(Crux)

(2025.5.8 Crux   Elise Ann Allen and John Allen)

 ローマ₋発-8日の木曜日、教皇選挙のためにバチカンに集まった枢機卿たちが、ロバート・プレヴォスト枢機卿を史上初の米国出身の教皇に選出し、その教皇名がレオ14世と宣言され、教会の歴史に刻まれた。

 長い間、「米国人教皇の誕生は考えられない」と言われてきた。新大陸からの蒸気船はローマに到着するまでに時間がかかるため、米国人枢機卿の到着が投票に間に合わないことがしばしばあった。

 その後、「米国人教皇」に対する拒否権は、地政学的なものとなった。バチカンで教皇の決定がなされているのか、それとも米国のラングレーのCIA(中央情報局)本部でなされているのか、世界中の多くの人々が疑問に思ったからだ。

 しかし、プレヴォストが教皇に選出されたことで、その考えは払拭された。米国はもはや世界唯一の超大国ではないし、いずれにせよ、枢機卿会議内部の力学は変化した。

 枢機卿たちは、もはや、候補者がどのようなパスポートを持っているかではなく、どのような精神的、政治的、個人的プロフィールを体現しているかに関心があるのだ。

 過去2年間、教皇フランシスコの下でバチカンの超強力な司教省のトップを務めたレオ14世は、世界中の新司教を選ぶ際に教皇に助言する責任を負っていた。

 同僚の枢機卿たちはこのアウグスチヌス修道会の元総長を知るにつれ、多くがその人柄に好感を持つようになった。 穏健でバランスの取れた人物で、確かな判断力と鋭敏な傾聴能力で知られ、自分の意見を聞いてもらうために胸を張る必要のない人物、だということに。

 レオ14世は1955年にシカゴでイタリア人、フランス人、そしてスペイン人の血を引く家庭に生まれ、高校は「アウグスティノ会」と呼ばれる聖アウグスティヌス修道会が運営する小神学校に通った。そこからフィラデルフィアのヴィラノヴァ大学に入学し、1977年に数学の学士号を取得した。同じ年にアウグスティヌス修道会に入会し、カトリック神学大学(CTU)で学び始め、1982年に神学修士号を取得した。(CTUの卒業生として初めて枢機卿に任命された)。

 次にローマに送られ、ドミニコ会が運営する聖トマス・アクィナス大学(通称 「アンジェリカム」)で教会法の博士号を取得した。

 1985年、レオ14世はペルーのアウグスチヌス会の宣教活動に参加した。彼の指導者としての資質はすぐに認められ、1985年から1986年までチュルカナス管区の管区長に任命された。その後、ペルーに戻るまでの数年間は、シカゴでアウグスチヌス会管区の召命担当司祭として過ごし、その後10年間は、トルヒーヨでアウグスチノ会神学校を運営するかたわら、教区神学校でカノン法を教え、学務総長を務めた。

 聖職者生活には古くからの”ルール”がある。有能であることが災いし、「物事を成し遂げる才能がある」と認められるのに正比例して仕事量が増える傾向がある、というものだ。こうして、プレヴォストは本職に加えて、教区司祭、教区本部の役人、トルヒーヨの養成部長、教区の司法官の仕事もこなした。

 レオ14世は1999年に再びシカゴに戻り、今度は管区長を務めた。この時期、司祭の性的虐待スキャンダルに遭遇し、告発された司祭を学校の近くの司祭館に住まわせる決定を下した。この対応は後に批判を浴びることになるが、これは、米国司教団が2002年にこのようなケースを扱うための新基準を採択する前のことであり、彼の署名は基本的に、大司教区と告発された司祭の霊的アドバイザーおよび安全計画の監督者との間ですでに行われていた取り決めによる形式的なものだった、と判断された。

 2001年、レオ14世は世界的なアウグスチヌス会の総長に選出された。ローマにあるアウグスチノ会教皇庁教理学院に本部があり、「アウグスチニアヌム」として知られている。プレヴォストは2期にわたって総長を務め、手際の良い指導者、管理者としての評判を得た後、2013年から2014年にかけて、修道会の養成ディレクターとしてシカゴに一時帰国した。

 2014年11月、教皇フランシスコは彼をペルーのチクラヨ教区の使徒的管理者に任命し、1年後に教区司教となった。歴史的に言えば、ペルーの司教団は解放の神学運動に近い左翼とオプス・デイに近い右翼の間でひどく分裂していた。その不安定なミックスの中で、レオ14世は2018年から2023年まで会議の常任理事会と副会長を務めたことに反映され、穏健な影響力を持つと見なされるようになった。

この2月、教皇フランシスコは当時のプレヴォスト枢機卿を枢機卿司教団に入会させたが、これは教皇の信頼と好意の明らかな表れである。観測筋によれば、プレヴォスト枢機卿と故フランシスコは常に意見が一致していたわけではなかったが、それでもフランシスコは米国人のプレヴォスト枢機卿の中に信頼できる人物を見出していた、という。

 基本的に、枢機卿が法王候補を検討する際には、常に3つの資質を求める。「 宣教師」-つまり信仰に前向きな顔を見せることができる人物、「政治家」-つまりドナルド・トランプ、ウラジーミル・プーチン、習近平といった世界的な舞台で堂々と立ち回ることができる人物、そして「総括・管理者」-つまりバチカンを掌握し、財政危機への対処を含め、”列車を定刻通りに走らせるこ””ができる人物である。

 レオ14世が、この3つの条件をすべて満たしていることは確かだ。

 彼はキャリアの大半を宣教師としてペルーで過ごし、残りの一部を神学校や養成課程で過ごしたため、信仰の火を灯し続けるために何が必要かを理解している。そのグローバルな経験は、国家運営の課題においても財産となるだろうし、生まれつき控えめで平静な性格は、外交術にも適しているかもしれない。最後に、修道院長、教区司教、バチカン総監など、さまざまな指導的地位で成功を収めたことは、彼の統治能力を証明している。

 さらに、彼は「生意気な米国人の傲慢さ」という古典的なステレオタイプに翻弄されることはない。むしろ、イタリアの新聞『ラ・レプッブリカ』や国営テレビ局『RAI』が最近評したように、彼は 「il meno americano tra gli americani(米国人の中で最も米国人らしくない人物)」という印象を与える。

 基本的に、レオ14世の選出は、大まかには「教皇フランシスコのアジェンダの中身の多くの継続」を多くの有権者枢機卿たちが支持したものと見ることができる。

 カトリック教会の活動における多くの争点に関しては、「フランシスコ」はある種の隠語である。女性司祭の叙階、同性婚の祝福、ラテン語ミサといった問題で、レオ14世は、自分のカードをベストの近くで使っている。

 加えて、レオ14世は、聖職者による性的虐待の訴えを不当に扱ったとして、「神父に虐待された人の被害者ネットワーク(SNAP)」が苦情を申し立てた数人の米国人枢機卿の一人だ。1人はシカゴで告発された神父、もう1人はペルーのチクラヨで告発された神父である。その話には説得力のある別の側面がある。つまり、 両事件とも、複数の関係者がレオ14世の当時の行為を擁護しており、ペルーの被害者の弁護を最初に担当した教会法弁護士は、恨みを持つ失脚した元神父である一方で、レオ14世は、チクラヨでは教区の児童保護委員会の責任者として成功を収めた、と評価されている。

 要するに、プレヴォストの教皇選出は、枢機卿たちが伝統的に求めてきたことの多くを満たすものであり、いくつかの争点について明確な実績がないことでさえ、結果的には”負債”というよりむしろ”資産”になったということだ。

 2023年、プレヴォストが枢機卿に昇格した時のCTUからの以下の賛辞は、彼の魅力をほぼ要約している。

 「プレヴォストは、宣教師の心と、学問の学び舎から貧しいバリオ、行政の上層部まで、長年の聖職経験を枢機卿団にもたらす。聖霊が導くところ、どこにでも奉仕する用意がある、という福音の呼びかけを体現している」。

 教皇レオ14世として選出されたことを考えると、歴史上初の米国出身の教皇であり、彼の枢機卿選出者たちがその思いを共有していたことは明らかである。

2025年5月9日

☩教皇レオ14世がローマと世界に挨拶「あなた方すべてに平和があるように…シノダル(共働的)な教会として、共に歩もう!」

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2025年5月9日

改・第267代教皇にプレヴォスト枢機卿を選出―「レオ14世」、69歳、初の米国出身教皇に

新教皇レオ14世 2025年5月8日 バチカン・聖ペトロ大聖堂新教皇レオ14世 2025年5月8日 バチカン・聖ペトロ大聖堂 

   教皇選挙は現地時間8日午後行われた投票で、第267代ローマ教皇に、ロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿を選出した。教皇名はレオ14世。

 新教皇は69歳。初の米国出身の教皇で、男子修道会・聖アウグスティヌス修道会の元総長。ペルーのチクラヨ教区長などを経て、教皇フランシスコのもとでバチカン司教省長官を務め、2023年には枢機卿に任命されていた。

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 「レオ14世」という名前に関し、バチカンのマッテオ・ブルーニ報道官は「教会の社会教説を創始した聖レオ1世と、この教説を概説した教皇レオ13世による1891年の回勅『レルム・ノヴァールム』が新教皇の念頭明確に置かれている」と説明、社会教説がレオ14世の教皇職の中核をなすことを示唆した。

  ⇒『レルム・ノヴァールム』は日本語で「新しき事がらについて」を意味し、「資本と労働の権利と義務」という表題がつけられた。カトリック教会社会問題について取り組むことを指示した初の回勅(「カトリック・あい」)

 なお、新教皇は9日、システィーナ礼拝堂で彼を選出した枢機卿団と共にミサを捧げ、11日の復活節第4主日には、聖ペトロ大聖堂の中央バルコニーから初めての正午の祈りと説教を行う。そして、故教皇フランシスコと同様、12日月曜の特別謁見で、バチカン駐在の特派員たちと面談する予定だ。

(この項はCrux)

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 教皇選挙の2日目、5月8日18時10分ごろ、教皇選出を知らせる白煙が、システィーナ礼拝堂の煙突から上がり、朗報を心待ちにしていたバチカンの広場の信者たちから歓声と拍手がわき上がった。新教皇の登場を待つ人々の期待が高まる中、バチカンの大聖堂の中央バルコニーにプロトディアコノ、ドミニク・マンベルティ枢機卿が現れ、ラテン語の式文をおごそかに述べた。

 「Annuntio vobis gaudium magnum: habemus Papam!(皆さんに大きな喜びをお伝えします。私たちは教皇をいただきました)」

 続いて、ローマと世界に向けて、新しく教皇に選ばれた枢機卿の名前と教皇名が告げられた 新教皇に選出されたのは、ロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿、教皇名はレオ14世。

 この告知と共に、広場を揺るがす歓声がとどろき、教皇レオ14世が聖ペトロ大聖堂の中央バルコニーに立ち、最初の挨拶を述べ、ローマと世界に祝福をおくった。

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 新教皇レオ14世(ロバート・フランシス・プレヴォスト)は、教皇庁司教省前長官、1955年9月14日、米シカゴ生まれ、米国出身、聖アウグスティヌス修道会会員。1985年から1986年、および1988年から1998年までペルーで、小教区司祭、教区聖務職員、神学校の教員および管理者として奉仕した後、2001年から2013年までは聖アウグスティヌス修道会の総長を、2015年から2023年まではペルー・チクラーヨ教区の司教を務めた。2023年に枢機卿に任命され、同年に教皇フランシスコによりバチカンの司教省の長官に任命されると同時にラテンアメリカ委員会の委員長に就任していた。英語スペイン語イタリア語フランス語ポルトガル語を話し、ラテン語ドイツ語を読む事が出来るなど、語学に堪能。

2025年5月9日