・「バチカンは強力な規範を出したが、現地教会で完全には適用されていない」と聖職者性的虐待の著名批評家、ゾルナー師(LaCroix)

(2024,2,23 La Croix  Loup Besmond de Senneville)

 バチカンの未成年者保護委員会委員を創設以来務め、現在はローマのグレゴリアン大学人類学研究所所長の、聖職者性的虐待に関する著名批評家、ハンス・ゾルナー神父(イエズス会士)がLaCroixとの独占会見に応じ、聖職者の性的虐待に対処するために定められたバチカンの規範は「正しい方向性を示しているが、その実施を監視する仕組みがない」と指摘。2019年2月に教皇フランシスコが虐待問題に対処するために招集した歴史的な全世界司教協議会会長会議は「大きな一歩」ではあったが、その後に出された規則や手順は、「世界の現地の教区、教会では十分に、あるいは適切に運用されていない」と語った。

 インタビューの一問一答は以下の通り。

問 :聖職者の性的虐待問題への対処を話し合う全世界司教協議会会長会議が開かれてから5年が経ちましたが、この間の世界における教会内の性的虐待、特に小児性愛問題への取り組みをどう評価しますか?

答:  過去 5 年間で、私たちは大きな進歩を遂げてきました。 世界レベルでは、まとまった一連の規範「 Vox estis lux mundi」 など、いくつかのルールが確立されています。 すべての聖職者および修道者男女に対し、性的および精神的虐待を見つけた場合には上長に報告することが義務付けられている。 2019年に教皇フランシスコがこの司教協議会会長会議の開催を私たちに求めた時、教皇は、全世界の司教たちだけでなく、修道会なども含めた世界中のすべてのカトリック指導者に非常に強いメッセージを送りたいと考えておられたので、バチカンの幹部たち、男女修道会の総長たちにも参加を求め、被害者の証言を重視する考えから何人か方に参加を依頼されました。 これは長期的な影響を及ぼしました。 たとえば、英国の司教が最近、被害者が自身のミサで講話をすることを許可したが、5年前にはそんなことは問題外でしたから。

*バチカンは規範を出したが、運用に必要な手順と体制に問題がある

 

問:バチカンが出している規範は十分ですか?

答:  規範はどの機関が作ったものも完璧ではありません。 教会法など、いくつかの分野で改善の可能性があります。バチカンが導入した規範は正しい方向性を示していますが、現在、その実施を監視するメカニズムがありません。 一部の国では司教が機能不全を理由に辞任したケースもあります。なぜあるケースでは制裁が適用され、他のケースでは適用されないのでしょうか? 新しい規範が永続的で大きな効果をもたらすことを望むなら、それには、現地の教会の対応が変わらねばなりません。

問:透明性の問題でしょうか?

答:  それは問題の一部にすぎないと思います。 大きな問題は、運用に必要な手順と体制の問題です。司教が性的虐待をバチカンに報告しないという罪を犯したらどうなるでしょう? 誰がその問題を扱うのですか? 誰がそれを調査するのですか? バチカンでは誰がその結果に責任をもつのでしょう?同じ様に、世界の各地の教区、教会での規範の適用の違いも正確には把握されていません。 私たちが自由に使える正確なデータもないのです。

問:これはバチカン未成年者保護委員会が取り組むべき仕事ではありませんか?

答: 委員会がまとめる報告書で、おそらくこの分野での活動を監視することが可能になるでしょう。

*世界の司教たちは、司祭の”父親”であると同時に”裁判官”であるという問題を抱えている

問:司教たちはその問題を十分に認識しているでしょうか?

答: (司教の中には)「虐待の問題は自分たちには関係ない」と言う人がおり、 その一方で、(バチカンで聖職者の性的虐待問題を担当する)教理省は、世界中から”事件簿”を受け取っている、と述べている。 この 2 つの間にはある種の矛盾があります。

 だが、この問題についての認識の問題を超えて、司教たちは「自分が司祭の父親であり、裁判官でもなければならない」ということで、困難に直面しています。その問題を乗り越える唯一の方法は、虐待問題が発生した場合に対処するための明確な手順を各教区で確立することです。 これには、事件簿の管理あるいは調査を独立した第三者に委任することも含まれる場合があるでしょう。

 実際に被害者から訴えを受けた場合の対処の仕方についても”訓練”が必要です。訴えを受けたとき、 司教は何をすべきでしょうか? この問題は、被害者に関連して教会法レベルで起きるだけでなく、有罪判決を受けた司祭とのコミュニケーションや対応でも起こります。バチカンは2020年に従うべき手順についてのマニュアルを発行していますが、十分な内容とは言えない。 司教たちは、何をすべきか頭では分かっていても、経験が不足していることがあります。

 

*「純粋で神聖な教会」という認識は、「犯罪の現実認めない」ことにつながる

問:あなたは虐待問題についての意識を高めるために世界中を旅しておられますがいますが、どのような抵抗を感じていますか?

答:  世界各地の教会を回って、「少しの誤りも考えられない、純粋で神聖な教会」のイメージを持ち続けている人たちがいることに気づきました。 これは、「教会員が犯した犯罪の現実を認めない」ことにつながります。 それは現在の教会の人間的な現実や人々の期待に対応していないイメージです。神の民は、「司祭が聖人ではなく、他の皆と同じように罪人であること」をよく知っているはずです。 カトリック教徒の中にはこのことを理解し、こうした罪を犯した司祭をある程度までは許すことができる人がいますが、なぜ司祭は完璧な存在だと主張し、犯罪者を擁護する信者がいるのか、誰も理解しない。キリストは福音書の中でこう言われました―「あなたが私の兄弟たちの中で最も小さい者のためにこれをしたのは、いつも私のためにした。…これら最も小さい者の一人のためにしなかったときはいつでも、あなたがたは私のためにしなかったのだ」

 

*被害者が求めるものは多様、どのケースにも必要なのは「耳を傾け、貢献を歓迎する」ことだ

問:被害者への配慮は十分になされているのでしょうか?

答 : この点に関して一般的な結論を出すことは不可能です。 私の経験から、被害者の期待は人によって大きく異なります。教会関係者の話を聞くことを要求する人もいますが、そうでない人もいます。 経済的損害に賠償を求める人もいれば、そうでない人もいます。 ケアを必要とする人もいれば、そうでない人もいます。 私が言えるのは、「彼らの声に耳を傾け、彼らの貢献を歓迎することを学ばなければならない」ということです。

問:現在、子どもに対する犯罪の悲劇に対する認識は高まっているように見えますが、成人に対する虐待については、そうではないようです。 どうすればこれを変えることができるでしょう?

答:  未成年に対する性的虐待に関しても、一度に認識が広まったわけではありません。 米国、英国、アイルランドでは、30年ないし40年前に始まりました。成人に対するさまざまな種類の虐待についても、おそらく同様の段階的なプロセスをたどることになるでしょう。 それは時間がかかります。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2024年2月28日