・4世紀の石棺側面装飾の女性像が示す、教会における女性たちの権威

(2024.2.9 Vatican News   Christine Schenk CSJ)

  今日私たちが知っているように、宗教生活は瞑想的なものと活動的なものの両方で、2000 年にわたって進化してきた。 3 世紀後半から 5 世紀初頭の石棺の側面装飾に描かれた初期キリスト教徒の女性に関する考古学的な研究を紹介する。

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 教会の歴史のほとんどは、男性が書いた文献記録に依っているため、初期キリスト教徒の女性に関する信頼できる歴史データを発見するのが困難な場合がある。

 キリスト教の歴史を理解する手段として書物に大きく依存しており、 Dr. Janet Tullochが 2004 年に発表した論文で述べているように、フレスコ画、絵画、石棺の側面装飾など「視覚的遺物」から得られる情報は、最近まで、美術史家や考古学者に任されていた。

 初期教会では多くの女性の支援者(マグダラのマリア、ポイべ、リディア、パウラ、オリンピアスなど)が男性の宣教者たちを経済的に援助していたとされてきたが、文献資料では彼女たちの存在はほとんど認識することができない。

キリスト教の歴史の最初の 4 世紀の間 、信者たちは、聖パウロのテモテへの手紙にある「女は静かに、あくまでも従順に学ぶべきです。女が教えたり、男の上に立ったりするのを、私は許しません」(2章11‐12節)を繰り返すことで、女性の権威を抑えることを正当化してきた。

 だが、3 世紀後半から 5 世紀初頭のキリスト教の葬儀芸術には、教えたり説教したりする女性が描かれるようになった。 キリスト教徒と異教徒のローマ人の両方にとって、石棺は単に「死体を納める器」ではなく、「様々な思いを込めた記念碑」。故人の人となりを表現し、価値観と美徳を記念するものだった。

そして、 このような石棺を納めた高価な墓所を建てることができるのは裕福な人だけであり、自分がどのように記憶されたいかを事前に準備することは、本人が取るべき重要な手続きだった。 巻物、カプサ(巻物を入れるかご)、またはコーデックス(本)を手にする姿は、故人の学識、地位、富を示すものだった。

Deceased woman holds a scroll and is flanked by “apostles” who attend to her respectfully. 350 CE. Photo © Vatican Museums: Pio Cristiano Museum, inv. 31512. All rights reserved.

右の写真の石棺の側面装飾の像で分かるように、故人の女性は巻物を持っており、その両脇には敬意を持って彼女に付き従う「使徒」がいる( 西暦350年のもの。バチカン美術館)

  キリスト教徒の女性も男性も、地位、権威、学識、宗教的献身を持つ人物として記念され、理想化されていたのだ。故人の肖像が巻物やカプサなどを持っている場合、それはヘブライ語やキリスト教の聖書について学んでいることを示すものでもあった。

 私は 3 世紀から 5 世紀初頭の石棺と断片の 2119 枚の画像と記述子を3 年にわたって分析した。それには公開されているキリスト教徒の石棺の画像すべてが含まれており、分析の結果、初期キリスト教徒の女性の多くが教会共同体で地位があり、影響力や権威をもつ人物として記念されていたことが明らかになった。

 非常に重要な発見の 1 つは、キリスト教徒の女性の単独葬式肖像が男性の 3 倍だったということだ。そして、多くの石棺の側面装飾の肖像を見ると、故人の女性は周りを聖書に書かれた場面で囲まれ、両手で祈りの仕草をし、巻物や写本を持っている。

 左の写真のように、 故人は巻物の束を足元に置き、「使徒」の像を向かい合わせにして祈りの姿勢をとっている。 (アルル美術館)Detail of Marcia Romania Celsa from Arles, France. Deceased is in an orans prayer posture with a scroll bundle at her feet and in-facing “apostle” figures. (Muse de l’Arles Antique Sarcophage de Marcia Romania Celsa, © R. Bénali, L. Roux.)

  これらは、4 世紀の女性が「静かにせよ」という”忠告”に耳を貸さなかった、という痛切な証拠だ。こうした女性たちの石棺の側面装飾の像が多く見られるということは、聖書の知識と教える権威をもつ”新しい”女性が出現したことを示している。

  もう一つの重要な発見は、女性の肖像の両側におそらく宗教的権威を証明するために「使徒」(多くの場合ペテロとパウロ)が描かれていることだ。

*考古学的記録が私たちに伝えていること

 初期のキリスト教徒の石棺側面装飾の肖像は、女性のキリスト教徒の中に、学識があり、敬虔で、裕福な人がいたことを示している。 女性単独で埋葬された石棺の数から判断すると、そのような女性信者は、独身女性または未亡人であり、未亡人と処女の初期の共同体を思い起させる。

 彼女たちの肖像の多くが聖書の場面の真っ只中に巻物を持ち、あるいは説教を祈りをしている仕草で描かれていることから、彼女たちは聖書に精通しており、神の救いの力を信じる女性として、またイエスの生涯と癒しの奇跡についての教師として表現されることを望んでいた、と推測できる。

 彼女たちの共同体は、故人を福音を宣べ伝え、教える権威を持った学識ある人物として理想化した、ということは言えるだろう。マルセラ、パウラ、メラニア・テ・エルダー、プロバなど、後のローマの「教会の母」たちが、聖書を愛し、聖書について学ぶよう促したこれら初期教会の女性を賞賛したことは、もっともだと言えよう。

 「教会の母たち」に関する文献情報は考古学的発見と一致しており、ベネディクト十六世教皇を含む現代の聖書学者が以前に理論づけていたこと、つまり「初期教会における女性の影響力は、一般に認識されているよりもかなり大きいものだった」ということを裏付けている。

 繰り返すが、初期教会に関係する文献情報では男性が(主役とされていることが)圧倒的に多いが、石棺の側面装飾などにある肖像などの調査・分析結果は、教会共同体において実質的な権威を行使していたとして記憶されている女性が圧倒的に多かったことを示している。

 これからも分かるように、私たちの「教会の母親」の周りに集まった女性たちは、初期教会の女性の信仰共同体の公正社となって行ったのだ。

 *Christine Schenk CSJは米国生まれの修道女で初期キリスト教会の研究者、著作家。3世紀から5世紀初頭の

Cover of Crispina and Her Sisters: Women and Authority in Early Christianity

石棺とその断片に関して実施した3年間の研究のより詳細な報告は「 Crispina and Her Sisters: Women and Authority in Early Christianity (クリスピーナとその姉妹たち:初期キリスト教における女性と権威)」(Fortress Press, 2017)にまとめられている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

 

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2024年2月11日