・ポルトガルの教会でも性的虐待の被害者が過去70年間で5000人にー独立調査委員会報告(Crux)

(2023.2.14 Crux  Senior Correspondent   Elise Ann Allen)

 ローマ発 – 今夏の「世界青年の日ワールド」に教皇フランシスコの参加が予定されている、そのわずか数か月前の13日、開催国ポルトガルのカトリック教会で過去70年の間に約5000人の未成年者が聖職者など教会関係者によって性的に虐待されていたことが明らかになった。

 ポルトガル司教協議会から委嘱され、聖職者による性的虐待について調べていた独立委員会が報告書で明らかにしたもので、1950年以降に性的虐待を受けた未成年者は確認できたものだけで4815人にのぼる。

 加害者の8割弱は姿勢で、被害者の大半は男性。性的虐待が行われたのは、司祭は虐待者の約 77% を占め、被害者のほとんどは男性であり、報告書によると、虐待場所は神学校、教会、教会が運営する学校、さらに告解室まで多岐に及んでいる。

 13日の報告書発表のための記者会見で、独立委員会の委員長で児童精神科のペドロ・ストレヒト医師は、「子供時代に虐待の被害を受け、これまで沈黙していた方々が、勇気をもって声を上げたことに、心からの敬意を表したい」と述べた。

 報告書によると、委員会の調査作業は、被害者が匿名で回答することのできるウエブサイトを開設することから始め、実名で名乗りを上げた512人に直接、聞き取り調査をしたほか、多くの教会に会った関係資料の収集・分析、さらに国内の19人の司教たち、13の修道会の責任者を含む聖職者に対する聞き取り調査を実施、その結果をまとめた。得られた証言で犯罪と判断されたものうち、時効になったものを除く25件を検察庁に送った。

 実名で被害に遭ったことを証言した被害者の大半は男性で、虐待された時点での年齢は10歳から14歳、平均年齢は11歳。虐待は1960 年代から 1990 年の間にされたものが最も多く、全体の 58% を占め、1991 年以降になされた虐待は 21% だった。

 性的虐待の具体的内容としては、わいせつな言葉、接触、自慰行為、オーラル・セックス、アナル・ セックス、性器の挿入、児童ポルノの閲覧など。加害者の大半は男性で、大部分が司祭だった。また特定された被害者のほとんどが被害を自分以外に話したのは成人した後で、まず家族に打ち明けている。

 また報告書によると、虐待された被害者の約7割は、教会の責任者に被害を訴えることをしなかったため、虐待が起きた時点で、加害者に対して何の措置も取られず、法廷に訴え出た被害者はわずか4パーセントにすぎなかった。

 それは、ほとんどの被害者は、加害者側から、「性的虐待の行為には『神聖な目的』がある。黙っているように」と言われたためで、今に至るまで精神的な影響が残っている被害者も少なくない。

 また、聖職者から性的虐待を受けたことが明確な被害者の中で、 7 人が自殺している。虐待を受けた人々のほとんどは、今でも信仰を持っており、カトリック教徒であり続けているが、大部分が教会の中で活動していない。

 教会の資料で虐待の疑いがあるとされたものうち、いくつかの訴えは調査と訴訟につながり、虐待の加害者には、蟄居、異動や監視下に置く、 などの措置が取られたが、聖職のはく奪はごく一部にとどまっている。

 2010年以降、数十年前の被害申告を含めて文書化された事件の数が”指数関数的”に増加した。同年以降は、 教区と修道会は申告を受けた場合、予備調査の実施、教区からバチカンの教理省への報告、必要なら刑法手続きの開始など、規定に従って対応することが定められたが、2010年以前は、対応に「非常に大きな裁量の余地」があり、記録として残されないこともあった。また、「教会法によって定められた規則に従わず、記録が削除された可能性が高いケース」もあった、と報告書は述べている。

 さらに、性的虐待に教会当局がどのように対応したかについて、1950 年代から 70 年代にかけての当局の主な関心は「教会の名声を守ること」にあり、大部分の性的虐待は隠蔽され、虐待されたとの訴えを受けても、被害者の苦しみには十分な配慮が払われていなかった、と指摘している。

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 報告書は、ポルトガルのカトリック教会と市民社会の両方に対する勧告で締めくくられている。

 勧告では、性的虐待の再発防止のための監視と研究を継続するため、教会の内外両方の専門家で構成する対策委員会の設置するなど、再発防止への具体的取り組みを提言。 教会当局に対しては、「例外なしの対応」を厳格に守り、性的虐待の疑いがあれば行政当局に報告し、調査に協力する道徳的義務について明確にするよう求めた.

 また、教会が、過去の虐待について謝罪し、性的虐待防止のための教会関係者の外部での教育と監督を実施するよう求め、”閉鎖された物理的空間”で教会行事を行わないなど再発防止措置の徹底を要請した。

 教会が提供すべき虐待被害者とその家族への支援として、特に、国民保健サービス (SNS) と連携して、将来にわたって被害者に継続的な精神的支援をあげ、政府に対しては、児童の性的虐待に関する全国調査を実施し、児童の権利を「明確に」認識し、児童と家族が学校レベルで権限を与えられるようにすることを勧告した。

 さらに、政府に対して、「性的虐待被害を受けた未成年者の上限年齢」を引き上げることで、性犯罪の時効を調整するよう求め、被害訴えへの司法的対応の迅速化を促した. また、性的虐待の調査におけるメディアの役割を強化し、特に愛やセックスなどのトピックに関して、子供や若者の発達における感情リテラシーを改善することを提案している。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2023年2月15日