・元イエズス会士で著名な芸術家、ルプニクの性的虐待被害者が実名で会見、バチカン捜査に透明性求める(Crux)

Lawyer Laura Sgro, left, listens to Gloria Branciani during a press conference in Rome on Wednesday, Feb. 21, 2024. Gloria Branciani is one of the first women who accused Fr. Marko Rupnik, a once-exalted Jesuit artist of spiritual, psychological and sexual abuse. (Credit: Alessandra Tarantino/AP.)

Rupnik victims call for transparency as case moves forward

(2024.2.22 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

ローマ 発– 悪名高い性的虐待者で元イエズス会士司祭の芸術家、マルコ・イワン・ルプニクの被害者2人が21日、初めて公けの場に実名を明らかにしたうえで記者会見し、バチカンでのルプニクの犯罪に関する捜査が完全な透明性を持って行われるよう要求。また、この事件に関しイエズス会幹部や教皇フランシスコの対応などに問題がなかったかどうかについても徹底的な調査を求めた。

 イタリア新聞連盟(FNSI)ローマ本部での記者会見に出た被害者はミルジャム・コヴァチさん(62歳)とグロリア・ブランチアーニさん(60歳)の2人で、ルプニクとスロベニアのシスター・イヴァンカ・ホスタが共同設立した「ロヨラ共同体」の会員だった

 2人は会見で「ルプニクによる虐待について、私たちは1990年代初めから訴えてきましたが、ルプニクが施設にいる間は日常的に無視され続けました」とし、彼女たちと多くの姉妹たちが耐えてきた長年にわたる精神的、精神的、性的虐待を語った。

  スロベニア人のコヴァチさんは、ルプニクが施設で「少なくとも41人の姉妹を虐待していた。当時、私たちは皆、理想に満ちた若い女性で、私たちを導いてくれる人々への従順と信頼を教えられていましたが、彼はそれを、精神的、肉体的な様々な種類の性的虐待に悪用したのです」と訴えた。

 もう1人の被害者、イタリア人のブランチアーニさんは、「何年にもわたってルプニクから虐待を受け続けました」と述べた。

  彼女が芸術に関心を持つ若い医学生だったときに初めてルプニクに会った彼はとてもフレンドリーで優しく、気さくな人で、私の精神的、肉体的ニーズをすべてサポートしてくれました。私を褒め、特別な配慮を示してくれました。”霊的な父親”として、信頼できる人物ようにも見えましたが、私が友人たちを抱き合ったり、頬にキスすると、ひどく怒りました」。

  だが、「私のために頻繁に個人的ミサを捧げ、ミサ後に、私にキスをするようになり、回を重ねるごとに抱擁とキスが激しさを増していきました。そして、ルプニクの行為に疑念を抱いたり、要求に沿わないなら『神への不忠』と見なす、言われ、抵抗できなかった。1986年6月、イコン制作のためにギリシャに立つ前に、ミサを捧げるので来るように言われ、ミサ中に私に服を脱ぐように命じ、体をまさぐられるまでになった。

   彼女さんは1987年にロヨラ共同体に入ったが、その後、ルプニクの”身体的接触”が頻度を増し、暴力的になっていった。ルプニクはさまざまな任務のために頻繁に彼女を連れて車で長距離を移動し、その間に「処女の喪失を含む、より深刻な虐待」をされた。だが、 「私が、ルプニクにそのような行為は過ちだと話そうとするたびに、ルプニクは『そのように言うのは、あなたが厳格な性格であることと関係しているのだ』と言い、取り合ってくれませんでした。それどころが、永久誓願をして修道女となった後には、聖三位一体を模して、他の修道女と3人でセックスをしようと、ルプニクから持ち掛けられたのです。『あなた方の関係が三位一体に似ていることを証明するには、別の姉妹を性的関係になるように招待する必要がある』と言うのでした」。

  それだけではない。ルプニクは彼女に「あなたには自己中心的で健全な性を生きることができない。性格的に決意と強さが欠けている。性を通じて、正さねばならない」とまで言われ、ポルノ映画を見に2度も連れ出された。

 このようなことが繰り返されて、ブランチアーニさんはパニック発作を起こし、見当識障害に苦しむようになり、上長に相談しても取り合ってもらえず、結局、1994年にロヨラ共同体から出ることになった、という。

 コヴァチさんも、ルプニクとシスター・ホスタから心理的虐待と良心の侵害を受け、見当識障害と混乱状態の中で、ロヨラ共同体を去った。

2019年に同共同体の数人の修道女から訴えを受けたスロベニアのリュブリャナ教区の大司教が、ロヨラ共同体への調査を開始した際、コバチさんは、同共同体を去った他の修道女たちと連絡を取るよう求められ、彼女たちも声を上げるようになった。

 昨秋、ホスタさんは教会からルプニクによる虐待被害者と自分自身のために祈り続ける生活を認目られる一方、ロヨラ共同体は解散させられた。

 現在68歳のルプニクは、おそらくカトリック教会で最も有名な現代芸術家であり、その壁画はバチカンやルルドのマリア聖堂を含む世界中の聖堂、礼拝堂、大聖堂を飾っているが、教会の最も悪名高い虐待容疑者でもある。

 2020年、教会の最も重大な犯罪の一つである性的関係を持った女性を赦免したとして一時的に破門されたが、2週間後に破門は解除された。 delicta graviora(重大犯罪)は、バチカンの教理省が担当し、当時の長官はスペインのイエズス会士、ルイス・ラダリア枢機卿、教皇フランシスコ自身もイエズス会士だったことから、このような短期での破門解除がされた、との見方も出ていた。だが、翌 2021年に、ロヨラ共同体の元修道女9人がルプニクの虐待についてバチカンに訴え、2022年10月に、その虐待疑惑が表ざたになったが、当時の教理省は、教会法に基づく正式な調査の開始を拒否した。成人に対する虐待には時効が設けられており、すでに時効になっている、との判断からだった。

 だが、イエズス会そのものは、彼が聖職者としての活動を禁止し、旅行や新しい芸術プロジェクトの依頼を受けることも制限するとともに、ルプニクから被害を受けた人々に、名乗り出てくれるよう呼びかけ、新たな15件の訴えがされた。ルプニクが調査への協力を拒否したため、イエズス会は昨年6月、除名処分とした。

 21日の記者会見でブランシアーニさんは、自分が2022年に教理省の求めに応じて証言をし、イエズス会が独自の内部調査を行った際にも証言をした。そして、教皇フランシスコは昨年秋、ルプニクの犯罪に対する時効を差し止め、バチカンでの裁判を認める決定をした。

  ブランシアーニさんとコバチさんは、バチカンから改めて事情聴取に応じるよう連絡を受けたが、弁護士抜きで応じたくなかったため回答を留保し、 民法と教会法の両方の資格を持つイタリアの著名な弁護士ラウラ・スグロ氏を代理人に選任したうえで、今回の記者会見を開いた。近いうちに、バチカンの事情徴収に応じるという。

 スグロ弁護士は記者会見で「この事件は立場の弱い成人に対する虐待として扱われている」とし、バチカンの裁判所で法廷でルプニクを民事告訴する可能性など他の対応も検討していることを示唆したが、詳細は明らかにしなかった。

 教理省が今後もルプニク事件の取り扱いを続けるのか、それとも1月30日に同省が「弱い立場の成人に関する明確化」で「成人が関与する虐待事件のみに責任を負う」との声明を発表したことから、この事件を別の機関に移管する可能性があるのか、という疑問が生じている。

 バチカンの報道担当、マッテオ・ブルーニ氏は21日の記者会見後の声明で、ルプニク事件は教理省が担当しており、「ここ数か月の間、関連する入手可能なすべての情報を得るために事件に関係する機関と連絡をとっている。これまで接触したことのない組織に調査範囲を広げ、すべての結果を得たうえでで、今後の手順を検討することになる」と説明した。

 ルプニクは 身体的虐待に加えて、霊的なイメージや象徴主義を使って”神の神秘的な体験”に仕立て上げる「偽の神秘主義」を使ったことでも告発されており、これは「信仰に反する犯罪」と考えられている。 教理省はこれまで何世紀にもわたって「偽の神秘主義」とそれに類するものを使った犯罪の訴追に努めてきたが、そうした犯罪は明確に定義されておらず、教会法にもこれらの犯罪に関する規定がないため、訴追は困難だ。

 そうしたことから、教会関係者の中には、「偽りの神秘主義」を使って性的虐待に及ぶようなルプニクの象徴される現代の”カリスマ聖職者”たちが罪を免れてしまうのではないか、と懸念する声も出ているが、これについてスグロ弁護士は、この問題にどう対処するのかについて、教理省は明示していない、とし、「今回の裁判に至る捜査には、透明性が求められます。被害者たちも、イエズス会も、そしてルプニク事件に関係する他の教会関係者すべてがその対象となる」とし、捜査の陰で、ルプニクの立場を有利にするため、訴え出た被害者たちの信用を傷つけようとするルプニクの支持者たちをけん制した。

 またこの記者会見を主催した、虐待被害者支援団体、Bishop Accountabilityの共同代表アン・バレット・ドイル氏は、「2019年に教皇フランシスコの意向で開かれた児童保護に関する世界代表司教会議から5年が経ちましたが、この間、性的虐待問題への教会の対応にほとんど進展が見られない… ルプニク事件でも、ひどい隠蔽が続いています。1990年代から現在に至るまでルプニクによる性的虐待を見て見ぬふりをしてきたルプニクの上長たちすべての対応を詳述する完全な報告書を作成すること、そこには教皇フランシスコ自身の役割に関する『最も憂慮すべき問題』も取り上げることを求めたい」と強調した。

  ブランシアーニさんも「今も聖職者による性的虐待をめぐる状況が変わったわけではありません。教会の上部構造には、事件当初から透明性がなかった」と批判したうえ、「公に声を上げる、という私たちの困難な決断が、透明性の促進に役立つことを期待します。私たちが望んでいるのは、真実が認識され、私たちが受けてきたルプニクの誤った行為が認定され、捜査の透明性が確保されることです。だが、当事者たちは私たちに、沈黙を続けること、”何らかの形で消える”ことを、いまだに要求して来る。私たちの信用を傷つけるような行為は、これ以上、受け入れられない」と言明。

 この 事件のこれからの扱いについて、ブランチアーニさんは「真実と正義が守られ、沈黙が破られることを望んでいます。…特定の集団が、私たちを(ルプニクに)夢中になっている弱虫だと決めつけるのを受け入れられません。 私たちが被っった被害は正当に認識されねばなりません」と訴えた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年2月25日