・アルゼンチン最高裁、性的虐待司祭の有罪を確定、「教会の変革はまだ」と被害者たち

(2024.3.6 Crux  Contributor   Eduardo Campos Lima)

 下級審では、2019年に、コルバチョと同じ施設に勤務していた、イタリア生まれの司祭、ニコラ・ブルーノ・コッラディも懲役42年の判決を受け、2人は判決を不服として最高裁に上告していたが、コッラディは高齢者施設に収容された後、死亡している。

 この施設は、2016年にアルゼンチンで起きた教会関係者による性的虐待という大スキャンダルの中心となり、この2人の司祭のほか、庭師のアルマンド・ゴメスに懲役18年、職員のホルヘ・ボルドンに懲役10年の有罪判決がされている。

 施設で働いていた修道女2人を含む9人の女性も、彼らの性的虐待に協力した罪で起訴されたが、最終的には無罪となった。

 コルバチョは、ミシオネス州の8歳の被害者に対するものを含む、いくつかの性的虐待行為に関与したとされている。 この少年は、極度の痛みで失神する事が少なくとも8回あったと訴えている。

 聖職者などによる性的虐待を批判する人々は、今回の最高裁の判断を歓迎しているが、「教会がこの問題に適切に対処するにはまだ長い道のりがある」と指摘している。

 裁判を戦った原告被害者12人の代理人セルジオ・サリナス弁護士は「Antonio Provoloでの子どもたちに対する性的虐待に関与した女性たちも責任を問われるべきだった。虐待が起こるのを許してしまったのだから。 司法は直接の加害者だけを有罪とするにとどまっている。幼稚で時代遅れの法律理解です」と語った。

 サリナス弁護士は、「Provolo事件で、アルゼンチンの教会は二重基準に基づいて行動した。 経済的な観点から、すべての被害者に補償することに同意したが、それが実現したのは2023年になってからでした。そればかりか、刑罰の観点から見ると、教会は協力を怠っただけでなく、スキャンダルを隠蔽しようとしたこともあったのです」と教会の姿勢を批判。

 裁判で、虐待被害者は虐待の事実を証言したが、被告側は最後まで罪を認めず、「教会は、私たちが要求した加害者が誰であるかの証拠を、一度も提示しなかった。 私たちは国連(の人権委員会)、駐アルゼンチン・バチカン大使館、さらにはバチカンにも助けを求めましたが、うまくいかなかった」と言う。

 サリナス弁護士によると、バチカン報道局は2020年に彼に、教会当局がバチカン外で秘密裏に原告弁護士団と面会する用意がある、との電子メールを送ったが、弁護団はそれに応じなかった。

  Iglesia sin Abusos (虐待のない教会)のメンバー、フリエタ・アナスコ氏は、最高裁判決は「司法当局が教会虐待事件の深刻さを認識しており、適切に調査され処罰されなければならないというシグナル」という点で評価できるが、「特に教会には、さらなる変革が必要です」と語る。

 「教会は過去数年にわたり虐待に対する姿勢を進化させ、透明性の高い施策に努めてはいます。しかし、いくつかの教会、修道会などが依然として、訴えられた聖職者を異動させることで事件を隠蔽しようとしている、と考えています。異動の際に、本名を出さないので、私たちが、彼らを見つけるのは困難です」と指摘。

 そして、「過去数年間に、教会の周りの社会は大きく変わっており、被害者はもはや、虐待した聖職者などを訴えることを恐れていません。告発された司祭は教会だけによって裁かれるのではない、ということが重要です。 憲法は教会法よりも優先されるのです」と主張している。

 最近のいくつかの虐待事件では、司法当局も教会も、期待された解決策を提示できなかった、と他の関係者は指摘する。Fraternidad de Belén(ベツレヘム友愛会)の神学生だったビセンテ・スアレス・ウォレルト氏の場合がそうだ。 2019年、陸軍従軍司祭ホセ・ミゲル・パディージャ神父から、当時20歳だった2015年から2016年にかけて虐待された、として訴えた。だが、「教会は当初から、この出来事に関する情報を持っていることを否定していました。 実際には、何人かの司教は何が起こったのかを知っていた。私は協力を求めましたが、彼らは私を助けてくれなかったり、避けたりしたのです」とCRUXの取材に語った。

 2023年、下級審はパディージャ神父を無罪としたが、ウォレルト氏は控訴し、新たな判決を待っている。「控訴審は、私が少し前に行った証言から始まりましたが、現在、どのように進んでいるのかは分かりません」と言い、このような状況から、「教会は、的確に対応した証明しようと努力していますが、実際はそうではないことを現実が示している。私たちにとって、教会の真の誠実な変革からは程遠いと思います」と述べている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
 Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

.

このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年3月7日