・子供たちを性的虐待から守るオンライン・シンポジウムへ、教皇が成果期待のメッセージ

(2021.4.8 Vatican News  Linda Bordoni) 

 米国のハーバード大学がバチカンの未成年者保護委員会、アメリカカトリック大学と共催する国際オンライン・シンポジウム「Faith and Flourishing: Strategies for Preventing and Healing Child Sexual Abuse(信仰と繁栄:子供たちを性的虐待から守り、癒すための戦略)」が8日から3日間の日程で始まった。

 シンポジウムには世界の宗教関係者、様々な分野の学者、専門家が参加。教皇フランシスコも、未成年性的虐待根絶のための取り組みへの支持と期待を表明するメッセージを寄せた。

 メッセージで教皇は「今回のシンポジウムを通じて、宗教指導者、学者、さまざまな分野の専門家が、調査・研究、実際の活動、司牧の経験と成果を共有することで、未成年に対する性的虐待という深刻で重大な悪を根絶するために社会のあらゆるレベルでの効果的な協力促進につながること」への期待を強調した。

 8日の最初のセッションは、ハーバード大学の健康・宗教・精神に関する問題担当部門長であるジェニファー・ウォーサム博士の司会で始まり、カトリック教会を代表して、バチカン弱者保護委員会のショーン・オマリー委員長・枢機卿が発言し、「教会の信徒たち、特に未成年者、若者、精神的・肉体的な弱者を保護しケアする道徳的、法的義務」を強調。

 さらに、「すべての宗教的、市民的、社会的集団で、私たちが奉仕する対象となる人々は、当然、保護を受けることを期待している。にもかかわらず、そうした相手への彼らの信頼は、『魂を世話する』という神聖な責任を負う人々によって裏切られるケースがあった」と述べ、「『性的虐待』という裏切りは、人間の尊厳をひどく傷つける行為だ」と指摘した。

 そして、教会が聖職者による性的虐待の根絶を約束し、そのための取り組みを続ける過程で、被害者と関係者たちを精神面でケアすることに十分に気を配る必要がある、とし、最後に「自らに起きたことを勇気をもって語ってくれる虐待の被害者たちを高く評価し、感謝したい。子供たち、若者たち、精神的・肉体的に弱い成人たちの保護、そしていくつもの被害者支援プログラムは、私たちのあらゆる生活の場面で中心的な構成要素になりつつあります」と締めくくった。

 World Childhood Foundationの創設者であるスウェーデンのシルビア王妃は、20年前にこの財団を創設する決意した時、「児童の性的虐待はほとんど社会的な問題になっていませんでした。当時は、被害者たちは『だれにも話したくない』、他の人たちは『被害者たちに会いたくない』という状況でした」と振り返った。

 そして、今、ようやく虐待被害を認め、予防のための一歩が踏み出されたものの、「テクノロジーの進歩とインターネットが新しい形態の性的虐待を招来し、新型コロナウイルスの世界的大感染が事態を悪化させています」と指摘。

 「”沈黙”は、虐待する者以外の誰も守らない。子供たちに”恥辱の重荷”を負わさないように、沈黙を破らねばなりません」とし、「重要なのは、声を上げる勇気をふるう子供たちの話に耳を傾け、彼らを信頼すること」と強調した。

 2018年のノーベル平和賞受賞者でコンゴの産婦人科医・社会活動家デニス・ムクウェゲ氏は、戦乱の中で性的暴行が”武器”として広く行われていたコンゴ民主共和国での医師としての自身の体験を語り、「私がパンジの町の産科病院で目撃した痛みと恐怖はたとえようもなかった。祈りとすべての関係者の信仰だけが、被害者たちが生きる力になりました」と述べた。

 そして、「私は、世界で最も壊滅的な暴力の中で、信仰、精神力、希望を持つことの重要性を痛感し、身体的な治療だけでは、彼らが負った傷から立ち直るのを助けるのに十分でないことが分かった」とし、その経験をもとに、医療と心理社会的支援、法律サービス、活動への参加の四つの柱からなるケアモデルを開発したが、具体的には、地方レベルで、宗教関係者や地域の指導者が協力し、男女の平等と女性と子供の権利についての住民たちの理解を深める機会を作り、国レベルでは、市民社会組織や政府機関と協力して、性的暴力の被害者支援ネットワークを構築し、補償し、安全・安心を保証する永続的な体制作りに取り組んでいる、と説明した。またコンゴはまだ安定的な平和に時間が必要で、国際的な支援も欠かせない、とも述べた。

 さらに、ムクウェゲ氏は、性的暴行は今でも、世界の多くの地域で戦争の”武器”に使われている。それを終わらすために、私たち宗教者には果たすべき重要な役割がある。また、被害者が受けた虐待に恥辱を感じないようにケアする責任があります。彼らを理解し、敬意を払い、彼らが無力感を抱くことなく、物事を変える力を持てるようにすべきです。沈黙することなく、語る機会を作る必要があります」と訴えた。

 シンポジウムでは3日間に「児童の性的虐待を防止するための課題と機会」「デジタルの分野での安全確保と新型コロナの世界的大感染に関連する緊急かつ新たな課題への対処」「子供たちに対する性的虐待の防止と癒しにおける信仰と、信仰の指導者の役割」「児童の性的虐待の防止と癒しにおける宗教指導者の重要性」などがテーマとして取り上げられる予定。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年4月9日