・「第18回東京-北京フォーラム」締めくくりの全体会議ー来年の平和条約締結45周年に向けて

(2022.12.8  言論NPOニュース)

 12月7日に開幕した「第18回東京-北京フォーラム」の全てのプログラムの締めくくりとなる全体会議が8日午後、開催されました。

*日中両国は平和的発展に共通の責任を果たす必要

017Z0448.jpg まず、中国駐日本国大使で、中国人民政治協商会議第 13 期全国委員会外事委員会委員も務める、孔鉉佑氏が挨拶に立ちました。

 孔鉉佑氏は、今から50年前に実現した中日国交正常化は、中日の平和や友好、Win-Winの新たな1ページを切り拓いた、と振り返りました。それから50年が経ち、コロナウイルスによるパンデミック、地政学的な情勢の激変に触れ、今、人類は再び岐路に立っていると指摘。

 そうした中で、中日両国は①平和的な発展の道を堅持する、②中日は互いに協力するパートナーであり、互いに脅威とならない、③中日両国はアジアの平和・安定と団結・協力を共同で守る、④中日両国は国際的な公平、正義を断固として守る、という点に、日中両国は共通した責任を果たす必要がある、と語りました。

 そのための具体策として、戦略的相互信頼を高めること、共通利益の絆を守ること、友好エネルギーの活性化、中日関係のリスクをコントロールすることを挙げ、11月に行われた習近平主席と岸田文雄首相の首脳会談で合意した共通認識や、これまでの4つの政治文書の諸原則を順守して、中日平和友好条約締結45周年を迎える来年を一つの契機に、両国関係の安定、改善を引き続き推し進めていくことを強く提案しました。

*日中関係の改善に向け、助け合いの二国間関係の歴史に目を向ける

タ.jpg 続いて挨拶した駐中華人民共和国特命全権大使の垂秀夫氏は、日中国交正常化50周年の節目の年に日中首脳会談が開かれ、首脳間で少なからずの共通認識を達成し、日中間でいかに建設的な関係を構築していくかが明確になったことが一番の成果だった、と強調しました。

 一方で、中国が日本の領土である尖閣諸島で領海侵入を繰り返していること、国際法に明確に違反し、ウクライナ侵略を行っているロシアと中国が日本近海で軍事訓練を行っていることに触れ、「こうした行為が続くと国民感情が容易に改善しないことは明らかであり、日中関係の本格的な関係改善に向けたプロセスはこれから本番」との見方を示しました。

 ここで垂氏は、中国から漢字が日本に伝来されてから1600年後の明治時代、日本が西洋文明を積極的に吸収する過程で、漢字を新たに組み合わせて多くの和製漢語が生み出されていったことを紹介。こうした和製漢語を、日本に亡命していた、中国近代史を代表する思想家、ジャーナリストである梁啓超氏が、中国に逆輸入し、世界、社会、経済、科学、革命といった様々な語彙を中国にもたらしたことで、日本が中国の近代化に寄与することになったとして、漢字を巡る日中関係の歴史は、助け合いや学び合いの歴史の象徴だ、と語りました。

 こうした例を挙げながら、間もなく終わろうとする国交正常化50周年の節目の年に、「日中関係は世界でもまれに見る、助け合いの二国間関係の歴史であることに目を向ける必要があるのではないか」と語り挨拶を締めくくりました。

 大使の挨拶を終え各分科会から議論の報告がなされた後、「平和協力宣言」と題する合意文を、日本側主催者を代表して言論NPO代表の工藤泰志が読み上げました。

 

*対話の基盤にあるのは、「フォーラム」が18年間培ってきた互いへの信頼

閉会式_工藤さん2.jpg この宣言に先立ち挨拶に立った工藤は、今回のフォーラムに参加したパネリストを始め、開催を支えたスタッフやインターン、ボランティアなどに謝辞を述べました。

 その上で工藤は、今回のフォーラムを通じて、紛争回避やこの地域の平和、そして世界の平和や発展に向けて、日中が協力するという流れをどうしても進めたい、という強い思いがあったと説明。一方で、初日の議論を受けて、「今回の合意は難しい」と感じたことに触れつつも、合意文づくりの過程で、日中間では、少なくとも世界とアジアの不安が高まる中で、何をなすべきか、ということを互いに理解しており、お互いの状況に応じて、どのようにまとめていくのか率直に話し合ったと語りました。そこには、一から議論するのではなく、少なくとも我々の対話の基盤というものが、信頼に基づいてつくられている、ということに関して本当に驚き、嬉しかった、と振り返りました。

閉会式_副総裁.jpg プログラムの最後を締めくくる閉会の挨拶には、中国側主催者を代表して、中国国際伝播集団副総裁兼総編集長の高岸明氏が立ちました。

 高岸明氏も今回のフォーラムに参加したパネリストを始め、開催を支えた全ての人に謝意を述べました。その上で、100年に一度の未曽有の国際情勢の変化と、世紀のパンデミックが交錯する中、中日両国が今回のフォーラムを通じ、「率直で踏み込んだ対話を行い、平和と友好を堅持し、協力と相互信頼を深め、共に手を携え、地域の安全、世界の平和に貢献するという力強い声を発信することができた」とし、その成果を合意文に凝縮することができたと振り返りました。そして、来年こそは対面での開催を望む、との期待を示し、閉会の挨拶を締めくくりました。

2022年12月9日

・「第18回 東京-北京フォーラム」 共同声明ー「アジアと世界の平和のためにあらゆるレベルの対話強化を

(2022.12.8 言論NPOニュース)

「第18回 東京-北京フォーラム」が平和協力宣言を発出

 「第18回北京―東京フォーラム」は、12月7日から2日間にわたって東京と北京を オンラインで結ぶ会議方式で行われ、平和秩序、政治外交、安全保障、経済、デジタル社会、メディア、青年の議論に、日中両国を代表する有識者約100氏が集まった。

世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任。今年の対話に対する参加者全員の思いは、全体テーマに集約されている。

 世界の平和は不安定化し、アジアで緊張が高まっている。そして、世界経済に分断の動きが強まっている。この地域の平和と安定、そして、世界の協力のために、今年、国交正常化50周年を迎えた日中両国こそが、責任を持って取り組むべきというのが、私たちの強い問題意識である。

 世界やアジアの歴史的な困難にどのように向き合うのか。この二日間の議論を踏まえて、私たちが到達したのは二つの基本的な合意である。

 一つは、各国の主権と領土の一体性を尊重し、どんな紛争も、最大限の努力を尽くして平和的に解決すること、そして二つめは、共に国際協力を推進し、世界の分断傾向をこれ以上、助長させないことである。

 そのためには日中関係の修復も不可欠である。この50年間に合意した4つの政治文書の意味を再確認し、新しい情勢の下でもそれらが実行できるように、再構築する努力を行う。

 その環境づくりを、政府に一歩先駆けて取り組むのが、私たち民間の対話の役割である。私たちはこうした強い思いから、以下の合意をまとめた。

 私たちはこれを「平和協力宣言」として公表する。

    • 1.世界の平和と安全を維持するために世界が力を合わせることは、国連憲章が掲げる理念である。私たちはこの理念に賛成し、国連憲章を基礎とする世界の平和秩序を擁護し、どんな紛争も平和的手段で解決すべきと考える。双方は ウクライナ情勢の現状を憂慮しており、ウクライナ危機のエスカレートの回避、平和的解決につながるあらゆる努力を共に支持する。

    • 2.今回の世論調査では、周辺地域の安全保障情勢を懸念し、不戦や紛争回避を希望する声が、両国で増えていることが明らかになっている。私たちは、こうした民意を重視し、全ての関係者に地域の緊張を高める全ての行動を自制することを、求める。日中両国は事故の防止や紛争を回避するために海空連絡メカニズムの一層の強化を行うほか、安全保障課題を考える定期的な協議を早期に始めるべきである。また、北東アジア全域で、建設的な安全保障関係を構築するため、多国間の対話を強化すべきである。

    • 3.日中両国が、地域の平和、安定と繁栄発展に責任を持って取り組むことは、国交正常化以来の合意である。両国は、これまでの政治文書に反映された合意が、国民間の幅広い理解を得るために一層の努力をする必要がある。両国はこれらの合意の今日的な意味を再確認し、世界的な視野を持って、新時代にふさわしい日中関係をどう構築するのかについて協議する。そのためにも日中両国は政府間だけではなく、民間も含めたあらゆるレベルの対話を強化し、必要に応じて、新しい合意を検討すべきである。

    • 4.両国は、包摂的で地球環境に配慮した持続可能な世界経済のために共に努力すべきである。そのためにも、国際協調や国際法に基づく国際秩序の擁護、共通のルールに基づく自由経済の修復は堅持しなくてはならない。日中両国は、世界の分断傾向をこれ以上悪化させるべきではなく、世界経済のブロック化を避けるべきである。経済の全てを安全保障で考えるべきではなく、過度の経済混乱を招かない様に、両国政府は協力を前提に話し合いを始めるべきである。

  • 5.アジアの未来で両国に問われるのも、平和と協力発展に向けた一層の努力である。両国はそのためにも相互信頼や共通利益での協力を具体化すべきである。政府間の信頼関係の再構築は急務であり、先日の首脳会談を政府間交流の正常化につなげるべきである。歴史的な困難が広がる中で、民間の取り組みが勢いを失うことは致命的である。コロナ禍で国民の往来が影響されているが、コロナ対策でも両国は協力を進め、渡航の正常化に向けた環境づくりに取り組むべきである。

 私たちは、これらの合意を踏まえ、世界やアジアの平和と紛争の回避に取り組むと同時に、来年迎える「日中平和友好条約」締結45周年を目指し、日中の新しい協力に向けて一層の努力を行う決意である。

2022年12月8日 言論NPO、中国国際伝播集団

2022年12月9日

・「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任」テーマに言論NPO「第18回東京-北京フォーラム」開幕

 (2022.12.7 言論NPOニュース)

「第18回東京-北京フォーラム」

*開幕式・基調講演ー林芳正外務大臣、王毅国務委員兼外相がメッセージ

2022年12月07日

 ⇒「第18回東京―北京フォーラム」関連記事はこちら
 「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任」をメインテーマとした「第18回東京―北京フォーラム」は12月7日、東京と北京の会場をオンラインで結んで開幕しました。まず行われた開幕式には両国の要人が相次いで登壇しました。

*建設的かつ安定的な日中関係の構築に向けて、国民間の交流が不可欠

 

hayashi.jpg 日本側の政府挨拶に登壇した外務大臣の林芳正氏は、国交正常化以降の50年間の日中関係を「政治、経済、文化、人的交流等の幅広い分野で着実に進歩を遂げた」と振り返りましたが、同時に「多くの課題や懸案にも直面している」とも指摘。その上で、「地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有する大国」である日中両国は、課題や懸案があるからこそ率直な対話を重ね、国際的課題には共に責任ある大国として行動し、共通の諸課題について協力する「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という共通の方向性を、双方の努力で加速していくことが重要であると語りました。

最後に林外相は、「建設的かつ安定的な日中関係」の実現のためには国民間の交流が不可欠との認識を示し、「新型コロナで激減してしまった両国間の国民交流をしっかりと戻していく必要がある。先般の日中首脳会談でも、両国の未来を担う青少年を含む国民交流を共に再活性化させていくことで一致したところだ」としつつ、日中間最大の民間対話である本フォーラムの役割にも大きな期待を寄せました。

*「力よりも理」「暴力よりも国連憲章」こそ大事で、そのために日中両国には大きな責任がある

 

ooki.jpg 中国側の政府挨拶に登壇した国務委員兼外交部長の王毅氏はまず、11月の日中首脳会談では、両首脳が日中関係の重要性を再確認するとともに、新時代の日中関係を目指すことで一致したことを踏まえながら、今年の国交正常化50周年、来年の日中平和友好条約45周年というこの2つの節目の年に、「両国は日中関係の初心に帰るべき」と切り出しました。

王毅外相はさらに、日中共同声明が発表された後に当時の周恩来首相が「言必信、行必果」(言は必ず信あり、行いは必ず果たす)という題辞を田中角栄首相に贈り、これを受けた田中首相が「信為万事之本」(信は万事のもと)と返したことを振り返りながら、信頼のためには約束を守る必要があり、その約束は4つの政治文書に具体化されていると指摘。今後も互いにとっての脅威とならないことや経済的にWin―Winの関係を続けていくべきとしつつ、米中対立を念頭に「一方の陣営に与してゼロサムゲームの罠に陥らないように」したり、香港や台湾、ウイグル問題などでの日本側からの干渉を戒めました。

また王毅外相は、多国間主義と国際秩序が大きな挑戦を受けている現在は百年の一度の大変革期にあるとの認識を示した上で、こうした難局の中では力よりも「理」、暴力よりも国連憲章を核心とする国際関係の基本準則こそが大事だと強調し、これを守るために日中両国には大きな責任があると説きました。

最後に王毅外相は、10月に行われた共産党大会の政治報告では、「周辺国家との友好、相互信頼と利益融合」を追求するとしていることに言及しつつ、改めて次の50年に向けた日中協力を呼びかけました。

*米中対立のどちらに与する議論ではなく、胸襟を開いた本音の対話を

 

武藤.jpg 日本側の主催者挨拶には、「東京―北京フォーラム」実行委員長の武藤敏郎氏(大和総研名誉理事、元東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会事務総長)が登壇。ロシアのウクライナ侵攻により世界情勢は不安定化し、世界経済にも分断化の傾向が強まっていること、アジア地域においても台湾海峡問題など不安や緊張の高まりがあること、そして対面ではおよそ三年ぶりとなる11月の日中首脳会談の直後のタイミングであることなどを挙げながら、武藤氏は今回のフォーラムが「特に重要な意味を持っている」と強調しました。

さらに、国連を含めた国際ルールに基づき、国際協調による世界の平和秩序の確立を目指すべきだとの認識を示した武藤氏は、今回のメインテーマ「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任」についても、依然として続く米中対立という構図の中でどちらかに与して議論するべきではなく、「両国の有識者が胸襟を開いて本音で対話をすることによって、世界とアジアの平和と安全のために何ができるのか、ともに考えていこうではないか」と呼びかけました。

*安定的な日中関係の土台になるのは民間交流

 

杜.jpg 中国側の主催者挨拶に登壇した杜占元氏(中国国際伝播集団総裁、中国翻訳協会会長)は、世界第二、第三の経済大国である日中両国が協力関係を深めていくことは、激動し、不確実性が増している世界情勢の中では、単なる二国間関係の発展にとどまらず、世界全体の平和と発展を促進するために不可欠であるとし、両国の大国としての国際的責任を強調。

同時に国交正常化50周年を踏まえて、「孔子曰く、四〇にして惑わず、五〇にして天命を知るというが、両国にとって不惑というのは、歴史的偏見を捨て、政治の目先の利益にこだわらず、利害の違いを直視し、干渉を排除した上で、Win-Winのチャンスを掴むことだ。そして天命を知ることは、世界・時代・歴史の変化といった大勢を理解した上で、世代の友好を受け継ぎ、両国の発展を促し、世界の平和を守り、人類の幸せを増進する責任と使命を共有することだ」と語りました。

その上で杜占元氏は、具体的な協力のメニューとして、「デジタルエコノミー、グリーン発展、ヘルスケア、産業・サプライチェーンの安定化・円滑化」など様々なものがあるとしつつ、そのためにもより安定的な日中関係が必要であり、その土台となるのはやはり民間交流、とりわけ青少年交流であると主張。また、18年間にわたって両国関係の健全な発展のために尽力してきたハイレベルかつ大規模な民間交流のプラットフォームである本フォーラムの議論の展開にも期待を寄せました。

*新たな時代の、新たな日中関係構築への歩みを

 

福田.jpg 続いて、基調講演が行われました。まず日本側基調講演には、「東京―北京フォーラム」最高顧問の福田康夫氏(元内閣総理大臣)が登壇。その冒頭、「世界は、混迷の度合いをますます深め、対立と分断に向かっており憂慮に堪えない」と切り出した福田氏は、その理由を「現在われわれが享受している平和と繁栄、それをもたらした戦後国際秩序が動揺を来たし、崩壊しかねない状況になっているからだ」と指摘。その上で福田氏は、習近平主席の「人類運命共同体の構築」、自身の父・福田赳夫元首相の「世界は共同体である」といった発言に触れながら、「私が(首相在任時の)2008年の日中共同声明において戦略的互恵関係を打ち出したのも、このような考えに沿うものと考えたからだ」と振り返りつつ、日中両国に協働して現行国際秩序を改善し強化する具体的作業に着手することを要望。「そうすればその先に、アジアの伝統的価値観が色濃くにじむ、人類運命共同体の姿が浮かび上がってくることだろう」と期待を寄せました。

福田氏は、対立を緩和し、分断を回避することは、そう簡単なことではなく、手間もかかるとしつつ、現在の国際社会には懸命の努力が不足していると苦言を呈するとともに、政治指導者たちにも大局的判断と懸命な行動を強く求めました。とりわけ、ロシアのウクライナ侵攻や台湾海峡における緊張の高まりにおいては、こうした視点からの外交努力が圧倒的に不足しているとの見方を示した福田氏は、対話の強力な推進が不可欠と主張。また日本外交と台湾問題については、「1つの中国」政策を堅持しつつ、米中との対話を進めながら、緊張緩和の道を探ることを日本外交の中心的課題とすべきと強調しました。

また福田氏は、経済のグローバリゼーションについても言及。経済安全保障が重視されるようになったからといって世界経済が分断されてよいという理由にはならず、マイナス要因を極小化する新しいプロセス管理を開発する必要があるとしてきしました。

福田氏は最後に、気候変動問題や核不拡散など他にも課題が山積みである中、やはり日中協力は不可欠と改めて強調。国交正常化以降の50年間に思いを致しながら、「新たな時代の新たな日中関係の構築への歩みを進めてもらいたい。世界の中に日中を置き、両国国民が正面から向き合い、手を握り合う関係を作りあげるべきではないか」とし、講演を締めくくりました。

*青年交流を含めた民間交流を推進し、友好の基盤を固めることが重要

 

孫.jpg 中国側からは孫業礼氏(中国共産党中央委員会宣伝部副部長)が登壇しました。そこではまず、世界が激動する新たな変革の時期に入る中、日中関係も重要な歴史的節目を迎えているとの認識を示しつつ、こうした難局の中で健全かつ安定した発展を推進する上での大きな助けになるのは、「この国交正常化50周年来の経験と知恵」であるとし、これを真剣に考え総括し吸収することが大事だと主張。その上で自身の分析として、「国交回復の初心を振り返り平和友好の正しい方向を把握すること」、「経済協力を深化させ互恵・Win-Winの利益の繋がりを緊密にすること」、「人的文化交流を推進し両国の民意基盤をうち固めること」、「協調と協力を強化し世界の繁栄と安定した発展を促進すること」といった四点のポイントを提示しました。

また孫業礼氏は、民間が果たすべき役割についても言及。まず、両国の国民が日中関係についての正しい認識を得る上でのメディアの役割の重要性を指摘し、この分野での日中協力の深化を求めました。

次に、本フォーラムに多くのシンクタンクが関係していることを踏まえ、シンクタンクの役割について言及。国交正常化50周年の今年は、両国のシンクタンクや専門家、学者はシンポジウムや対話など多くの交流活動を行い、良い結果を得たと評価しつつ、今後もシンクタンク間の共同研究や定期的な交流を行うことを通じて、日中関係の発展を促進するための助言や、対立や課題を解決するために知恵を出すこと、さらには世論を導く役割を果たすことにも期待を寄せました。

続いて、青年交流を推進し友好の基盤を固めることの重要性を指摘した孫業礼氏は最後に、中国国務院新聞弁公室としても今後もこうした多面的な民間の交流へのサポートを続けていくと意気込みを語りました。

開幕式の後、パネルディスカッションに入りました。

 

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全体会議パネルディスカッション報告

「世界が不安定化する中、日中関係の未来を考えるプラットフォームに」

2022年12月07日

言論NPOと中国国際伝播集団が主催する「第18回東京-北京フォーラム」は12月7日(水)、日本と中国をオンラインで結び開幕しました。

午前の開会式と基調講演に続いて、「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任~日中国交正常化50周年で考える」と題するパネルディスカッションが行われました。

ロシアのウクライナ侵略後の世界の平和秩序をどのように修復するのか、さらには北東アジアの台湾海峡での懸念が高まる中で紛争を避けるために

宮本.jpgはどうすればいいのか、という国際社会が直面する難題について、東京と北京、上海の3カ所から両国の有識者8人が1時間半にわたって活発な議論を交わしました。

冒頭、日本側司会を務める元駐中国大使の宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表)が「ロシアのウクライナ侵攻、台湾海峡問題、世界経済の競争と分断に陥る中、国際社会は極めて厳しい十字路に直面している。世界の未来にとって日中両国はどういう存在になるべきなのか」と問題提起しました。

cyo.jpg 中国側司会の趙啓正氏(元国務院新聞弁公室主任、中国人民政治協商会議第11 期全国委員会外事委員会主任)も宮本氏の主張に賛意を示した上で、12月7日に北京・人民大会堂で開催された江沢民元国家主席の追悼大会に言及。「江沢民氏は中日関係に大きな期待を寄せていた。国交正常化50年で数多くの関係者が両国の関係改善に努力した。『朝日新聞』論説主幹で北京で亡くなった若宮啓文氏が『日本海に荒波があって、どうやって同じ船に乗ることができるのか』と書かれたが、百年に一度の大変革の時代に真摯に向き合うべきだ」と語り、議論がスタートしました。

 

 

 

朱.jpg 中国元財政部副部長の朱光耀氏は、1980年代から現代に至るシビアな国際金融市場環境に触れた上で、東アジアにおける経済危機に対応することを謳った2000年5月のチェンマイ・イニシアチブ(CMI)の重要性に言及。「中日両国が協力してチェンマイ・イニシアチブの実体化を推進すべきだ」と訴えました。

五百旗.jpg 歴史ある「アジア調査会」会長など要職を務める五百旗頭真氏(兵庫県立大学理事長)は国交正常化50周年、来年の友好条約締結45周年の節目を迎える一方で、両国の政治環境が改善されないことに懸念を表明。「中国は世界の運命」の方向性を握っていることから、為政者は「天の下の道理を尊び 民を慈しむ」方向に進むかどうか、国際社会が注視しているとの見方を示しました。

tei.jpg 前中国駐日本大使の程永華氏(中日友好協会常務副会長、中国人民政治協商会議第 12 期全国委員会外事委員会委員)は世界経済の「頓挫」や「新冷戦」「覇権主義」などが懸念される現状について、歴史上「百年に一度の変化が起きている」と分析。その上で「21世紀はアジアの時代」であり、戦略的互恵関係やRCEP(地域的な包括的経済連携)協定の重要性を改めて唱えました。

河野.jpg 国際安全保障の専門家である河野克俊氏(前自衛隊統合幕僚長)は「第一次安倍政権─福田康夫政権時代の『戦略的互恵関係』が最近全く使われなくなった」と指摘した上で、ウクライナ戦争において、ロシアの「核使用」に対して中国側が明確に反対を表明したことなどを評価。国際的に懸念が高まる台湾海峡問題に関しても「尖閣諸島国有化を経て日中間の防衛交流が2013年以降途絶えている」として、早期再開の重要性を求めました。

中国国際戦略研究基金会上席研究員の張沱生氏は、台湾海峡問題を巡って米国の関与が強まっていることを念頭に「冷戦がアジア地域にやってきそうだ」と不快感を表明。同時に日中関係が悪化した理由について①相互信頼の弱体化②グローバリゼーションの進展③パンデミック④歴史認識──などに起因する問題を挙げて、「新しい大国関係をつくらねばならない」と主張しました。

*両国共通の土俵づくりが重要

 

宮本.jpg 司会の宮本氏が「日中の共通項は経済にある」との認識を示し、元日銀副総裁の山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長)の意見を求めました。

yamaguchi.jpg 山口氏は「今ほど政治と経済を切り離して語れることはそうそうない。各国間の協調によって不安定化を避けている」との見解を示しました。ウクライナ戦争、北朝鮮ミサイル、台湾海峡問題などアンチ・グローバリゼーションを進める不安定要因が山積する中で、日中両国ともに共通の対応を求められると指摘。同時に「中国が改革開放路線を堅持してくれるのかどうか、日本の経済界は心配している」と述べ、両国共通の土俵づくりの構築が重要との認識を明らかにしました。

一連の発言を受けて、改めて宮本氏が「世界や日中が大きな問題を抱えている中で、両国がどのような関係を目指すべきか」と問題を提起しました。

五百旗頭氏は「中国が『核不使用』を表明した意味合いは大きい」と歓迎した上で、最近のゼロコロナ政策にも変化が生じていることに言及。強硬路線から「やや柔らかな路線に移ってきている」として、今後の方向性を注視する考えを示しました。

朱光耀氏は先の発言に続いて、チェンマイ・イニシアチブを念頭に「日中は協力を強化しなければならない」と指摘。その上でマクロ経済、地域政策、サプライチェーンなど各種政策を整理するためにも「今回のフォーラムは有効だ」と語りました。この発言を受けて、山口氏が「世界経済はディスインフレ、デフレからインフレの時代に変わりつつある」と懸念を表明。マクロ経済分野において、日中両国がどのような考えを持っているのか示すことも、世界経済にとって重要になると強調しました。

*安全保障分野では意見の相違も

 

また、安全保障分野について程永華氏が「今、わざと相手を敵だとみなす動きがあるが、日中間には平和友好条約がある。さらに交流を深めて対話を進めていくべきだと」と語りかけました。

一方、河野氏は、日本国民の間には尖閣諸島を巡る中国の行動に対して「脅威がある」と指摘。仮に台湾有事が生じれば、「日本の安全保障上対応せざるを得なくなる」と釘を刺しました。

cyo.jpg これに対して中国側司会の趙啓正氏は「中国からすると、日本のロジックは受け入れられない」「米国の空母、偵察機が台湾海峡付近をパトロールしているが、日本の基地からやって来ている。日米同盟も我々に不安を与える」と反論しました。

張沱生氏が「どのような中日関係が望ましいのか」と問題提起し、互恵関係や「一つの中国」原則の遵守などが基本になると指摘。同時にさまざまなレベル・分野での対話の回復をはじめ、APECなど国際的な枠組みでの議論が求められると主張しました。

日中双方の意見が真っ向から対立しそうな気配になったところ、五百旗頭氏が「ウクライナ戦争を終結させるイニシアチブを、日中が共同で働きかけることは重要だ。成熟した大国の雅量を示してほしい」と訴えました。

最後に司会の宮本氏、趙啓正両氏が「対話を基礎としたプラットフォーム」設定の重要性を確認。「まずはこの『東京─北京フォーラム』を大切にしよう」と語りかけて、1時間半にわたるパネルディスカッションは終了しました。

 

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*政治・外交分科会報告

「日中間でアジェンダ設定が異なる課題を、どうすり合わせるかが重要」

2022年12月07日

言論NPOと中国国際伝播集団が主催する「第18回東京-北京フォーラム」は12月7日(水)、日本と中国をオンラインで結ぶ開幕しました。

世界の平和秩序の再建と国連憲章の今日的意味を協議した特別分科会「平和秩序分科会」に続いて、政治・外交分科会が開催されました。「混乱が深まる世界と日中関係の未来」をテーマに、日中双方から計12人(司会を含めて日本側8人、中国側4人)の政治家や元外交官、有識者が出席し、国交正常化50年を迎えた日中関係の課題を話し合いました。

日本側司会は言論NPO代表の工藤泰志、中国側司会は中華日本学会会長の高洪氏(中国人民政治協商会議第13期全国委員会委員)がそれぞれ務めました。

工藤.jpg 工藤は冒頭、第18回日中共同世論調査の結果を踏まえて、両国関係の現状について両国民の「半数近くが満足していない。いろいろな政治文書も機能していない」と指摘。その上で国交正常化50年を念頭に「過去を祝うだけでなく、岐路に立つ地域の平和と安定のアジェンダは今日的課題だ」と問題を提起しました。高洪氏も「中日両国の足下の課題だ」と応じ、議論がスタートしました。

*政治的価値観が異なっても、長期視点を持ち友好関係を構築することが最大の安全保障

小倉.jpg

50年前の国交正常化交渉において、外務省アジア局中国課首席事務官として日中航空協定策定に奔走した小倉和夫氏(元駐仏大使、元駐韓国大使、国際交流基金元理事長)は「対中感情のもたらすことから、中国は『強国』であると自ら宣伝することは止めた方がいい」と指摘した上で「50年前の方が、はるかに政治的価値観が異なった。長期的視点を持ち、友好関係を構築することが最大の安全保障になる」と訴えました。

s程永華.jpg 前駐日本大使の程永華氏(中日友好協会常務副会長、中国人民政治協商会議第12期全国委員会外事委員会委員)は午前中のパネルディスカッションに続いて登壇。「孔子は『五十にして天命を知る』と言ったが、中日関係のレベルはまだまだだ」と現状を分析。その上で日本の対中姿勢に関して「『台湾有事』という言い方は一線を越えている。日中間の四つの政治文書を遵守すべきであり、日本には冷静に対処してほしい」と牽制しました。

薗浦.jpg 安倍政権で外務政務官、外務副大臣、安全保障担当首相補佐官を歴任した衆議院議員の薗浦健太郎氏は、日中の外交姿勢の違いについて「中国は台湾と歴史問題、日本は尖閣諸島と軍拡を最大の問題だと思っている。意思疎通、すり合わせをすることで対話がスタートする」と分析。同時にサプライチェーン問題についても「複雑でデカップリングができるわけがない。国民感情が良くない中で、50年間の知見が問われている」と述べました。

s胡令遠.jpg 復旦大学日本研究センター主任の胡令遠氏は過去50年間における冷戦構造の終焉、グローバリゼーションの進展に続いて、現在を「百年未曾有の時代」と位置づけました。この「三つの重要な結節点」を踏まえて「常に政治的な知恵で大きな障害を乗り越えてきた」と述べ、11月17日に初めて対面で実現した中日首脳会談で確認した五つのコンセンサスの具体的な実施を求めました。

西田.jpg 公明党参議院会長の西田実仁氏(党選挙対策委員長)は日中共同世論調査の結果を踏まえて「両国ともに、平和を希求し、不戦を求める結果が出ている。いかにして平和の機運を求めていくかが大事だ。パワーを軽視する平和主義は、リアリズムに徹する相手国に付け入る隙を与えてしまうため、軍事バランスを保つための一定の抑止力は必要になる」と指摘。その上で「アジア版OSCEとも言うべき常設の安保協力機構で、常駐の『東アジア平和担当大使』が定期的に接触することが有益ではないか」と提言しました。

*国民理解の進展と、相互信頼の情勢に努めるべき

 

s高洪.jpg ここまでの議論を受けて、中国側司会の高洪氏が「激動の世界情勢」において「いかにして国と国の基本的信義を守り、どうやって改善していくべきか」と問題を提起して、さらなる議論の深化を求めました。

川口.jpg 元外務大臣などを歴任した川口順子氏は世論調査結果を踏まえて「グッドニュースは、平和を希求する共通基盤があることだ」と指摘。一方で「バッドニュースはないが、チャレンジはある」として「互いに脅威と思っていること」を挙げました。続けて外交政策において「既成概念を破る発想」の重要性に加えて、国民を「根」にたとえながら「根が深く張れば、木は倒れない」と述べ、国民の理解の進展が一層重要になると訴えました。

s劉洪才.jpg 中国国際交流協会副会長の劉洪才氏(元中国共産党中央対外連絡部副部長、中国人民政治協商会議第13期全国委員会外事委員会副主任)は四つの政治文書に言及して「50年間の成果であり、今後の両国関係をリードするものである」との認識を示しました。同時に「イデオロギーが異なっても、阻害するものはない。この議論に政治家が参加しているけれども、我々は自民党、公明党、民主党とも協議した経験があり、ベスト・プラクティクスだ。民間友好も重要であり、相互信頼の醸成に努めるべきだ」と語りました。

玉木.jpg 国民民主党代表の玉木雄一郎氏は日中共同世論調査の結果を受けて、「緊張を高める日本の世論を改めることが外交の幅を広げることにつながる」と述べました。具体的には、尖閣諸島付近の中国艦船の領海・接続水域通過問題や、ウイグル自治区人権問題に関する説明が足りないことなどを挙げました。さらに「いかなる衝突を避けるため」にも、両国間のホットラインの構築や国境を越えた若者文化交流の重要性を唱えました。

この点について、中国側司会の高洪氏は「我々は覇権を唱えていない。情報の非対称が大きな原因であり、悪意のある宣伝はミスリーディングされる」と釘を刺しました。

 中国グローバル化シンクタンク(CCG)理事長の王輝耀氏は「我々は一衣帯水の隣人である。私は留学生の研究をしており、コロナ禍前は民間交流は1000万人を超えていたし、香港、マカオを含めて10万人超の留学生がいた」と振り返りました。その上で「より良いコロナ対策を講じて人的・文化交流の強化に努めるべきだ」と主張しました。

木寺.jpg 国交正常化40年時の駐中国大使だった木寺昌人氏(元駐フランス大使)は、二階俊博自民党総務会長(当時)が主導した2015年の「3000人中国訪問団」の成功に触れて、さながら「中日友好大会だった。それまで『中日関係を悪くしたのは日本側だ』と主張していたのが、『中日双方が努力しないといけない』という言い方に変わった」と回想しました。その上で台湾問題に関して「日本が妨げているわけではないのに、なぜ結果が出ていないのか」と疑問を投げ掛けました。同時に「これ以上関係を悪くしない、ということが一つのアイデアではないか」とも述べました。

司会の工藤、高洪両氏が一連の発言を踏まえた意見を求めたところ、劉洪才氏が「日中関係は大きな成果を上げたが、大きく改善することもある。そのためには対話、コミュニケーションを強化することが大切だ。中国には、覇権を唱えると国が衰えるという言葉がある。平和発展の道は共産党規約にも、憲法にも記されている」と理解を求めました。

小倉氏は、日中国交正常化交渉で訪中した田中角栄首相、大平正芳外相が漢詩を詠んだ経験を踏まえて「伝統文化の交流が大切だ」と語りました。

程永華氏も「中日は各レベル・分野でさまざまな対話があったけれども、この3年間で途絶えてしまった」と振り返り、相互利益とアジアの発展のために「対話の復活」「ホットラインの構築」を促しました。

*交流は大事だが、地域の不安を解決するためにどうすればいいか

 

ここまでの経過を踏まえて、日本側司会の工藤氏が「対話を求めて青少年、文化交流は大事だ」としながらも「建設的な発言ばかりではなく、地域の不安を解決するための対話をどう考えるか」と再び問題を提起しました。

この点に関して、木寺氏は日本の大手スーパーAEONの中国での取り組みなどを例に挙げて「感動を共有した者同士は仲良くなるし、ケンカもしない。その努力をしないと、将来は良くならない」と、実体験を語りました。

高洪氏は、国際的に注視される「台湾海峡問題への懸念は理解している。しかし、こう申し上げたい。台湾とは同胞であり、平和統一するという考えは変わらない」と、政府の見解を繰り返しました。この点について胡令遠氏も「台湾は内政問題で、懸念することはない」と追従。王輝耀氏も先の台湾統一地方選挙で与党・民進党が敗れた結果を踏まえて「台湾の人々が平和を求めている表れである。(2024年の総統選を経て)国民党政権になれば、平和的統一につながる」との見通しを示しました。

一連の議論を踏まえて薗浦氏は「今までの議論を聞いていて、日中のアジェンダの設定が少し違う」と指摘。「すり合わせをすることが重要だと改めて思った」と語りました。

白熱した議論を受け、高洪氏が「東京─北京フォーラム」の役割について「トラック1.5とも位置づけることができ、私たちの努力に掛かっている。より良い目標に向かって汗水を一緒に流しましょう」と述べ、2時間に及んだ議論を結びました。

2022年12月8日

・「台湾海峡」「ウクライナ侵略」について中国国民の意識・世界初~言論NPO日中共同世論調査結果

(2022.12.6 カトリック・あい)

 言論NPOは11月30日、18回目となる日中共同世論調査結果を公表した。内容は次の通り。

 

【第18回日中共同世論調査結果】

 

ロシアのウクライナ侵略で世界の平和は不安定化し、米中の対立はこの北東アジアの緊張を高めています。日本と中国は今年、国交正常化50周年を迎え、3年ぶりとなる首脳会談も行われましたが、コロナ感染の影響から国民の交流が停止する異常な状況が続いています。

今回の世論調査はこうした不安定な世界やアジアの緊張が高まる中、両国でこの夏に実施されたものです。これまでの調査で設問に入れることで合意ができなかった台湾海峡の問題やウクライナへのロシア侵略の是非についても今回は採用となり、中国国民が、「台湾海峡」と「ウクライナ」で回答する、世界でも初めての調査になります。

*「台湾海峡」での紛争の可能性を中国国民の約6割が意識

 

今回の世論調査でより明確になったのは、深刻化する米中対立が日中両国民の意識に大きな影響を与えていることです。

両国民は、北東アジア地域の平和に不安を高め、日中関係に対する意識にも米中対立の行方が色濃く反映しています。

両国民が東アジアの紛争の可能性を最も意識しているのは「台湾海峡」であり、「台湾海峡」を選んだ日本国民は25%(昨年は13.4%)、中国国民は48.6%(同39.6%)と昨年よりも大きく増えています。

さらに、台湾海峡での「軍事紛争の可能性」については、数年内か近い将来に軍事紛争が「起きる」と見ている日本国民は44.5%と半数に迫ったほか、中国国民では56.7%と6割近くになっています。

この調査結果は、言論NPOと中国国際出版集団が2005年から18年間継続して実施しているものです。中国の国民世論が18年間、継続的に調査され、公開されるのは、世界でもこの調査だけです。

日本の調査は18歳以上の男女を対象に2022年の7月23日から8月14日まで日本全国で訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000。中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に同年7月23日から9月30日にかけて調査員による面接聴取法により実施されました。有効回収標本は1528です。

台湾海峡で軍事紛争は起きるか.gif

 

また、台湾海峡での緊張の原因を、日本国民の63.7%が「中国」と見ているのに対し、中国国民の52.5%が「米国」と考えており、「米国と日本」が25.8%、「台湾」が11.7%で続いています。

注目されるのは、こうした米中対立の深刻化が、日中両国民のこの地域の平和に向けた意識をこの一年で大きく変えたことです。その傾向は中国に顕著に見られます。

東アジアの未来で日中両国が目指すべき目標は「平和」だという両国民の意識は昨年を大きく上回り、日本国民が55.1%(昨年53.8%)、中国国民が64.3%(同54.6%)と、それぞれ半数を超えています。

そして、この地域で合意すべき課題で日中両国民が最も多く選んだのは「平和共存」で、昨年よりもそれぞれが増加しています。さらに、中国で「不戦」を選ぶ人が、昨年の14%から今年は49.3%と大幅に増えています。

*中国国民もロシアは「間違っている」「反対」が半数超える

 

今回、初めての設問となったのが、ロシアのウクライナ侵略に対する是非です。

「国連憲章や国際法に反しており、反対」と考える日本国民は73.2%と圧倒的ですが、中国国民ではロシアの侵攻を「間違っていない」が39.5%と最も多くなっています。しかし、中国国民で「反対」だと考える人は21.6%、「ロシアの行動は間違っているが、ロシアの事情は配慮すべき」が29%となっており、「反対」、あるいは「間違っている」を合わせると50.6%と半数を超えています。

ロシアのウクライナ侵攻に関する評価.gif

ウクライナ衝突に対する日中協力の具体的な対応では、中国国民の方が積極的な姿勢を見せています。

中国国民で最も多いのは「難民の救出や人命救助での人道支援」の57.9%で、「停戦の早期合意と合意後の国連平和維持軍の派遣が、48.2%で続いています。これに対して、日本国民は「人道支援」が40.4%、「平和維持軍」は23.7%です。日本国民で最も多いのは、「ウクライナへの経済支援や生活資材の提供」の41.7%となっています。

*中国国民の対日認識や感情に見られる「米中対立」の影響

 

深刻化する米中対立は両国民の相手国や日中関係に対する認識に対する影響を高めています。

日中両国民の相手国への印象は昨年よりもわずかに改善しましたが、それでも日本人は87.3%と9割近くが中国に「悪い」印象があり、中国人は62.6%と6割が日本に「悪い」印象を持っています。

こうした国民意識は、現在の特別な状況を考慮する必要があります。

日中間では、政府間の外交は本格的に動いておらず、さらにコロナ禍で相手国への渡航はピーク時の10分の1に減少しています。政府間だけではなく、国民交流がほとんど動いていないのです。こうした環境下では両国民は自国メディアの報道を利用して、相手国を理解するしかありません。

相手国に「悪い」印象を持つ理由では、日本国民で最も多いのは「尖閣周辺での中国の領海侵犯」が58.9%、「共産党の一党支配という政治体制に違和感がある」が51.5%の二つです。中国国民が日本に「悪い」印象を持つ理由は、昨年同様、「中国の過去の侵略をきちんと反省していない」が78.8%と圧倒的で、「日本が尖閣諸島を国有化し、対立を引き起こしている」が58.9%で続いています。

しかし、今年は、中国側に日米関係を意識する項目が急増したのです。

例えば、「日本が米国と連携して中国を包囲している」が37.6%(昨年は23%)、「外交において米国に追随する行動が理解できない」が21.1%(同8.3%)と、この一年で軒並み増加しています。

(中国世論)日本に対する良くない印象の理由.gif

現在の日中関係に対する意識は今年も改善の兆しは見えません。

今の日中関係を「悪い」と見る日本国民は56.2%と昨年の54.6%よりも悪化しています。中国国民は昨年(42.6%)よりやや改善して37.7%ですが、まだ改善と言える状況ではありません。今後の日中関係も、「悪くなっていく」と判断している日本国民は37.1%、中国国民では29.1%もあり、それぞれ昨年よりも増えています。

日中関係の今後を考える上での障害になり始めているのが、米中対立の行方です。

米中対立が日中関係に悪い影響を与えていると判断する中国国民は63.7%(昨年は61.9%)、日本国民で59.8%(同54.7%)と、それぞれ6割程度で、昨年よりも増えています。

両国民が、日中関係の障害として強く考えているのは、「領土対立」と、「国民間の信頼関係」と「政府間の信頼関係」ですが、今回中国国民で急増したのが、「米中対立の行方」であり、今年は26.4%で昨年の3.1%から8倍以上に増加しました。

また、「日米同盟と日本の軍事増強」も22.6%で昨年の19.5%より増えています。

*日中関係が重要なのはアジアの平和と安定で協力が必要だから

 

注目されるのは、こうした局面でも日中関係が「重要だ」と判断する国民は、日本国民が74.8%、中国国民が71.2%と7割を超え、いずれも昨年を上回っていることです。特に日本では、日中関係が重要だと考える人が昨年から8.4%も増加しました。

ただ、その「理由」には変化が見られます。

日本国民では、昨年同様、「中国が重要な貿易相手」が59.8%で最も多く、「アジアの平和と安定に日中協力は必要」(48.7%)が続いています。

これに対して、中国国民は「アジアの平和と安定に日中協力は必要」が41.6%と、昨年の25.3%から大幅に増えたのです。

なぜ日中関係は重要なのか.gif

現状の日中関係の改善で最も有効なことは何か。ここにも中国側に同じ変化が見えます。

両国民が共通するのは、「政府間の信頼向上」(日本31.8%、中国31.2%)、「両国首脳の信頼関係の強化」(日本24.7%、中国26.8%)や「尖閣諸島の領土問題の解決」(日本25%、中国40.4%)です。

この一年で見ると中国国民で急増したのは、昨年の29.2%から大きく増えた「尖閣諸島の領土問題の解決」(40.4%)であり、「北東アジアの紛争回避や持続的な平和実現への取り組み」も16.2%と、昨年の4.8%から増えています。

中国国民の関心はこの一年で、北東アジアの平和や紛争回避に向かっているのです。

今年は日中国交正常化50周年です。50周年後の今の日中関係を「満足している」日本国民は6.1%しかなく、43.9%が「不満」です。中国国民は「満足している」が35.3%ですが、「不満」は50.5%と半数を超えています。

国交正常化50年後の日中関係に満足しているか.gif

「不満」の理由で、両国民で最も多いのは、「現状の両国関係が友好的でないから」が両国民共に4割を超えています。

日本国民で次に多いのは、「国交正常化時に期待した地域の平和と安定がいまだに実現していない」の30.8%、中国国民は「両国政府間での様々な合意がほとんど機能していない」の24.6%です。

これに関連して、この国交正常化の際に合意され、5年後に実現した日中間の平和友好条約について、両国民の半数近くが、「機能していないか、既に形がい化している」(日本48.2%、中国45.2%)と考えています。

さらに、今回の調査では、2018年に運用が開始された日中間で偶発的な軍事衝突を避けるための海空連絡メカニズムを、「不十分だと思う」という人も、日本国民で52.4%(昨年43.4%)、中国国民で40.7%(同37.7%)と4割を大きく超え、それぞれ昨年よりも増えています。

両国の民意は、平和や紛争回避への取り組みを求めているのです。

2022年12月7日

・中国政府、緊張回避の姿勢見せるーバチカンの「暫定合意違反」の批判に

(2022.11.29 カトリック・あい)

 中国でバチカンが認めていない教区の補佐司教に”地下教会”の司教を一方的に就任させたうえ、中国への忠誠、”中国の夢の実現”への先進を誓わせたことについて、バチカンが「暫定合意と対話の精神にもとる行為」と異例の批判声明を出し、今後の関係の行方が注目されている。

 AP通信が29日伝えたところによると、中国政府は28日の外務省報道官による定例会見で、この問題について、「中国が司教任命に関するバチカンとの「友好的な合意」を拡大する用意がある、と関係悪化を回避する姿勢を見せた。

 定例会見で、外務省の趙立堅・報道官は、「言われているような特定の状況については把握していない」としたうえで、「中国とバチカンの関係は、中国のカトリック教の利益と『調和のとれた発展』」のために近年改善されている」と述べた。また、「中国はバチカンとの『友好的な合意(暫定合意のこと)』を継続的に拡大し、合意の精神を共同で維持することを望んでいる」と語った。

 ただし、バチカンの暫定合意は中国政府(外務省)と結ばれたものであり、中国国内のカトリックを含めた諸宗教の活動の規制・監督については中国共産党統一戦線工作部が行っており、米国のシンクタンクの分析によると予算額だけ見ても外務省よりも、党統一戦線工作部の方が大きいといわれ、”党主導”の下で、暫定合意がどこまで”効果”をもつかは未知数。

 実際、暫定合意がされた2018年以後に、中国国内でのカトリック”地下教会”を含めた宗教弾圧は激しさを増している。その”不都合な真実”の目をつぶっていたバチカンが、今回、初めて批判声明を出し、中国外務省の報道官が即座に摩擦回避の姿勢を見せたことが、党統一戦線工作部のカトリック”地下教会”を含む中国国内の諸宗教の活動に対する姿勢に影響を与えるかどうか、疑問視する見方も少なくない。

 

2022年11月30日

・教皇、米誌インタビューで、”中国問題”と”ロシアのウクライナ侵攻問題”で自身の立場説明(Crux)

(2022.11.28 Crux  Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 ローマ 発– 教皇フランシスコは、28日公表されたイエズス会の雑誌Americaとのインタビューで、自身の中国に対する”対話路線”とウクライナ軍事侵略を続けるロシアへの”非難躊躇”を擁護する姿勢を示した。

 中国は先週、自国における司教任命に関するバチカンとの暫定合意を無視する形で、教皇が認めていない教区の補佐司教に、”地下教会”の司教を就任させた。これに対して、バチカンは26日に声明を発表し、このような中国側の行為は暫定合意と対話路線に反するものであり、長年にわたって現地当局が司教に逮捕・拘禁などさまざまな圧力を加えた結果もたらされたもの、と強く批判している。

 暫定合意は、その具体的な内容が4年たった今も明らかにされず、合意後に”地下教会”などへの弾圧を強める中国側に利用されている、との批判も関係者の間にある中での、今回の中国側の行為とバチカンの対応が注目を浴びている。

(このインタビューは22日に行われたもので、中国で、バチカンが認めていない教区、江西教区の”補佐司教就任式”が行われたのは2日後の24日。バチカンがそれに対する批判声明を出したのは、さらに2日後の26日であり、教皇の以下の発言はこうした”新事態”を踏まえての発言でないことに留意する必要がある=「カトリック・あい」)

 中国への対応について聞かれた教皇は、「それは、語るか、黙っているかの問題ではありません。そのような問いかけは現実的でない。問題は、対話をするか、しないか、であり、そのことについて対話することは可能です」とし、教皇ヨハネ・パウロ二世の下で1979年から1990年まで国務長官を務めたカサローリ枢機卿に言及した。

 枢機卿は共産圏に対する”東方政策”の立案者だったが、当時は「(ロシアなど共産圏の国々に)妥協しすぎだ」と批判する声が多かったが、そのソフト路線が「1989年のベルリンの壁崩壊まで教会が活動を続けるのに役立った」という歴史家の評価もある。

 教皇は「彼は、可能なことをした。ゆっくりと、共産圏だった国々でカトリックの集合体を再建することができました」と述べ、「対話は、最善の外交の道です」とし、中国との関係についても「私は対話の道を選びました。歩みは遅いし、失敗もあるし、成功もある。でも、それ以外の道を見つけることができないのです」と語った。

 また、ウクライナ軍事侵略に関してロシアやプーチン大統領に対する直接的な批判を避けているように見られることに関しては、「私がウクライナについて話すとき、殉教した人たちについて話します。殉教者がいるなら、彼らを殉教させる人がいる」とし、これらの残虐行為の責任を負っている軍隊について多くの情報を受け取っており、「一般的に戦争の残虐性」について批判している、と述べた。

 さらに、一般的に言って、「おそらく最も残酷なのは、チェチェン人やブリヤート人など、ロシアの伝統に属さない人々」だが、「ウクライナ侵略の責任を負っている勢力は『ロシア国』であることは、非常に明確です」と言明。「私が誰を非難しているのかはよく知られていますが、あえて名前を出す必要はありません。相手を特定して怒らせないように。それよりも一般化して非難をする形を取ります」と語った。

 戦争の責任者としてプーチンを直接、名指しすることを避けていることについては、「そうする必要がないので、しないのです… (彼が責任者であることは)すでに知られていることです」とし、「実名を挙げなくても、私の立場は誰でも知っています」と述べた。

 そして、バチカンの立場は、「平和を求め、理解を求めること。バチカンの外交はこの方向で進んでいます」と強調。軍事侵略を止めるために調停役を希望するバチカンの意思を繰り返した。

 このインタビューの中で教皇は、中国、ロシア・ウクライナ問題以外にも、米国社会ににおける二極化、人種差別、妊娠中絶、教会における信者と司教の信頼喪失など、幅広い問題に触れた。

 米国社会の二極化について、教皇は「二極化は、カトリック的ではありません。カトリックの教えの本質は”両方”です。二極化によって、分断的な考え方が生まれ、ある人には特権が与えられ、他の人は置き去りにされてしまいます。カトリックは、常に、違いを調和させる立場を取ります」と説明した。

 米国の司教会議に対する信頼の喪失について尋ねられたある調査では、信者のわずか 20% が「非常に信頼できる」と答えたという結果があるが、教皇は、「司教協議会と信者の関係に焦点を当てることは、誤解を招きます。司教協議会は司牧者ではない。司牧者は司教です。司教協議会だけに注目すると、司教の権威を損わせる危険があります」とし、司教協議会は司教たちの連帯を促進するという点で重要だが、「それぞれの司教が”羊の群れ”の司牧者なのです」と強調した。

 妊娠中絶については、「まだ生まれていない胎児が『生きている人間(living human being)』であることは、科学的にも議論の余地がありません。胎児を『人(person)』と呼ぶことは議論の余地がありますが」としたうえで、「中絶は犯罪であり、問題解決のために人間を排除してしまうことが正しいのでしょうか? 問題解決のために”殺し屋”を雇うのは正しいのでしょうか?」と問いかけられた。そして、中絶論争が問題になるのは、「『人を殺すこと』が政治問題に変わる時」、あるいは、「司牧者が『政治的カテゴリー』を使ってこの問題について話す時」だ、と指摘した。

 また、聖職者の性的虐待についても触れ、それが司教に対する訴えを含む場合には通常よりもさらに透明性が求められる、と述べた。米国社会に残る人種差別は「神に対する耐え難い罪」と批判。

 女性の司祭叙階については、「以前も申し上げたが、神学的な観点からは不可能」とする一方で、「教会の中で、女性が指導的立場や管理職に就くために、多くの場が作られる必要がある」ことを確認した。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2022年11月29日

・バチカンが、中国の”無認可教区”での補佐司教就任を強く批判する声明

 It was with surprise and regret that the Holy See learned of the news of the “installation ceremony” that took place on 24 November in Nanchang, of H.E. Bishop Giovanni Peng Weizhao, Bishop of Yujiang (Jiangxi Province), as “Auxiliary Bishop of Jiangxi”, a diocese not recognized by the Holy See.

 Such an event, in fact, has not taken place in conformity with the spirit of dialogue that exists between the Vatican parties and the Chinese parties and what has been stipulated in the Provisional Agreement on the Appointment of Bishops of 22 September 2018.

 In addition, the civil recognition of Bishop Peng was preceded, according to reports received, by prolonged and intense pressure by the local Authorities.

 The Holy See hopes that similar episodes will not be repeated, is awaiting the appropriate communication about the matter from the Authorities, and reaffirms its complete willingness to continue the respectful dialogue concerning all of the matters of common interest.

2022年11月27日

・民主化勢力支援の陳枢機卿が香港の裁判所から有罪判決(VN)

Cardinal Joseph ZenCardinal Joseph Zen  (AFP or licensors)

  香港では、中国政府・共産党の統制が強化され、民主化運動が鎮圧される中で2020年6月から香港国家安全維持法が施行されており、今後の裁判で「外国勢力との共謀罪」が適用されると、終身刑などが科せられる可能性もある。

 陳枢機卿は、中国政府・共産党を背景にした香港政府や治安当局による民主化運動弾圧が強まる中で、これに抗議、反対する若者たちなどを支援してきた。治安当局は2021 年 9 月、2019年の学生たちによる広範な抗議活動で「反乱を起こさせるよう扇動した」として、枢機卿を捜査下に置き、今年 5 月 、治安当局によって、他の4人と共に逮捕された。逮捕容疑は、「612 人道救援基金」の管理者としての「外国勢力との共謀」だったが、事情聴取の後、数時間後に保釈され、9月中旬から裁判が始まっていた。

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(カトリック・あい)

 陳枢機卿のこのような扱いに対して、教皇フランシスコはじめバチカン首脳はコメントを控えており、マッテオ・ ブルーニ広報局長が5月に、バチカンの記者団に対して、「バチカンは、陳枢機卿の逮捕のニュースを懸念し、細心の注意を払って状況の進展を見守っている」と述べたにとどまっている。

 枢機卿は、中国政府・共産党の中国本土における”地下教会”弾圧などの動きに対してバチカンが明確な態度を取らないことや、そうした事態を”黙認”する形で、中国政府と司教任命に関する暫定合意を続けていることを批判、明確な姿勢を取るよう求めている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2022年11月26日

・タイ政府は中国から流入するウイグル人難民の扱いを誤っている(BW)

タイのウイグル人難民( World Uyghur Congress.提供)Uyghur refugees in Thailand. Courtesy of the World Uyghur Congress.

   タイの恐ろしい状況からウイグル人の亡命希望者を解放する圧力が高まっている。中国からの南モンゴル(中国名:中国・内モンゴル自治区)とキリスト教徒の難民も問題に直面している。

 (「カトリック・あい」注:タイの首都・バンコクでは先月、カトリックのアジアの指導者たちが集まって20日間にわたる「アジア司教協議会連盟50周年総会」が開かれたばかりだ。タイはもちろん、中国やミャンマーなどで宗教者や少数民族に対する迫害が強まっている、まさに、その場所で開かれた総会で、このような具体的問題への対応は当然、話し合われ、難民保護、人権保護のメッセージが出されるべきであったはずだが、メッセージは単なる箇条書きのまとめにとどまり、総会の最終文書もいまだに発表されていない。当たり障りのない”中長期”の意見交換にとどまったのだろうか。)

 同国の収容施設に収容されているウイグル難民の窮状に関する最近のタイの有力日刊英字紙、バンコク ポストの報道に続いて、収容施設を訪れた英国のデビッド・アルトン卿は、Bitter Winter の取材に対し、「悲痛な」収容の実態を非難。「受刑者が動物のように檻に入れられている」と惨状を語った卿は、彼らの英国への移送を促進するよう英国政府に求めるとともに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR )に対して、緊急に実態調査をし、適切な対応をするよう要請した。

 彼らは2014 年に中国内陸部から脱出し、ラオス、カンボジアを通る何か月にもわたる困難な陸路を通ってタイに到着した。その後、173 人のグループが解放され、2015 年 6 月下旬にトルコに送られた。だが、間もなく 109 人が本国に送還され、その後の運命は定かでない。

 バンコクでは2015 年 8 月に、繁華街にあるエラワンの仏教施設が爆破され150人の死傷者を出す事件が起きた。中国に送還された以外のタイに残ってウイグル人 2 人が容疑者として逮捕され、無罪を主張したものの受け入れられず、いまだにラックシーの仮設刑務所に監禁され、外界との接触も断たれている。

 他の 女性と子供を含む59 人のウイグル人は、何年にもわたって転々と移動させられ、現在の収容施設に入れられた。タイの 8 つの人権団体が解決策を求めているにもかかわらず、中国と米国の間の”外交的泥沼”の駒のように扱われ、現在は北京が優勢のようだ。

 People’s Empowerment Foundation が率いる 12 を超えるタイの権利団体は、彼らの”本国”である中国への送還が加速することを懸念し、今年 6 月にタイ議会下院の外交委員会に請願書を提出し、帰国を阻止するための支援を求めたが、まだ結果は出ていない。

 難民に対するタイ政府の対応は、何年にもわたってあいまいで、国際人権団体、 Human Rights Watch (HRW)によって強く非難されてきた。HEWによると、タイ当局は「ノン・ルフールマン原則(生命や自由が脅かされかねない人々、特に難民が、入国を拒まれあるいはそれらの場所に追放したり送還されることを禁止する国際法上の原則)に繰り返し違反」しており、 UNHCR と国連事務総長による国際的な抗議と抗議を無視して、4500 人のモン族が 2009 年 12 月にラオスに送還され、武力紛争から逃れた数千人のビルマ人がビルマに送り返され、128 人のタミル人が不法入国で逮捕された。

 最近の事件に、南モンゴル(中国政府は内モンゴル自治区としている)の活動家アディヤー、別名ウー・グオシンの事件がある。彼は家族 7 人と共に中国支配下の内モンゴル自治区からタイに脱出した後、UNHCRから 難民の地位を取得したにもかかわらず、拘束され、中国大使館に面会することを余儀なくされました。 2022 年 10 月 5 日に、海外にいる人も対象にする”中国人関連諸法”に違反したという口実で逮捕された。そして、”自分の罪”を認め、中国に戻ることに同意する書類に署名するよう言われたが、彼はそれを拒否した。

Adiyaa. Courtesy of Southern Mongolian Human Rights Information Centre.

Adiyaa. Courtesy of Southern Mongolian Human Rights Information Centre.

 

 アディヤーは、フフホト(内モンゴル自治区の首都)でモンゴル語トレーニング センターを運営していた。だが、中国共産党のモンゴル語抹殺計画に対する抗議活動に参加したことから、当局の手で施設は閉鎖、家族も嫌がらせを受けた。
このため、故郷を離れることを余儀なくされたのだが、中国政府・共産党の監視の目はタイにも及んでおり、タイ政府も、中国の“意思”に逆らってまで、自分たちを守ることはしない。
タイ政府の拘置所に入れられ、そこに4人の中国の”治安要員”がやってきて、彼が抵抗をやめ、彼らが用意した文書に署名するまで、殴られた、という。そして今、彼も家族もいつ、中国に強制送還されるか恐怖の日々を送っている。
今も拘禁されている アディヤーのもとに、UNHCR 職員が訪問したが、開放には至らず、彼の妹のトゥルゴワアは「タイ入国管理局が、難民と人権に関する国連の条約を無視して、中国の国家安全保障当局と手を組んでいることは明らかです」と悲嘆にくれている。

彼ばかりではない、耐えがたい迫害を受けてタイに逃げてきた中国・深圳の深圳改革宗聖道教会の牧師と信徒60人も、今年9月にバンコクに着いて間もなく、監視され、ビデオにとられ、脅迫電話やメッセージが送られてきた。AP通信の取材に応じた潘永光(パン・ヨングアン)牧師は「私たちへの迫害は激しくなっている」とし、「自分たちは国外に出たにもかかわらず、中国共産党は私たちを追跡し、親戚を”担保”にして、帰国させ、捕まえることを当然と考えている」と訴えた。在タイの中国大使館は、彼の生まれたばかりの子供にパスポートを発行するのを拒否し、「無国籍」にされたという。

 タイ政府による難民の権利無視の”対中協力”は今に始まったことではない、2009 年 7 月に新疆ウイグル自治区の首都で大規模な暴動が起きた後、紛争を避けてタイに入国したウイグル人のヌル・モハメッド氏は、タイ当局の手で、中国当局に引き渡された。

 2016 年に、タイのプラユット 首相 は、ニューヨークの国連本部での「難民に関するリーダーズ サミット」に出席し、「タイ政府は、国境沿いに住む何万人もの避難民に人道支援を提供しており、生命・人権の危機から逃れようと入国する人々の未来を築く手助けを続けていくこ」と約束した。これは、今、長期拘禁されているウイグル人59人に対するものとは、真逆の対応だ。

 タイ国境の辺境の地に難民として暮らすウイグル族の人々は、施設内の不衛生で混雑した状態について不満を漏らしている。彼らの中で、 3 歳の男の子を含む 3 人が死亡し、最近では 27 歳の男性ががんで亡くなった。世界ウイグル会議のドルクン・イサ会長は「ウイグル人の問題を解決するために、タイ政府がすぐに行動を起こさなければ、このような悲劇はさらに繰り返されるだろう」と警告する。

 こうしたタイ政府の非道な扱いにハンガーストライキで抗議する者もいれば、今年 6 月に施設から脱走したものもいる。脱走者のうち 11 人はマレーシアにたどり着き、マレーシア政府の承認を得てトルコに逃れた。

 すでに3年前、2019 年の世界難民の日のスピーチで、 Uyghur Human Rights Project のオメール・カナット事務局長は「タイ政府が収容しているウイグル難民は解放されるべきだ。彼らは約 5 年も自由を奪われている。今こそ、彼らの不確実性の痛みに終止符を打つ時だ。彼らが中国に送還されれば、迫害者の手に落ちることになる」と、タイ政府に速やかな対応を訴えていた。

 世界ウイグル会議のイサ会長は、「タイ当局はこの恐ろしい扱いを終わらせ、これらの難民を直ちに解放しなければならない」と改めて訴えている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。
2022年11月10日

・「旧統一教会は信教の自由を侵害」「国は適切な対応を」宗教学者25人が異例の声明 (弁護士ドットコムニュース)

 声明には迅速な動きを求める文言があるものの、会見では政治の性急な動きにたいして慎重な意見が目立った。質問権の基準を決める専門家会議が非公開であることなどを挙げ、宗教法人法に基づく法的手続きは「適切に、公正に、透明性を持って」と注文した。

●研究者として見解示す責任がある

 櫻井氏によると、25人は国内の宗教研究関連の大学はほぼ網羅しているという。宗教学者が連名でこうした声明を出すことは異例で、島薗氏は「日本宗教学会が2018年のゲノム編集の子どもの誕生について」の共同声明を出して以来だとする。

 島薗氏は、安倍元首相の銃撃事件以降、宗教に注目が集まり、国民もメディアもどう捉えればいいか戸惑いが広がっていると説明。このタイミングで発出したのは「解散請求が視野に入ってきており、どういう対処が好ましいのか検討するには、社会に対して研究者として見解を表明する責任がある」と判断したからだという。

●解散命令請求は「視野に」

 声明では、正体を隠した勧誘は「信教の自由」を侵害し、家計を逼迫させ破産に追いこむほどの献金要請は公共の福祉に反すると指摘。「人権侵害に対して教団としての責任を認めてこなかったことは許容できない」とし、行政に「迅速かつ適切な遂行」を求めている。

具体的には、以下の4点を盛り込んだ。

▽宗教法人法の報告・質問権を速やかに行使して事態を把握すること

▽確定した裁判の判決、宗教家や法律家への専門的な調査などをもとに、宗教法人審議会における公正な検討

▽法令遵守に違反し公共の福祉を害するものがあれば、裁判所への解散命令請求も視野に入れること

▽霊感商法や高額献金被害者の救済と2世信者への支援

2022年10月29日

・バチカンと中国の暫定合意再更新に、米国際信教の自由委員会が「非常に失望している」

National Correspondent John Lavenburg)

 ニューヨーク – バチカンは22日に中国との司教任命に関する暫定協定の再更新を発表したが、米国際信教の自由委員会(USCIRF)は、これを「非常に失望」しており、それを米国政府の上層部にも伝えた。

 USCIRFのステファン・シュネック委員長はCruxとのインタビューで、「バチカンは、中国との関係で”長期戦”を繰り広げており、差し迫った状況については考えていないが、この暫定合意が中国におけるカトリック教徒の信教の自由を改善することにはならない、と思う。”習近平と踊る”ような決定は是非とも考え直す必要がある」と強調している。

 バイデン大統領は今年6月、カトリック教徒のシュネック氏を9人のメンバーからなる委員会のトップに任命した。 USCIRF は独立した超党派の連邦委員会であり、世界の信教の自由に関する状況を監視し、米国政府と議会に報告する役割を持っている。

 中国のカトリック信者は長い間、中国政府・共産党が認めた”公式教会”に属する人々と、教皇のみに忠誠を誓う”地下教会”に分裂してきた。

 USCIRF は今春、発表した 2022 年の年次報告書で、「司教の任命に関するバチカンと中国の暫定合意にもかかわらず、中国当局は、国家管理の中国天主愛国協会への参加を拒否する『地下教会』の司祭たちを拘束するなど嫌がらせを続けている」と指摘している。

 中国当局による民主化運動のせん滅がなされた香港では、陳日君・枢機卿が、中国国家安全維持法で禁じる「外国勢力との共謀」容疑などで逮捕、起訴され、今月26日から裁判を始めている。香港メディアのリーダーで民主運動の先頭に立ってきたジミー・ライ氏はこれより先に、2019 年の民主化運動の一環としての無許可デモに関与した罪で懲役 20 か月の刑を受け、さらに国家安全維持法違反容疑で裁かれており、終身刑を宣告される可能性もある。

 シュネック委員長は、バチカンの中国との暫定合意の再更新に関連して、地下教会のカトリック教徒たちの状況と陳枢機卿、ライ氏の事例を挙げ、「非常な懸念を持っている」とし、 「”長期戦”で中国側が何を望んでいるのか想像するのは、極めて難しい。中国におけるカトリック教徒の現在の状況は、バチカンが懸念すべきことだ」と指摘。

 「問題の一つは、暫定合意の内容についての透明性の欠如にある。そうした暫定合意の下で、中国における諸宗教の”中国化”政策が、宗教を中国の文化・社会に従わさせていくことを懸念している」とし、さらに、「私見だが、中国側はこの暫定合意を利用して、”地下教会”に対する取り締まりをさらに強めているように見える。本当にそうであれば、バチカンは中国に”負けて”おり、このような問題に全く足を踏み入れていないことを意味する」。

 2018年9月の暫定合意で、司教の選任は、中国側が提示する候補者の中から、教皇が任命することになったとされているが、合意の段階で中国側が教皇の同意を得ずに任命していた司教を教皇が追認した後は、これまで4年の間に新たに双方合意のもとに任命された司教は6人にとどまっている。

 そのような暫定合意の再更新を発表した際、バチカンは「カトリック教会の使命と中国の人々の善を促進するという見地から、合意の生産的な遂行、そしてさらなる二国間関係の発展へ、中国側と敬意を持った建設的な対話をこれからも続ける」と説明していた。

 更新が中国のカトリック教徒にどのようなメッセージになるのか、との質問に対して、シュネック委員長は「彼らを困惑させていると思う」とし、「信徒たちにとって、誰が司牧者なのか?司牧者たちは、国家の教会から来るのでしょうか?」と問いかけた。

 (翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2022年10月27日

・「中国国内の問題は認識しているが、対話継続が必要」ー暫定合意再更新でバチカン首脳たち(Crux)

(2022.10.22 Crux  Senior Correspondent   Elise Ann Allen

*「暫定合意は、将来の自由な信仰への”前払い”」

 ローマ発 – バチカンが22日、中国政府との司教任命に関する暫定合意を再更新したことを正式発表したが、2 人のバチカン高官は、これを称賛し、課題があることを認めつつも、「中国のカトリック教徒が将来的により自由に信仰を行使することへの前払いだ」と語っている。

 再更新された暫定合意の具体的な中身は、2018年9月の初合意以来、明らかにされないままだが、ベトナムとの合意の内容をモデルにし、教皇は中国政府が提案する司教候補者の中から司教を任命できる、というものと見られている。

 2018年9月に暫定合意がなされたのを受けて、教皇フランシスコは、中国政府・共産党の管理・監督下にある中国天主愛国協会が教皇の同意なしに任命していた司教8人をそのまま、正式承認した。その後、これまでの4年間で新たに司教に叙階されたのは6人だ。

*香港では民主化運動支援の陳枢機卿が当局に逮捕、裁判にかけられている

 現在、香港では、元教区長の陳日君・枢機卿が民主化運動を支援した「中国国家安全維持法」違反容疑で、逮捕されて、裁判にかけられているが、暫定合意の再更新に批判的な教会関係者は、「教皇のみに忠誠を誓っているとして迫害されている司祭や信徒たちを、迫害の張本人である中国政府・共産党に売り渡そうするものだ」と批判する。

 1949 年の共産党による中国の政権奪取以来、中国のカトリック教会は、政府・共産党に協力する”公式教会”と政府の支配に抵抗する”地下教会”に分裂しているが、暫定合意の支持者たちは「70年を経て、中国のカトリック教会は一つの体として機能することができる」と言う。

 

*「”暫定合意”を続けているのは、有効性を検証するため」と国務長官

 バチカンのパロリン国務長官は22日、Vatican Newsのアンドレア・トルニエリ編集長と会見し、暫定合意の再更新に関連して「私たちはまだ”実験段階”にある」ため、この合意はまだ暫定的なものとして位置付けられている、とし、「常にそうであるように、このような困難でデリケートな状況は、結果の有効性を検証し、可能な改善を特定できるようにするために、十分な時間が必要です」と説明した。

 そして、新型コロナウイルスの大感染が両者の交渉の障害となったが、「(教皇フランシスコは)決意と忍耐強い先見性をもって、バチカンと中国が現在の道を歩み続けることを決定したのです… 人間が作るルールが完璧だというような幻想を抱くことなく、しかし、中国のカトリック教会共同体が、彼らに信を置く働きのための価値ある、ふさわしい司牧者たちの導きを受けることを確実にするという希望をもって、です」と強調。

 また、再更新した暫定合意の具体的な内容を明らかにすることを拒みつつ、「中国当局が表明した必要と、カトリック教会共同体の必要の両方が考慮されている」と述べ、2018年9月の暫定合意以来の成果について、「中国のカトリック教会のすべての司教が、ローマと完全に交わりを持つようになっただけでなく、『違法な司教叙階』もなくなった… (司教任命について)教皇に最終的かつ決定的な発言権を与える確立された手順がとられるようになった」と主張した。

*「中国の教会が負った傷を徐々に癒す重要なステップ」

 また、2018年9月以降に、中国政府・共産党の同意を得ずに”秘密”に叙階されていた司教6人が、正式に司教とされたことを明らかにし、「これは彼らの地位が、中国当局によって公式に認められたことを意味し、公的機関によって司教として認められていることを意味する」としたうえで、「これは小さな成果に見えるかもしれないが、信仰の目で歴史を見る人にとって、過去の出来事で中国の教会が負った傷を徐々に癒す重要なステップです」と、その意義を説明した。

 

*「中国の教会の困難は多い、解決策を”複数の主役”がいる中で考える必要」

 その一方で国務長官が、暫定合意とその再更新について、教会内外から批判が出ていることを認め、「中国のカトリック教会共同体の具体的な活動に影響を与える多くの困難はまだあります… そうした問題に、バチカンの最大限の注意を払っています」とし、これらの問題に対する新しい解決策は、「”複数の主役”がいる協力関係の中で考え出さねばなりません」と語った。

 さらに、(中国政府・共産党の対応に)懸念が続いているにもかかわらず、バチカンは、「司教の任命に関する暫定合意が限定的ではあるが、(中国との関係にとっても、中国国内の教会共同体にとっても)重要な部分を占める」との判断し、「中国との建設的な対話の道を、あらゆる反対を超えて継続する」ことを選択した、と改めて説明。「この旅の最終的な目標は、中国のカトリック信者の『小さな群れ』が、平穏かつ自由に信仰生活を送る可能性を高めていくことにある」と強調した。

 

*「暫定合意は中国で教会の活動に関わる重要なもの、長期的な観点から意味がある」とタグレ枢機卿

 また、バチカン福音宣教省の初期宣教部門の長であるアントニオ・タグレ枢機卿も、Fides News とのインタビューで、暫定合意の再更新を「正しい道へのもう 1 つのステップ」と称賛。「再更新は、正当な使徒的継承と中国のカトリック教会の秘跡的性質を守るため… これは中国のカトリック教徒を安心させ、慰め、活気づけるものです」と述べた.

 「暫定合意は、中国との外交関係樹立の”前払い”だ」という一部の批判に対しては、「暫定合意は、教会の活動にとって非常に重要な問題に関わるもの。脇に置くことはできない。単なる外交戦略の一部とみなされるべきではありません」と反論。

 2018年9月の暫定合意で、直後に、中国側が一方的に選んでいた司教たちを教皇が正式に司教と認めた後、教皇の”主導”で新たに司教となった者が4年間で6人にとどまっていることについては、「長期的な観点から意味がある」と説明した。

 また、「(司教選任などをめぐる対話の中で)中国側の主張や反対意見に耳を傾けることで、相手の立場や考え方を考慮するようになります… 私たちにとって完全に明白なことが、彼らにとって新しく、これまで知らなかったことである可能性があるのを知ることもできる… 教会は、中国人が彼らの目的をよりよく理解するのに役立つ方法と言葉でその優先事項を表現する新しい方法を発見することが可能になります」と対話継続の意義を強調。

 

*「暫定合意は“過程の一部”、現実的対処に誰かが手を汚す必要」

 2018年9月に暫定合意がなされて以来、「誰も単純な勝利を収めたことはない」と述べ、「暫定合意を支持するバチカン関係者たちは、”素朴な楽観主義”のもとに対応を続けている」との批判に反論した。

 さらに、タグレ枢機卿は、「教皇庁は、暫定合意がすべての問題の解決策であるとは決して述べていません。道のりは長く、疲れる可能性があり、合意自体が誤解や方向感覚の喪失を引き起こす可能性があることは常に認識され、確認されてきました… 暫定合意に対する中国のカトリック信者のさまざまな反応を、誰も無視はしていませんが、暫定合意は、”過程の一部”であり、いつも誰かが、物事の現実に対処するにあたって、手を汚さなければならないのです」と、本音に近い言動に及んだ。

 そして、「中国のキリスト教徒が直面している過去、さらには現在の困難」に言及し、「教皇庁の選択は、苦難の時代にキリストへの信仰を告白した人々へのこの認識と感謝から正確に出発してなされています… 教皇庁は中国政府の代表者と対話にあたって、敬意を持ったスタイルを持っていますが、(中国当局の)不適切な圧力や干渉から生じるカトリック共同体の苦しみの状況を決して無視せず、実際に、相手にその問題を提示しています」とも述べた。.

 

*「具体的、実利的なアプローチが必要、だが教会の奥義を理解することは期待せず」

 暫定合意に基づき、教皇が、中国側が一方的に”叙階”していた司教6人の破門を解除し、司教として公認したにもかかわらず、中国側が、教皇が叙階したいわゆる”地下司教”6人を司教として認めていないことについて、タグレ枢機卿は、「中国側との対話で常に考慮される問題です… この問題の解決に有利になるようにするには、司教を『役人や職員』とみなされず、使徒の後継者であることを心に留めておくことが、おそらく有益でしょう」と説明した。

 また、中国の伝統を踏まえた彼自身のアプローチについて尋ねられた枢機卿は、「教会の問題に関する中国政府との対話について、対話相手の具体的で、実利的なアプローチに合わせて、率直かつ直接的な議論を目指す方がよい、と考えることがあります… 彼らが教会の奥義を深く理解することは期待できません」と率直な見解を語った。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

2022年10月23日

・「暫定合意は、中国での教会の日常活動の基本的要素」ーパロリン国務長官が再更新で説明

Cardinal Secretary of State Pietro ParolinCardinal Secretary of State Pietro Parolin 

    バチカンで対中国政策の責任者であるピエトロ・パロリン国務長官が22日、Osservatore Romano、 Vatican News と会見し、中国との司教任命に関する暫定合意の再更新について、その理由や意義について説明した。

 パロリン国務長官は会見で、「暫定合意の核心は、確かに中国との組織的、文化的な対話の強化の側面もあるが、重要なのは、中国における教会の日常活動に不可欠な側面だ」などと語った。一問一答は以下の通り。

(以下、バチカン放送訳)

Q:教皇庁が今回の司教任命をめぐる暫定合意の延長を選択するまでの経緯を教えてください。

国務長官: 2018年9月22日、教皇庁と中華人民共和国の政府は、司教の任命をめぐる暫定合意書に署名しました。この合意が「暫定」であったのは、その時まだ実験的な段階にあったからです。

 よくあるように、これほどにも難しくデリケートな状況には、その施行のために、またその効果や改良すべき点を見極めるために、ふさわしい時間が必要です。そして、ご存知のように、新型コロナウイルスによる世界的大感染が起き、当然、それは合意の施行を注意深く見守り評価するための、両使節間の会合の妨げとなりました。

 こうしたことから、合意の有効期間をまず2020年まで延期し、そして今回再び、それをもう2年間延長することになりました。教皇フランシスコは、決意と忍耐強い先見性をもって、このプロセスを進むことを決定しました。それは「人間の規則の完璧さを追求する」という幻想の中にではなく、たとえこのように複雑な状況においても、「その託された使命にふさわしい司牧者の導きを中国のカトリック共同体に保証する」という具体的な希望のうちにそれを決定されたのです。

Q:中国において新しい司教を指名するためには、北京の政府との間で合意した特殊な手続きを踏まなければなりませんが、それについてはどうでしょうか。

国務長官:歴史上、教皇庁が司教任命のデリケートで重要な問題において、ある国の特殊な状況を考慮し、その手続き上の合意に達したことはしばしばありました。しかし、それは「優れた司教の任命」という、教会にとっての本質かつ基本をおろそかにするものではありません。中国とのこの合意に基づく司教任命のプロセスは、中国の歴史と社会の特徴や、結果としての中国の教会の発展を認識し、注意深く熟考されたものです。

 こうした中で、ここ数十年、カトリック共同体が置かれた苦しみに満ちた、時には引き裂かれた状況を思い起こさない訳にはいきません。その一方で、「中国当局の要求」と「カトリック共同体が必要としているもの」を考慮することは慎重で賢明なことに思われます。

Q:暫定合意が施行されてからこの最初の4年間に、どのような成果が得られましたか。

 直ちに得られたものとして、主に3つの成果がありましたが、将来これにさらなる成果が続くことを願っています。

 一つは、2018年の「合意」と同時に、「中国のカトリック教会のすべての司教は、教皇との完全な交わり」の中にあります。そこにはもう非公認の司教の叙階はありません。普通の信徒たちにとって、それはあらゆる司祭によって捧げられる毎日のミサの中で感じることができるでしょう。実際、ミサ中のエウカリスチアの祈りでは、はっきりと教皇に言及します。これは数年前までは考えられなかったことでした。

 二つ目の成果は、この「合意」の精神と、「教皇が最後に決定権を持つ」という定められたプロセスに基づき、6人の司教が叙階されたことです。

 三つ目の成果は、この期間に、最初の6人の「非公認」司教が、公的機関から司教として認められたことで、その「司教としての立場を公式化」することができました。

 これらは小さな成果のように見えますが、信仰の眼差しをもって歴史を見つめる者にとっては、教会の交わりが過去の出来事から受けた傷を徐々に癒すことに向けた、重要なステップなのです。

 必要なら、もう一度強調したいと思いますが、「合意」はもちろん制度・文化上の良い対話の定着に関わるものですが、とりわけ「中国の教会の毎日の活動に必要な本質的要素に関するもの」なのです。たとえば、秘跡の有効性や、中国の数多くの信者たちが「自国に忠実な市民ではない」との疑いを持たれることなく、カトリック教会との完全な交わりを生きられる確かさに関わる問題なのです。

(編集「カトリック・あい」)

 

2022年10月22日

・バチカン、司教任命に関する中国との暫定合意を再更新を発表

教皇庁と中国間の司教任命をめぐる暫定合意を延長中国のカトリック教会(©WaitforLight – stock.adobe.com)

(2022.10.22 バチカン放送

 バチカン広報局が22日、かねての予想通り、バチカンと中国政府の司教任命に関する暫定合意を再更新した、と発表した。

 広報局が発表した声明は以下の通り。

 「教皇庁と中華人民共和国は、適切な協議と検討の結果、2018年9月22日に締結され、2020年10月22日に最初の延長がされた司教任命をめぐる暫定合意を、さらに2年延長することで一致した。

 教皇庁側は、当暫定合意の有益な実施と、両国関係のさらなる発展のために、カトリック教会の宣教と中国国民の善への寄与を考慮しつつ、中国側との尊重的かつ建設的対話を継続する意向である」。

 教皇フランシスコは、今年7月の通信社ロイターへのインタビューで、教皇庁と中国間の司教任命をめぐる暫定合意について、「ゆっくりなペースではあるが、順調です」と語り、今回の合意の再延長に期待を表明していた。

(編集「カトリック・あい」)

2022年10月22日

・バチカン、司教任命に関する中国との暫定合意を再更新へー陳枢機卿の逮捕、裁判は無視?(Crux)

(2022.10.20 Crux Senior Correspondent   Elise Ann Allen

2022年10月21日