・教皇フランシスコ=バイデンはヨハネ・パウロ二世=レーガンの関係になるか(Crux)

(2020.11.8 Frux Editor John L. Allen Jr.)

Could Francis, Biden find each other like John Paul II and Reagan?

In this April 29, 2016, file photo, Vice President Joe Biden shakes hands with Pope Francis during a congress on the progress of regenerative medicine held at the Vatican. (Credit: Andrew Medichini/AP.)

 ローマ発= 2020年の米大統領選挙の激動の”ほこり”が落ち着き始め、ジョー・バイデン候補以外が郵送投票のトップに躍り出る可能性はなくなってきたようだ。

 というわけで、バイデンが米国で2番目のカトリック教徒の大統領になるだけでなく、基本的には教皇フランシスコと同類ー中道左派、の一種のカトリック教徒です。中央左派、概して人道主義、そしてグローバリストーであり、二人の関係は、教皇の側近の一人が米国におけるカトリック保守派とプロテスタント福音派の関係について述べた「嫌悪の教会一致」とは、まったく無縁だ。

 ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州のラストベルトの激戦州でのカトリック信徒の投票の小さいながらも重大な変化によって、バイデンが優勢になったとすれば、次期大統領は彼の選挙対策本部とカトリック教会の関係に感謝の気持ちを抱くかもしれない。

 仮にトランプ大統領が再選されれば、世界をリードするハードパワーである米国とソフトパワーであるバチカンの間に、さらに4年間の深刻な対立の舞台が設定されることになっただろう。バイデンが次期大統領に選ばれることで、教皇は、先月発表した社会回勅「 Fratelli Tutti」で「近視眼的で、過激で、怒りっぽく、攻撃的なナショナリズム」と呼んだものに対する強い懸念を共有する人物をホワイトハウスに得ることになる。

温厚さの確率を高める、バイデンの勝利の信じられないほど限られた力は、見つけることができるならどこでも友人を必要とするだろう、という事を意味し、教皇が最近、米国で作り上げた中道左派の枢機卿3人の指導体制ーシカゴのブレイズ・キューピック、ニューワークのジョセフ・トービン、そしてアトランタのウイルトン・グレゴリーーを見て、バイデンは、彼ら全員が自分に友好的であることに気付くだろう。

確かに、新しいバイデン政権の陣容が具体的になるにつれて、すべての関係が心地よいものになるとは限らないかもしれない。トランプ大統領が選挙直前にエイミー・コニー・バレット氏を米連邦最高裁の判事に任命するのに成功した結果、バイデンの出身母体である民主党から圧力がかかり、「生命問題」をめぐる緊張が引き起こされる可能性がある。

中国に対する姿勢についても、大統領選挙中のバイデンの発言が、トランプと同じくらいにタカ派的だったことから、バチカンが先に中国と合意した司教任命に関する暫定取り決めの延長を巡るバイデン新政権との意見対立が続く可能性がある。

第二次大戦後、米国が関わった戦争の大半が民主党の大統領の下でなされたことの影響も注目される。「平和教皇」のフランシスコが、将来、バイデンが国際紛争に関わる必要が出てきた場合に、抑えに回ることが考えられる。

40年前、ヨハネ・パウロ二世教皇とレーガン米大統領は、気の合う同士であることを知り、結果として歴史が変えられた。ソ連共産主義は政治的、道徳的に嫌悪すべきものだという確信を共有し、東西冷戦の象徴であるベルリンの壁を崩壊に導く連鎖的な出来事を開始するのに寄与したーそれは、ハードパワーの米国とソフトパワーのバチカンが、欠けることなく、まっすぐに、しっかりと繋がった立場をとり、まばゆいばかりの諸々の可能性を示すものだった。

 ヨハネ・パウロ二世とは概して、いずれも「保守派」だった。今回は、いずれも「進歩派」と広く見なされている教皇と大統領が、世界の舞台を共有し、パートナーシップを築く可能性がある。だが、フランシスコは83歳、バイデンは77歳。いずれも、個人的なドラマの最終章に入ることを意識する必要がある。

 さらに、バイデンは個人的に誠実なカトリック教徒であるとされ、教皇と肩を並べて立つ機会を得る可能性がある。2011年に教皇ベネディクト16世を訪問し、2013年に教皇フランシスコの就任の際、副大統領として米国の代表団を率いてバチカンに行き、そこでの会議での基調講演で、一年前にガンで亡くした長男に言及し、がん治療体制充実の必要性を熱を込めて訴えた。バチカン関係者にとって、赤の他人ではない。

 では、この新たな”ヨハネ・パウロ二世=レーガン同盟”が戦う”悪の帝国”は何だろうか。

 一つは、新型コロナウイルスの大感染。世界は再び高まっている大感染の脅威に直面しており、破壊的な影響は経済、医療体制だけでなく、教会と国の関係を含む、ずっと広範囲の問題を深刻化させている。教皇と米大統領は、危機への対処で協調関係を築くことができる。

 さらに深く、現在進行中の地政学的な精神のための闘争がある。ここでは、フランシスコとバイデンが世界について一つのビジョンを示し、トランプが別のビジョンを示している。

 前者は、教皇が先日発表した社会回勅「Fratelli Tutti」で示した、グローバルで、多面的な、広範で進歩的な人間主義ー国際的な連帯を支持し、貧しい人々を優先し、国境を相対的なものとして扱おうとするものだ。対立ではなく対話を支持し、課題に直面する際の科学的、技術的、制度的な専門知識を高く評価する。

 後者は、強力な大衆迎合的なナショナリズムー世界を家族としてではなく、国家利益のため政治的、経済的な権力闘争を最優先する必要のある場、と見なす。内外からの脅威から国を守る必要性を前提とし、世界的な連帯よりも国家の繁栄、そしてエリートや支配者層に関する懐疑と敵意を前提にしている。

 そして、今後、今後数年間で、バイデンとフランシスは共同のエネルギーを、彼らの理想の実現に傾けられる可能性がある。そして、それが成功した場合、彼らの務めが終わった時に、世界が今とは大きく異なって見える可能性がある。

 いずれにせよ、そのような世界の再編の可能性が、これからの4年の歳月をかけて進むことを、通常程度のカトリック信徒としての関心をもって見ていく必要があるだろう。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年11月8日