・教皇、中国との”緊張緩和”政策を推進‐新司教任命、新教区開設‐人権問題高まりの中で(Crux)

(2024.1.30 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen) ローマ発 – この一週間、中国のカトリック教会にとって、毛沢東の共産主義革命以来初めての新司教の任命や本土での新設など、いくつかの重要な進展があった。だが、教皇の対中国の新たな動きは、中国における宗教的少数派に対する扱いなど人権問題に関する世界的な議論が再び高まっている時期に発表された、という問題もある。

 1月29日、バチカンは「”主の羊の群れ”の司牧を促進し、霊的善により効果的に取り組む」ことを目的として、中国・山東省の宜都県(Yiduxian)使徒座知牧区を廃止し、濰坊(Weifang)教区を設立することを発表した。

With new bishop, diocese, Pope extends policy of detente with China

 バチカンの声明によると、この決定は2023年4月20日に行われ、同時にSun Wenjun司教(53)が教区長に任命された。司教叙階式は1月29日、宜都県使徒座知牧区の旧本部である青州市の王基督大聖堂で、中国政府・共産党公認の中国天主教愛国協会(CCPA)の名誉会長、 Fang Xingyao司教の司式で行われた。
 宜都県使徒座知牧区は、 1931年6月に教皇ピウス11世によって設立され、フランスのフランシスコ会宣教師に委託された中国政府・共産党が1988年に教皇の同意なしに任命し5人の司教のうちの1人、孫志斌師が2008年に亡くなって以来、司教ポストが空位となっていた。
  宜都県使徒座知牧区の廃止の代わりに濰坊教区を設立したことを新設と見なせば、1949年の共産主義革命以来、中国におけるバチカンによる初めての正式な新しい教区の創設となる。
  AsiaNews によると、濰坊教区の新しい布教地域は既存の都市区画に基づいて中国当局によって決定され、ローマ教皇庁によって承認された。また、中国のカトリック教会は1949年に中国共産党が政権を握った時点で、マカオ、香港、包頭(モンゴル自治区)など20の大司教区と96の教区、29の使徒座知牧区、ハルビンと湖北の2つの教会行政区から構成されていた。現在は、  中国当局によると、マカオと香港を除いて104の教区がある。大司教区や使徒座知牧区は存在しない。
 濰坊教区の新設は、国家が認可した中国における教会の組織・制度にも準拠しており、この教区新設発表の4日前に、バチカンはWang Yuesheng司教の叙階を発表し、2023年12月16日に教皇フランシスコによって河南省鄭州司教に任命された。中国における新司教叙階は、2年ぶり。またバチカンと中国政府の司教任命に関する暫定合意が2022年に2回目の延長がされて以来、初めてとなり、同合意に沿ったものとされている。
 暫定合意は2018年に結ばれたが、合意の詳細はいまだに明らかにされておらず、中国における”地下教会”への弾圧など信教の自由を含む人権無視を容認するものとして、欧米の関係者から批判されてきた。
  また暫定合意後も 中国政府・共産党は、バチカンと中国が共同で司教を任命、承認するという合意を無視し、バチカンの同意を得ずに一方的に司教の異動人事を行っている。2022年11月の彭卫照(Pen Weizhao)司教の江西教区への異動や、2023年4月の沈斌(Shen Bin)司教の上海教区への異動などだ。合意に従って行われた最も最近の司教任命は2年以上前で、崔清啓( Cui Qingqi)師が2021年9月に武漢司教に任命された時だった。
 注目すべきは、2023年4月20日の濰坊教区の設立は、2023年4月4日の中国による沈斌司教の上海教区への一方的な異動と、その後の2023年7月の教皇による異動承認との間の中間期間に行われたことだ。

 教皇は2013年に着座して以来、中国当局との架け橋を築くために多大な努力を払っており、昨年2023年は関係強化を目的としたいくつかの重要な行動をとった。

 中国側が一方的に行った 沈斌司教の上海教区長への異動を最終的には承認し、教皇は昨年9月にモンゴルを訪問した際、「気高い中国人民」に特別なエールを送り、同月下旬には香港のStephen Chow司教に赤い帽子を与えた。 教皇と同じイエズス会士であるは「香港教区の自分の仕事はバチカンと中国の”架け橋”となること」と繰り返し述べ、中国当局らからは「友好的人物」とみなされている。

  Chow司教は昨年4月に北京を訪問し、返礼として、11月に北京の李山・司教を香港に招いた。 中国政府・共産党承認の司教2人が、10月に開かれたシノダリティ(共働性)に関する世界代表司教会議(シノドス)第1会期に一定期間、出席し、今年10月の第2会期にも参加すると見られている。

 そうした中で、先週の新司教叙階式は、バチカン当局の長年の願望であった「中国との完全な和解」に向けたさらなる一歩を示している。 教皇が昨年、沈斌司教の上海への異動を受け入れた後、バチカンのピエトロ・パロリン国務長官はVatican Newsとのインタビューで、「北京に常駐の教皇代理が間もなく指名されるだろう」と述べていた。

  だが、教皇の対中国の新たな動きは、中国における宗教的少数派に対する扱いが再び世界的な議論の種となっている時期に発表された、という問題もある。

 1月23日、国連人権理事会はジュネーブで会合を開き、ウイグル人、チベット人、香港の民主派反体制派に対する扱いを巡り米国を含む西側民主主義国から批判されている中国の現状について話し合い、英国代表は、中国に対し、「ウイグル人とチベット人の迫害と恣意的拘束を停止し、監視、拷問、強制労働、性暴力を恐れることなく宗教や信仰、文化表現の真の自由を認める」よう要求した。

 同理事会はまた、中国政府が香港に課した国家安全維持法を廃止するよう勧告し、”外国勢力との共謀”の罪で逮捕、起訴され、2020年から投獄されたままの香港のメディア王、カトリックの民主活動家のジミー・ライ氏の釈放を求めた。

  米国も同様に、中国は「恣意的に拘束されたすべての人物を釈放」し、「チベットと新疆の寄宿学校を含む強制同化政策」を中止すべきだ、と主張した。

  これらの勧告は、193の加盟国が5年ごとに互いの人権記録を審査する国連人権理事会による定期審査の一環として行われた。 2018年の中国による前回の見直し以来、香港では大規模な民主化運動が起きたが、鎮圧され、国家安全維持法で徹底的な取り締まりが行われており、新疆ウイグル自治区の状況についても国際的な監視の目が一段と強まっている。

 だが、 中国側は、陳徐・国連大使が1月23日、人権委の報告は「誤解や誤った情報」に基づいていると述べるなど、これを否定、無視する立場を続けている。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年1月31日