・新型コロナウイルス、中国が公表を遅らせた”致命的な6日間”(BW)

(2020.4.19 BitterWinter Massimo Introvigne)

 中国共産党は、2020年1月13日に新型コロナウイルスが大感染をもたらすことを既に知っていた。だが、翌14日に開いた党の秘密会議で、20日まで公表しないことを決め、それによって世界で数万人が死亡することになった。

写真:2020年1月18日にギネス世界記録に挑戦するため武漢市において4万人を超える家族が参加して開かれた“持ち寄り大宴会”。新型コロナウイルス大感染の主因となった。(出処:Weibo)

 

 4月15日、アメリカのAP通信社は、習近平主席の直接の指示を受けた中国共産党が新型コロナウイルスの感染についての関連情報を、1月14日から1月20日まで6日遅らせて公表したことを裏付ける文書を、匿名の中国人情報提供者から入手した、と伝えた。この6日の遅れは、中国はもちろん、世界的にも致命的だった。この6日間に武漢市では、ギネス世界新記録に挑戦する4万人を超す家族が参加した過去最大規模の“持ち寄り大宴会”が開かれ、数百万人が旧正月(春節)を祝うために故郷へ”脱出”した。

 公表を6日遅らせなければ、武漢市での伝染の大爆発は起こらなかったかもしれないし、武漢市から外へ広がらず、全世界に拡散することもなかったのではないか。そもそも、何が起きて、なぜ起きたのか?

 後にWHO(世界保健機関)が「コロナ-19」と命名した新型ウイルスの最初の感染者は、2019年11月17日に武漢市で初めて発見された。同年12月には現地の医師たちが当局に報告し、致命的なウイルスが活動中であることを伝えるとともに、この事実をインターネットにアップした。だが、そのことで、医師たちは1月1日に逮捕されてしまい、おじけづいた武漢市の他の医師は、新しい感染者を確認したにもかかわらず、報告することもできなくなった。

 医師たちが口外するのは抑えたが、党中央は、感染拡大が進んでいるのに気づいていた。AP通信の報道によれば、当局が1月初めに専門家チームを武漢市に派遣した。最初のチームのリーダーだった徐建国氏は1月6日、香港の日刊紙「大公報」に掲載されたインタビューで、全てが統制され、武漢市の外へ人々が移動しても病気が広がる「可能性はゼロ」と語った。(注:大公報は中国共産党の報道統制を受けており、この記事は、現在、削除され、アクセスできないかもしれない)

 しかし、中国共産党でさえ、この話を全面的に信じられなかったのか、1月8日に2回目の専門家チームを派遣した。そのリーダーだった王広発氏は、1月10日にテレビに出演して、今回の病気は「症状が弱い肺炎」で、「統制下」にあると話したが、1月末に自分自身の新型コロナウイルス感染が確認された。

 3月15日に彼は中国のインターネット・サイトWeiboに投稿し、「実のところ、ウイルスが人を通じて伝染していないか大いに疑ったが、そのことを大衆に知らせるための許可を受けられなかった」と認めた。

 1月13日までは中国共産党も、ウイルスが武漢市から外に出ない限り、関連情報を統制するのは可能、と信じていたようだ。党が、可能ではないことを知ることになったのは、1月13日にタイで感染者が出て来てからだ。ウイルスが海外にまで広がった以上、関連の情報を統制することは、もはやできなくなったのだ。

 1月14日、中国国家衛生健康委員会の馬暁偉委員長は、各省の衛生健康担当者らと隠密に遠隔テレビ会議を開いてメモを伝達した。AP通信が入手したメモによれば、委員長は、公衆衛生担当官に習近平主席が直接下した指示を伝達する、としながら、習主席が、現在の事態は「2003年のSARS以来、最も深刻な公衆衛生上の問題」で「人から人へ伝染する可能性がある」ことを
知っている、と説明している。

 そして、「伝染病」という用語を使いながらも、「社会の安定を維持し、全国人民代表大会と政治交渉会議・全国委員会議を準備することこそ最も重要」と強調したが、タイで感染者が出たことから、状況が「急激に変化」していることは認めていた。

 AP通信は、馬暁偉委員長が遠隔テレビ会議の直後に国家衛生健康委員会の各省公衆衛生担当者に送った63ページの文書も入手したが、その内容は、どうすれば深刻なウイルス感染が、オンラインはもちろん、オフラインでも「大衆に知られないように処理できるのか」を詳細に記していた。党中央に集まったデータを見れば、武漢市を”脱出”した人々がウイルスを多くの市と省に伝染させた、ということが分かる。

 1月20日、公衆の面前に姿を表わした習近平主席と公衆衛生顧問は、ようやく、中国国民と全世界に新型コロナウイルスの事実を知らせた。

 6日間の公表の遅れを、たかが6日と考えてはならない。この6日間、1月13日から20日の間に、武漢市だけで数千人が感染し、中国の他省はもちろん、海外まで、何の制約もなしに出かけて行った人が数万人もいた。

 私たち皆が、全世界的に長期隔離され、家族と友達の死に悲しむことになるなら、その原因の大部分は、習近平主席と中国共産党が政治的な理由から、新型コロナウイルスに関する情報を遅きに失するまで秘密にしたことにある。

(翻訳「カトリック・あい」高橋哲夫)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日5言語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載している。

 編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。宗教社会学の分野で70冊の著書と100編の論文を執筆し、イタリア宗教百科事典(Encyclopedia of Religions in Italy)の主著者でもある。ヨーロッパ安全保障協力機構(OSCE)の「キリスト教徒およびその他の宗教人の差別を防ぐための人種差別、外国人嫌悪、差別防止のスポークスマン」を務めたこともあり、世界新興宗教研究所(CESNUR)の設立者で代表。

 

 

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2020年4月20日