・「世界の人口の3分の2が住む国々で信教の自由が脅かされている」-国際NGO「信教の自由報告」最新版(Crux)

 A displaced woman holds her child outside a school while waiting with others to receive food being distributed by Catholic Relief Services in Kaya, Burkina Faso. Catholic and Muslim leaders are working jointly to deter youth from terrorist violence in Africa’s Sahel region. (Credit: Olympia de Maismont/Catholic Relief Services via CNS.)

(2021.4.20 Crux  ROME BUREAU CHIEF  Inés San Martín)

ROME – 国際カトリックNGO「Aid to the Church in Need (ACN)」が20日発表した2021年版「信教の自由報告」によると、世界の約52憶人が信教の自由が確保されない国に住んでおり、最も迫害を受けているのはキリスト教徒だ。

 多くの人々が深刻な宗教的迫害を受けているのは、中国、インド、パキスタンで、宗教的少数派の人々が標的にされており、特に最近、(注:中国など)独裁専制政権による迫害が酷くなっている、という。

 また報告書では、これらの国々では、宗教的少数者たちに対する”武器”として性的暴力を振るうケースが増加しており、成人女性や少女たちを拉致、強姦、強制的な棄教などが目立っている。

 アジアのヒンズー教徒や仏教徒が多数を占めている国の中には、宗教的少数者を”二級国民”とするなど差別をする国もある。インドは最も極端な例だが、パキスタン、ネパール、スリランカ、ミャンマーなどでも同様の政策がとられている。

 さらに、信教の自由は、それ自体の中に「人間の良心が関わり、したがってすべての人の尊厳に関わっており、すべての自由の核心。したがって、いかなる形でもこれに違反する行為は認められない」とする一方、 「残念ながら、国連などのイニシアチブによる信教の自由確保への努力にもかかわらず、宗教を理由にした暴力や、その他の理由での宗教的迫害に対する国際社会の対応は鈍すぎる」と国際社会の真剣な努力を訴えた。

 この報告書では序文で 「シリア、イエメン、ナイジェリア、中央アフリカ共和国、モザンビークのいずれであっても、暴力的な紛争の背後には、人類の最も深い信念を操作し、権力を求めて、宗教を道具化しようとする人々がいる 」と指摘している。

 報告書は1999年以来、2年毎に、英、仏、独、伊およびポルトガル、スペインの6か国語で発行され、800ページにのぼる膨大な内容が盛り込まれている。本文では、「チリ:教会の深刻な事態」「ナイジェリア:学童の大量誘拐」「パキスタン:性的暴力と強制改宗」など、個別国の事例研究が盛り込まれる一方、地域ごとの最近の傾向についての論述もあり、アフリカ大陸、特にサハラ以南と東アフリカでの虐待の過激化が目立ち、聖戦を唱えるイスラム過激派が急激な増加を見せていること、ブルキナファソ、カメルーン、チャド、コモロ、コンゴ民主共和国、マリ、モザンビークを含むすべてのアフリカ諸国の42%で、信教の自由の侵害(大量殺戮などの極度の迫害を含む)が発生している、指摘。

 また、報告書は、サハラ以南アフリカからインド洋、そして南シナ海のフィリピンに広がる国境を越えたイスラム主義ネットワークの台頭ー大陸横断的なイスラム支配ーについても言及。「いわゆる”イスラム国”とアルカイダは、中東からのイデオロギー的および物質的な支援を受け、赤道に沿った”イスラム国”を確立するために、現地の武装民兵連携して、さらに過激化している。イスラム過激派の暴力は、マリからサハラ以南のアフリカのモザンビーク、インド洋のコモロ、そして南シナ海のフィリピンにまで及んでいる」と説明。

 さらに、こうしたイスラム過激派がインターネットなどデジタル技術を活用した攻撃手段を手にすることで、世界規模の”サイバー・イスラム支配”を目指しかねない状況にある、と警告している。

 報告書に記載されている「主要調査結果」をもとにした指摘で、特に目立つものが三つある。

 その第一は、迫害抑制効果があると考えられる正しい宗教教育の放棄だ。宗教教育が若者の宗教的理解を深め、過激な運動に走るのを抑制する効果があることを、各国政府が認めているにもかかわらず、西欧の多くの国が、学校での宗教教育を取りやめるなど、過激化抑制のためのツールを自ら放棄していることである。

 第二に、直接的な形をとらない”丁寧な迫害”ー個人の良心の静寂な暗闇に、あるいは教会、シナゴーグ、モスクの閉鎖空間に、宗教を追いやる「新しい文化的規範の台頭」と教皇フランシスコが名付けた現象と呼ぶものーの増加だ。そうした法規範は、良心と信教の自由に対する個々人の権利と法令順守の義務の対立をもたらす、と報告書は指摘する。

 また”丁寧な迫害”は、いつくかの西側諸国で現実のものとなっている。つまり、そうした国で、中絶と安楽死について宗教的理由から良心的拒否をする医療専門家たちの権利が、もはや法的に保証されなくなっている、そして、特定の大学の卒業生たちが特定の職業に就くことを拒否されるケースが増えている。同様に、宗教学校が自身の宗教的信念に従うことが、ますます困難になっている。

 だが、第三には、宗教間対話を促進するバチカンの前向きな、新たな動きを挙げている。その代表的な動きが、教皇フランシスコが、イスラム教スンニ派の指導者、アルアザールのアーマド・アルタイーブと「世界平和と共生のための人類の友愛」と題する文書に共同署名したことだ。

 

*地域別の状況

 アフリカの問題について、報告書は、「この大陸がイスラム武装勢力に対する次の戦場になるかどうか、ではなく、すでに何十万の人が殺され、何百万の人が故郷を追われ、さらにその数が増えようとしている時に、国際社会が行動するかどうかだ」と、世界各国に速やかな対応を求めている。

 とくにサハラ以南のアフリカにはイスラム主義のイデオロギーが十分に浸透しているが、その背景には、何世代にもわたる貧困、汚職、土地の権利をめぐる遊牧民と農民の共同体間の武装対立、弱い国家構造があり、追い詰められ、欲求不満を抱えた若者たちが、腐敗した当局の追放すること、富と権力を約束するイスラム過激派に参加する土壌を作っている、と指摘している。

 中南米とカリブ海地域については、「「キリスト教の優位性が、信仰の自由を保証するものとなっていない」とし、特に信教の自由が脅かされている国として、キューバ、ニカラグア、ベネズエラなどを挙げている。そして、「これらの国の政府は、宗教指導者が汚職を非難し、社会的および政治的政策が公益に有害であると判断した時に、カトリック教会と非カトリック教会の両方に対する敵意を示し、攻撃の姿勢をとった」としている。

 南アジアのパキスタンから北西アフリカのモロッコに至る大陸横断地域には、世界の人口の6%以上が住んでおり、さまざまな文化的および民族的グループが存在する。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など、世界の偉大な一神教の発祥の地であるこれらの国々には、世界のイスラム教徒の20%以上が住み、世界の石油埋蔵量の60%が埋蔵されており、そうしたことが政治と宗教に影響を与えている。

 「この分野のいくつかの国は、レビュー対象期間中に前向きな政治的および社会的変化を経験しましたが、人権の促進と保護を促進するには至っていません」と報告書は述べています。 「主に非イスラム教徒に対する差別的な法律や慣行が続いているため、法的および社会的環境は変化することに消極的です。」

 報告書によると、イスラム国のテロ組織は現在弱体化しているが破壊されておらず、過去2年間にジハード主義グループによる凶悪犯罪はそれほど多くなかったが、武装イスラム主義狂信は依然として主要な軍事的懸念材料だ。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年4月20日