(評論)教皇フランシスコの健康を案じるなら、改革派教皇レオ13世の”術後”を振り返ろう(Crux)

 

教皇レオ13世 作: イタリアの写真家(2023.6.8 Crux  Editor  John L. Allen Jr.)

   健康上の問題を抱えた新教皇が選出された。彼は着座の当初から「教皇職に長くとどまるつもりはない」と周囲の人々に語っていた。だが、誰もが予想していたよりも長く教皇職を務め、深刻な手術を必要とする健康上の危機に直面し、多くの人々が終わりが近づいていると考えるようになった。だが、手術が成功し、彼はそれからさらに4年間、つまり米国の大統領の任期に相当する期間、聖ペトロの座に留まることになる。彼の長寿は驚くべきもので、バチカン内部の関係者たちが「我々は教皇を選んだと思っていたが、実際は“永遠の父”を選んだのだ!」と冗談を言うほどだ…

 この教皇は、ローマのジェメッリ病院での2年ぶり2回目の手術から回復中の教皇フランシスコを指すことになるかも知れない。だが、実際には、レオ13世教皇— 1878 年に選出され、1903 年に 93 歳で亡くなるまで教皇職を務め、聖ペテロ、ピウス 9 世、ヨハネ・パウロ2世に次いで史上 4 番目に長い在任記録を作った教皇—を指しているのだ。(ちなみに、現在、86歳の教皇フランシスコは、120年前にレオ13世が亡くなって以来、在位中の最高齢の教皇となっている。)

 つまり、この「レオ13世の生涯」は、教皇フランシスコの現在の闘病に過度に“関心”を持つ人への“警告”と言えるかもしれない。

 レオ 13 世とフランシスコの類似点は、健康上の難題に直面した際の回復力にとどまらない。2人とも「政治的急進派」ではないが、教皇在任時のカトリック教会の標準から見れば「改革者」、穏健派からは「進歩派」である。

 1891 年に回勅『Rerum Novarum(新しい事柄について)-資本と労働の権利と義務』によって、カトリック教会が社会問題について取り組むことを明確にしたのがレオ 13 世だったことは、よく知られている。また、近代民主主義の台頭と政教分離に対してカトリック教会の位置づけを変えたのも教皇レオ 13 世だった。ピオ9世の下での“絶対的な拒否”から”慎重な開始”へと移行し、それは、1929年のラテラノ協定、そして最終的には信教の自由に関する第2バチカン公会議の宣言『Dignitatis humanae(人間の尊厳)』につながった。

 1899 年の手術成功から 4 年後の教皇職の終わりまでの間に、レオ 13 世が何を達成したかを列挙すると以下のようになる。

 ・1899年、ローマで第1回ラテンアメリカ会議を主宰した。この会議は、ラテンアメリカの現地のさまざまな教会の大陸的な連帯意識を促進する会議であり、これは第2バチカン公会議後にCELAM(ラテンアメリカ司教評議会)の創設で開花した。
・イエスの聖心への人類の奉献に関する回勅『Annum Sacrum 』を公布した。カトリックの精神性の特徴となっている「初金(月の最初の金曜日)の信心」を促進した。
ジャン=バティスト・ド・ラ・サールを列聖した。ラ・サールは近代教育の先駆者。当時、西欧では上流階級の子女だけが家庭教師からラテン語による教育をうけるのが一般的だったが、彼は、平民の子供を集め、日常用語であるフランス語で教育を行う、現代の学校教育のシステムに通じる革新的な教育法を実践した。レオ13世は、このような教育法を危険視した伝統主義者たちからの強い抵抗を押し切り、彼を列聖した。

 ・”アメリカ主義”に警告を発した。同主義は、欧州の一部のカトリック思想家が 19 世紀後半の米国で指摘した個人主義と組合教会主義(独立自治の原則に立ち,上からの支配を否定する教会を肯定する主義)を基礎にし、異端と見なされた思想。その中身の多くは作り話だったが、それが元で起きた論争は、バチカンと普遍教会とつながったアメリカ・カトリックを思い起こさせた。

 ・1899年から1903年の間に32人の新しい枢機卿を任命し、教皇選挙権を持つ枢機卿の過半数を確保した。(だが、レオ13世に選ばれた枢機卿たちは、後継の教皇にピオ10世を選び、新教皇は、レオ13世が解放した教会改革のエネルギーを抑圧する「反近代主義」の強硬策に手を付けた)

 ・手術後の1900年の大聖年を主宰し、イタリアにおける民主主義擁護者とその反対者を和解させる回勅を出し、東方カトリック教会内の団結を促進し、録画と録音の両方を活用した最初の教皇となった。 これにより、教皇の「大衆文化の名士」としての伝統が始まった。

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 このようなレオ13世と同じように、教皇フランシスコが手術後に大きな業績を残す可能性は十分にある。8月初めの、「世界青年の日」世界大会出席のためのポルトガル訪問、そしてモンゴル、マルセイユへの訪問がすでに計画されていることに加えて、今年と来年の10月の2回にわたる世界代表司教会議総会を主宰、さらに2025年には大聖年を予定している。

 もちろん、人の命には何の保証もないし、予定外の何かが起こる可能性がある。だが、フランシスコのこれまでの実績を考えると、現時点で彼をこのような予定から除くことが賢明な賭けであるかどうかは疑わしい。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年6月9日