(解説)教皇フランシスコが新たに選んだ枢機卿13人の中で注目人物は…(LaCroix)

(教皇フランシスコが教皇選挙権を持つ枢機卿を新に9人選んだ。だが、最も重要な判断は、80歳以上で選挙権を持たない新枢機卿4人のうちの一人にある)

(2020.10.31 LaCroix Vatican City Robert Mickens)

 教皇フランシスコは、新しい枢機卿13人を内定するとともに、その任命のための枢機卿会議ーフランシスコにとって7回目となるーを11月28日に開くことを決めた。その発表は少し前の日曜を予定していたのだが、誰かが事前に情報を外部に漏らしたことを快く思わない教皇は、発表を一週間遅らせたようだ。

 それはともかく、新枢機卿13人のうち9人は80歳未満で、教皇選挙権を持つ。他の4人は80歳以上で、次の教皇選挙に参加できない。また28日の枢機卿会議だが、イタリアを含む欧州では新型コロナウイルスの大感染が再燃し、バチカンも再び封鎖状態に戻り、教皇の水曜の一般謁見も11月4日から公開を中止、オンライン中継に逆戻りすることになったばかりで、13人全員が参加できるかまだ分からない。

*興味深い顔ぶれ

 だが、いずれにしても、13人の顔ぶれはとても興味深い。

 まず、教皇選挙権を持つことになる9人。うち、マリオ・グレック司教(シノドス事務局・事務局長=マルタ、63)、マルチェッロ・セメラーロ司教(列聖省長官=イタリア、72)、ウィルトン・グレゴリー大司教(米国・ワシントン大司教=米国、72)、セレスティーノ・アオス・ブラコ大司教(チリ・サンチアゴ大司教、カプチン・フランシスコ修道会=スペイン、75)の4人は、それぞれの現在のポストは枢機卿が就くポストなので、枢機卿に任命されるのは当然と言える。

 そして、フランシスコの下でのこれまで6回の枢機卿会議で任命される新枢機卿のリストと同様、「本当のニュース」は、まず、リストに載っていないところにある。彼は、またしても、伝統的に枢機卿のポストであるベネチアやロサンゼルスなど世界の主要教区を率いる大司教に赤帽子をかぶせなかったのだ。

 

*小さな教区や教区になっていない地域の司教、司祭も

 一方で、これまで枢機卿のいなかった小さな教区や教区になっていない地域の司教、司教になっていない司祭に教皇選挙の投票権を与えることを選択した。

 その一人が、アントワーヌ・カンバンダ大司教(ルワンダ・キガリ大司教=ルワンダ、61)。ルワンダの教会から初の教皇選挙権を持つ枢機卿となる。

 次に、フィリピンのホセ・アドヴィンクラ大司教(68)。過去11年間、彼はアジアのカトリックの国の基準では「中規模」の教区であるカピスの大司教だった。教皇が彼をフィリピンの”海産物の都市”から首都マニラに移すことを意図している可能性がある。バチカンの強力な役所、福音宣教省の長官にアントニオ・タグレ枢機卿が昇格した後の、マニラ大司教のポストを埋めることになるだろう。

 ”周辺地域”からの任命も、フランシスコがこれまでも採用してきたやり方だ。今回は、ブルネイのコルネリウス・シム司教(75)がそれだ。シム司教は2004年以来、ブルネイ・ダルサラームの使徒座代理区で責任者を務めてきた。マレーシアと南シナ海に囲まれたボルネオ島にあるこの小さな国の47万人の住民の中にはカトリック教徒が1万7千人しかおらず、小教区は三つだ。

*イタリアの主要大司教区からは選ばれなかったが

 というわけで、多くのイタリア人は、フランシスコが、またしても、ベネチア、トリノ、パレルモの大司教に枢機卿の帽子を与えないままにした腹を立てているが、あまり大声で文句を言うことはできない。なぜなら、教皇は彼らの”同胞”から、3人の教皇選挙権保有者を非常に巧みに指名したからだ。そのうちの2人は予想外だった。

 アウグスト・パオロ・ロユーデチェ大司教(56)は、ローマの補佐司教として4年間過ごした後、2019年5月からシエナの大司教を務めている。このトスカーナ地方の教区長を枢機卿が務めることは17世紀後半以降なかった。その枢機卿は、セリオ・ピッコリミニと言い、ピオ二世、ピオ三世の二人の教皇を輩出した著名な貴族の家の出たった。

 だからと言って、ロユーデチェ新枢機卿がフランシスコの後継者となることは恐らくないだろうが、少なくとも、イタリア司教協議会の会長にする考えを、教皇は持っているようだ。現会長のグアルティエロ・バセッティ枢機卿はすでに78歳であり、最近、新型コロナウイルスの検査で陽性反応がでたこともあり、近日中に退任の可能性が強い。

*修道院から引き抜かれた人も

 もう一人のイタリア人が選ばれたのは衝撃的だった。アッシジの聖フランシスコ修道院院長、コンヴェンツァル・聖フランシスコ修道会の修道士、マウロ・ガンベッティ神父(54)がその人だ。枢機卿に指名されたガンベッティ院長は、明らかに新しい任務に運命づけられており、おそらくイタリアの大司教区(おそらくトリノ)トップか、他の、おそらくバチカンの幹部に就く可能性がある。アッシジに留まることも考えられるが、ふさわしいポストは空いていない。

 

*枢機卿ではない注目人事は…エルサレム総大司教

 枢機卿ではないが、注目されるのは、フランシスコが、55歳のイタリアのフランシスコ会修道士をラテン・エルサレム総大司教に指名したことだ。「フランシスコ会」の最大の男子修道会である「小さき兄弟会」の会員、ピエルバティスタ・ピザバラ大司教だ。

 2016年からラテン・エルサレム総大司教区の使徒的管理者を務めているが、アラブ人ではないため、イタリアの司教区に戻ると考えられていた。今回は、枢機卿には任命されないが、エルサレムはカトリック教会の始まった場所であり、キリスト教の母教会だ。そして、今日、それは「周辺」と呼ばれるものの一部でもある。キリスト教徒、特にローマとの交わりのある人々は、確かに中東地域では少数派だが。

*枢機卿になるはずの聖職者がもう二人いる?

 昨年7月に教皇が今年、新たに枢機卿を任命することに強い希望を持っていることを示唆した際、バチカンが15個の枢機卿用の指輪を注文したとされていた。それが本当なら、今回任命する13人だから、残り2つの指輪と赤い帽子を受けると意図されたのは誰だったのだろうか(あるいは、さらに2人が選ばれるのか?)フランシスコがすでに心の内で選んだ枢機卿のためのものである可能性がある。つまり、現在の政治的困難やその他の要因から、現時点では発表できない、という事はあり得る。

 ヨハネ・パウロ2世は、1987年から2008年にかけてラテン・エルサレム総大司教だったミシェル・サバ大司教に赤い帽子を与えることを慎重に考えたと言われている。だが、教会の権利と外交関係の構築をめぐって、バチカンはイスラエル政府と微妙な関係にあり、イスラエルの人々は、ナザレで生まれたアラブ人キリスト教徒のサバ大司教が枢機卿になることに激しく反対し、断念せざるを得なかった。

 ただし、ピザバラ大司教は、サバ大司教とは非常に異なるキャラクターだ。1990年からエルサレムに住んでいるが、アラブ語を話さず、現代ヘブライ語に堪能だ。現在のイスラエルの指導者たちはおそらく、彼らが「ユダヤ人国家」と呼んでいる場所に枢機卿を恒久的に置くバチカンの計画に反対するだろう。しかし、彼らが受け入れを説得されるかもしれない人物がいるとすれば、ピザバラ大司教のような人物だろう。

 世界の他の地域には、教皇フランシスコが心の内に1人か2人の枢機卿とすることを考える可能性がさらに高い司教がいます。明らかに中国やトルコのことを考えており、アラブ半島、あるいは北朝鮮はどうだろうか。私たちは、教皇が最終的に彼らの名前を明らかにすることができるかどうか、いつ決定するか、待つ必要がある。

 

*教皇選挙権のない枢機卿の中に影響与えうる2人

 フランシスコはまた、80歳以上の4人を枢機卿に内定した。この年齢の人は、枢機卿を他の司教と区別する唯一の権利と義務である教皇選挙権を持たないため、しばしば「名誉枢機卿」と呼ばれている。しばしば彼らは学者、神学者、あるいは生涯にわたる中級レベルのバチカン当局者だ。要するに、彼らはローマや教皇選挙で下される重要な決定にほとんど影響を与えない。

 だが、今回、枢機卿に内定した4人のうち2人は、このような通例とは少々異なっている。

*預言的な教皇説教師

 ラニエーロ・カンタラメッサ神父(86)は、ヨハネ・パウロ2世以来の教皇説教者のカプチン・フランシスコ会修道士だ。1960年代後半のカトリック・ペンテコステ派運動ー今日のカリスマ刷新運動ーの先駆者。預言的な説教者であり、時には”扇動者”になることもある。次の教皇選挙が行われる前に、”有権者”たちの前で説得力のある”声”となる可能性がある。

 影響力の点で過小評価してはならない80歳以上の新枢機卿がもう一人いる。

 

*そして、教皇が期待をかける”本命”は

 シルヴァーノ・マリア・トマーシ大司教、教皇大使(80=写真)は、フランシスコが28日の枢機卿会議で任命予定の新枢機卿リストに載った最重要の名前の1つである可能性がある。だが、国際連合ジュネーブ事務局でのバチカンの常任オブザーバーとしての彼の13年間の活動に関する記事を読んでも、それを知ることはできない。イタリア生まれ

だが、帰化した米国市民で、移民・難民の世話を専門とするスカラブリーニ宣教会の会員だ。

 関係者の間では、教皇は、トマーシ大司教のジュネーブでの外交官としての活躍を評価して、”名誉枢機卿”にしたのだ、という見方が一般的だが、消息通の中には、枢機卿に選んだのは、移民・難民分野で彼が持つ専門知識のため、との見方がある。それは若干、真実に近いかも知れない。トマーシ大司教は、現在はバチカンの人間開発省に統合された「移住・移動者司牧評議会」に長年勤務し、1989年から1996年まで次官ポストに就いて、素晴らしい仕事をした。

 当時の、同評議会の会長だった、ジョヴァンニ・チェリ枢機卿が引退する際、後任にトマーシ大司教を望む声が強かったが、当時のバチカン国務長官、アンジェロ・ソダーノ枢機卿は、将来、ヨハネ・パウロ二世から枢機卿に任命されることを前提に、彼に終生外交官としてのポストを用意していた。ソダーノは1996年、彼をエチオピアとエリトリアの使徒教皇使節とし、大司教に叙階。2003年にジュネーブの国連事務局のバチカン代表部に派遣され、バチカンの声を世界に伝えるために活躍した。2016年にローマに戻ったが、パーキンソン病の初期段階にあり、ほとんどの人は、彼がスカラブリーニ宣教会の施設で静かな余生を過ごす、と見ていた。

*教皇のバチカン改革の立役者

 だが、教皇フランシスコには、別の考えがあった。密かに、新しくてあまり知られていない仕事を与えたのだ。それは、バチカン改革を最重要課題の一つとする教皇が最も重要視しているもののひとつーピーター・タークソン枢機卿が長官となった「人間開発省」への四つの評議会の再編統合ーの実現だった。トマーシ大司教は、長年培った外交手腕、信用、そして真の愛情を持って、内紛を引き起こすことなく、かつて次官ポストを務めていた移住・移動者司牧評議会を含めた評議会を一つの巨大な部署にまとめ上げるのに成功した。

 教皇は彼の人間関係の巧みさを高く評価して、マルタ騎士団長のアンジェロ・ベッチウ枢機卿の補佐役に任命てするとともに、バチカン関連組織の改革を支援する役割を与えた。ベッチウ枢機卿が金融スキャンダルの責任を取らされ、枢機卿としての教皇選挙権などを放棄させられた今、教皇はトマーシ大司教を教皇代表にすることが期待されている。これが、彼を枢機卿に内定した教皇の本当の理由だ。

 そして、トマーシ新枢機卿が次期の教皇選挙で重要な役割を果たすことは間違いない。彼はすべての”有権者”を良く知っており、彼の卓越した技量のよって”キングメーカー”にはならないとしても、”モデレーター”になるだろう。彼は、非常に型破りな教皇がこれまでに選んだ最も重要な枢機卿となるかも知れない。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年11月4日