・カトリック札幌教区が「教会におけるハラスメント意識調査総括編

ハラスメントのない教会共同体をめざして~教会におけるハラスメント意識調査まとめ【総括編】

(「カトリック札幌教区ニュース」47号 2024年11月より)

 前回までの教区ニュースで、札幌教区のハラスメント調査報告が終わりましたが、まとめの最後となる総括編では、その分析と社会学的見地からの考察と提案をお伝えしたいと思います。

 

(1)ハラスメントの定義

ハラスメントは「嫌がらせ」など「相手に不快を与える言動」によって起こります。自分の思いではなく、相手の主観による受け止めによって発生します。客観的な事実(常識的な業務命令、地域の習慣)があったとしても、そのアプローチの仕方によっては、ハラスメントは起こり得ることがあります。つまり、受け手による傷つきがハラスメントのスタートになることを肝に銘じておく必要があります。

 

(2)なぜハラスメントが起きるのか

ハラスメントの原因を確認してみましよう。あらゆるハラスメントは、2種類の関係性を土台として行われているように感じます。

①変えられない事実

 性別・年別・国籍などの事実にもとづく価値観や文化・習慣・歴史により、日本文化の中で固定化されたルールとして、悪気なく行われるものです。代えられない事実を根拠に、相手を指摘(無意識の攻撃)することは、避けられない痛みとなります。

②個人の倫理観

 育った環境や変化する体験、家族構成・経済・地位・学歴・性格・疾病・障がいなどによるものです。本人にとっては重要な深い体験を、他者が簡単に指摘(無意識の攻撃)することは、大きな痛みを与えます。このような無意識の攻撃は、自分が知らないこと・知り得ないこと・気づかないことに対し、自分が踏み込んだ対応により、知らないうちに人間関係を壊す行為となります。もし最初から知っていたなら、また良い関係を構築出来ていたら、そして深い交わりの中で生きていたら、信頼関係の内に避けられたのかも知れません。

 

 

(3)日本の社会と教会におけるハラスメント

 ここでは、日本の社会と教会におけるハラスメントの起こり得る文化的背景と男女別の考察を説明します。第二次世界大戦後の復興時、戦争という苦難を乗り越えた人々は社会の復興に一丸となって向き合ってきました。「仕事第一」「24時間働けますか」など、企業戦士と共に働くことが日本の成長であり、日本経済社会への貢献であるとされました。犠牲をいとわず家族を顧みず働いた方々もいたかもしれません。

 育児は女性に任せていた時代もあったかも知れませんが、そのおかけで今の日本があることは間違いありません。そして当時それを支えてきたのは家や子どもを守るお母さんたち、すなわち専業主婦の存在でした。役割が明確に分かれており、大黒柱とそれを支える家族という関係が昭和の時代を進んできた家庭・社会環境であったと言えます。その関係は教会での活発な動きに連動していきました。

 教会活動の中で最も強かったのは婦人会であったというのは、日本全国の教会の現状を見ても明らかです。それは教会活動に割く時間の割合が、女性には多かったからです。このように信仰の伝達は女性の数に比例していきました。専業主婦の存在が減ってきたという事が、新しい教会の歩みを振り返る為に欠かせない視点です。

 その時代は、現代とは違い、発展途上の日本の教会の歩みの中で、内部に向けて力を蓄え、教会は多くの課題に向き合うよりも、教会員が家族のようになり、元気になるため、信仰を深める時間に重点がおかれていました。しかし現代は多様な課題が私たちに与えられています。特に「命」 「人権」に向けた社会的な動きがあり、日本のキリスト教研究の発展に伴い、振り返るべき「典礼」 「歴史」 「聖書」 「教会制度」など、新たな課題も出てきており、教会は祈り、働き、考えるのに忙しくなりました。次から次にやって来る課題に、だんだんゆとりがなく、配慮するのに疲れが生じてきました。教会の能力的キャパオーバーというのが適切ではないでしようか。

 そんな中、「昔の教会の方が教会らしかった」という声も聞こえますが、いつの時代も教会は福音宣教を中心に据え置いてきたので、比較はできません。また現代は更に一人一人が「考える時代」です。しかしノスタルジーに溺れてしまうキリスト者は思考停止となり、今ある頭の中の器だけで対応するようになり、それを超えることにより自然に自己本性が表れ始める。すなわち限界を迎えると、思考停止し開き直ってしまうのです。「

 自分にとっての当たり前」 「自分の思うこと」 「言いたいこと」を言う。もちろん嘘は良くない事ですが、それは楽な対応です。そこに向けた「欲求が抑えられない」。それを否定されることに許せなくなり、他者を優先できす「自己本位な動き方」などが起こります。結果、違う文化環境で育った人は、口に出して反論できない傷ついた他者が生まれ、泣き寝入りの中で過ごす人が生まれます。

 今の社会は性別に関係なく、全ての人が働かなければ生きていけない時代に入り、子どもたちは教会よりも学校を優先しなければならなくなり、青年たちは自立した生活のために働かなければなりません。人々は教会の外で生きる時間が増えました。それはある意味教会人が社会の中に溶け込んでいったともいえるかもしれません。

 しかし教会に残された人は新しい風が入らず、今まで教会に来続けてきた人たちは世代交代できず主流となっています。時代とともに変わりゆく教会は、新しい風が入らない中で発展を目指さなければなりません。しかし、同じ人が活躍せざるを得ない状況は、かつての教会文化がそのまま維持継続せざるを得ない環境を残し続けています。

 

 

(4)教会からハラスメントは無くなるか

 答えは、残念ながらNO、つまり現段階のままでは無くならないでしよう。今回のハラスメント調査を見ると、信徒も修道者も司祭も今までの教会の流れのまま、気が付くと加害者(すでに加害者になっている人もいる)となり、被害者が訴えて初めて驚くことが明らかとなりました。どのように乗り越えたらよいのでしょうか。

 まず、「自分はハラスメントを行っているのでは?」という反省の土台が要求されます。これは自己否定ほどではないが、自分と向き合う作業であり、かなきつい振り返りです。そのためにも過去ではなく今を見ること、変えられない現実と向き合うこと、事実からスタートすること、自分以外の価値観に目を向けること、自分を変える事に挑戦すること、自分の価値観をシビアに振り返ること、新しい風を受け入れ理解することが求められます。

 教会は分かち合い(シノドスを含む)など素晴らしい方法を持ち合わせていますが、その場と日常は必ずしも一致しないという弱さを人は持ち合わせています。信仰と生活の遊離と同じなのです。ですから、真剣に回心に向かう姿勢が求められています。

 

 

(5)打開策はあるのか

 解決はかなり難しいですが、考えていかなければなりません。これは私たちにとって大きな課題です。前提として、適切な人間関係とコミュニケーションがあれば、多くは解決するでしょうが、いったん崩れてしまうと、転がり落ちるように関係性は壊れます。そこで打開策に向けて数点、指摘します。

①教会において権利と義務は誰もにある

 「聖職者中心主義」は便利なシステムですが、責任がすべての人にあるという自覚が必要です。しかもその責任は同等にあります。権利と義務は、教会内において誰もが持ちうるものであることに気づかなければなりません。聖職者の役割、修道者や信徒の役割はそれぞれ明確に分かれています。しかし、かけがえのない一人の人間であるという役割はすべての人にあること、これが愛の掟に基づいて見直されなければなりません。

②「普通」とは何かを考える

 「普通のこと」が通用していないことに気づく必要があります。「普通」ということは「あなたの普通」であり、「みんなの普通」 「教会の普通」とは違います。普通を語る場合、「間違ったあり方」であり、「自分は間違っているのかもしれない」という視点が前提になけれは、気づくことすらないし、ハラスメントは一生なくなりません。

③何よりも他者を尊重する

 他者に対する尊敬と、相手が望む関わり方を考える、という歩みが無ければ、ハラスメントはなくなりません。また、その関わり方も時代とともに変わっていることを受け入れねばなりません。TPO(時・場所・状況)が変わると、その都度、変化するものであり、常にリセットせねばなりません。

④表現方法を見直す

 たとえ相手が間違っていたとしても、それに対する関わり方、修正の仕方はあります。教会は民主主義ではないので、少数が間違っているとは限らないことも重要です。その認識がずれるとハラスメントが起きます。コミュニケーション方法の感性を磨くことは大切です。自分の意見を通すことに専念するのは、論外です。

 

(6)最後に

 
 ハラスメントはあらゆる確度から起こり得ます。だから大切なことは、感情(特に怒り)や人との心理的距離感をどうコントロールできるかです。キリスト教的な対応は、シノドスでも大切にされている対話、特に聞くことと誤解を生まないように尋ね合う事です。

 そして、互いに信頼を裏切らない関係づくりこそが、乗り越えるための課題です。具体的には伝えずらいが、日常のささやかな対話の積み重ねを通して、自分を知ってもらい、相手を知っていく作業です。信徒と修道者と司祭という立場や役割は変えることができませんが、人と人との間では、たとえ立場があったとしても、主従関係ではなく兄弟姉妹の関係がそれらを乗り越えていけるはすです。

 本来、社会では作りづらいが、教会では最も適した環境のはずです。だからこそ教会から初めてハラスメントの無い社会を示していかねばなりません。逆に兄弟姉妹の関係を壊す態度が、ハラスメントを増長させるのです。

 イエス・キリストは誰も涙する人を作りたくない。そう信じることで、自分発信ではなく常に他者を通して作る関係性によって神の国の実現を目指したのではないでしょうか。

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 「ハラスメントのない教会共同体をめざして~教会におけるハラスメント意識調査~(2023年実施)」について、3回のシリーズでお伝えしました。お伝えできたのはまだ一部にすぎません。今後、札幌司教区ハラスメント対応デスクが行う啓発訪問などを通して報告を継続し、ハラスメントのない教会共同体をめざして、皆様と共に分かち合い歩んで行きたいと思います。

 

(カトリック札幌司教区ハラスメント対応デスク 担当司祭 松村繁彦)

(編集「カトリック・あい」… 聖職者による性的虐待を受けた信徒など被害者への日本のカトリック教会では、形はともかく、ほとんどまともな取り組みがなされていない。そうした中で、札幌教区は、信者に対する意識調査やそれにもとずく対応の検討など具体的な努力が見られる。教区内で小教区の主任司祭が信徒に性的虐待を働いていたという被害者からの訴えに、その主任司祭が修道会会員だという理由からまともな対応ができていない事案も起きており、まだまだ教区長や担当司祭に努力の余地があるようだ。だが、それでも、日本の他教区が見習うべき点も少なくない。そのような判断から、「カトリック・あい」では、これまで「札幌教区ニュース」に3回にわたって掲載された特集「ハラスメントのない教会共同体をめざして~教会におけるハラスメント意識調査まとめ」を転載した。)

2024年11月22日

(評論)教会における性的虐待危機の1年ー”有毒で伝染性の無関心”が蔓延していないか(LaCroix)

(2024.11.21  La Croix   Massimo Faggioli)

 

 時代の兆し。教会における性的虐待がもたらす危機は衰えることなく続き、驚くべきニュースが「新しい日常」となっている。保護対策の進展は見られるものの、 zero-tolerance policy(不適切な行為をいっさい容認しない対策)の実施や、虐待の深刻かつ継続的な影響の理解など、まだ多くの課題が達成できずに残されいる。

 教会における性的虐待危機の世界的かつ「包括的」な歴史において、最近で最も重要な報道のひとつが、先日、11月12日、カンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビーによる突然の辞任発表だ。調査報告書で、1970年代と1980年代にジョン・スマイスが少年や青年に対して行った性的虐待への本人の対応の問題が公にされたためだ。カンタベリー大主教、全イングランド教会の最高指導者、英国貴族院議員、そして世界的な聖公会連盟の精神的指導者であるウェルビーの後任者探しは間もなく開始される。

 性的虐待問題に関するニュースが絶え間なく流れ、もはや教会活動において”日常化”していることから、私たちはこの件にほとんど注意を払わない。ここ12か月足らずの間にニュースとなった、カテゴリー別に分類したほんの一例、としか受け取られなくなっているのだ。

 

1. 最近明らかにされたカトリック以外の教会の性的虐待

 今年1月、ドイツ福音ルーテル教会(EKD)は、1946年以降の事例(報告書によると、1万件未満の非常に少ない件数)をまとめた独自の報告書を公表した。3月には、米国司法省が、南部バプテスト連盟の指導者たちが虐待の危機への対応を誤ったことについて刑事責任を問うかどうかを18か月にわたって調査し、最終的に、米国最大のプロテスタント宗派の指導者たちを告発しないことを決定した。

 6月25日、ロシア正教会の会議は、議題の78番目に、若い協力者に対する性的虐待疑惑と、2022年6月までモスクワ総主教の最も近いアドバイザーの一人であったブダペストおよびハンガリーの大主教、ヒラリオン・アルフェーエフによる財務汚職について議論した。アルフェエフは、ロシア正教会の教区の状況を調査する委員会の結論が出るまで、職務から一時的に外された。

 11月18日、米国長老教会(PCA)の最高裁判所は、ナッシュビルのイアン・シアーズ牧師を性的不品行の疑惑に関する懲戒処分とし、解任した。

 

2. 世界中のローマ・カトリック教会で今春以降も

 2月22日、オーストラリアで、ブルーム教区のクリストファー・サンダース司教が逮捕され、保釈された。彼は2008年から2014年の間に、主に先住民の若い男性に対して性的犯罪を犯した容疑で告発されていた。

 2024年3月、ベルギーのロジャー・ヴァンゲルー司教が甥の2人を含む未成年者に対する性的虐待を理由にバチカンから司祭職を解かれた、と報じられた。彼は数年の間隔を置いて、異なる時期にその事実を認めていた。

 4月30日、英ダーラム大学カトリック研究センターは「The Cross of the Moment」(イングランドとウェールズに関する)という報告書を公表した。

 6月14日、ワシントン・ポスト紙の報道を受け、米国カトリック司教協議会の全体会議において、高位聖職者たちは、カトリック教会が運営する「土着のカトリック教徒」のための寄宿学校における未成年者への虐待について謝罪した。

 10月、ロサンゼルス大司教区は、1,000件を超える数十年にわたる幼少期の性的虐待の訴えを和解させるため、8億8,000万ドルの暫定合意に達した。専門家によると、この和解金は大司教区による単一の支払額としては最高額であり、ロサンゼルスにおける性的虐待訴訟の累計支払額は15億ドルを超える。

 10月21日、教会における性的虐待の被害者に対する公式な謝罪と賠償が、マドリードのアルムデナ大聖堂のポーチコで行われた。この取り組みはマドリードのカトリック教会が推進したもので、イエズス会が主催した「第1回国際ヨルダン会議」の閉会式で、同教会の大司教ホセ・コボ枢機卿が発表した。この会議では、教会における権力の乱用に焦点が当てられた。

 

3. バチカンの聖職者による性的虐待への対応は

 1月30日、世界の聖職者による性的虐待問題を扱うはずのバチカン教理省は、「傷つきやすい成人」の定義に「18歳未満の未成年者以外にも、常習的に理性を不完全にしか使えない人々も含む、教理省の管轄範囲を超えるより広範な事例」を含めるよう強く主張した。したがって、これらの事例以外の他の事例は、管轄の省庁が対応する。教理省が管轄権を持つのは「未成年者に対する性的虐待(および精神障害者に対する虐待)のみ」であることを再確認するものだった。

 ローマのバチカンからすぐ近くの場所で、2月21日、BishopAccountability.orgの共同ディレクターであるアン・バレット・ドイルは、少なくとも20人から虐待の告発を受けている元イエズス会士で芸術家のマルコ・ルプニク神父の事件の隠蔽を非難する記者会見を行った。

 6月26日、教皇庁立未成年者保護委員会のショーン・オマリー枢機卿は、バチカン当局によるマルコ・ルプニク神父の作品の普及に関して、「司牧的思慮」を求める声明を発表した。この声明は、バチカン広報省のパオロ・ルッフィーニ長官が米国での記者会見で、バチカンメディアによるルプニク神父の画像の使用継続を擁護した数日後の発表となった。

 2024年7月、コロンブス騎士団はワシントンD.C.とコネチカット州ニューヘイブンにある礼拝所に展示されているルプニクによるモザイク画の展示について、「慎重かつ徹底的な見直しプロセスを完了した」と発表した。

 

 

4. 著名聖職者による不祥事も続々と明らかに

 2024年3月、慈善宿舎における虐待に関する学際的調査委員会(2023年に設置)の全委員が、教皇使節団との関係悪化により辞任した。

 7月17日に発表された報告書では、2007年に死去したカリスマ性のある司祭で、フランスで人気を博したアベ・ピエールを非難するカトリック女性が増えた。1949年にパリで設立された、貧困とホームレス問題に取り組むためのフランシスコ会修道士による国際連帯運動「エマオ国際」は、他の事件を記録するための調査活動を開始した。9月には、アベ・ピエールに対する新たな証言が17件寄せられた。

 その2日後の7月19日、聖職者評議会は、今後3年間にわたってフランスにある聖マルティヌス共同体内の改革を監督し、同共同体の亡き創設者であるジャン・フランソワ・ゲラン神父に対する精神的虐待の申し立てを調査する2人の使徒的補佐の任命を発表した。

 7月22日、AP通信の報道は、マルシアル・マシエル神父が創設した「キリストの軍団」の不祥事について、バチカンが1950年代からどれほど知っていたかについて、新たな光を投げかけた。

 9月25日、聖職者の性的虐待行為に関するマルタのチャールズ・シクルナ大司教とジョルディ・ベルトメウ司教による様々な調査を受け、ペルーの「Sodalicio de Vida Cristiana」のメンバー数名が教皇により追放されたことが、現地の教皇大使により発表された。

 10月、ソダリシィ内の虐待と金銭的腐敗に関する継続中の調査の一環として、バチカンは、教会と国家間の協定を悪用して税制上の優遇措置を得たことなど、性的虐待と金銭的腐敗の容疑で4人のメンバーを追放した。今年、物議を醸したこの運動から、創設者のルイス・フェルナンド・フィガリを含む合計15人のメンバーが追放された。

 11月11日、英国の新聞ガーディアンは、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の旅の途中で性的暴行を受けた女性たちの記事を掲載した。

 11月に、バチカンが、教皇庁公認の団体である「ファミリー・オブ・メアリー」の共同創設者であるオーストリア人のゲプハルト・パウル・マリア・ジル神父を、「明白な性的不品行を伴わない精神的・心理的虐待の罪」で有罪としたことが明らかになった。

 

 

5. 教会と国家、宗教と政治の関係における虐待危機の影響に関する展開

 

 7月、ニュージーランドでは、児童養護施設(世俗および宗教系、カトリックおよび聖公会)における虐待に関する王立調査委員会が6年間の調査を経て報告書を公表した。

 11月12日、ニュージーランドのクリストファー・ルソン首相は、議会において、養護施設(国営および教会運営の両施設)で何十万人もの子供や弱者が虐待、拷問、放置などの被害に遭っていたことについて、「公式かつ無条件」の謝罪を行った。

 9月の教皇フランシスコベルギー訪問は、スキャンダルの余波と、教会および公共機関における長年にわたる虐待に対する教皇の準備不足の対応により、一部に影を落とした。

 9月初旬、アイルランド政府が、カトリック修道会が運営するアイルランドの学校における性的虐待について調査する委員会を設置したことが発表された。予備調査で、過去の虐待に関する2400件近い申し立てが発見されたためだ。

 11月17日、オーストラリアのジュリア・ギラード前首相は、ビクトリア州で起きた少年への性的虐待事件について、最高裁が「カトリック教会には法的責任はない」との判決を下したことを受け、司法長官に対し、児童虐待の生存者に正義をどのように実現するかについて早急に検討するよう求めた。

 11月18日、英国の自由民主党の党首は、同党ウェールズ支部の党首が英国国教会に勤務していた際の性的虐待事件への対応について、自身の立場を再考すべきだと述べた。

*性的虐待問題へ”危険な免疫”と”有毒で伝染性の無関心”が…

 

 この長くて多様なリストは、不完全であるがゆえに衝撃的であり、2024年も、ここ数年の状況と特に変わらない。私たちは、ほぼ毎日のように虐待危機に関するニュースを少量ずつ目にしているため、ある種の”危険な免疫”と、”有毒で伝染性のある新たな形の無関心”を身に付けてしまった。

 教会が拡大するネットワークと意識の中で防止と保護に取り組んでいるという点では、良いニュースもある。しかし、虐待の根深い問題や広がりを理解し、把握するには、まだ多くのことがなされねばならない。

 また、制度としての教会にも、まだ多くのことがなされる必要がある。

 ローマで11月18日に開催された記者会見「Ending Clergy Abuse(聖職者による虐待の終結)」では、被害者で構成される国際的なグループが参加したが、2022年に教皇の聖職者虐待委員会と意見が合わず辞任し、現在はローマの教皇庁立グレゴリアン大学の保護施設を統括するハンス・ゾルナー神父(イエズス会)は「虐待で有罪判決を受けた聖職者は必ず聖職から追放される」ようにzero-tolerance policy(不適切な行為をいっさい容認しない対策)を世界中のカトリック教会で実施するよう、教皇フランシスコに強く求めた。

 教皇フランシスコが主宰した2019年の性的虐待に関するサミットが、その後の世界の教会にどのような影響をもたらしたのかは、まだ明らかになっていない。この新たな「当たり前な」状況に対処するためには、カトリックの学術・研究分野への新たな投資も必要である。このトピックは、あと数週間後に始まる2025年の聖年が期待するムードにはそぐわないかも知れないが。

Massimo Faggioli @MassimoFaggioli

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2024年11月22日

・バチカン未成年者・弱者保護委員会主催の欧州会合で25か国の司教、司祭、信徒約100人が性的虐待対応ネットワークで協力を確認

(2024.11.14 Vatican News   Kielce Gussie)

Mass being celebrated during the three day safeguarding conference
Mass being celebrated during the three day safeguarding conference

 バチカン未成年者・弱者保護委員会主催で13日から15日までローマで開かれた「欧州における被害者保護」の会合は、欧州の約25カ国から集まった司教、司祭、一般信徒など約100人の代表が教会における性的虐待に関する被害者保護と予防の経験を話し合い、さまざまな立場の人々が性的虐待への対応でネットワークを築き、協力することが極めて重要であることを確認した。

 性的虐待、その防止策、そして被害者の支援は、特定の国に限られた問題ではない。フランス、イギリス、スペイン、アイルランドなどヨーロッパのいくつかの国では、カトリック教会における性的虐待の事例に関する報告書が相次いで発表されており、この問題がどれほど欧州中の教会に蔓延しているかを示している。

 会合参加者の一人、イングランドおよびウェールズのカトリック教会の保護責任者、ポール・メイソン司教は、「私たちは孤立した形で務めを果たすことはできない。同じ立場にある様々な人の成功例や失敗例から学び、優れた実践を共有することが、私たち全員にとってより良いことだと考えている」と語った。

 会合での報告で、メイソン司教は、イングランドとウェールズでは、司教協議会が独立機関と協力し、教会組織における保護対策の監査、見直し、監視を実施しており、またカトリック教会の保護基準機関は、独立機関と教会関係者からなる委員会で構成され、全教区および宗教団体にわたって子供や弱者を守るための共通基準を定めている、と説明した。

 またアイルランド司教協議会の会長であるイーモン・マーティン大司教は、アイルランドの教会では被害者の癒しのプロセスにおいて2種類の支援を提供している、と説明。1つは心理的支援、もう1つは精神的な支援で、「虐待の最も悲しいことの1つは加害者が、教会に非常に近い人々であったこと」と述べ、教会への信頼を失くした被害者と共に歩むために必要な具体的方策について語った。

 マルタ大司教区のこの問題の責任者であるマーク・ペリカーノ氏は、同大司教区では保護委員会が防止と研修に重点的に取り組んでおり、「私たちは、防止活動と研修をより多く行うことで、虐待の被害者が減ることを強く期待しています」と説明。被害者支援にあたっては、加害者責任、説明責任、透明性、誠実性の4つの価値観を掲げている、と述べた。

 会合で参加者が語ったさまざまな経験から得た教訓に共通しているのは、「被害者の声を大切にすることに焦点を当てること」だった。また、メイソン司教は、「被害者の視点から保護の問題を見なくなると、まるで全体から心が失われてしまう」と、保護を”企業化”することに警鐘を鳴らした。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2024年11月15日

☩「虐待被害者保護の効果的で持続可能なプログラムへ人々と実践 のネットワークを」教皇、バチカン未成年者・弱者保護委員会の会合参加者に要請

File photo: Pope Francis writing a letterFile photo: Pope Francis writing a letter

(2024.11.13  Vatican News   Kielce Gussie)

 教皇フランシスコは13日、バチカン未成年者・弱者保護委員会主催の「欧州のカトリック教会における保護」をテーマにした会合に集まった約25カ国100人の司教、司祭、一般信徒からなる代表たちにメッセージを送られた。

 会合は13日から15日まで開かれ、2021年にポーランドのワルシャワで始まった保護に関する欧州ネットワークの活動をさらに進めることを目的としている。

 教皇はメッセージの冒頭で、戦争や紛争の中で会合に参加した国々の代表について、「あらゆる国境を越えた平和のための団結と連帯の雄弁な証人 」と讃えられた。

 そして、会合参加者全員に対して、虐待被害者保護の効果的で持続可能なプログラムを提供するため、情報を共有し、互いに支え合うことを目的とした 「人々と優れた実践 のネットワークの構築」へ期待を表明された。

 また、「正義、癒し、和解に対する教会の関心の表れとして、苦しみを抱えた人々に慰めと援助を提供」する促進策を生み出すよう促された。

 会合は、未成年者・弱者保護委員会のオマリー委員長(米ボストン大司教、枢機卿)のビデオあいさつで始まり、委員長はその中で、「文化、言語、民族、宗教の知恵を与えてくれる欧州の多様性」を指摘し、「こうした多様性が、カトリック教会で虐待を受けた子どもたち、そしていまは成人している人々の被害修復の助けになること」への期待を表明。 「被害者が声を上げるようにすること、虐待疑惑を調査する際に『適正な手続き』に従うと同時に、思いやりをもって対応すること」の重要性を強調した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2024年11月15日

・英国国教会の最高指導者、カンタベリー大主教が、性的虐待への対応を批判され、辞任

(2024.11.12 La Croix Héloïse de Neuville)

 英国国教会の最高指導者、ジャスティン・ウェルビー、カンタベリー大主教が12日、未成年者への性的虐待をめぐる事件への対応を批判する報告書の発表を受けて、引責辞任することを明らかにした。

 1956年1月生まれの大主教は、 石油業界で11年間のキャリアを積んだ後、ダラムのセント・ジョンズ・カレッジで聖職に就くための訓練を受け、 多くの教区教会で奉仕した後、2007年にリバプール教区長、2011年にダラム司教となり、2013年より英国国教会の第105代カンタベリー大主教を務めていた。英国国教会と世界の聖公会の両方を率い、進歩的な考え方で知られ、最近では、画期的な福音宣教計画に着手していた。

 大主教の辞任表明は、1970年代から2010年にかけてジョン・スマイスがサマーキャンプで少なくとも115人の少年や青年に対して犯した性的虐待に関して、英国国教会の高位聖職者が隠蔽工作を行っていた、とする独立機関の調査報告書、マキン・レポートが発表されて1週間後になされた。10月の世界代表司教会議(シノドス)総会に参加した英国国教会の代表者3人が11月9日にまとめたウェルビー大主教に辞任を求める嘆願書には、すでに5000人を超える署名が集まっている。

 英国国教会の弁護士であり、献身的な信徒とされていたスマイスは、報告書で 「間違いなく英国国教会に関連する最も多くの連続虐待を犯した人物」と糾弾。ウェルビー大主教がスマイスに関する虐待疑惑を知らなかったことは「ありえない」としている(ウェルビー大主教は強く否定しているが)が、2013年の大主教の事件への対応が注目されていた。

 報告書は、この年に、大主教はこの元弁護士に対する告発を公式に知らされた、とし、「大主教は警察に事実を報告することができたし、すべきだった」と明確に結論づけている。この事件が公になったのは、子どもたちへの虐待を特報したテレビ放送、チャンネル 4の調査報道がされた2017年のことだったが、ウェルビー大主教の不作為によって、スマイスは裁きを免れたまま、2018年に亡くなっている。

 ウェルビー大主教は「2013年から2024年までの長い間、被害者たちに”再トラウマ”を与えていることについて、私が個人的、組織的責任を取らなければならないことは極めて明白だ」と辞任の理由を説明した。大主教は事件を隠蔽したことについては否定したが、大主教としての職務を続け、英国国教会の性的虐待に対する信頼できる闘いを率いるために必要な権限を、もはや持っていないことを認めた。 そして、「今回の私の決断によって、英国国教会がいかに真剣に変革の必要性を理解し、より安全な教会を作ることに深くコミットしているかが明確にされることを願っている。退任にあたり、私は、すべての虐待の被害者、生存者と悲しみを分かち合いたい」と述べた。

 様々な国家機関に対するより広範な調査をもとにした4年前の報告書によると、1940年代から2018年の間に英国国教会の関係者390人が性犯罪で有罪判決を受けている。今回の不祥事は、さらに英国国教会に大きな泥を塗った形だ。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2024年11月13日

・フランスの司教団、成人の性的虐待被害者のための新制度の議論に決着がつかず、決定を来春まで延期(La Croix)

(2024.11.11  La Croix (with AFP)

 フランス司教協議会(CEF)は10日、ルルドで開いていた総会で「教会の性的虐待の成人被害者のための新制度」の決定を来年3月まで延期することに決めた、と発表した。

 CEF会長のド・ムラン=ボーフォール大司教は、総会の閉幕あいさつで、「今総会で、原則的に新制度は了承されたが、実施方法などでまだ検討作業が必要。来年3月の総会までの5か月間で、不明確な点を明確にすることができるだろう」と説明。CEFは今年3月の総会で、被害者に対する「傾聴と指導」システムの原則に合意し、今総会で決定、公表されると期待されていたが、大司教は、「被害者の方々がこの遅れに落胆し、傷ついていることは理解している。私たちは前進していく、という決意を固めている」と釈明した。

 総会での新制度の決定が先延ばしになった理由について、大司教は具体的に説明しなかったが、複数の関係者によると、新制度を実行する組織を、中央に一つ置くか、教会管区ごとに置くかで結論が出ていないのだ、という。

 ド・ムラン=ボーフォール大司教は、「私たちは、新制度によって、性的虐待被害者の認知と確固とした永続的な賠償の道を開きたい… 虐待に関与した司祭たちには責任を取らせるようにする」と明言。処罰などについては、「可能であれば、最初の道は教会法ではなく、民事裁判によるべきだ」と述べた。

 また、加害者が死亡している場合や、時効が成立している場合には、「私たちは、この国の法体系とは別の法体系を創設することはできない」とも述べ、「修復的正義」という道が残されているが、そのような選択をすれば、「批判を免れないことは承知している」し、「この任務を委ねられた人々の能力と、確固とした、議論の余地のない決定を下す能力を、確信する必要がある」と語った。

 関連して、大司教は、信者のみならずフランスの全国民に衝撃を与えた故アベ・ピエール神父の不祥事(フランスで路上生活者など社会的弱者への救済活動に尽力し、”聖人”とも讃えられていた同神父が、1970年代末から2005年にかけて7人の女性に対し性的暴行やセクハラなどを繰り返していたと、神父が創設した福祉団体「Emmaus International」が7月に調査報告書で明らかにしたこと)について触れ、「どれほど動揺し、不安定な状態に陥ったことか… 教会の記録は、1955年の米国訪問後に、彼が女性に対して暴力的な行動を取っていたことが知られていたことを明確に示しており、”措置”が取られていたことも明らか。だが、結局、すべてが忘れ去られてしまった」と深く反省した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2024年11月12日

・「対応の遅れと透明性の欠如が、被害者を『再トラウマ化』、『賠償』は金銭だけでは済まない」バチカン未成年者・弱者保護員会が会見

(2024.10.30 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

ローマ発 -教皇フランシスコの虐待防止監視機関、未成年者・弱者保護委員会(PCPM)のショーン・オマリー委員長はじめ委員たち29日、初の年次報告書発表にあたって会見し、「教会当局に苦情を申し立てた被害者たちが結果が出るまで長い間待たされていること」「被害に関する情報提供が不十分なのこと」が、被害者にとっての大きな懸念材料であり、被害者の中には、このような現状を 「再トラウマ化 」と批判する声もある、と指摘した。

 記者会見に出席した、バチカンの未成年者・弱者保護委員会の委員で、チリの性的虐待被害者、フアン・カルロス・クルス氏は「(被害に関する教会の)透明性の問題は、個人的に経験し、自分にとって、非常に身近で大切なことです 」と語り、「多くの被害者にとって、教会から情報を提供されないことは、一種の『再トラウマ』。自分が虐待された事件がどう扱われたのか、どんな暗い穴の中に入ったのか、どこで情報を得られるのか、見当もつきません… 自分(が受けた性的虐待)の話を一億回しても、どこにも伝わらない、と感じることで、被害者たちは『再トラウマ』になってしますのです」と訴えた。

 29日に発表された報告書は、被害者保護に関する世界の教区、教会の取り組みにはバラつきがあり、特にバチカンにおいて虐待事件処理のための透明性の向上と合理化されたプロセスが必要だ、と指摘している。会見で、米ボストン名誉大司教でPCPM会長のオマリー枢機卿は、「被害者が事件に関する情報を得ることが困難であることを、非常に心配している」と語った。

 これは特に、聖職者による性的虐待事件を扱うバチカンの教理省(DDF)に苦情を寄せた被害者たちが指摘していることだ。DDFには苦情が滞留し、被害者は事件の状況について何も知らされないまま、何年も待たされることが多い。委員長は、DDFの対応は、文化や言語などの問題から、事件の発端となった現地の教会に情報を求めるのが一般的だが、報告書作成の過程で、「これがうまくいっていないことが分かった 」と述べた。

 オマリー委員長によると、さまざまな解決策が提案されており、そのひとつに 「被害者とのコミュニケーションを増やす 」ことが挙げられる、という。委員会は、事件の処理にかかる時間の長さについても「非常に懸念している」とし、世界中の司教協議会から「より良い手続き」を求められている、と述べた。事件の処理が滞っていることの解決策としては、判断が明確なケースに対処する「地域裁判所」の設立が考えられるが、「これはすでにいくつかの国で採用されており、素晴らしいパイロット・プロジェクトになりうる」と期待を示した。

 そして、「私の見る限り、それは必要な方法だ。DDFに持ち込まれる虐待事件の数は非常に多く、対応に窮することもある」とする一方、「民事裁判所の対応の問題もある。多くの事件がまず民事裁判所で裁かれるが、非常に時間がかかる」と指摘し、このように被害者が訴えも、判断を示される前に、「何年も待たされる人もいる… 正義の遅れは正義の否定 だ」と批判した。

 また、オマリー委員長は、バチカンの関係部局の取り組みを合理化する必要性についても語り、「様々な部局が虐待事件に関して異なる責任を担わされているが、処理に関する専門知識が不足しているため、対応に窮し、振り回されている 」と指摘した。

  会見に出席したボゴタの補佐司教でPCPMの幹事であるルイス・マヌエル・アリ・エレーラ司教は、「被害者の絶えることのない不満は、彼らの事案に関するコミュニケーション不足にある」とし、「こうした苦情は、バチカンだけでなく、世界各地の教区についても寄せられている」とし、これについてPCPMがDDFの規律部門と連絡を取り、被害者が事件に関する情報を得ることができるように助ける「調査官」を任命する方針が出されていることも明らかにした。

 エレーラ氏はCruxの取材に対して、教皇が2016年に出された勅令『Come una madre amorevole』司教が虐待事件の処理を怠った場合の手続き)や、2019年に発表された『Vos estis lux mundi』(教会内での虐待疑惑の報告義務)などの規範の実施状況もPCPMはフォローしており、「私たちが会う現地の教会は、『Vos Estis…』に対する理解と実行が一定のレベルに達している」との判断を示した。

 さらに、PCPMが特に世界南部の教会に具体的な支援を提供するメモラーレ・イニシアチブを通じ、「良い実践を地方教会に提供するために多大な労力を費やしている」のはそのためだ、と説明。「透明性と情報がなければならない。私たちPCPMは、日々の業務においても、次回の報告書においても、この分野を注意深く追っていく」 と言明した。

 またエレーラ司教は、「虐待予防と被害者保護に関する教会とバチカンの内部文化を変える戦いは困難だが、ゆっくりと前進している」とし、「PCPMのメンバーになって10年、自分が愛し、自分の人生を捧げてきた組織の抵抗を目の当たりにすることは、私にとって十字架だった。しかし、間違いなく、この数年間で多くの重要な変化も起きている」と語った。

   性的虐待の被害者であるクルス氏も、「15年前に私の闘いが始まった時、そして他の人たちがもっと何年も何十年も闘い続けてきた時、私が優れた方々と性的虐待問題に取り組み、この記者会見席に座るとは、思ってもみなかった」とし、「被害者遺族から専門家、ジャーナリスト、教皇フランシスコに至るまで、保護活動の進展を後押ししてきたすべての人々に感謝し、より大きな安全と透明性に到達するための 重要な第一歩 であるこの報告書に、 多大な希望を抱いている」と述べた。

 また、クルス氏はPCPMがDDFに組み入れられたことで、「当初は委員会の独立性が失われることを懸念したが、今では、その見方は大きく変わり、教理省内部ではこの問題が考えていたよりも真剣に受け止められていると感じている」とし、オマリー委員長も「委員会が、バチカンの部局に組み込まれることで恒久的な地位を得られたことは、非常に有益なこと」と語った。

 委員長は、バチカンのさまざまな部局との関わりを、「まだ始まったばかりの ”スローダンス ”」と表現し、「これが進むことで、被害者の声が、もっと明確に、対応に反映されるようになると信じている」と述べ、「被害者への『賠償』は金銭だけでなく、教会の謝罪や加害者の処罰も含まれる… 今後の報告書では賠償の問題についても検討する」と言明した。

 また、修道女や神学生など、成人に対する虐待の事例が増加していることから、「弱い立場にある成人」の定義をより明確にするための研究グループも設けられたことを明らかにした。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
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2024年10月31日

・「正義が無ければ、被害者の傷は癒されない」バチカン未成年者・弱者保護委員会のオマリー委員長が報告書発表会見で

(2024.10.29 Vatican News   Christopher Wells)

   バチカンの未成年者・弱者保護委員会の委員長、オマリー枢機卿が29日、記者会見を開いて、委員会として初の年次報告書を発表し、正義と癒しを結びつけるという教会の関心と、「このような犯罪が私たちの世界でいかに一般的になされてしまっているか 」について人々を教育する必要性を強調した。

 報告書は、性的虐待を主とする虐待という犯罪について人々を教育する教会の役割を強調している。オマリー委員長は「教会の関心事は、被害者に正義を提供することでなければならない」と述べ、虐待犯罪が時効に達したケースの場合、教会には 「司法の運営に関わるより大きな責任 」がある、と主張した。

 また、性的虐待の防止や被害者の保護やケアなどで「まだなすべきことがある」とし、「我々は、まだ長い道のりを歩まなければならない」と言明しつつ、この報告書が、その原点となることを強く希望した。

 Vatican Newsのオマリー委員長との一問一答は以下の通り。

 問:まず、バチカン未成年・弱者保護委員会にとって初の年次報告書の概要を教えてほしい。大部分が委員会の10年間の活動についての説明で占められているようだが、今後の委員会の資産の一部となるのか?

オマリー枢機卿 :初の報告書発表は、我々にとって非常に重要な瞬間だと思う。委員会のメンバー更新は、委員会発足以来、今年で3回目だ。委員会活動の初めは困難なものだった。なぜなら、私たちは約20人のボランティアで構成されたグループで、スタッフも非常に少人数で、仕事は全世界を対象としていたからだ。確かに教皇は、私たちに絶大な信頼を寄せてくださった。世界中から集まった多くの専門家、多くの被害者、被害者の親たち。彼らの中には自分のこれまでの人生や歴史や経験についてかなり公にする者もいるし、控えめな人もいる。だが、彼らは委員会の活動に多大な貢献をしてくれている。

 当初、委員会に過大な期待を抱いた人たちは、私たちが”万能薬”となり、教会における被害防止・被害者保護の問題をすべて解決してくれる、と考えていた。そのような非現実的な期待を抱いた人たちから、「自分たちの夢のすべてを、すぐに叶えることができなかった」と、沢山の非難を浴びた。一方で「その問題は、もう対処済みだ。委員会は必要ないし、あなたたちはトラブルメーカーでしかない」という批判も…。だから、多くの困難があった。

 しかし、委員会の委員は、非常にしっかりとした人たちだった。バチカンの各種の委員会の中で珍しいことだ。教会のメンバーでない人もいるし、他の宗教のメンバーもいる。しかし、皆に共通しているのは、虐待防止の活動に対する情熱と、被害者の声に耳を傾け、何とか教会の中で被害者の声を代弁したい、という願望だ。

 

 

問: 報告書について具体的な質問をひとつしたい。これから数日、数週間、多くの質問があり、多くの展開があるだろう。教会は虐待防止・被害者保護を重視しているようだ。もちろん、二度とそのようなことが起こらないようにするのが最優先だ。実際に起きた場合は、それに対処し、問題に対処する。報告書は、「正義」と「賠償」の問題にも言及している。具体的に何を述べ、教会はそれらの分野で何をしているのか、少し話してもらえるだろうか?

 

オマリー枢機卿: 確かに、私たちの委員会の責任は、保護的な部分に重点があるが、教会は「正義」について強い関心を持たねばならない。そしてそれは、故ベネディクト16世教皇によって、性的虐待など虐待の事案への対処が教理省に割り当てられた以上、教理省の責任であり、また世界の各教区も、これらの事案の法的側面を整理し、政府当局と協力する責任がある。だから、司法の要素は非常に重要だ。性的虐待のような事案は、時には時効を遥かに遡ることもある。その場合、国が捜査や訴追を行わないなら、教会が司法面の対応に関与する義務がある。だからこそ、教理省の規律部門は真実を突き止め、公正な方法でそれに対処するための重要な役割を担ってきたのだ。

 しかし、「正義」がなければ「癒し」はない。ひどく不当な扱いを受け、傷つけられた人々は、「耳に心地良い言葉」を聞いたり、「文書」を見たりしたいわけではない。話を聴いてもらい、自分たちになした悪に対して、「教会が償いをしようとしている」と感じる権利があるのだ。

 

 

問:あなたは、教会内の一部の人々があなたがたの活動に熱心でない、ということに言及した。私たちは、委員会が最良の慣行について、あるいは被害者のために何ができるかについて提案することがある。そして、おそらく教会の人々は、あなたがたの言うことに耳を貸さないのだろう。あなたには説明責任を果たさせる直接的な権限がないことは承知しているが、教会の指導者たちがあなたがたの提案を受け入れるようにするために、教会は何ができるのか?

オマリー枢機卿 :我々は人々を教育しようとしている。被害予防と被害者保護の体制の必要性について非常に幅広い教育を行うことだ。多くの人々は、このような犯罪が、私たちの世界や社会でいかに一般的になってしまっているのかを知らない。教会が私たちの家庭を整えるために良い仕事をすることができ、それがより大きな共同体社会への奉仕になることを、私は望んでいる。

 そして私たちは、米国でさまざまな形でそれを目の当たりにしてきた。他の多くの教会や組織が私たちのところにやって来て、「あなたがたはこのような方針を打ち出し、このような経験をしてきた。それを、私たちと分かち合ってくれますか」と言った。

 だが、まず、虐待が広く存在することを人々に認識させ、私たちがどのようにこれに対応し、二度とこのようなことが起こらないように尽力しない限り、虐待はなくならないと思う。私のユダヤ人の友人がホロコーストについて語るようなものだ。何が起こったかを覚えていなければ、また同じことが起こる危険性がある。だから、このことを人々の心に留めておくことがとても重要なのだ。これは遠い過去の話ではない。現在、そして将来にわたって子どもたちや若者を守るための約束なのだ。

:ひと言で言うと、報告書は被害者や、教会の虐待への対応にまだ懸念を抱いているカトリック信者に何を語りかけているのか?

オマリー枢機卿 :私は、この報告書の幅の広さが、彼らの慰めになることを望んでいる。報告書の暴露本のようなものを期待している人もいるだろう。この報告書はそのようなものではない。全世界で「保護文化」が定着するのを促進するために、今、何が行われているかを測るためのものだ。

 今回、調査対象となった国の中には、虐待防止・被害者保護について非常に資金不足の国もある。私の教会共同体はパプアニューギニアで活動拠点を持っている。そこに行ったことがあるが、人々の生活はとても質素だ。500もの言語がある。貧困が多く、文盲も多い。そしてそこでは、教会が、虐待防止や被害者保護について、そして世界中で話している。

 世界の司教たちが定例のバチカン訪問をする際に、私たちは彼らに、「虐待防止・被害者保護のガイドラインはどのように機能しているか」「やるべきことをやっていない地域はどこか」「その結果はどうなのか」などについて聴くことにしている。このような会話が世界中で行われている。私の委員会の焦点は、特に南半球にある。この地域では、虐待予防・被害者保護の司牧の関与が遅れていた。しかし、私たちは多くの進歩を遂げ、司教や現地の人々は、より多くのことを学び、学習・訓練に参加し、説明責任、透明性、聖職者の行動規範、神学生や修練生、教師、教会の指導者に対する審査の重要性を教えたいと願っている。

 このようなことが今、世界中で行われている。数年前までは、そうではなかっただろう。このことに人々が慰めを見出してくれることを願っている。私たちにはまだ長い道のりがあるが、歩みは今、始まったのだ。

*ショーン・パトリック・オマリー枢機卿は、米国オハイオ州レイクウッドで生まれ、カプチン会士。2003年から2024年8月までボストン大司教を務め、2014年に教皇庁未成年者・弱者保護委員会委員長に就任した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2024年10月30日

・バチカンの未成年者・弱者保護委員会、全世界の教会対象の初の調査結果発表ー性的虐待に厳格な対応求める

(2024.10.29  Vatican News   Salvatore Cernuzio)

 

 その調査・分析結果によると、「教会組織や教会当局の中には、虐待被害の予防や被害者保護に対する明確な責任体制をとるところがある一方、虐待に対処する責任を引き受け始めたばかりのところもある」と、国や教区などによって対応に未だにバラつきがあることを指摘。そして、教皇が2019年5月に出された「虐待や暴力を届け出るための新しい手続きを定め、司教や修道会の長上らにとるべき態度を周知させる」自発教令「Vos estis lux mundi」で指示していた「虐待被害の報告体制や被害者に対するケアの体制」を欠いているところもある、と批判している。

 

 

 

*中南米、アフリカ、アジアの多くの地域で被害予防・被害者保護のための資源が不足

 

 作業グループが収集した大陸レベルのデータでも、虐待への対応にバラつきがあり、米大陸、欧州、そしてオセアニアの一部は、被害の予防、被害者保護などに使うことのできる「(人的・物的)資源」が「相当にある」が、中南米、アフリカ、アジアの多くの地域では、そのような資源が「不足している 」ことが明らかになった。

 委員会は報告書で、「司教協議会間の連帯」を強め、「保護における普遍的な基準のために資源」を動員し、「虐待被害者に関する報告と彼らを(精神的、身体的に)支援するセンター」を設け、「真の保護文化を発展させることが不可欠だ」と言明している。

 

 

 

*バチカン関係部局は世界の現地教会との被害防止ネットワークの要の役割を果たせ

 報告書の第3部は、バチカンの教理省など関係部局に焦点を当て、バチカンは 「ネットワークの中のネットワーク 」として、「虐待予防と被害者保護の最良の慣行を世界の現地の教会と共有するハブとしての役割を果たすことができる」と強調。バチカンの担当部局は、バチカンの手続きと虐待事件に関する判例において、透明性を高めるために、共有された展望に立って、信頼できる情報を収集しようとしている、としている。

 またバチカン教理省で虐待案件を扱う規律部門がその活動に関する限られた統計情報を公に共有していることを指摘したうえで、外部関係者の情報へのアクセスを増やすよう求めている。その他の対応として、「様々な教区の保護責任の伝達」、「教皇庁全体で共有された基準の促進」、「教区の業務に、被害が原因の心的障害を考慮した被害者中心の対応を取り入れる 」ことを挙げている。

*国際カリタス、地域カリタス、国レベル・カリタスでも被害防止・被害者保護の対応にバラつき

 報告書では、カトリックの慈善事業団体、カリタスに関する事例研究調査の結果も紹介されている。対象とされたのは、 世界レベルの国際カリタス、地域レベルのカリタス・オセアニア、国レベルのカリタス・チリ、教区レベルのカリタス・ナイロビだ。報告書は、カリタスの使命の 「非常な複雑 」さと、被害の防止およち被害者保護の体制の最近の進歩を認める一方で、「それぞれのカリタスで被害防止・被害者保護の実践に大きなばらつきがある 」ことも指摘し、懸念事項として挙げている。

*虐待問題に対応する資源が不足する教会を支援するMemorare運動に司教協議会、修道会などから援助金

 また報告書は、虐待問題に対応する人的・物的資源が足りない現地教会を支援するため、過去10年にわたって、世界の司教協議会や修道会から資金を集めてきたMemorare運動にも言及。

 運動の目的は、虐待の報告・被害者支援センター、現地での研修事業、”グローバル・サウス”における虐待防止・被害者保護の専門家のネットワークを発展させることにあり、2023年にはイタリア司教協議会から50万ユーロ(総額150万ユーロの支援を約束)、修道会から3万5千ユーロ、バチカンの財団から10万ドル(3年間に総額30万ドル)の年次寄付を受けた。

 さらに、スペイン司教協議会は、未成年者・弱者保護委員会が選定したプロジェクトを支援し、年間30万ドル(3年間で総額90万ドル)を拠出することを約束している、としている。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2024年10月30日

・「善が何もしないときに、悪が勝つ」-マドリードで、性的虐待の被害者たちが”自分たち”の教会に警告(Crux)

Moment of prayer at La Almudena in Madrid, Spain. (Credit: Religión Digital.)

This article appeared in Spanish on Oct. 21 in Religión Digital.

2024年10月25日

・バチカン、性的虐待と金銭汚職まみれのペルーの宗教団体の幹部4人を追放(Crux)

(2024.10.24 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 ローマ発-ペルーのカトリックの団体Sodalitium Christianae Vitae(SCV=キリストの命の信心会)の虐待と財政汚職に関する捜査の一環として、バチカンはこのほど、税制優遇措置を得るための教会と国家の協定の悪用を含む虐待と財政汚職で告発された4人の幹部をSCVから追放した。追放された幹部の中には、SCVの最高幹部も含まれており、1980年にバチカンとペルーの間で結ばれた 「コンコルダート 」を悪用し、最盛期には約10億ドル相当の金融帝国を築いたとされている。

 ペルーのバチカン大使館が10月21日と23日の声明で明らかにしたもので、先月追放されたフィガリと10人の幹部に加えて、さらに、SCVの前会長総代理のホセ・アンブロジーク、元霊的補助者で財務責任者とされているハイメ・バエルトル神父、ルイス・アントニオ・フェロジャーロ神父、財務に関わったフアン・カルロス・レンの4人を「権力と権威の乱用、特に教会の物品の管理における乱用、および未成年者を含む性的虐待」などの疑いで追放した、としている。

 声明は、この決定が「被告の1人が犯した性的虐待の重大さ、およびこの2人の聖職者がSCVによる数々の不法かつ違法な行為に個人的に関与していることを考慮して」なされた、とし、カトリック教会の社会教説からみても、シクルーナとベルトメウ、およびバチカンの金融当局に摘発されたバエルトルとレンによる経済管理と投資の一部は「福音を裏切る罪深い行為」である、と言明。さらに、摘発された違法行為は国際的な不祥事を引き起こしただけでなく、「教会の福音宣教の使命」を汚し、その信頼性、および「教会とペルー国家の関係を規制する健全な協力関係」を損ねた、と強く批判している。

 さらに声明は、教皇フランシスコがSCVの不祥事に心を痛めており、「神の民と市民社会全体に赦しを請われている 」と強調。「上記の非難されるべき行為を正し、今後繰り返さないために適切な措置が取られた 」と示し、SCVに対して、 「これ以上遅れることなく、真実、正義、賠償の道を歩み始める」ことを要求している。

 SCVは、ペルー全土にある9つの大規模な墓地で葬儀と埋葬のサービスを事業とし、をしているが、宗教的奉仕と政府から認定されているため収益は非課税の恩恵を受け、SCVが墓地の一部を所有、管理権を握る一方、残りは教会に寄付していた。そして、長年にわたって、創設者のルイス・フェルナンド・フィガリをはじめとする幹部は、会員に対する性的、肉体的、精神的な虐待、さらには権力の濫用、金銭的汚職などの疑惑を含む不祥事を続けてきた。

 こうしたSCVに対しての改革の試みが何度か失敗した後、教皇フランシスコは昨年、バチカン教理省規律部門のマルタのチャールズ・シクルナ大司教とジョルディ・ベルトメウ神父をリマに派遣し、疑惑について徹底的な調査を行った。そして、今年8月、未成年者への性的虐待で制裁を受けていたSCVの創設者であるフィガリをSCVから追放する措置を取った。

 続いて9月には、さらに10人の幹部がさまざまな罪でSCVから追放されたが、その中には「サディズムと暴力」を含む身体的虐待、良心の乱用、精神的虐待、職場での通信のハッキングや嫌がらせのエピソードを含む権力と権威の乱用、組織内で犯された犯罪の隠蔽、そして「ジャーナリズムの使徒職」の乱用など、いくつかの新しい”罪状”も含まれている。追放された者の多くは、SCVの Denver community house とそれに繋がる小教区と関係がある。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
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2024年10月25日

・「性的虐待に関する教会法関係法令は改訂後うまく機能していると思うが、苦い過去の教訓から学び続ける必要」バチカンの法制省長官が語る

Archbishop Filippo Iannone, Prefect of the Dicastery for Legislative Texts  (Vatican Media)

Q: 破門の免除が認められる可能性があるのはどのような場合ですか? これには迅速な手続きがありますか? 誰が関与していますか?

 

長官:教会法で譴責の一つとされている破門は、洗礼を受けた人が罪を犯し(聖体の冒涜、異端、分裂、中絶、司祭による告解の封印の侵害など)、反抗的(つまり不従順)な場合、その状態がなくなり、赦免されるまで、特定の霊的財産を剥奪する刑罰です。この刑罰によって個人から剥奪される霊的財産、またはそれに付随する財産は、キリスト教生活に必要なものであり、それは主に秘跡です。

破門は厳密に「治療」が目的- 影響を受けた人の回復と精神的治癒を目的としており、悔い改めれば、剥奪された財産を再び受け取ることができます(「魂の救済」は教会の最高法規です)。ですから、赦免を得るには、この目的が達成されたことを証明する必要があります。具体的な期限は設定されていません。必要な条件は、犯罪を犯した者が真に悔い改め、引き起こされたスキャンダルや被害者の損害に対して十分な賠償を行ったか、少なくともそのような賠償を行うことを誠意をもって約束していることです。明らかに、これらの状況の評価は、刑罰の免除を認める責任をもつ当局が、その人の善良な性格とそのような決定の社会的影響を考慮しながら、司牧の精神をもって行わねばなりません。

Q: ここ数週間、いくつかのメディア記事で、留保犯罪に対する教会法上の手続きに関してさまざまな解釈が提示されています。これらの手続きとは何であり、どのように適用されるのかを説明していただけますか?

 

長官:私たちが扱っているのは、信仰や道徳の問題における重大性のため、教理省によってのみ裁かれる犯罪です。省が従う手続きには、いわゆる「行政手続き」と「司法手続き」の 2 種類があります。

行政手続きの場合、手続きが法廷外の刑罰判決で終了すると、有罪判決を受けた個人は、同じ省内に特別に設置された控訴審査機関に判決を控訴することができます。この機関による判決は最終的なものとなります。

司法刑事手続きの場合、裁判のさまざまな段階が完了すると、判決は確定(res iudicata)となり、執行可能になります。

どちらの場合も、有罪判決を受けた人は、教理省に「resitutio in integrum(原状回復)」を要請できます。また、「恩赦」という形での再審を要請することも可能です。この場合、手続きは通常、使徒座署名院最高裁判所によって処理されますが、他の機関に委託されることもあります。このようなやり取りは機密性が高いため、国務省がさまざまな事例を調整し、採択された措置の実施に関する関連決定を送付します。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2024年10月20日

・性暴力の被害者が損害賠償求める裁判・第5回口頭弁論ー「告解」利用しPTSD患者を性的暴行した加害者が所属の神言会は「否認」どころか「虚偽」と

(2024.10.15  カトリック・あい)

 カトリック信者の女性が「外国人司祭からの性被害を訴えたにもかかわらず適切な対応をとらなかった」として司祭(加害当時)が所属していた修道会、神言会(日本管区本部・名古屋市)に損害賠償を求めた裁判の第5回口頭弁論が109日、東京地方裁判所第615法廷で、原告・田中時枝さん(東京教区信徒)の支援者たち約30人が傍聴席を埋める中で行われた。

 神言会側代理人弁護士は(神言会司祭だったヴァルガス・フロス・オスヴァルド・サビエルによる被害者への性的虐待行為を)は前回7月の第4回口頭弁論からバルガスを「補助参加人」としたうえ、その代理人弁護士2名が加わり、原告代理人1人に対し、3人体制で、あくまで、「否認」を貫こうとするばかりか、追加の準備書面に「虐待行為があったとする原告の主張は虚偽」という内容を入れている。

 被告側は、当事者である神言会の代表は裁判当初から今回に至るまで出廷せず、代理人弁護士のみの出廷が続いているが、第5回口頭弁論では、これまで担当してきた弁護士とは別の弁護士(一回限りの”ピンチヒッター”?)が出て、傍聴者たちには、これも誠実さを欠いた対応と見る向きもあった。

次回、第6回口頭弁論は11月27日午後3時から東京地裁の第615法廷で行われる予定。

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 10月9日の第5回口頭弁論の後、原告代理人の秋田弁護士は、田中さんの支援団体との会合で、被告の神言会側の代理人弁護士のこれまでの対応について、「あくまでもこの性的虐待事件を認めず、プライベートな話にしようとしている。今回も、『二人は好き合っていて、好きなことをしただけなので、そこから先は私たち修道会の関知するとこではない』と主張した。『私的なこと』でおしまいにしようとしているのです」と指摘。

 さらに、「司祭としての立場で、『告解』を受けなければ知りえなかった(幼少期に受けた性的虐待によるトラウマでPTSDを患い続けているという)被害者の秘密を利用して、PTSD患者の弱点を使ってマインドコントロールをし、『救いの一環なんだ』とだまして性被害を加え続けた、という点はまさに司祭の犯罪です」と強調。

 この訴訟は「ある意味で、カトリックの教義の正当性、信仰生活の妥当性を問うもの。必要ならバチカンに行って、教義上の告解の問題、それが悪用された時の対処法を尋ねてみたいし、告解の秘跡が悪用されたらどうなるか、ということをバチカンにも深く考えてもらいたい」と訴えた。

 また原告被害者の田中さんによると、加害者の神言会の司祭は、告解でPTSDであることを打ち明けたとき、喫茶店に呼び出し、「田中さん、付き合おう」と言われた。PTSDの患者が、”抵抗”できないことを知っていた。「私の告解で、幼い頃に受けた性的虐待を打ち明けた司祭3人のうち2人が『詳しい話を聞こう』といって、私を山の中に連れ込んでレイプをした… それなのに、『皆が大切にしている神父を私が誘惑した』かのように思い込まされ、自分を責めて責めて… そして、『性暴力は治療だ』と思い込んでしまった」。

 ヴァルガスの性暴力はエスカレートして、その最中の姿を大量に撮影することまでし、「もうやめて」「データを消して」と言っても、脅しの材料にされた。ヴァルガスが所属している修道会に打ち明ければ真摯に対応してくれる、加害司祭に罪を認めさせ、更生するようにしてくれる、と信じて神言会の日本管区の本部に訴えたところ、「三年間、神言会の責任で治療します」と同会の人権担当から返事があったが、いまだに何の対応もない。

 田中さんは「信じたことが全部、あだになりました。修道会も、そこに属する司祭も、自分たちに不利になることは『なかったこと』に出来る人たちです。それが罪だと思っていないのです」とし、「このような司祭や修道会が大手を振って歩く世界を目の当たりにせざるを得ない現状は、本当に『教会の危機』『信仰の危機』だと感じています」と訴えた。

 このような訴えを聞いていた、犯行当時の現地の教会の模様を知っている支援者は「ヴァルガスが犯行に及んだ時にいた長崎の西町教会には、ジョセフ・パサラと言うインド人司祭もいた。彼も性的な問題を起こして、退会になっている」としたうえで、「こういう事を、東京大司教の菊地功さんは知っているはずです。彼は神言会の会員で、日本管区長でしたから。今、管区長をしている司祭も、事務局長の司祭も、3人が全員、こういう事を知っていて、代理人弁護士と打ち合わせをして、こういう事を主張しているのか、と思うと、本当に情けない。あきれてしまって、もう何も言えません」と嘆いた。

 

(取材:「カトリック社会問題研究所編集部」諸田遼平、編集:「カトリック・あい」南條俊二)

2024年10月15日

・米国のニューヨーク大司教、保険会社を「性的虐待の賠償の保険金支払い義務を怠っている」と訴え(Crux)

(2024.10.2 Crux  National Correspondent   John Lavenburg)

   ニューヨーク発=米国のカトリック・ ニューヨーク大司教区のティモシー・ドーラン大司教(枢機卿)が1日、記者会見し、同教区が長年契約している米大手保険会社 Chubbを、性的虐待の「補償請求を解決するための法的および道徳的な契約上の義務を回避しようと試みた」として訴えた、と発表した。

 会見で枢機卿は「すべての価値ある請求を迅速に解決することが、常に私たちの願いでした… しかし、Chubbは何十年にもわたって主要な保険会社として、私たちが20億ドル(約3000億円)以上の保険金の支払いを受けることを前提に多額の保険料を支払ってきたにもかかわらず、被害者生存者に平和と癒しをもたらす補償請求を解決するという法的および道徳的な契約上の義務を回避しようとしている」と批判した。

*保険会社は「大司教区は性的虐待の被害者への責任を我々に転嫁しようとしいる」と反論

 このような主張に対して、 Chubbは声明を発表。「問題の責任は児童性的虐待を容認してきた教区にある」と反論。「ニューヨーク大司教区は、何十年にもわたって横行する児童性的虐待を容認し、隠蔽してきた。そして、かなりの財源があるにもかかわらず、彼らはいまだに被害者への補償を拒否するどころか、自身の行動の責任を保険会社に転嫁しようとしている。しかも、保険金支払いに必要な『虐待について何を知っていたか』についての情報さえ、大司教区は提供しようとしていない」と指摘し、「そのうえ、彼らは莫大な富と隠された資産を隠してきた。これは、大司教区が責任を逸らし、隠蔽し、被害者への補償を回避するためのもう一つの財政的策略に過ぎない」と反論した。

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 ドーラン枢機卿が10月1日付けで教区の司祭、信徒に出した声明によると、「大司教区は、保険でカバーされない過去の性的虐待の400件以上の事件を、教区の和解・補償プログラムを通じて解決。州の2019年児童被害者法に対応して、さらに123件の事件を解決した」とする一方、「第二次世界大戦にさかのぼる虐待疑惑の事例が約1400件残っている… 被害申し立てのすべてが司祭に対するものではない。訴えの2つの最大のグループは、元ボランティアバスケットボールコーチと元用務員に対するものだ」と説明。

 また、「 Chubbは、大司教区と教区の保険契約者、そしてそのような保険契約が保護するための人々、つまり児童性的虐待の生存者を見捨てた」と主張し、「Chubbは、大司教区の虐待問題を解決する義務はないと言っている。その理由は、『虐待は教会によって予想された、または意図されたものだった』と説明しているが、私の前任者たち、テレンス・クック枢機卿やジョン・オコナー枢機卿のような人々が、子供たちを傷つける意図で行動した、あるいは少なくともそうなると予想して行動したというのは、誤った主張だ」と反論。

 「なぜ彼らはそのような虚偽の主張をするのか。その理由は簡単だ。自分たちの利益を守るため。彼らは現在、四半期ごとに20億ドルを稼いでいる… 彼らの明らかな計画は…法的に支払う責任が自社にあるにもかかわらず、支払いを拒否した虐待の損害賠償金を大司教区に支払うように強制することを意図し、保険金の支払いを出来る限り遅らせることだ」と批判している。

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*「大司教区本部を売却、”小さなオフィス”に移転など賠償資金捻出にも努力中」と

 訴訟の発表とともに、大司教区が聖職者の性的虐待事件に対する「莫大な」費用に対処するために「より少ない労力でより多くのことを行うための劇的な措置」を実施している、とのニュースも出てきている。ドーラン枢機卿は、「来年、大司教区本部は新しい小さなオフィスに移転し、現在の本部の敷地・建物を売却。売却収入は、虐待に対処する財政的負担を軽減するために使用する。大司教区が他の保有資産の売却を検討している」と説明。

 「私たちの財政力を維持、強化するために、今後、さらに多くの戦略と犠牲、そして大司教区と小教区と人々によるさらなる支援が必要になるだろう。だが、そうすることが私たちを破壊することはできないし、今後もそうするつもりはないので、安心してほしい。教区の聖職者たちと私は、皆さんの寛大さに触発され、感謝し続けている… そして、さらに深いところで、イエスはいつも私たちと共におられ、『地獄の門』の挑戦を受け続けても私たちを滅ぼすことはない、というイエスの約束がある。それが保険契約であり、彼の言葉であり、保険金の支払いも決して滞ることはない」と述べた。

 そして、教区の司祭、信徒への声明の最後に、大司教区がここ数十年の困難な時代を乗り越えてきたことを強調し、現在の困難も乗り越えることを保証したうえで次のように締めくくっている。

「身を縮めて隠れるな、我々はそうしない!恐れることはない!私たちは、23年前の9.11旅客機爆破テロ大惨事の後、全員がそうであったように、性的虐待被害者たちを補償し和解する決意を持ち続け、新型コロナ大感染の暗闇の中で奉仕したように、現在の状況の中にあっても、共に立ち、歩んでいく… この挑戦は、イエスの聖なる御名の無限の力に自信を持って頼る、という私たちの決意を強めるだろう。イエスと共にすれば、不可能なことは何もない。そして、イエス無しでは可能なものはない!」

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
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2024年10月5日

(評論)「いまだに後を絶たない聖職者の性的虐待。嘘、沈黙、被害者への軽蔑は教会にふさわしくない」(La Croix)

(2024.9.12 La Croix   an essayist and columnist   Jean de Saint-Cheron )

 著名な聖職者による性的虐待の暴露が続く中、カトリック教会は真実の追求を強化しなければならない。教会内部では「秘密を守りたい」という誘惑が依然として強いからだ。

 「悪い良心は悪い評判よりも対処しやすい」とフリードリヒ・ニーチェは書いた。この言葉はまさに真実である。すべての人間とすべての人間の組織は、評判を汚すよりも真実を犠牲にして面子を保つことを好むほどだ。もし私たち全員が額に罪を刻みつけて歩き回ったり、家族が秘密を白日の下にさらしたり、企業が看板で法律違反を宣伝したりしたら、人生は耐え難く不条理なものとなるだろう。

 私たちの過ち、裏切り、失敗が理由もなく暴露されないのは当然である。そして、誰かが私たちを不正行為で告発した場合にのみ、私たちの評判は正当に傷つけられる可能性がある。私たちが本当に有罪であるなら、被害者に対する正義は、私たちの行動についての真実を明らかにすることを要求する。

 多くの場合、虐待の被害者は、周囲の人々に自分の行動を「軽率な行為」として説明するだろう。だが、これは、非常に倒錯した言い回しだ。「私はあの若い女性に軽率なことをした」と言うのは、良心を犠牲にして自分の評判を守る非常に陰険な方法であり、「誘惑は被害者に原因があり、非難されるべきは被害者だ」という意味を込めている。ニーチェは正しかった。

 教会が、他の人間の組織と同様に、そのイメージを守りたい、と思うのは理解できる。確かに、私たちの中には、「教会は、単なる組織ではなく、特別な勇気を必要とする、高次元の真実を伝える存在であるはず」とささやく、”小さな理想主義的な声”が存在する。イエスは「白く塗られた墓」に対して警告された―「外側は美しく見えるが、内側は骨やあらゆる種類の汚れで満ちている」と。

 しかし、この世のものではない完全な聖性に到達する前に、まず取り組むべき緊急の課題は、被害者がいる場所で彼らに正義をもたらし、手段がある限り、可能な限り他の被害の発生を防ぐことだ。一部の国の教会はそのための取り組みをしているようだが、次々と現れる新しい事件(声を上げた被害者の大きな勇気のおかげで明るみに出た)は、まだこの問題が終わっていないことを思い起こさせる。

 「これは奇妙で長い戦争。暴力が真実を抑圧しようとする」とブレーズ・パスカルは書いた。正義を犠牲にして評判を守る暴力だ。尊敬される人物、司牧者が汚名を受け入れるのは難しい。彼らの「カリスマ性」が危険で容認できない行動を隠し、陰で邪悪な行為を続けるの正当化しないことを認めるのは難しい。しかし、嘘、沈黙、被害者に対する軽蔑は教会にふさわしくない。慈善の心から生まれた真実への努力よりも、教会の評判を傷つけることになる。

*ジャン・ド・サン・シュロンはパリ政治学院とソルボンヌ大学を卒業。現在、パリ・カトリック研究所の所長首席補佐で、La Croixの週刊コラムニスト。日刊紙ル・フィガロや、ラジオ・ノートルダム、KTO、RCFに定期的に寄稿している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2024年9月14日