(2020.7.13 LaCroix Berlin, Gwénaëlle Deboutte)
5月1日のドイツ中西部、ケーヴェラー(ドイツ中西部、オランダ国境沿いの町、カトリックの巡礼地として知られ、毎年80万人を超える巡礼者が訪れる)のカトリック教会で (FABIAN STRAUCH / ZUMA PRESS / REA)
プロテスタントの父とカトリックからプロテスタントに改宗した母の間に生まれたララは、信仰の中で育てられたが、あまり厳格に教えを受けることはなかった。「私はキリスト教に一連の価値観があると思います。神は私にとって心強い存在です。だからといって、教会での祭儀に出ることで信仰に敬意を払う必要があるとは感じていません」。
これが、この30歳のベルリンに住む女性が、信徒名簿から籍を抜き、所属教会からすぐにも離れたい、と考えている理由だ。そして、彼女のように、教会に背を向けるドイツ人が急速に増えている。
ドイツ・カトリック司教協議会とドイツ福音教会が6月26日に発表した年次統計によると、2019年に教会の信徒名簿から籍を抜いた信徒は、カトリックが27万2771人、プロテスタントが27万人で、合わせて54万人を超えた。前年に比べて24パーセントも増えている。記録的な増え方だ。
司教協議会のイエズス会士、ハンス・ランゲンドルファー事務局長は「この数字は私をゾッとさせ、心配させます。なぜなら、(注:教会を離れて行く人たちは)人の自由と神との絆について語る私たちのメッセージを、もはや受け取らないからです」と述べ、「こうした絆の喪失を理解するために、公明正大で率直な原因分析をする必要があります」と語った。
*社会の世俗化と個人主義の高まり
信徒たちの教会離れについては様々なことが書かれてきたが、いくつかの理由がある。
人口の高齢化に加えて、信徒の教会への信頼は、過去10年間、教会内部の金銭スキャンダルと聖職者による性的虐待によって、大きく揺さぶられてきた。教会改革を求める人々は、女性の教会における役割の向上、同性愛者の受け入れについての教会の保守的姿勢によって、意欲を失った。
だが、ドイツ福音教会の理事を務めるステファニー・スプリンゲル女史は、「教会を離れる信徒の規模の大きさは、そのような説明だけでは説明しきれないことを示している… 社会の世俗化と個人主義の増大が関係している、と思います。参加人数の減少は、スポーツでも、人道支援の分野でも、大きな流れになっています」と語り、さらに、消費主義の蔓延にも原因がある、と指摘。
「昨年のこと、地中海で移民たちの為に救援船に共同出資をしたのですが、私たちの教会の信徒の中に、これにあからさまに異議を唱え、『教会から出たい』と言う人が現れたのです。以前は、自分は賛成でなくても、教会の決定には満足していたのですが…」と、信徒の間に出てきた態度の変化を悲しんだ。
*教会離れは宗教税の納税義務の放棄に
財政的な問題も見過ごせない。ドイツには「教会税」というものがあり、洗礼を受けたすべての人に納税義務が課せられ、所得税の8ないし9%を占めている。つまり、教会から籍を抜く、ということは、教会税の納税を拒否することを意味するのだ。
インターネットで情報サイトを運営するRenéMeintzの調査によると、調査に応じた人の41㌫が「教会税を納めないために、教会から籍を抜いた」と答えた。とくに若者に目立っている、という。
こうした結果について、フライブルグ大学で教会法を専門にするゲオルグ・バイエル教授は「教会はもはや、人々の問いかけに答えることができず、彼らの生活に意味を与えることがでなくなっているのです」と説明し、さらに、「自分が属していると思えなくなった教会に金を払い続けることに、疑問を抱いている」と指摘した。
冒頭に登場したララは、これまで月々、40ユーロ(約5000円)から50ユーロ(約6000円)の教会税を払ってきたが、「教会税を払っていなかったら、(注:納税義務のない)子供の時のように、消極的な信徒のままだったでしょう」と語る。
*教会への信頼回復へ全関係者挙げて「シノドスの旅」を始めたが…
だが、ドイツのカトリック教会あるいは福音派教会が教会税という財源を放棄するつもりがないのは、疑いの余地がない。ランゲンドルファー事務局長は「教会税は、教会収入と相関関係にあるため、経済的に適切な税制であり、とても重要なものです。なぜなら、そのような財源がある為に、私たちは十分な司牧ができ、若者たちや国際的な連帯の活動にも支援の手を差し伸べることができるから」と、教会活動にとっての教会税の意味を強調した。
そして、教会が信徒たちの信頼を取り戻すことのできる唯一の方法は、信徒1人ひとりとの個人的な絆を刷新することだ、と指摘し、「人々との関係を深め、福音のメッセージを伝えようとする際に、教皇フランシスコがなさるように、私たちに求められているのは、自分の信仰についてもっと話し、実生活でそれを実践すること」と自戒を込めて語っている。そして、このことこそ、ドイツのカトリック教会が昨年12月から取り組みを始めた「シノドスの旅」ー全国230人の司教たち、教会の代表者たち、そして一般信徒たちが一緒になってカトリックを刷新しようとする運動ーの目的なのだ。