・「台湾海峡」「ウクライナ侵略」について中国国民の意識・世界初~言論NPO日中共同世論調査結果

(2022.12.6 カトリック・あい)

 言論NPOは11月30日、18回目となる日中共同世論調査結果を公表した。内容は次の通り。

 

【第18回日中共同世論調査結果】

 

ロシアのウクライナ侵略で世界の平和は不安定化し、米中の対立はこの北東アジアの緊張を高めています。日本と中国は今年、国交正常化50周年を迎え、3年ぶりとなる首脳会談も行われましたが、コロナ感染の影響から国民の交流が停止する異常な状況が続いています。

今回の世論調査はこうした不安定な世界やアジアの緊張が高まる中、両国でこの夏に実施されたものです。これまでの調査で設問に入れることで合意ができなかった台湾海峡の問題やウクライナへのロシア侵略の是非についても今回は採用となり、中国国民が、「台湾海峡」と「ウクライナ」で回答する、世界でも初めての調査になります。

*「台湾海峡」での紛争の可能性を中国国民の約6割が意識

 

今回の世論調査でより明確になったのは、深刻化する米中対立が日中両国民の意識に大きな影響を与えていることです。

両国民は、北東アジア地域の平和に不安を高め、日中関係に対する意識にも米中対立の行方が色濃く反映しています。

両国民が東アジアの紛争の可能性を最も意識しているのは「台湾海峡」であり、「台湾海峡」を選んだ日本国民は25%(昨年は13.4%)、中国国民は48.6%(同39.6%)と昨年よりも大きく増えています。

さらに、台湾海峡での「軍事紛争の可能性」については、数年内か近い将来に軍事紛争が「起きる」と見ている日本国民は44.5%と半数に迫ったほか、中国国民では56.7%と6割近くになっています。

この調査結果は、言論NPOと中国国際出版集団が2005年から18年間継続して実施しているものです。中国の国民世論が18年間、継続的に調査され、公開されるのは、世界でもこの調査だけです。

日本の調査は18歳以上の男女を対象に2022年の7月23日から8月14日まで日本全国で訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000。中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に同年7月23日から9月30日にかけて調査員による面接聴取法により実施されました。有効回収標本は1528です。

台湾海峡で軍事紛争は起きるか.gif

 

また、台湾海峡での緊張の原因を、日本国民の63.7%が「中国」と見ているのに対し、中国国民の52.5%が「米国」と考えており、「米国と日本」が25.8%、「台湾」が11.7%で続いています。

注目されるのは、こうした米中対立の深刻化が、日中両国民のこの地域の平和に向けた意識をこの一年で大きく変えたことです。その傾向は中国に顕著に見られます。

東アジアの未来で日中両国が目指すべき目標は「平和」だという両国民の意識は昨年を大きく上回り、日本国民が55.1%(昨年53.8%)、中国国民が64.3%(同54.6%)と、それぞれ半数を超えています。

そして、この地域で合意すべき課題で日中両国民が最も多く選んだのは「平和共存」で、昨年よりもそれぞれが増加しています。さらに、中国で「不戦」を選ぶ人が、昨年の14%から今年は49.3%と大幅に増えています。

*中国国民もロシアは「間違っている」「反対」が半数超える

 

今回、初めての設問となったのが、ロシアのウクライナ侵略に対する是非です。

「国連憲章や国際法に反しており、反対」と考える日本国民は73.2%と圧倒的ですが、中国国民ではロシアの侵攻を「間違っていない」が39.5%と最も多くなっています。しかし、中国国民で「反対」だと考える人は21.6%、「ロシアの行動は間違っているが、ロシアの事情は配慮すべき」が29%となっており、「反対」、あるいは「間違っている」を合わせると50.6%と半数を超えています。

ロシアのウクライナ侵攻に関する評価.gif

ウクライナ衝突に対する日中協力の具体的な対応では、中国国民の方が積極的な姿勢を見せています。

中国国民で最も多いのは「難民の救出や人命救助での人道支援」の57.9%で、「停戦の早期合意と合意後の国連平和維持軍の派遣が、48.2%で続いています。これに対して、日本国民は「人道支援」が40.4%、「平和維持軍」は23.7%です。日本国民で最も多いのは、「ウクライナへの経済支援や生活資材の提供」の41.7%となっています。

*中国国民の対日認識や感情に見られる「米中対立」の影響

 

深刻化する米中対立は両国民の相手国や日中関係に対する認識に対する影響を高めています。

日中両国民の相手国への印象は昨年よりもわずかに改善しましたが、それでも日本人は87.3%と9割近くが中国に「悪い」印象があり、中国人は62.6%と6割が日本に「悪い」印象を持っています。

こうした国民意識は、現在の特別な状況を考慮する必要があります。

日中間では、政府間の外交は本格的に動いておらず、さらにコロナ禍で相手国への渡航はピーク時の10分の1に減少しています。政府間だけではなく、国民交流がほとんど動いていないのです。こうした環境下では両国民は自国メディアの報道を利用して、相手国を理解するしかありません。

相手国に「悪い」印象を持つ理由では、日本国民で最も多いのは「尖閣周辺での中国の領海侵犯」が58.9%、「共産党の一党支配という政治体制に違和感がある」が51.5%の二つです。中国国民が日本に「悪い」印象を持つ理由は、昨年同様、「中国の過去の侵略をきちんと反省していない」が78.8%と圧倒的で、「日本が尖閣諸島を国有化し、対立を引き起こしている」が58.9%で続いています。

しかし、今年は、中国側に日米関係を意識する項目が急増したのです。

例えば、「日本が米国と連携して中国を包囲している」が37.6%(昨年は23%)、「外交において米国に追随する行動が理解できない」が21.1%(同8.3%)と、この一年で軒並み増加しています。

(中国世論)日本に対する良くない印象の理由.gif

現在の日中関係に対する意識は今年も改善の兆しは見えません。

今の日中関係を「悪い」と見る日本国民は56.2%と昨年の54.6%よりも悪化しています。中国国民は昨年(42.6%)よりやや改善して37.7%ですが、まだ改善と言える状況ではありません。今後の日中関係も、「悪くなっていく」と判断している日本国民は37.1%、中国国民では29.1%もあり、それぞれ昨年よりも増えています。

日中関係の今後を考える上での障害になり始めているのが、米中対立の行方です。

米中対立が日中関係に悪い影響を与えていると判断する中国国民は63.7%(昨年は61.9%)、日本国民で59.8%(同54.7%)と、それぞれ6割程度で、昨年よりも増えています。

両国民が、日中関係の障害として強く考えているのは、「領土対立」と、「国民間の信頼関係」と「政府間の信頼関係」ですが、今回中国国民で急増したのが、「米中対立の行方」であり、今年は26.4%で昨年の3.1%から8倍以上に増加しました。

また、「日米同盟と日本の軍事増強」も22.6%で昨年の19.5%より増えています。

*日中関係が重要なのはアジアの平和と安定で協力が必要だから

 

注目されるのは、こうした局面でも日中関係が「重要だ」と判断する国民は、日本国民が74.8%、中国国民が71.2%と7割を超え、いずれも昨年を上回っていることです。特に日本では、日中関係が重要だと考える人が昨年から8.4%も増加しました。

ただ、その「理由」には変化が見られます。

日本国民では、昨年同様、「中国が重要な貿易相手」が59.8%で最も多く、「アジアの平和と安定に日中協力は必要」(48.7%)が続いています。

これに対して、中国国民は「アジアの平和と安定に日中協力は必要」が41.6%と、昨年の25.3%から大幅に増えたのです。

なぜ日中関係は重要なのか.gif

現状の日中関係の改善で最も有効なことは何か。ここにも中国側に同じ変化が見えます。

両国民が共通するのは、「政府間の信頼向上」(日本31.8%、中国31.2%)、「両国首脳の信頼関係の強化」(日本24.7%、中国26.8%)や「尖閣諸島の領土問題の解決」(日本25%、中国40.4%)です。

この一年で見ると中国国民で急増したのは、昨年の29.2%から大きく増えた「尖閣諸島の領土問題の解決」(40.4%)であり、「北東アジアの紛争回避や持続的な平和実現への取り組み」も16.2%と、昨年の4.8%から増えています。

中国国民の関心はこの一年で、北東アジアの平和や紛争回避に向かっているのです。

今年は日中国交正常化50周年です。50周年後の今の日中関係を「満足している」日本国民は6.1%しかなく、43.9%が「不満」です。中国国民は「満足している」が35.3%ですが、「不満」は50.5%と半数を超えています。

国交正常化50年後の日中関係に満足しているか.gif

「不満」の理由で、両国民で最も多いのは、「現状の両国関係が友好的でないから」が両国民共に4割を超えています。

日本国民で次に多いのは、「国交正常化時に期待した地域の平和と安定がいまだに実現していない」の30.8%、中国国民は「両国政府間での様々な合意がほとんど機能していない」の24.6%です。

これに関連して、この国交正常化の際に合意され、5年後に実現した日中間の平和友好条約について、両国民の半数近くが、「機能していないか、既に形がい化している」(日本48.2%、中国45.2%)と考えています。

さらに、今回の調査では、2018年に運用が開始された日中間で偶発的な軍事衝突を避けるための海空連絡メカニズムを、「不十分だと思う」という人も、日本国民で52.4%(昨年43.4%)、中国国民で40.7%(同37.7%)と4割を大きく超え、それぞれ昨年よりも増えています。

両国の民意は、平和や紛争回避への取り組みを求めているのです。

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2022年12月7日