・ 竹中会長の独占会見⓶「長崎教区で2件、横浜、仙台両教区で各1件が裁判に、教区の窓口は”加害者”を守る手段か」

*性的虐待の特殊性から、被害の実態はつかみにくい

――お話を戻しますが、「許さない会」が把握しておられる〈日本の教会での聖職者による性虐待 〉の実態はどのようなものですか?

竹中 結論から申し上げれば、私たちも結局、被害の実数を把握しきれていません。これには、この問題ならではの特殊性があるのです。 「…会」の集まりに参加している方の話を聞いていると、言外に、どうやら昔、被害を受けておられ たような印象を受けることが少なくありません。

 「自分ではすでに細部の記憶がないにしても、すごく気になるから参加したい」という方がおられます。そういう方たちと、いざ突っ込んだ話をしようとしても、実体験の核心になると解離しちゃうんです。

 人は長い間、苦しめられてきたこの問題と向き合いたいんだけど、まだ向き合えない状況という か…… 私がそうであったように、そこで無理をしちゃってフラッシュバックなんて起きちゃうと 、「せっかく精神的に安定を取り戻した今の生活」に支障をきたしちゃうので、それは、平常心で 口にできる“とき”を待つしかないんです。そういった方たちがいることは実感として捉えるので すが、数値化できる話ではないということです。

――ある意味、被害者に対する配慮をもしながらの活動、ということになりますね。

竹中 配慮っていうか、そこが難しくて。配慮をし過ぎると、「じゃあ被害者は声を出せないのか 」「加害者側に責任はないのか」となる……

*教区の性的被害デスクにかかる圧力、”加害者を守る手段”?

――それとこれとは別でしょう。教皇が繰り返し言っておられるように、被害者には、被害の実態 を訴えて再発防止を求める権利があります。長崎大司教区の事案の場合も、デスクの担当カウンセ ラーがこの問題を取り上げようとして、イジメになっているという話がありますよね。

竹中 その件で、このチラシを作ったんです(と、手にした刷り物を示しながら)、ここに書いてあるとおり「神父から性虐待を受けた被害者に寄り添わない相談室は閉鎖」という仕儀になった経過は、これを読んでいただければ分かります。デスクのカウンセラーご自身から私たちが相談を受けました。要するに「『相談者の個人情報と事案の内容を全部、上司である神父に上げろ』と言われたが、カウンセラーとしてそれはできないので悩んでいる」と。

 事案の内容を上司に漏らせば、性虐待など、こっそり処理したい教会側に、事実隠蔽の時間を与えてしまうことになる… 事例は数件寄せられたのですが、その数件の情報が全部教会の管理職側に漏れれば、各事例の被害者たちがどういう扱いを受けるか分からない。デスクの担当者としては職業倫理上、とても情報漏洩などできないということで、私たちに相談が寄せられたわけです。そこでご本人と、付いておられる弁護士さんに連絡を取って、私も同席するかたちで記者会見をしました。その経緯は一応全部ビデオには録ってあります。

――今のところ事案によっては、相談者の個人情報は守られているというか、教会が知って揉み消す事態は避けられているのですね。

竹中 そうです。だけどそれは、〈「相談デスク」に相談すると結局こういうことになるんだ〉ということですよ。つまり、教会の組織の中でこのようなデスクを作ってもそれは、被害者情報を教会に吸い上げ、加害者を守るための手段でしかない。

 第三者委員会など独立の機関ではないから、デスクを担当した人は、上司である神父から情報を寄こせと言われたら、ものすごく葛藤することになる。本当に相談のプロとして意識を高く持っている人なら、長崎のデスクのように、抵抗します。しかしプロ意識が希薄な担当者なら、上司の要求に応じて個人情報を教会上層部に渡しちゃうわけです。

*被害実態を解明するために完全な独立機関が必要

――フランスの教会は、この問題の実態を解明するために、教会法や司法専門家による第三者調査機関を立ち上げました。日本の教会も、司教といえども調査の過程や結論を左右できない、もう少し独立性を保証された「デスク」を持つ必要がありそうですね。

竹中 もう少しどころか、完全な独立性を持たせないとだめでしょう。だからその問題は今後、「…許さない会」としても扱いたいと考えています。

――そのあたりは私たち日本の教会の信徒として声を出せるところだし、教会法に裏付けられた信徒の義務でもありますから、「デスク」の現状を知って〈あるべき姿〉に戻すよう、手立てを尽くす努力が求められると思っています。

竹中 長崎の「デスク」担当だった人は今、裁判の準備をしています。裁判って短くても半年や一年は優にかかるので、当事者になると大変なんです。

*長崎教区で2件、横浜、仙台両教区で各1件が裁判に

――分かりました。長崎の件はそれでよろしいでしょうか。

竹中 実はもう一人、実際に神父から性虐待を受けた人が裁判を提起していて、その人について私たちもいろいろとサポートしたいのですが、できないでいます。

――長崎で?

竹中 そう。被害者はYさんという女性ですが、そのYさんがカウンセラーに相談した過程で私たちも事実を知りました。そこで一緒に被害を訴えるビラ巻きをしたりして、「さらなる応援体制を組んで一緒にやりましょう」と申し出たのですが、「自分の納得のいくようにやりやたい」と仰って、連携できないでいるのです。被害者の心って、そのくらい振幅が大きくなるんですよ。新聞に載った事実すら「第三者には公開したくない」となです。私にもそういう時期がありましたから、その気持ちの揺れはよく分かります……

――被害者側にはそういう事情もあり得るわけですね。

竹中 そうです。だから「訴えたいけど、広まるのは困る」というすごいジレンマに苦しめられます。現在の私は、少なくともオープンにされた情報については、それが事実なら隠さずに訴えていくことが、事案への理解と再発防止の輪を広めていく上で有効だと思っているのですが、「新聞には出たけど広めてほしくはない」となると、私たちの活動もその時点で大きな制約を受けてしまいます。
だから今のところ、長崎の事案2件――「デスク」担当カウンセラーの件と、性虐待被害者Yさんの件――については、裁判の進行待ちですね。裁判がどう動いていくかを注視していたいので、公判日の傍聴を重ねて、今後の支援方法を考えたいと思っています。

――そうすると「許さない会」としては現在のところ、仙台教区内と横浜教区内で各1件、長崎で2件の事案を把握していて、その中の一件に関しては今のところ関わりを差し控えておられるということでしょうか。 ここで仙台の事案について再度お尋ねします。加害者神父の名前はお分かりですか。

竹中 分かっていますが、それは記者であるあなたが裁判記録を当たってお調べください。私の口から申し上げることは差し控えさせていただきます。ただね、被害者から連絡があって、「加害者神父は認知症になったので、被告としての適格性がなくなるかもしれない」とのことです。

――要するに、当事者能力がなくなったと?

竹中 そういうことですね。それでも裁判は続けられるけど、もし判決が出たとしても賠償まではできないかもしれない、当事者責任が問えなくなるわけだから……

――事件そのものが、何十年も前のことだから、あり得ますね。

竹中 事件は40年くらい前に置きているのですが、それでも裁判にできたという点に大きな意義があると思います。

――被害者のお名前は鈴木……

竹中 鈴木ハルミさん。カタカナの「ハルミ」です。

*話を聴いてくれるだけで勇気付けられる被害者も

――私どもが直接鈴木さんに連絡をして話を伺ってもいいですか?

竹中 8月3日が次の公判なのですが、コロナ禍でそれもどうなるか。私も行こうと思っていますが緊急事態宣言が出たら動けないしね。私も東京都の職員なので、緊急事態宣言下で都県をまたぐ移動については慎重にならざるを得ません。

――私も傍聴に伺うつもりです。そのとき、鈴木さんにお会いしたいと思います。

竹中 取材とか話を聴いてくれる人がいるとすごく勇気づけられるので、ぜひ会ってやってください。私も時々話を聴くんだけど、やっぱり話せる相手がなかなかいないことは辛いですよね。

――あと、ご存じの例のうちに入るかどうか分かりませんが、当方で取材中の2件の事案があります(と、記者が取材中の2件について、竹中氏が把握済みかどうかを尋ねる)。その2件について「許さない会」がご存じかどうか、気になっています。

竹中 いうなれば、加害者側の事例ですね。2件とも知りませんでした。一般論ですが、加害者の側も心から反省しているのであれば、一人で問題を抱え込んでいないで、責任ある立場の方に気持ちを打ち明ければいいと思います。話すことでずいぶん楽になるというか…。

 一人で抱え込むのはすごく厳しいです。私が敢えてマスコミに発信するのは、『被害者だけでなく過去に加害経験を持つ人にも私の言葉が届いてほしい』という思いがあってのことなんです。そういう人たちが自分の過去を話すことで少しでも楽になれれば、と思ってね。少なくとも私に繋げてもらえれば、話を聴いてあげられると思うんですよ。

(聞き手:山内継祐=「カトリック・あい」編集委員、『福音と社会』編集担当幹事)

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2022年1月8日