・ブラジルで今年だけで少なくとも9人の司祭が自殺ー背景に性的虐待問題への教会の歪んだ対応も(Crux)

(2021.11.26 Crux  Contributor  Eduardo Campos Lima)

 サンパウロ発ー聖職者による未成年者などに対する数多くの性的虐待と、高位聖職者による隠ぺいで多くの司教が辞任に追い込まれるなど深刻な問題を抱えるブラジルで、少なくとも9人のカトリック司祭が2021年に自殺していることが明らかになり、ラテン・アメリカ諸国の聖職者の精神的健康について懸念が表面化している。

*要因は「うつ病」と「燃え尽き症候群」

 自殺につながる可能性のある重要な要因の中には、うつ病と燃え尽き症候群があり、司祭は過度の仕事量と孤独を繰り返し起こす可能性のある”組織文化”の問題に直面している。また、別の具体的な要因として、(注:これまでの隠ぺいや放置の反動としての)聖職者に性的な虐待や嫌がらせの疑いが持たれた際の教会の厳格で素早い対応に関連しているようだ。ソーシャルメディアやマスコミによる”炎上”を恐れて、虐待の有無などを十分に検証しないまま対応してしまう、教会の”新ルール”がもたらす問題も、背景の一つにあると考えられている。

*背景に、性的虐待・隠ぺい批判への歪んだ対応

 こうした問題と関連する司祭の自殺で最も新しいケースは11月7日に起きた。ブラジル北東部、ピアウイ州のボンイエス市の教区館でホセ・アルベス・デ・カルヴァリョ神父(43)が自ら命を絶っているのが発見されたのだ。デ・カルヴァリョ神父は最近、14歳の少女を虐待したとして告発され、自殺の前日に教区から司祭としての職務の一時停止を命じられていた。

 司祭を自殺に至らしめた教会の人事管理の失態は、ソーシャルメディアであるメッセージが広められ、厳しく批判された。「シメアン神父」という代表者の名で聖職者、信徒合わせて数十人の匿名の人々によって出されたこのメッセージは、「司祭たちは、教会よりも自分自身を愛すべきです」と主張。

*告発受けると、検証もせずに司祭職一時停止

 さらに、「兄弟たち、どの司祭も、彼と同じような事態に直面する可能性がある。虐待の証拠が無くても、教区長の司教に、訴えられた場合、ホセ神父と同じような、司祭としての職務停止に追い込まれる可能性があります。私には、停職処分を受けて、何もできなかった兄弟たちのことが頭にある。彼らは無実であり、常に無実だったのです」と訴えている。

 そして、現在のブラジルの教会には「司祭の世話をする時間も、優先順位もありません」と述べ、現場の聖職者たち直面しているいくつかの困難に言及。

*教会は、司祭たちを生かす努力をしていない

 そのうえで、「私たちは”ビジネスマン”であり、カソックを来た従業員です。教会を愛するだけでは十分ではありません。現在の時代が私たち聖職者に課している非常に多くの課題に直面して、私たちを生かし続けるには、それだけでは十分ではありません。教会ができる最善のことは、私たちのために祈ることです」と述べ、「教会は、私たちを抱きしめることがほとんどなく、私たちの言うことをほとんど聞かず、世話をする方法を知らず、愛する時間をもっていない」と批判している。

 心理学者で自殺の専門家であるリシオ・ヴェイル神父はCruxの取材に対して、「教会が、性的虐待の加害者に厳格な懲罰を課する立場をとっていたため、一部の司祭に『懲罰的妄想』を持たせ、苦しませているようだ」と語った。

 そして、「教会は、従来の『虐待者を罰しない文化』から、『厳格に対処する文化』に移行過程にある。犯罪者は罰せられなければならない、と考えれば、これは重要な移行過程です。だが、措置の厳格化とともに、不当に告発された司祭に対しては、公的補償を含めた補償措置が必要です。不当に名誉を傷つけられる恐れが、聖職者を絶望へと駆り立てているようにも思われる」と懸念を示した。

*”問題司祭、神学生”を事前に見分ける力に問題

 「このような移行期に起きている問題はやがて解消されるでしょうが、今、私たちが本当にすべきことは、虐待行為を未然に防ぐために、そうした可能性のある人物を特定するすることです。司祭不足の現状の中で、そのようなことは繰り返し無視されますが、早晩、そうした人物は問題を起こすことになる」と警告。

 「現在司祭を精神的苦痛に導いている主要な要因は、彼らが司祭になる前に神学校の段階で対処する必要がある。今の若い司祭と神学生は、”自己中心と無限の成功の追求の時代”に育ちました。”キャリア主義”はどこにでも存在します。ブラジルの神学校とブラジルの聖職者監督システムは、司祭の育成について考え方を改め、”競争”ではなく”友愛”を強調するものにせねばなりません」と強調した。

*通常の職務に追われ、心身への健康への配慮がされていない

 さらに、「多くの司祭は通常の職務に追われており、自分の心身の健康、そして共同生活への配慮に心が及ばない。燃え尽き症候群とうつ病の症状には、継続的な苦痛と倦怠感、課題の先延ばし、不眠症、および仕事の困難が含まれます。多くの司祭が持っているそのような問題は容易に特定することができます」と説明している。

 また、何十年にもわたって司祭と協力してきた心理学者のエンニオ・ピントは、「今日、大半の神学校にはメンタルヘルスの専門家がいますが、神学生を育成する過程で、彼らを支援するために必要な科学的情報が不足している場合がある」とし、「教会は司祭や神学生のメンタルヘルスについて、もっと重視する必要があります。多くの場合、教会は、彼らに専門家の助けを求める基準の必要性への認識も含めて、その問題に初歩的な理解しかしていません」とCruxに語った。

*「司祭の自殺はブラジル社会の危機の一部」と司教団事務局長

 ブラジル司教協議会の事務局長、ジョエル・ポルテラ・アマド補佐司教(リオデジャネイロ教区)は、Crux とのインタビューで、これまで司祭たちの自殺について見て来た経験を踏まえ、「司祭たちの自殺は、『ブラジル社会における危機の一部』であると考えています」と述べ、「ブラジルの社会で、私たち司祭は、多くの欲求不満と一般的な言及や認識の欠如を経験しています… ”スーパーマン”としての司祭のイメージが過去には役立ったかも知れませんが、今は役に立ちません。司祭たちは、”脆弱性の神秘”を発現させる必要がある。教会は、司祭職のあり方について考え直す必要がある」と語った。

 さらに、「多くの人は、『司祭職は孤独を意味する』と思っていますが、それは違います。司祭たちは、形のある司祭共同体の一員であるべきです。司祭たちは、自分の共同体との生き方、分かち合い方を学ばねばなりません」とも指摘した。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

 

2021年11月27日

・全米司教協議会の秋季総会始まるーシノドスを強調するバチカン大使、協議会会長は「聖体」に焦点

(2021.11 .16  Crux  National Correspondent  John Lavenburg, Inés San Martín)

 

*”聖体の復活”は”愛の文明”への入り口

 ピエール大使は、聖体拝領の復活に関して、「司教たちは互い耳を傾け、分裂を求めず、聖体の秘跡を少数の特権を持つ人々に与えられるものとして扱わないように」と”sinodarity(共働性)”の重要性を述べた。

 これに対し、ゴメス会長は、大使の出席に謝意を宣べ、米国の司教団が、2年にわたるシノドスを支持し、関心を持っていることを教皇に伝えてくれるように希望を表明したものの、”sinodarity”という言葉を避けた。むしろ強調したのは、この総会に諮る予定の「聖体に関する文書」と「聖体の復活3か年計画」で、これらは「過去二年以上にわたった新型コロナウイルスの大感染と社会不安に対する教会の使命を果たすために、極めて重要である」と述べ、参加した司教たちから大喝采を受けた。

 ゴメス会長は「聖体は、私たちが作りたいと願っている愛の文明への入り口の鍵でもある。イエスは、彼が祭壇の聖体の中に留まると約束され、また私たちの隣人、特に貧しく苦しんでいる人々の肉と血の中にもいることを約束されている」としたうえで、「人々の無関心と社会的不公正を終わらせたいと思うなら、この秘跡への認識を意識を復活させる必要がある。子宮の中にいる胎児から、息を切らす年配の親まで、私たちが出会うすべての人の中に、生ける神のイメージを見なければなりません」と訴えた。

 聖体に関する文書草案の内容について、一部の関係者の間には、「中絶権利擁護派」のカトリックの政治家が聖体拝領を受けることに影響を与える可能性がある、との見方がある。また6月から始まる3か年間計画については、ゴメス会長が「信徒を信仰の神秘の中心に深く引き込み、聖ヨハネパウロが『聖体の驚き』と呼んだものを呼び覚ます『宣教プロジェクト』」であると説明。

 このような教会の使命の遂行は、「高度に世俗化された」米国で司教たちが直面している課題であり、コロナ禍のこれまで2年間を振り返ると、米国の人々が、「神なき世界」が自分たちに幸せをもたらせないことを明確に認識するようになっていることが分かる、とし、「私たちの兄弟姉妹は神を探し求めており、真理の言葉、命の言葉を改めて聞く準備ができていると思う。宗教なしで育った人々も、初めて御言葉を聞く準備のある人々がいると思う」と強調した。

 

*分断された米国社会、教会を修復するために”シノドス的”歩みが必要ーとバチカン大使

 ”シノドスの道”の歩みについては、総会の冒頭で参加した司教たちの全面的な同意をもとに読み上げられたUSCCBの教皇フランシスコへのメッセージで、全米の多くの教区が、教皇が開始された”シノドス・プロセス”の一環として、それぞれの教区において、司祭や信徒たちの声を聴く取り組みを始めている、とすすとともに、「聖体の復活」のための複数年にわたる計画の中で、今後も進めていくことを約束。

 このテーマは、17日の総会での議論の中心課題となり、ゴメス会長とダニエル.フローレス司教(ブラウンズビル教区)が、2023年10月のシノドス通常総会に至る歩みに関してこれまで各教区が進めている取り組みについて報告した。

 ピエール大使は、冒頭のあいさつで、自身が5年前に駐米大使に就任して以来、米国、と米国の教会は、家庭の問題、性的虐待の危機、世俗化の進展、国民の二極化、教会における同様の諸問題が深刻化し、そうした中で新型コロナウイルスの大感染がもたらす危機に直面している、と指摘。「分断された教会のままでは、キリストが強くお望みになっている『一致』に、人々を導くことは決してできないでしょう」と指摘。

 教皇が始められた”シノドスの道”の歩みに触れて、「” synodality”でないもの、それは(ダンテが「神曲」で描いた地獄の(「期待を裏切る行為」など)”低い層”の一つ、”会議についての会議”です。(”シノドスの道”は)相手を打ち負かそうとする”政治的な討論”でもありません」と述べた。教皇フランシスコが言われるように、教会はまず、”耳を傾ける”教会であることから始める必要がある、とした。

 そして、”耳を傾ける行為”は、司教、修道者、一般の平信徒に対してだけでなく、神に対してもされるべきもの、であり、とくに教会が米国を分断する二極化を克服する力となるために、これまで以上に、互いの、そして人々の声に耳を傾ける必要があります」と強調した。

 また大使は、米国の教会にとって差し迫った問題の一つは、「 pro-life(人工妊娠中絶合法化への反対)です。教会は、明確に pro-life、胎児を守る立場を取らねばなりません。しかし、堕胎に対する”シノドス的な対応”は、なぜ人々は妊娠を止めたいと思うのかについてもっと知ることです」とし、具体的に、妊娠中の女性と会って、彼女たちの置かれている状況についてよく理解し、pro-lifeの団体、そしてそこで活動する人たちと会って、堕胎を希望する女性たちにとって精神的、社会的、物的に必要なのは何かを理解することが必要、と訴えた。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2021年11月17日

・”寄宿学校の先住民虐待事件”でカナダ司教団が被害者に30億円強の”賠償”約束

 

People gathering outside the former Kamloops Indian Residential School in British ColumbiaPeople gathering outside the former Kamloops Indian Residential School in British Columbia  (AFP or licensors)

 カナダでカトリックなどが運営していた先住民の寄宿学校における虐待、埋葬問題で、カナダのカトリック司教団は28日、先日の公式謝罪に続いて、被害者、その家族、共同体の”癒しと和解”のために3000万ドル(約30億円強)支出することを約束した。司教団の同日のプレス発表によると、資金は最長5年間にわたって支出され、カナダ全土の小教区が参加して取り組みを拡大することが奨励されている。

 先週開かれたカナダ司教協議会(CCCB)総会で会長に就任したレイモンド・ポアソン司教は声明で、「CCCB総会では、寄宿学校の運営の過ちから深い傷を負った被害者たちに対して、多くの具体的措置を取る必要があることで合意しました」と述べ、3000万ドルの支出は、 「現地の教区主導で進められる取り組み、具体的には寄宿学校の被害者と彼らが生活する共同体の癒しと生活支援のために役立てたい」と説明した。

 具体的な諸支援活動への資金配分は、先住民の組織 First Nationsや各地域の先住民たちと協議のうえ決定される。CCCB副会長の ウィリアム・マクグラタン司教は「我々カナダの司教たちはこれまで、先住民とは話しをせず、先住民については話さない、という原則をとってきてしまった。今後行われる、先住民のリーダーたちとの継続的な対話は、効果的な支援に役立つ」とし、 「被害者たちの痛みを取り除くのは容易ではないが、彼らの声に耳を傾け、関係を深め、可能な限り協力して取り組むことで、新しい希望の道を共に歩む方法を学びたい」と述べた。

カナダ政府の公の謝罪

先住民の子弟のための寄宿学校はを”欧州カナダ文化”に先住民を同化させる目的で、カナダ政府が19世紀から20世紀にかけて計画し、カトリック教会などキリスト教組織に運営を委託する形で実施されてきた。強制的な同化政策のもとで、寄宿学校に入れられた多くの子供たちが虐待に苦しみ、先住民族から強い批判が高まる中で、1996年までに、すべての学校が閉鎖され、2008年に当時の首相、スティーブン・ハーパー首相が正式に謝罪した。

だが、問題はそれでは終わらず、カナダ真実和解委員会(TRC)は、2015年に発表した調査報告書で、カナダ全土の寄宿学校に入れられた子供たちは全期間中の合計で15万人、うち少なくとも4100人が死亡、死因の大半は、虐待、過失、病気が原因、と結論付け、「文化的虐殺」と断罪。さらに今年になって、ブリティッシュコロンビア州カムループスなどでカトリック教会が運営していた複数の寄宿学校跡地から、何百もの遺体が墓石や十字架も立てられないまま埋葬されているのが見つかり、強い批判の声が上がっていた。

カナダの司教協議会は9月24日の秋の定例総会で対応を話し合い、教会が運営を受託した寄宿学校で「重大な虐待」があったことを認める声明を発表。また、教皇フランシスコが12月にバチカンで被害者たち、先住民の代表たちとお会いになることを明らかにしている。

 (翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2021年9月29日

・ポーランド・ベラルーシ国境で難民が凍死している(Vatican News)

A woman talks to a Polish border guard on 20 August 2021A woman talks to a Polish border guard on 20 August 2021  (AFP or licensors)

(2021.9.26 Vatican News By Stefan J. Bos)

 26日の現地からの報告によると、戦乱、迫害、貧困から逃れようとする難民たちが欧州連合諸国から押し返され、ポーランドとベラルーシの国境沿いで、少なくとも5人が死亡している。

 ポーランド当局の発表によると、うち3人は同国側の国境地帯で、低体温症により亡くなっているのが見つかった。ベラルーシ国営ベルタ通信によると、4人目の人物は国境から1メートル離れた同国側で亡くなっている、という。

 両国の国境をめぐっては、「ベラルーシ政府が西側諸国による制裁への報復として、欧州連合(EU)の東側の境界に移民を送り込んでいる」との批判の声が上がっていた。

*アフガン、イラク危機で難民急増、国境で”挟みうち”

 ここ数週間、ベラルーシからポーランドとの国境を違法に越境しようとする難民の数が増加。ポーランド内務省によると、8月だけで、アフガニスタンおよびイラク出身者が多くを占める3000人が違法にポーランドへの入国を試みた。

 ポーランド軍は、ベラルーシとの国境にある有刺鉄線の近くに警備兵を配置。欧州連合の加盟国である同国の他、ラトビア、リトアニアが非常事態を宣言し、ベラルーシからの難民の急増を抑えようとしている。

 EU本部は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が、EUを不安定化させるための”武器”として難民を利用し、経済制裁を続けるEU諸国に送り込もうしている、と非難。だが、その間にも、国境周辺で行き場を失った人々が犠牲となっている。

*「まるでサッカーのボールにされている」

 キリスト教徒弾圧が激しさを増しているスリランカから逃れてきたカトリック信徒のある男性は、ポーランド国境警備隊からの”氷のような歓迎”を受けたという。「妻と連絡を取ろうとして、電話をしてくれるように彼らに頼みましたが、拒否されました」と訴えた。

 ナイジェリア出身のケリーとオーウェンの兄弟は英国国営BBCの取材に、「これまで3週間、国境でポーランド、ベラルーシ両軍の挟みうちに遭い、動けなくなっています」とし、「彼らは私たちをサッカーのボールのように扱っている。ベラルーシの兵隊が私たちを殴り、ポーランド側に押しやろとし、ポーランドの兵隊が私たちを捕まえ、殴り、そして私たちをベラルーシ側に戻したのです。彼らは銃で私たちを脅迫し、殺されるかと思いました」。

 またカメルーン出身の21歳のメゲランは「私たちが生き残るのは難しい。私たちはベラルーシから国境の鉄条網を這いくぐり、ポーランドに入れたとしても、警察に見つかれば、ベラルーシに戻される」と訴えた。

*「難民を使った“恐喝”には屈しない」とポーランドの首相

 だが、ポーランドのモラヴィエツキ首相は、「不法入国した移民」に対する政府の方針を正当なものだとし、逆にベラルーシを非難。「ポーランド国境で組織的な暴行がされている。だが私たちは(ベラルーシの)恐喝の対象となることはできない」と言明。

*援助団体の活動も禁止、「森の中に何人死者がいるが分からない」

 氷点下の国境で立ち往生している人々の中に死者がでている、という報告を受けたポーランド当局は、彼らに食料、衣服の提供など援助活動をしてきたグループに対して、現地での活動を禁止した。人権弁護士のマルタ・ゴルチンスカ氏は 「森の中に他に何人の死者がいるのかはわかりません。だが、政治家は”政治”にしか関心が無い。でも、私たちが目の当たりにしている援助を求めている人々は”政治”とは関係がありません。国際的な保護を必要とする人々です」と訴えているが、今のところ、彼女の嘆願は答えられていないままだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2021年9月27日

・カナダの司教団が、先住民の寄宿学校での重大な虐待を公式に謝罪(VN)

A family stands in front of the former Kamloops Indian Residential SchoolA family stands in front of the former Kamloops Indian Residential School  (AFP or licensors)

(2021.9.25 Vatican News By Devin Watkins)

  カナダで、かつて先住民の子供たちを収容していたカトリック教会運営の寄宿学校で虐待が繰り返されたうえ、大勢の死者が墓碑もなく埋葬されていたことが、同国の先住民グループの告発で明らかになり、社会的問題になっているが、カナダの司教団は25日までに、先住民のコミュニティに対して公式に謝罪、近く予定するいるFirst Nations (カナダの先住民の組織)の代表たちと教皇フランシスコが重要な意味を持つことを強調した。

 この問題について、カナダの司教たちは24日の秋の司教協議会定例総会で、「重大な虐待」がカトリック教会共同体の一部によって行われたことを認める声明を満場一致で承認。「深い痛恨」の意を表明し、「明白に」謝罪した。

 24日に発表された声明の中で、カトリック教会が運営を任されていた寄宿学校で「身体的、心理的、感情的、精神的、文化的、そして性的」な虐待が行われていたことを認め、さらに、「多くのカトリック教会共同体と教区がこの活動に参加し、先住民の言語、文化、精神性を抑圧し、先住民の豊かな歴史、伝統、知恵を尊重しようとしなかった」と謝罪。また、被害者たちが受けた「歴史的で継続的なトラウマ」は、今日まで続いている、との認識も示した。

以下、翻訳中

First formal apology

Bishop Raymond Poisson of Saint-Jérôme and Mont-Laurier dioceses spoke to Vatican News’ Marine Henriot about the apology.

The Bishop, who was just elected as the president of the Canadian Bishops’ Conference, commented on the importance of the apology.

“This is the first time that, officially, all the Bishops of Canada have unanimously made an apology,” said Bishop Poisson.

He added that the Church in Canada is made up of around 65 dioceses, which belies the importance of their agreeing with one voice to issue such an apology. “Every Bishop voted for this apology,” he said.

Cardinal Gerald Lacroix, the Archbishop of Quebec, tweeted his support for the apology, and said Canada’s Bishops are committed to reconciliation and healing for indigenous peoples.

Listen to the full interview

Meeting with the ‘chief’ of the Church

In their statement, Canada’s Bishops recalled that Pope Francis has scheduled a meeting with survivors of the residential schools, several First Nations (as indigenous communities are known in Canada) elders, and young indigenous people. The encounter will take place in the Vatican on 17-20 December 2021.

“Pope Francis will encounter and listen to the Indigenous participants, so as to discern how he can support our common desire to renew relationships and walk together along the path of hope in the coming years,” wrote the Bishops.

Though the Church is largely decentralized, Bishop Poisson said indigenous peoples in Canada view the Pope through their own cultural lens as a sort of “chief”.

“In the First Nations culture, the Pope is the ‘chief’ of the Church, just like the First Nations have a chief,” he said, adding that the encounter is meant to be primarily pastoral, rather than political.

Canada’s Bishops also expressed their commitment to the process of healing and reconciliation, and pledged to fundraise to support pastoral initiatives “discerned locally with Indigenous partners.”

They also invited First Nations peoples to “journey with us into a new era of reconciliation,” which includes prioritizing healing initiatives and educating Catholic clergy and lay faithful on indigenous cultures and spirituality.

“We commit ourselves to continue the work of providing documentation or records that will assist in the memorialization of those buried in unmarked graves,” read the Bishops’ statement.

Symptomatic of a deeper problem

Commenting on the healing process, Bishop Poisson admitted much has yet to be done, but said the formal apology is “the first step in the process.”

He lamented the painful history of the Church’s involvement in Indian Residential Schools.

“These schools,” said Bishop Poisson, “are symptomatic of what happens when civilizations refuse to understand one another, and just want to turn the other into the same thing that he is, and make the other disappear.”

The Quebecois Bishop said the Church seeks to create a new relationship with Canada’s First Nations peoples, one based on mutual trust and understanding.

“We want to be together to decide the mode of education, listening to one another, walking together, and sharing our experiences, cultures, languages, and historical roots,” he said. “It is possible for us to be the real people of God. That is what they want and what we want: animated by the same Spirit but with different cultures.”

2021年9月26日

・アフガニスタン:冬の到来と人道的危機が迫っている、緊急に支援を(国連WFP)

(2021.9.16 国連WFPニュース)

 国際連合世界食糧計画(国連WFP)は、人道性、公平性、中立性、運営上の独立性の原則に基づき、3人に1人が飢餓に苦しむアフガニスタンの人びとへの支援を続けていますが、長年にわたる紛争に加え、干ばつや新型コロナウイルス感染症の流行などの影響により、1400万人が食料危機に直面し、200万人の子どもたちが栄養不良に陥っています。間近に迫った冬の到来で、遠隔地の山間部に住む人びとの生活はさらに厳しいものとなるとみられています。

trucks driving across snowy landscape

(アフガニスタンの冬は大変厳しく、山間部では支援物資を届けることができません。Photo: WFP)

 「国際社会がアフガニスタンの人びとの命を優先させなければ、この冬、人道的な大惨事が待ち受けているでしょう」と、国連WFPアジア・太平洋地域副局長のアンシア・ウェッブは、16日にジュネーブで行われた記者説明で語ったうえで、「例年この時期は、国連WFPはアフガニスタン各地の倉庫やコミュニティに食料を貯蔵しておき、冬の厳しい雪に閉ざされる前に、支援を必要としているアフガニスタンの家族に配るため多忙を極めていたのですが、今年は資金不足と援助需要の増大で、10月以降、国連WFPの主な供給物資である小麦粉が不足してしまう可能性が出てきました」と述べた。

 さらに、「雪で山道が塞がれてしまう前に必要な援助資金を確保し、食料を供給するためには、あと数週間しか残されていません」と支援を訴えた。

 命を救う支援が手遅れにならないように、国連WFP2億米ドルを緊急に必要としています。治安と現地への運搬の面での困難がありますが、今のところ、国連WFPは、戦闘が活発な地域を含むアフガニスタンの大部分地域への援助網を維持しています。

 今年の上半期には、WFPは戦闘によって新たに避難を余儀なくされた人びとを含む550万人に食料・栄養支援を行いました。私たちは、人道支援パートナーとともに、人道支援活動を継続し、この重要な時期にアフガニスタンの家族を支援し続けることを約束します。

(編集「カトリック・あい」)

 今すぐ寄付する

Learn more about WFP’s work in Afghanistan

2021年9月17日

・ブダペストで国際聖体大会始まる-最終日12日に教皇が荘厳ミサ予定

「第52回国際聖体大会」開会ミサ 2021年9月5日 ハンガリー首都ブダペストミサで始まったハンガリー・ブダペスト での「第52回国際聖体大会」

 「第52回国際聖体大会」が5日、ハンガリーの首都ブダペストの英雄広場で、欧州司教協議会会長、アンジェロ・バニャスコ枢機卿による開会ミサで始まった。

 聖体大会は、聖体への愛を深めるための司祭と信徒たちによる集会で、世界各地の教会の代表が参加する国際聖体大会は、4年ごとに開催地を変えて行われる。今回は一週間にわって開かれ、最終日の12日は、教皇フランシスコ司式の荘厳ミサが予定されている。

 今大会のテーマは「私の源はすべてあなたの中にある」(詩編87章7節)。エステルゴム‐ブダペスト大司教のペーター・エルド枢機卿は、このテーマについて、「ブダペスト市内に4つに分かれて注ぎ込む水流をイメージすると同時に、4人の書記者によって今日まで伝えられる福音を表しています」と説明した。

 期間中は、ミサや、聖体礼拝、祈りのほか、聖体をめぐる神学シンポジウムも開かれる。

(編集「カトリック・あい」)

2021年9月7日

・飢餓、宗教的迫害、女性への暴力、人道援助の危機…アフガンだけでない世界の危機(CRUX)

 カトリックの国際的な人道支援組織Aid to the Church in Need(ACN)の報告によると、信教の自由を侵す暴力が世界中で拡大している。世界で最も人口をもつ中国、2位のインド、5位のパキスタンを含む信教の自由に対する重大な侵犯がある国々に、約52億人が住んでいる。

 パキスタンにおける性的暴力とイスラム教への改宗強制、ナイジェリアでのボコ・ハラムによる凶悪な犯罪などは、多くのメディアで取り上げられたが、アフリカ大陸の多く、特にサハラ以南と東アフリカでの宗教的迫害は、あまり報じられていない。ブルキナファソ、カメルーン、チャド、コモロ、コンゴ民主共和国、マリ、モザンビークを含むアフリカ諸国全体の42%で、信教の自由の侵害(大量殺戮などの極度の迫害を含む)が起きている。イスラム過激派の勢力も劇的に勢力を拡大している。

 「タリバンがアフガニスタンで政権を握ることで、世界中の独裁・専制主義、信教の自由の侵害に拍車がかかる可能性が強い。世界中の宗教テロ集団を引き付け、すでに抑圧に苦しんでいるキリスト教徒やその他の宗教的少数派の人々を取り巻く状況はさらに悪化するだろう」とACNの責任者は懸念を強めている。

3.女性に対する暴力

  ラテンアメリカでは、2020年に2時間ごとに1人の女性が、女性だという理由で殺され、女性にとって世界で最も危険な地域にになりつつある。エルサルバドルの事態は特に深刻で、国際連合ラテンアメリカ・カリブ経済委員会によると、2017年にこの国の女性の1万人に1人が殺された。

 教皇フランシスコが2019年にパナマを訪れた際、政治指導者たちに女性っを守ることが、この地域の最重要の課題、と強調したが、事態に改善は見られない。

4.外交関係の断絶、人道援助の危機

 米軍のアフガニスタン撤退後、タリバンがただちに政権を奪取し、各国大使館のほとんどが機能を停止、外交官は自国への帰還に動いている。状況は流動的な部分を残しているが、米国、英国、ドイツ、カナダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、オーストラリア、スペインは、同国にいる自国民を帰国させ、大使館を閉鎖することを決めている。

 そうした中で、これらの国と関係を持ってきた何千人ものアフガン人が命の危機に陥り、タリバンによる逮捕、殺害の恐怖におびえている。各国の大使館閉鎖、外交官の国外退避は、本来ならこうした時こそ必要な人道援助を続けて来た国際NGO、医療関係者などの活動にも、安全確保を含む深刻な支障を生じている。

5.米、欧、中国などによる武器売却が戦乱を起こしている

 歴代の教皇は、世界の武力紛争拡大、激化の背景にある国際的な武器取引を強く批判して来た。パウロ6世は「二度と戦争を起こしてはならない」と訴え、聖ヨハネ・パウロ二世 は「相互確証破壊(MAD)」の考え方を否定、ベネディクト16世は核軍縮を世界の主要国の改めて求めた。

さらに教皇フランシスコは、「兵器を製造する人々は、『自分たちがキリスト教徒だ』と言うことはできません」と言明、特に欧米の兵器産業を「世界中で起きている紛争、戦争の原因を作っている… 欧州と米国は世界に武器を売却し、それが子どもたちを、人々を殺しています」と非難、アフガニスタンやイエメン、シリアなどは「いずれも自国で武器を製造する能力はなく、米国や欧州、あるいは中国で製造された武器を使っている。紛争中のアフリカ諸国も同じです。こうした武器が無ければ、戦争は起こらないのです」と訴えている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2021年8月23日

・ フランスで修道会管区長が殺されるー大聖堂放火のルワンダ人の男が自首

フランスで司祭殺害されるマリア宣教会の修道院  (AFP or licensors)

(2021.8.9 バチカン放送)

 フランス西部ヴァンデ県サン・ローラン・シュル・セーヴルで9日、カトリック司祭が殺害された。現地からの報道等によると、犠牲になったのは、マリア宣教会(モンフォール宣教会)のフランス管区長オリヴィエ・メール神父(60)で、現地の警察によって、同日午前、遺体が発見された。容疑者自らが警察に出頭し、同神父の殺害を告げたという。

 カトリック系メディアLaCroixによると、容疑者はルワンダ出身の男(40)で、2020年7月のナントのサン・ピエール=サン・ポール大聖堂の火災の際、放火の疑いで拘束され、犯行を自白。その後、法的観察の下に、身柄を解放され、裁判を待つ間、メール神父の所属するマリア宣教会の共同体に今年6月から身を寄せていたという。

 メール神父殺害の報を受け、フランスの司教協議会と修道者評議会は、「深い悲しみと不安」を表明。マリア宣教会の総長、サンティーノ・ブレンビッラ神父は、犠牲となったメール神父を、「会の創立者ルイ・マリー・グリニョン・ド・モンフォールの霊性を受け継ぐ、大きな価値を持った修道者・司祭」として惜しみ、「これは私たちにとってまさに悲劇です」と話した。

 フランスのマクロン大統領とカステックス首相も、マリア修道会関係者に、この事件から受けた大きな悲しみを伝えた。

(編集「カトリック・あい」)

2021年8月10日

・カナダで、さらにカトリック教会が運営していた先住民寄宿学校で 751人の遺体発見(Crux)

(2021.6.24 Crux  Associated Press)ー6.26改

Report: 751 bodies found at Indigenous school in Canada

Signs are pictured at a memorial outside the Residential School in Kamloops, British Columbia., Sunday, June, 13, 2021. The remains of 215 children were discovered buried near the former Kamloops Indian Residential School earlier this month. (Credit: Jonathan Hayward/The Canadian Press via AP.)

 カナダ・サスカチュワン州レジーナ発—カナダの先住民グループのリーダーが24日、かつて先住民の子供たちを収容していた寄宿学校で印のない751人の遺体が埋められているのを発見した、と発表した。先月、別の学校で215人の遺体が埋められていたことが明らかになったのに続くもの。

 発表者のサスカチュワン州の先住民連盟のボビー・キャメロン会長は「これは人道に対する罪であり、先住民に対するひどい扱いを示すものだ」と強く批判し、カナダ全土にある同様の寄宿学校跡から、さらに多くの遺体が見つかるだろう、と述べた。

 この問題に関してはカナダ全土に約130もあった同様の寄宿学校に収容されていた数千人の子供の行方が不明になっており、関係者の間に「人道に対する犯罪だ」などと衝撃が広がっている。トルドー首相は「心が痛む。我々は真実を認め、過去から学ばなければならない」とする声明を出した。

 今回多くの遺体が埋めらているが発見されたのは、1899年から1997年にかけて政府の委託を受けたカトリック教会が運営していたMarieval Indian Residential School跡地。現地の関係者は「埋葬場所にはかつて印が付けられていたが、学校を運営していたカトリック教会が、印を外してしまった… 教皇は、最近までなされていたことに謝罪する必要がある。謝罪は”癒しの旅”の第一段階だ」と強調している。

 先月、同国のブリティッシュ・コロンビア州カムループスの近くにあった同国最大の先住民寄宿学校だった場所に、3歳の幼児を含む215人の子供たちの遺体が埋められているのが発見された。これを知らされた教皇フランシスコは、「この悲しい事件」に光を当てるように、カナダの教会や政府関係者に強く求めたものの、先住民やカナダ首相が求めた謝罪には応じなかった。

 19世紀から1970年代にかけて、15万人以上の先住民族の子供たちが、カナダ社会への同化運動の一環として、国が資金提供するカトリックなどキリスト教の学校に通うことを強制された。現在のカナダ政府は、これらの学校では、児童、生徒たちが母国語を話すことで殴打される暴行が頻繁に起き、身体的および性的虐待が蔓延していたことを認めている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2021年6月25日

・カナダの暗黒の歴史ー先住民の子どもたち強制収容のカトリック教会運営の寄宿学校跡地から215人の遺体ー教皇が哀悼

(2021.6.6 バチカン放送)

 カナダのブリティッシュ・コロンビア州カムループスの先住民の子どもたちの寄宿学校の跡地にある墓地から、215人の遺体が発見され、現地で大きな衝撃が広がり、その背景にある先住民同化政策を推進した当時の政府、学校運営に関わったカトリック教会の責任を問う声も高まっている。

 教皇フランシスコは6日日曜の正午の祈りで、「この悲しい発見は過去の苦しみを知ることでいっそう大きくなりました」とし、カナダ全土にあった先住民寄宿学校で亡くなったすべての子どもたちの魂を主に委ねるとともに、深い哀悼の意を示された。

 そして、カナダの政府、カトリック教会、国民に向けて、「この試練の時は、植民地主義的モデルから脱皮して、あらゆる国民が対話と相互尊重のうちに共に歩み、すべての人々の権利と文化的価値を認めるように、改めて強く求められている」と述べ、カナダの政治指導者やカトリック教会の指導者たちに対して、悲劇の解明に力を合わせ、和解といやしの道と歩む努力を強く求められた。

 カナダ政府は先住民同化政策のもとに、1863年から1998年に至るまでの間に約15万人の先住民の子どもたちを家族から引き離され、全土に設けた139の寄宿学校での生活を強制した。子どもたちは民族固有の言語を話すことを禁じられ、虐待されることもしばしばあった。カムループスの先住民の子どもたちの寄宿学校は、そのひとつで、1890年に開校し、カトリック教会によって運営され、80年以上にわたって活動を続け、1978年に閉校、墓地も放置されていたとみられる。

 「先住民寄宿学校制度に関する真実と和解​委員会」が5年前に発表した約4000ページにわたる報告書には、先住民の子どもたちに対する寄宿学校などでの虐待の詳細や、その虐待や子どもたちに適切なケアをしなかったために死亡した子供たちが少なくとも3200人に上ることが明らかにされている。

 カナダ司教協議会は5月31日に、この出来事に「大きな苦しみ」を表明。同国の先住民族共同体に対する寄り添いと努力を約束した。

 (編集「カトリック・あい」)

2021年6月9日

・独のマルクス枢機卿が大司教辞任申し出ー聖職者性的虐待問題など引責

German Cardinal Reinhard Marx resigns as Archbishop of Munich-Freising.German Cardinal Reinhard Marx resigns as Archbishop of Munich-Freising.  (AFP or licensors)

(2021.6.4 Vatican News  Salvatore Cernuzio)

 ドイツのカトリック教会の最有力者で、教皇フランシスコの“盟友”でもあるラインハルト・マルクス枢機卿が4日までに、教皇に対し、ミュンヘン・フライジング大司教辞任を願い出た。枢機卿は、「聖職者による性的虐待問題への対応の誤りだけでなく、教会の組織運営上の誤りの責任をとるため」と説明している。

 マルクス枢機卿は、教皇フランシスコに提出した辞表で、ドイツにおける聖職者の性的虐待が引き起こした危機への対処における「個人的な失敗」と「管理運営上の誤り」だけでなく、「制度的あるいは体系的な失敗」の責任を取って辞任したい旨を伝えた、という。

 ミュンヘン・フライジング大司教区のウェブサイトに掲載された枢機卿からの「個人的な宣言」によると、教皇は枢機卿の辞表の公表を許可され、「大司教の職務は、教皇が判断を下されるまで、続ける」としている。

 辞表の中で枢機卿は、ドイツ教会が直面している危機は外的要因だけでなく、「私たちの個人的な失敗、私たち自身の罪によっても引き起こされた」とし、 「私たちは”袋小路”にいるが、これが”転換点”になる潜在的な可能性もある」と希望を残している。

*虐待の危機における共同責任

 また個人的宣言で、「この 1 年間、大司教を辞任することを考えて来た… ここ数ヶ月、辞任について繰り返し考え、内省し、祈りと霊的対話において正しい決定を下そうと努めた」とし、辞任によって「過去数十年にわたる教会関係者による性的虐待が破局をもたらしたことに対する責任を共有することが重要」と説明した。

・・・・・・・・・・・・

 マルクス枢機卿は過去数か月、ケルン大司教区での小児性愛事件の最初の調査を依頼された Westpfahl Spilker Wastl 法律事務所に、自身のミュンヘン・フライジング大司教区における性的虐待の第三者調査を依頼。また、大司教区に、性的暴力のすべての犠牲者に「癒しと和解」を提供するための財団「Spes et Salus」を、自身の資産の大半を注ぎ込んで設立した。

 

*個人的な失敗と管理運営上の誤りー教会のあるべき改革

 枢機卿の教皇宛ての書簡は複数の言語で翻訳されたが、その中で、枢機卿は、過去10年間の「調査」と「報告」について言及し、「管理運営上の誤りだけでなく、制度的あるいは体系的な失敗もある」ことを認める一方、ごく最近の論争や議論を見ると、「教会関係者の中には、共有すべき責任があること、制度としての教会が起こったことに批判を受けること、を認識するのを拒む者がいる。彼らは、性的虐待が引き起こした危機の文脈で教会の改革と刷新について議論するのに反対している」と批判。

 そして、この問題に対して考えねばならない側面として、「個人的に責任のある失敗」と「教会の変革と刷新を必要とする制度上の欠陥」があり、「私たちが”シノドスの道”ー”霊的識別”を実際に可能にする道ーを進むことだけが、今の危機を脱する”転換点”をもたらす、と考える」と訴えた。

 

*司教たちの教会的、社会的な信望が地に落ちた

 また枢機卿は、自身の司祭としての 42 年、司教としての 25 年間を振り返り、こうした教会での長い経験を踏まえて、「嘆かわしいことは、司教というものの、教会での、一般社会での信望が著しく損なわれたこと。どん底まで落ち込みました」と指摘し、自分の考えでは、「責任をとること。報告書が失敗や誤りについての決定的な証拠を提示した時だけ対応するのは、十分ではない。私たちは司教として、教会組織全体を代表しているのだ、ということを明確にせねばならないのです」と強調した。

*最大の過ちは、性的虐待の犠牲者を見過ごしたこと

 さらに、枢機卿は「問題を過去の時代や、かつての教会当局者と単純に結び付け、起こったことを”葬り去る”ことがあってはならない」と述べ、問題が起きているのに黙って、何もせず、結果的に犠牲者たちを見過ごしたことに「個人的に罪悪感と責任を痛感している」としたうえで、 「2002年以降、さらに2010年以降、性的虐待を受けた人々がさらに前面に出てきており、過去の過ちには程遠い。犠牲者たちを見過ごし、無視することは、私たちの、これまでで最大の過ちでした」と自省した。

*新たな始まりの合図となりたい

 「私たちは失敗しました」と枢機卿は繰り返し、この場合の「私たち」には自分自身が個人的に含まれていることを率直に認め、それが彼が辞表を提出する理由であり、責任を負う意思を表明する行為だ、と語り、「ドイツ国内だけでなく、教会の新たな始まりへの私なりの合図」となることへの希望も付け加えた。

 そして、最後に、「福音宣教の最前線は(教区や教会の)事務室ではない。そして、福音宣教も司牧の一環… 司祭、司教であることを享受するために、司牧活動に専念します。教皇が『理にかなって、役に立つ」とされる所であればどこにおいても、司牧牧活動に専念したい」とし、司牧ケアと教会の霊的刷新への取り組みを支援するにことに自身を捧げることを誓った。

・・・・・・・・・・・・

 マルクス枢機卿は、2013 年に教皇フランシスコが設置した枢機卿顧問会議のメンバーとして、世界の教会の統治支援し、バチカン改革の研究と計画策定などで、教皇を支えてきた。また 2014 年からは、バチカンの経済・財政政策を担当する経済評議会のコーディネーターを務める一方、ドイツ司教協議会の会長を2012年から2020年2月まで務めていた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2021年6月5日

・ニュージーランド司教団も「シノドスの旅」の準備開始

View from the Synod of Bishops with Pope FrancisView from the Synod of Bishops with Pope Francis 

 デュー枢機卿は「教皇フランシスコは、司教、司祭、そして信徒たちに、教会の共通の使命を共に歩むよう、頻繁に呼びかけてこられました。教皇は、神の民に耳を傾けることが不可欠であると確信しておられます。それは、現地の教会で司祭、信徒たちの言葉を聴くことなのです」と強調した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2021年6月5日

・欧州のカトリック諸団体、環境回勅「ラウダー・ト・シ」推進へ協力改めて誓う

(2021.5.29 Vatican News  Lisa Zengarini)

 地球温暖化防止と社会正義の促進に協力する欧州のカトリック諸団体の連盟が、「ecological conversion(自然環境保全への回心)」と「integral ecology(総合的な自然環境保全)」のためにさらなる協力を進めるという誓いを新たにした。

  教皇フランシスコの環境回勅「ラウダー・ト・シ」発出6周年を記念して27日にELSi’A(「倫理的・法的・社会的な課題」連盟)が主宰して開いたオンライン・イベント第4回Laudato Si’ Reflection Day で合意されたもの。欧州司教協議会連盟(COMECE )、カリタス・ヨーロッパ、イエズス会欧州社会センター、 カトリック社会正義運動諸団体、カトリック地球温暖化防止運動などから100人以上がが参加した。

*「夢、計画、道」

  「夢、計画、道」と題されたオンラインイベントでは、長期的な思考の重要性と、創造性のより良い醸成に向けた欧州における教会と地域共同体社会の役割、そして、「ラウダー・ト・シ」のもたらす長期的な影響を基礎に置くことなどに焦点が当てられた。

*人類が新たな道を共に作る

 開会のあいさつで、ELSi’A の名誉会長で欧州司教協議会連盟(COMECE )会長のジャン=クロード・オロリッシュ枢機卿(元上智大学副学長、イエズス会士)が、世界が直面している多面的な危機と、そうした現状にどのように変化をもたらすことができるかについて語り、人類が新しい道を共に作り、調和の中で生きる「地球共同体」が可能であることを強調した。

 

*世代間の連帯の必要性

 続いて発言した人々の中には、教皇フランシスコが強調しておられる「長期的な思考」「世代間の連帯」を強調し、目先のことや現在の専制政治的傾向に囚われないようにすべきだ、との主張や、地球の未来は、天然資源の枯渇につながるような経済成長を追い求めるのでなく、循環型の無駄のない経済を作り出すことでバランスの取れた繁栄を可能にする持続可能な経済モデルを目指すべきだ、との主張が目立った。

 また、これまでの政治、社会、経済に変化を起こすために、市民と政治指導者が共に関与させることが重要である、との指摘も目立った。

*「ラウダー・ト・シ」の原則を実践する具体的な取り組み

 このイベントでは、各地域レベルで「ラウダー・ト ・シ」の原則を実践する具体的な取り組みについて学ぶ機会も提示され、具体的手法として、カトリックの地域共同体が環境保全の取り組みに参加して環境保全とカトリックの社会教説のつながりを示す、いつくかの草の根プロジェクトや啓発プログラムなどが挙げられた。

*「貧しい人々を犠牲にしない」環境保全へ

 イベントの後半では、カトリック教会と欧州連合の視点から、地球環境保全のための協力の目標と分野を特定するのに役立つ問題提起があった。バチカン人間開発省のアウグスト・ザンピーニ次官補は、教皇が繰り返し警告されている「無関心のグローバル化」に世界の人々が陥る危険性を指摘する一方、「これまで各国、関係機関、団体がとって来た政策は根本的に変えねばなりませんが、それは、あくまで貧しい人々を犠牲にしない形での変更です」と述べた。

*公正な未来の夢の実現

 イベントの最後に、カリタス・ヨーロッパのマリア・ナイマン事務局長は、たとえそれが急進的なものであっても、必要な変化を恐れないこと、を強調し、「教会は、『道』を一人ぼっちで歩んでいるのではありません。長期的な計画が求めれており、『ラウダ・ト ・シ』で教皇が説かれておられる『夢』を単なる夢想に留まらせないようにすることが必要です」と訴えた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2021年5月30日

・イタリアとラ米の司教協議会が”シノドスの旅”へ決意表明

74th General Assembly of the Italian Episcopal Conference

74th General Assembly of the Italian Episcopal Conference  (Vatican Media)

(2021.5.25 カトリック・あい)

 「For a synodal Church: communion, participation and mission(「カトリック・あい」仮訳は「共働する教会へー交わり、参加、そして派遣」をテーマとするカトリック世界代表司教会議(シノドス)の第十六回通常総会は、今年10月9、10両日のバチカンでの教皇ミサ、そして全世界の教区でのミサで始まり、以後、教区、五大陸、世界の3段階で3年にわたる長期の”シノドス(ギリシャ語で「共に歩む」)の旅”という異例の形をとることになったが、世界の司教協議会では、これに対応した取り組みが始まっている。

*イタリア司教協議会は定例総会で「シノドスの旅」への決意確認

 Vatican News が24日付けで報じたところによると、イタリア司教協議会は24日から4日間の予定でローマで定例総会を「再生の今、福音を宣言するーシノドスの旅への出発」をテーマに開始した。

 総会の開会式に参加した教皇フランシスコは質疑に入る前に、会議のテーマに関連して、10月から始まるシノドスについて、「小共同体、小教区から始まる”ボトムアップ・プロセス”(注:下からの意見を吸い上げて全体をまとめていくやり方)をもとにせねばなりません。それには、忍耐と苦労が求めらる」と強調。そして、「信徒の人々に自由に意見を述べ、『神の民の叡智』が生かされる場を提供する必要があります」と指摘された。

 開会あいさつに立ったイタリア司教協議会会長のグアルティエロ・バセッティ枢機卿も、「イタリアの教会の『シノドスの旅』」に重点を置いて語り、「励ましと祈り、そして、父としての祝福」を教皇に願った。

 さらに、枢機卿は「”神の民”の関与を強調」したシノドス事務局の声明に言及し、「私たちが始めようとするプロセスで、神の民が私たちを支えてくれる」と述べ、イタリアの詩人、小説家のアレッサンドロ・マンゾーニの名作「婚約者」で、主人公の司祭が司教に教えた言葉「自分が勇気を持たねば、相手を勇気づけることはできない。重要なのは、恐れず、大きな夢と希望を持つことです」を引用して、”シノドスの旅”を歩む決意を表明した。

 *ラテンアメリカ司教協議会も定例総会で「シノドスの旅」へ組織再編の指針決める

CELAM’s 2021 General Assembly 

CELAM's 2021 General Assembly

 また、ラテンアメリカ司教協議会(CELAM)は18日から5日間の日程で開いたオンラインによる定例総会を開き、ラテンアメリカとカリブ海地域の信徒たちにより効果的に奉仕するための組織再編指針を圧倒的多数で承認した。

 24日付けVatican Newsによると、承認された組織再編指針は、この地域の福音宣教活動を活性化し、聖職者と信徒が共働する、シノドス的な教会とすることを目的とし、9つの分野ーsynodality(共働性)、 collegiality(合議性)、統合的な回心、預言的な声、統合的な展望、有効性、ネットワーキング、分権の促進、教導権への支持と貢献ーから成っている。

 会議の中で、司教たちは、この地域で、とくに新型コロナウイルスの世界的大感染の中で社会的不平等が一段と顕著になっていることを共に認識したうえで、”神の民”の叫びの中にある聖霊の啓示を聴くことを通し、共同性、合議性のもとで識別していくことを確認した。

 会議後の声明ではまた、教皇の言葉ー私たちは皆、同じ船に乗っており、誰も一人で救われることはないーを受ける形で、「”神の民”の羊飼いとして、私たちは、大地の叫び、貧しい人々の叫びを合わせて聴くことを望み、神の国の福音を聴くことを望む。私たちが現在の危機に、共に、より効果的に打ち勝つことができるという希望をもって」と言明。

 「私たちは今、直面する数多くの課題に”圧倒されている”と感じている」が、神ー常に驚かせ、刷新し、力づけ、教会司牧の創造性を刺激してくださる方ーを信頼し、あふれ出る聖霊の助けを得て、課題に立ち向かっていく、ことを約束した。

 さらに、教皇がアマゾン地域シノドスの結果を受けて出された使徒的勧告「Querida Amazonia(愛するアマゾン)」で提案されている「社会的」「文化的」「生態的」「教会的」の四つの預言的な「夢」に言及し、もっとも貧しい人々の権利のため、今よりも公正な社会のために戦うように、この南米大陸を力づける教会となる意思を示している。

 

2021年5月25日