・カトリックで史上二人目の米副大統領候補は、信者の分裂を加速する(La Croix)

Republican presidential candidate Donald Trump applauds alongside his vice-presidential pick, J.D. Vance on the first day of the 2024 Republican National Convention in Milwaukee, Wisconsin July 15, 2024. (Photo: Youtube/RNC 2024)
Republican presidential candidate Donald Trump applauds alongside his vice-presidential pick, J.D.

(2024.7.19 La Croix   Malo Tresca)

   J.D. ヴァンス氏が、17日の米国の共和党全国大会で副大統領候補に選ばれた。トランプ候補を推す共和党陣営が大統領選挙に勝利すれば、2019年に成人として洗礼を受けたオハイオ州の上院議員は、米国史上2人目のカトリック教徒の副大統領となる。

 ​​「キリスト教徒、夫、父親、オハイオ州の上院議員」-ソーシャルネットワークXでの短い自己紹介で、J.D. ヴァンスは、主に信仰というレンズを通して、自身の歩みの最も顕著な側面を明らかにした。

 共和党全国大会でドナルド・トランプの副大統領候補に正式に指名された39歳のヴァンスは、11月の大統領選挙で自身の陣営が勝利すれば、バラク・オバマ政権で副大統領を務めたジョー・バイデンに次ぐ、米国史上2人目のカトリック教徒の副大統領となる可能性がある。

 宗教は現在、彼の人生の中心を占めているが、彼の精神的な旅は曲がりくねった道をたどっており、彼はそれをアメリカの報道機関に公に語ってきた。

 質素な家庭に生まれ、麻薬密売に悩まされていたアパラチア山脈の貧しい白人コミュニティで育ち、子供時代と十代の頃は福音派の教会に通っていた。「私はかなり混沌とした絶望的な世界に住んでいましたが、信仰が『誰かが私のことを見守ってくれている』という信念を与えてくれました」と、2016年にユタ州を拠点とする宗教メディアのDeseret Newsとのインタビューで語った。

 そして、「教会に行くと、それまで見たことのない本当に良いことがたくさん分かりました。さまざまな人種や階級の人々が一緒に礼拝しているのを体験しました。仲間から自分がすべきことに関して特定の道徳的期待があることを知りました」と述べた。

 20代前半、名門イェール大学での学生時代は、神から一定の距離を置くことで特徴づけられた。 「私は自分を『無神論者』と呼んでいました」。それにもかかわらず、宗教的信念が自身を高めているように思えるカトリック教徒やモルモン教徒と会ったことを思い起した。

 2015年、彼は再び宗教的な儀式に出席し始め、4年後にカトリック教会で洗礼を受けることを希望し、長い間彼を教会から遠ざけていた(聖職者たちによる)虐待問題にこだわらないことに決めた。「私にとって最も大切な人々をよく見ると、皆、カトリック教徒でした」と2019年の受洗当時、 The American Conservative紙とのインタビューで語り、カトリックの「知的」魅力を強調した。

 「キリスト教の信仰の希望は、物質世界の短期的な征服に根ざしているのではなく、それが真実であり、長期的には、さまざまな試行錯誤を経て、物事はうまくいく、という事実に根ざしています」と、元軍人で、米国の産業が衰退した地域で育った経験について書いたベストセラー “Hillbilly Elegy”の著者であるヴァンスは語った。

 

 彼の信仰はどの程度彼の政治活動に影響を与えているのだろうか?

 「彼自身がよく言っているように、彼の献身は教会の社会教義、特に経済問題に関するレオ13世の回勅『Rerum Novarum新しき事柄について―資本と労働の権利と義務)』によって動機づけられている」とトゥーロン大学(ヴァール)のアメリカ文明の専門家、マリー・ゲイトは説明した。「ヴァンスが『権利を奪われた米国の労働者を助ける』と主張するのは、カトリックの名においてなのです」。

 ゲイトによると、元シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストであるヴァンスは「リベラルなコンセンサスから離れることで保守主義を再定義しようとしている、多くのカトリック教徒を含む”ポスト・リベラル”な知識人」に属するという。

 ヴァンスは、バイデン現大統領の2020年大統領選勝利に反対する連邦議会の反乱分子を支援したことで米国政治の舞台で物議を醸したことがあり、2023年1月にオハイオ州上院議員となって以来、カトリック信者の間では違った見方をされてきた。移民問題や気候変動懐疑論についての強硬姿勢は、教皇フランシスコの姿勢とは相容れないようだ。

 性道徳の問題で極端に二極化した米国で、レイプや近親相姦を例外とせず中絶を禁止する彼の確固たる立場は、カトリック信者の分裂を招いている。今年4月11日の有力調査機関、Pew Research Centerの調査によると、信者の10人中6人強(61%)が中絶合法化を支持しているが、ヴァンスが7月初旬にトランプが主張する中絶薬の取得を容易にすることへの支持を表明して、保守派信者から反発を招いている。

  「ヴァンスには原則がない。少なくとも”売り物”にならない(主張をする)原則はない。そして”提示価格”は低い」とマサチューセッツ州カトリック行動連盟のC.J.ドイル事務局長は皮肉った。

 「それにもかかわらず、ヴァンスは、保守化の傾向を強める若い米国の聖職者の間で、かなりの人気がある。彼らはこの最新の論争を無視しているようだ」とゲイトは指摘し、彼が副大統領候補に指名されたことで、「米国のカトリック司教たちの極右派を喜ばせている」と確信をもって語った。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

LA CROIX international is the premier online Catholic daily providing unique quality content about topics that matter in the world such as politics, society, religion, culture, education and ethics. for post-Vatican II Catholics and those who are passionate about how the living Christian tradition engages, shapes and makes sense of the burning issues of the day in our rapidly changing world. Inspired by the reforming vision of the Second Vatican Council, LCI offers news, commentary and analysis on the Church in the World and the world of the Church. LA CROIX is Europe’s pre-eminent Catholic daily providing quality journalism on world events, politics, science, culture, technology, economy and much more. La CROIX which first appeared as a daily newspaper in 1883 is a highly respected and world leading, independent Catholic daily.
2024年7月20日

・「米国は、政治的な怒鳴り合い、他者に耳を傾ける余裕も失っている…尊厳と対話を促そう」ー米国の司教団代表、トランプ襲撃事件で

(2024.7.19 カトリック・あい)

 13日の米ペンシルベニア州での集会でトランプ前米大統領の銃撃事件を受けたことについて、バチカンは広報局が声明で、民主主義を傷つけ、苦しみと死をもたらす暴力に対し憂慮するとともに、犠牲者のため、そして米国の平和のために、米国司教団と共に、暴力の論理が勝ることがないように祈る、と述べた。声明した。

 また米国カトリック司教協議会会長のティモシー・ブロリオ大司教は16日、バチカン・メディアのインタビューに答え、トランプ前米大統領の暗殺未遂事件を、ぞっとする「行動への呼びかけ」と定義し、米国民は「それぞれの人間としての尊厳を尊重しつつ、常に敬意をもって意見の相違を表明すべきだ」と強調した。

 そして、この事件の背景にある米国の政治・社会状況について、「政治的議論が怒鳴り合いばかりで、他者に耳を傾ける余裕がないところまで来てしまっている」と述べたうえで、17日に始まる米国の聖体大会が「私たちにとって、対話と和解を促進する大きな機会になるでしょう… キリストの中に私たちは行動規範を見出すことができ、その促進に努めれば努めるほど、私たちの社会はより良いものになるでしょう。私たちだけで、すべてを行うことはできませんが、その基盤を造り、尊厳と対話の促進のために、責任ある人々を促すことはできます」と語った。

(以上、「バチカン放送」ニュースをもとに、「カトリック・あい」が編集)

 

2024年7月19日

・ガザ地区のカトリック学校が攻撃を受け、避難民ら多数が死傷

攻撃を受けたガザ地区のセイクリッド・ファミリー・スクール 2024年7月7日攻撃を受けたガザ地区のセイクリッド・ファミリー・スクール 2024年7月7日  (AFP or licensors)

(2024.7.8 バチカン放送)

 パレスチナ・ガザ地区のカトリック系の学校、セイクリッド・ファミリー・スクール(聖家族学校)が7日、イスラエル軍の攻撃を受け、多くの死傷者を出した。

 学校を管轄するラテン典礼小教区「聖家族小教区」の主任司祭ロマネッリ神父は「学校は二度の攻撃を受け、何人かの死者と、多くの負傷者がいる模様です」と深い悲しみを表明。

   ラテン典礼エルサレム総大司教区は声明で「イスラエル軍がガザの聖家族学校に対して行ったと思われる急襲のニュースを深い懸念をもって注視している」とし、「民間人を標的にすること、民間人が戦闘現場外に留まることを十分に保証できない攻撃行為」を強く非難した。

  同総大司教区によると、セイクリッド・ファミリー・スクールは、イスラエル軍によるガザ地区への攻撃が始まって以来、何百人もの民間人の避難所となってきた。ロマネッリ神父は「校内の避難者の数は、最初は1000人近かったが、その後追い出され、また700人ほど行き場を失った人々が戻ってきたりと、常に変化しており、今回の攻撃を受けた時に、何人の避難者がいたか、把握するのは難しい」と説明している。

(編集「カトリック・あい」)

 

2024年7月9日

・露軍に捕らわれた司祭2人を含む民間人10人解放ーゼレンスキー大統領が、教皇とバチカンの努力に謝意

Fathers Ivan Levytskyi e Bohdan HeletaFathers Ivan Levytskyi e Bohdan Heleta 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2024年6月29日

・教皇のローマ郊外の小教区訪問は、イタリアの教会の外国出身司祭への依存の高まりを象徴している(Crux)

(2024.6.8 Crux Staff)

ローマ発 – 教皇フランシスコ6日、ローマ北西端にある小教区を突然訪問された。訪問は、教皇が2025年の聖年に向けて呼びかけておられる「祈りの学校」の一環だが、聖ブリジット小教区には現在、教会の建物がなく、ガレージでミサが行われており、「祈りの学校」も、集合住宅の中庭で開かれた。

 興味深い”脚注”は、教皇の訪問が、今日のイタリアにおけるカトリック信者の人口動態を正しく捉えたものだったことだ。 集まった教区民はほぼ完全に白人で、民族的にはイタリア人だったが、旬司祭と叙任司祭は、どちらも聖霊修道会の宣教師で、コンゴ人とカメルーン人。

 主任司祭のガイ・レアンドレ・ナカヴォア・ロンデ神父は、2005年に今後からイタリアに入国、その段階でイタリア語を一言も話さなかった。司祭に叙階された時、派遣希望地としてガボン、メキシコ、インド洋のレユニオン島を挙げたが、上長はイタリアでの宣教を命じ、以来、聖ブリジット小教区の司祭を務めている。

 助任司祭のフランシス・チャンチョ神父は、カメルーン出身の40歳で、2017年に叙階され、北イタリアのトリノで宣教活動を始め、昨年、聖ブリジット小教区に移った。

 二人は、イタリアのカトリック教会における、国外出身の聖職者への依存度が高まりを象徴している。かつてイタリアは、世界の他の地域への宣教師の大”輸出国”だっがが、イタリア司教協議会の資料によると、今や海外で奉仕するイタリア人一人につき、イタリアで奉仕する外国生まれの司祭は5人に上る。昨年現在で、イタリアには1476人の外国出身の教区司祭がおり、うち790人が司牧活動に従事し、686人が学生。さらに、小教区の主任司祭や助任司祭など教区の任務も兼任する修道会司祭が1336人。外国人司祭の合計は、教区司祭、修道会司祭を合わせて2812人で、イタリアの教会の全カトリック司祭のほぼ10%を占めている。

 イタリアの司祭の総数は1990年から昨年までに約2割減ったが、外国人司祭の数は同じ期間に10倍に急増している。外国出身の教区司祭790人の地域別内訳は、407人がアフリカ、134人が東欧、164人がアジア、85人がラテンアメリカを主体とする南北アメリカだ。

 イタリアの教区と他国の教区との間の司祭任命に関する協定を監督する同国司教協議会のジュゼッペ・ピッツォーリ神父は、協定では外国出身の司祭のイタリアでの奉仕期間は9年とされており、満了した時点で母国に帰ることになっている。

 だが、「協定を守るよりも”違反”することに重きが置かれることもあります… イタリアで9年間過ごした後、何人かの外国人司祭は母国に戻るのに苦労しています。イタリアの司教でさえ、彼らが去るのを望まない。なぜなら、彼らは9年の間にイタリアの教会にうまく適応し、重要な役割と責任を負うようになっているからです」と語った。司教協議会がデータを作成して以来これまでに、他国出身の教区司祭398人がイタリア国内の教区に転籍している、という。

 司祭不足は欧米よりも発展途上国で深刻になる傾向があることを考えると、このイタリアの教会の自国出身司祭の不足は、必ずしも欧米共通の問題というわけではないかも知れない。例えば、欧州全体では、カトリック教徒1700人につき1人の司祭がいるが、アフリカでは、5700人に1人だ。

 そうしたことを考え合わせ、”北”の裕福な国々の教会が、”南”の貧しい教会の聖職者を”搾取”し、”南”の国々でもっと聖職者が必要とされているのに、”北”の国々の”不足を穴埋め”するために、聖職者を”南”から”北”に流出させているのではないか、という見方も出ている。

 実際、バチカン福音宣教省の長官を1985年から2001年まで務めたスロベニア出身のヨゼフ・トムコ枢機卿は、発展途上国からイタリアに司祭を”輸入”する傾向が強まっていることを批判し、「これほど多くの教区司祭をもってすれば、(アジア、アフリカなどの)宣教地域にもっと多くの新しい小教区が作られるはずだ!」と述べていた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年6月9日

・米ワシントン大司教区で、前年の3倍近い16人が司祭叙階へ

Priestly ordination in St. Peter’s Basilica, April 25, 2021.

(2024.6.8  カトリック・あい)

 米カトリックメディアCNAが7日報じたところによると、米国のカトリック・ワシントン首都圏教区で、6月15日に、16人が司祭叙階されることになった。

 同教区での司祭叙階は昨年は6人、一昨年は10人、2021年はわずか1人だったのに比べて、驚異的とも言える増加だ。

 今回の司祭叙階者には、軍務経験者が数人、元救急救命医と元.警察官が1人づついる、という点でも画期的と言えるようだ。

 ワシントン大司教区は、同地域の総人口約300万人の2割強、65万人がカトリック教徒。小教区は139、学校は93。教区長はウィルトンD.グレゴリー枢機卿。

 

2024年6月8日

・性的虐待訴訟で破産の米ボルチモア大司教区がボルチモア都市圏の小教区61を23に削減する再編計画-「人口動態に対応」と(Crux)

(2024.5.23 Crux  National Correspondent  John Lavenburg)

 米国で最も古い歴史を持つボルチモア大司教区の広報担当者は、教会の閉鎖数は29に達する可能性があると語る一方、一部は特別な礼拝堂などに再利用されたり、奉仕の場所として指定されたりする可能性がある、としている。

 ローリ大司教は、決定は「希望に満ちた未来を見据えて行われた」と述べ、 「このプロセスは、私たちの教区が使命と奉仕に集中できるようにすることを目的としている… 多くの小教区に分散している資源を集め、福音を告げ知らせ、隣人が救いに出会うのを助ける、という、私たちの目の前にある使命を遂行するための十分な備えを整えた新しいコミュニティを形成するために行われるもの」と説明。「小教区の合併再編がこの目標の達成に役立ち、新しい小教区共同体と司祭が物的、人的、精神的資源をその使命に向けることができるようになる、と確信している」と語った。

 ボルチモア大司教区には153の小教区と伝道所があるが、再編計画の対象となる61の小教区は、ボルチモア市とその周辺郊外にあり、現在の人口減少と人口動態に適合するよう小教区の配置を見直すものだ。

 大司教区の広報担当者によると、大司教区のカトリック教徒は約50万人で、うち約1万4000人(2.8%)がボルチモア市内の教会でミサに出ているが、市内居住者はその約半分という。 にもかかわらず、小教区の数は、大司教区の全体の小教区の約 3 分の 1 を占めている。ボルチモア市では、1810 年から 1950 年代にかけて人口が約 5 万人から約 90 万人に増え、これに対応する形で市内の教会の建設が進んだが、その後、市の人口は減少に転じ、現在では約 55 万人まで減っている。

 またローリ大司教は、「今回の再編計画で影響を受ける人々に配慮して、一部の合併統合は、今後1年ほどかけて行う」とし、 基本的に、各小教区共同体はそれぞれの状況に応じた独自の計画をもとに、合併への作業を進め、合併手続きが完了した後、大司教区として新たな施設、建物への資金提供を検討する、と述べた。

 さらに大司教は、今回の小教区合併再編は、「大司教区の(聖職者による性的虐待への賠償金が多額に上ることによる)破産申請とは無関係であり、(小教区の合併再編で生じる余剰土地、建物など)不動産の売却は(性的虐待被害者との)和解に使うことを意味しない」とも説明した。

 多くの米国の他の司教区と同様に、 聖職者の性的虐待訴訟が相次ぐボルチモア大司教区は、2023年に破産を申請した。 その数カ月前の2023年4月、メリーランド州のアンソニー・ブラウン司法長官は、大司教区の聖職者など156人による児童性的虐待が 1940 年代から 2002 年にかけて600件以上もなされた、とする454ページの報告書を発表している。

 ローリ大司教は「多くの人は、今回の小教区合併再編が、大司教区が行った破産申請と関連しているのではないか、と疑うかもしれない。だが、そうではない。将来の不動産売却を破産和解の支援に結びつける憶測は、 本当ではない」と否定。「小教区の合併で生じた一部の物件は再利用され、一部は売却される。売却による収益は教区に残し、合併で新しく設立される小教区のために使われることになる。このことは、教会法、そして民法によって裏付けられている」と述べた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年5月27日

・「人身売買の根本原因の一つは”買い手”にある」人身売買被害者が訴えー「Talitha Kum」創立15周年総会で

Group photo of participants gathered together at Talitha Kum 2nd General Assembly  (Marco Mastrandrea/Talitha Kum)
Group photo of participants gathered together at Talitha Kum 2nd General Assembly

(2024.5.20 Vatican News   Deborah Castellano Lubov )

  人身取引の撲滅に取り組む奉献生活者の国際ネットワーク「Talitha Kum(タリタクム)」の創立15周年を記念する総会が、加盟90か国の代表約200人が参加して18日から24日までローマで開かれている。女子修道会国際総長連盟(UISG)が2009年に設立したTalitha Kumの記念総会には、一般信徒の女性と男性、信徒、若者、そして人身売買との闘いに積極的に取り組んでいる被害者なども参加した。

 出席者の一人、米ミズーリ州カンザスシティの非営利人権団体ジャスティス・プロジェクトKCの常務理事で、自身も人身売買の被害者であるクリスは  「人が”製品”を買わなければ、”売る”のはずっと難しいのです」とVatican News に語った。

 裕福な家庭に育ったクリスは、世間知らずの十代のころ、羽目を外して、男に騙され、米国のあちこちで売春をさせられた。その経験から、今も増え続ける人身売買の撲滅に取り組んでいる。具体的には、貧しい女性や少女に対する権利擁護、システムナビゲーション、ピアサポートを提供しており、米司法省の人身売買反対連合、カンザス州司法長官の人身売買諮問委員会の委員を務める。

 クリスは「性的搾取を生き延び、現在被害に遭った人たちと働いている者として、より広い世界がこれらの人々を無条件に受け入れ、愛する必要がある、と心から思っています」と述べ、「変化が必要です。人々は、犠牲者と呼ばれると、自分自身に対する見方が変わるのです」と強調した。

  そのうえで、「多くの憎しみに直面しているトランスジェンダーの被害者を含む他の被害者や、「時には人目につかないことがある男性や少年たち」に対して、もっと包容力のある対応を求めたい、とし、人々に対して、「偏見を脇に置き、被害者たちが自分自身のために正義を達成できるよう支援する必要がある」と語った。

 さらに、総会参加者たちの多くが、「今起きている人身売買の根本原因に対処したい」と考えているのであれば、「”需要”、つまり“買い手”に対処する必要があります。根本原因は数多くあるが、その中で主要な原因の1つは、依然として“買い手”がいることです。“買い手”がいなければ、”売る”ことが難しくなるからです。これは資本主義の理論です。”買い手”をなくすことで、”売る”ことをできなくする。それが、私の希望です」と強調した。

 そして、そのためのカギは、「人身売買行為の不当性について、特に男性、若者たちを教育すること」と指摘した。「そうした教育を通じて、女性や少女を単なる遊び道具にしてはいけない、ということを分からせることです」。

 より基本的には、「男女平等、あらゆるレベル、あらゆる段階、あらゆる国、あらゆる場所での男女の平等を促進する努力を続けることが必要」と強調。また、各国の司法当局に対して、「”需要”に厳しく対応すること」を求め、また、「人身売買で利益を得ている者たちは、法的、金銭的な罰則を受けると、多くの場合手を引き、それが(そうした対応を司法当局がしていない国や地域との)違いを生みます」と訴えた。

*日本では、Talitha Kum設立から8年遅れて2017年に日本女子修道会総長管区長会、日本カトリック管区長協議会が連携し、日本カトリック難民移住移動者委員会の「人身取引問題に取り組む部会」として、「タリタ・クム日本」が作られている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2024年5月21日

・バチカンの前典礼秘跡省長官、「西欧の高位聖職者たちは世俗的価値観への批判精神を失っている」と批判‐同性カップル祝福に反対

(2024.4.15 Crux  Africa Correspondent  Ngala Killian Chimtom)

 ヤウンデ(カメルーン)発 – 教皇フランシスコの路線に批判的立場をとるロバート・サラ枢機卿(前典礼秘跡省長官)が15日の母国カメルーンの司教たちとの会議で、同性のカップルへの祝福を認める最近のバチカンの文書について、「この文書は、伝統的アフリカ文化だけでなく、カトリックの教えそのものにとって、受け入れることができない」と主張し、「西欧の高位聖職者たちは、世俗的な価値観に反対することに消極的。神経が衰弱している」と批判した。

 サラ枢機卿は「多くの西欧の高位聖職者は、世界に愛されることを夢見ている。 彼らは”抵抗の象徴”になりたいという欲求を失ったのだ」と述べ、「現代の教会は無神論の誘惑にさらされている。しかも『 知的無神論』ではなく、『流動的で実利的な無神論』の微妙で危険な精神状態に置かれている。このような無神論は、初期症状が良性のように見えても危険な病気。教会の言説を含む現代文化のあらゆる側面に浸透しているため、知的無神論よりも陰湿だ」と指摘。

 さらに、「教会とその指導者たちは、『流動的で実利的な無神論』という大きな嘘に順応し、それと共謀するという罪を犯している。キリスト教の信者であり、信仰を持っている人であるふりをしているが、実際には異教徒、不信者として生きているのだ」とし、「『流動的で実利的な無神論』は危険でとらえどころのない勢力であり、蜘蛛の巣に捕まった虫のように、逃げようとすると、もっと強く締めつけられる。サタン自身が仕掛けた巧妙な罠だ」と述べた。

 そして、「(西欧の)教会指導者たちは、この形態の無神論は人間の弱さとその欺瞞に屈する人間の傾向を食い物にしているが、教会に派閥や自称”救世主”が存在すべきではない。教会に”政党”を作ることも必要ない」とし、「信仰の精神を維持するということは、それを損なうものをすべて拒否し、神の御手をしっかり握りながら信仰のレンズを通してのみ世界を見ることであり、それが真の平和と優しさへの唯一の道。信仰の精神だけが真の兄弟愛を育み、欺瞞と紛争で荒廃した世界に平和をもたらすことができる」と強調。”西欧教会の歪曲”に直面する中で「信仰の統一」を守るよう、アフリカの司教たちに強く勧めた。

 またサラ枢機卿は、現在進んでいる”シノドスの道”の歩み、特にシノダリティ(共働性)に関する今年10月の世界代表司教会議総会の第二会期に言及し、昨年10月の総会第一会期を含めて、アフリカ教会の指導者たちが伝統的な教義と価値観を強く擁護してきたことを賞賛、「昨年10月の総会第一会期で、アフリカの教会は、神によって創造された男性と女性の尊厳を力強く擁護した。 その声は、西欧の圧力団体を喜ばせることだけを考える人たちから無視され、軽蔑されたが、アフリカの教会は、神権の真理と信仰の一致を守らなければならない。 アフリカの教会の声は、貧しい人々、素朴な人々、小規模な人々の声だ」と訴えた。

 さらに、「アフリカの教会は今日、神の言葉を守る上で重要な役割を果たしているが、西欧のキリスト教徒は富に惑わされ、啓蒙と現代性について誤った認識を持っているようだ」としたうえで、「真実を断片化し、相対主義の文化を推進する(西欧の)司教たちに対抗し、信仰の普遍性を守る者としてのアフリカの司教たちの立場」を強調、「神の真理の使者としての、アフリカの司教たちの役割」を賞賛し、「神はしばしば、強くて評判の高い人々を混乱させるために、一見弱くて人気のない人々を選ぶ」と述べた。

 同性カップルや”非伝統的関係”にある人々の祝福を認めるバチカンが最近出した文書「Fiducia Supplicans」に反対しているカメルーンの司教たちを称え、この文書に従わない、とする司教団の決定を「教会の統一とその教えの真実を守る大胆かつ預言的な行動」と評価した。そして、アフリカ・マダガスカル司教協議会連盟(SECAM)の声明を取り上げ、今回のバチカンの文書以前の同性愛に関する宣言、カトリック教会のカテキズム、聖書などを引用して、アフリカで同性愛カップルなどに祝福を与えない神学的および教義的な理由を説明した。

 カメルーン司教協議会会長のアンドリュー・ンケア・フアンヤ大司教はCruxの取材に対し、サラ枢機卿は「神が与えてくださった偉大な人物であり、アフリカのカトリック教会の象徴であり、彼が私たちの中にいることは素晴らしいこと」と述べ、「この世界にはあまりにも騒音が多いので、彼は私たちに沈黙の中で神と親密になるよう教えてくれた」と語っていた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年4月17日

・教皇の”白旗”発言に、ウクライナの政府、教会が激しく反発、ロシア政府は”歓迎”(Crux)

Pope faces civil, ecclesial backlash for Ukraine ‘white flag’ remarks

People wave Ukrainian flags before Pope Francis’s noontime Angelus prayer from the window of his studio over looking St. Peter’s Square at the Vatican on Sunday, March 10, 2024. (Credit: Alessandra Tarantino/AP.)

 

(2024.3.8 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 ローマ発 – 教皇フランシスコがスイスの公共放送とのインタビューで、「ウクライナはロシアとの戦争で『白旗』を掲げて交渉を開始すべき」と語ったことに、ウクライナの教会やウクライナ政府から激しい反発の声が出ている。

 米国訪問中のウクライナ・ギリシャ・カトリック教会(UGCC)のスヴャトスラフ・シェフチュク大司教はニューヨークで講演し、教皇の発言に応えて「ウクライナでは誰も降伏する可能性はない」と言明。「ウクライナは負傷者はいるが負けない。 ウクライナは疲弊しているが、立ち続けている」とし、ロシアの理不尽極まる軍事攻撃に抵抗し続ける「ウクライナの能力を疑問視する人たちは、ウクライナに来て、現実を見てください!」と訴えた。

 ウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣は、ソーシャルメディアXに、ウクライナの国旗は「黄色と青だ」と投稿。「これは私たちが生き、死に、そして(戦争などの苦難に)打ち勝つための旗。 私たちが『他の旗』を掲げることは、決してない」と言明。ウクライナの平和を祈り続ける教皇フランシスコに感謝の意を表明しつつ、ロシアの軍事侵攻に苦しむウクライナの人々を支援するために「教皇がウクライナを訪問されることを、今も希望している」と述べた。

 バチカン駐在のウクライナ大使館も「一貫性を保つことが非常に重要。現在起こっている第三次世界大戦について語る時、第二次世界大戦から学ぶ必要がある」とし、「当時、ヒトラーとの和平交渉について、そしてヒトラーを満足させる『白旗交渉』について真剣に話していた人がいただろうか?」と問いかけた。そして、ヒットラーとの戦いから学ぶべき教訓は、「戦争を終わらせたいなら、ドラゴンを殺すためにあらゆる手段を講じなければならない、ということだ!」と強調した。

 ロシア大統領府のマリア・ザハロワ報道官は、イタリアのメディアに対し、「教皇は、キエフに対してではなく、西側に対して話している。西側諸国はウクライナを『野心』の『道具』として利用しており、私の見方では、教皇は西側諸国に対し、自らの野望を脇に置き、それが間違っていたことを認めるよう求めているのだ」と教皇発言を”解釈”し、「今日、すべての専門家、すべての外交官は、ウクライナ情勢が『行き詰まっている』ことを理解している。多くの国や国際指導者が交渉を求めている」と述べた。

 バチカンのマッテオ・ブルーニ報道官は反発を受けて事態収拾を試みる声明を発表し、「『白旗』という言葉はインタビュアーが使ったもの。教皇は『敵対行為の停止と停戦への交渉を勇気をもって進めること(への希望)を示すために、この言葉を繰り返しただけ。教皇が希望されているのは、公正かつ永続的な平和に向けた外交的解決策だ」と説明したが、批判の声は、教会関係者にも広がっている。

 イタリアのウクライナ人キリスト教協会は、教皇の発言を「衝撃的で当惑し、非常に攻撃的」だと批判。現在米国で会合しているウクライナ・ギリシャ・カトリック教会の常設会議の司教たちも10日声明を発表して、遺憾の意を表明。「ウクライナ国民は、(身体的な)傷を負いながらも(精神的な)傷は負っておらず、疲れていても立ち直る力がある… 降伏は死を意味する。ウクライナ人が降伏することはない。 プーチンとロシアの意図は明確かつ明白だ。 その目的は一個人の目的ではない」と述べ、ロシア国民の70%が「対ウクライナ大量虐殺戦争」を「明確かつ明白に」支持している、と非難した。

 そして、「ロシア正教総主教庁とキリル総主教は戦争を支持し、ロシアのプーチン大統領の野望を支持している… プーチン大統領にとって、ウクライナの国、ウクライナの歴史、言語、そして独立したウクライナの教会生活などというものは、存在しない。 ウクライナに関するあらゆる事柄はイデオロギーの構築物であり、根絶されるべきもの… 彼にとって、ウクライナ人のアイデンティティとなるイデオロギーは『ナチス』なのだ。(ロシア人であることを拒否し、ロシアの支配を受け入れない)すべてのウクライナ人を『ナチス』と呼ぶことで、プーチンは我々の人間性を奪っている。ウクライナ人を『殲滅され、殺されるべき民族』とみなし、 ブチャ、イルピン、イジウムなどの都市で(住民虐殺などの)戦争犯罪を繰り返している」と訴え、「ロシアによるウクライナ占領が『ウクライナ・カトリック教会の根絶』と『独立したウクライナ正教会の消滅』、さらには『ロシアの覇権』を支持しない他の宗教的伝統や制度の抑圧につながる」と警告した。

 そのうえで、「ウクライナ人は今後も自らを守り続けるだろう。 自分たちにはそれ以外に選択の余地がないと感じている。 最近の歴史は、プーチン大統領との間では真の交渉が成り立たないことを証明している」とし、具体的な事例として、ウクライナが1994年にロシアと覚書を交わし、ウクライナが当時世界第3位の規模を持っていた核兵器の放棄を決め、ロシアは、その見返りに領土保全を保証したにもかかわらず、プーチンがその約束を踏みにじっていることを挙げた。

 そして、ウクライナにロシアとの和平交渉に応じるように、との教皇や世界の指導者たちの呼びかけとは関係なく、「ウクライナ人は公正な平和を達成するために自由と尊厳を守り続ける… 自由と神から与えられた人間の尊厳、真実、神の真実を信じており、神の真理が勝つと確信している」と強調している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年3月11日

・今年1月までの13か月に8222人以上が殺害‐ナイジェリアでキリスト教徒の”静かなる大虐殺”が続く(CRUX)

(2024.2.16  Crux  Africa Correspondent   Ngala Killian Chimtom)

Nigeria experiencing a ‘silent genocide’ against Christians
 ヤウンデ – (カメルーン)発=カトリック系のNGO「 International Society for Civil Liberties and Rule of Law (Intersociety)」が「灰の水曜日」の14日に発表した報告書によると、ナイジェリアでは、2023年1月から今年1月までのわずか13カ月間に、8222人以上のキリスト教徒がイスラム主義過激派などによって殺害された。他にも拉致被害者や行方不明者も多数に上っている。
 殺害は、聖戦フラニ族の牧畜民(少なくとも5100人を殺害)、ボコ・ハラムとその同盟者(同500人)、聖戦主義者のフラニ族強盗団(同1600人)によってなされたほか、国の治安部隊も1000人のキリスト教徒を殺害した。
  報告書は、ナイジェリアにおけるキリスト教徒の組織的殺害は「静かなる虐殺」であり、この惨状を伝えない内外メディアと国際社会の無関心が浮き彫りにされている、と訴えている。
 報告書は、今年1月までの13か月間に起きたキリスト教徒大虐殺は「近年で最悪の死者数となった。ナイジェリア政府と治安部隊は、この事態に対処できないどころか、殺害に加担したことに重大な責任がある」と強く批判。「ナイジェリアは(過激派ボコ・ハラムが残虐行為を開始した)2009年以来、宗教的動機によって無防備な民間人が15万人以上殺され、シリアに次ぐ世界で2番目に死者の多い大量虐殺の国となった」と述べている。

 殺害された15万人のうちキリスト教徒は約10万人、穏健派イスラム教徒は約4万6千人、残りの無防備な民間人死亡者4千人は他の宗教の信者。 ナイジェリアの死者数を上回るのはシリアのみだ(シリアでは、2011年以来の壊滅的な内戦で、国民約2150万人のうち民間人30万6000人が死亡している)。

 人的被害だけでなく、民族的、宗教的要因に基づく、残虐な暴力・破壊行為により、住宅数万軒、キリスト教の教会1万8500か所以上、その他の宗教施設 2500 か所以上が破壊され、キリスト教徒や非イスラム教徒が所有していた5万9000平方キロメートル以上の土地が奪われ、住民は追放された。

 さらに、報告書はナイジェリア内外のから得た情報をもとに、ボコ・ハラムとその関連組織が2009年から2014年にかけて、少なくとも2万2500人のキリスト教徒の誘拐と失踪に関与し、1万3000の教会を破壊または放火したとし、1500のキリスト教学校などで130万人以上が退学を余儀なくされた。

  国際人権団体「International Alliance against Genocide」によると、ナイジェリア政府は世界で進行中の14件の虐殺の一つに関わっている。Cruxの取材に対して、同団体関係者は、「ナイジェリアでは、ムハンマドゥ・ブハリ政権(2015~2023年)だけでなく、2023年5月に発足したボラ・ティヌブ政権さえも、治安部隊によるキリスト教徒殺害に加担している。 新政権は前のブハリ政権と変わらない」と強く批判。

 さらに、 「最も衝撃的なのは、ジハード主義者のフラニ族の牧畜民たちが、政府から何の処罰も受けず、残虐行為を止めることもなく、自由に、何の抵抗も受けずに活動していること。 国の治安部隊は、見て見ぬふりをするばかりか、フラニ族の牧畜民を保護するために、その土地の住民やリーダーを逮捕している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年2月17日

・世界で3億6500万人のキリスト教徒が迫害、差別の犠牲になっている

【1万4766の教会、学校、病院などが攻撃された】
2024年1月19日

・ナイジェリアでキリスト教徒の「大量虐殺」続くー昨年末だけで300人(Crux)

(2024.1.11 Crux  Africa Correspondent Ngala Killian Chimtom)

 ヤウンデ(カメルーン)発-アフリカ最大の人口をもつナイジェリアでキリスト教徒に対する「大量虐殺」が顕著になっている。
 
 現地からの報告によると、昨年末、イスラム教徒のフラニ族の遊牧民がプラトー州のキリスト教徒を標的にした襲撃を繰り返し、少なくとも300人を殺害した。
 
 襲撃は新年に入っても続いており、地元ニュースサイト「Sahara Reporters」によると、1月4日、イスラム過激派ボコ・ハラムが、同州のChurch of Christ in Nations の指導者、アユバ牧師と少なくとも13人の信徒を殺害した。Release International partnersによると、ボルノ州とカドゥナ州でボコ・ハラムとフラニ族の牧畜民による襲撃でさらに50人のキリスト教徒の命が失われた、という。
 
 プラトー州のカレブ・マナセ・ムトファン知事は新年のメッセージの中で、今起きていることを1994年のルワンダ虐殺*と比べて「疑念を避けるために付け加えておきますが、これまで伝統的に言われてきたように、我が国民に対する不必要で根拠のない攻撃を『農民と牧畜民の衝突』として説明するのは誤まりです。これは正真正銘の『大量虐殺です』」と非難している。
   *ルワンダのジュベナール・ハビャリマナ大統領と隣国ブルンジシプリアン・ンタリャミラ大統領の暗殺から、ルワンダ愛国戦線 (RPF) が同国を制圧するまでの約100日間に、フツ系の政府とそれに同調するフツ過激派によって、多数のツチとフツ穏健派が殺害された。正確な犠牲者数は明らかとなっていないが、100万人、ルワンダ全国民の20%と言われている。

 ナイジェリアにおける大量虐殺を追跡する国際監視団体である「 International Society for Human Rights and the Rule of Law (“Intersociety”)」によると、2009年以来、ナイジェリアでは少なくとも5万2000人のキリスト教徒が殺害された。

  同団体の事務局長はCruxの取材に、「フラニ族の牧畜民は昨年だけで、少なくとも3500人のキリスト教徒の死に責任を負っっています。ナイジェリアにおけるキリスト教徒の大量虐殺はナイジェリア政府の共謀によって行われている。ボラ・ティヌブ大統領の政権は”虐殺機構”の一部になっています」と述べ、さらに、「フラニの”聖戦士”はブハリ前大統領の下で権力を掌握し、ティヌブはその”伝統を永続”させるつもりです」と非難した。

 また、「私たちは、ティヌブ政権が国際的な圧力を受けない限り、状況が変わることはない、と考えています」とも語った。 

 国際的な圧力という点では、米政府がナイジェリアを信教の自由に関する「特別懸念国」に指定していないことに、一部の関係者は不満を抱いている。 米国の人権団体「U.S. Commission on International Religious Freedom」は声明で、ナイジェリアにもインドにも米政府が信教の自由に関して警告を出していないことに異議を唱え、そのような判断は「説明がつかない」と述べている。

 人権団体の関係者は「米国は、信教の自由に対する特に深刻な侵害をしているナイジェリアを容認した。 ナイジェリアのキリスト教徒の運命は、ナイジェリア政府に経済制裁など強い圧力をかけ、虐殺を含む暴力行為を止めさせる各国政府、国際機関、人権団体の判断にかかっています」とCruxに語っている。

 こうした中で、同国のカトリック司教協議会を含むキリスト教各派の連合組織、ナイジェリア・キリスト教協会は、信徒たちに平静を求めている。協会会長でChrist Holy Church Internationalのメンバー、ダニエル・オコー大主教は、「逆境に直面しても、私たちは国民として落胆しないことが肝要です。 私たちは団結し、一致した、平和で繁栄した国家を築く、という決意を固持し続けなければなりません。新たな目的意識と、愛するナイジェリアのより良い未来を育むという揺るぎない決意を持って取り組んでいきましょう。 私たちの信仰、共通の価値観、そして直面する障害を乗り越えるための集団的な決意から力を引き出しましょう」と呼びかけている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年1月12日

・米オハイオ州の二つの教区の合併交渉再開・信徒減少、司祭高齢化でー駐米バチカン大使の要請受け(Crux)

(2023.12.12 Crux  National Correspondent  John Lavenburg)

ニューヨーク発 – 米オハイオ州スーベンビル教区の司教(当時)が隣接するコロンバス教区との合併を検討中と発表して約1年後の11日、両教区の司教が共同声明を出し、合併交渉を再開すると言明した。両教区の多くの司祭、信徒の反発を呼んでいる。

 コロンバス教区のアールフェルナンデス司教とスチューベンビル教区ブラッドリー司教の共同声明によると、合併交渉の再開は駐米バチカン大使、クリストフ・ピエール枢機卿の要請によるもの。

 声明は「駐米バチカン大使から、両教区に対して、『二つの教区がもっている差異が、合併でどのような影響を受けるか』検討するよう要請があった。まだ、合併に関するいかなる判断もされていないが、適切な配慮が必要であり、啓発された、責任ある判断がタイムリーになされるだろう」とし、「最終的な判断は教皇による」と述べている。

 スチューベンビル教区はオハイオ州南東部の13の郡を担当しているが、信徒数は3万人だが、年々減少を続けており、聖職者も高齢化が進み、人数の確保も困難になりつつある。

 2012年からスチューベンビル教区長を務め、昨年9月にデトロイト大司教区の補佐司教に転出が決まったモンフォートン司教は、教区を離れる際、Cruxとのインタビューで、「私は、教区合併の取り組みから離れるが、スチューベンビル教区がうまくいかなくなりつつある、というのは明らかだ」と語り、「この地域は、炭坑や製鋼所でにぎわっていた時代とはすっかり変わっている。そのような中で、どのように巻き返し、発展させるか、と考えねばならない」としていた。

 彼が昨年秋に両教区の合併が検討されていることを明らかにした時、司祭、信徒から多くの反発の声が上がり、教区のこの問題の調査では、回答者3200人にうち6割、教区の信徒総数の約1割)が合併に反対を表明した。オハイオ州の司教たちはすでに、全会一致で両教区の合併が最善の道だとの判断を下していたが、このような状況を背景に、昨年11月の全米司教協議会総会に判断が委ねられ、その結果が明らかにされないまま、今年2月モンフォートン司教が、合併の財政面からの実行可能性を判断するため、教区の財務監査を行うことになった旨、発表。だが、その結果は、11日の両教区の司教たちの共同声明でも明らかにされていない。

 11日の声明で二人の司教は「ブラッドレー、フェルナンデス両司教は、両教区の司祭、信徒に、両教区の共同作業が成果を挙げるよう、祈ってくれるよう願っている」としている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年12月13日

・急速に縮む教会がオランダの司祭たちに”燃え尽き症候群”を起こしている(Crux)

Cathedral Basilica of Saint John the Evangelist in ‘s-Hertogenbosch, the Netherlands. (Credit: Wikipedia/CC BY-SA 3.0.)

(2023.12.8 Crux Francesco Paloni=Editor for Katholiek Nieuwsblad)

 オランダ、セルトーヘンボス発 – 仕事のプレッシャーの増大、教区の合併、教会の閉鎖が、オランダの教区の司祭にストレスを与えており、時には聖職者が耐えられなくなることさえある。

  新型コロナウイルスの世界的大感染が、そうした聖職者たちにさらなるプレッシャーをかけた。 Katholiek Nieuwsbladの調査によると、これは、大感染が司牧への懸念を高め、その一方で、教会のミサ参加者の減少と経済的問題の深刻化が、さらに加速しているためだ。
 同誌がインタビューした司祭少なくとも一人にとって、コロナ大感染は”最後の一撃”だった。「思い返してみると、私は疲れ切って走っていたのです」とアルクマールの教区司祭ヤン・ヤープ・ファン・ペペルストラテン神父は語る。
  2021 年のクリスマス頃にオランダ全土が感染防止のための封鎖を実施した時、 「私は何かせねば、と思いました。しかし、私の中にとのための力が残っていなかった。私は限界に達しており、それが『燃え尽き症候群』の始まりでした」 という。
 「私はすべてを新型コロナウイルスのせいにしました。それが人々への最も分かりやすい説明だったからです。 しかし、本当の問題はもっと深いところにありました。それを、コロナ大感染が表面化させたに過ぎません」と説明した。

 

  オランダの7つの教区に対する調査では、司祭の精神的な問題が認識されているが、教区の広報担当者は「燃え尽き症候群」の司祭の数が増えていることを否定している。しかも、 ほとんどの教区は、関連のデータを”機密事項”とし、具体的な数字を明らかにすることができないか、あるいは、しようとしない。
  オランダ社会全体でみても、「燃え尽き症候群」の人々の数は増えている。同国の調査研究機関TNOの最近の調査によると、2022年にはオランダで全労働人口の約20%にあたる160万人が「燃え尽き症候群」に苦しんでいるという。 2021 年の調査では 130 万人だったから、わずか一年で30万人も増えたことになる。
  オランダのカトリック教会の各教区は、この増加が司祭だけでなく、教会職員の間でも見られるかどうかを確認できていない。 ブレダ教区の広報担当者マルク・デ・コーニング氏は、司祭や教会の他の職員の間でストレスが生じていることは「現実にある」と認めるものの、「それは30年前にも同様でした」と述べた。
 だが、教会関係者は、教区の合併や教会の閉鎖の過程で司祭に新たな業務が課せられ、司祭がそれに応じる備えがあるとは限らないことを認識しているようだ。
  ルールモント教区の広報担当マシュー・ベメルマンス氏は、「司祭は、司牧的な方法で人々に接することには慣れていますが、時には『マネージャー』として、難しい決断を下さなければならないこともあります」と語っている。

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2023年12月10日