・フランスの性的虐待報告で教会が受けた衝撃をどう受け止めるか(La Croix)

カトリックの司祭や他の教会の従業員による性的虐待に関する壊滅的な報告が国を揺るがしたフランスの主要なイエズス会の神学者との独占インタビュー
(写真:CENTERSÈVRES)

(2021.10.5 La Croix Gilles Donada |フランス)

 フランスの独立委員会(CIASE)が5日発表した、カトリック聖職者や教会関係者による未成年の性的虐待に関する報告書は、これまで考えられていた以上に事態が深刻であることを示し、フランスに留まらず、世界のカトリック教会に衝撃を与えている。中でも最も恐ろしいのは、フランスの聖職者が過去70年間に20万人以上の子供たちを性的な虐待していた、ということだ。

 報告書が突き付けた内容は、フランスのカトリック教徒たちに、改めて苦痛を与え、「教会指導者たちを、これでも信頼できるのか」と疑問を抱かせている。

 イエズス会の司祭であり、フランスを代表する神学者のエティエンヌ・グリュー神父がLa Croixに次のように語っている。

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*現実から目を背けず、直視する勇気を

問:5日に発表された報告書が、フランスの信徒たちに動揺を与えています。信徒たちにおっしゃりたいことは?

答:たしかに、報告書の内容は、教会共同体に大きな感情を呼び起こしています。心理的抵抗、怒り、悲しみ、嫌悪、惨めさ、など、あらゆる感情を、私たちは受け止めねばなりません。最も重要なのは、たとえ私たちが嘆き悲しみに逃げ込みたいと思っても、こうした感情すべてを一緒に受け入れることです。私たちは、こうした感情を共有し、司祭、教会などとの関係で、こうした驚きの事実が私たちの中に引き起こすものに、耳を傾ける必要があります。答えを見つける前に、時間をかけることが欠かせません。

問:現実を直視することは容易でしょうか?

答:もちろん、容易ではありません。こういう事態の直面すると、私たちは、「教会はいつも攻撃されている。もう、うんざりだ」「なぜ泥沼をかき立てるようなことをするのか。教会を傷つけたいのか」「教会は他の組織より悪くない。スポーツ界や教育界と比べたらどうか」「自責の念を持つのは止めよう」など、自分を守る誘惑に陥りがちです。たしかに、ショックですが、背を向けず、現実を直視し、「これが私たちの現実だ」と認める必要がある。残念なことですが、そうしなければ、前進はありません。

*信徒を守らない教会、情報が伝わらない教会の”沈黙の掟”

問:報告書の指摘は、教会の機能について何を明らかにしていますか?

答:まず、この「悪」の体系的な側面です。私たちは信者を保護する措置を講じていません。こうした犯罪行為に気付いたとき、私たちはそれらを阻止する手段を講じなかっただけでなく、被害者を守り、話を聞くことをしばしば拒否しました。二つ目に、「情報」が教会内でどのように伝達されているのか、疑問を投げかけています。密かに目撃したことに、どうして声が上がらなかったのですか。訴え、警告する勇気を奮った人たちを、どうした信用しなかったのですか。

第二に、それは情報が教会でどのように流通しているかに疑問を投げかけます。秘密裏に目撃したことをあえて大声で言わなかったのはどうしてですか。そして、私たちに警告する勇気を持っていた人々に私たちが信用を与えなかったのはどうしてですか?一種の”沈黙の掟”があったのです。

真実を話す人はとても貴重です。彼らの言葉が邪魔だと感じられても、教会は彼らを必要としているのです。この醜悪な事件は、私たちが持っている司祭についてのイメージに影響を与えます…これは明らかです。教会では、信頼の絆は非常に重要ですが、今、叙階され​​た司祭、司教に対する信頼が、揺らいでいます。

問:こうした行為に対する警戒を強めることはできます。

答:では、何について警戒するのですか。その有効性を過大評価しないでください。加害者はしばしば強い性格の持ち主で、自分を押し付け、矛盾すると思われることはしません。虐待は、第三者を介入させない状況の中で起きます。ほとんどの場合、司祭が他の人を排除し、自分自身を唯一の相手とする。一人だけに頼ることは、健全とは言えません。他の男性、女性の信徒、司祭、修道者、教会幹部などとの関係も持つことが必要です。

*司祭は”手の届かない存在”である前に、欠陥だらけの”兄弟”だ

問:私たちは、司祭にどのような態度をとるべきですか?

答:司祭が”手の届かない存在”ではないことを覚えておくのがいいでしょう。すべての人間と同じように、堕落しています。欠陥、心の傷、弱さを持っています。叙階された司祭は、第一に”兄弟”です。ある種の聖職者の神学はこれを忘れがちです。

問:どのような神学ですか?

答:司祭を「もう一人のキリスト((alter Christus)」とするものです。この概念は、17世紀にフランスの霊性に関する学校(Pierre de Bérulle, Saint Vincent de Paul, Jean-Jacques Olier, Saint Jean Eudes, Saint Louis-Marie Grignion de Montfort, Bossuet)で主張されました。これはトレント公会議(1545-1563)に決定に沿ったものでしたが、これは司祭を通常の状況とは別扱いされる時に、誤った神学となりえます。司祭は、キリストの存在と召し出しのしるしだったとしても、まず第一に「兄弟」なのです。私たちは”教会文化”について問わねばなりません。文化が問われることはめったにない。私たちが、それに浸っているからです。

*「教会の神聖さ」は、「完璧」を意味しない、「いつも神に顔を向けている」こと

問:使徒信経では、信者は「使徒継承の唯一の聖なるカトリック教会」への信仰を確認しています。教会の”神聖さ”も問われているのではありませんか?

答:神聖とは「完璧」という意味ではありません。私たちが「聖なる教会」と言うとき、教会が「神に向けられている」ことを意味します。カトリック教徒が「教会が、こうした悪から完全に守られているのだろうか」と疑問を持つのは、正常です。残念ながら、教会の歴史を見ると、忌まわしきものに囚われたのは、今回だけではない。魔女狩りによる何千人もの女性の虐殺、米国の先住民に対する残虐行為、異端審問や、十字軍など、数多くあります。

問:どこに目を向けるべきでしょうか?

答:福音書です。教会について完璧なものは何もないことを、私たちに思い起こさせてくれます。特にマルコの福音書で、”スーパーヒーロー”にはほど遠い弟子たちを発見します。彼らは足を引きずり、注意を払われることもない… イエスは教会を一人の男、ペトロの委ねますーイエスを裏切り、公衆の面前で否定した男にです。

 聖パウロが私たちに思い起こさせるように、私たちは、「この宝を土の器に納めています」(コリントの信徒への手紙2・4章7節)。本質的なことは、教会という大きな体が、人間の苦悩と完全に連帯し、それを神に届けるために、神に顔を向け続けている、ということ。そこに「神聖」があるのです。

*聖霊は教会を見捨てない、必要なのは「回心」「刷新」

問:今回の報告書による衝撃の先に、私たちに開かれている道は何でしょうか?

答:私たちは、危機を経験する時、基盤としているものが揺さぶられる時、それでも、聖霊が教会を捨てないことに気づきます。私たちは、回心、深遠な刷新を求められています。この大変動のまっただ中に、私たちは何か新しいことが現れる可能性がある、と信じています。

続きを読む:https://international.la-croix.com/news/religion/trusting-the-church-in-light-of-a-shocking-sex-abuse-report/14996

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2021年10月6日