・仏人男性から性的虐待の訴えがあった司祭が所属する「パリ外国宣教会に情報公開求める」と札幌教区司教が約束

(2024.3.19 カトリック・あい)

 「司祭から性的虐待を長期にわたって繰り返され、所属していた神言会も訴えに適切な対応をしなかった」として被害女性が同修道会に損害賠償を求める裁判の第二回口頭弁論が11日に行われたが、この裁判を傍聴し、その後の原告被害者の会見で、日本在住の仏人男性が「私も札幌教区の帯広教会で、パリ外国宣教会の司祭からレイプされた。同修道会や司教に訴えても、まともな対応をしてくれない」と告白していたが、19日になって、札幌教区長の勝谷司教名で、教区の司祭、信徒たちに次のような「報告」がされた。

 全文以下の通り。

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2024 年 3 月 19 日  札幌教区の皆様

リ ッ タースハウス ・フィ リ ップ神父に係る報告

   一昨年 、 フィ リ ップ神父が所属するパリ外国宣教会の指示により急遽帰国 したことについて皆様にご報告いた します。

   フィ リ ップ神父はフランス人男性 T 氏より 、不同意性交で告発 され、現在フランスで調査中 です 。 まだ裁判等は開始 され てお らず 、今後どうなるかは不明 です 。今回の件について札幌司教区は フ ィ リ ッ プ神父の帰国後その情報を入手 し 、パ リ外国宣教会に対して報告を求めてまい りま したが、何 ら具体的な回答や情報開示はな く 、札幌司教区 として明確な事実確認ができないまま、今日に至っております。

 T 氏 とは数回の面会の他、 メールで何度も対話 してまいりま した。T 氏は本件についての公表を希望 されてお りますが 、札幌司教区 と しては事実確認が一切できない状況での公表については控えてまい りま した。しか し T 氏の心痛、苦 しみを思 う時、経過についてあ りのままを教区信徒の皆様へお伝えすべきと判断致 しま した。

 T 氏はフ ィ リ ップ神父が着任 した小教区を訪問 し、ご自身の現状を訴えられてお ります 。信徒の皆様におかれまては 、前述の経過をご理解いただ き 、対応にお困 りの際には札幌司教区本部事務局へご連絡 くだ さいますよ うお願いいた します。

 なお、札幌司教区 としては今後も T 氏に寄り添いながら、東京教会管区 とも連携 し、パリ外国宣教会に対 して速やかな情報公開を求めていきたい と考えてお ります。

                                               カトリック札幌教区司教 勝谷太治

2024年3月19日

・フランスで1400 人近い性的虐待被害者がカトリック教会に補償を要求ー司教協議会の独立補償機構が報告書(La Croix)

2021年10月1日、「アド・リミナ」訪問のためローマ滞在中、教皇の一般謁見のためにサン・ピエトロ広場に到着したフランスの司教たち(写真提供:Massimiliano MIGLIORATO / Catholic Press Photo/ MaxPPP)Nearly 1,400 sex abuse victims seek compensation from Catholic Church in France

(2024.3.15 La Croix  Christophe Henning (in Paris)

 フランスのカトリック聖職者による性的虐待の体験を明らかにし、補償を求めた被害者に関する、新たな実態が明らかになった。

 フランス司教協議会(CEF)に設立した独立国家補償機構(INIRR)が14日発表した年次報告書によると、1396人の性的虐待被害者が自らの体験を明らかにし、補償を求めた。これまでに571 件が合意。被害者の 45% が 2万 ~ 3万9000 ユーロ(320万~630万円)、42% が 4万 ~ 6万 ユーロ(650万~980万円)の金銭的補償を受けている。

 被害者の多くが長期間にわたって性的に虐待されており、その期間は、 1 年から 5 年が 全体の42 パーセント、 5 年以上が20 パーセントに上っている。 名乗り出た被害者が虐待を受けた時点の年齢は11~15歳が全体の5割、6~10歳が4割を占めている。

 また、女性からの訴えは、全体の3割にとどまっており、ドラン・ド・ヴォークレッソンINIRR会長は「女性が声を上げることで、他の人たちも、それに加わることができるようになる」と女性が勇気を出して訴え出ることの重要性を指摘している。

 年次報告によると、未成年時に聖職者から性的虐待を受けた人たちの場合、被害を名乗り出るまでに時間がかかることが多く、中には、非常に古い事実について思い切ってINIRRに告知するのが初めての経験だった、と語る人もいた。

 ただし最近では、「性的虐待をした者が生存している時点で、私たちに連絡してきた若い被害者もいる」と会長は指摘。パリ・カトリック研究所(ICP)で教鞭をとる臨床心理学者のロレーヌ・アンジュノー氏は、「虐待被害者が声を挙げたとき、再び痛みを感じる… 訴えが無視され、教会と親族によって隠蔽されてしまった… ”沈黙”を破るのは大変なことです」と被害者の立場を説明した。

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 INIRRは2022年に発足したが、当初は人員が不足し、毎月寄せられる100~250件近くの相談や訴えへの対応に苦慮した。 しかし現在では、被害者を支援する約30人のカウンセラーがスタッフとして活動、支援者も2022年12月の315人から、今では868人に増えている。 金銭補償だけでなく、教会の様々な記念行事への参加、教会の代表者との面談、旅行、地域社会で自身の体験を語る場の提供など、心身のケアのための具体的な対応にも努めている。

 INIRRのチームの任期は今年11月までだが、これまで訴えてきた人たちの中で現時点でもなお、3割が支援を必要としており、「私たちは、決して人々を旅の途中で見捨てるようなことはしません」とヴォークレッソン会長は語り、CEFは来週ルルドで開く春季総会で、延長を決めるとみられる。

 会長は、「被害者たちが受けた虐待のトラウマを金銭補償で埋め合わせることができないことは分かっています。それでもINIRRの活動が性暴力に関するフランス社会での議論の高まりに貢献している」とし、臨床心理学者のロレーヌ・アンジュノー氏も「性暴力には取り返しのつかない側面がある。だが、賠償ですべてを解決することはできなくても、苦しみを軽減することは可能です」と述べた。

 また、年次報告書では、複数の被害者が、性的虐待で受けた痛みから心身が回復するのに、「時間」がいかに重要であるかを語っている。64歳になるダミアン・メイスさんは「私たちの内面、皮膚の下には消えない傷跡が残っています」と訴え、別の被害者は 「それでも、私は存在する。私は生きているのです」と語った。

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 INIRRの活動は重要だが、報告書が示した1400人弱という被害者の人数は、「フランスのカトリック教会における性的虐待に関する独立委員会(CIASE)」が発表した数字と比べると相当に少ない。同委員会は、フランスで 1950 年から 2020 年にかけて約33万人が聖職者やその他の教会関係者によって性的虐待を受けた、と推定している。

 

Read more at: https://international.la-croix.com/news/religion/nearly-1-400-sex-abuse-victims-seek-compensation-from-catholic-church-in-france/19366

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2024年3月18日

・教皇、「未成年者と弱い立場の成人保護委員会」の事務局幹部人事、次長に女性の元米国州警察幹部を任命

 事務局長に就任したアリ・エレーラ司教は、現在、南米コロンビアのカトリック司教会議事務局長。 1967 年にコロンビアのバランキージャで生まれ、ボゴタの神学校に通い、1992 年に司祭叙階。2007年にローマ教皇庁立グレゴリアン大学で心理学の学位を取得した。

 ボゴタ首都大司教区神学校の心理学オリエンテーション領域の責任者を2007年から2015年まで務め、発達心理学、社会心理学、司牧心理学を教えた。2015年、教皇フランシスコからボゴタ大司教区の補佐司教、教皇庁の未成年者保護委員会の委員に任命された。

Ms Teresa Morris Kettelkamp with Pope Francis
 事務局次長のテレサ・モリス・ケッテルカンプ氏は、長年、米イリノイ州警察に勤務し、幹部として、犯罪研究所と犯罪現場支援の責任者のほか、イリノイ州政府、議会における不正行為疑惑の調査などを担当、退職後は、米国の児童と若者の保護のための司教憲章の実践状況についての最初の年次監査を担当。
Ms Teresa Morris Kettelkamp with Pope Francis
 2005 年に米国司教協議会の児童・青少年保護事務局長となった後、2016年にバチカンの「未成年者や弱い立場にある成人保護委員会」に勤務、未成年者と弱い立場にある成人の保護、そして性的虐待被害者の治癒とケアのための普遍的なガイドライン策定に取り組んだ。2018年、教皇フランシスコから同委員会の委員に任命され、被害者の生存者の癒しと彼らの声を教会の奉仕に反映させることに重点を置いた作業部会の座長を務めた。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

*「カトリック・あい」からお断り

 ・これまで「Pontifical Commission for Protection of Minors」をバチカンの「未成年保護委員会」と訳してきましたが、「minor」には、未成年をさすだけでなく、弱い立場にある成人をさす場合があります。最近の教皇を含めた関係者の言葉は明らかに両者を含めて、性的虐待から守る、という姿勢が示されており、日本の教会、特に高位聖職者などの間に「子供を守ればそれでいい」というような意識がみられるのを改めていただくためにも、「未成年者と弱い立場の成人保護委員会」と訳を改めることにしました。

2024年3月16日

・教皇、米国で婦女暴行の罪を犯した神父の司祭職をはく奪(CNA)

(2024.3.12  CNA staff Daniel Payne)

  教皇フランシスコがこのほど、米ノースダコタ州で女性を性的暴行した神父の司祭としての職務をはく奪された。

 米ノースダコタ州ファーゴ教区のジョン・フォルダ司教は12日の声明で、婦女暴行の罪を犯したニール・ファイファー神父が3月8日付けで教皇フランシスコから司祭としての身分をはく奪(Laicize)されたことを明らかにした。。

  声明でフォルダ司教は、同教区の成人女性がファイファーから性的違法行為を受けたと訴え、ファイファー自身も、性的暴行で有罪であること認め、司祭職はく奪を望んだ、と説明した。

 司祭職がはく奪されると、典礼など司祭としての行為は行えなくなり、教会からの経済的支援を受ける権利も失う。

 司祭職はく奪について、フォルダ司教は「司祭が属する教区や司教によってなされるものではなく、教皇庁によって決定されるもの」と説明、 「司祭職はく奪は、ファイファー氏が一般信徒の状態に戻り、もはや司祭としての務めを果たせなくなったことを意味する。つまり、教会法に従い、ミサを捧げたり、告解を聞いたり、他の秘跡を執行したりすることはできなくなる」 と説明。ただし、「本人が以前に行った秘跡が無効にされることはない」と付け加えた。

 また司教は、「聖職者や教会を代表する人々が誰かを虐待すれば、彼らは(聖職者や教会に対する厳粛な信託を大きく損なうことになる」とし、このようなことが二度と起こらないよう、強く警告している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2024年3月16日

・司祭による性暴力被害者が神言会に損害賠償求める裁判、東京地裁第二回口頭弁論を司祭、シスター、一般信徒50人が傍聴-被告側「『使用責任』は争わない」・次回は5月8日

(2024.3.11 カトリック・あい)

 カトリック信者の女性が「外国人司祭からの性被害を訴えたにもかかわらず適切な対応をとらなかった」として司祭が所属していたカトリック修道会、神言会(日本管区の本部・名古屋市)に損害賠償を求めた裁判の第二回口頭弁論が11日、東京地方裁判所で行われた。次回は、5月8日午後2時から東京地裁第615法廷で。

 前回の倍近い、司祭、修道女、一般信徒など関東、関西、北海道などから集まった約50人が傍聴席から見守る中で、裁判長と前回はいなかった2人の陪席裁判官のもと、原告の田中時枝さん(東京教区信徒)、代理人の秋田一惠弁護士、そして今回初めて被告側から神言会日本管区の代理人弁護士が出廷(神言会管区代表自身は引き続き欠席) し、提出済みの書面の内容などをめぐってやり取りがあった。

*裁判長が被告側に「主張をもう少し明確に、『不知』ばかりではないか」と苦言

 

 その中で、裁判長から、被告代理人弁護士に対して、「被告側の主張をもう少し明確にするするように。原告の訴状に対して、書面では、ほとんど『不知』(知らない)となっているが、どういうことか」と質問があったのに対して、被告弁護人は「被告のやったことについて承知していない」という意味の答えをし、さらに裁判長が「(被告と神言会の)雇用関係、使用者責任」について尋ねると、「その司祭と神言会は単純な雇用関係ではない(⇒ではどのような関係かは説明せず)が、使用責任については争わない」として、使用責任については事実上認めるかのような発言をした。

*「神言会は説明責任を果たして」と原告被害者が訴え

 

 口頭弁論終了後、東京弁護士会館で原告と原告代理人弁護士が会見を開き、原告の田中さんが「一人で心細く悩み続け、自虐の念に駆られてきましたが、本物の信仰をもったたくさんの方が支援してくださり、ありがたく思っています」と参加者に感謝を宣べ、「神言会の責任で適切に対応してくれると思っていたが、裏切られ、失望し、心をさらに傷つけられました。神言会には説明責任を果たしてほしい」と訴えた。

 秋田弁護士も「50人もの方が裁判を傍聴してくださったことが、原告本人にとって最高の贈り物。私たちの目的は裁判で勝つことではなく、被害に対して堂々と声を上げること。これまで、教会関係では、問題が起きても、「沈黙」、「見てむ見ぬふり」、「助けない」、挙句は「無かったことにする」が横行してきた。なぜ、こんなにひどいことが繰り返され続けているのか、しっかりと検証しないと前に進めない。これからも努力を続ける」と言明した。

 また、秋田弁護士は、「被告側は、加害者が会を辞め、結婚して国内にいることを知っているが、準備書面では、『居場所は個人情報だから』と明らかにしない。以前の居場所は知っているが、『今どこにいる分からない』と不誠実な対応を取り続けている。ただ、今日の口頭弁論で、神言会に『使用責任』があることについては争わない、と被告代理人弁護士がしたのは重要。加害者を会の一員として、司祭修道士として活動させていた修道会が『責任がない』と言うのはもともと無理がある」と述べた。

*傍聴したシスターは「罪は罪。加害者は回心してもらいたい」

 

 続いて約40人の会見参加者が一人づつ、発言があり、シスターたちからは「神様はすべて知っておられます。心を強くして」という励ましの言葉や、「初めて裁判を傍聴した。被害者が泣き寝入りすることがあってならない」「人はみな弱いけれど、罪は罪。加害者は神の前で回心してもらいたい」「虐待の話をすると、『私も経験がある』という反応が少なくない」「このような犯罪をきちんと認める社会、教会になって欲しい」など共感の言葉が述べられた。

 ある女性信徒からは「大学にいた時に、虐待の話を耳にしたことがあったが、そんなに深刻な問題があるとは気が付かなかった。後悔している」という反省や、「告解の場でこのようなことがされたのを知ってショックを受けている。勇気をもって声を挙げた田中さんを支援し、お祈りしたい」、男性信徒からも「聖職者がこのようなことをするのは許せない。この裁判ではぜひとも勝ってもらいたい」と激励があった。

 

*「私もパリ外国宣教会の司祭からレイプされた」と仏人男性信徒が告白

 

 なお、この会見での意見交換で、日本に来て23年になるというフランス人男性信徒から、「2022年4月に、札幌教区の帯広教会で、当時の主任司祭でバリ外国宣教会所属のフィリップという神父から性的暴行を受けた」との告白があった。

 そして、「その後、宣教会の責任者や日本の司教たちに繰り返し訴えても対応がなく、『事件を隠ぺいし続けるなら、私が公表する』と訴えて、ようやく昨日、札幌教区長の勝谷司教からメールがあった。『パリ外国宣教会の日本管区長を東京に呼び、経過などの説明を受ける、菊地東京大司教とも面談の機会を持つ、この件を公表することを検討する、場合によっては独自で公表することも考えている』との連絡をいただいたので、様子を見る」と説明した。この件は、別項で詳しく扱うことを考えている。

【田中さんが説明した「神言会司祭による『告解』を悪用した繰り返しの性的暴行」】

 今年1月の第一回口頭弁論の際の会見で、田中さんは、「救いを求めた教会の司祭に、真実を打ち明け、神の赦しを得るはずの『告解』という機会を悪用され、肉体だけでなく、精神的に深い傷を負わされた。今も夜中に目が覚め、恐ろしさがよみがえり、絶望感に襲われることがしばしば。修道会もまともに対応してくれない。こんなことが繰り返され、同じように不幸な人を作ってはならない、との思いで、あえて実名も出し、訴訟に踏み切った」と語っている。

 代理人弁護士などの説明によると、田中さんは、子供時代に性的虐待を受け、トラウマに苦しみ続け、今から約十年前、50代になってようやく気持ちの整理がつき、当時在籍した長崎の教会で告解をした。ところが告解を聴いたチリ人で神言会士のヴァルカス・フロス・オズワルド・ザビエル神父から、教会の外の建物に連れて行かれ、性的暴行を受けたが、「逃げると殺される」という恐怖感から抵抗できず、4年半も繰り返され、回を重ねるごとに酷さが増した。

 神言会の日本管区長などに被害を伝えたところ、2019年に、その司祭に対して、「性犯罪を行い、貞潔の誓願を破ったと告発されていること」「将来スキャンダルを引き起こす可能性があること」などを理由に聖職を停止し、共同生活から離れる3年の「院外生活」を決め、母国への帰国を認めた。だが、その後、ヴァルカスは日本に戻り、神言会は、還俗して他の女性信徒と結婚し、東京都内(11日の口頭弁論で被告代理人弁護士は「関東」とした)にいたことを認めているが、「現在の所在は不明」と言い続けている。代理人の秋田弁護士は「神父は告解を利用して彼女の重大な秘密を知り、それに乗じて性加害を繰り返した。修道会は性被害の事実と加害者を組織的に隠蔽(いんぺい)している」と語っている。

 

【神言会からは現在、日本で2人の司教が出ている】

 
 神言会は、1875年に聖アーノルド・ヤンセン神父によって創られたカトリックの宣教修道会で、日本では1907年に宣教活動を開始。現在、名古屋市に中学、高校、大学を、長崎には中高を経営。新潟、仙台、東京、名古屋、福岡、長崎、鹿児島の各教区で約30の小教区を担当し、東京教区、新潟教区の教区長に、それぞれ同会出身の菊地大司教(日本カトリック司教協議会会長)、成井司教が就いている.

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・再掲(解説)教皇が言われる「虐待に対する”沈黙”を打ち破る」ために教会、司教団が求められることは

 カトリック教会では、聖職者による性的虐待問題が世界的に深刻な問題となり、信者の教会離れにもつなっがっているが、1月に入ってからも、南米ボリビアで「性的虐待被害者の会」がイエズス会の司祭9人とボリビア管区を相手取って訴訟を起こしたことが明らかになるなど、いまだに終息を見せていない。

 日本でも、教会自体で責任ある対応ができずに訴訟になった、あるいはなっているケースが、確認できただけで長崎で2件、仙台で1件、そして今回の東京での1件があり、他にも問題のケースが数件あると見られる。

 このうち、仙台市の女性信徒の場合、カトリック仙台教区の司祭から性的暴行を受け、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症、その後の教区関係者の不適切な対応、発言もあって多大な精神的苦痛を受けたとして、同教区などに謝罪と損害賠償を求め、仙台地方裁判所に提訴していた事件が昨年12月、和解金の支払いなどで一応の決着を見た。

 だが、教区から本人への謝罪も公けにはなく、精神的なケアもなく、それどころか一部の信徒たちから「和解金目当てに裁判をやったのか」という本人の心の傷にさらに塩をこすりつけるような声も出、本人を教会に絶望させる事態に追い込んでいる、という。

 日本の司教団は、バチカンからの指示を受けて性的虐待防止などのガイドラインの作成や各教区の女性や子供の保護のための担当司祭、窓口の設置などはしている。だが、長崎教区では窓口の担当職員が複数の司祭のパワハラでPTSDを発症、休職に追い込まれ、窓口は一時、閉鎖となり、東京教区のように担当司祭が、理由も公開されないまま、人事異動期でもないのに突然、解任されるなど、窓口そのものの信頼を大きく損なう事態も起きている。

 また司教団は、ガイドライン決定から2年半たって、ようやく一回目の監査結果を昨年9月に明らかにしたが、「各教区から提出された確認書によれば、2022年4月から2023年3月の間に性虐待の申し立てがあったのは4教区、5件であった」などとするだけだった。
 具体的な教区名、申し立てやそれに対する教区の対応などの説明はなく、「性虐待の申し立てのあった各教区には、監査役から提出された調査報告書に記載された所見を通知し、ガイドラインに基づいてさらなる対応をするよう求めた」とあるのみ。被害者に寄り添おうとする姿勢も、虐待問題に真剣に対応しようとする意志もうかがえない。

 聖職者による性的虐待が後を絶たないことに心を痛める教皇フランシスコは、昨年11月にフランス・ナント教区の聖職者による性的虐待被害者のグループと会見された際、聖職者による性的虐待の被害者が「家族とともに何が真実で善であるかを追求してきた場で、最大の悪に苦しんでいる」とされ、「『被害者や生存者の声に耳を傾ける』という積極的かつ敬意を持った心の広さが、受け手にあれば、虐待に対する”沈黙”は打ち破ることができる」と語られている。

 「受け手」としての日本の教会、そして何より司教団は、今回の東京での裁判開始を機会に、改めて、この教皇の言葉をかみしめる必要がある。

(「カトリック・あい」代表・南條俊二)

2024年3月11日

・「あらゆるレベルの『透明性』が教会に必要、それなしに信頼回復はない」-バチカン未成年者・弱い立場の成人保護委員会のオマリー枢機卿

Cardinal Seán O’Malley, President of the Pontifical Commission for the Protection of Minors (archive photo)Cardinal Seán O’Malley, President of the Pontifical Commission for the Protection of Minors (archive photo) 

*教会指導者たちは、「真実を語る」ことを恐れてはならない

 

 オマリー委員長はまた、虐待への対応に関して「教会の透明性」を高める取り組みについて言及し、これまでに取られた具体策として、いわゆる「教皇の秘密」を変更する使徒的勧告や、虐待に関与した司教の教区長ポストの解任を明確にするための継続的な取り組みなどを挙げ、 「透明性は非常に重要。教会のあらゆるレベルで透明性がなければ、教会が信頼を回復することはできない」と強調。

 スモール神父も「人々が何よりも望んでいるのは、真実が語られることだ、ということが、これまでの委員会の活動の中でも明らかになっっています。人々には真実を告げられる権利がある。 教会の指導者が、人々に真実を伝えることを恐れることもありますが、皆を信頼し、真実を伝えなければ、信者たちも私たちを信頼しません。 そして、それは透明性、誠実さ、開かれた心の証しであり、私たちがもっと取り組む必要がある課題です」と語った。

 インタビューの終わりに、委員長は、「委員会の最も重要な使命は、被害者の代弁者になるように努めることであり、これが教会のあらゆる場所で優先事項となるよう懸命に働くことです」と強調。 「『子供たち』が私たちの最優先事項であり、子供たちの安全が私たちの最大の目標であることを人々に証しし、私たちに対する人々の信頼を回復できなければ、福音宣教は不可能になります」と言明した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2024年3月9日

☩「性的虐待被害に対して必要なのは、被害者への心の眼差しと寄り添いから生まれる具体的な行動だ」ー教皇、「未成年者と弱い立場の成人保護委員会」委員へ

教皇フランシスコ、教皇庁未成年者保護のための委員会メンバーと 2024年3月7日 バチカン宮殿教皇フランシスコ、教皇庁未成年者保護のための委員会メンバーと 2024年3月7日 バチカン宮殿  (ANSA)

(2024.3.7  バチカン放送)

 教皇フランシスコが7日、教皇庁の「未成年者・弱い立場の成人保護のための委員会」のメンバーとお会いになった。

 同委員会は、世界のカトリック教会において未成年者を保護し、虐待を防止することを目的に、2014年に設立され、例年、この時期に定例総会を開いている。教皇の総会参加者へのあいさつは、風邪の症状が続く教皇に代わり、国務省のピエルルイジ・ジロリ師によって代読された。

 あいさつで、教皇は、未成年者と弱い立場にある成人の保護を目的とした助言と相談を提供し、教会を常により安全な場所とするための委員会の10年にわたる活動の広がりに感謝を述べ、「引き裂かれた人生を再び築き、苦しみを癒すことは、非常に複雑で重い課題であり、虐待のスキャンダルと、被害者の苦しみを前に、私たちは意気消沈するかもしれません。だが、そのために努力を決して怠ることがあってはならないのです」と励まされた。

 そして、「教会がどこにあっても、誰もが『家』と感じ、すべての人が聖なる存在として尊重される場所となるように」と委員会のさらなる前進を願われ、「虐待の被害者への保護と寄り添いは、傾聴、介入、予防、支援からなる具体的なものでなくてはなりません… 教会の指導者たちはもとより、私たち皆が、被害者の苦しみに心を揺さぶられ、その声に直接耳を傾け、様々な方法によってその苦しみを和らげ、異なる未来を準備することが求められているのです」と強調された。

 また、教皇は、「虐待の被害者に対する答えは、心の眼差しと寄り添いから生まれます。被害を受けた兄弟姉妹たちが受け入れられなかったり、耳を傾けてもらえなかったりすることは、決してあってはなりません。彼らの苦しみを増すことになるからです」と、参加者たちに注意を促され、「虐待を断固として非難し、それを防ぎ、被害者に憐れみに満ちた関心を注ぎ、教会を受容的で安全な場所とするために、教会があらゆる力を尽くすように」と強く願われた。

(編集「カトリック・あい」)

2024年3月8日

・アルゼンチン最高裁、性的虐待司祭の有罪を確定、「教会の変革はまだ」と被害者たち

(2024.3.6 Crux  Contributor   Eduardo Campos Lima)

 下級審では、2019年に、コルバチョと同じ施設に勤務していた、イタリア生まれの司祭、ニコラ・ブルーノ・コッラディも懲役42年の判決を受け、2人は判決を不服として最高裁に上告していたが、コッラディは高齢者施設に収容された後、死亡している。

 この施設は、2016年にアルゼンチンで起きた教会関係者による性的虐待という大スキャンダルの中心となり、この2人の司祭のほか、庭師のアルマンド・ゴメスに懲役18年、職員のホルヘ・ボルドンに懲役10年の有罪判決がされている。

 施設で働いていた修道女2人を含む9人の女性も、彼らの性的虐待に協力した罪で起訴されたが、最終的には無罪となった。

 コルバチョは、ミシオネス州の8歳の被害者に対するものを含む、いくつかの性的虐待行為に関与したとされている。 この少年は、極度の痛みで失神する事が少なくとも8回あったと訴えている。

 聖職者などによる性的虐待を批判する人々は、今回の最高裁の判断を歓迎しているが、「教会がこの問題に適切に対処するにはまだ長い道のりがある」と指摘している。

 裁判を戦った原告被害者12人の代理人セルジオ・サリナス弁護士は「Antonio Provoloでの子どもたちに対する性的虐待に関与した女性たちも責任を問われるべきだった。虐待が起こるのを許してしまったのだから。 司法は直接の加害者だけを有罪とするにとどまっている。幼稚で時代遅れの法律理解です」と語った。

 サリナス弁護士は、「Provolo事件で、アルゼンチンの教会は二重基準に基づいて行動した。 経済的な観点から、すべての被害者に補償することに同意したが、それが実現したのは2023年になってからでした。そればかりか、刑罰の観点から見ると、教会は協力を怠っただけでなく、スキャンダルを隠蔽しようとしたこともあったのです」と教会の姿勢を批判。

 裁判で、虐待被害者は虐待の事実を証言したが、被告側は最後まで罪を認めず、「教会は、私たちが要求した加害者が誰であるかの証拠を、一度も提示しなかった。 私たちは国連(の人権委員会)、駐アルゼンチン・バチカン大使館、さらにはバチカンにも助けを求めましたが、うまくいかなかった」と言う。

 サリナス弁護士によると、バチカン報道局は2020年に彼に、教会当局がバチカン外で秘密裏に原告弁護士団と面会する用意がある、との電子メールを送ったが、弁護団はそれに応じなかった。

  Iglesia sin Abusos (虐待のない教会)のメンバー、フリエタ・アナスコ氏は、最高裁判決は「司法当局が教会虐待事件の深刻さを認識しており、適切に調査され処罰されなければならないというシグナル」という点で評価できるが、「特に教会には、さらなる変革が必要です」と語る。

 「教会は過去数年にわたり虐待に対する姿勢を進化させ、透明性の高い施策に努めてはいます。しかし、いくつかの教会、修道会などが依然として、訴えられた聖職者を異動させることで事件を隠蔽しようとしている、と考えています。異動の際に、本名を出さないので、私たちが、彼らを見つけるのは困難です」と指摘。

 そして、「過去数年間に、教会の周りの社会は大きく変わっており、被害者はもはや、虐待した聖職者などを訴えることを恐れていません。告発された司祭は教会だけによって裁かれるのではない、ということが重要です。 憲法は教会法よりも優先されるのです」と主張している。

 最近のいくつかの虐待事件では、司法当局も教会も、期待された解決策を提示できなかった、と他の関係者は指摘する。Fraternidad de Belén(ベツレヘム友愛会)の神学生だったビセンテ・スアレス・ウォレルト氏の場合がそうだ。 2019年、陸軍従軍司祭ホセ・ミゲル・パディージャ神父から、当時20歳だった2015年から2016年にかけて虐待された、として訴えた。だが、「教会は当初から、この出来事に関する情報を持っていることを否定していました。 実際には、何人かの司教は何が起こったのかを知っていた。私は協力を求めましたが、彼らは私を助けてくれなかったり、避けたりしたのです」とCRUXの取材に語った。

 2023年、下級審はパディージャ神父を無罪としたが、ウォレルト氏は控訴し、新たな判決を待っている。「控訴審は、私が少し前に行った証言から始まりましたが、現在、どのように進んでいるのかは分かりません」と言い、このような状況から、「教会は、的確に対応した証明しようと努力していますが、実際はそうではないことを現実が示している。私たちにとって、教会の真の誠実な変革からは程遠いと思います」と述べている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
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2024年3月7日

・イタリアの司教たちが性的虐待被害者と家族と面談、「対応不十分」と被害者団体(Crux)

 (写真は、イタリアの性的虐待被害者団体Rete L’ABUSO の創立者、フランチェスコ・ザナルディ氏と、「紫のベンチ」設置第一号(サボナ市で、Credit: Rete L’ABUSO)
founder Francesco Zanardi poses in front of a purple bench installed in Savona, Italy, on Feb. 24, 2024, commemorating victims of clerical sexual abuse

(2024.3.1 ) Crux     Senior Correspondent  Elise Ann Allen 

 CEI会長のマッテオ・ズッピ枢機卿は同日の声明で、「被害者や被害者の家族が経験した痛み、苦しみを深く理解するために、彼らとの真の交わりを築くために、そして、教会に何が求められているのかを知るために、虐待を受けた人々の声を聴くことが、欠かすことができません」と述べた。

 そして、「私たちに何が欠けているのか? 改善するには何ができるのか?などの問いへの答えを引き出すことで、私たちは、聖虐待の予防と被害者保護に向けて、日々前進することが可能になる」と強調した。

 この日の被害者たちとの面談には、ズッピ会長はじめ、CEI事務局長のカリアリのジュゼッペ・バトゥーリ大司教、未成年者保護担当部長のロレンツォ・ギッツォーニ大司教が出席し、虐待被害者とその家族のグループの話を聞いた。

 約3時間にわたって行われた面談について、ズッピ会長の声明は、「分かち合いと対話の中で、この問題への対応について、改善し、強化しなければならない重要な要素を引き出すことができた」と指摘。

 CEIのスポークスマン、ヴィンチェンツォ・コラード氏は、「昨年5月に続いて行われた今回の面談で、司教たちと被害者たちが体験を共有するとともに、こうした出来事が繰り返されないよう、 子どもたちと弱い立場にある大人を守るために、教会の組織や組織が一層、努力していくことへの希望を共有する重要な機会となりました」とし、「被害者の声に耳を傾け、被害者を教会に改めて進んで迎え入れることは、教会にとって重要な行動方針です」と述べた。

 これまで、イタリアの教会は、この問題に教会全体で取り組み、被害者に補償するために十分な努力をしていない、として被害者や援護団体から広く非難されてきた。CEIは2022年11月、聖職者による性的虐待への対応について初の報告書を発表し、2020年から2021年の間に特定された虐待案件は、訴えが89件、加害者として68人が挙げられた。89件のうち半数強が、最近なされた、あるいは現在なされているもの、という。ただ、虐待の形態、虐待者と被害者の両方の年齢と性別に関するいくつかの一般的な説明以外の、虐待に関与した司祭個人に関する詳細、訴訟の内容―民事訴訟あるいは教会訴訟か、 裁判が始まっているのか、結審しているなら、結果がどうなったのかなど、詳細は明らかにされていない。

 この報告が発表される以前に性的虐待被害者支援団体のネットワーク#ItalyChurchTooは、CEIに対して、他の欧米諸国の教会が実施しているように、詳細な内容の分析結果を公にするよう、要求していた。米国、アイルランド、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガルなどの司教協議会は、独立第三者機関と契約して、数十年前に遡る虐待に関する全国規模の調査を行い、膨大な数の性的虐待の加害者と被害者双方に関する具体的な調査分析をした報告書を出しているが、今回の報告書の内容はそれに程遠い。イタリア以外の国々の教区では、虐待の疑いで告発された司祭の名前の公表が始まっているが、イタリアのどの教区もそのような措置をとっていない。

  イタリアの主要被害者団体Rete L’Abuso(虐待ネットワーク)を設立・運営するフランチェスコ・ザナルディ氏は自身も聖職者による性的虐待の被害者だが、今回の報告書について、「わずか2年間で虐待者が68人という数字は、問題があることを示しているが、対象期間が短すぎ、多くのデータが除外されている。はっきり言って、この報告書は、恥ずかしいほど不十分だ」と批判した。。 

 イタリアの港湾都市サボナで2月24日、未成年者や弱い立場の成人に対する性的虐待に注意を促す「紫のベンチ」の第一号の設置記念式典が行われたが、出席した ザナルディ氏はあいさつで、サボナ市における虐待被害者の連帯や危険にさらされている人々を守る取り組みを称賛しつつ、「さらになすべきことは多くあります」と語った。「紫のベンチ」設置運動は、Rete L’Abuso、聖職者の虐待正義を終わらせるプロジェクト、イタリアの教会 Too Italian 調整プロジェクトが共同主催しているもので、 今後、数週間以内に、シチリア島のエンナやローマなどイタリア全土の都市でもベンチ設置が予定されている。

 式典後にRete L’Abusoとして発表した声明は、「このこのベンチは、大人たち、市民社会が、未成年者や弱者に対する虐待に目を閉じず、見て見ぬふりをせず、具体的に関与する呼びかけとして機能する必要がある。イタリアは他国に比べ、虐待がもたらす危機に対処において、はるかに遅れている。その原因の一つは、私たちそうしないからだ… 虐待の予防と広報を通じて、まず、子供たち、孫たち、愛する人たち、として自分自身を守らなければならないのです」とネットワークは述べた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年3月2日

(評論)「言い訳をし、抽象的で役に立たない言葉の後ろに隠れているのか」と自問すべきは…「性虐待被害者のための祈りと償いの日」に

(2024.2.28 「カトリック・あい」)

 

 

*司教協議会会長は”長文“の「呼びかけ」を出しているが

 

 3月1日は「性虐待被害者のための祈りと償いの日」だ。いっこうに収まりを見せない聖職者による性的虐待に心を痛める教皇フランシスコが全世界の司教団に呼びかけて始まった。

 日本の司教団は、「四旬節第2金曜日」をこの日と定め、2017年3月から始め、今回は8回目となる。日本司協議会会長の菊地・東京大司教は2月16日付けの中央協議会ホームページに約1600字の”長文“の「2024年『性虐待被害者のための祈りと償いの日』にあたっての呼びかけ」を掲載している。また日本の教会の祈りの意向として3月を「性虐待被害者のために」とし、「聖職者によって心と体に深い傷を負った方々が、慈しみみ深い神の癒しによって慰められますように」と祈るよう勧めている。

 

 

*全15教区のうち1日が「祈りと償いの日」であることも「呼びかけ」の転載もしない教区が5つ、行事があるのは1教区だけ

 

 だが、肝心の各教区の対応はどうかというと、お寒い限りだ。会長メッセージは、司教団として合意の上で出されたのだろうか。

 日本に15ある教区のホームページを2月28日現在で見ると、行事予定も、司教協議会会長の呼びかけも何も載せていない教区が長崎、名古屋、福岡、那覇の5つ。3月1日が「祈りと償いの日」であることのみを載せているのが東京、鹿児島の二つ、司教協議会会長の呼びかけだけを載せているのが、さいたま、京都、大分の三つ。

 最大の信者数を抱える東京は、教区長の司教協議会会長が、中央協議会のホームページに「呼びかけ」を載せているから、それで事足れり、と判断したのか、教区のホームページには教区民あての、祈りと償いの日への参加呼びかけや、具体的な指針など皆無。教区としての行事予定も見られず、小教区レベルの取り組みもない。

 教区内の全小教区に対して、具体的な祈りと償いの指針を示し、それぞれで実施するよう求めているのが、札幌、横浜、新潟、仙台、広島の5つ。教区としての行事を予定しているのは大阪・高松教区たった一つに過ぎない。

*札幌教区の昨秋のアンケートで「『祈りと償いの日』を知らない」が7割、「そのためのミサや祈りに参加していない」が9割近い

 このような実態を、信者レベルで裏付けるデータが、札幌教区の教区報1月号に掲載された「祈りと償いの日」を前にした信者アンケートの結果概要でも明らかになっている。それによると、「祈りと償いの日を知らない」との答えが全回答の68%を占め、「ミサや祈りに参加しているか」の問いには「参加していない」「教会でそのようなことをしていない」との答えが合わせて86%に上っていることが分かった。性的なものも含めたいじめや”ハラスメント“が「ある」との答えも41%と、「ない」の35%を上回っている。

 

 

*「具体的に誰に対して、何を謝罪しているのか分からない、司教団のトップが謝って済むことか」の声も

 

 菊地会長の「呼びかけ」は、「教会にあって、率先して人間の尊厳を守り、共同体の一致を促進するべき聖職者や霊的な指導者が、命に対する暴力を働き、人間の尊厳をないがしろにする行為を働いた事例が、近年相次いで報告されています。そういった言動を通じて、共同体の一致を破壊するばかりか、性虐待という人間の尊厳を辱め蹂躙する行為によって、多くの方を深く傷つけた聖職者や霊的な指導者が存在することは事実です。長い時間を経て、ようやくその心の傷や苦しみを吐露された方々もおられます。なかには、あたかも被害を受けられた方に責任があるかのような言動で、さらなる被害の拡大を生じた事例もしばしば見受けられます」と述べている。

 そのうえで、「このように長期にわたる深い苦しみを生み出した聖職者や霊的指導者の行為を、心から謝罪いたします。また被害を受けられた方に責任があるかのような言動を通じて、人間の尊厳をおとしめた行為を、心から謝罪します」とし、長文の終わりにも「改めて、無関心や隠蔽も含め、教会の罪を心から謝罪いたします」としているが、教区レベルの対応が上記のようなありさまでは、説得力を欠く。

  この「呼びかけ」を読んだある西日本の女性信者は「誰に対してどのようなことについて、謝っておられるのか分からない。肝心の問題教区の司教がそっぽを向き、司教団のトップが代表して謝れば済むことなのでしょうか。抽象的で、心もこもっていない第三者のようです」という感想を「カトリック・あい」に寄せている。

 

*取り組みを始めて22年、“体制作り”以外に、何をしてきたのか

 

 また「呼びかけ」は、日本の司教団が2002年以来、ガイドラインの制定や、「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」の設置など、対応にあたってきた・・・「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」を通じて啓発活動を深めると共に、ガイドライン運用促進部門を別途設置し、それぞれの教区や修道会が、自らの聖職者や霊的な指導者の言動に責任をもって対応する態勢を整えつつあります」というが、体制着手から22年もかけて、どのような実績をあげたのだろうか。

 

 

*裁判に持ち込まざるを得なかった被害女性たちに心から耳を傾けたことがあるのか

 

 長崎教区、仙台教区では聖職者による性的虐待被害に遭った女性たちが、教区がまともに対応しないことから、裁判所に訴え、前者は長崎地方裁判所から教区、加害者に損害賠償命令が出され、後者は仙台地方裁判所の和解勧告を受け、教区側の消極姿勢で1年以上の”協議”を経て解決金の支払いとなったが、両教区とも、被害者たちに公の場で謝罪し、心身のケアに努め、教会に改めて迎え入れ、再発防止を約束した、という話は聞かない。それどころか、仙台教区の場合、被害者に対して「賠償金目当てだったんだろう」という心無い声をあびせさられ、教会に足を踏み入れることもできない状態、と聞く。

 「よびかけ」が、成果をする「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」についても、それに欠かすことのできない信頼を失墜する出来事が相次いでいる。長崎教区では窓口の担当職員が複数の司祭のパワハラでPTSDを発症、休職に追い込まれ、窓口は一時、閉鎖となり、東京教区のように担当司祭が、理由も公開されないまま、人事異動期でもないのに突然、解任、「休養」扱いとなり、それから数か月たった今も、何の説明もされていない。

 長崎教区の元職員は、長崎地裁に教区を相手取って損害賠償を求める訴えを起こし、現在裁判が続いているといわれるが、原告、被告共に情報開示を避けている。東京大司教と新潟司教と二人の高位聖職者を出している神言会の司祭が,告解に来た女性に繰り返し性的暴行を働いたケースは、同会日本管区本部が訴えを受け付けないどころか、その人物の所在さえ明らかにしないことから、被害者の女性が東京地裁に訴えている。3月11日に二回目の審理が予定されているが、初回の審理には、被告の神言会の責任者も代理人弁護士も出廷せず、書類提出だけで済ませているが、どこまでこのような誠意のない姿勢を続けるつもりなのか不明だ。

 

 

*シノドス総会第一会期の総括文書や著名な専門家は「司教とは別に司法的任務を担う機関の設置検討」

 

 このような日本の教会の現状から見えてくるのは、こうした高位聖職者の行為をいたずらに非難しても、教会の信頼を崩すような事態をなくすことができないのではないか、ということだ。

 参考になるのは、昨年10月にバチカンで開かれた、シノダリティ(共働性)に関する世界代表司教会議(シノドス)総会第一会期の総括報告書の「12:教会の交わりにおける司教」の【なお検討を要すること】だ。

 そこでは、「i) シノドス的教会にとって不可欠なのは、未成年者や弱い立場の人々の保護を目的とする手続における透明性と尊重の文化を確立することです。虐待防止に特化した組織をさらに発展させることが必要」とし、「虐待の取り扱いというデリケートな問題は、多くの司教を、『父としての役割と裁判官としての役割を両立させなければならない』という困難な立場に置きます。司法的任務を、教会法により規定される他の機関に委ねることの妥当性を検討すべきです」としている。

 バチカンの未成年者保護委員会委員として発足当初から聖職者による性的虐待問題に取り組み、現在はローマのグレゴリアン大学人類究所長を務める世界的に著名な性的虐待問題の専門家、ハンス・ゾルナー神父(イエズス会士)もLaCroixとの2月23日付けのインタビューでこう語っている。

 「(司教たちの中には)『虐待の問題は自分たちには関係ない』と言う人がおり、 その一方で、(バチカンで聖職者の性的虐待問題を担当する)教理省は、世界中から”事件簿”を受け取っている、と述べている… こうした認識の問題を超えて、司教たちは『自分が司祭の父親であり、裁判官でもなければならない』ということで困難に直面しています。その問題を乗り越える唯一の方法は、虐待問題が発生した場合に対処するための明確な手順を各教区で確立すること。 これには、事件簿の管理あるいは調査を、独立した第三者に委任することも含まれることも考えられる」。

 

 

*教皇が聖職者に求める「被害者の声に耳を傾ける積極的かつ敬意を持った心の広さ」、そして具体的な行動

 

 聖職者による性的虐待が後を絶たないことに心を痛める教皇フランシスコは、昨年11月にフランス・ナント教区の聖職者による虐待被害者のグループと会見された際、聖職者による性的虐待の被害者たちが「家族とともに何が真実で善であるかを追求してきた場で、最大の悪に苦しんでいる」とされ、「『被害者や生存者の声に耳を傾ける』という積極的かつ敬意を持った心の広さが、受け手にあれば、虐待に対する”沈黙”は打ち破ることができるのです」と語られた。

 そして今年2月11日の 第32回世界病者の日の正午の祈りに先立つ説教では、この日のマルコ福音書にあるように「イエスのなさり方は、言葉を少なく、具体的に行動することです」と説かれ、最後に、「人々の話に耳を傾け、彼らの求めに応えられるようにしているか?」、それとも「言い訳をし、抽象的で役に立たない言葉の後ろに隠れているのか?」を自問するよう勧められた。

 

 「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を前に、このような自問こそ、日本の高位聖職者たちが率先して行うべきことではないか。そのうえで、具体的行動で、全信者に対して範を示すことを、心から求めたい。

(「カトリック・あい」代表・南條俊二)

2024年2月28日

・「バチカンは強力な規範を出したが、現地教会で完全には適用されていない」と聖職者性的虐待の著名批評家、ゾルナー師(LaCroix)

(2024,2,23 La Croix  Loup Besmond de Senneville)

 バチカンの未成年者保護委員会委員を創設以来務め、現在はローマのグレゴリアン大学人類学研究所所長の、聖職者性的虐待に関する著名批評家、ハンス・ゾルナー神父(イエズス会士)がLaCroixとの独占会見に応じ、聖職者の性的虐待に対処するために定められたバチカンの規範は「正しい方向性を示しているが、その実施を監視する仕組みがない」と指摘。2019年2月に教皇フランシスコが虐待問題に対処するために招集した歴史的な全世界司教協議会会長会議は「大きな一歩」ではあったが、その後に出された規則や手順は、「世界の現地の教区、教会では十分に、あるいは適切に運用されていない」と語った。

 インタビューの一問一答は以下の通り。

問 :聖職者の性的虐待問題への対処を話し合う全世界司教協議会会長会議が開かれてから5年が経ちましたが、この間の世界における教会内の性的虐待、特に小児性愛問題への取り組みをどう評価しますか?

答:  過去 5 年間で、私たちは大きな進歩を遂げてきました。 世界レベルでは、まとまった一連の規範「 Vox estis lux mundi」 など、いくつかのルールが確立されています。 すべての聖職者および修道者男女に対し、性的および精神的虐待を見つけた場合には上長に報告することが義務付けられている。 2019年に教皇フランシスコがこの司教協議会会長会議の開催を私たちに求めた時、教皇は、全世界の司教たちだけでなく、修道会なども含めた世界中のすべてのカトリック指導者に非常に強いメッセージを送りたいと考えておられたので、バチカンの幹部たち、男女修道会の総長たちにも参加を求め、被害者の証言を重視する考えから何人か方に参加を依頼されました。 これは長期的な影響を及ぼしました。 たとえば、英国の司教が最近、被害者が自身のミサで講話をすることを許可したが、5年前にはそんなことは問題外でしたから。

*バチカンは規範を出したが、運用に必要な手順と体制に問題がある

 

問:バチカンが出している規範は十分ですか?

答:  規範はどの機関が作ったものも完璧ではありません。 教会法など、いくつかの分野で改善の可能性があります。バチカンが導入した規範は正しい方向性を示していますが、現在、その実施を監視するメカニズムがありません。 一部の国では司教が機能不全を理由に辞任したケースもあります。なぜあるケースでは制裁が適用され、他のケースでは適用されないのでしょうか? 新しい規範が永続的で大きな効果をもたらすことを望むなら、それには、現地の教会の対応が変わらねばなりません。

問:透明性の問題でしょうか?

答:  それは問題の一部にすぎないと思います。 大きな問題は、運用に必要な手順と体制の問題です。司教が性的虐待をバチカンに報告しないという罪を犯したらどうなるでしょう? 誰がその問題を扱うのですか? 誰がそれを調査するのですか? バチカンでは誰がその結果に責任をもつのでしょう?同じ様に、世界の各地の教区、教会での規範の適用の違いも正確には把握されていません。 私たちが自由に使える正確なデータもないのです。

問:これはバチカン未成年者保護委員会が取り組むべき仕事ではありませんか?

答: 委員会がまとめる報告書で、おそらくこの分野での活動を監視することが可能になるでしょう。

*世界の司教たちは、司祭の”父親”であると同時に”裁判官”であるという問題を抱えている

問:司教たちはその問題を十分に認識しているでしょうか?

答: (司教の中には)「虐待の問題は自分たちには関係ない」と言う人がおり、 その一方で、(バチカンで聖職者の性的虐待問題を担当する)教理省は、世界中から”事件簿”を受け取っている、と述べている。 この 2 つの間にはある種の矛盾があります。

 だが、この問題についての認識の問題を超えて、司教たちは「自分が司祭の父親であり、裁判官でもなければならない」ということで、困難に直面しています。その問題を乗り越える唯一の方法は、虐待問題が発生した場合に対処するための明確な手順を各教区で確立することです。 これには、事件簿の管理あるいは調査を独立した第三者に委任することも含まれる場合があるでしょう。

 実際に被害者から訴えを受けた場合の対処の仕方についても”訓練”が必要です。訴えを受けたとき、 司教は何をすべきでしょうか? この問題は、被害者に関連して教会法レベルで起きるだけでなく、有罪判決を受けた司祭とのコミュニケーションや対応でも起こります。バチカンは2020年に従うべき手順についてのマニュアルを発行していますが、十分な内容とは言えない。 司教たちは、何をすべきか頭では分かっていても、経験が不足していることがあります。

 

*「純粋で神聖な教会」という認識は、「犯罪の現実認めない」ことにつながる

問:あなたは虐待問題についての意識を高めるために世界中を旅しておられますがいますが、どのような抵抗を感じていますか?

答:  世界各地の教会を回って、「少しの誤りも考えられない、純粋で神聖な教会」のイメージを持ち続けている人たちがいることに気づきました。 これは、「教会員が犯した犯罪の現実を認めない」ことにつながります。 それは現在の教会の人間的な現実や人々の期待に対応していないイメージです。神の民は、「司祭が聖人ではなく、他の皆と同じように罪人であること」をよく知っているはずです。 カトリック教徒の中にはこのことを理解し、こうした罪を犯した司祭をある程度までは許すことができる人がいますが、なぜ司祭は完璧な存在だと主張し、犯罪者を擁護する信者がいるのか、誰も理解しない。キリストは福音書の中でこう言われました―「あなたが私の兄弟たちの中で最も小さい者のためにこれをしたのは、いつも私のためにした。…これら最も小さい者の一人のためにしなかったときはいつでも、あなたがたは私のためにしなかったのだ」

 

*被害者が求めるものは多様、どのケースにも必要なのは「耳を傾け、貢献を歓迎する」ことだ

問:被害者への配慮は十分になされているのでしょうか?

答 : この点に関して一般的な結論を出すことは不可能です。 私の経験から、被害者の期待は人によって大きく異なります。教会関係者の話を聞くことを要求する人もいますが、そうでない人もいます。 経済的損害に賠償を求める人もいれば、そうでない人もいます。 ケアを必要とする人もいれば、そうでない人もいます。 私が言えるのは、「彼らの声に耳を傾け、彼らの貢献を歓迎することを学ばなければならない」ということです。

問:現在、子どもに対する犯罪の悲劇に対する認識は高まっているように見えますが、成人に対する虐待については、そうではないようです。 どうすればこれを変えることができるでしょう?

答:  未成年に対する性的虐待に関しても、一度に認識が広まったわけではありません。 米国、英国、アイルランドでは、30年ないし40年前に始まりました。成人に対するさまざまな種類の虐待についても、おそらく同様の段階的なプロセスをたどることになるでしょう。 それは時間がかかります。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

LA CROIX international is the premier online Catholic daily providing unique quality content about topics that matter in the world such as politics, society, religion, culture, education and ethics. for post-Vatican II Catholics and those who are passionate about how the living Christian tradition engages, shapes and makes sense of the burning issues of the day in our rapidly changing world. Inspired by the reforming vision of the Second Vatican Council, LCI offers news, commentary and analysis on the Church in the World and the world of the Church. LA CROIX is Europe’s pre-eminent Catholic daily providing quality journalism on world events, politics, science, culture, technology, economy and much more. La CROIX which first appeared as a daily newspaper in 1883 is a highly respected and world leading, independent Catholic daily.

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2024年2月28日

・元イエズス会士で著名な芸術家、ルプニクの性的虐待被害者が実名で会見、バチカン捜査に透明性求める(Crux)

Lawyer Laura Sgro, left, listens to Gloria Branciani during a press conference in Rome on Wednesday, Feb. 21, 2024. Gloria Branciani is one of the first women who accused Fr. Marko Rupnik, a once-exalted Jesuit artist of spiritual, psychological and sexual abuse. (Credit: Alessandra Tarantino/AP.)

Rupnik victims call for transparency as case moves forward

(2024.2.22 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

ローマ 発– 悪名高い性的虐待者で元イエズス会士司祭の芸術家、マルコ・イワン・ルプニクの被害者2人が21日、初めて公けの場に実名を明らかにしたうえで記者会見し、バチカンでのルプニクの犯罪に関する捜査が完全な透明性を持って行われるよう要求。また、この事件に関しイエズス会幹部や教皇フランシスコの対応などに問題がなかったかどうかについても徹底的な調査を求めた。

 イタリア新聞連盟(FNSI)ローマ本部での記者会見に出た被害者はミルジャム・コヴァチさん(62歳)とグロリア・ブランチアーニさん(60歳)の2人で、ルプニクとスロベニアのシスター・イヴァンカ・ホスタが共同設立した「ロヨラ共同体」の会員だった

 2人は会見で「ルプニクによる虐待について、私たちは1990年代初めから訴えてきましたが、ルプニクが施設にいる間は日常的に無視され続けました」とし、彼女たちと多くの姉妹たちが耐えてきた長年にわたる精神的、精神的、性的虐待を語った。

  スロベニア人のコヴァチさんは、ルプニクが施設で「少なくとも41人の姉妹を虐待していた。当時、私たちは皆、理想に満ちた若い女性で、私たちを導いてくれる人々への従順と信頼を教えられていましたが、彼はそれを、精神的、肉体的な様々な種類の性的虐待に悪用したのです」と訴えた。

 もう1人の被害者、イタリア人のブランチアーニさんは、「何年にもわたってルプニクから虐待を受け続けました」と述べた。

  彼女が芸術に関心を持つ若い医学生だったときに初めてルプニクに会った彼はとてもフレンドリーで優しく、気さくな人で、私の精神的、肉体的ニーズをすべてサポートしてくれました。私を褒め、特別な配慮を示してくれました。”霊的な父親”として、信頼できる人物ようにも見えましたが、私が友人たちを抱き合ったり、頬にキスすると、ひどく怒りました」。

  だが、「私のために頻繁に個人的ミサを捧げ、ミサ後に、私にキスをするようになり、回を重ねるごとに抱擁とキスが激しさを増していきました。そして、ルプニクの行為に疑念を抱いたり、要求に沿わないなら『神への不忠』と見なす、言われ、抵抗できなかった。1986年6月、イコン制作のためにギリシャに立つ前に、ミサを捧げるので来るように言われ、ミサ中に私に服を脱ぐように命じ、体をまさぐられるまでになった。

   彼女さんは1987年にロヨラ共同体に入ったが、その後、ルプニクの”身体的接触”が頻度を増し、暴力的になっていった。ルプニクはさまざまな任務のために頻繁に彼女を連れて車で長距離を移動し、その間に「処女の喪失を含む、より深刻な虐待」をされた。だが、 「私が、ルプニクにそのような行為は過ちだと話そうとするたびに、ルプニクは『そのように言うのは、あなたが厳格な性格であることと関係しているのだ』と言い、取り合ってくれませんでした。それどころが、永久誓願をして修道女となった後には、聖三位一体を模して、他の修道女と3人でセックスをしようと、ルプニクから持ち掛けられたのです。『あなた方の関係が三位一体に似ていることを証明するには、別の姉妹を性的関係になるように招待する必要がある』と言うのでした」。

  それだけではない。ルプニクは彼女に「あなたには自己中心的で健全な性を生きることができない。性格的に決意と強さが欠けている。性を通じて、正さねばならない」とまで言われ、ポルノ映画を見に2度も連れ出された。

 このようなことが繰り返されて、ブランチアーニさんはパニック発作を起こし、見当識障害に苦しむようになり、上長に相談しても取り合ってもらえず、結局、1994年にロヨラ共同体から出ることになった、という。

 コヴァチさんも、ルプニクとシスター・ホスタから心理的虐待と良心の侵害を受け、見当識障害と混乱状態の中で、ロヨラ共同体を去った。

2019年に同共同体の数人の修道女から訴えを受けたスロベニアのリュブリャナ教区の大司教が、ロヨラ共同体への調査を開始した際、コバチさんは、同共同体を去った他の修道女たちと連絡を取るよう求められ、彼女たちも声を上げるようになった。

 昨秋、ホスタさんは教会からルプニクによる虐待被害者と自分自身のために祈り続ける生活を認目られる一方、ロヨラ共同体は解散させられた。

 現在68歳のルプニクは、おそらくカトリック教会で最も有名な現代芸術家であり、その壁画はバチカンやルルドのマリア聖堂を含む世界中の聖堂、礼拝堂、大聖堂を飾っているが、教会の最も悪名高い虐待容疑者でもある。

 2020年、教会の最も重大な犯罪の一つである性的関係を持った女性を赦免したとして一時的に破門されたが、2週間後に破門は解除された。 delicta graviora(重大犯罪)は、バチカンの教理省が担当し、当時の長官はスペインのイエズス会士、ルイス・ラダリア枢機卿、教皇フランシスコ自身もイエズス会士だったことから、このような短期での破門解除がされた、との見方も出ていた。だが、翌 2021年に、ロヨラ共同体の元修道女9人がルプニクの虐待についてバチカンに訴え、2022年10月に、その虐待疑惑が表ざたになったが、当時の教理省は、教会法に基づく正式な調査の開始を拒否した。成人に対する虐待には時効が設けられており、すでに時効になっている、との判断からだった。

 だが、イエズス会そのものは、彼が聖職者としての活動を禁止し、旅行や新しい芸術プロジェクトの依頼を受けることも制限するとともに、ルプニクから被害を受けた人々に、名乗り出てくれるよう呼びかけ、新たな15件の訴えがされた。ルプニクが調査への協力を拒否したため、イエズス会は昨年6月、除名処分とした。

 21日の記者会見でブランシアーニさんは、自分が2022年に教理省の求めに応じて証言をし、イエズス会が独自の内部調査を行った際にも証言をした。そして、教皇フランシスコは昨年秋、ルプニクの犯罪に対する時効を差し止め、バチカンでの裁判を認める決定をした。

  ブランシアーニさんとコバチさんは、バチカンから改めて事情聴取に応じるよう連絡を受けたが、弁護士抜きで応じたくなかったため回答を留保し、 民法と教会法の両方の資格を持つイタリアの著名な弁護士ラウラ・スグロ氏を代理人に選任したうえで、今回の記者会見を開いた。近いうちに、バチカンの事情徴収に応じるという。

 スグロ弁護士は記者会見で「この事件は立場の弱い成人に対する虐待として扱われている」とし、バチカンの裁判所で法廷でルプニクを民事告訴する可能性など他の対応も検討していることを示唆したが、詳細は明らかにしなかった。

 教理省が今後もルプニク事件の取り扱いを続けるのか、それとも1月30日に同省が「弱い立場の成人に関する明確化」で「成人が関与する虐待事件のみに責任を負う」との声明を発表したことから、この事件を別の機関に移管する可能性があるのか、という疑問が生じている。

 バチカンの報道担当、マッテオ・ブルーニ氏は21日の記者会見後の声明で、ルプニク事件は教理省が担当しており、「ここ数か月の間、関連する入手可能なすべての情報を得るために事件に関係する機関と連絡をとっている。これまで接触したことのない組織に調査範囲を広げ、すべての結果を得たうえでで、今後の手順を検討することになる」と説明した。

 ルプニクは 身体的虐待に加えて、霊的なイメージや象徴主義を使って”神の神秘的な体験”に仕立て上げる「偽の神秘主義」を使ったことでも告発されており、これは「信仰に反する犯罪」と考えられている。 教理省はこれまで何世紀にもわたって「偽の神秘主義」とそれに類するものを使った犯罪の訴追に努めてきたが、そうした犯罪は明確に定義されておらず、教会法にもこれらの犯罪に関する規定がないため、訴追は困難だ。

 そうしたことから、教会関係者の中には、「偽りの神秘主義」を使って性的虐待に及ぶようなルプニクの象徴される現代の”カリスマ聖職者”たちが罪を免れてしまうのではないか、と懸念する声も出ているが、これについてスグロ弁護士は、この問題にどう対処するのかについて、教理省は明示していない、とし、「今回の裁判に至る捜査には、透明性が求められます。被害者たちも、イエズス会も、そしてルプニク事件に関係する他の教会関係者すべてがその対象となる」とし、捜査の陰で、ルプニクの立場を有利にするため、訴え出た被害者たちの信用を傷つけようとするルプニクの支持者たちをけん制した。

 またこの記者会見を主催した、虐待被害者支援団体、Bishop Accountabilityの共同代表アン・バレット・ドイル氏は、「2019年に教皇フランシスコの意向で開かれた児童保護に関する世界代表司教会議から5年が経ちましたが、この間、性的虐待問題への教会の対応にほとんど進展が見られない… ルプニク事件でも、ひどい隠蔽が続いています。1990年代から現在に至るまでルプニクによる性的虐待を見て見ぬふりをしてきたルプニクの上長たちすべての対応を詳述する完全な報告書を作成すること、そこには教皇フランシスコ自身の役割に関する『最も憂慮すべき問題』も取り上げることを求めたい」と強調した。

  ブランシアーニさんも「今も聖職者による性的虐待をめぐる状況が変わったわけではありません。教会の上部構造には、事件当初から透明性がなかった」と批判したうえ、「公に声を上げる、という私たちの困難な決断が、透明性の促進に役立つことを期待します。私たちが望んでいるのは、真実が認識され、私たちが受けてきたルプニクの誤った行為が認定され、捜査の透明性が確保されることです。だが、当事者たちは私たちに、沈黙を続けること、”何らかの形で消える”ことを、いまだに要求して来る。私たちの信用を傷つけるような行為は、これ以上、受け入れられない」と言明。

 この 事件のこれからの扱いについて、ブランチアーニさんは「真実と正義が守られ、沈黙が破られることを望んでいます。…特定の集団が、私たちを(ルプニクに)夢中になっている弱虫だと決めつけるのを受け入れられません。 私たちが被っった被害は正当に認識されねばなりません」と訴えた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年2月25日

・豪州の前司教が多数の未成年性的虐待容疑で逮捕・起訴(Crux)

Bishop Christopher Saunders of Broome tries to play a digeridoo during a World Youth Day 2008 media event in Sydney, Australia, on April 17, 2008. Saunders, a retired Catholic bishop, has been charged, Thursday, Feb. 22, 2024, with child sex abuse offenses in a remote part of Australia’s northwest. (Credit: Rob Griffith/AP.)

(2024.2.23 Crux  Managing Editor Charles Collins)

 起訴の罪状は、性的虐待2件、わいせつ行為・暴行14件、児童に対するわいせつ行為3件。これらの行為は、2008年から2014年にかけてなされた、とされている。
 サンダース容疑者は現在、保釈中で、自宅に留まるよう命じられており、公判は6月に始まる予定だが、本人は無罪を主張している

  今回のサンダース容疑者の逮捕・起訴について、オーストラリア司教協議会のティモシー・コステロー会長は22日に声明を出し、「教会にとって非常に深刻であり、特に被害を訴えている人たちにとっては非常に憂慮すべきもの。容疑のすべてが徹底的に調査されることは正しく、適切であり、必要なことだ。 教会は司法当局に全面的に協力し、公正な捜査を妨げるような動きを避けるために必要なあらゆる措置を講じる」と言明した。

 サンダース容疑者は、かつて教区での権利擁護活動で知られ、彼の名を冠したビールもあったほどの”有名人”。 若者をキャンプや釣り旅行に連れて行ったことでも知られていた。性的不法行為に関する疑惑は2020年に初めて表面化し、警察が捜査したが、起訴には至らなかったものの、司教職を退き、”名誉司教”となっていた。

  だが、2022年になって、バチカンがサンダースの児童虐待疑惑について捜査を開始し、200ページにわたる報告書が流出するに至って、西オーストラリア州警察が捜査を再開した。

  昨年 9月、オーストラリアのテレビ局7Newsがサンダースを虐待で告発した2人にインタビューしているが、その1人の男性は、10代の未成年の時、司教館の庭の手入れをしたあと、シャワーを使おうとしたところ、サンダースが入って来て 「石鹸とシャンプーで私の体を洗い始め、陰部や前部など体中をこすり始めた語った。とても素晴らしい人だと思っていたので、とても恐ろしかった」と語っている。

 そして、サンダースは、彼に現金やプレゼントを渡すようになり、スポーツの試合を見るためにメルボルンまで飛行機で連れて行かれ、ホテルの同じ部屋に泊まらされたこともあった、と述べた。

  もう一人の男性は「司教は若者たちを酔わせてショートパンツやシャツを脱ぐよう要求した」とし、「私は彼がキスしたりハグしたり…そして陰部に触れたりしているのを見て、本当にショックを受けた」と語り、サンダースの言葉は「かなり不快だった」と付け加えた。

 被害者とされる1人は7Newsに対し、サンダースは「刑務所に入れられるか、そうでなければカトリック教会から追放されるべきだ」と語った。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年2月23日

・2024年「性虐待被害者のための祈りと償いの日」にあたって日本カトリック司教協議会会長

(2024.2.16  カトリック中央協議会)  

日本のカトリック信者の皆様

2024年「性虐待被害者のための祈りと償いの日」にあたって

 教会は、自分たちが「神との親密な交わりと全人類一致のしるし、道具」(第二バチカン公会議『教会憲章』1)となるよう呼ばれた召命を受け、その実現のために挑戦し続ける道をともに歩んでいます。

 もちろん教会を形作る私たちひとり一人は完全な存在ではなく、「神との親密な交わりと全人類の一致」を明確にあかしするしるしとはなり得ていません。とりわけ、教会が旅を続ける現代社会は、命に対する暴力が荒れ狂う世界であって、その現実の中で、賜物である命を最優先に守り抜き、人間の尊厳を尊重し、さらに全体として一致することは容易なことではありません。

 しかしながら教会は、その厳しい道を挑戦しながら歩むことをやめることはできません。なぜならば、教会にとって「イエスを宣べ伝えるとは、命を宣べ伝えることにほかならない」からです(ヨハネ・パウロ2世「命の福音」80)。

 その教会にあって、率先して人間の尊厳を守り、共同体の一致を促進するべき聖職者や霊的な指導者が、命に対する暴力を働き、人間の尊厳をないがしろにする行為を働いた事例が、近年相次いで報告されています。

 そういった言動を通じて、共同体の一致を破壊するばかりか、性虐待という人間の尊厳を辱め蹂躙する行為によって、多くの方を深く傷つけた聖職者や霊的な指導者が存在することは事実です。

 長い時間を経て、ようやくその心の傷や苦しみを吐露された方々もおられます。なかには、あたかも被害を受けられた方に責任があるかのような言動で、さらなる被害の拡大を生じた事例もしばしば見受けられます。

 このように長期にわたる深い苦しみを生み出した聖職者や霊的指導者の行為を、心から謝罪いたします。また被害を受けられた方に責任があるかのような言動を通じて、人間の尊厳をおとしめた行為を、心から謝罪します。責任は加害者にあるのは当然です。

 2018年に教皇フランシスコは、「神の民に宛てた手紙」を公表され、その中で、性虐待問題について次のように呼びかけました。そこに記されている次の言葉を、日本の教会も共有いたします。

 「苦痛と無力感を伴う根深い傷を、ほかでもなく被害者に、しかしそればかりか家族と共同体全体に負わせる犯罪です。起きてしまったことに鑑みれば、謝罪と、与えた被害を償う努力が、十分になることなど決してありません。今後について考えれば、このような事態が二度と繰り返されないようにするだけでなく、その隠蔽や存続の余地を与えない文化を作り出す努力をするほかありません」

 教皇フランシスコは、この問題に教会全体が真摯に取り組み、その罪を認め、ゆるしを請い、また被害にあった方々の尊厳の回復のために尽くすよう求め、「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を設けるようにと指示されました。日本の教会では、四旬節・第二金曜日を、この祈りと償いの日と定めました。2024年にあっては、来る3月1日(金)がこの日にあたります。

 日本の司教団は、2002年以来、ガイドラインの制定や、「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」の設置など、対応にあたってきました。2021年2月の司教総会で、「未成年者と弱い立場におかれている成人の保護のためのガイドライン」を決議し、教会に求められている命を守るための行動に積極的に取り組む体制を整えてきました。

 また「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」を通じて啓発活動を深めると共に、ガイドライン運用促進部門を別途設置し、それぞれの教区や修道会が、自らの聖職者や霊的な指導者の言動に責任をもって対応する態勢を整えつつあります。

 改めて、無関心や隠蔽も含め、教会の罪を心から謝罪いたします。神の癒やしの手によって被害を受けられた方々が包まれますように、心から祈ります。また聖職者のためにも、お祈りくださいますようお願いいたします。

 どうぞ、四旬節第二金曜日に、またはその近くの主日に、教皇様の意向に合わせ、司教団とともに、祈りをささげてくださいますようにお願いいたします。

2024年2月14日 日本カトリック司教協議会 会長 菊地 功

2024年2月17日

・カナダで性的虐待集団訴訟の被告名簿に載った枢機卿が虐待を否定、大司教職は一時中断

(2024.1.30 Crux  Senior Correspondent Elise Ann Allen )

ローマ発 – ケベック大司教区に対して性的虐待の損害賠償を求める集団訴訟でジェラルド・ラクロワ枢機卿が被告リストに載ったことに対し、同大司教区事務局は1月26日に声明を発表し、ラクロワ枢機卿が容疑を否定する一方、問題が解明されるまで「大司教区を指導する立場」から身を引くことを発表した。

 ラクロワ枢機卿は1月25日、1987年と1988年の2回、当時17歳だった少女に「不適切な接触」をしたと主張する原告側の法廷文書により、集団訴訟の被告リストに載せられた。

 ケベック大司教区は26日の声明で、ラクロワ枢機卿が「自身に対する容疑を断固として否定」し、容疑は「根拠がない」と考えている、と述べた。その一方で、枢機卿が「大司教区の指導から一時的に退く」ことを決めた、とした。そして、数日以内にラクロワ枢機卿は大司教区に「個人的な連絡を送り」、それが「メディアに中継される」予定としている。

 ラクロワ枢機卿は、教皇の枢機卿顧問会議のメンバーで、昨年10月の世界代表司教会議の第1会期会合で、今年10月の第2会期を経てまとめられる最終文書を監督するために選ばれた7人の1人で、第2会期の会合に参加する予定。

 だが、今回、集団訴訟の被告リストに載ったことで、2022年にバチカン司教省の元長官、マルク・ウエレ枢機卿が告訴(後に無罪)されて以来、性的虐待の被告とされた2人目のカナダ人枢機卿となった。 

 今回の ケベック大司教区に対する集団訴訟には約147人の被害者が参加している。 法廷文書には大司教区関係者15人の名前が挙げられているが、ラクロワ枢機卿が性的暴行をしたとされる相手の女性の身元は特定されていない。

 ケベック大司教区は声明の中で、ラクロワ枢機卿が大司教ポスト不在中に物事を進めるために「あらゆる手段を講じる。真実を尊重し、誠実に集団訴訟に対応する」とする一方、 性的虐待の被害者への補償について”関心”を持っている」としている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年1月31日