・ブラジルのカトリック教会でも聖職者108人による未成年者性的虐待発覚-氷山の一角?(Crux)

(2023.6.2 Crux  Contributor  Eduardo Campos Lima) 

 サンパウロ 発– ブラジルのカトリック教会でも聖職者による未成年者性的虐待が広範囲にわたっていることが明らかになった。同国のジャーナリスト2人が今週初めに出版した『Pedofilia na Igreja』(「教会における小児性愛」)によると、2000年からこれまでに108人の聖職者が、148人の子供と十代の若者に性的虐待をし、うち60人が有罪判決を受け、懲役刑を言い渡され、さらに数十人が公判中。それでも、これらは「氷山の一角」にすぎない、としている。

 共著者のファビオ・グスマン、ジャンパオロ・モルガド・ブラガ両氏はこの本をまとめるにあたって、同国の裁判所や警察署、公的資料保管所に保管されている数千件の司法関係の文書、未成年に対する性的虐待に関する国際データバンク、ニュース記事などを収集・分析、さらに、数十人の被害者と親族、司祭、検察官、警察職員にも聴取した。

 2人は「ブラジルは世界最大のカトリック国家であり、ここに教会は巨大な規模だが、 ポルトガルやフランスなどの教会が未成年者虐待を精査する第三者委員会を設立しているが、ブラジルではまだそうしたことが行われていない」と述べ、「最近数年間にブラジルの教会は未成年性的虐待に対して前向きな姿勢を強めてきたが、教会として責任を負い、虐待撲滅への姿勢を明確にするためには、まだやるべきことが多くある」と強調している。

 さらにグスマン氏は「性的虐待に関する民事訴訟で教区がとっている対応は、そのことを浮き彫りにしている… ほとんどの教区の法廷での戦略は、「犯罪行為は司祭職とは無関係」「虐待は教会の外で起こった」などを繰り返し主張し、加害者の司祭と被害者を引き離すことにあった。教会、加害者司祭の責任を回避するやり方だ」と批判。

 さらに、約1億2300万人の信徒を擁するブラジルのカトリック教会が、「20年以上にわたる聖職者による性的虐待に対して、被害者への賠償金の支払いを余儀なくされたのはわずか約20万ドルにとどまっている… 約7000万人のカトリック教徒がいる米国の教会が、被害者への損害賠償金など訴訟を解決するために40億ドルを超える金額を支払った、とされているのと、対照的です」とし、「ブラジルの教会が未成年性的虐待との闘いに本気で取り組んでいたら、被害者が訴訟を起こす前に、和解が成立していただろう」と指摘した。

 また著者たちは、ブラジルにおける聖職者による未成年性的虐待の深刻さを、被害を受けた当時、わずか3歳だった少女の例を上げる。「ブラジル南部、サンタ・カタリーナ州にいた彼女は、ウクライナ・カトリック教会の神父と学校の教師から虐待を受けたのです。司祭たちの犯罪を調べると、彼らがいかに巧みで、犯罪を実行するのにどのようにしたらいいかを、正確に知っていることが分かる。そして、彼らは、その結果が『自分たちに何の影響も及ぼさない』と考えているようだ」と言う。

 そして、犯罪実行の一種の”ガイドブック”を書いていたタルシシオ・タデウ・スプリシゴという元司祭の例を挙げた。「 警察に押収された彼の手帳には、シングルマザーに育てられ、音楽教室に惹かれる可能性のある7歳から10歳の貧しい少年たちが”理想的なターゲット”として特記されていた。そして、少年たちを誘惑するための”秘訣”として、『いつも自信を持ち、真面目で、立派で、父親のようであり、決して質問をしないが、常に理解してくれている、と相手が信頼するようにする」ことが書かれ、自身の犯罪行為の説明もされていた」という。

 この神父は、過去15年間に3つの州で性的虐待をし、5歳、8歳、13歳の少年を虐待した罪で有罪判決を受けた。「司祭としての資格はく奪後も、音楽教師として虐待を続けていたことが明らかになっており、このことは、性的虐待に対して司祭の上司や司教が、適切な行動を起こさなかったことを示しているケースもあること」を示している。

 フランシスコ会のパウロ・バック神父を、被害者が虐待の罪で告発することを決めた2012年に、神父の地元、サンタカタリーナ州のフォルキリヒンハ市では既にそのことがよく知られていた。告発されたのを受けて、他の都市からも非難の嵐が殺到。 数十年前に行われた性的虐待までも明らかになった。警察が押収した彼のパソコンを調べたところ、フランシスコ会の上長との間でやりとりされた電子メールが見つかり、彼の行動がすでに修道会の上長と司教の両方に知られていたことが明らかになった。「司教館での会議で、私たちはそこで起こったことすべてを秘密にすることで合意した…」と上長は電子メールメッセージで述べた、とされている。

 バックは逮捕され、懲役26年の判決を受けたが、拘置所にいたのはわずか1年5カ月で、その後自宅軟禁に移された。 グスマン、ブラガ両氏が彼の足取りをたどったところ、2018年現在もサンパウロ州ブラガンサ・パウリスタのフランシスコ会の修道院で司祭として生活していることを見つけた。

 「私たちは、各教区が自らを精査し、責任を問うことができることを望んでいる。 それが教会の信頼回復への唯一の方法だ」とグスマン氏は語り、「地域社会が子供たちを守ることができるよう、虐待した司祭のリストを教区がオンラインで公開すべきだ」と主張した。

 「他の国ではそれがすでに現実となっているが、ブラジルでは遠い話のように思われる。教会だけでなく、ブラジルの機関や組織も慣行を見直す必要がある。 例えば、マスコミは通常、虐待に関する記事をエピソード的に取り上げ、しばらくすると事件を追わなくなるため、教会も一般社会も忘れてしまうのだ」と不満を述べた。

 また、「ブラジルの司法制度では、被害者を保護するために、事件を秘密にしている。そのことが、加害者も”保護”されるという結果になり、被害者が被害を名乗り出ることを難しくしている」とも指摘し、「コミュニティも変わらなければならない。被害者が司祭を告発したところ、教会の信徒たちが、加害者の司祭の側に立つケースもあった。小さな都市や貧しい地域社会ほど、司祭の影響力は非常に大きい可能性があるが、 教区が信者に虐待の状況を適切に知らせれば、性的虐待の再発を防げるようになるだろう」とも語っている。

 著者たちは、「ブラジルでは、ほとんどの性的虐待被害者が、地域社会や教会から放っておかれている。 当然のことながら、被害者やこのような実態を見た信徒たちの多くは、カトリック教会から離れてしまっている」とも述べ、「多くの虐待被害者がこの報告書を読んで、加害者を勇気をもって告発した信徒がいることを知り、ある種の慰めを感じるだろう。 これが教会の変革の始まりになることを期待したい。フラジル社会が教会と司法制度を動員して圧力をかければ、状況は変わる可能性がある」と期待を述べている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2023年6月2日