・バチカンと中国が、問題抱えて「司教任命に関する暫定合意」を更新(Crux)

Vatican and China renew debated deal on picking bishops

In this April 18, 2018 file photo, Pope Francis meets a group of faithful from China at the end of his weekly general audience in St. Peter’s Square, at the Vatican. The Vatican on Tuesday, Sept. 29, 2020, answered its critics and justified its decision to pursue an extension of an agreement with China over bishop nominations, acknowledging difficulties but insisting that limited, positive results had been achieved. (Credit: Gregorio Borgia/AP.)

(2020.10.22  Crux Senior Correspondent  Elise Ann Allen)

 ローマ発ー中国政府・共産党による信教の自由を含む人権侵害に対して国際社会から批判が高まっているにもかかわらず、バチカンは22日、司教の任命に関する中国との暫定合意の更新を発表した。多くの専門家は、北京との最終的な外交関係樹立への”ローマの頭金”と見なしている。

*バチカンは暫定合意の成果を自賛するが

 バチカンは22日の声明で「聖座は、教会的および司牧的的価値の高い協定の実行は前向きに始まった、と考えている」とし、「合意された事項に関する当事者間の良好なコミュニケーションと協力に感謝する」と述べ、暫定合意の更新、延長について、「カトリック教会の生活と中国人の利益のために、開かれた建設的な対話を追求することを意図している」と説明した。

*更新・延長の中身は秘密のまま

 2018年9月に締結された暫定合意は、バチカンのベトナムとの合意をモデルにしていると考えられている。同合意では、聖座は中国政府が提案する候補者の中から司教を選ぶことができる、とされているが、その条件は公表されていない。

 2018年に暫定合意が発表された際、教皇フランシスコは、教皇の許可なしに中国政府・共産党の管理・統制下にある中国天主愛国協会が一方的に指名し、バチカンが破門、その後、破門を解いていた8人全員を正式に司教に任命した。。

 22日の発表では、さらに2年間延長された暫定合意(ad experimentum )の内容について、明らかにしなかった。

*中国の狙いは外交関係の復活、バチカン・台湾の国交断絶

 中国・バチカン関係の専門家によると、暫定合意自体は司牧的なものだが、バチカンの中国との完全な外交関係復活のための第一歩とすることが明確に意図されており、そのためにバチカンと台湾との関係が交渉の切り札にされる可能性が高い。

 

*外交関係復活の切り札は台湾、だがバチカンは台湾を切れない

 Cervellera神父によれば、台湾の立場は、バチカンにとっての戦略ー信教の自由など中国共産党が関わる関心事項についてより目に見える変化を推進することーの中に置かれている可能性がある。

 「中国が、司教の任命について新たな合意内容を受け入れた場合、今後2年間に、国内の教会の宗教上の活動の自由を拡大するために努めねばならなくなります。それは中国政府が”地下教会”の司教を合法、と認めることを意味し、投獄された司教たちを解放し、中国の教会の支配組織として政府が認めた中国天主愛国協会を”排除”するか”傍観”することになる」とも指摘。だが中国側がそうした措置をとらないとすれば、「バチカンが中国との交渉で残されたカードは台湾との関係だけだが、バチカンが台湾と決別するのは難しいと思います。となると、バチカンには、中国に圧力をかける道具がない」と悲観的見通しを語る。

*フランシスコ教皇に始まったことではない対中接近

  CervelleraとAffatatoがそろって指摘するのは、バチカンの中国との接触は、教皇フランシスの下で始まったものではなく、中国で共産党が政権を握り、1949年に外交関係が断絶して以来、聖座の一貫した姿勢だ、ということだ。

 「バチカンはこの60年の間、中国との関係を築こうとしてきました。毛沢東の時代は、バチカンとの関係を完全に立っていたので、接触が出来なかったが、鄧小平が実権を握って以降、ヨハネ・パウロ2世、ベネディクト16世、そしてフランシスコの歴代教皇がそろって、中国との関係を築こうとしました」とCervellera。

 Affatatoは、中国の司教の問題に最初に注意を向けたのはヨハネ・パウロ2世だった、とし、「暫定合意は教皇フランシスコの下でなされましたが、ヨハネ・パウロ2世の時代から聖座の意志は非常にはっきりしていました。中国も過去70年で多くの変化を遂げ、”毛沢東の中国”ではなくなっています」と述べた。

 だが、そうした流れの中で、今の暫定合意は、「非常に小さくて壊れやすいもの」というのがCervelleraの見方で、その意味を過度に重視することに懐疑的だ。「中国における信教の自由には大きな問題があります… 中国の教会活動の9割は機能していません。その現実を認識したうえで、信教の自由が中国で広がることを願っています」と語った。

*国際社会で相次ぐ暫定合意を批判する声

 中国との暫定合意については、当初から、「共産党政権による迫害と投獄に耐えてきたカトリック教徒を売り払うようなものだ」とカトリック教会内外から厳しい批判を受けてきた。「共産党が信徒に対する”呼吸の余地”を広げることには結びつかず、カトリックを含む諸宗教に対する規制を強化するのを可能にするだけだ」とも非難された。

 2018年秋の合意締結から有効期間2年が満了し、バチカン姿勢の更新・延長の姿勢が明らかになるにつれて、批判の声は国際社会の間でも高った。

 米国のポンぺオ国務長官は、9月のバチカンへの訪問を前にして米国の保守的な宗教雑誌First Thingsに記事を掲載し、中国による信教の自由と人権の侵害を非難し、バチカンに対して、中国に「道徳的権威」を行使するよう求めた。

 この記事に対して、バチカンのパロリン国務長官は、驚きを表明、「雑誌は議論をするのに適切な場所ではなかった」と批判。暫定合意の更新は「考え抜かれた決定」であり、信教の自由の懸念についても認識している、と反論した。

*合意更新は「信徒への裏切り行為」と香港の陳枢機卿

 香港の名誉司教で、教皇フランシスコの対中政策を批判して来た陳日君・枢機卿は、最近の記事で、パロリン国務長官は「嘘つき」だとして彼の信仰に疑問を呈するとともに、「合意の更新・延長は、司牧ではなく政治を意図するものだ」と暫定合意の更新に反対する声明を繰り返してきた。

 枢機卿は、22日、香港の住まいからCruxの電話インタビューに応じ、暫定合意の更新を「(注:信徒への)裏切り」「大きな過ち」「愚行、「不条理」と決めつけた。そして、自身が中国の枢機卿という立場にあるにもかかわらず、暫定合意の文書を一度も見せられたことがない、としたうえで、中国当局が「約束を守らない」から、「合意の更新は無意味だ」と主張した。

 さらに、「外交関係への効果はどうなるのか?」と問いかけ、東西冷戦期にバチカンが東欧の共産主義政権に対してとった「東方政策」を振り返り、「この時もバチカンは合意書を取り交わしたが、共産主義者たちは合意を尊重しませんでした」と述べた。

 これは中国の場合も同じで、「合意締結からこれまで2年の間に何があったのか。バチカンは何も得ていません。信教の自由に改善の兆しはなく、それどころか、さらなる迫害が起きているのです」と強く批判。政府・共産党の介入に従わない”地下教会”は次々と破壊されており、バチカンは「信徒たちが持っていたすべてのものを、中国政府・共産党に引き渡している」と訴え、中国の教会の今後についても、「楽観的な見方をするためには、”実績”が必要。私に楽観的になるように促すものは、何もありません」と語った。

 

*課題は「信教の自由」の確保・拡大、バチカンの強力な支援が必要

 こうした陳枢機卿の見方に対して、先のCervelleraは、中国における信教の自由の現状と中国政府の合意の扱い方について、「いくつかの非常に重要なこと」が指摘されている、としたうえで、「司祭と司教が(注:中国政府・共産党)当局に協力することを余儀なくされた場合、彼らは『福音宣教の代表者』ではなく『政府の役人』に変わる危険があります… これからの2年間にすべきことは、そうした危険を避け、カトリック教徒だけでなく、イスラム教徒、仏教徒、プロテスタントの信教の自由を確保すること」と述べ、中国内外の関係者に努力を強く求めた。

 一方、Affatatoは、この暫定合意には「宗教的、司牧的な性格がある」とし、「米国政府が望むように、政治的および地政学的な重みを与えるべきではない」と立場を示した。合意は、「カトリックが、厳密に言って、『西からの宗教』ではなく、普遍的な宗教であることを示しています」と述べ、暫定合意の更新で重要な点は、「中国のカトリック教会共同体の一致と好意的な評価」だとした。また暫定合意に批判的な意見があることは承知しているが、「暫定合意がなければ、『壁に向かって努力を重ねる』しかなくなる」としつつ、カトリック教会は中国における福音宣教について、従来よりも明確な立場をとる必要があることも指摘。「暫定合意の2年間の延長期間中に、バチカンは中国の教会活動を強力に支援する方法を見つける必要がある… 中国でプロテスタントが大きく伸びているのを見れば、中国と外交関係を持たなくても、福音宣教は可能だと思う」と強調した。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年10月23日