・Sr.阿部のバンコク通信  (83)タイの名産「突っ掛け」と、タイ語版「マンガ聖書物語」の話

  「突っ掛けスリッパね、タイの輸出に値する代物だよ」。

 10年ほど前、タイをこよなく愛する友人宅を訪ねた折、玄関に並べた突っ掛け(足の爪先のほうをひっかけるようにして履く手軽な履物)を指さして、「安くて丈夫、激安セールでまとめて買ったの」と挨拶代わりの第一声。タイ人の履き物で目立つのは突っ掛け。この国に来て間もない頃、正式な場でも履いている人を普通に見かけて、ちょっと意外に感じました。お土産に突っ掛け、色もデザインも鮮やかで、どれにしたらいいか戸惑うほど、様々な突っ掛け。常夏の国、年中暑いタイの風土は”突っ掛け天国”なのです。

 「突っ掛け」の友人の家を訪ねたのは、講談社の社長さんへの紹介状を書いてもらうためでした。文庫『マンガ聖書物語』のタイ語翻訳出版を是非、実現したいと考えていた矢先の、幸せな摂理の出会いでした。友人は紹介状を書いてくれた上に、メールでも連絡してくれ、帰省の折に、東京の見上げるほど立派なビルの講談社本社に出向きました、途中で道に迷い、遅刻して…。

 「ただと言うわけにはいきませんよ」と言われて、「もちろんです」と。私の話を丁寧に聴いてくださり、国際室の担当者を呼んで、タイ語版の出版の話をまとめていただきました。作者の了解も得て、契約を交わし、出版の運びになったのです。版権使用料を払い、バンコクに帰って、日本漫画専門のタイ語翻訳者に翻訳を依頼し、編集作業を始めました。

 世界の漫画界では日本が第一人者、日本の法規定が国際標準であることも知りました。タイ国では、日本のマンガが最高の人気で、日本の漫画専門の出版社もあります。翻訳者もその出版社のベテランで、親友の友人。源氏物語のマンガなども手がけていて、仏教徒ですが、聖書を参考にしながら見事に翻訳してくれました。

 横書きなので左開きにするため、ページごとに原画をスキャンして裏返し、日本語の吹き出し文字を消してタイ語を入れるのですが、縦書きから横書きで、吹き出しの大きさが合わず、いろいろ工夫しながら学び、賢くなりました。ある日、体の中に稲妻が走りびっくり、右手が使えず左手で作業していましたが… 帯状疱疹で万事休止の事態。出版期限を延ばしていただき、完成しました。

 タイ語版『マンガ聖書物語』は旧約3巻、新約2巻セットで、各巻5000部。バンコクのブックフェアでも人気を呼び、大手の本屋さんも扱ってくれるようになりました。

 多くの友人たちとの関わり、助けで開けた小径(こみち)を「突っ掛け」を履いて歩く女の子の私を、摂理の御手が導いてくださったのです。タイ語版『マンガ聖書物語』は、この国中に広がり、読まれ、人々の、特に子供たちと若者の”ご馳走”になることができました。Deo Gratias!

(阿部羊子=あべ・ようこ=バンコク在住、聖パウロ女子修道会会員)

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2023年11月8日