・ポーランドで、青年司牧のリーダーのイエズス会司祭による未成年性的虐待が明らかに(Crux)

 

 

 

*「私の部屋で二人でいよう」と何度も虐待された

  ウィクトリアを虐待してからわずか 2 か月後、マチェイ神父は別の犠牲者、18 歳のニーナに目を付けた。

 「私は 18 歳でしたが、精神的にはまだ、子供でした」とニーナはCruxの取材に語った。 「虐待される6か月前に18歳になりましたが、まだ高校の最終学年でした」。

 彼女の父親は母親に乱暴することがしばしばあった。「その日は母の誕生日でした。私はマチェイ神父に会った時に、『今日は、父が母に特にひどいことをする日です』と打ち明けました。すると神父は私を自分の膝の上に乗せ、抱きしめました。そうされたのはこの日が初めてでした」。それは間もなく、本格的な性的虐待に変わった。

 「彼は私に、『一緒にロザリオの祈りのプリントを印刷し、祈りの準備し、私の部屋に二人でいよう』と言い、彼の部屋で何度も性的虐待を受けました」。その後、彼女は、精神科で治療を受け、自分が精神的な解離を起こしていることを知った。

 一年間にわたる性的虐待の後、彼女は友人の同じように神父から性的虐待をされようとしているのに気づいた。「このままでは、あの子も私と同じようにされてしまう。何とかしなければ」と決意し、マチェイ神父と共に若者の練成会を主宰しているアンジェイ・ミガチ神父に相談。ミガチ神父はすぐに上司のWojciech Ziółekイエズス会ポーランド南部管区長にこのことを知らせた。

 Ziółek神父は語る。「(2010年1月に)ニーナに会い、話を聞き、信じました… でも、私には彼女の傷口をを再び開く権利はなかった。彼女は”事件”を終わらせたかったのです」。

 彼はニーナとの面談記録を作成していなかった。彼女との約束に従って、マチェイ神父を若者司牧の担当から外したが、予備的な正規調査を開始しなかった。ニーナは、未成年者を含む他の人々がマチェイ神父から性的虐待を受けた可能性があることも指摘したが、管区長は実態を調べることをしなかった。

 一方、マチェイ神父は管区長に性的虐待の罪を認め、ニーナにもメールを送って罪を認めた。管区長はニーナとの面談の1か月後、マチェイ神父を保養地として有名なザコパネにあるアルコール依存症治療施設、そして黙想の家に異動させ、修道院に入れた。

 だが、そこの黙想の家で一週間の聖イグナチオ・ロヨラの霊操を参加者に指導している間、参加した女性たちに制限なしで接触できたが、彼に複数の少女たちに性的虐待を働いた前歴があることのを知っていたのは、黙想の家の所長だけだった。そこで働いている修道女たちは知らされておらず、それどころか修道女の一人が、マチェイ神父から言葉による性的虐待を受けた。

 被害者の上司は Więź に語った。「(肉体的な)性的虐待は起きませんでした。それは、彼女が強く拒否したからです」。

 

*「私は再度、裏切られた。そして、さらなる苦痛を受けた」

 マチェイ神父がチェコヴィツェ・ ジェジツェで、ニーナを性的虐待している時、ウィクトリアは精神衰弱になり、治療を始めた。 2008 年のある時点で、彼女は”事件”を、マチェイ神父からクウォツコでの若者司牧を引き継いだウィトルド神父に報告することにした。

 ウィクトリアはCruxに語った。「ウィトルド神父は、私の訴えを聞いた後で、こう言いました。『マチェイは私の兄弟だ。私は彼を守る必要がある』。あなたなら、自分の兄弟が罪を犯しても放っておくでしょうか?  信じられないほどの裏切りです」。この言葉を聞いた後、彼女は教会に行くのをやめた。 「ウィトルド神父に裏切られた時、私は信仰を失ったように感じたのです」。彼女を診察した精神科医によると、彼女は精神的なショックのため、マチェイ神父のことを誰に話したのか覚えていない、という。

 2014 年から 2020 年にかけてイエズス会のポーランド南部管区長を務めたヤクブ・ コワチュ神父はWięźの取材に.、「2014 年以前のことについては書面による報告は残っていません。2014年以前のことを調べようとすれば、関係者の記憶をたどる必要があります。そうして、2019年に、マチェイ神父の”事件”を掘り下げて調べることにしました」と語っている。

 コワチュ神父は、管区にこうした問題に対処する正規の手続きがなかったことから、この”事件”は未解決だ、と考えた。マチェイ神父の性的虐待の被害者たちを探し出し、証言を集め、その結果を報告書にして、ローマのイエズス会本部を通してバチカンの教理省に提出した。そのうえで、マチェイ神父をザコパネの黙想の家から、クラクフ地区のプシェゴジャウィにあるイエズス会の施設に移し、公的奉仕を行うことを制限し、施設内で個人的にミサを捧げることは認めた。

 「ニーナともう 1 人の成人の被害者がいたことが分かりました。ウィクトリアからも証言を取ろうとしましたが、得られたのは、彼女の妹による虐待の事実の確認でした」とコワチュ神父は語った。バチカンが正当な手続きをとって、彼女に会ってくれることを期待していたが、バチカンはそのような手続きを始めなかった。

 実際、彼から報告を受け取ったバチカンの教理省は手続きを開始しないこと決めたのだ。教会法の専門家は Więź の取材に、「教理省は、虐待を受けた当時に未成年だった被害者から証言を得ることは不可能、と判断したのだろう」と語り、イエズス会本部事務局もWięź への電子メールでの返答で、「イエズス会は、未成年に関する罪に対する罰則の手続きを始めるよう教理省に提案しましたが、教理省は、私たちポーランド南部管区に、未成年者司牧の制限を伴う罰をマチェイ神父に課すように、と指示してきました。通常、成人に関する虐待などの訴えは、現地のイエズス会管区で対応することにはなっているのですが」と説明した。

 管区は、「”成人”を性的に虐待した」としてマチェイ神父に”苦行”(その内容は明らかにされていない)を課した。だが、同神父について、成人に対する性的虐待についての正式な予備調査はされず、成人に対する罪で正式な処罰もされていない。

 また、ローマの本部は管区に対して、マチェイ神父に適切な措置を取り、十分な霊的支援と心理的治療を行うよう指示し、虐待被害者に対する支援についても知らされた。

 

*「私はバラバラだった人生を今、取り戻した」

 マチェイ神父への懲罰の内容が2021 年 10 月、南ポーランド管区長と神父本人に伝えられ、神父は若者司牧と告解聴聞を制限される形で、プシェゴジャウィの小教区付き司祭となった。だが、Więź の報道では、彼はまた、プシェゴジャウィにあるイエズス会の施設でパーティーを開いた。マチェイ神父は「724日間だけ、私には、あなたが若者を神に導く手助けをすることができない」と仲間の神父に語っという。.

 マチェイ神父の事件をバチカンに報告したイエズス会の南ポーランド管区長だった コワチュ神父は「罰せられたのは、自分だけだと感じました」と述べた。だが、「これはおそらく、マチェイ神父がパーティーを開く最後の機会だっただろう」と Więź は 11 月 14 日付けで伝えている。

 11月14日にWięźがこの”事件”を報道した後で、イエズス会のポーランド南部管区は声明を出して、被害者支援の準備ができていると述べ、マチェイ神父から虐待された経験のある人は管区に報告してくれるよう求めた。

  Więź のノソウィスキ編集長は「私たちの記事が出てからこれまで15日の間に、マチェイ神父の不適切な行為に関するいくつもの証言が寄せられています。しかし、これまで把握された虐待案件以上に新たな証言は受けていない」と語っている。

 

 

*ポーランドのイエズス会士たちに激震が襲っている

 イエズス会ポーランド南部管区のヤロスワフ・パシンスキー管区長は「マチェイ神父によって若い信徒たちが性的虐待を受けたことに、私たちは皆、ショックを受け、心の底から苦しんでいます」と述べた。多くの若いイエズス会士はソーシャル メディアで怒りと悲しみを訴えている。

 だが、 Więź の記事に批判的な反応もある。ローマに住むイエズス会士のダリウス・ コワルチク神父はTwitter で Więźの記者に、「あなたは誰も保護していない。何も新しいことを明らかにしなかった。神と人々、特にイエズス会士たちに対して、献身的な多くの司祭による若者との仕事への嫌悪感を持たせるのに貢献しただけだ」と挑戦的に述べた。

 ニーナは、マチェイ神父がクラクフから移動させられ、人里離れた場所で、バチカンでの調査がされるのを待っている、とのニュースを聞いて、 Więź に次のように書き送った。「彼はもう誰も傷つけません」。そして、Cruxの取材に、「何年もの間、私の人生はバラバラでした。麻薬中毒者になり、生活は荒んでいました。ですが今、彼の行為に”結果”がもたらされるのを知って、自分の人生を取り戻しました。私はもうすぐ結婚します。そして、私はこの”物語”から自由になりました」と語った。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2022年12月1日