・米国の聖職者性的虐待申し立て累計4250件、なおも信頼回復努力が必要(Crux)

 (2021.11.10 Crux National Correspondent John Lavenburg)

Bishop Edward B. Scharfenberger of Albany, N.Y., second from left, listens to a speaker during a “Movement to Restore Trust” symposium at Canisius College Dec. 7, 2019, in Buffalo, N.Y. To the bishop’s right is clergy sexual abuse survivor Michael Whelan. In addition to heading the Albany Diocese, (Credit: CNS photo, via Movement to Restore Trust.)

ニューヨーク発–米国のカトリック教会における2002年未成年者保護憲章の順守状況に関する年次報告書が9日公表され、2019ー2020年監査年度に確認された性的虐待の被害申し立てを受けた聖職者は4250人にのぼり、教会や聖職者に対する訴訟、被害者に対する補償プログラム、教会や聖職者の破産に至っている者が、その三分の二を占めていることが明らかになった。

 報告書によると、4250人のうち4228人は、虐待が行われたのは数年から数十年前、被害者は現在では成人している。残りの22人は、2020年6月20日時点で未成年の人が聖職者から性的虐待を受けたと申し立てたものだ。

 報告書の冒頭、全米カトリック司教協議会(USCCB)全国審査委員会のスザンヌ・ヒーリー委員長は、ホセ・ゴメスUSCCB会長(大司教)宛ての書簡の形で、過去の申し立てとされた4228件の申し立てについて、「過去の痛みが残っていることを改めて思い起こさせるもの。教会は、事件がいつ起こったかに関係なく、被害を受けたすべての人に手を差し伸べ続けなければなりません」と強調した。

 現在も未成年者である人から「虐待された」と申し立てられた聖職者22人のうち、これまでに6人については虐待が立証されており、7人は継続調査中。 3人は立証できていない。また2人は虐待が確認できず、4人については、性的虐待以外の問題とされている。虐待が立証された人数と、申し立て総数は、2018-2019監査年度からそれぞれ、9人、37人減少している。

 ゴメスUSCCB会長は報告書の巻頭文で、聖職者の未成年者に対する性的虐待の新規申し立てが少なくなっていることに注目、「今回の年次報告者は、未成年者を巻き込んだ司祭による性的な違法行為が、今の米国のカトリック教会では極めて少なくなっています」と述べる一方で、「性的虐待被害の申し立てが事実であると立証された加害者は、聖職者としての職務から外し、司法当局に報告しました」とした。

 「申し上げるまでもなく、性的虐待被害の申し立ては極めて多いが、司教の兄弟たちと私は、未成年者と傷つきやすい成人を守ること、被害を受けた方々に思いやりと助けを提供することを約束し、実行に努めています」と説明している。

 今回の報告書は、2019年7月1日から2020年6月30日までの監査に基ずくもの。4250人の聖職者の性的虐待が3946人によって申し立てられ、838人の虐待が立証され、173人は申し立ての根拠がなく、 825人については立証できなかった。 991人については継続調査がされている。1423人は「その他」に分類されているが、これには教区の対応、被害者への補償、あるいは不明を含む。

 4000人を超える虐待が申し立てられたのは、複数の州で時効が変更され、被害者に申し立ての機会が与えられたことで件数が前年度の3倍になった2018-2019監査年度と同じ水準だ。過去の虐待については、多くの教区で、確認された被害者に対して補償プログラムが実施されている。

 また報告書は、2018年8月のペンシルベニア州の大陪審の報告書が、数百件にのぼる聖職者による性的虐待疑惑が明らかにされたのを機に、全米の他州でも同様の調査がなされ、ミズーリ、コロラド両州では2020監査年度分の報告がされている、としている。報告書の調査に参加した教区197のうち195教区では、聖職者の性的虐待の申し立てに関して3億1198万666ドル(約330億円)を費やした、という。

 また、2002年未成年者保護憲章の一項以上が守られていなかった教区はフォートワースとヘレナ、司教管区は聖ニコラス・ウクライナカトリックとニューアークエパルキアの計四つあり、「継続的な改善努力が求められる」とヒーリー委員長は述べ、各教区の司教たちは、検証順守を徹底させるためにそれぞれの教区審査委員会を召集した、としている。

 憲章が守られていないとされたのは、未成年者と成人のための安全な環境を確保する措置が十分でない、未成年者と共に働く聖職者全員と成人信徒の身元調査が行われていない、など。また、これらの教区では二つの教会が監査期間中にデータ収集などで十分な協力を行わなかった。

 報告書取りまとめの過程で、監査委員会は監査年度中に61回の現地監査を行ったが、6割の教区で、性的虐待に関する会議がされていない、担当者の構成が十分でない、理事会の細則に従わない、担当者の職務に自信がもてない、担当者の勤務が適切にされていないメンバーのローテーションの欠如などの問題が見つかった、という。また、2割から4割の教区で、児童ポルノに関する規程を含む児童保護方針または行動規範が定められていなかった。

 さらに、訪問した教区の15〜25%が、典礼が提供された、または教区や学校で表示されたすべての主要言語で印刷された報告手順を持っていなかったと報告している。訪問した教区の同じ割合で、訓練を受けていない聖職者、従業員、ボランティアが子供たち接触したという。

 報告書に関するUSCCBの新聞発表では、2020年に教会の保護サービスへの投資が15パーセント増加した、と述べているが、これには、「聖職者、従業員、ボランティアに対して実施された250万件を超える身元調査」が含まれていました。

 USCCBの児童青少年保護事務局のバーニー・ノジャデラ局長は、報告書の冒頭でゴメスUSCCB会長とヒーリー全国審査委員長にあてた書簡を引用し、2002年未成年者保護憲章にもとずいて取られた措置は「全国レベルで機能しているものの、虐待への警戒が依然として必要」と述べ、「教会の努力は称賛に値するが、それにもかかわらず、絶え間ない警戒が必要であり、聖職者と信徒の献身的努力がなお求められている」と強調。 「教会の努力が”文化”を変えることを願う。これは、全員が規則に従っている場合にのみ可能だ」と訴えている。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年11月11日