・未成年性的虐待で訴訟400件ー米サンディエゴ大司教区が破産申請へ(Crux)

 (サンディエゴ教区長のウォルター・マケルロイ枢機卿。昨年8月に教皇フランシスコから新任された、最も新しい枢機卿20人のうちの一人だ= Credit: Andrew Medichini/AP.))

(2023.2.14 Crux National Correspondent  John Lavenburg)

 ニューヨーク発 – 米国のカリフォルニア州法の2019年修正法で、被害者が被害に遭った期間の制限なしに訴訟を起こすことが認められていることを背景に、サンディエゴ教区では、聖職者、修道者、一般信徒の未成年者に対する性的虐待に関する訴訟が急増、現在、約 400 件の訴訟に上っており、教区長のウォルター・マケルロイ枢機卿は14日までに、教区が破産申請を余儀なくされる可能性がある、と教区の全聖職者、信徒に通知した。

 Facing 400 sex abuse lawsuits, San Diego diocese ponders bankruptcy2019 年のカリフォルニア州法改正法を受けて破産申請の可能性を公表し同州の教区は、昨年12月のサンタ ローザ教区に次いで二番目だ。

 サンディエゴ司教区は、カリフォルニア州のサンディエゴ、インペリアル両郡を担当地域にもち、96の教区、司祭は151人(定年も含む)。総人口346万人のうち138万人がカトリック信者だ。

 マケルロイ枢機卿は通知の中で、サンディエゴ教区は、すでに 2007 年に 144 件に上る性的虐待の被害申し立てに対して和解などに 1 億 9800 万ドル(約260億円)を費やしており、教区の資産のほとんどが「使い果たされている」と窮状を訴えた。

 そして、2007年に支出した額と訴訟件数から現在の新たな訴訟件数に対する和解金や賠償金の総額を推定すれば5億ドルから6億ドルに上る可能性があり、「訴訟保険があっても、教区は現在起きている訴訟に対処することはできないと思われる」とし、「破産は、性的虐待のすべての被害者への補償が公平になされることを保証する道筋を提供する一方、信仰の育成、司牧活動、貧しい人々や疎外された人々へに対する教会の奉仕を継続することを可能にする」と説明した。

 これに対して、性的虐待被害者の弁護団は、「和解や損害賠償のための資産がない、という教区の主張に異議がある」とし、来週にも新たな訴訟を起こす方針。

 弁護団の代表者、アーウィン・ザルキン氏はCruxの取材に対し、「教区は2019年に、保有資産を性的被害者への潜在的な支払いから逃れさせる狙いで、小教区の不動産持ち株会社に移している。その資産の評価額は、課税対象に限っても6 億ドル近くに上る」と述べ、「このような資産の移管は(被害者に対する)支払いを回避する試みだ。資産を教区に戻す必要があり、その訴訟は州裁判所の扱いとなるか、破産裁判所のある会となるか、いずれにしも 問題になるだろう」と語っている。

 一方でマケルロイ枢機卿は、破産申請は、まだ訴えを起こしていない性的虐待被害者から今後賠償を求められた場合の資金を提供するとともに、75年前までさかのぼる被害訴訟の波に終止符を打つことに繋がる、と破産の正当性を強調する一方、サンディエゴ教区、そしておそらく他のカリフォルニア州の教区にとっての更なる懸念は、州法で定めた訴訟対象となる案件の期間についての制限を無くし、州内の教区を訴訟に対して永遠に脆弱にする、修正法にある、と述べている。

  これに対して、ザルキン氏は「マケルロイ枢機卿たちは、破産が何を意味するのかを分かっていない。このような主張は不信感を高めるだけだ。彼らの頭に最初に浮かぶのは、被害者たちの正当性が否定され、訴訟が却下され、そして公正な補償が与えられないことだ」と強く批判した。

 サンディエゴ教区によると、過去 3 年間に提出された 約400 件の被害訴訟の 70% は 1945 年から 1975 年の間の被害に対するもので、一番最近の被害は1996 年。加害者として訴えられ、現在生存している者は4人のみといい、「このような数字は、教会が未成年者に対する性的虐待を根絶し、未成年者を保護するために多大な努力を重ねてきた、という現実を反映している」と強調。 「それでも教区は、これらの新たな訴訟に対応するための莫大な法的費用に直面でねばなりません」と説明している。

 サンディエゴ教区の広報担当者はCruxに対して、「破産申請の決定は 5 月下旬か 6 月上旬になる可能性が高い」とするとともに、「枢機卿がこの時期に、実情を説明したのは可能な限りの透明性を確保し、被害者のために私たちが最大限できることを明らかにするために重要なことだった」と述べた。

 また、「補償や和解に必要が金額と保険から支払わる額との差が大きすぎる場合は、選択肢を検討する必要があり、そのために今後数か月、多くの時間が費やされることになる。課題は、被害者の生活再建を支援するために、どの資産を売却または譲渡できるかの判断を可能な限りオープンにすることです」と語った。

 マケルロイ枢機卿はまた、「教区で起きた性的虐待を決して忘れることはない」と強調し、「司祭による未成年者に対する性的虐待と教会の対応は、過去の私たちの教会の最大の罪を構成しています。私たちはこれまで以上に、未成年者を手厚く保護し、虐待された人々を癒すための措置を提供し、被害を受けた人々への補償に教区の資産を使っていくことが求められている」とも述べている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

 

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2023年2月15日