・習近平・主席は、党の「人権」の概念が世界の常識と異なることを改めて主張(BW)

 Xi Jinping discusses the Chinese notion of human rights via video with United Nations High Commissioner for Human Rights Michelle Bachelet during her recent visit to China. From Weibo.

Xi Jinping discusses the Chinese notion of human rights via video with United Nations High Commissioner for Human Rights Michelle Bachelet during her recent visit to China. From Weibo. 

(2022.6.24 Bitter Winter  Massimo Introvigne)

 「人権には普遍的な概念がないーそれぞれの国が、自国に合うように”人権”を定義する権利を持つ」、として「西側諸国が”普遍的”人権、という誤った考えのもとに、自分たちのブルジョア的な概念を他国に押し付けようとしているのだ」という習の主張に、新味は何もない。

 この講演の内容で、あえて目新しいものをあげるとすれば、「人権についての”卓越”した中国的概念の系譜」だろう。習主席は、この概念の系譜に名を連ねる人物として、孔子、孟子、荀子、墨子、マルクス、エンゲルスの6人を挙げている。このうち 4人の中国の哲学者が「人権」という言葉を使ったことはないが、「善き統治は、人民を愛し、人民を優先するものであるべき」という主張から、選ばれているようだ。

 この中国人4人には途切れることのない思想的つながりがあるかのようにされているが、実際は、孟子と荀子(右の絵)は人間性について根本的な意見の相違があり、荀子とその弟子たちは「人権」の概念から遠く離れた独裁形態の政府を支持している。そして、墨子は孔子の弟子というよりは、敵対者だ。だから、それぞれの哲学者の思想に深く踏み込まず、「人民を愛する」ことだけに、とどめて、一緒にしよう、というわけだ。

 習が中国古典の読者であることはよく知られているから、古典の知識が足りないから、異なる思想の哲学者を寄せ集めたのだ、という

Xunzi.

解釈は成り立たない。 これは、「統一された『中国の伝統文化』が存在する」という、習の持論に基づく、イデオロギー的言明だ。つまり、アカデミックな科学ではなく、中国共産党のイデオロギー的要請による「儒教思想の改造」を基にしているのだ。

 習によれば、「人民への愛」の要素は、啓蒙思想家によって作り出され、ブルジョア革命で生まれた政府が宣言した、欧州での初期の人権思想にも含まれていたが、「マルクスとエンゲルスは、ブルジョアの人権理論の歴史的かつ進歩的な重要性を確認し、同時に、人権を否定する社会的、歴史的、階級的性質を徹底的に批判した」のだという。

 だが、マルクスとエンゲルスの思想は、人権についての進歩的な理論を詳細に説明できたが、プロレタリアートたちに真の人権を保障する者とはならなかった。

Engels (left) and Marx, 19th-century print.
Engels (left) and Marx, 19th-century print. Credits.

 習は、中国共産党だけが、儒教の「人民への愛」とマルクス主義理論を統合できたと信じている。習によると、西側諸国の人権の理論と実践は、マルクスとエンゲルスによって明らかにされた偽善と矛盾をそのまま引きづっている。また他の共産主義政権は実際には問題を解決しなかった。「我々は、マルクス主義の人権の概念を、中国の具体的な現実と優れた伝統的な中国文化と組み合わせることができた」と誇らしげに語る。だが、本当にそう言えるのか。

 習は、中国共産党の人権思想は「自給自足の権利と発展の権利を最優先する」とし、西洋の人権の概念は、思想、言論、結社、政治参加、宗教の自由を最上位に置く権利の階層を作ることで、19世紀のブルジョアの矛盾を引きずっている、と言う。人権に関する誤った西洋の概念が、金持ちを保護し、貧しい人々がまず生存し、貧困から逃れる必要がある、という事実を無視している、と主張している。

 そして、貧困撲滅と社会主義社会構築の闘いの障害となるもので、西側が基本的人権と見なしているものがあれば、それを否定する用意がある、とし、「貧困との闘いは、誰もが中国共産党の指導を支持する場合のみ、勝利できる」と言明している。これは、党の指導に背くような”人権”は、“括弧”にくくられたり、停止させられたりする可能性があることを意味している。

 習は、中国の人権についての概念の優れている例として、新型コロナウイルスの世界的大感染との戦いへの対応、を挙げている。最優先された”人権”は人民の生存権、ウイルスから守られる権利、命を落とさない権利だ。人権は、いわゆる”ゼロ・コロナ政策”によってのみ保証され、言論の自由、集会、抗議活動などを優先する場合、”ゼロ・コロナ政策”は完遂不可能だ。

 西側諸国は、中国よりも「人権の概念が劣っていた」ため、中国が制御できた新型コロナウイルスの感染が「制御不能」に陥ったと、習は主張する。逆説的だが、習は、「西側は今も、『普遍的な人権は国家主権より上位にある』と考え、我が国や他国の内政に干渉している」と結論付けている。実際、習は、「人権についての卓越した概念が新型コロナウイルス危機において、その長所を証明した」という考えを受け入れているのだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

 

2022年6月28日

・バチカンは、中国政府・共産党が拘禁中の司教たちの解放を”暫定合意”再延長の必要条件とするか(BW)

    拘禁中の司教たちの解放を中国との”暫定合意”を更新する前提条件にすることによってのみ、バチカンは中国における高位聖職者の受難を終わらせることができる。

 バチカンと中国の司教任命に関する暫定合意は、2020年10月に2年延長され、この10月に延長期限が切れる。 バチカンは再延長に合意するのだろうか? 中国の信徒たちは、「再更新が中国政府・共産党にとって最良の選択」であることを疑わないが、バチカンにとってもそうなのか?

Bishop Cui Tai. From Weibo.

 Bitter Winterの取材に答えたある信徒は、政府・党が管理・統制する「中国天主愛国協会」の”地上教会”と、同協会に属することを拒否する”地下教会”でなく、少なくとも”理論上”は一つのカトリック教会となっていることを、評価した。

 ”暫定合意”によって、「愛国協会の教会でミサにでることに、罪の意識を感じることが無くなった」というのだ。

 しかし、大多数の信徒は、”暫定合意”そのものに不満を持っている、あるいは”暫定合意”がもたらしている”結果”に失望しているのが実情だろう。中国で、政府・共産党の介入を受けずに世論調査を実施するのは不可能だが、信徒たちの行動を見ればわかる。

 ”地下教会”に通っていた人々の中に、”暫定合意”でバチカンが”地上教会”を認めることになったから、と愛国協会に所属する司教に従う信徒は、ほとんど見当たらない。”暫定合意”がもたらした混乱の中で、多くの信徒が”地上””地下”どちらの教会に行くのを止めた。

 Bitter Winterはまた、何十人もの司祭や信徒から話を聴いたが、彼らは教皇とバチカンへの敬意を持ちながら、”暫定合意”はバチカンのミスリードであり、中国政府・党を利するだけになっている、と判断している。

 そうした彼らが注目しているのは、”暫定合意”の再延長を狙う中国政府・共産党の、逮捕・拘禁中の”地下教会”の司教たちの扱いだ。その一人が、Bitter Winterがこれまでも取り上げている河南省新郷教区のヨゼフ・司教。昨年5月に逮捕されたが、その後の所在は不明のまま、1年が過ぎている。信頼できる筋によると、バチカンが彼の解放を求めたが、中国政府・共産党からは、何の対応も引き出せていない、という。

 中国の信徒の間で最も関心がもたれているのは、河北省宣化県の共同司教を務めていたアウグスティヌス崔泰司教(写真上)の扱いだ。 72歳の崔泰司教は、旧正月やその他の時期に数日間ずつ一時釈放されたが、それ以外は、2007年の逮捕・拘禁から15年も刑務所に入れられている。一時釈放の最長は 2020年1月から6月まで半年間だったが、再逮捕され、その後、どこに拘禁されれているのか不明のままだ。

 

Hong Kong’s Cardinal Zen (himself arrested in May, then released on bail) holding a sign calling for the liberation of Bishop Cui Tai. From Facebook.Hong Kong’s Cardinal Zen (himself arrested in May, then released on bail) holding a sign calling for the liberation of Bishop Cui Tai. From Facebook.

 崔泰司教は、バチカンによって任命されたが愛国協会への参加を拒否する、いわゆる”良心的兵役拒否者”の一人だ。

 政府・党から、「愛国協会に参加していなくても、バチカンと繋がっている」と信徒たちに語った、と非難されているが、彼が語っているのは事実。バチカンは以前から、「”良心的拒否”を奨励しないが、カトリック教徒としての誠意をもって拒否することは尊重すべきだ」という見解を公けにしている。

 崔泰司教は多くの信徒から支持されている聖職者であり、彼のが拘禁され続けていることは、バチカンにとって、計り知れない不祥事だ。信頼性の高い情報によると、司教は、愛国協会への参加強制を頑強に拒んでいるため、繰り返し拷問を受けている、という。

 崔泰司教が苦難にあり続けていることは、2018年の”暫定合意”に問題があることを証明している。多くの中国のカトリック信者は、張維柱・司教の解放に失敗したバチカンが今、崔泰司教の釈放も静かに求めている、と期待を込めて推測している。

 だが、「求める」だけでは十分でない。崔泰司教を含む”良心的兵役拒否司教”の釈放を、”暫定合意”再延長の前提条件とすべきだ。そうしなければ、司教たちは拘禁され続け、拷問を受け続けることになる。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2022年6月25日

・天安門事件から33年ー香港、カトリック教会ついに追悼ミサも自粛

(写真は2019年6月4日に香港のビクトリア・パークで開かれた天安門事件30周年を記念する追悼集会=shutterstock.com photo)

 

(2022.6.5 カトリック・あい)

 中国政府・共産党が民主化要求運動を武力弾圧した天安門事件から6月4日で33年を迎えたが、香港では、追悼しようとする住民を、一昨年に施行した国家安全維持法(国安法)をもとに排除しようとする当局は警官隊を動員して排除した。

現地メディアによると、多数の住民が連行され、国安法施行後も、昨年まで犠牲者追悼ミサを続けてきたカトリック香港教区の各教会もミサ自粛に追い込まれた。

 さらに、昨年も続いて来たカトリック教会の追悼ミサさえ行われなくなったことで、公の場で犠牲者を悼む「自由」は、中国本土はもとより香港でも完全に過去のものとなった。

 追悼ミサの企画者の1人だった香港カトリック学生連盟の指導司祭、マーチン・イップ神父はフランスの通信社AFPの取材に対して「”香港の法律”に違反したくない、というのが私たちの出した結論です」と説明した。

 追悼ミサ自粛を判断せざるを得なくなった背景には、国安法をもとにした当局の規制が激しさを加えていることがある。

 香港では、国安法施行まで毎年、6月4日に犠牲者追悼集会が、年によっては十数万人を集めて開かれていたが、一昨年に施行された国安法をもとに、集会を主催してきた民主派団体「香港市民支援愛国民主運動連合会」が解散させられ、昨年から集会は中止。

 指導者たちは「国家転覆を狙う外国勢力の代理人」として逮捕、起訴。関連のウエブサイトやソーシャルメディアのアカウントも閉鎖され、香港の六つの大学にあった天安門事件記念碑も撤去された。

 さらに、民主化運動の精神的支柱となって来たカトリック香港教区の元教区長の陳日君・枢機卿がこのほど当局に逮捕、起訴されたことも、追悼ミサ断念の大きな動機となったと思われる。

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 (AFP Photo)

 AFPによると、6つの大学に立てられていた記念碑のうち、香港大学(HKU)の「恥の柱」はデンマークの芸術家イェンスガルスキオによる高さ8メートルの彫刻だが、鉄橋された後、HKUが所有する田舎の土地に残されている、という。 嶺南大学では、芸術家の陳偉明による壁のレリーフが地下貯蔵室に収容され、 香港中文大学の「民主の女神」像は、秘密の「安全な場所」に置かれている、という。

 各大学の構内に像が置かれた場所は、小石の形をした椅子と鉢植えの花が置かれた新しい庭に変えられ、キャンパスから”天安門”の痕跡を消し去る作業はさらに進んでいる。今年の初め、HKUのキャンパスで塗装された「6月4日」のスローガンをセメントで塗り消され、市内の公共図書館では、天安門関係の書籍の貸し出しが規制されている。

 

2022年6月5日

・陳枢機卿、香港裁判所での予審の後のミサで「教会で”殉教”は普通のこと、信仰を貫くために覚悟を」

Catholic Cardinal Joseph Zen leaves after an appearance at a court in Hong Kong as he was charged in relation to their past fundraising for activists, Tuesday, May 24, 2022. (Credit: Kin Cheung/AP)

 5人の被告たち全員が容疑を否認、全面無罪を主張したが、23日は、まだ裁判の始まりであり、法廷闘争は長くなると予想されている。実質的な審理は9月19日から開始されるが、AsiaNewsによれば、彼らが国家の安全保障上の脅威ではない、と判断されれば、最高1750ドルの罰金刑にとどめられる可能性もある。

 23日の初公判には、イタリアやドイツ、フランス、スウェーデンの外交官が出席し、陳枢機卿の裁判と香港国家安全維持法の裁判所と当局による扱いに強い関心を示している。

 一方、イエズス会士のチャウ・シンチー司教率いるカトリック香港教区は、この日、声明を発表し、「裁判の動きを注意深く見守っていく」としたうえで、 「陳枢機卿はいつの私たちの祈りの中にある。すべての人に教会のために祈ることを勧める」と信徒たちに呼びかけた

 また陳枢機卿は、西九龍法院を出た後、西湾河の聖十字架教会でミサを奉げ、キリスト教徒の助け、聖母マリア、上海の佘山(シェシャン)の聖母の執り成しを願った。UCANewsによると、枢機卿は、直接、自らの逮捕などには言及を避けつつ、ミサそのものは、「中国政府・共産党の支配に抵抗する”地下教会”と政府・党公認の『中国天主愛国協会』に属する教会とに分裂している中国の教会」のために捧げられた。

 そしてミサの説教で、陳枢機卿は、中国国内の司教選任に関するバチカンと中国の暫定合意について改めて批判、「善意でなされたものではあるが、”賢明”ではない」と述べた。

 そしてこれと関連して、「”地上教会”と”地上教会”を一つにすることは極めて望ましいことですが、まだその機は熟していないように思われます」と語り、ミサに参加した約300人の信徒たちに、「自由を妨げられ、今日のミサに参加できない私たちの兄弟姉妹」のために祈るよう勧めた。

 さらに、枢機卿は、今後、香港の教会にはさらに困難な時期が来る可能性を暗示しつつ、「私たちの教会では『殉教』は普通のこと… 私たちにとって、そうする必要はないかも知れませんが、信仰への忠誠を貫くために苦痛に耐え、自分自身を堅固にする必要があるかもしれません」と、信仰を守る心構えを説いた。

 陳枢機卿は、バチカンと中国の暫定合意について、それが発表された2018年秋以来、「中国に関す無知の産物」だと、世界のカトリックの高位聖職者の中で最も厳しい批判を続けてきた。今も、「暫定合意は、中国当局が進めている教会や宗教団体の活動への規制、迫害を正当化するために、利用されており、とくに”地下教会”の司教、司祭、信徒はその標的にされている」と主張している。

 非難の矛先は、バチカンのこの問題の直接の責任者であるパロリン国務長官にも向けられていたが、枢機卿逮捕の後、国務長官は、逮捕は「暫定合意ー中国共産党幹部との関係を作る”小さな機会の窓”を危険にさらす可能性がある」と警告。さらに「強く希望するのは、すでに十分複雑で容易でない対話の歩みをさらに面倒なことにしないことだ」と述べている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年5月26日

・陳枢機卿逮捕で緊張するバチカン・中国関係-教皇のメッセージは(LaCroix)

( 2022.5.24 LaCroix  Loup Besmond de Senneville | Vatican City)

 4月下旬のある午後、ローマのティベル島にある聖バルトロメオ大聖堂で、明の時代に中国で宣教活動を行ったイエズス会士、マテオ・リッチの友人、明代の著名な学者でキリスト教徒の徐光啓に関する新刊の発表会が開かれ、ジャーナリストと外交官たちが集まった。関係者の間で多くの議論を呼んだのは、その集まりの最前列に座ったのが、駐イタリア・中国大使館の代表者だったことである。中国はバチカンと外交関係を持っていない。

 そして5月12日、 香港で、中国政府・共産党による直接、間接の民主勢力弾圧に強く抗議してきた陳日君・枢機卿が、当局に逮捕された。枢機卿は間もなく保釈されたものの、犯罪者として法廷に立たされる。このことは、バチカンで極めて深刻に受け止められ、関係者の間に衝撃波が走った。枢機卿逮捕は、カトリック教会に対してだけでなく、枢機卿本人に対するメッセージと受け取られた。

 バチカンと中国の話し合いは中断されている。そして、もう一つの難題がテーブルの上に載せられた。バチカンと中国は2018年秋に、中国国内の司教選任で暫定合意し、多くの教会関係者から批判を浴びつつ、2年後に更新したが、来年10月に延長期限が切れる。バチカンは再延長を望みつつ、合意の内容に変更を加えることを考えて言われるというが、中国政府は、新型コロナウイルス感染の再拡大を理由に、予定していた話し合いを先延ばしにしている。

 そして、バチカンのある関係者は「バチカン側には、30年の努力が失敗に終わるのではないか、という深刻な懸念がある」とし、中国問題に精通しているある外交官は「バチカンは、中国を失うことはできない」とバチカン関係者の心理を説明する。

*ベネディクト15世の1919年の使徒的書簡

 徐光啓に関する新刊発表会には、講演者の1人として、福音宣教省長官のアントニオ・タグル枢機卿が参加した。枢機卿の講演はもちろん徐光啓をテーマにしたものだったが、現在の中国指導者に対するメッセージを含めだものとなった。

 講演の中で彼は、ベネディクト15世が宣教活動を復活させるために1919年に出した使徒的書簡「Maximumillud」を引用して、「福音宣教活動は、”西欧教会”の延長として行われたのではなく、普遍的な教会の表現なのです」と述べ、さらに、「福音宣教」と「西欧の植民地主義の関心」は全く別問題だということを強調した。

 そして、1659年にバチカンが出した指針を取り上げて、「フランス、スペイン、イタリア、あるいは欧州の他の国を中国に”移植”するよりも馬鹿げたことがあるでしょうか?」と問いかけ、「他地域にもたらすべきは、そのようなことではありません。いかなる人たちの儀礼や慣習を否定したり、害したりせず、それを守り、固める『信仰」です」と訴えた。

 中国との関係は、バチカン外交にとって、現在も優先事項であり、教皇フランシスコが直接、指揮を執っている。

 22日の正午の祈りの際、教皇は、中国のカトリック教徒に対する霊的な寄り添いを改めて確認され、「中国の信徒と司牧者たちの、時として”複雑”な生活と出来事を関心をもって見守り、毎日、彼らのために祈っています」と話され、「中国の教会が自由と平穏のうちに、世界の普遍教会との具体的な一致を生き、福音を皆に告げるその使命を行い、社会の精神的・物的発展に前向きな寄与ができるように祈りましょう」と世界のすべての信徒に促された。

 慎重な言い回しで、北京の当局者たちに対して、ご自身が常に重大な関心を持っていることを、はっきりと伝えた言葉だった。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2022年5月26日

☩24日は中国の信徒が崇敬する「扶助者聖母マリア」の日ー教皇、彼らのために祈る

 「中国の信徒と司牧者たちの、時として”複雑”な生活と出来事を関心をもって見守り、祈っている」と教皇

(2022.5.22 バチカン放送)

 5月24日は教会暦で「扶助者聖母マリア」の日、中国では、上海の佘山(シェシャン)の巡礼聖堂をはじめ、中国の多くの教会や家々で「扶助者聖母マリア」が保護者として崇敬されている。

 教皇フランシスコは22日の正午の祈りの説教の後で、このことに言及され、中国のカトリック信徒、司牧者たちに霊的な寄り添いを表明された。

 中国の信徒たちが「キリスト信者の助け手なる聖母」に深い信心を持っていることを思い起こされた教皇は、彼らへの霊的な寄り添いを改めて確認され、「中国の信徒と司牧者たちの、時として”複雑”な生活と出来事を関心をもって見守り、毎日、彼らのために祈っています」と話された。

 そして、「中国の教会が自由と平穏のうちに、世界の普遍教会との具体的な一致を生き、福音を皆に告げるその使命を行い、社会の精神的・物的発展に前向きな寄与ができるように祈りましょう」と世界のすべての信徒に促された。

(編集「カトリック・あい」)

2022年5月24日

・「香港は”警察国家”。24日を香港と中国で苦しむ人々のための祈りの日に」アジア司教協議会連盟会長が提唱(Crux)

(2022.5.16 Crux contributor  Nirmala Carvalho

 アジアのカトリック教会のリーダーの1人であるアジア司教協議会連盟会長のチャールズ・ボ枢機卿が14日、香港の陳日君・枢機卿が当局に逮捕されたことについて声明を発表。香港における人権の状況と宗教の自由について、重大な懸念を表明した。陳枢機卿逮捕に対して、バチカンの公式声明は、「懸念をもって、事態の進展と見守っている」とするにとどまっており、ボ枢機卿の声明はそれよりも、強い意見表明だ。

 枢機卿は声明で、「私が兄として敬愛する陳枢機卿が、裁判にかけられた香港の民主活動家を支援する基金の理事を務めいたという理由だけで逮捕され、起訴された。法の支配が存在する国では、裁判にかけられている人々の法定費用支払いを援助することは、適切であり、認められた権利である。被告人が法的弁護を受け、代理人を置くことを助けのが、どうして犯罪になるのだろうか」と今回の逮捕に強い疑問を示した。

 そして、世界のカトリック教徒を含むすべてのキリスト教徒に、香港のために祈るよう呼びかけるとともに、すべての国、国際機関が香港の人権状況の監視を続け、自由と正義が回復されるよう、香港政庁とその背後にある中国政府に働きかけることを求めた。

 枢機卿は「香港はかつてアジアで最も自由で最も開かれた都市の1つだった。それが今、警察国家に変えられてしまった… 言論の自由、報道の自由、集会と結社の自由、学問の自由はすべて奪われた。世界人権宣言の第18条に定められた信教の自由、および香港が締約国である国際規約で保障された市民的および政治的権利が脅かされている兆候がある」と批判した。

 一方、陳枢機卿が属する香港教区は先に発表した声明で「状態と安全について非常に懸念している」とし、「私たちは常に法の支配を支持してきた。今後も基本法の下で香港の宗教の自由を享受し続けると信じている」と抑制気味の表現にとどまっている。

 基本法は香港の事実上の憲法であり、1997年に英国から中国に返還された後に制定され、英国の統治下で享受されていた市民の自由を引き続き保証するとしていたが、香港政庁とその背後にある中国は、特に最近の3年間、その約束を反故にし、市民の自由と権利を守る運動への弾圧を強めて来た。

 ボ枢機卿は声明で、このような香港の状況が宗教指導者たちの”自己検閲”の拡大に繋がっている、とし、親”北京”メディアの「教会に対する攻撃的プロパガンダ」がそれを促進している、と非難。「宗教の自由を含む自由の灯台だった香港が、暗く、抑圧的な道を転がり落ちていくのを目の当たりにするのは、とても悲しい。中国政府が国際条約である米中共同声明でなされた約束を繰り返し、露骨に破るのを見るのは、ぞっとする思いです」と語った。

 ボーは、教会が5月24日に、中国の教会のための世界の祈りの日であり、中国ではこの日が「佘山の聖母の日」に当たることを指摘、「昨年、私はこれを毎年、祈りの週とするよう呼びかけました。世界中のカトリック教徒のグループが私の呼びかけを受け、中国のための世界的な祈りの週を設けてくれたことを心強く思っています」と述べた。

 そして、「今年、私は世界中のあらゆるキリスト教徒に対して、この祈りの州の間、特に香港のために、そして中国の教会、さらにウイグル人たち、チベット人たち、その他、中国で迫害に遭っている人たちのために、祈ってくださるよう、そして24日には、何よりも陳枢機卿のためにお祈りくださるよう、切にお願いします。聖母マリアが私たちを助けてくださいますように。可能であれば、教会はこの日のミサをこのために捧げてくださるようにお願いします」と参加を求めた。

 声明の最後で枢機卿は「香港の人々にとって自由に発言することが,いっそう難しくなっています。香港以外の地域に住み、声を上げることのできる方々は、彼らに代わって発言の自由を使い、彼らとの連帯を示すために祈り、行動することが求められています。いつの日か香港に自由が回復されることを願って」と訴えた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年5月17日

・陳枢機卿逮捕にバチカン国務長官は抗議せず、中国との”暫定合意”優先の姿勢

Cardinal Parolin at the Gregorian UniversityCardinal Parolin at the Gregorian University 

(2022.5.14 カトリック・あい)

    Vatican News  が13日付けで伝えたところによると、バチカンのパロリン国務長官は13日、香港の陳枢機卿が当局によって逮捕された事件について、記者団にコメントし、「とても悲しんでいる」とする一方、「彼は釈放され、拘留中の待遇もよかったこと」にほっとしていると述べた。

 だが、このような当局の民主化運動や宗教活動に関わった長老的存在への脅しとも言える権力行使に対する抗議や批判はなく、Vatican Newsによれば、今回の枢機卿逮捕は、バチカンと中国政府の間に結ばれた中国国内での司教任命に関する”暫定合意”を「否定するもの、と受け止めてはならない」とするにとどまった。

 また、「最もはっきりした希望は、このような動きがバチカンと中国国内の教会との間の複雑で単純にはいかない対話をさらに複雑にしないように、ということです」と強調するなど”暫定合意”の維持を優先する姿勢を示している。

2022年5月14日

・河南省新郷教区の司教、バチカンの”介入”にもかかわらず拘留とかれず(Bitter Winter)

張維柱・司教 (Weibo)

 中国河南省の新郷県にあるカトリックの神学校が100人以上の公安職員に襲撃され、張維柱・司教と司祭10人、神学生10人が逮捕されて5月21日で一年がたつが、張司教は未だに拘留されたままだ。

 バチカンは2018年に、中国国内の司教任命について、事実上中国政府・共産党の”主権”を認める”暫定合意”を結び、現在も延長されているが、その際、バチカン

Another image of Bishop Joseph Zhang Weizhu. From Weibo.

は中国国内の司教、司祭、信徒に、中国政府・共産党の管理・統制に服する「中国天主愛国協会」への参加を拒む自由を認めるとの見解を示していた。

 これをもとに、バチカンは中国政府に対して釈放を求めたと言われるが、中国側は、司教は政府・共産党の管理下に入ることを拒むという”重罪”を犯

しており、釈放の要請に応じるわけにはいかない、と拒否したという。

 司教は逮捕当時、癌の手術を受けたばかりで、術後の手当てもされないまま拘留され、安否が気遣われている。

 なお、他の逮捕者は全員が釈放されたものの、10人の司祭は”教育センター”に送られ、10人の神学生は神学校に戻されたが、厳重な監視下に置かれている、という。

(翻訳・編集「カトリック・あい」)

 

 

2022年5月12日

・香港の公安当局が陳日君枢機卿を逮捕・起訴、バチカンが強い懸念表明

Cardinal Joseph Zen, Bishop Emeritus of Hong KongCardinal Joseph Zen, Bishop Emeritus of Hong Kong 

 香港では8日に、行政長官選挙が行われ、唯一の立候補者で中国の習政権の支持を受けた警察出身の李家超氏が圧倒的多数が当選した。李氏は、香港当局の人権、表現の自由の弾圧に抗議する市民たちの動きを厳しく抑え込む先頭に立って来た人物。

 習主席の後ろ盾を受けた強硬派の香港行政トップへの就任で、さらに統制が強まるとの懸念が内外で強まり、9日には、日米英独など主要7か国(G7)外相とEU上級代表が、今回の香港行政長官の選出プロセスについて「政治的多元性及び基本的自由に対する継続的な攻撃の一環として、我々の重大な懸念」と表明したばかり。

 そうした中での、人権・信教の自由を守る先頭に立つ陳枢機卿の逮捕は、そうした懸念をものともしない姿勢の露骨な表明以外の何ものでもない。バチカンの報道官は、この事態を憂慮するとともに、重大な関心をもって当局の動きを注視している、としているが、中国の習主席による宗教活動への規制が強まる中でなお、中国国内での司教任命に関する「暫定協定」を続けているバチカンが今後、どのような対応をするか注目される。

 陳枢機卿は、1932年1月に中国・上海市で生まれ。12歳でサレジオ会の修道院に入った。1949年中国共産党が政権を取った後、中国本土における修道会の神学校が閉鎖されたため、香港の華南大修道院に移ったあと、イタリアトリノのサレジオ大学に留学し、1961年司祭叙階1976年から1978年まで、マカオのサレジオ中学校で校長、1986年から1989年まで香港仔工業学校の院長を務めた後、1996年カトリック香港教区の協働司教、2002年に香港司教、2006年に教皇ベネディクト16世により枢機卿に任命された。香港司教としてのポストは、司教定年の2年後、2009年に辞任している。

 香港の民主化運動を弾圧する当局の動きには、2005年の香港の中国への返還時から一貫して反対の立場を取り、弾圧される人々を守る立場を続けてきた。また、バチカンが中国政府・共産党と融和の姿勢に傾く中で、中国国内で共産党の宗教規制を容認するのに利用されることを懸念し、とくに教皇の身に忠誠を誓い、中国政府・共産党の管理下に入ることを拒む”地下教会”の司教、司祭、信徒を守る必要を、バチカン、教皇に繰り返し訴えてきた。

そして、2018年9月に、バチカンが中国政府との間で、長年対立していた司教の任命権について「暫定合意」した際には、「バチカンは中国の信者を売り渡した。絶望している」と批判。同合意に基づいて教皇フランシスコが、中国政府任命の7人の司教を承認したのに対して「(教皇は)中国の体制を理解していない」「この合意は中国における『真の教会』の消滅につながる」「私が風刺漫画家なら、教皇がひざまずき、中国の習近平・国家主席に天国の鍵を差し出して、『どうか私を教皇として認めてください』と言っている絵を描くだろう」など、厳しく批判した。その後も、批判の姿勢を変えず、バチカンの対応の警鐘を鳴らしている。

(以下の部分は、11日付けVatican Newsによる)

 2002年から2009年まで香港教区の司教を務めた陳日君枢機卿が11日夜、香港当局の「中国の国家安全保障を監視するため」の部署によって逮捕された。湾仔警察署の外で撮影した陳枢機卿の写真を投稿した地元記者がソーシャルメディアで流した報告によると、枢機卿は保釈され、警察署を出た際、コメントなしで車に乗り込んだ、という。

 「612人道支援基金」は、市民の人権を守る運動で逮捕、虐待を受けている人々への訴訟費用や医療費などを財政支援する団体で、2019年に設立され、昨年10月に解散。陳枢機卿が同基金の評議員の1人だったことをもって、「外国軍との共謀」の罪を犯したとされたようだ。

 陳枢機卿逮捕について、バチカンのマッテオ・ブルーニ報道官は、記者団の質問に対して、「聖座は枢機卿の逮捕のニュースを重大な懸念をもって聞き、状況の進展を細心の注意を払ってみている」と述べた。

 11日には、当局が同様の罪で、枢機卿の他、元野党議員で世界的にも知られる人権派弁護士 Margaret Ngを含む基金の主要メンバー3人も逮捕した。

 香港の地元メディアは今回の4人の逮捕について、当局は、中国政府・共産党が2020年5月に香港で試行した「国家安全法」に基づき、612人道支援基金による「外国勢力」との「共謀」の容疑に焦点を当てている、と報道した。これは、香港での民主化運動を抑圧することを目的とした同法に基づいて犯罪とされた「破壊」「分離」「テロ」と並ぶもので、最高刑はは終身刑だ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2022年5月12日