( シノドス総会ファイル)③「シノダリティ(共働性)」は、「新たな福音宣教」と同じ道をたどるのか?(Crux)

(2023.10.17 Crux Editor  John L. Allen Jr.)

ローマ発 – 10月4日に始まったシノダリティ(共働性)に関する世界代表司教会議(シノドス)総会は、日を追うにつれて、10年ほど前のシノドス—教皇ベネディクト16世の下で2012年10月7日から28日まで開かれた「新しい福音宣教」に関するシノドス—にますます似てきたように思われる。

 二つのシノドス総会の類似点は次のようなものだ。

・ヨハネ・パウロ2世教皇とベネディクト16世教皇のもとでは「新しい福音宣教」が教皇にとっての最優先事項と理解され、教皇フランシスコのもとでは、「シノダリティ(共働性)」が最優先事項とされている。

・この二つの buzzword(もっともらしいが実際には 意味があいまいな 言葉)は、その明確さよりもその遍在性によって、いずれの場合も際立っていた。 「新しい福音宣教」は、「信仰から遠く離れたカトリック教徒への布教」という単純な考えとして始まったが、使われ過ぎて、意味が非常に柔軟になり、ほとんど「善い」の同義語になった。 同様に、「シノダリティ」は、「互いに耳を傾け合うことと対話を基礎に置く教会のスタイル」への言及として始まったかも知れないが、やはり、使われ過ぎるうちに、それが「システムが承認するものすべてを包括する用語」に変わりつつある。

・二つのシノドス総会はともに、大きな国際危機の下で開かれている。 2012年のシノドス総会の場合は、シリア内戦の勃発だったが、今回の総会は、ガザ地区でイスラエルとハマスの間で渦巻く戦乱の勃発だ。 2012年のシノドス総会は、世界の教会を代表して懸念を表明するためにシリアに代表団を派遣しようとしたが、安全上の問題と政治的介入の疑念で瓦解した。今回の総会が、ガザ地区の戦乱にどのような具体的な対応をするのか、まだ分からない。

・二つのシノドス総会はともに、大スキャンダル発覚で注目を集めるバチカンでの裁判と同時進行の形で開かれている。 2012年10月は、イタリア人ジャーナリストへの機密文書漏洩で元教皇秘書パオロ・ガブリエレが有罪判決を受けた。今は、教皇の側近だったアンジェロ・ベッチュウ枢機卿を含む10人の被告が、さまざまな金融犯罪容疑で裁かれる「世紀の裁判」が大詰めを迎えている。

 そして、2012年のシノドス総会は、カトリック教会における「ヨハネ・パウロ2世とベネディクト16世の時代」の最後の大行事となった。 閉幕からわずか3か月余り後の2013年2月11日に当時85歳だったベネディクト16世が辞任を発表し、教皇フランシスコ選出の準備が整えられたのだ。

 今、教皇フランシスコは86歳で、シノドス総会を主宰している。現時点で教皇に健康危機の兆候はないが、少なくとも来年10月の第2回会期を含むこのシノドス総会の大事業を自らの手で終了させる可能性はある。

 だが、より基本的な問題は、ヨハネ・パウロ2世とベネディクト16世の後に、「新しい福音宣教」に降りかかったのと同じ運命が、このフランシスコの後の「シノダリティ(共働性)」に降りかかるかどうか、ということである。

 「新しい福音宣教」という言葉を主導してきた教皇たちが去った後、その言葉への言及が公式の隠語や実践から、驚くべき速さで消え去った。 2012年のシノドス総会で出された「カトリック大学への『新しい福音宣教』の部門新設」「世界中の教区への『新しい福音宣教のための養成センター』の新設」「司教協議会やその他の教会組織内への『新しい福音宣教のための新委員会の発足」は勧告で終わった。

 新教皇にフランシスコが選出され、ローマの地盤が変わると、「新しい福音宣教」はもはや新教皇の関心事ではないことが明らかになり、勧告を実現する動きはほとんど起こらなかった。 2010年に鳴り物入りで設立されたバチカンの「教皇庁新福音宣教評議会」は、2022年に活動が停止され、新しい福音宣教省に吸収されるまで、わずか12年間しかもたなかった。

 一般に官僚組織が専門の部門を作ることで(職務の)優先順位を示していることを考えると、そのような部門を廃止することは通常、「関心が薄れていること」と同義、あるいは反語である。 官僚組織以外でも、話はほぼ同じだ。たとえば、米国の司教のウェブサイトを調べてみると、「新しい福音宣教」の専門ページは、ベネディクト16世の治世の後期以降、基本的にバチカンのテキストで更新されていないことがわかる。

 これは「新しい福音宣教」の旗印の下に放出されたエネルギーが単に消滅したと言っているわけではない。 堕落したカトリック教徒に手を差し伸べる取り組みは、この運動が最高潮に達していた時期にいくつも生まれ、その多くは大きな成功を収めています。

 さらに、教皇フランシスコの「シノダリティ」は新しい福音宣教の独自のバージョンであり、この考えは語彙的に消え去ったのではなく、むしろ新しい装いをとったと主張するでしょう。 それにもかかわらず、「新しい福音宣教」と銘打たれた取り組みは、10年前と同様に教皇から直接的、かつ明示的に、奨励されていないと言えるのは依然としてバランスを欠く。そしてそれは、教皇の出入りに応じてカトリック教会において認識されている優先事項がしばしば変わることを思い出させる。

 将来、2012年に行われたのと同様の”廃止”が、「シンノダリティ」を取り巻くかどうかは、時間が経てば分かるだろう。 しかし、新しい福音宣教とシノドス総会の両方の信奉者にとって良いニュースは、カトリック教会では、実際に消えることはないということです。 カトリックは、おじいちゃんの屋根裏部屋のようなものです。 おじいちゃんが持っていたものはすべて、まだそこにあり、ホコリを払って再び使用できるのを待っている。その時、車輪が回転すると突然、それが再び価値のあるものになるのだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年10月18日