Sr 岡のマリアの風 ⑭独り言…「人々」から、一人ひとりの「顔」へ… 

 今年(2017年)の六月、ここ、小長井の本部修道院を訪れてくださった、スペイン人のホセ神父とのメールのやりとり。8月17日、スペイン北東部バルセロナ中心部のランブラス通りで起きたテロ事件の知らせを聞き、悲しみ、祈っています、という、わたしからのメールから始まって。

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 ホセ神父さま、バルセロナでのテロ事件の知らせを、痛みをもって聞きました。シスターBと、わたしたちは祈らなければならない、と話しました。何よりも先ず、わたしたち自身の心が、主の恵みに開かれるように。わたしたちは、ただ、主イエスを見つめることによってのみ-特に、わたしたちが真のいのちを得るために、極みまでへりくだり、愛し、赦して、十字架にかかったイエスを見つめることによって-、本当の平和、赦し、和解が何であるかを知り、学び、それを生きる力を与えられるのでしょう。わたしたちは、神父さまと、神父さまの民-主から愛された民-と共にいます。主イエスを真ん中にして。祈りつつ

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 シスターL、シスターのみなさま、祈りでわたしたちと共にいてくださることに感謝します。

 ただ、愛から生じる正義だけが、つまりイエスの現存だけが、暴力を遠ざけることを可能にします。まさにシスター方が日々しているように、わたしたちは、祈り、働かなければなりません。素朴な(単純な)世界、より兄弟愛に満ちた世界を造り出すために。今は、犠牲者とその家族のために、共に祈りましょう。

 先日、8月15日の、長崎での、平和とマリアについての話はどうでしたか?もちろん、すばらしかったと確信しています。マリアの母のご保護のもとにいるのですから。わたしもお祈りしていました。

 祈りのうちでつながりながら。ホセ神父

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 ホセ神父さま、メールをありがとうございます。わたしが、わたしの貧しい話を通して、何らかの方法で、一人ひとりの心の中に、わたしたちの平和、イエスさまを運ぶことが出来たのか。正直、わたしには分かりません。すべて主の御手に委ねます。

 引き続きお祈りしています。先ず、いつくしみ深い主が、わたしに「新しい心」をくださるように。憎しみ、嫉妬、絶望に耐え、対抗することが出来る心を。

 場所は離れていても、イエスさまを真ん中にして、神父さまと、神父さまの民の近くにいます。祈りつつ。

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 もしかしたら、ここ本部修道院の多くのシスターたちにとって、スペインの国や人々は、遠い国の「人々」だったかもしれない。でも、先日、本部修道院を訪れ、主日のミサの共同司式をしてくださったホセ神父を通して、スペインの人々が、「顔」のある、具体的な、身近な人々となったのではないか。

 顔と顔を合わせた「出会い」を通して、「ふれあい」を通して、「その他大勢」だった人々が、それぞれ「名前」のある、「顔」のある、具体的な兄弟姉妹となっていく。そして、彼らを通して、彼らの両親、家族、友人、恩人…たちが、具体的な「顔」となっていく。

 ホセ神父と出会ったシスターたちにとって、もはや、スペインの人々は、顔のない「その他大勢」ではなくなったはずだ。

 8月には、二泊三日で、フランスの若者たちの巡礼団も訪れた。彼らは、ここ小長井の「山里」で、それまでの、どちらかというと強行軍だった巡礼の疲れを癒し、休み、黙想する時を過ごした。大きなリュックをしょって、歩き、雑魚寝をしてきた彼ら。聖堂の中で、袖なしシャツに短パンといったいでたちで、深く祈りに専心している若者たち。聖堂横の小部屋で告解をし、夕食後、夜8時から、聖ヨゼフ小聖堂でミサを捧げる…。シスターたちの慣習とは違う、しかし、真摯に祈っている姿は、心を打つものがあった。

 三日目の朝、「旅立ち」の時、見送りのために玄関前に集まった、たくさんのシスターたち。日本語とフランス語で、聖歌を歌い合い、最後には抱き合い、握手し合い、涙も流しながらの、「心の交わり」。言葉は分からなくても、笑顔で通じる。

そしてこの日から、シスターたちにとって、フランスの国、フランスの人々が、「他人」ではなくなっていく。

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 一言の、「ごめんなさい」、「ありがとう」。目が合ったときの、笑顔、やさしさ…。

 神を信じる者の「平和」とは、一人ひとりの心の中におられる神の現存、平和であるキリストの現存を、「呼び覚ます」もの、と言えるのかもしれない。神は、キリストは、わたしたちの心の中に、「すでに」おられるのだから。ただ、わたしたちの「思い煩い」-心配事ばかりでなく、わたしたちの目を引くさまざまな誘惑も-が、神の現存を「ふさいで」いるのだろう。

(岡立子・おかりつこ・けがれなき聖母の騎士聖フランシスコ修道女会修道女)

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2017年8月21日 | カテゴリー :