(2024.1.20 Crux Contributor Eduardo Campos Lima)
サンパウロ(ブラジル)発-イエズス会ボリビア管区の司祭による40年以上にわたる80件以上の性的虐待事件の暴露を受けて設立されたボリビアの「虐待被害者の会」が、イエズス会ボリビア管区を相手取って訴訟を起こしている。
「イエズス会は長年にわたり事件を隠蔽しようとしてきた。 彼らは何が起こっているのかについての情報を持っていましたが、それを司法当局に届けることをしなかった。 私たちは彼らが組織的に犯罪を犯したと考えている。彼らは責任を負わなければなりません」と、「虐待被害者の会」の会長で自身も性的虐待の被害者であるワイルダー・フローレス氏は語った。
「虐待被害者の会」は昨年10月にボリビアの裁判所にイエズス会の司祭9人と同会の元ボリビア管区長を相手取って訴訟を起こした。訴えを受理した裁判所が現在、調査中だが、 イエズス会ボリビア管区の広報担当者はCruxの取材に、「会は被害者との連帯に尽力しており、刑事捜査と民事捜査の両方に全面的に協力している」と述べた。
「虐待被害者の会」はボリビアでの聖職者による性的虐待被害者25人によって結成され、現在、100人以上の被害者が新たに加わっている、という。その中にはまだ正式に会のメンバーになっていない人もいるが、虐待に関する情報を会に提供しており、会ではさらに多くの被害者たちと連絡を取り合っている。
会の 創設メンバーの多くは、ボリビアの3番目の都市、コチャバンバにあるイエズス会の寄宿学校Colegio Juan XXIIIの元生徒たちだ。
彼らが在籍していた当時の校長は「ピカ神父」として知られるスペイン生まれのイエズス会士、アルフォンソ・ペドラハス神父(故人)。2023 年 4 月にスペインの新聞El Pais が報道した同神父の日記には、1960 年代から 2000 年代にかけて、自分が犯した数多くの性的虐待事件が書かれており、 少なくとも当時未成年だった85人が性的虐待を受けたことが明らかになった。
フローレス会長も、ピカ神父の性的虐待の被害者の一人だった。虐待は1993年に行われたが、神父はすでに校長をやめていた。
会長によると、この寄宿学校の生徒の大半は地元の貧しい家の出身で、鉱山労働者の子供も含まれており、学校に入ることは、貧困を脱却する機会と見なされていた。
会長は、虐待を受けた時の様子を「ペドラハス神父が学校を訪ねてきた当時、私は13歳でした。神父は非常に重要な人物として私たちに紹介され、そこで1週間を過ごしました… ある晩、彼が私のところにやって来ました。 そして性的虐待を受けたのです。私は 何時間も泣きました。 まるで悪夢のようでした」と振り返った。
翌日の夜、フローレス氏は、神父がまた生徒たちの宿舎にやって来て、同僚の生徒一人を部屋から連れ出したところを目撃した、という。
フローレス氏は今、「長年にわたって性的虐待を繰り返した後も、なぜ、このような異常な小児性愛者が十代の若者たちの育成を担当することができたのか」と強い疑問を感じているとCruxに語った。「私が虐待を受けた当時の校長は、ペドラハス神父の後任でしたが、二人ともスペイン生まれで、友人同士だった。校長はペドラハスに性的虐待の性癖があることを知っていたはずですが、それでも彼を学校に訪問させたのです」と批判した。
ペドラハス神父は、日記の中で、さまざまな機会に、イエズス会の上長や他の会士に自分の罪を告白したと書いているが、告白を聴いた誰も、司法当局に彼を訴えることはしなかった。 「神父は日記で、85人の被害者について言及していますが、私たちは、この寄宿学校だけで150人以上が被害を受けていると考えています」とフローレス氏は断言した。
また、フローレス氏が被害に遭った当時の寄宿学校の校長は、スペイン東部カタルーニャ出身のフランセスク・ペリス神父で、ボリビアに赴任する前に欧州で虐待で訴えられていた。被害者の一部から公に非難され、職を追われている。だが、 「ぺリス校長の後任となったカルロス・ビジャミル神父も虐待を犯しました。20年以上にわたって、この寄宿学校の校長を務めた5人が生徒たちを性的に虐待していたのです」と氏は語った。
「虐待被害者の会」は、これまでにイエズス会士の小児性愛者が関与した他の事件の報告も受けており、告発の対象となる司祭の数は9人に増えた。このようにイエズス会士の加害者が多数に上ることから、訴訟をボリビアのイエズス会に対して起こすことになった、という。加害者とされる司祭9人のうち生存しているのはぺリス神父など2人だが、適切な対応を怠った罪でイエズス会の元ボリビア管区長らも訴訟の対象としている。
これに対して、イエズス会ボリビア管区の広報担当、セルジオ・モンテス神父は、2018年以来、イエズス会は潜在的な虐待事件を調査し、対処するために、いくつかの体制を作っおり、イエズス会士が関与した一部の事件が正規の手続きで適切に捜査され、検察に送致され、開示されることが保証された、とCruxに説明した。
モンテス神父によれば、ペドラジャスの事件は公けになる直前に、当局から予備的な捜査を受け、管区に対する隠蔽の告発は検察によって捜査されている。
「イエズス会は、告発された事件に関して持っているすべての文書を検察に提出している。公正な捜査と司法手続きを経て、有罪とされれば、イエズス会士は法で定められ決定に従わなければならない」とする一方、「ボリビアの法律では、犯罪は組織ではなく人々のみに責任がある、とされている。裁判所の 命令は各個人に対するものでり、(隠ぺいで、イエズス会管区が)刑事責任を負うことはない」が、「イエズス会ボリビア管区は、何よりもまず被害者たちに連帯を表明し、法的・心理的支援を提供してきた。一部のイエズス会士が犯した酷い犯罪について謝罪し、会としても虐待防止のために規律強化などの努力をしている」と説明した。
だが、フローレス氏は、「イエズス会が被害者に現在のような対話の道を開いたのは、ペドラハスによる虐待が発覚した後になってからだ。イエズス会は、すでに死亡した会員が犯した犯罪の責任だけを認め、会が関与したそれ以外の存命の神父たちの事件を隠蔽しようとしている」と批判。
さらに、 「私たちは『個人的な野心を持っている』と非難されてきた。だが、私たちが望んでいるのは、これ以上、若者たちが性的虐待を受けないようにすることだけなのです」と訴えている。
また、同氏は、「虐待被害者の会」は、イエズス会以外の修道会の会員による虐待の報告も受けているが、それらに対応する体制ができていないため、イエズス会のみを対象とせざるを得ない。それだけでも長い戦いになると思います。十分な準備が必要です」とも語っている。