・教皇の”白旗”発言に、ウクライナの政府、教会が激しく反発、ロシア政府は”歓迎”(Crux)

Pope faces civil, ecclesial backlash for Ukraine ‘white flag’ remarks

People wave Ukrainian flags before Pope Francis’s noontime Angelus prayer from the window of his studio over looking St. Peter’s Square at the Vatican on Sunday, March 10, 2024. (Credit: Alessandra Tarantino/AP.)

 

(2024.3.8 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 ローマ発 – 教皇フランシスコがスイスの公共放送とのインタビューで、「ウクライナはロシアとの戦争で『白旗』を掲げて交渉を開始すべき」と語ったことに、ウクライナの教会やウクライナ政府から激しい反発の声が出ている。

 米国訪問中のウクライナ・ギリシャ・カトリック教会(UGCC)のスヴャトスラフ・シェフチュク大司教はニューヨークで講演し、教皇の発言に応えて「ウクライナでは誰も降伏する可能性はない」と言明。「ウクライナは負傷者はいるが負けない。 ウクライナは疲弊しているが、立ち続けている」とし、ロシアの理不尽極まる軍事攻撃に抵抗し続ける「ウクライナの能力を疑問視する人たちは、ウクライナに来て、現実を見てください!」と訴えた。

 ウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣は、ソーシャルメディアXに、ウクライナの国旗は「黄色と青だ」と投稿。「これは私たちが生き、死に、そして(戦争などの苦難に)打ち勝つための旗。 私たちが『他の旗』を掲げることは、決してない」と言明。ウクライナの平和を祈り続ける教皇フランシスコに感謝の意を表明しつつ、ロシアの軍事侵攻に苦しむウクライナの人々を支援するために「教皇がウクライナを訪問されることを、今も希望している」と述べた。

 バチカン駐在のウクライナ大使館も「一貫性を保つことが非常に重要。現在起こっている第三次世界大戦について語る時、第二次世界大戦から学ぶ必要がある」とし、「当時、ヒトラーとの和平交渉について、そしてヒトラーを満足させる『白旗交渉』について真剣に話していた人がいただろうか?」と問いかけた。そして、ヒットラーとの戦いから学ぶべき教訓は、「戦争を終わらせたいなら、ドラゴンを殺すためにあらゆる手段を講じなければならない、ということだ!」と強調した。

 ロシア大統領府のマリア・ザハロワ報道官は、イタリアのメディアに対し、「教皇は、キエフに対してではなく、西側に対して話している。西側諸国はウクライナを『野心』の『道具』として利用しており、私の見方では、教皇は西側諸国に対し、自らの野望を脇に置き、それが間違っていたことを認めるよう求めているのだ」と教皇発言を”解釈”し、「今日、すべての専門家、すべての外交官は、ウクライナ情勢が『行き詰まっている』ことを理解している。多くの国や国際指導者が交渉を求めている」と述べた。

 バチカンのマッテオ・ブルーニ報道官は反発を受けて事態収拾を試みる声明を発表し、「『白旗』という言葉はインタビュアーが使ったもの。教皇は『敵対行為の停止と停戦への交渉を勇気をもって進めること(への希望)を示すために、この言葉を繰り返しただけ。教皇が希望されているのは、公正かつ永続的な平和に向けた外交的解決策だ」と説明したが、批判の声は、教会関係者にも広がっている。

 イタリアのウクライナ人キリスト教協会は、教皇の発言を「衝撃的で当惑し、非常に攻撃的」だと批判。現在米国で会合しているウクライナ・ギリシャ・カトリック教会の常設会議の司教たちも10日声明を発表して、遺憾の意を表明。「ウクライナ国民は、(身体的な)傷を負いながらも(精神的な)傷は負っておらず、疲れていても立ち直る力がある… 降伏は死を意味する。ウクライナ人が降伏することはない。 プーチンとロシアの意図は明確かつ明白だ。 その目的は一個人の目的ではない」と述べ、ロシア国民の70%が「対ウクライナ大量虐殺戦争」を「明確かつ明白に」支持している、と非難した。

 そして、「ロシア正教総主教庁とキリル総主教は戦争を支持し、ロシアのプーチン大統領の野望を支持している… プーチン大統領にとって、ウクライナの国、ウクライナの歴史、言語、そして独立したウクライナの教会生活などというものは、存在しない。 ウクライナに関するあらゆる事柄はイデオロギーの構築物であり、根絶されるべきもの… 彼にとって、ウクライナ人のアイデンティティとなるイデオロギーは『ナチス』なのだ。(ロシア人であることを拒否し、ロシアの支配を受け入れない)すべてのウクライナ人を『ナチス』と呼ぶことで、プーチンは我々の人間性を奪っている。ウクライナ人を『殲滅され、殺されるべき民族』とみなし、 ブチャ、イルピン、イジウムなどの都市で(住民虐殺などの)戦争犯罪を繰り返している」と訴え、「ロシアによるウクライナ占領が『ウクライナ・カトリック教会の根絶』と『独立したウクライナ正教会の消滅』、さらには『ロシアの覇権』を支持しない他の宗教的伝統や制度の抑圧につながる」と警告した。

 そのうえで、「ウクライナ人は今後も自らを守り続けるだろう。 自分たちにはそれ以外に選択の余地がないと感じている。 最近の歴史は、プーチン大統領との間では真の交渉が成り立たないことを証明している」とし、具体的な事例として、ウクライナが1994年にロシアと覚書を交わし、ウクライナが当時世界第3位の規模を持っていた核兵器の放棄を決め、ロシアは、その見返りに領土保全を保証したにもかかわらず、プーチンがその約束を踏みにじっていることを挙げた。

 そして、ウクライナにロシアとの和平交渉に応じるように、との教皇や世界の指導者たちの呼びかけとは関係なく、「ウクライナ人は公正な平和を達成するために自由と尊厳を守り続ける… 自由と神から与えられた人間の尊厳、真実、神の真実を信じており、神の真理が勝つと確信している」と強調している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年3月11日