【シノドス総会】ルッフィーニ・バチカン広報省長官が記者団に対し、「深く耳を傾ける」ことを強調

(2023.10.5 Vatican News By Salvatore Cernuzio and Deborah Castellano Lubov )

 シノドス総会で情報委員長を務めるパオロ・ルッフィーニ・バチカン広報省長官が5日、記者会見し、今総会の作業部会(Circuli Mineres)の進め方などについて説明した。

 説明によると、作業部会は35に分かれて5日から始められ、参加者は自己紹介から始め、シンノダリティ(共働性)に関する自分の経験を語り、他の参加者の意見から印象に残ったことを振り返るなど、互いをよりよく知る機会をもった。
そして、教皇フランシスコが4日の第一回全体会議の冒頭で語られたように、作業部会を含む会議における参加者は、聞くことを優先し、話すこと(特に公の場)を抑制し、互いを知り合い、 洞察力と機密保持に心がける必要がある、と指摘。

 静かで敬意を持って耳を傾ける今総会の4週間は、「他の面でも世界を助けることができる。戦争や気候危機を止め、お互いの意見に耳を傾けることができます」と述べ、総会を取材、報道するジャーナリストたちにも、教皇が語られたように、「深く耳を傾けることの価値を認識」しつつ仕事をするよう求めた。そして、「ニュース」とはまさにそのようなものであり、聖書に見られるように、「時間の停止」、つまり耳を傾け識別することを可能にする「沈黙」である、とし、「教会のような偉大な組織が、信仰、聖体拝領、祈りにおいて黙祷を捧げるやり方はニュースです」と述べた。

 また35の作業部会の運営などについて、長官は、総会参加者がそれぞれ使用言語ごとに集まり、現在考察の中心となっているのは、総会準備文書のセクションAにある「シノドスの特徴的なしるし」と「聖霊との対話」に関してで、教皇自身が総会冒頭のあいさつなどで言及された、よりデリケートな問題は、初日の議論にはまだなっていない、と説明。

 5日のそれぞれの作業部会では、参加者それぞれが割り当てられた 4 分間で、まず自己紹介をし、次に、シノドスの道の第一段階で自分たちの教会の歩みがどのように始まり、どのように進んだのか、その途上で出会った困難、地方教会と普遍教会との関係などを報告。そのあと、それぞれの教会のさまざまな経験や事例を出し合い、話し合った後、全体会議に報告するために「報告者」が選ばれた。多数決で選ばれた報告者は、報告の草案をまとめ、同意を得て全体会議に報告する。

 全体会議では、報告者以外の参加者の発言することができ、作業部会の話し合いは「自由で、穏やかな分かち合いの雰囲気」の中で進められ、 誰もが深い「スピリチュアルな体験」をしている、と長官は強調。また「これまで経験しきたのは、何よりも『交わり』。この参加者やあの参加者が何を言うか、が重要ではなく、教会がその交わりの精神に基づいて何を決定するかが重要です。これは複雑なプロセスですが、誰もが自分の視点を持てるようになります」と説明した。

 また、取材記者団に対して、「ジャーナリストとして、何かの結末を想像しようとするのは当然でしょう。それはサッカーの試合でも政治家の選挙でも変わりません。しかし総会はまだ始まったばかりなので、結末がどうなるかについては答えられません」と述べ、教皇フランシスコがこれまで繰り返し語ってこられたように、「シノドス総会はプロセス」であり、「2024年10月まで続く、シノドスに関する今回のシノドス総会ではなおさらです。あせらず、一歩一歩進んでいきましょう。今総会は”途中”の会議であり、第一期の今総会で、来年の総会第二期の結末がどうなるかを予見することはできません」と理解と協力を求めた。

 関連して長官は、今月末に策定される総会第一期の報告書には「合意点と相違点」が含まれるが、「それは、『到達点』ではなく『私たちが進む道』を示すものになります。したがって、これは過去のシノドス総会が出していた「最終文書」ではなく、「討議要綱」に近いものになるでしょう」と強調。また、各作業部会は、「参加者の積極的な発言で、共通の認識を進めており、収束点と相違点、生じている緊張と未解決の疑問点、解決策の具体的な道筋に関する洞察と提案を、全体会議に提供することができるでしょう」 と説明し、最後に次のように記者会見を締めくくった。

 「総会の参加者たちは、そのようなことをするために参加しています。私たちがそのことを信じるか、総会に何の価値も見出さないか、のどちらかです。私たちは参加者それぞれの意見を問題にするわけではありません。イエスかノーか、ではなく、教会全体が耳を傾け、識別するのです」。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2023年10月6日

【シノドス総会】第1回全体会議:グレッグ事務局長とオロリッシュ議長が会議の心構えと総会の目標について説明

シノドス総会第1回全体会議 教皇フランシスコと、グレック枢機卿(中)、オロリッシュ枢機卿(左) 2023年10月4日 バチカン・パウロ6世ホール シノドス総会第1回全体会議 教皇フランシスコと、グレック枢機卿(中)、オロリッシュ枢機卿(左) 2023年10月4日 バチカン・パウロ6世ホール   (Vatican Media)

 世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会・第1会期は4日午前、教皇フランシスコが司式したバチカンの聖ペトロ広場での開会ミサの後、同日午後、パウロ6世ホールで第1回全体会議が行われた。

 会議では、教皇フランシスコのあいさつに続いて、導入の言葉に続き、シノドス事務局長のマリオ・グレック枢機卿のあいさつ、総会議長のジャン=クロード・オロリッシュ枢機卿による基調講話があった。

 グレック枢機卿はあいさつで、「岐路に立つ今日の教会は、神学的、教会学的な課題以上に、「すべての人々にとって、神の愛のしるし、道具となることに召されています」とし、「教会が神の愛のしるし、傷ついた人類をいやす薬となること」を願った。

 さらに、「教会とシノドスとは同義であり、シノドス的教会とは、『人々の声に耳を傾ける教会』であると同時に、今日、神がお望みになることを理解するために、伝統の光のもとに『御言葉に耳を傾ける教会』でなけらばなりません」と述べ、シノドスのプロセスは普遍教会と地方教会との間の相互の内在性に基づくものであり、使徒の時代のように「心も魂も一つ」になることを体験するために、教会内の多様な賜物とカリスマをもって、互いの傾聴という形で表されるもの、と話した。

 そして、「今回のシノドスで初めて、信徒・修道者・助祭・司祭たちが『会議のメンバー』という完全なタイトルを得て参加していること」を強調した。

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 続いて総会議長となったオロリッシュ枢機卿が基調講話を行い、「私たちが話す言葉が少しずつ変わっていくように、シノドスの表現法も時代とともに変わっていきますが、『カトリック性』という文法は変りません… 私たちはシノドスのあり方、表現を学ぶように招かれています」とし、「教会は、キリストを中心に置きながら歴史の中を歩む神の民… 主に眼差しが向けられている時、自分と異なる考えを持つ人に気を取られることはありません。重要なのは、所属しているグループではなく、キリストの教会の中を、キリストと共に歩むことです」と強調した。

 次に、今総会の進め方などについて①識別のための4つの考察プログラムと5つ目の討議で構成されること②祈りに多くの時間を割くこと、③分科会では「聖霊のもとに会話する方法」をとり、互いの違いを尊重しつつ、誰もが自分の考えを語ること、などを説明した。そして、今総会の最終的な目標は、「合意に達した点や、さらなる考察が必要と思われる点などを示す、来年の同シノドス総会・第2会期に向けたロードマップ作り」にあることを強調した。

(編集「カトリック・あい」)

2023年10月6日

【シノドス総会】「聖霊は調和と敬意を持った聴取に私たちを導く」教皇、第一回全体会合の冒頭あいさつで

Pope Francis at the first General Congregation of the General Assembly of the SynodPope Francis at the first General Congregation of the General Assembly of the Synod

(2023.10.4 Vatican News  By Deborah Castellano Lubov)

    教皇フランシスコは4日始まった「シノドダリティ(共働性)に関する第16回世界代表司教会議(シノドス)通常総会の第一回全体会合であいさつされ、「聖霊がシノドスの主人公であり、他の誰でもないこと」を強調、「すべての人の意見に敬意を持って耳を傾けながら、自由に自己を表現するように」と参加者たちに求められた。

 第16回司教シノドス通常総会は1年間隔で2回の会期に分けて開かれ、第1回目は2023年10月4日から29日までの今回、第2回目は2024年10月に開催される。 

 教皇はあいさつの初めに、第二バチカン公会議の精神を受けて世界の司教たちの共働性を促進するためにシノドスを始められた聖パウロ6世教皇の取り組みを思い起しつつ、総会参加者たちを歓迎し、彼らの働きに感謝の意を表された。

 そして、「教会には、常にこの対話を行う用意ができていたわけではないが、現在では世界の司教たちと神の民にとって、シノダリティ(共働性)について話すことがますます重要になっている」とされ、 「それは容易なことではありませんが、素晴らしい、とても素晴らしいことです」と強調。参加者たちに、シノドスの旅に出発する際に、a collection of Patristic textsを読むよう特別に勧められた。

 また教皇は、聖霊が「教会を前に導く」「教会生活の主人公」であり、「母性的」であることを参加者たちに思い起させ、「シノドスの主人公は私たちではなく、聖霊です… 聖霊が主導すれば良いシノドスであり、そうでないなら、良いシノドスではありません」とされ、「聖霊は私たちを手で導き、慰めてくださるのです」と説かれた。

 そのうえで、 教皇は参加者たちに、「調和」に向けて努力するよう呼びかけ、調和には必然的に「ニュアンス」の余地が残ることを指摘。「微妙なニュアンスがなければシノドスではありません」と注意された。

 続けて、「特殊性を教会に組み込む必要があります… そして、これは私たちではなく、聖霊によって行われねばなりません」と強調され、「シノドスは”議会”ではないし、教会の司牧のための会議でもない」と、シノドスに誤った性格付けがされないよう警告された。

 また、シノドスに関する報道について、メディアの貢献を評価しながらも、「時として注目を集めている問題に焦点を当てすぎる」ことを嘆かれ、「他者に耳を傾ける優先事項」に対する教会の関心を、メディアに伝える努力を求められた。そして、「誰もが自由に自分自身を表現する必要があります」とされ、その過程で、聖霊が彼らの信仰を確認してくれることを指摘された。

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  教皇の総会全体会合でのあいさつに先立つ、バチカンのパウロ6世ホールで行われた式典では、エジプト・アレクサンドリアのコプト教イブラヒム・アイザック・セドラク総主教が冒頭あいさつで、「主がいかに教会への愛を示し続け、これまで教会に愛を示し続けてこられたか」を強調し、シノドス総会にインスピレーションを与えた。

 セドラク総主教は、このシノドダリティに関するシノドス総会は「神の民、洗礼を受けた各人、それぞれが独自のカリスマ性を持ち、より生き生きとして、現実的で、具体的な会合」であり、 世界は「復活したキリストの証し、命と希望を私たちが待っています。ですから、キリストを中心とすることをこの会議の導きの糸としましょう。 キリストを、私たちの議論のアルファでありオメガに、私たちの議論を照らす光にし、私たちのすべての努力の”案内糸”にするように。 シノドス総会が主自身の目標を達成できるよう祈っています」と期待を述べられた。

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 教皇は4日朝、シノドス総会の開会にあたり、聖ペトロ広場でミサを主宰され、参加した枢機卿、司教はじめ信者たちに「信頼と喜びのうちに」聖霊とともに歩むよう呼びかけられた。

  また、教皇の名のもとになったアッシジの聖フランシスコの祝日であるこの日に、教皇は、2015年の画期的な環境回勅「Laoudato si:私たちの共通の家のケアについて」を受ける形でその第二部となる使徒的勧告 Laudate Deum」を発出され、現在の環境状況と私たちが何をなすべきかについて詳細に語られている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2023年10月5日

☩「信頼と喜びをもって、聖霊と共に歩もう」教皇、シノドス総会開会ミサで呼びかけ

Pope Francis presides at Holy Mass with the new Cardinals and the College of Cardinals for the opening of the General Ordinary Assembly of the Synod of BishopsPope Francis presides at Holy Mass with the new Cardinals and the College of Cardinals for the opening of the General Ordinary Assembly of the Synod of Bishops  (Vatican Media)

 さらに、「イエスは、拒絶に直面しているにもかかわらず、失望に囚われることなく、御父に目を向け、嵐の中でも落ち着きを保っておられます… そしてイエスは、私たちが神の働きを深く思いめぐらし、現在置かれている状況を識別できる教会となるよう、求めておられます」とされたうえで、 「分裂的で論争的な精神を持って今日の困難な課題と問題に顔を向けるのではなく、交わりである神に目を向け、畏敬と謙遜の心を持ってイエスを祝福し讃え、唯一の主としてイエスを認めるように」と語られ、 ベネディクト16世の言葉を引用しながら、シノドス総会が直面する「根本的な課題」は、「神が今の人々に語られた現実を、人々の救いとなるように、どうやって伝えるかにある」と指摘された。

 また教皇は、「イエスはその生涯を通じて、最も弱い者、苦しんでいる者、見捨てられた者たちに対して、父なる神の喜びを持って迎える眼差しを向けておられ、私たちを喜び迎える教会に誘い、恐れることなく互いに出会うことを可能にする心を持つよう、呼びかけておられます… シノドス(共働)的な対話の中で神の民として共に歩む素晴らしい『聖霊における旅』で、私たちは主との一致と友情を深め、現代の課題を主とともに見つめることが可能となります」と説かれた。

 教皇は説教の最後に、神の民に向けて、今日祝われている聖フランシスコの足跡をたどるように勧められ、イエスが聖フランシスコに「行って私の教会を修復しなさい」と呼びかけられたことを取り上げて、「今回のシノドス総会は、私たちに、母である教会がいつも浄化を一つ用としていることを思い起させるものとなります」と強調され、世界の信徒たちに、「謙虚さと一致、祈りと慈善、という福音の武器のみを取るように」と促された。そして、「シノドス総会は政治的な集会ではなく、聖霊において招集されたもの。二極化した議会ではなく、恵みと交わりの場です」とされ、 「聖霊は、私たちの予測や消極的な姿勢を超える新しいものを創造するために、しばしば私たちの予想を打ち砕きます… 総会の主人公である聖霊に心を開き、信頼と喜びをもって神と共に歩みましょう」と呼びかけられた。

 

**********(バチカン放送より)

 「共に歩む教会のため − 交わり、参加、そして宣教」をテーマとする「世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会」は、初めての試みとして、地方教会レベル、大陸レベル、世界レベルにおける、3ステージを持った、一つの大きな「歩み」として準備されてきた。

 2021年10月10日、バチカンでの開幕ミサをもって同シノドスの歩みが始まり、この後、2022年夏まで、第一ステージ、地方教会レベルでの、集い・傾聴・識別などの作業が行われた。次いで、2022年秋から2023年春にかけて、第2のステージである大陸レベルでの会議・考察・提案・総括などの歩みが続いた。

 そして、「共に歩む教会のため」というテーマのとおり、地方教会から始まり、大陸別の集いと作業を経て、教会内のあらゆる役割の多くの人々の参加・協力を交えながら入念に準備されてきた同シノドスは、ようやく最終ステージである、ローマでの世界代表司教会議・総会の第1会期(2023年10月4日〜10月29日)を迎えるに至った。総会の第1会期終了後は、2024年秋開催の第2会期に向け、同シノドスの歩みは続いていく。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2023年10月4日

☩教皇、枢機卿5人の”疑問”に返答-同性カップルの祝福は慎重な”Yes”、女性司祭は”No”(Crux)

(2023.10.2 Crux  Senior Correspondent   Elise Ann Allen)

教皇、枢機卿5人の”疑問”に返答-同性カップルの祝福は慎重な”Yes”、女性司祭は”No”(Crux)

(14行目)カトリックの啓示と教会の教導権に沿っ他者たものであるか、の問いに対して、教皇は

(16行目)『部分的かつ類似した方法』によるものと限定的に理解され

ローマ – 教皇フランシスコは2日、4日から始まる世界代表司教会議(シノドス)総会に関して、保守派の有力枢機卿5人が提起した批判的な問いについての回答内容を公表。その中で、女性司祭叙階について、なお研究する余地を残しつつ、それを禁じる現在の教会の方針をおおむね支持する一方、同性カップルに祝福を与えることにについては、結婚の秘跡を混同しないことを条件に、前向きな姿勢を示した。

 教皇は7月に、5人に対して回答していたが、公表は2日となった。5人の保守派枢機卿は9月29日に、教皇に宛てたdubia(疑念の文書)を公表していた。この文書は、女性の司祭叙階、同性愛者の祝福、拘束力のある教義を公布するシノドスの権限などについて、教皇の考え方を問うもので、7月10日に教皇に提出し、翌11日に回答を受け取ったが、dubiaに対する伝統的な答え方である「Yes」No」となっていなかったため、質問の表現を明確にしたうえで、改訂版を8月21日に提出した。だが、返答を得られなかったため、シノドス総会開幕直前に、公表に踏み切った、という。

 これに関して、バチカン教理省の長官に就任したばかりのビクトル・フェルナンデス新枢機卿から教皇宛てた9月25日付けの書簡が2日に公表され、その中には7月に提出された5人の枢機卿のdubiaに対する教皇の回答が含まれていた。

*同性カップルの祝福はケースバイケース—だが「結婚」はあくまで男女間の解消不可能な結びつき

 

 それによると、同性のunions(注:結合あるいは結婚などと訳される)を祝福する慣行がカトリックの啓示と教会の教導権に沿ったものか、の問いに対して、教皇は、「教会は結婚に関して、非常に明確な概念を持っています。それは、結婚とは、男性と女性の間の排他的で安定した解消不可能な結びつきであり、子供たちを授かることが自然のこととされています」とし、 「このunionだけが『結婚』と呼ばれる。unionの他の形は、『部分的かつ類似した方法』にによるものと限定的に理解され、それが、厳密には『結婚』と呼ぶことができない理由です… 結婚の秘跡は、単なる『理想』をはるかに超えたものであり、教会が、この確信に反し、結婚として認められないことを意味する可能性のある儀式や秘跡のあらゆる形を避けるわけは、そこにあります」と言明。

 そのうえで、同性愛の個々の人々に対して司牧上のケアで、深い思いやりを持つ必要があることを強調、同性によるunionに、ケースバイケースで祝福を与えることに前向きな姿勢を示し、 「人々と関わる際に、司牧的な慈愛を失ってはなりません。それは私たちの判断と振る舞いのすべてを通してです… 客観的な真実を守ることだけが慈愛の表現ではなく、親切、忍耐、理解、優しさ、励ましもそうです」とされ、「したがって、私たちは拒否し、否定し、排除するだけの”裁判官”になってはなりません」と答えている。

 そして、この理由から、「司牧的な思慮深さにおいて、結婚について誤った概念を伝えないような祝福の形が、さまざまな人々によって求められているかどうか、適切に見極めねばならない。それは、祝福を求めるとき、神からの助けを求め、より良く生きることができるようにと祈り、より良く生きるよう助けてくださる父への信頼を表明していることになるからです」とする一方で、「特定の状況では、司牧的慎重さが求められる可能性がある決定は、必ずしも規範による必要はない」とし、そうした趣旨の規範を作ることに否定的な考えを示した。

*ドイツ教会の”シノドスの道”-司教協議会がすべてをカバーすることはできない

 

 また、教会のこれまでの規範などを壊す動きとして物議を醸しているドイツ教会の”シノドスの道”の歩みに関連して、教皇は「教区、司教協議会、その他の教会組織にとって、あらゆる種類の問題に対して常に公式に手順や儀式を適用しようとすることは適切ではありません… 特定の状況に直面した際の実際的な識別に関するものは、いかなるものも、規範のレベルに引き上げることはできず、耐え難い不自然さを引き起こすことになるからです」とし、さらに、「教会法はすべてをカバーしてはならないし、すべてをカバーはできない。さまざまな文書や議定書を備えた司教協議会も、すべてをカバーできると主張することはできません。なぜなら、教会活動は規範的なものに加えて多くのルートを通ってなされるからです」と述べた。

 

*女性の司祭叙階—聖ヨハネ・パウロ二世の「不可能」との判断は支持するが、それは女性蔑視ではない、女性には教会で重要な役割

 女性の司祭叙階について、教皇は、第二バチカン公会議の「教会憲章」を引用し、「すべての信者の共通祭司職と司教及び司祭の職位的祭司職は、本質的に異なる」が、「信者の共通祭司職を、”第二分類”あるいは、価値の劣るもの(劣後したもの)のように考えることを意味する、程度の違いを支持するのは適切ではありません… 二つの祭司職は互いを照らし、支え合うものです」としたうえで、これまで通り、「女性を司祭叙階することが不可能なこと」を権威をもって確定した聖ヨハネ・パウロ二世教皇の判断を支持した。

 ただし、ヨハネ・パウロ二世は「決して女性を蔑視したり、男性に最高権限を権力を与えたりしたわけでありません… 尊厳や神聖さではなく、職務上のこととして、祭司の権限について語られたのです」と説明。 「彼の言葉の真意を、私たちは十分に受けとめていない… 司祭の務めを果たすことは、ある人が他の人よりも優れていることを示すものではないし、支配の一形態として理解されるべきではなく、『キリストの手足の神聖さ』を構成することなのです… もしこのようなことが理解されなければ、司祭としての役割が男性だけに与えられていることを受け入れるのが難しくなり、女性の権利や、女性たちが様々な形で、教会における主導的な役割を担う必要があることを認識できなくなるでしょう」と強調した。

 

 

*神の啓示は、文化の変化に応じて、より良く解釈されるべきもの

 

 また、文化の変化に応じて神の啓示を再解釈すべきかどうか、との問いには、「判断は、『再解釈する』という言葉にどのような意味をもたすか、によります。それが『より良く解釈される』という意味なら、その言葉は有効です」とし、 「神の啓示が不変で常に拘束力をもつのは事実ですが、教会は謙虚で、主から受けた計り知れない富を決して使い果たさず、啓示への理解を深めていく必要があることを認識する必要があります」と答えた。

 そして、教会自身と教導職についての教会の理解は、 時が経つとともに成熟し、「文化の変化や新たな歴史的課題は、啓示を変えるものではありませんが、常に、さらに多く与えられる豊かな富のいくつかの側面をより明確にするように、私たちを刺激する可能性があります」と語った。

 

 

「シノダリティ(共働性)」は教会活動に不可欠な要素

 

 また、「シノダリティ(共働性)が教会を構成する要素か、教会が生来、シノダリティであることを意味するのか、という問いには、教皇は、「教会は『福音宣教の使命を帯びた交わりの神秘』だが、この交わりは、情緒的、あるいは霊的なだけでなく、必然的に実際の参加を意味します… その階層構造と様々な生き方をする様々なレベルの神の民全体が、互いの声を聴き、教会の旅を担っていると感じることができる。 この意味で、形態として動きとして、教会活動に欠かすことのできない要素である、と言えます」と述べた。

 また、世界の人々の多様性を無視して、「一つの集団を喜ばせるような、シノダルな方法論を神聖化したり押し付けたりし、すべての人にとっての規範と義務とするような試みに陥らないように。それは世界中の教会の多様性を無視し、”シノドスの道”を”凍結”させるだけです」と警告した。

*「告解」は、罪の赦しを受ける権利の行使

 告解の秘跡が罪の赦しを受ける必要条件か否か、については、「赦しを受けるのは人の権利」という自身の持論から、「答えは”Yes”です」とし、 「告解は、秘跡による赦しの有効性のために必要であり、二度と罪を犯さないという意図を示すもの。ここには数学は存在しない。告解場は”税関”ではない、ということを改めて思い起こさねばなりません」と指摘した。

 さらに、「私たちは”主人”ではなく、信徒を養う秘跡の謙虚な”管理者”です。秘跡という主の賜物は、保存されるべき”遺物”ではなく、人々の生活にとっての聖霊の助けだからです… 自尊心が強い人々にとって、罪や悪行を認めることは残酷な拷問ですが、告白という行為は、回心と神の助けを求める象徴的な表現です」と述べた。

 続けて教皇は、「私が覚えておきたいと思うのは、司牧活動の中で無条件の神の愛に多くの場を作るのが、負担になることがある、ということです。しかし、私たちは学ばねばなりません… 信徒たちに、結果として抽象的になったり、自己愛に陥るような、余りに正確かつ確実な解答を求めてはなりません」とし、ヨハネ・パウロ二世が1996年に米国のウィリアム・バウム枢機卿に送った手紙を引用する形で「新たな秋(注:シノドス総会)についての予測能力さえも、決意の信頼性を損なうことはない」と締めくくった。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2023年10月3日

・シノドス総会直前、有力保守派枢機卿5人が教皇に対し、同性婚の祝福や女性司祭叙階、シノドスの権限などに”疑念”を提起(Crux)

Cardinal Raymond Leo Burke, left, talks with Cardinal Robert Sarah, right, as he arrives for the presentation of his book “Divine Love Made Flesh” in Rome on Wednesday, Oct. 14, 2015. (Credit: Andrew Medichini/AP.)

(2023.10.2 Crux  Senior Correspondent Elise Ann AllenFive conservative cardinals submit new dubia to Pope ahead of synod

ローマ発 –4日に始まる世界代表司教会議(シノドス)総会を前に、 カトリック教会の保守派を代表するとされる5人の枢機卿が、教皇フランシスコに対し、女性の司祭叙階と同性カップルの祝福、そして拘束力のある教義を公布するシノドスの権限についての新たなdubia(疑念)を提起した。

 新たなdubiaは、2016年に教皇が出した使徒的勧告「(家庭における)愛の喜び」フランシスコの文書「アモリス・レティシア」とそこで示された離婚・再婚したカトリック教徒に関する見解ついての少数の枢機卿によるdubiaに続くもの。通常はその内容は公開されないが、2016年に教皇に提出したdubiaに対して本人から返答がなかったため、新たな形で今回の提出となった、という。

  署名者は、ドイツのウォルター・ブランドミュラー枢機卿、米国のレイモンド・バーク枢機卿、メキシコのサンドバル・イニゲス枢機卿、ギニアのロバート・サラ枢機卿、元香港司教の陳日君・枢機卿の 5人。いずれも、4日に始まるシノドス総会の参加者に含まれていない。

 また、ブランドミュラー枢機卿(94)、バーク枢機卿(75)は、2016年のdubiaの署名者で、バーク枢機卿は最近、保守団体「伝統・家族・財産(TFP)」が発行する小冊子の序文で、今回のシノドス総会を「分裂的」と批判していた。

 新dubiaは「キリストの信者への通知」というタイトルで、「高位の聖職者のさまざまな発言… 教会の揺るぎない教義と規律に公然と反するもの、信徒や善意の人々の間に大きな混乱と誤謬をもたらし、今ももたらし続けていることに対して、教皇を支える責任を持ち続ける立場から、申し上げたい」と前置きしている。

 5人によると、新dubiaはは7月10日に教皇に提出し、翌11日に返答を受け取った。その時点では教皇の返答を公開しなかった。それは返答が自分たちに宛てられたもので、公開することを前提としていなかったからだが、教皇の書簡が、bubiaへの返答の「慣例に従ったものでなかった」ことから、「教会の揺るぎない教義と規律に基づいた明確な返答を引き出す」ために、質問の言葉を変えた改訂版を8月21日に再提出したが、「まだ返答は得られていない」という。

  新dubiaのオリジナル版は、文化の変化を踏まえた神の啓示の解釈に焦点を当て、 同性結婚の祝福。 「教会の構成要素」としてのシノダリティ(共働性)、 女性の司祭叙階。 そして、教皇が司牧者たちが「常にすべての信徒」の罪を赦す必要があると頻繁に主張していることを踏まえ、赦しを受けるために告解が必要か否か、などについて言及。

  改訂版では、教皇の返答に感謝したうえで、新dubiaを提出することを決めたのは、「現代の人々との対話や、彼らがキリストの福音についての問うことを恐れたたためではない」とし、 「私たちがdubiaを提出する動機となったのは、人々の心を変容させる福音の力に疑いをもち、健全な教義ではなく「自分自身の好みに合わせた教え」を信徒たちに語ってしまう司祭たちがいることへの懸念だ、と説明。

 さらに、「神の憐れみは、『私たちの罪を覆い隠すことではない、戒めを守ることによって神の愛に応えること、回心し福音を信じること、を可能にするという点で、それよりはるかに大きなものだ』と理解されることに懸念を持っている」と述べている。

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 だが、枢機卿たちが提起した疑念に対して、教皇の返答は、疑念を解消するものではなかったので、提起した5つの疑念に対して、YesかNoで応えてくれるように、次のように改訂版で表現を変えて、改めて求めた、としている。その内容は次のようなものだ。

 ①今日の教会が、ex cathedra(教皇が持つ権能のうち、最高のものとされるもの。またその行使による教理宣言。聖座宣言、または教皇座宣言)によってであれ、公会議の決定であれ、あるいは世界中の司教の普遍的な教導職であれ、信仰と道徳に関してこれまで教えてきたものに反する教義を教えることは可能でしょうか?

② 状況次第で、司祭が同性愛者の間のunions(注:結合、結婚、性交などと訳される)を祝福し、同性愛的な行為自体が神の律法や、彼らの神への旅に反しないとすることがあり得るでしょうか? この疑問に関連して、別の疑問を提起する必要があります-普遍的な通常の教導職によって支持されている教え、つまり結婚以外のあらゆる性的行為、特に同性愛的行為は、それがなされる状況や意図に関わらず、神の律法に反する客観的に重大な罪を構成する、という教えは有効であり続けていますか?

③ローマで開かれる今回のシノドス総会—選ばれた司祭たちと信徒たちの代表のみで構成される総会—は、発言するように求められている教義的ないしは司牧的な課題において、教皇に委ねられ、教皇と共にある司教団に属する教会の最高権威を執行するのでしょうか?

④将来において、教会は女性に司祭叙階を授与する権限をもつことになり、そうして、洗礼を受けた男性によるこの秘跡の占有は教会が変更することのできないthe Sacrament of Ordersの本質そのものである、ということが否定されるのでしょうか?

⑤告解した人が、犯した罪を認めながら、再び罪を犯さないとの意思表明をいかなる形にせよ拒んだ場合、正当な赦しの秘跡を受けることができるのでしょうか?

 新dubiaに署名した枢機卿5人は、この「キリストの信者への通知」で、最後に次のように述べている。

 「ここで提起した問題の重大さを、特にシノドス総会を目前に控えていることを考慮して、信者の皆さんに、その内容をお知らせすることが私たちの義務であると判断しました。皆さんが 混乱、誤り、落胆にさらされることがないように… 信者の方々は、普遍教会のために、そして特に教皇のために、福音がれまで以上に明確に教えられ、これまで以上に忠実に守られるように、祈らなねばなりません」。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2023年10月3日

☩「神が、シノドス総会に『耳を傾ける賜物』をお与えくださるように」エキュメニズムの祈りの集いで

(2023.9.30 Vatican News By Joseph Tulloch)Ecumenical Vigil in St Peter's Square

  10月4日からの世界代表司教会議(シノドス)総会を前にした9月30日、教皇フランシスコは聖ペトロ広場で、キリスト教各宗派代表はじめ数千人が参加するエキュメニズム(信教一致)の祈りの集いを主宰され、説教で、「真理を人々の心に届けるために、大声で叫ぶ必要はありません」と説かれた。

 教皇は、説教で、今日のキリスト教徒にとっての沈黙の3つの側面について言及。その一つ目として、「沈黙は、キリストの地上での存在の始まりと終わりにあります。御父の御言葉は、飼い葉桶の中でも、十字架の上でも、降誕の夜でも、受難の夜でも、『沈黙』になりました」 と指摘。

 「神は、『叫び声やうわさ話、騒音』よりも、沈黙を好まれるようです… 預言者エリヤの前に神が現れるとき、神は風や地震や火の中ではなく、『静かで小さな声』として現れます。 要するに、真実を人々の心に届けるのに、大声で叫ぶ必要はありません」とされ、「ですから、私たちも信者として主の声を聞くために、多くの”騒音”から自分自身を解放せねばなりません…  私たちの沈黙の中でのみ、主の言葉は響き渡るのです」と説かれた。

  二つ目の側面として、教皇は使徒言行録に書かれている「エルサレムで開かれた使徒会議でペトロが演説した後、『全会衆が静かになった』(15章12節)」ことに注目され、「 このことは私たちに、『教会共同体では沈黙が兄弟間のコミュニケーションを可能にする』ということを思い起させます。 私たちが沈黙して他の人の話を聞くときにのみ、聖霊は、様々な見方を一つにまとめることができるのです」と語られた。

 さらに、「沈黙は、神の民の中に響き渡る、言葉では言い表せないほど深い聖霊のため息に、注意深く耳を傾けることを通してによって、真の識別を可能にします」とされたうえで、「間もなく始まるシノドス総会の参加者たちに『耳を傾ける賜物』を与えてくださるよう、聖霊に願うように」と聖ペトロ広場に集まった信者たちに勧められた。

  そして、「沈黙」の三つ目の側面について、教皇は、「沈黙は、私たちキリスト教徒のエキュメニズムの旅路に欠かすことができないものです」とされ、 「それは、沈黙が祈りの基本であり、エキュメニズムは祈りから始まり、祈りなしでは不毛だからです…  私たちが祈りの中で、主に目を向ければむけるほど、『私たちを清め、違いを超えて私たちを一つに結び付けてくださるのは主だ』とますます感じるようになります」と強調された。

 教皇は説教の最後に、「沈黙すること、つまり御父の声、イエスの呼びかけ、聖霊のうめきに耳を傾けることを再び学ぶように」「シノドス総会が友愛のkairós(ギリシャ語で『絶好の機会』)となり、聖霊が『ゴシップ、イデオロギー、二極化』から教会を清めてくださる場所となるように」、そして、「東方の賢者たちのように、一致と沈黙のうちに、神が人を造られた神秘を崇敬し、キリストに近づけば近づくほど、私たちの間でさらに一致が進むことを確信する方法を、私たちも知ることができるように」と、シノドス総会参加者はじめ、すべての信者に。主に祈るよう願われた。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

2023年10月1日

・アメとムチの一環?-中国政府・共産党公認の司教二人がシノドス総会に参加(BW)

 姚舜司教(左)と楊永強司教(右)( 微博より)

(2023.9.25 BitterWinter

 10月4日に始まる世界代表司教会議(シノドス)第16回総会第一期に中国本土から政府・共産党公認の二人の司教-楊永強司教と姚順司教-が参加することになった。

 2018年の前回シノドス総会には2人の中国代表が出席したが、7月初旬にバチカンのシノドス事務局から今総会の参加者リストが発表された時には中国本土の司教は含まれていなかった。総会開始の直前になって最終リストに、山東省・周春の楊司教と内モンゴル・済寧の姚司教が載った。

 二人は忠実な「愛国的」司教だ。楊司教は1990年代、政府・共産党管理の中国天主愛国協会がバチカンから明確に分離されていた時代に、同協会の国立神学校の長を務めており、同協会の典礼委員会の主要メンバーだった。

 そして、2019年に、2018年のバチカン・中国暫定合意後に叙階された最初の司教となった。その時点で、楊司教は同協会の地方管区で指導的地位を占めていたが、2016年から副会長になっていた。

 両司教が選ばれたのは、おそらく中国共産党の許可によるものであり、バチカンに対していくぶん融和的な姿勢を示したものと見るべきだ。

 二人の司教任命は、2010年に教皇ベネディクト16世のもとでローマが極秘に承認されていた。楊司教は反体制派ではなかったが、先の教皇モンゴル訪問の際、訪問許可が出されなかった。 中国本土の司教が、7月発表のシノドス総会参加者リストに載せられず、直前の最終リストに載せられたのはなぜか。

 その答えは、中国共産党が、司教任命に関するバチカンとの暫定合意に違反して、バチカンの同意なしに、海門教区の司教だった沈斌司教を上海教区司教に任命したということにある。これに バチカンが抗議したため、7月の時点で、中国共産党はシノドス総会出席のために中国の司教がローマを訪問する許可を出さなかったのだろう。そして、教皇が沈司教の上海教区司教任命を”追認”した後に、中国共産党は考えを変え、バチカンが眉をひそめそうにない、あるいは、他の司教よりはそうでないと思われる2人の司教を選び、総会参加を認めた、ということだ。

 これは、お決まりの「アメとムチ」のゲームの一環である。 「アメ」を大切にする者は、「ムチ」が決して遠くないことを考慮すべきだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

 

2023年9月26日

・「まず祈り、神の言葉に耳を傾けよう」ーシノドス事務局長が各国司教宛の書簡(邦訳)

(2023.9.22 カトリック中央協議会ニュース)

2023年9月12日、バチカン 各国司教各位

 親愛なる兄弟である司教の皆さま、

 「2021 年 10 月に教皇フランシスコが全教会をシノドスに招集して以来、神の民は動き始めて」(『討議要綱』1項)おり、そして今わたしたちは、神の民の意見聴取から始まったこの歩みにおいて、新たな節目を迎えています。あと数日と迫った10月4日、教皇はシノドス第16回通常総会「共に歩む教会のために―交わり、参加、そして宣教」の第1会期を開会します。

 「祈りなくしてシノドスなし」(教皇フランシスコ「2022 年10月の祈りの意向」)。シノドスとは、何よりも祈り、耳を傾ける行事であり、シノドス総会の参加者だけでなく、洗礼を受けたすべての人とすべての部分教会を巻き込むものです。実際、この時、私たち全員が祈りの交わりのうちに一致し、主が今日の教会に何を求めておられるかを識別するために私たちを導いてくださるよう、聖霊に熱心に呼びかけるよう求められているのです。

 それゆえ私は、各自の部分教会において「一致の目に見える原理であり、基礎」(『教会憲章』23項)であり、ゆだねられた神の民のための祈りの第一の担い手である皆さんに手紙を書いています。それは、全教会から「熱心な祈り」(使徒言行録12章5節)が、教皇フランシスコとシノドス総会のすべての参加者のために、神に届けられるためです。

 皆さんがシノドスのために祈り、各自の部分教会のあらゆるキリスト教共同体、とりわけ観想修道会の一致した熱心な祈りを勧めてくださるようお願いします。祈りは、あらゆる司教にとって、団体性に基づく行為においてふさわしい参加の一形態であり、普遍教会のために心を向けていることの明らかなしるしなのです(司教省『アポストロールム・スチェソーレス』13項参照)。

 さまざまな祈りの形態は、教会のシノドス的生活の多次元的な表現にすぎません。何よりもまず、祈りとは耳を傾けることです。教皇はシノドスの旅の冒頭で、次のように語りました。「シノドスはわたしたちに、耳を傾ける教会になる機会を与えてくれます。立ち止まって耳を傾けるために、日常から抜け出し、司牧的関心を一旦ストップするのです。(教皇フランシスコ「内省の時」ローマ、2021年10月9日)。

 祈りの第一歩は、神の言葉に耳を傾け、霊に耳を傾けることです。洗礼を受けたすべての人による、シノドス総会の展開に対する第一の貢献は、霊の声が教会の識別にとって必要条件であるという確信のもとに、神の言葉と霊に耳を傾けることです。

 祈りの第2の形態(顔)は崇敬の祈りです。教皇は次のように述べています。「今日、私たちはどれほど崇敬の祈りを欠いていることでしょう。多くの人々が、習慣だけでなく、神を礼拝するということの意味そのものを見失ってしまっているのです」(同、ローマ、2021年10月9日)。

 ですから、耳を傾けたあとには、神がご自身の教会に語られていること、そして霊が今日の教会に呼び覚ましていることに、畏敬の念をもって、崇敬を表す沈黙が続くべきです。これまで歩んできたシノドスの道は、私たちを驚きと畏敬の念へと導き、私たちのまなざしを、あきらめの悲しみ(ルカ24・17参照)から、復活した方の現存を自分たちのただ中に発見した人々の喜びの使命(ルカ福音書24章33節参照)へと転換させるのです。

 祈りの第3の顔は執り成しの祈りです。私たちは執り成しの祈りの力を信じるべきです。それは神のみ旨を、自分の意志に寄せてくることではありません。むしろ、「執り成し」とは、主が命を与える霊の力で、私たちの心を照らしてくださることによって、私たちが主のみ旨を識別し、実行できるように願うことなのです。

 また「執り成す」ということは、責任を担うことでもあり、神の前で自らの参加と関与を宣言することでもあります。「執り成す」とは「私は関心があります、参加します、それは私のものです」と公言することです。シノドス総会のため、その参加者全員のため、そして何よりもまず、たびたび私たちに自らのために祈るよう願う教皇のために執り成すことは、参加の最高の形です。

 最後に、親愛なる兄弟の皆さん、祈りとは感謝であり、私たちのすべての働きとキリスト教共同体の生活のうちに、神のわざと恵みが先に存在するのだと理解すべきです。

 教皇は言われました。「感謝の祈りは、常にこのことを起点としています。つまり、恵みは、私たちに先立って与えられることに、気づくことから始まります。私たちは、考え方を学ぶ前から、考えられていました。愛し方を知る前から、愛されていました。自分たちが望む前から、望まれていました」(教皇フランシスコ「一般謁見講話」2020年12月30日)。感謝の祈りは私たちを、自分自身の中に閉じこもった状態から、神が教会の中で働き続けておられることをすべて発見できる、開かれた状態へと駆り立てる、真の「癒し」なのです。

 親愛なる兄弟の皆さん。耳を傾けること、崇敬、執り成し、感謝の祈りをもって、霊の力のうちに、洗礼を受けたすべての人に関わる行事であるシノドス総会に、教会共同体全体があずかることになります。 とりわけ10月1日、年間第26主日(A年)に、皆さんがシノドス総会のための祈りを強調し、ミサ中の説教、共同祈願、派遣の祝福の中で、シノドス総会のことを思い起こすよう、お願いします。そのために、共同祈願と派遣の祝福に使用することのできるテキストをいくつか添付します。

 シノドスの旅において、各自の部分教会を導いておられる皆さんの配慮に感謝し、また、私たち教会の旅において、交わりと喜びに満ちた希望の賜物を花開かせてくださる主に感謝しつつ、皆さんと、また全教会を代表する皆さんの奉仕職のために、心よりお祈りいたします。どうか、主の霊が私たちを照らし、その御旨の道へと、いつも導いてくださいますように。私たちを生かし(詩編119章50節参照)、その中に私たちが喜びを見出すのは、主の言葉だけだからです。

 シノドス事務局長 マリオ・グレック枢機卿

添付資料:
1.「派遣の祝福―年間第26主日」(典礼秘跡省による規範版)
2.派遣の祝福の各国語訳例
3.週日のための「執り成しの祈り」
4.主日のための「執り成しの祈り」―年間第25、26主日

シノドス第16回通常総会サイト:Without prayer there will be no Synod

(編集「かとりっく・あい」)

2023年9月23日

・シノドス総会に香港、台湾の司教に加え、中国本土から2人の司教が参加-シノドス事務局発表

(2023.9.23 カトリック・あい)

 10月4日から始まる「シノダリティ(共働性))をテーマにした世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会第1部に、中国本土からの2人の司教が参加することになった。

 バチカンのシノドス事務局が21日発表した今総会参加者の最終確定名簿によると、7月に発表された名簿に追加する形で、バチカンが直接任命した参加者として、中国山東省の・周村教区司教、同国内モンゴル自治区の姚順・済寧/武門教区司教が載った。7月の名簿に掲載済の香港の周守仁・大司教、台湾の浦英雄・嘉義教区司教とともに、今総会に参加する。中国本土の二人の司教は2018年に開かれた青少年司牧をテーマにしたシノドス総会にも参加していた。

 また、シノドス事務局は、今総会の日程概略についても発表した。それによると、総会は10月4日の聖ペトロ広場での開会ミサで始まり、29日の聖ペトロ大聖堂でのミサをもって閉会する予定。参加者たちの毎週の活動としては、日曜日を休日とするほか、半日巡礼、バチカン庭園でのロザリオの祈り、移民・難民に捧げるミサやその他の祈りなどが含まれる。閉会前日の28日には、投票権を持つメンバーが3週間半にわたる議事をまとめた文書への賛否を表明する予定だ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2023年9月23日

・「UT UNUM SINT(すべての人を一つに)」を最優先に-シノドス総会直前、有力枢機卿が語る

 Cardinal Christoph SchönbornCardinal Christoph Schönborn

問:「シノダリティ」をテーマとする今年、来年の2回にわたるにシノドス総会の1回目が間もなく始まります。一連の総会から、どのような成果が生まれることを期待しますか?

答: まず申し上げたいのは、 この総会では多くのことが起きる可能性がありますが、何が起きるか、私たちには分かりません。教皇フランシスコは、私たちを「耳を傾ける」「識別する」というかなりユニークな道に導かれました。  これらは常に行われなければならないことであり、教会の活動にとって基本的なことですが、教皇は識別力の問題、つまり「主は、私たちに何を示しておられるのか」という問題をより明確に強調されました。神は、私たち、そして今日の教会に、何を望んでおられるのでしょうか? 総会は、この識別の道を深め、学び、経験する試みです。

問:  数年前、ウィーンの教会で、教区シノドスが開かれましたね。そこで何が起こりましたか?

答: それは”シノドス”ではなかったので、少し説明が必要でしょう。「教区シノドス」には、教会法で定めた非常に正確な定義があります。 私には、それとは別の「教区集会」を考え、多くの信者の賛同を得て、実施したのです。5回開き、それぞれの教区、教育機関、修道会など、私たちの教区のあらゆる現場から 1400 人から1500 人の代表が参加しました。 その基本は、教皇フランシスコが何度か言及した、(新約聖書の)使徒言行録にある「使徒会議」のイメージです。私が教区の司祭、信徒たちに提案したのは、主と共に歩む旅で経験したこと、神が私たちの生活の場や小教区で何を気付かせたのか、秩序を持って互いに話し合うことでした。

問:  そのプロセスで最も印象に残ったことは何ですか?

答: 使徒言行録に示された方法論でした。 当時の生まれたばかりの教会共同体では、キリスト教徒になろうとする異教徒たちに問題がありました。洗礼を受けるべきか?洗礼を受けた場合、ユダヤ教の律法も守り続けねばならないのか?それともキリストへの信仰で十分なのか? この大問題を解決するために、彼らは自分たちの経験を振り返り、いくつかの識別をしました。まずペトロが話し、次にパウロとバルナバが話し、最後に集会全体が互いに耳を傾け、祈りました。そして 最終的に、「聖霊と私たちが決めたことは…」という結論を導き出しました。

  2015年に教皇フランシスコが、シノドス設立50周年記念の式典で、シノドスについてのご自身の講話の前に、私に話をするよう頼まれ、私は、使徒たちの原始キリスト教会の経験について語りました。この道、教皇が何度も繰り返しておられる、「語り、耳を傾け、識別する道」が、私たちが今、歩み続けている”シノドスの道”にふさわしいものだと考えています。

問:  ウイーン教区集会の結果はどうなりましたか?

答: 私たちが教区でやろうとしたことは、私たちの間の親睦を深め、司牧的な取り組みを促進することでした。何かを決めるための投票をせず、決議案も提出も文書も出しませんでした。自分たちの経験に照らして教会の活動についての課題を共有したのです。それが、5回行われた教区集会のやり方でした。聖職者による性的虐待の悲劇と、そらがもたらしている教会の信頼の危機という困難な時期に、非常に前向きな経験になりました。私たちは、強い信仰と交わりの経験を持っており、それが私たちが落胆することなく前進するのに役立ちました。

 

問:  今回の総会のテーマ「Synod on Synodality(シノダリティに関するシノドス)」は、多くの人たちの感性からかけ離れているように見え、やや専門的なタイトルのように思われますが

答: 1985年に開かれたシノドス第二回臨時総会に司教としてではなく、神学者として参加しました。テーマは「第2バチカン公会議の再確認」。第二バチカン公会議が閉幕して20年後に開かれたこの総会では、特定の具体的課題は設定されませんでしたが、「交わり」に関する議論が大半を占めました。教会の本質的な特徴としても「交わり」です。

 今回の、「シノダリティに関するシノドス」も同様のものだと思います。 シノダリティは非常に単純です。それは教会の交わりの在り方であり、統治の問題や決定、教会活動全般についても言えることです。 シノダリティに関するシノドスは、教会的交わりは、神の民全員による共なる旅は、どのように福音的なものとして生かされるのか、に関するシノドスです。

 1965年以降に開かれたシノドス総会のほとんどは、具体的な課題を持っていました。2014年から2015年にかけてのシノドスでは、悔い改めや家族などがテーマとなりました。今回の総会の「シノダリティ」というテーマは、第2バチカン公会議の貴重であった、交わりと交わりの在り方、シノダリティのさらなる一歩となることを目指しています。忘れてならないのは、シノダリティの旅は、現代だけでなく、歴史の中でもなされてきた、ということです。ですから、シノダリティは、信仰において私たちの先輩だった人たちの旅を思い起すことにもなるのです。

問:  教皇フランシスコは、シノドスは祈り、聖霊の声に耳を傾け、互いに耳を傾け合い、識別することで成り立つ、と強調しておられます。それは、多数、少数の論理に従う民主主義国の議会とは異なりますが。

答:  私たちは議会、本物の議会、議会制民主主義を有するすべての国に敬意を表します 少しだけ付け加えたいことがあります。当然ながら、議会は明示的に聖霊を呼び起こすわけではありません。世界の議会の中には、祈りの伝統をもつものが、まれではありますが、存在します。 私は、ベネディクト16世教皇の、イギリス議会で行った演説を思い出します。教皇は、「議会制民主主義においてさえ、何らかの形での識別が存在する、と指摘しました。イギリス議会における奴隷制度の廃止の決定は、この制度が人間の尊厳に反するという認識が議会での議論を通じて深まったことによるものだった、と語られたのです。確かに、シノドスは「議会」ではありませんが、そのことは、議会の機能が良くない、と言うことを意味しません。

 

問:  では、シノドスと議会の違いはどこにあるのでしょう?

答: 違いは、シノドスでは、教会の様々な活動について常に全会一致を目指していますが、それは、独裁政権や共産主義の国の議会のように誰もが同じ投票をせねばならない、という意味ではなく、「一致に向けた緊張」をもったものなのです。ほぼ満場一致に達するまで、真理の探求と善の探求を進める聖霊の声に耳を傾けることです。 これは私が知っている教区の評議会、さらにはシノドスでもやってきたこと。会議の運営規則で投票を差でめている場合は、決定のためには投票総数の 3 分の 2 の票を獲得しなければなりません。

 また、シノドス総会は、教皇の諮問機関。立法機関ではないことも忘れてはなりません。 それは、耳を傾けること、聖霊に皆で耳を傾けることが求められます。教皇フランシスコは、家族に関するシノドス総会と、今総会に準備のために、教区や国、大陸などの2段階または複数の段階での司祭、信徒の集まりを開くことを希望されていました。そして、そのまとめとなるシノドス総会も、今年と来年の2回開くことを望まれました。なぜなら、それが、全員一致への道であり、使徒たちの原始キリスト教会について、使徒言行録が書いているように「ut sin,  cor unum et anima una(信じた人々の群れは心も思いも一つ・・)」でなければならないからです。その調和が、聖霊のしるしなのです。

問:  「聖霊の声に耳を傾ける」とはどういうことでしょうか? 具体的にどういう意味ですか?

答: 教皇は私たちに、霊的な会話の仕方を教えてくださいました。 それは何で構成されているでしょうか?  「敬意を持って、相手を受け入れ」ながら、「互いの話に耳を傾け」、「識別力を働かせ」、神の御心が何かを知ることです。 数年前に開かれたアマゾン地域シノドスでは、教皇フランシスコが、このことを会議の運営に反映するよう提案されました。「識別力が欠けているように思えます。もっと識別力が必要です」と。

 決定に至るために必要な識別力を持っていることをどうやって知ることができるのでしょうか?  識別力を働かせることは、教皇の統治に必要な技巧ですが、シノドス総会の運営、総会参加者の調和を図るための技巧でもあります。私たちはこの「耳を傾ける」プロセスにおいて、教会としてのこれまでの経験を生かすことになるでしょう。当然ながら、総会で提起されるであろう問題や今日的な課題は数多く、議論や意見の交換に多くの時間を費やすことになるでしょうが、常に「聖霊に耳を傾ける」ことが必要です。

問:  確かに、今回の総会に至る”シノドスの道”のこれまでにない特徴は、現地の教会を巻き込み、地域社会や教会から離れていた人々さえも巻き込んで、幅広く参加させ、その意見に耳を傾けよう、という試みにありました。 このようなやり方は重要ですか? 重要だとしたら、その理由はどこにあるのでしょう?

答:「内部」ではない、離れていった人々の声に耳を傾けることは重要です。それによって、私たちがよりよく識別できるようになるからです。 そして当然ながら、信者の方々の声に耳を傾けることが必要。 信仰の問題で信者の声に耳を傾けることに関する聖ヨハネ・ヘンリー・ニューマンの有名な本を読んでみてください。 第一バチカン公会議の時に書かれたこの小さな本は、シノダリティを模索する私たちにとって、とても参考になります。

問:  「神の民の信仰に耳を傾ける」とは、具体的に何を意味しますか?

答: それは 「sensus fidei(信仰の感覚)」です。 もちろん、これは統計では明らかにされません。私たちが、信仰の感覚に耳を傾けることをしないなら、聖霊に耳を傾けていることにはなりません。なぜなら、神の民の「信仰の感覚真」の中に生き、認識されるものが十字架、神の民の信仰の核心だからです。

 私が若い神学生だった時、ブルトマンの思想と Entmythologisierung (脱神話化) の考えについて学びました。 それは従来のキリスト教の信仰に対する根本的な疑問を投げかけるものでした。 家に帰ってそのことを母に話すと、熱心に聴いてくれた彼女は、しばらくして、驚いたような目で私を見て、こう言いました。「でも、もちイエスが生ける神の子でなければ、私たちの信仰は空っぽになってしまう」と。

  母がいつも私に教えてくれたことは、神の民、素朴な人の信仰、神の民の信仰に耳を傾けることでした。 これが、教皇フランシスコが強調する「大衆の信心」「人々の信仰」であり、アマゾン地域シノドスの最終文書の中に見られる主張の要点です。(同じドイツ人で高名な進歩派神学者ハンス・キュンク師と危機的な関係にあった時、当時のラッツィンガー枢機卿(後のベネディクト16世教皇)が説教で次のように語ったことを思い出します-「神の民の信仰に耳を傾けるために謙虚に奉仕しない神学は役に立たない。 それは霊的な知識だが、信仰には役に立たない」。多くの信者だけでなく、教会から距離を置いていた人たちも巻き込む方法が識別のために重要だと思います。

 

 

問:  今回のシノドス総会のもう1つの特徴は、司教以外の人々の参加です。かなりの数の信徒、特に女性が含まれていますが、総会の進め方などは、従来のシノドス総会と比べてどこまで変わるのでしょう。総会の 結果はどうなるとお考えですか?

答: 過去 50 年間のシノドス総会には、専門家あるいは聞き役として男女の信徒が常に参加していました。 今回初めて、男女かなりの数の信徒が議決権を持つシノドスの正規のメンバーとして参加することになりました。それでも、私は、シノドスの本質的には変わっていないと思います。というのは、シノドスは確かに司教の会議であり、参加者の大多数を占めるのは、依然として司教です。会議の伝統は、何よりもまず、地域、国家などの司教が集まるものだからです。しかし、一般の信徒の正規のメンバーとしての参加は、互いに耳を傾ける習慣を向上させるために重要です。

 これまでかなりの数のシノドスに参加してきた経験から、男女の一般信徒や聖職者の専門家、聞き役としての参加が議論に大きな影響を与えたと言えますが、 今回はさらに一歩進んだ形で、司教たち以外の声を、議論に取り込みます。 今回のシノドス総会にも、引き続き専門家が参加し、カトリック以外の兄弟教会からも代表者が参加する予定です。 

 そこで私たちは、55 年以上前のパウロ 6 世教皇によるシノドスの始まりを思い起こす必要があります。シノドスは、「ペトロの後継者の周りに集まる普遍教会の司教の声」として考えられていました。 非常に重要な意味を持つ投票でシノドスの意見が決められることもありました。ですがこれは、最終的に、さらなる識別のために教皇に伝えられる神の民の期待の表現です。 今総会に導入された新たな参加の形は、第2バチカン公会議後のシノドスの意味を本質的に変えるものではありません。

問:  司教以外にも広範な信者が参加する今回のシノドス総会の準備文書には、これまで何十年にもわたって議論されてきた多くのトピックが取り入れられました。一般信徒や女性の教会活動への参加を増やすための具体的な改革や、道徳神学に関連するいくつかの問題を再考するための要求などが含まれています。今総会では、このような課題がどれほど重視されるのでしょう?

答: このご質問に私は答えることができません。確かに、これまでの”シノドスの道”の大陸レベルの会議や世界中のいくつかの司教会議で、教会活動への一般信徒の参加の問題が取り上げられています。 これはすでに第2バチカン公会議の中心テーマとなっていたものです。 一般信徒の参加は公会議の意向の中心にありました。ですが、学ぶべきこと、やるべきことはまだたくさんあります。

 (公会議を始められた)聖ヨハネ23世教皇は、「『教会活動における女性』のテーマは時代のしるしの一つであり、世界中で生じている大きな問題の一つであり、このテーマは確実に存在する」と述べておられました。しかし、私は、特に世俗化した西側世界でさかんに議論されている諸問題が教会全体にとって中心的な課題だ、という主張には、少々懐疑的です。

 例を挙げてみましょう。 アマゾン地域シノドスでは、既婚男性の司祭叙階を認めるようにとの強い主張が、特定のグループからなされました。(この地域の 信徒数に対して司祭があまりにも少ない、と言うのがこの主張の根拠とされいたが)司祭の召命が数多いコロンビア出身の司祭が1200人も、中南米以外、米国とカナダで活動している、というのを疑問に思う人もいます。どうして、彼らのうちの100人か200人でも、アマゾン地域の司牧に行かないのでしょうか? そうすれば司祭不足の問題も解決されるでしょう。 このように、もう少し識別力を働かせ、問題の複雑さをしっかりと理解しようとする姿勢が必要な場合のあるのです。そうした姿勢を確認する意味でも、私は今回のシノドス総会が有意義な機会を提供する、これらの問題についての認識を共有する機会となる、と確信しています。

問: 欧米では世俗化が進んでおり、かつては家族内で行われていた信仰の伝承が断たれているようです。 このような状況の中で、どうやって人々に福音を告げ知らせることができるのでしょうか?  今回のシノドス総会は、これにどのように役立つでしょうか?

答: あなたは、「信仰の伝達は家族の中で行われた」とおっしゃいました。家族内でそれがなされなくても、信仰を伝えることは不可能ではありませんが、難しい。その意味で、2014年から2015年にかけて開かれた、家族に関する二度のシノドス総会が非常に重要です。 信仰の伝達は、主の御業であり、絶えず行われている、と私は確信しています。私たちに 呼びかけるのも、招くのも主であり、人々の心の中で働かれ、イエスが言われたように、ご自分に引き寄せるのも主です。 イエスは世界中で働いておられますが、この呼びかけ、主の働きを理解するのを助ける人々も必要です。

 もちろん、世俗化は大きな問題ですが、私は、世俗化した社会について語られたベネディクト16世の言葉を思い起こします。チェコ共和国を訪問された時、こう言われたのです-「ここにも、聖霊が働かれるチャンスがあります」と。それは真実です。ですから、世俗化は、マイナスであるばかりではなく、前向きな面もあるのです。主は活動的です。これは福音です。生命の力、命を奮い立たせるもの。その意味で、私は確信しています。多くの批判が起きているにもかかわらず、教会の一致へ前進する一歩となることを。

 

*クリストフ・シェーンボルン枢機卿=オーストリアカトリック教会のリーダー。神学者。77歳。オーストリア司教協議会会長(在任:1998年 – )。ドミニコ会所属。現在のチェコの首都プラハ郊外、リトムニェジツェ生まれの77歳。両親はドイツ系の旧貴族の末裔で、父のシェーンボルン家は17世紀以降、数多くの司教、枢機卿、選帝侯といった高位聖職者を輩出してきた。画家だった父はナチス・ドイツ占領統治期には抵抗活動に身を投じ、第2次世界大戦後、チェコスロバキアがソ連の支配下に置かれドイツ系住民に対する迫害を始めたため、両親に連れられて生後9か月でオーストリアに亡命した。若いころから師弟関係にあった故ベネディクト16世教皇の側近の1人だった。行政能力、危機管理能力に長け、枢機卿団の中では保守派とされながら、漸進的な改革論者で、教会内の保守・革新両派から好意的に見られ、様々な問題について穏健で寛容な姿勢を取ることもあって、教皇候補として名前が挙がることが多い。(「カトリック・あい」)

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2023年9月20日

・シノドス総会に「教皇機密」適用?ー教皇フランシスコは、”村”を救うために”村”を壊す危険を冒すのか(Crux)

(2023.9.14  Crux  Editor  John L. Allen Jr.)

ローマ – カトリックの有力メディアLa Croix のLoup Besmond de Sennevilleローマ特派員が13日付けで報じたように、教皇フランシスコは明らかに、10月4日に始まる世界代表司教会議(シノドス)通常総会において、これまでの総会のように参加者の発言や投票を秘密にするにとどまらず、会議で議論されたすべての問題について「pontifical secrecy (教皇機密)」*の義務を参加者を含む関係者に課すことを検討しているようだ。

  *教会法の1983年修正で導入された、通常よりも高い機密性を必要とする事項に適用される機密保持の規則

 

 

 今から20年以上前、私が初めてローマに来たとき、シノドス総会では、教皇に提出される一連の提案について、それぞれが会議参加者の投票にかけられ、提案の内容と投票結果は「教皇秘密」として扱われ、司教や他の参加者には漏洩しないよう厳重な措置が取られた。だが、イタリアの諸々のメディアは、時計仕掛けのように、投票の直後、あるいは数時間後に投票結果とともに提案の全文を公表してきた。それは今に至るまでほとんど変わっていない。

 例えば、青少年に関する2018年のシノドス総会では、「教皇秘密」が総会の会議中に表明された意見に適用されたとされるが、毎日のメディアの報道は、前日の会議中に出された意見についての詳細でぎっしりと詰まっていた。 ベンジャミン・フランクリンの「秘密は三人でも守れるが、それはそのうちの二人が死んだ場合に限る」という言葉は、今でも立派に通用する。しかも、シノドスの総会は、参加者3人で行われる会議ではない。投票権を持つ議員だけでなく、彼らを補佐する人、スタッフ、通訳、その他何らかの理由で議場にいる人たちも含めると 400 人以上が参加する。 これほど大勢の人々をほぼ1か月、議場に集め、そこでの発言や行動に蓋をし続けられる、というの幻想にすぎない。それが可能だと思い込むのは、危険だ。

 「教皇機密」に期待される効果は、会議の物語が、最も極端な声-推進すべき議題と研ぎ澄ますべき斧を持る人々、ルールブックに何が書かれていようと、何が起きているかについて話す人-によって支配されるのを保証することだ。

 秘密保持義務を最も真剣に受け止める可能性が高い人々は、会議の精神に入り込み、建設的な役割を果たそうと努力する穏健派だ。そういう人たちが、”猿ぐつわ”をかませられたら、残る発言者は、シノドス主催者が最も恐れている”イデオロギー闘争”を進める傾向を持つ者たちだけになってしまいかねない。

  闘争的な声は必ずしも公の場で大声で発言されるわけではない。タイミングを見計らっての情報漏洩や第三者を通じての発言、新聞のコラム欄、ラジオやテレビ、ソーシャルメディアなどへの投書、投稿などを使って、種類の批判や嘲笑で埋めることで、十分に目的を達成できる。

 このような力関係では、シノドスの広報担当者は最初から守勢に立たされ、両手を後ろ手に縛られた状態で有害な言説に対抗しようと奮闘するのを余儀なくされるだろう。公式には、反対の情報を提供することができないからだ。

 肝心なのは、教皇が信仰と道徳の問題に関していかに無謬であっても、シノドス総会での議論やその結果などを表に出さないようにすることは、教皇の権限ではない、ということだ。

 唯一の現実的な選択は、これらの情報開示が教皇の意志で行われるか、それとも他の誰かの意志で行われれるのか、であり、教皇がいずれを決断するか、すぐに分かるだろう。

 

 

 

2023年9月15日

・シノドス総会の前、9月30日にキリスト教各宗派代表参加で、教会一致の祈りの会ー事務局会見

The press conference presenting the Ecumenical Vigil of PrayerThe press conference presenting the Ecumenical Vigil of Prayer 

 10月4日からの世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会を前に、シノドス事務局が8日記者会見し、総会の基本的な進め方と、それに先立つ9月30日の教会一致の祈りの会について説明した。

 当日、バチカンメディアのYouTubeチャンネルで下記の様子がライブ配信される。以下は、ローマ時間(日本時間は+7時間)の予定は、16:30~18:00:祈りに向けたプログラム  18:00~19:00:教皇フランシスコが司式する祈り (東方正教会のバルトロマイ総主教、聖公会のジャスティン・ウェルビー大主教、ルーテル世界連盟事務局長のアンネ・ブルクハルト師等、さまざまな教派の教会指導者たちが出席)となっている。

 「教会一致祈祷徹夜祭」について、シノドス事務局のナタリー・べカール次長が説明。「神の民の2つの基本的な側面—祈りを中心に置き、共に歩むための他者との対話の重要性」に焦点が当てられる、とし、「(キリスト教における)シノダリティ(共働性)と信仰一致の関係を浮き彫りにするものになります」と述べた。

 さらに、この祈祷徹夜祭では「現代の引き裂かれた世界における一致と平和への取り組み、という重要なテーマも強調されます。シノドスを聖霊に委ねながら、すべてのキリスト教徒の一致のための祈りの重要性を証しするものとなります」とし、教皇フランシスコと共に、ギリシャ正教のコンスタンティノープル総主教バルトロマイ1世を含むキリスト教各派の代表12人、また英国聖公会のジャスティン・ウェルビー大主教など、シノドスに参加するカトリック教会以外の宗派の代表数名もに参加することを明らかにした。

 またべカール次長は、若い信徒たちも、祈祷徹夜祭で重要な役割を担うことになる。シノドスの週末、テゼ共同体キリスト教の教派を超えた男子修道会。フランスソーヌ=エ=ロワール県のテゼ村に所在。約100人のメンバーがいる)の責任者、ブラザー・アロイスが訴えた「キリストにおいて既に達成された一致を祝い、それを目に見えるものにするために、今回のシノドス中に教会一のための集まりを持ちたい」という願いに触発されて、40か国以上から約3000人の若者たちがローマに集まり、祈りと礼拝、分かち合い、研究集会などを予定している。

 記者会見に出席したテーゼ共同体のブラザー・マシューは「この若者たちの集まりは、若者を巻き込むことによって、シノダリティ(共働性)をテーマにした今回のシノドス総会の理想と現実を表現することを目的としています」と述べ、祈祷徹夜祭に参加するためローマ市内のラテラノ大聖堂からバチカンの聖ペトロ広場へ巡礼すること、これらの行事に向けた大規模な準備がすでに教会一致のモデルとして進んでいる、と指摘した。

 記者会見の最後に、今回のシノドス総会のパオロ・ルッフィーニ・コミュニケーション委員長が、総会の概要について説明。「総会のプログラムの詳細はまだ最終決定されていない」と前置きしたうえ、総会は、シノダリティ、交わり、使命、参加などの主題に分かれた構成単位と、達成された作業の取りまとめを用意するをもとにした構成単位によって進められる、と述べた。

 また、総会についてのコミュニケーションについて、「シノドス総会のコミュニケーションをどのように進めるかは、識別のプロセスと全教会にとって極めて重要」と強調したうえ、「機密と個人的な秘密を守り、聖霊における対話に一定のスペースを確保することは、他者に耳を傾け、識別し、交わりに基礎をおいて祈りの真の機会となる時を作りたいという強い願いに適ったものです」と説明。「委員会による広報の進め方は、総会参加者たちに、”一つの体”の一部としての他の参加者それぞれを知り、耳を傾けることができるようにすることになるでしょう」と述べた。

 また、総会は、会議の結果を要約した「総括文書」を作成する予定だが、同文書は、総会は来年10月に第二期を予定しており、(第一期の当たる今総会で完結するものではないため)「最終文書」とはならない、と説明した。

 最後のルッフィーニ委員長は、「現代の分断された世界において、コミュニケーションが私たちの交わりの取り組みを正確に伝えられることを心から期待しています」と述べ、記者たちに「私たちに任せてください。皆さん(の取材、報道)を助けるためにできる限りのことをします」と約束した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

 

2023年9月9日

(論評)シノドス総会の”賢者たち”に控えめな提案—「異端」「反動的」などの言葉を乱発せず、初段階を乗り切れ(Crux)

(Credit: Vatican News.)

A modest proposal for synod punditry: First accusation of ‘heresy’ or ‘rigidity’ loses

(2023.9.7  Crux Editor   John L. Allen Jr.)

    ローマ発 –10月4日からの世界代表司教会議(シノドス)通常総会の第一期まであと1か月を切った。

 この来年まで2期にわたるシノドス総会は、しばしば教皇フランシスコによる”第2バチカン公会議のミニチュア版”と呼ばれている。だが、大々的にメディアで取り上げられるのは、女性聖職者の是非、既婚司祭の是非、トランスジェンダーの権利、同性愛者の婚姻などに限られ、教会関係者の緊張と対立を煽ることになるだろう。

 最近のバチカン当局者との会話からも、このような可能性について強く懸念していることがうかがわれる。 メディアが、この会議を一種の「すべてを解決するための乱闘」のように書き立て、合意への期待が裏切られるのではないか、ということだ。

 それは的外れの懸念ではない。 私は1990年代半ば以来、14のシノドス総会を取材してきたが、その経験から、参加者が説明する会議の実際の中身と、報道での取り上げられ方がしばしば全く異なるのを知っている。全体として、会議の雰囲気は外部から見るほどは緊張しておらず、議論されるテーマも広範かつ建設的だ。

 そのギャップの程度は、対象となるシノドス総会のメディアの注目度や、取り上げられるテーマに対する重要性の認識度に相関する傾向がある。また、今回のシノドス総会のスケールは、先日教皇が訪問したばかりのモンゴルの草原のようなスケールになる可能性が強い。

 このような前提を踏まえたうえで、総会関係者が熟考する価値のある 4 つのポイントを挙げてみよう。

  まず、現実を正当に反映した報道を望むのであれば、当局は参加者に報道機関と関わるよう促す必要がある。 これまでのどのシノドス総会にも、公式発言と非公式発言を使い分け、問題を”かき混ぜる”ことに熱心な参加者が何人かいた。 これらは通常、総会で「研ぎ澄ますべき軸」と「推進すべき課題」を持った人々だ。

  特に今回は、聖職者、男女の修道者、男女の一般信徒など、司教以外の多数の代表が、議論に参加する。司教以外がシノドス総会に議決権を持って参加するのは、総会の歴史始まって以来であり、とくに注意する必要がある。”先輩”の司教の振る舞いに倣う傾向があるとすれば、司教たちがメディアのインタビューに応じるのを嫌う、という雰囲気を彼らが感じてしまうと、インタビューに応じるのを躊躇するだろうし、積極的に応じれば、彼らもそうする可能性が高くなる。

 当然ながら、総会参加者が自由に本音で議論ができるように、その内容がストレートに表に出ないような”機密保持”は必要だし、議場で会議の一部始終を放映するようなテレビカメラの設置について、誰も話していない。問題は、会議の中で何が起きているのかを聞き出そうと記者が参加者の話を聞こうとするとき、議場の外で参加者がどれだけオープンになれるか、ということだ。

 第二に、主催者は、参加者の間の意見の相違を認めることを恐れるべきではない。

  そもそも、世界中の約 300 人のカトリック教会のリーダーたちを約 1 か月にわたって一堂に会させる、という考えは、そのほとんどが、教会について確固たる見解を持ち、対立する意見を持たない”タイプAのパーソナリティ”の人たちだ、というのは幻想だ。

 ホイットマンの言葉を借りれば、カトリックの栄光はまさに、それが大きく、多くの人々を含んでいることにある。 意見の相違がしばしば致命的となる世界において、言語や文化が異なり、対立する見通し、経験、優先事項を持ちながらも議論のできる非常に多様な人々の集団であることを誇りにすべきだ。有害で極度に二極化した世界の諸文化の中で、これは悪いことではない。 人工的に均一性を装わず、必要に応じて美徳を作ってみてはどうだろうか。 そうすることは、問題を生じることを依然として懸念している人々にとって、真実を伝えるという利点もあるだろう。

 

 第三に、このシノドス総会は”目的地”ではなく、”旅”であるということだ。 この総会には準民主的なルールがあるが、最終的には単なる諮問機関であり、決定を下すのは依然として教皇なのである。 だから、総会の結果に焦点を当てることはしばしば要点を逸する。 シノドス総会の本当のメリットは、世界のさまざまな地域からの参加者が互いに異なる経験や視点を共有する、カトリック教会の世界的な現実についての”大学院セミナー”だということにある。

 このことは、米国のカトリックにとって特に重要だ。 世界には 13 億人のカトリック教徒がおり、そのうち7000万人が米国にいる。つまり、米国のカトリック教徒は世界全体のわずか 6% に過ぎないが、私たちの会話のほとんどで、米国の教会の優先事項や期待は普遍的なもの(少なくともそうあるべきだと)と見なす傾向がある。米国のメディアが、シノドス総会だけでなく、より広範な問題について意見を戦わせるために、世界の他の地域からの声を求めることで、ある程度の効果をあげることができるだろう。そしてシノドス総会の主催者も、そうした声が確実に反映されるようにすることで、役割を果たすことができるだろう。

 

 第四に、このシノドス総会の進行は、完全に教皇、主催者、参加者の手に委ねられているわけではない。部分的には、彼ら以外の私たちの反応にも依存する。

 そうした観点から、総会に向けたここに控えめな提案がある。

 「異端」「分裂主義者」「反動的」「閉鎖的」などの言葉を乱用せず、少なくとも会議の初めの段階を乗り切ることができるかどうか見てみよう。 そのような軽蔑的な言葉は思考の代替物であり、誰かのアイデアを真剣に受け止めず、先験的に却下することを可能にする。

 そこで、シノドスの賢者たちが、自分なりのゴドウィンの法則(議論が、そのテーマや対象範囲にかかわらず長引いたとき、早晩、別の誰か、何かをアドルフ・ヒトラーや彼の悪事になぞらえるようになること)を採用することを提案したい。 インターネット上の議論では、「最初にヒトラーやナチスと比較した方が負ける」という有名な格言がある。シノドス総会では、「異端」や「硬直性」などのレトリックを初めて使用した人にも、これと同じ法則が適用されるべきだ。

 ちなみに、この法則は、シノドス総会にぞっとするような見通しを持っている人々にも、魅了されている人々にも、等しく適用される。率直に言って、どちらの人々も、少なくとも総会の最初の1週間、ソーシャルメディアを控えることで、私たち皆を確実に救ってくれるだろう 私は、この提案が多くの支持を得る可能性が高いという幻想を抱いていない。 21 世紀のメディア環境では、”軽蔑の文化”に抵抗するのは難しいが、抵抗できることを否定しているわけではない。まだ夢を見ることはできる。

 

 

2023年9月7日

・米国の保守派リーダー、バーク枢機卿が、10月の世界代表司教会議(シノドス)総会は「混乱と過ち、分裂を促進する」と主張

U.S. Cardinal Raymond L. Burke attends the ordination of eight deacons from Rome’s Pontifical North American College in St. Peter’s Basilica at the Vatican Oct. 1, 2020. (Credit: CNS photo/Paul Haring.)

(2023.8.23  Crux  |Senior Correspondent   Elise Ann Allen)

    ローマ発 – ”シノドスの道”を主導する教皇フランシスコが招集した世界代表司教会議(シノドス)総会が10月に迫る中で、米国のレイモンド・バーク枢機卿が、”シノドスの道”を批判する冊子の序文で、この歩みを「きわめて有害、教会に分裂をもたらす潜在性を持つ者だ」と激しく批判した。バーク枢機卿は、カトリック教会の”伝統主義派の英雄”的存在で、これまでも教皇の”革新路線”をたびたび批判してきた。

 この冊子のタイトルは、「”シノドスの道”はパンドラの箱:100の質問と回答」で、米国の保守的団体、American Society for the Defense of Tradition, Family and Property (TFP)によるもの。10月のシノドス総会開催まで2か月を切った8月22日に、英語版の他、スペイン語、イタリア語など各国語の翻訳も同時出版された。

 序文でバーク枢機卿は、「この冊子は、今日の教会における最も深刻な状況に触れており、それが教会員に与えている明白かつ重大な精神的危害を目の当たりにしている思慮深いカトリック教徒と善意の人々すべて」に与える影響に懸念を示している」とし、「私たちは、使徒の時代から信仰において先祖たちと交わり、一つであり、聖であり、普遍的であり、使徒的であると公言してきた教会が、現在では『synodality(シノダリティ)』という、教義上の歴史をもたない言葉で定義されるようになっている。これは、理に適った定義ではない」と言明。

 そして、「『synodality』も、その形容詞である『sinodalも、教会がこれまで常に教えてきたことの多くを否定する”現代のイデオロギー”と共に、教会の自己理解を根本的に変える”革命のスローガン”となっている」と批判している。

 バーク枢機卿は序文で、synodalityをテーマとして10月から開かれる世界代表司教会議(シノドス)総会が、このようなドイツの教会と同じ道をたどる可能性がある、と懸念を述べ、”シノドスの道”の歩みは、「混乱と誤り、そしてその結果、分裂を引き起こし、多くの信者に深刻な精神的害をもたらす事態を、激しく広げている」と語り、 「synodalityに関するシノドス総会が目前に迫る今、混乱と誤りと分裂が普遍教会に訪れるのではないかと懸念する声が出るのは当然だ。 実際、それは地域レベルでなされてきたシノドス総会の準備を通じて、すでに起こり始めている」と”警告”した。

 そして、「教会の不変の教義と規律の中で受け継がれているキリストの真理だけが、(現在の”シノドスの道”に働いているイデオロギーを明らかにし、それがもたらしている致命的な混乱と誤りと分裂を正すことを通して、 効果的に対処し、教会員に真の改革の着手を鼓舞することができる。 この改革はキリストへの日々の回心からもたらされる」と主張。

 そうした脈絡の中で、バーク枢機卿は、この冊子は「教会の現在の最も憂慮すべき状況にキリストの光、キリストの真実を照らすもの」とし、 「ここにまとめられている問いと答えを勉強することは、誠実なカトリック教徒がキリストの『真理における代理者』、現代における教会の刷新の担い手となり、使徒の伝統に忠実であることの助けとなるだろう」と期待を込めた。

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(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2023年8月24日