言論NPOが主催する「東京会議2020」は3月1日、東京プリンスホテルにて2日目の公開フォーラムを行いました。フォーラムの前半では、ドイツのクリスティアン・ヴルフ元大統領ら世界の首脳・外相経験者3氏が、「世界の民主主義国は自由秩序をどう守るか」をテーマに基調講演を行いました。
冒頭、挨拶に立った言論NPO代表の工藤泰志は、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の流行で様々なイベントが自粛される中でも、「東京会議」のために来日を決めた海外の要人や、会場に駆け付けた聴衆に感謝を述べました。
世界の課題に向き合う政府、市民の覚悟が問われている局面
工藤は、コロナウイルスの世界的な感染拡大は、文字通り「世界は一つ」であることを示しており、世界は感染の収束に力を合わせなければいけないが、今の世界はむしろ、地政学的な対立により分断が懸念されている、と憂慮。「世界の自由秩序や国際協力、そして世界の困難に向き合う各国政府やその市民の覚悟が問われている局面だ」と提起した上で、「そうした状況で、民主主義の発展を使命に誕生した言論NPOが黙っているわけにはいかない」と、今回の開催にかける強い決意を語りました。
さらに、「東京会議」発足の経緯を「自由や民主主義の価値を守るために世界のシンクタンクが力を合わせようと言論NPOが呼びかけて2017年に誕生した」と説明。今回はコロナウイルスの影響で4カ国のシンクタンクの代表が来日を断念したが、会議の最後に発表する「未来宣言」づくりでは彼らとも連絡を取り合っていると紹介し、10カ国の「東京会議」参加シンクタンクの強い結束を強調しました。
さらに、「東京会議」が、今回からシンクタンクのトップだけでなく世界の知識人も参加する議論の場へ発展することについて、「世界の課題に日本がリーダーシップを発揮し、東京からメッセージを発信する舞台があることに、世界のハイレベルな要人たちからは『この挑戦を応援し、議論に参加したい』という声がかなり出ている」と紹介。その中から、今回発言に立つ3氏を紹介し、挨拶を終えました。
続いて、言論NPOアドバイザリーボード・メンバーで元国連事務次長の明石康氏が挨拶。明石氏は、「未来宣言」の素案を読んだ感想として、「世界の分断を進めるのではなく、世界が一致して合意されたルールに基づく国家の共同体として共存する、という精神が土台となっている」と評価。同宣言が「目指すべき共通の未来に向けて、多くの人の支持を得るものだと確信している」と述べました。
「内に結束、外に平和を」。市民の統治への意思と、他国を尊重する態度を取り戻すべきークリスティアン・ヴルフ(第10代ドイツ連邦共和国大統領)
初めに、急遽ビデオ出演での参加となったドイツのクリスティアン・ヴルフ元大統領のメッセージが上映されました。
ヴルフ氏は、「『東京会議』で意見交換できることを非常に嬉しく思う」と述べた上で、民主主義における各国の協力強化という非常に重要な問題について六つのポイントを提案しました。
第一に、「未来はオープンであると理解すること」だと指摘しました。ヴルフ氏は、「未来を予測することはできないが、国家が安定的で参加型であるほど前提条件は良くなるものだと、歴史的に証明されてきた」と発言。「前提は常に変化するので、民主主義は動的でなければいけない」とし、そのため若者を含めたそれぞれの世代が民主主義の在り方を常に新しく形成していく必要がある、と語りました。
第二に、こうした大きな変化に対しては「優れた回答が必要だ」と主張しました。デジタル化により公的な議論に人々が直接参加できるようになり、従来のメディアが力を失っている状況を、かつて印刷技術の発明で誰もが聖書を読めるようになり、聖職者の存在意義が失われた歴史になぞらえ、「社会の秩序を揺るがす」ものだという解釈を示しました。そして、デジタル化は当初、真の意味での全員参加型の民主主義を可能にするものだと思われたが、「それを悪用して誤った情報を流し、人々を操り、民主的な意思決定を個人の利益に誘導する勢力が台頭している」とし、これが「優れた回答」を妨げることに強い懸念を示しました。
第三に、民主主義においては、国民が「統治する意思」を持つべきだと強調しました。同氏は、「権威主義者は声高で単純な主張を展開するが、課題への答えは持ち合わせていない」と批判。権威主義の台頭を防ぐ唯一の策は「我々が課題に立ち向かう意欲を持つことだ」とし、これが失われた結果が、1920年代以降のナチスの台頭だ、と語りました。そして、「民主主義は立ち去る前に教えてくれない」と語り、今こそ民主主義を立て直すタイミングだ、と強調。「民主主義者は最新のあらゆるコミュニケーション手段を駆使すべきであり、これらを権威主義者に委ねてはならない」と話しました。
第四の提案は「本質的な記憶を鮮明に保つことだ」と説明。現在60歳のヴルフ氏は、「私の世代は生まれてからずっと、国連などの国際機関がもたらした比類なき平和、繁栄を享受している」としつつ、「若い人の多くは、欧州の流血や荒廃の歴史を知らない」と憂慮。「ナチスが政権を掌握した1933年、多くの民主主義者は無関心やあきらめを持っていた。そこから3年で民主主義が廃止され、ユダヤ人の迫害が始まり、大惨事の前兆が生まれた」と歴史を振り返り、これに関し、「欧州では大惨事があって初めて、平和と安定は協調でしか達成できないと気付いた」と指摘。こうした記憶を次の世代に残し、国際協調や民主主義の重要性を伝えなければならない、と訴えました。
第五は、「良き愛国心とナショナリズムとの間に明確な線引きをすること」だと語りました。ヴルフ氏は、「ポピュリズムに人々が群がっているのは、世界の変化の中で人々が居場所を失っていることにも関係しており、その答えの鍵となるのは故郷へのアイデンティティ」だと分析します。一方で、「内には多くのアイデンティティを受け入れるスペースを持ちつつ、自国に同様の愛国心を持つ他国の人に平和な態度で接する」ことが重要だと強調。グローバル化とデジタル化で世界がますます多様化するからこそ、「それぞれの社会で互いを理解しようする努力のレベルを上げ、同時に、社会で定めたルールを例外なく貫くこと」が大切だと語りました。
六つ目の提案は、「協力が欠かせないという認識を持つことだ」と指摘しました。ヴルフ氏は、今不足しているのは、「共通の展望を育む中で、相手を尊重し、対等に接する」精神だとし、「一国主義に全力で対抗すべき」と主張。こうした多国間協力の規範を広めようとするメディアには公的な支援の充実が必要だ、とも提案しました。
そして、「どんな強国も、一国では人類の問題を解決できず、密室外交を避けて国際機関を強化する必要がある」ことが二つの世界大戦の教訓だ、と重ねて強調。とりわけ、「世界経済の成長には、自由貿易の拡大に向けた共通の努力しかない。また、債務危機の持続可能な解決のためには、倫理的に正しい経済・金融政策が必要だ」とし、これらの実現には多国間組織の関与が必要だ、と訴えました。そして、このような多国間の枠組みにおける課題として、「異なる体制を持ち、米国と覇権を争う中国をいかに取り込むのか。また、全ての関係国が恩恵を受ける途上国支援の在り方をどう考えるべきか」と提起しました。
最後にヴルフ氏は、中世ドイツで封建領主に対抗して結成されたハンザ同盟の主要都市・リューベックで、自由を象徴する言葉としてホルステン門に刻まれている「内に結束、外に平和を」を紹介。これを、六つの提案を総括するキーワードに位置付け、講演を終えました。

日本が主導してアジアの民主主義国が連携 世界のリベラル秩序の構造改革につなげることを期待するーハッサン・ウィラユダ(インドネシア元外相)
続いて、インドネシアのハッサン・ウィラユダ元外相が登壇しました。同氏は冒頭、自国第一を掲げるトランプ米大統領の就任で世界は混乱に陥っているとし、その変化の中で時代に遅れになった「既存の世界秩序の抜本的な構造改革が必要」だと切り出しました。
次に同氏は、世界秩序を考えるにあたって必要な基本原則は「国連憲章に基づく多国間の対話や協力」を推進することだと主張。19世紀のウィーン体制が欧州に100年の平和をもたらしたのは大国間の密な協議、協力が続いていたからであり、同様に国連憲章も安保理の5常任理事国間の協議を前提としているが、2001年の同時多発テロ後の米国が単独主義にシフトしたことを機にその協力が弱体化し、また現在は西側と中国、ロシアの緊張が高まり、「安保理は国際平和の維持という使命を果たせていない」との認識を示しました。
また、経済の近代化とともに軍の近代化を進める中国の台頭を「戦前のドイツと重ねると不安になる」と述べる一方、トランプ政権がこれまでの米政権とは異なり中国を戦略的競争相手ととらえていることで、「米中関係は困難な問題となった」と指摘しました
そして、冷戦終結で一時的に大国間の対話が活発化した90年代には、安保理メンバーの増員など国連改革の動きもあったが「それは失敗した」と結論付けた上で、「三十年戦争の後にウェストファリア体制が、第二次大戦の後に同体制を是正する形で国連ができたように、多くの場合、国際秩序が変わる契機になったのは戦争だ」と指摘。一方で、リーマンショック後、ブレトンウッズ体制が不十分だという認識からG20がつくられたように、「第三次世界大戦がなければ既存の国際秩序の改革ができないわけでもない」とも語りました。
その上で、ウィラユダ氏は世界の民主主義とリベラル秩序の現状に言及。「欧州ではポピュリズムが台頭し、新しい民主主義国家は忍び寄る権威主義の脅威にさらされている」と、先進民主主義国、新興民主主義国のいずれも民主主義を機能させることができていないという見方を示しました。そして、これらの国々が、民主主義が国民に平和や富をもたらすことを証明できていないのは、「支配層が既得権益を失うことを恐れ、国内の経済構造改革が失敗に終わっているからだ」と話しました。
同氏は、国際秩序についても現状を変えることの難しさを指摘。「新たな世界秩序では中国にも超大国として担うべき地位があるが、古くから秩序を担ってきた国々には簡単には受け入れることはできない」と述べました。
そしてウィラユダ氏は、この状況を打開するアイデアとしてアジアの民主主義国の連携を提言。G20に加盟するアジア太平洋の5つの民主主義国、すなわち先進国の日本、韓国、オーストラリアと新興国のインド、インドネシアが連携して東アジアの民主主義を推進していくことが、いずれグローバルなリベラル秩序の変革につながることに期待を見せ、講演を終えました。
トランプ政権には「先行努力」と「説得」、中国には「相互主義」が日欧など民主主義国による連携の基本姿勢ーユベール・ヴェドリーヌ(フランス元外相)
最後に講演に立ったフランスのユベール・ヴェドリーヌ元外相は、「世界の民主主義国は挑戦に臨まないといけない」とした上で、「欧州では、日本で生まれた考察に対する注意が足りない。我々の考察を共有する必要がある」と、民主主義国間で議論する意義を強調。「まずは世界の状況を診断したい」と話し始めました。
同氏は始めに、多国間主義の動揺は長期化する、との見通しを提示。「トランプ政権以前の米国や、日本、ドイツ、フランスなどの国々は多国間主義のアプローチを重視し、一国主義にならないよう特別な努力をしてきたが、そのスタンスがトランプ氏によって排除された」と振り返るヴェドリーヌ氏は、とりわけ今秋の大統領選でトランプ氏が再選し、あと4年再選されることになれば、その後もトランプ氏の行動パターンが政治に色濃く影響していくであろう、と予測しました。
ヴェドリーヌ氏は二つ目の「診断結果」として、自由秩序の中にも問題がある、と指摘します。同氏は「欧州の民衆はもうグローバル化を信じていない。グローバル化で何かを失った苦しさから、ポピュリズムが台頭した」とし、急激なグローバル化を通して世界経済における金融市場の影響力が増し、その中で貧富の格差が拡大した問題に言及。権威主義に対抗するだけでなく、自由秩序自身が持つ課題にも民主主義国が結束して対処すべきだ、と主張しました。
ヴェドリーヌ氏はそれでも「リベラル秩序には欠点があったとしても、それ以前の体制よりはましだ」と強調。
「魔法のような解決策はないが」と前置きした上で、「トランプ抜きにできることを洗い出すべきだ」と提案しました。同氏はその例として、「今後数年で最も重要な問題になるだろう」という環境保護を提示。「米国において太陽光発電のバッテリーの技術革新が進めば、気候変動の国際協調に背を向けるトランプ氏も立場を変えるかもしれない」とし、有志国や米国の州政府、さらには企業、研究者など、多様なアクターがそれぞれの立場で連携し、大国間の動きに先んじて課題解決の努力を進めていくことが重要だと述べました。
一方でヴェドリーヌ氏は、「民主国家をリベラル秩序のもとに結集しようとすると、米国とある程度は緊張関係になることを覚悟すべき」と主張。「トランプ氏と対決してでもやるべきことある」と訴えました。例えば、トランプ政権はイラン核合意から自らが離脱するだけでなく、他国がイランに設定する信用供与枠を認めないなど、他国の合意履行をも妨げようとしていることに言及。ドル基軸通貨体制の下で行われるこうした措置の影響は甚大だとし、「各国が連携して、米国が理性を取り戻すよう説得すべき」と話しました。
さらに、米中対立についてヴェドリーヌ氏は、米中が協力できる面もある、としながらも、「ともに世界の覇権を志向する米中の間には、長期的に見れば妥協が成立するとは考えにくい」との認識を提示。この中で欧州や日本にとっては、米中の妥協や緊張を「利用する」戦略が有効であると述べました。その際の考え方としては、マクロン大統領の中国政策でも掲げられている「相互主義」を提示。中国を途上国として特別扱いするのではなく、急速な近代化に見合った立場と責任を国際社会で与えていくことを目的とし、経済、技術、環境のような戦略分野において、欧州が日本やカナダ、新興民主主義国などを巻き込んで中国とどのような協力関係を築くかが非常に大きな課題だ、と語りました。
最後にヴェドリーヌ氏は、「東京会議2020」の未来宣言について、「多国間主義やリベラル秩序を擁護する宣言は重要だが、それだけでは不十分。各国の世論が求めるのは確かな『成果』だ」と指摘。トランプ大統領や習近平主席の存在は私たちに挑戦を突き付けている、としつつ「民主主義が道徳的、倫理的にも最も良い制度だという国民のコンセンサスを、日欧、また新興民主主義国家も巻き込んで形成していく必要がある」と強く語り、基調講演を締めくくりました。
こうした3氏の基調報告を踏まえて、フォーラムはパネルディスカッションへと移りました。
10年後の世界秩序に悲観や楽観をするのではなく、「何ができるか」を考えていく局面に―「東京会議2020」2日目公開フォーラム パネルディスカッション報告
基調講演に引き続き、カナダ・国際ガバナンス・イノベーションセンター総裁のロヒントン・メドーラ氏による司会進行の下、「民主主義各国に求められる責任とは」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。
まずメドーラ氏は、米中両国の対立関係を解消させ、平和で安定的な国際秩序にしていくためには何が必要なのか、米国のリーダーシップが低下している中、他の民主国家がなすべきことは何か、などといった質問を各パネリストに投げかけました。
こうした質問に対し、基調講演を行った2人がまず発言しました。
10年後に向けて、今こそ先手を打つべし
フランス元外務大臣のユベール・ヴェドリーヌ氏は、「世界秩序の趨勢は今後10年間で決まってくる」とした上で、今民主主義国家に求められることは「先手を打つこと」であると主張。新興諸国が権威主義体制に靡かないようにするとともに、米中両国が国際秩序という枠組みの中から退出しないように引き止めるために手を尽くすべきであるとしました。そのためには、民主主義国家同士での連携は不可欠であり、協力関係を深める必要があるとした上で、現状ではすべての国が合意できるようなコンセンサスはないため、合意可能な最小限の共通項を早急に探るべきだ、と語りました。
まず、自分の地域の足元を固めつつ、米中という”二頭の巨象”を抑え込むべき
インドネシアの元外務大臣であるハッサン・ウィラユダ氏は、米中対立構造は今後も続き、世界秩序も揺れ続けるとやや悲観的な見方をまず提示。一方で、貿易交渉で対話は継続していることや、選挙戦後に米国の対中姿勢が軟化する可能性などを指摘。厳しい現状があるからといって民主主義国家は諦めることなく世界秩序の維持に努めなければならないとも主張しました。さらに、そのためには米中間の仲介に尽力するとともに、各地域レベルの秩序を安定させるなどして足元を固めておく必要があるとしました。また、既存の国際的な枠組みの活用についても提言し、例えばG20など大国も新興国も入った枠組みを秩序立て直しの足掛かりとすべきだ、と述べました。
その上でウィラユダ氏は、米中を”二頭の巨象”に喩えながら、「ここで象たちを抑えないと我々は草のように踏み固められてしまう」とし、今こそまさに正念場であることを再度強調しました。
「多国間協力の方が得策だ」とトランプ氏に思わせることが重要
こうした発言を受けて、”巨象”の一角である米国の外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏は、トランプ大統領は、米国はリベラルな国際秩序から奪われるものが多かったと思い込んでおり、EUさえも敵視していると解説。今秋の大統領選で再選を果たした場合、とりわけ通商面ではさらに攻勢に出ることが予想され、米国の同盟国・友好国にとっては重大なチャレンジにさらされることになるだろうと問題提起しました。
また対中姿勢についても、トランプ氏は中国には米国の要求を押し戻す力があり、一方的な攻勢は不可能と判断したため、二国間の”ディール”路線を選択したと解説。逆に言えば、同盟国・友好国と協力しながらアプローチをしていった方が効率的に中国の姿勢を改めさせることができる、とトランプ氏に思わせることが米国の行動も変えられる可能性はあると語りました。
ただその一方で、対中強硬路線は共和・民主両党の党派を超えた米国のコンセンサスとなっているとも指摘。また、民主党政権が誕生した場合、トランプ氏が黙認していたような中国の人権問題にも介入する可能性があり、そうなれば中国の反発を呼んで米中対立はより深刻化する可能性があることには留意する必要がある、とも語りました。
G20を足掛かりとして、秩序の新たなバージョンを探っていくべき
インドのオブザーバー研究財団理事長のサンジョイ・ジョッシ氏は、トランプ氏の登場以前から既に世界秩序の動揺の予兆はあったとしつつ、「だからといって、世界は1930年代のような分断の状況に戻ることはもはやできない」と主張。秩序の修復は民主主義国家に課せられた責務であるとするとともに、ウィラユダ氏と同様にG20は秩序再考の良い舞台であるとし、「ここで秩序の新たなバージョンを探っていくべき」と主張しました。
同時に、世界はサプライチェーンによって強固に結びつき、利害も密接に絡み合っているために、「協力せざるを得ない」とし、多国間協力が復活する余地は十分にあるとの見方も示しました。
欧州がその強みを活かしながら新たな世界秩序の担い手となる
ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)会長のフォルカー・ペルテス氏は、トランプ氏の登場について、「欧州の目を覚まさせ、戦略的自立について考える良いきっかけとなった」とし、ポジティブに捉えるべき面もあったとまず評価。しかし、欧州が真に自立し、新たな秩序の担い手となれるかどうかは、今がまさにその分岐点であると語りました。
ペルテス氏は、欧州が担い手になるために必要な取り組みとして、データなど「自らの強みを活かせる分野でルールづくりを主導すること」を提示。こうした次代のカギを握る新領域において米中に一歩先んじて、自らの優位性を高めていくことが発言力の強化にもつながっていくとの見方を示しつつ、巨大な域内市場と産業基盤を有する欧州にはそれが十分可能であると自信を見せました。同時に、データ流通や電子商取引に関する国際的なルールづくりを進めていくプロセスである「大阪トラック」を開始した日本との連携にも意欲を見せました。
中国についてはさらに踏み込んで言及しました。AIと監視カメラのテクノロジーとを融合させた顔認証システムによって国民管理を進めるなど、リベラル国家には真似できないような手法で社会実装を進められる点が中国の強みであるとし、これを警戒。また、次世代の無線通信規格5Gで、中国が世界に先行していることについても、「スパイや破壊工作に悪用されかねない」と懸念。欧州側もイノベーションによる技術革新を進めると同時に、やはりルール形成を主導することで対抗していくべきと語りました。さらに、こうした方向性はGAFAなど国家に比肩するような巨大企業を抑える上でも意義があると付言しました。
ペルテス氏は続けて、安全保障戦略についても論及しました。フランスのマクロン大統領が2月、フランスが保持する核抑止力が欧州の安全保障に果たす役割について欧州各国と「戦略対話」を行いたいとの意向を表明したことを紹介しつつ、欧州で戦略的協力の機運が高まっていることに期待を寄せました。
この発言を受けてヴェドリーヌ氏は、 NATO軽視の言動を繰り広げるトランプ氏と米国には、もはや全面的に安全保障を頼ることができなくなった以上、欧州側の自助努力は不可欠となったとし、「戦略対話」創設もその一環であると補足しました。また、データ管理やAI技術に関する提案に対しても、「技術の優位性なくしてルール形成主導は不可能」と賛同しました。

米中の狭間で揺れ動いてきたASEANも積極的な役割を果たしていく
シンガポール・ラジャラトナム国際研究院(RSIS)副理事長のオン・ケンヨン氏は、米中の狭間で揺れ動くASEANの視点から発言しました、その中でオン・ケンヨン氏は、米中両国に依存せざるを得ないASEANとしては、どちら側に付くか旗幟を鮮明にすることをこれまで避けてきたが、今後もそれは同様であるとし、ASEANの置かれた立場の難しさを吐露。一方で、データや資本市場、サプライチェーンなどをめぐっては時代の変化に適合した新たなルールによる規律は必要であるとし、落としどころとなるルールの策定にあたってはASEANも積極的に発言していくべきと語りました。
同時に、今まさに猛威を振るう新型コロナウイルス(SARS-CoV2)のように、国境を超える課題については国際協力の他に解決の道はないということを、米中に再確認させるための努力も、両国の間にいるASEANに課せられた役割であると語りました。
中国に変化を促す好機到来
元駐米大使の藤崎一郎氏は、従来からの覇権国家と新たに台頭してきた国家が、戦争不可避な状態までぶつかり合うという所謂”トゥキディデスの罠”の現象が米中間で起こるという見方に対しては「賛同できない」とし、その理由として中国はマネーの力によって世界秩序を変えようとしているのであって、旧ソ連のようにミサイルや戦車の力で変えようとしているわけではないことを挙げました。
また、中国の姿勢を変えさせることができるということを示した点では、トランプ氏に功績があるとしつつも、それを米国単独でやろうとしているために不十分な成果にとどまっていると指摘。そこではやはり多国間のアプローチが求められると語るとともに、新型コロナウイルスや香港問題への対応で中国が後手に回った今はまさに方向転換を促す好機であると述べました。
10年後の世界秩序に向けて、民主主義国家は何をすべきか
議論を受けてメドーラ氏は最後に、10年後の世界秩序の行方について各氏に予想を求めました。
ペルテス氏は、現下の危機から教訓を得た結果、「多国間協力こそがベストということを世界が認識する」ため、「来年はともかく、10年後には平穏を取り戻しているだろう」と予測。もっとも、そのためにはG20などの多国間枠組みを通じた努力は不可欠であることも付け加えました。こうした教訓をベースに秩序再興に向かうとの見方にはジョッシ氏やウィラユダ氏も同意しました。
また、オン・ケンヨン氏は、トランプ体制、習近平体制が続くのであれば「2、3年でディールに至って、米中対立は収束する」との見方を提示。両首脳とも政治的な”夢”を持っているが、対立を上手く着地させることができなければ、その夢の実現がおぼつかず、さらには政治生命自体も危機に瀕することをその理由としました。
藤崎氏は、「米国が広い視野に基づくリーダーシップを取り戻すこと」、「中国が”チャイナ・ウェイ”は通用しないということを理解すること」の2点さえあれば楽観できるだろうと回答。逆に言えばそれができなければ今後も不安定な状況が続くことを言外ににおわせました。
一方リンゼイ氏は、「ベストを願いながらワーストに備えていくべき」と主張した上で、ワーストを避けるためには多国間協力が必要不可欠だという流れを世界で確固たるものにしていく必要があるが、「それが間に合うか」だと指摘し、気候変動問題に象徴されるように、世界的課題の解決が遅れることの危険性を考えれば、10年後の秩序は「悲観的」との見方を示しました。しかしリンゼイ氏は、だからこそシンクタンクも努力を続けることが大事だと説くとともに、「『東京会議2030』で皆さんと共に良い成果を得られたことを喜び合いたい」と語りました。
ヴェドリーヌ氏は、「悲観でも楽観でもなく、『何ができるか』を考えていくべき」と主張。リベラル秩序というものは自然発生したものではなく、かつて米国を中心として人為的につくり出したものであると指摘しつつ、人為的につくり出したものであれば人為的に修復することも可能であるはずだと語りました。そのためには、米中対立が収拾のつかない状況になった時に、多国間協力で助けることによって、米中両国にこの協力の重要性を再認識させることが大切だと指摘。これは「15程度の有志国で連携すれば十分に可能だ」としつつ、逆にそれができなければリベラル秩序は終わりを迎えることになると警告し、居並ぶパネリスト達に奮起を促しました。
こうした白熱した議論を経てパネルディスカッションは終了し、会議の進行は、「『東京会議2020』未来宣言」の発表と、本年の G7議長国である米国政府及び日本政府への宣言文手交へと移りました。