・ブラジルで今年だけで少なくとも9人の司祭が自殺ー背景に性的虐待問題への教会の歪んだ対応も(Crux)

(2021.11.26 Crux  Contributor  Eduardo Campos Lima)

 サンパウロ発ー聖職者による未成年者などに対する数多くの性的虐待と、高位聖職者による隠ぺいで多くの司教が辞任に追い込まれるなど深刻な問題を抱えるブラジルで、少なくとも9人のカトリック司祭が2021年に自殺していることが明らかになり、ラテン・アメリカ諸国の聖職者の精神的健康について懸念が表面化している。

*要因は「うつ病」と「燃え尽き症候群」

 自殺につながる可能性のある重要な要因の中には、うつ病と燃え尽き症候群があり、司祭は過度の仕事量と孤独を繰り返し起こす可能性のある”組織文化”の問題に直面している。また、別の具体的な要因として、(注:これまでの隠ぺいや放置の反動としての)聖職者に性的な虐待や嫌がらせの疑いが持たれた際の教会の厳格で素早い対応に関連しているようだ。ソーシャルメディアやマスコミによる”炎上”を恐れて、虐待の有無などを十分に検証しないまま対応してしまう、教会の”新ルール”がもたらす問題も、背景の一つにあると考えられている。

*背景に、性的虐待・隠ぺい批判への歪んだ対応

 こうした問題と関連する司祭の自殺で最も新しいケースは11月7日に起きた。ブラジル北東部、ピアウイ州のボンイエス市の教区館でホセ・アルベス・デ・カルヴァリョ神父(43)が自ら命を絶っているのが発見されたのだ。デ・カルヴァリョ神父は最近、14歳の少女を虐待したとして告発され、自殺の前日に教区から司祭としての職務の一時停止を命じられていた。

 司祭を自殺に至らしめた教会の人事管理の失態は、ソーシャルメディアであるメッセージが広められ、厳しく批判された。「シメアン神父」という代表者の名で聖職者、信徒合わせて数十人の匿名の人々によって出されたこのメッセージは、「司祭たちは、教会よりも自分自身を愛すべきです」と主張。

*告発受けると、検証もせずに司祭職一時停止

 さらに、「兄弟たち、どの司祭も、彼と同じような事態に直面する可能性がある。虐待の証拠が無くても、教区長の司教に、訴えられた場合、ホセ神父と同じような、司祭としての職務停止に追い込まれる可能性があります。私には、停職処分を受けて、何もできなかった兄弟たちのことが頭にある。彼らは無実であり、常に無実だったのです」と訴えている。

 そして、現在のブラジルの教会には「司祭の世話をする時間も、優先順位もありません」と述べ、現場の聖職者たち直面しているいくつかの困難に言及。

*教会は、司祭たちを生かす努力をしていない

 そのうえで、「私たちは”ビジネスマン”であり、カソックを来た従業員です。教会を愛するだけでは十分ではありません。現在の時代が私たち聖職者に課している非常に多くの課題に直面して、私たちを生かし続けるには、それだけでは十分ではありません。教会ができる最善のことは、私たちのために祈ることです」と述べ、「教会は、私たちを抱きしめることがほとんどなく、私たちの言うことをほとんど聞かず、世話をする方法を知らず、愛する時間をもっていない」と批判している。

 心理学者で自殺の専門家であるリシオ・ヴェイル神父はCruxの取材に対して、「教会が、性的虐待の加害者に厳格な懲罰を課する立場をとっていたため、一部の司祭に『懲罰的妄想』を持たせ、苦しませているようだ」と語った。

 そして、「教会は、従来の『虐待者を罰しない文化』から、『厳格に対処する文化』に移行過程にある。犯罪者は罰せられなければならない、と考えれば、これは重要な移行過程です。だが、措置の厳格化とともに、不当に告発された司祭に対しては、公的補償を含めた補償措置が必要です。不当に名誉を傷つけられる恐れが、聖職者を絶望へと駆り立てているようにも思われる」と懸念を示した。

*”問題司祭、神学生”を事前に見分ける力に問題

 「このような移行期に起きている問題はやがて解消されるでしょうが、今、私たちが本当にすべきことは、虐待行為を未然に防ぐために、そうした可能性のある人物を特定するすることです。司祭不足の現状の中で、そのようなことは繰り返し無視されますが、早晩、そうした人物は問題を起こすことになる」と警告。

 「現在司祭を精神的苦痛に導いている主要な要因は、彼らが司祭になる前に神学校の段階で対処する必要がある。今の若い司祭と神学生は、”自己中心と無限の成功の追求の時代”に育ちました。”キャリア主義”はどこにでも存在します。ブラジルの神学校とブラジルの聖職者監督システムは、司祭の育成について考え方を改め、”競争”ではなく”友愛”を強調するものにせねばなりません」と強調した。

*通常の職務に追われ、心身への健康への配慮がされていない

 さらに、「多くの司祭は通常の職務に追われており、自分の心身の健康、そして共同生活への配慮に心が及ばない。燃え尽き症候群とうつ病の症状には、継続的な苦痛と倦怠感、課題の先延ばし、不眠症、および仕事の困難が含まれます。多くの司祭が持っているそのような問題は容易に特定することができます」と説明している。

 また、何十年にもわたって司祭と協力してきた心理学者のエンニオ・ピントは、「今日、大半の神学校にはメンタルヘルスの専門家がいますが、神学生を育成する過程で、彼らを支援するために必要な科学的情報が不足している場合がある」とし、「教会は司祭や神学生のメンタルヘルスについて、もっと重視する必要があります。多くの場合、教会は、彼らに専門家の助けを求める基準の必要性への認識も含めて、その問題に初歩的な理解しかしていません」とCruxに語った。

*「司祭の自殺はブラジル社会の危機の一部」と司教団事務局長

 ブラジル司教協議会の事務局長、ジョエル・ポルテラ・アマド補佐司教(リオデジャネイロ教区)は、Crux とのインタビューで、これまで司祭たちの自殺について見て来た経験を踏まえ、「司祭たちの自殺は、『ブラジル社会における危機の一部』であると考えています」と述べ、「ブラジルの社会で、私たち司祭は、多くの欲求不満と一般的な言及や認識の欠如を経験しています… ”スーパーマン”としての司祭のイメージが過去には役立ったかも知れませんが、今は役に立ちません。司祭たちは、”脆弱性の神秘”を発現させる必要がある。教会は、司祭職のあり方について考え直す必要がある」と語った。

 さらに、「多くの人は、『司祭職は孤独を意味する』と思っていますが、それは違います。司祭たちは、形のある司祭共同体の一員であるべきです。司祭たちは、自分の共同体との生き方、分かち合い方を学ばねばなりません」とも指摘した。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2021年11月27日