・「教会は男女の『相補性』を見直す必要」-3月8日「国際女性の日」に向けた会議で女性たち(Crux)

(2024.3.6 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 ローマ 発– 3月8日の国連「国際女性の日」を前にした6日、ローマのイエズス会本部会議場で「女性のリーダーシップ―より輝かしい未来に向けて」と題するパネル・ディカッションが行われ、出席者たちは、最近の女性の地位向上の世界各国の取り組みを称賛する一方、教会において女性が重要な地位に就くための機会を広げるためにさらなる努力が必要、と訴えた。

 また、教会の「相補性( complementarity)神学」、つまり「結婚、家庭生活、宗教的リーダーシップにおいて男性と女性は異なる相互補完的な役割と責任を負っている」という考え方を見直すよう求めた。

 相補性の概念は、カトリック教会が長年、女性司祭の禁止を擁護するために使われており、ヨハネ・パウロ二世教皇も、叙階された司祭職が男性の才能や才能により適している理由として補完性を頻繁に引用していた。

 出席したカトリックの女性神学者やリーダーたちは、補完性の再検討を求め、「一部の解釈は、男性的と女性的とされるものの間に分裂を生み出している」と述べた。

*バチカンでも、指導的立場の女性には特別な見方がされている

 またバチカン報道局のクリスティアーヌ・マレー副局長は、女性はバチカンに「新鮮で革新的な」視点をもたらしているものの、「女性がバチカンの指導的なポストに任命されると、その女性は『権力行使者』と定義づけられてしまう。男性はそうでないのに…」と嘆き、「まるで権力のオーラがあるように、です。与えられた仕事は『権力』ではなく、『奉仕』なのです」と指摘した。

 さらに、「礼儀正しさ、繊細さ、思いやり、共感などの特質は、常に女性らしさと結びついていますが、本質的に性別に結びついているわけではない。男性でも経験し、表現できる社会になっていることに注意せねばなりません」と語って、会場の喝さいを浴びた。

 Verbum Deiの会員で豪州カトリック大学のザビエル神学センター所長のメイブ・ヒーニー博士は、「女性のリーダーシップは神学的問題」とし、特に「相補性」に触れた。

 「特定の神学人類学は、男性と女性がもたらすものを過度に本質化しすぎており、役に立たず、実際の人間の経験を反映していない」と述べ、「これらの人類学的視点は通常、男性と女性の間の相補性に向いている。そして、相補性は、権威、リーダーシップ、知性に対して、愛、精神性、育成を『男性の貢献とは本質的に異なる女性の貢献』と言われることがあります」と指摘。

 そして、「私は『女性と男性の間に違いがない』と言っているのではありません。女性と男性の差を先鋭化したり本質化したりしないでほしい、とだけお願いしているのです」と語り、 この目的を達成するために、彼女はスイスの司祭であり神学者であるハンス・ウルス・フォン・バルタザール師の「使徒ペトロとマリアの原則」に言及して、次のように述べた。

 「この原則は、たとえ司祭叙階されていなくても、女性が教会で重要な役割を果たせることの理由を説明するために、教皇フランシスコが頻繁に引用されています。 バルタザール師は天才ですが、彼の著作には十分な抑制と均衡がなかった… 私見では、彼の相補性神学は不完全です。イエスの男性性と教会の女性性を過度に強調し、女性を『受容的で霊的』であり、男性のより『積極的で知的』な性質に対応し、時には応えるものとして示しているからです」と強調。「相補性が問題ではない。教会内で男女の役割が徹底的に対比される場合、特にそれが権力の役割に基づいて構築されている場、が問題です」。

*「叙階神学」は再検討する必要がある

 

 ヒーニー博士はまた、教会の叙階神学の再検討を求め、「現在の形では、叙階神学は…あらゆる分野での意思決定を叙階に結び付けているが、洗礼を受ける中で私たちは皆、キリストに紹介されている。それは誰もが果たすべき役割を持っていることを意味し、叙階された聖職が変わる可能性もあります」とし、「私は女性に司祭叙階を認めるべきだ、とは言いませんが、認めるべきでない、とも言いません。 それを私が問題にしているわけではない。統治と権力、そして聖職者職との間の結び目を解き、女性や一般信徒が教会における意思決定に大きな役割を果たせるようにするには、さまざまなレベルでのしっかりとした見直しが必要だ、と申し上げたいのです」と強調した。

 また、教皇フランシスコがフォン・バルタザールの「使徒ペトロとマリアの原則」に頻繁に言及されていることについて質問されたヒーニー博士は、「『シノダリティ(共働性)と協調的リーダーシップ』というテーマについての考察はまだ始まったばかりであり、教皇だけでなく、すべての教会指導者に対して、私たちは時々、多くを求めすぎることがあります… 教皇の口から出る言葉のすべてに権威あるわけではない。 私たちは皆、神学的に形成されており、教皇や司教も含めて、全員が神学的に形成されているものであることを常に認識しておく必要があります」と答えた。

 教皇の枢機卿顧問会議にこれまで2回参加し、教会における女性の役割などについて語り、女性問題に関して教皇の顧問立場にあるとされているスペイン人のシスター・リンダ・ポシエも「使徒ペトロとマリアの原則」について問題を提起。

 教皇フランシスコは、この会議に送った書面メッセージで、「神の知恵の賜物」が「教会の、そして世界のすべての人の、これまで以上の献身として実を結ぶように祈ります。 女性と男性の平等かつ補完的な尊厳が一層大切にされますように」と述べられた。

*外交の世界でもgender biasesが依然存在する

 

 討議に参加したある国の大使は、「外交の世界でもgender biases (男女の役割について固定的な観念を持つこと、社会の女性に対する評価や扱いが差別的であることや社会的・経済的実態に関する女性に対する”神話”を指す)が見られる」と指摘し、具体的に、「外交官の男性は軍縮や安全保障の分野に割り当てられることが多いのに対し、女性にはよりソフトな問題や社会プロジェクトが与えられる傾向が強い」と説明した。

  キアラ・ポロ駐バチカン・豪州大使氏、「女性の指導的役割について”二重の基準”」が存在することを嘆き、「女性がトップに到達するために目立つ必要がある一方で、自信を持って指導力を発揮するやり方について”監視”されている」と指摘した。

 国際修道会総長連盟のシスター・パトリシア・マレー事務総長は、「女性修道者が教会内で、しばしば貧困、人身売買、移民などの問題の周縁部や最前線で役割を果たしていること」を強調。自身が所属する修道会の創設者の言葉を引用し、「女性には素晴らしいことができない、というような男性と女性の役割の違いはありません」と述べ、現在の教会では、女性の声がさまざまなやり方で伝えられており、その進展の具体例として、昨年10月のシノダリティ(共働性)がテーマの世界代表司教会議(シノドス)総会第一会期では、女性に初めて議決権が与えられるなど、女性の存在が大きくなったことを挙げた。

*シノドス総会では女性の叙階職、説教師、新機関の設立などが検討されているが…

 

 そして、総会第一期では「女性が助祭職に就くことや、女性が説教師となること、バチカンに新たな機関を創設することなどが検討」されているが、「すぐに決定できることではなく、時間がかかるでしょう」と述べ、今年10月のシノドス総会第二会期でも決定に至らない可能性を示した。

 シノドス事務局のシスター・ナタリー・ベカール次長も、教会を「非官僚的でより関係性の高い」教会にする、というシノドスの目標を強調し、女性の役割、女性が教会の指導者となる機会を増やしたいという願望は「時代のしるし」であり、「教会は、さらなる平等を求める女性たちの声に耳を傾けなければなりません。女性たちには教会の活動、特に意思決定のプロセスにもっと参加したい、という強い願望がある…  教会には多様な経験を持つ女性がたくさんいます」と述べた。

 また、女性としてバチカンで指導的地位で働いてきた自身の経験から、「教会は家族のようなものですが、あることにおいて他の人より優れている人もいる… 枢機卿や司教たちと協力して仕事をするという良い経験をしましたが、他の人たちと協力するのは文化、教育、背景の違いから、難しいこともあり、それは冒険でもあり、非常に豊かな経験でもありました」と語った。

 ベカール次長はCruxのインタビューで、女性の指導的立場への参加に関する議論が「過度に西洋的な視点に支配されているのではないか」という懸念について、「そのような誘惑はありますが、シノドス総会では、参加者皆の声を聞いています… 世界中から集まった参加者の意見は、『女性の役割をもっと認識してほしい』というものでした。 多くの女性が教会で指導的立場に就くこと、より多くの女性が教会運営に参加することを求める声が、参加者のどこからも上がりました」と説明。

*女性の参加の具体案で意見の違い… 多様性を考慮する必要

 そして、「意見の 違いは、『女性の参加が具体的にどうあるべきか』にあります。女性の助祭叙階を強く主張する人もいます。 このような要望は、西側諸国だけではなく、他の国々にもあるかもしれませんが、どこにもある、というわけではない… 世界共通のレベルで何を決定するかについては、多様性をすべて考慮する必要があります。 各国・各地域にそれぞれの教会文化があることを認識し、尊重しなければなりません。それは西洋人にとっても、そして欧米の私たちにとっても非常に重要です」と強調した。

  さらに、「シノドス総会は、さまざまな大陸からの多様な声をさらに聞くための場です。 私たちの教会も、私たちの世界と同様に多極化しています。そうした中で、世界では、気候変動、移民・難民、平和の探求など、すべての優先分野で、女性がすでに大きな役割を果たしている」と語った。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
 Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年3月7日