・「性的虐待を許さない会」の竹中会長の独占会見①「教会指導者たちは被害者の叫びを真剣に聴いて!」

*はじめに

 「カトリック神父による性虐待を許さない会」の会長、竹中勝美氏は東京出身、59歳。少年時代を過ごしたカトリック児童養護施設「サレジオ学園」(東京・小平)で、 小学4年生の時、同施設担当司祭のドイツ人神父、トマス・マンハルド師から1年間にわたり性虐待を受けた。同学園を卒業して社会人となり、結婚し、子どもをもうけるが、子育ての最中に性虐待の記憶が突然蘇るなどフラッシュバックに苦しんだ。

 現在は東京都庁職員として働く傍ら、19年4月、東京・青山で「緊急集会」を開き、自身の事例を公表したの をきっかけに、「カトリック神父による性虐待を許さない会」の事務局長として、自身と同様の体験に苦しむ被 害者の救済と加害事例の掘り起こし活動を独自に行っている。教皇の求める“厳正な処置”に比べ、日本の 司教団の事例摘発や加害聖職者への対応が、なんとも生ぬるく中途半端なものにとどまっているからだ。

 実際、米国の教会で1000人を超える神父が職を追われたのを皮切りに、南米では司祭による性虐待への 対応が不適切であったとしてチリの司教34人が一斉に辞職を願い出た。

 最近に限っても、長い間加害神父を たらい回しにして隠蔽を図っていたドイツ司教団が教皇から厳しく叱責され、フランスの教会では「第三者委員 会」の調査により過去50年間に3000人の神父による性虐待で2万6000人もの被害者が生まれていたことが明 るみに出た。これらの動きを知ってか知らずか、依然として動きの鈍い日本の司教団…。

 そんな“司令塔”をあてにせず、被害者の視座で「聖職者による性虐待」の根絶に取り組む竹中さんが、『カトリック・あい』と隔月刊誌『福音と社会』の共同インタビューに応じ、現在の胸中を語った 。(3回に分けて掲載します)

(聞き手:山内継祐=「カトリック・あい」編集委員、『福音と社会』編集担当幹事)

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*各教区に作られた”被害者デスク”からの呼びかけは皆無

――竹中さんが事務局長を務めておられる運動組織は、「……許さない会」と、厳しいですね。

竹中 正式には、「カトリック神父による性虐待を許さない会」ですね。

――施設における?

竹中 両方やっているんです。私たちは児童養護施設の虐待問題をやっていて、そこで活動していますけども、それとは別に「カトリック神父による性虐待を許さない会」という会を立ち上げています。少年期に東京のカトリック施設で神父に性虐待を受けた私が、2度とそのような虐待 があってはならないという思いから、同じ志を持つ方々と一緒に活動しています。

――会の組織とか事務局の機能はどのようなものですか。竹中さんの他に事務局のメンバーとして は何人おられるのですか?

竹中 メンバーは5人いますが、ただ、皆さんなかなか……

――本業として他の仕事もお持ちでしょうし。

竹中 それもあるんだけど、一人ひとりが複雑な思いを抱え、なかなかこの問題に向き合えないで いるのです。今のところは主な任務として、仙台の裁判の援護をしています。

――仙台の件については後ほど詳しく伺いたいと思っていますが、聖職者による性虐待事件のうち 、民事訴訟となっている件ですね。他にも長崎大司教区と横浜司教区で係争事件になっていると聞 いています。いずれも既にマスメディアで報道されていて、事案は周知の事実となっていますね。

竹中 被害者の鈴木ハルミさんの同意を得られれば連絡先を紹介します。直接聞かれた方がいいと 思います。 ――分かりました。あと、中央協議会や各教区には、被害を訴える人たちのための「女性と子ども のためのデスク」がありますけども、竹中さんたちの活動とそのデスクとの間で連携はあるのでし ょうか。

竹中 全くありません。デスク側からの連絡や呼び掛けなどの動きは全くないんです。向こうは司 教団の指示の下で独自に動いておられるのかもしれませんが、私たち「許さない会」の方にそういう知らせは一切ないので、私は「デスク」の活動については全く知りません。

――あれは、司祭による性虐待のうち“婦人と子ども”を対象に事案の掘り起こしと対応の窓口となっているデスクですが、そのデスクにどういう訴えがあったとか、どういう事案を確認したとか いう情報の開示は一切ないんですか。一般信徒が現実を知ろうとしても、公式発表は抽象的なうえ 木で鼻を括ったような短文。とても“公表”したとは言い難いものです。 竹中さん側からコンタクトをなさったことはないのですか?

竹中 私たちはそもそも、何か分かった時にデスクと情報を交換するといった合意や話し合いをし ていないので、こちらから勝手に電話して「どうなってるんだ」って言っても筋違いになりかねま せん。とにかく何も約束していないんですよ、高見大司教の対応もそうだし……

*大司教は、司祭の性的虐待の根絶と過去の真相究明を約束したが…

――高見大司教との間の話の進展については、今日ぜひ伺いたかったことの一つです。2019年4月、つまり3年前に東京・渋谷の国立オリンピック記念青少年総合センターで開かれた集会「カトリック神父の子どもへの性虐待! 日本でも」には、高見大司教がわざわざ足を運んで、竹中さんのお話を聞かれた。

 あの場で高見さんは壇上に上がり、「今後は『司祭による性虐待事件』を根絶するため努力する」ということと「過去の真相を究明するため、お互いに協力しましょう」と話をされ、竹中さんと堅い握手を交わされたので、その後はそれなりの働きかけというか、『じゃあご一緒に、こう取り組みましょう』というような共同歩調が見られるのかと思っていた。それが全く実現しないまま、長崎の「許さない会」の報告集会になって、高見さんの対応が東京の集会の時とはかなり違うな、という感じに見えました。

 その辺を竹中さんがどういう風にご覧になっているか。今どういうふうに司教団と連携されようとしているのか、その辺を知りたかったので今日のインタビューをお願いしたのです。正確に知れば、〈私たち一般信徒がこの重大問題について考えたり実行したりできることは何なのだろう〉と考える糸口になりますからね。

 例えば教会行政当局にハッパをかけることができるかもしれません、司教団に「もう少し誠意を 持った対応をしたらどうですか」と物申すとかね。でも「実際には、われわれ被害者側との共同作業が粛々と進んでいるんだよ」ということであれば、その動きを邪魔することになりかねないの で、その辺を確かめたいとも思いました。

 私ども報道機関の立ち位置としては、まず何があったか、事実を解明したい。そして「聖職者に よる性虐待」を根絶するにはどうすればいいのかを、情報の受け手であり教会運営に一定の義務と 責任を持っている一般信徒の方々とご一緒に考えたいのです。 そのために被害者の訴えを伺いたいし、加害者である聖職者側の監督責任を負う司教たちがどう 対処しようとしているかを聞きたいと思っています。

 ところが高見さんは2021年3月で定年、長崎教区長としての任期が切れてしまいました。それでも教区内に腹心だった会計担当司祭による3億円近い公金流用事件を抱え、その処理をするためさ らに一年くらい留任されるつもりのようですけれど、2022年3月以降、司教会議議長も辞めるとなれば、聖職者による性虐待について日本の司教団代表としての責任ある立場を離れることになります 。

 日本の教会指導層が抱えるそんな事情に紛れて、聖職者による性虐待という問題そのものがうやむやに処理され消えてなくなることがあってはならない、と私たちは強く危惧しています。

 そこで 、竹中さんにお目にかかり、現在のお気持ちと、なさろうとしていることを改めて伺いたいと考えて今日、お邪魔しました。  それにしても、青山会場で竹中さんに歩み寄って頭を下げ、握手までされた高見大司教が、その 後何も行動を起こしておられないというのは、信じられないんですけども……

竹中 全く、何もしておられません。その後長崎集会前までの経緯をまとめ、大司教さんからいた だいた約束を含めた事実を報告書にして公表したのです、高見大司教のお膝元の教会で。それを配ったのは2020年の8月だからちょうど1年前ですね。で、その時、こういうふうに約束はした けれど、全く実行されていなくて、その後はコロナ禍でまた1年、何もしておられないのです。

――長崎集会そのものについての反応もないんですか。

竹中 全くないです。メディア各社も集会の取材に来て、教会側のコメントが新聞にも載っている にもかかわらず、ですよ。

――私どももそれを報じた新聞の切り抜きを持っていますが、読むと、いかにも何かやりそうなことをコメントしておられる。にもかかわらず、実は何もしていないと?

竹中 そうです。全く何もないです。

――ちょうどあの頃は、教区会計担当神父の使い込み問題と一緒になっちゃいましたからね。

竹中 その件については集会前に、何人かの長崎教区の信者さんから連絡が来て、「この問題を自 分たちは言えないから、『許さない会』の集会で、聖職者が抱える問題として取り上げてほしい」 という要望を受けたんです。

 けれど、その件は私たちが訴えようとしていた問題と性格が違います から、少し触れるだけにして、メイン討議のテーマにはしませんでした。

(第2回に続く)

(編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

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2022年1月7日