カトリック人口わずか42万人の日本では、カトリック新聞の紙媒体での廃刊、福岡の大神学院の閉校、と縮小傾向にあります。シノドスは「共に歩む」で、具体的には「共に考える」「共に決定する」ことが実践されるべきですが、今回のシノドスの第一段階で、わずかの教区が一般信徒に質問票を配って意見を聞いたくらいで、その後、動きはほとんど見られない。そもそも信徒固有の組織も団体もないので、仕方がないとも言えます。失望しか信徒に与えないとすれば、若い人たちを招くことはできないでしょう。
ドイツのキリスト教会の信徒数は、現在、カトリックが約2093万人、福音主義(ルタ ー派と改革派)が約1920万人で二大勢力をなし、他に自由教会(バプテスト、メソジスト)や正教会など、そしてイスラム教、ユダヤ教、仏教等の他の宗教の信徒もいます。
福音主義教会は1972年から10年毎に教会会員調査(KMU)を行なってきましたが、2022年の第6回調査(10月14日~12月22日)から、カトリック教会も参加するようになりました。この調査は、宗教や教会に対して信徒がどう関わっているか、考えているかを「信徒自身の発言」から現実の教会の状態を知るために、約30名の社会科学、教会司牧その他の専門家が質問紙(総計592の質問)を作成し、5282人の回答者(ドイツ国民全体の意見を代表するような比例代表的な人数にしてある)を得て、約10か月かけて分析したものです。
カトリックの司教たちも、その信頼性を認めています。昨年11月、ドイツ司教協議会は、今回のKMUの結果に関して二人の司教がそれぞれ声明を発表し、今年2月の司教協議会総会でもKMUは議題の一つになりました。その内容については次回触れるとして、以下、調査団による結論で最も重要な点「教会への信頼」だけを抜粋します。
*カトリック信徒の4分の3が「教会を去ろう」と考えている
教会に対する信頼がなければ、社会の中で機能しません。教会員や無宗派の人々は教会への信頼をどう考えているのでしょうか。回答のポイントは次のようなものです。
①プロテスタント教会員の3分の2、カトリック教会員の4分の3が「教会を去ろう」とする傾向にある②改革によって脱会を止められる可能性があるので、実際に教会を去るかどうかは、教会の対応にかかっている③プロテスタントの信徒は、主に「宗教と教会への無関心」から教会を去ることを決めている④カトリックの信徒は、主に「怒りと憤怒」から教会を去っている⑤どの宗教にも所属せずに育った人は、これからの人生でもそのままでいることになるだろう。
では、ドイツではどの制度・組織に最も信頼を置いているのでしょうか?この問いに対しの答えは、①プロテスタント教会員は連邦政府よりも自分たちの教会に大きな信頼を置いている②カトリック教会員は自分たちの教会よりもプロテスタント教会のほうに信頼を置いている③無宗派の人々は、カトリック教会に対してと同じくどの組織をも信頼していない―でした。
*カトリック教会への国民の信頼は、7段階評価でわずかに「2.3」
信頼する、しないの程度は、1「全く評価しない」から7「最も高く評価する」まで7段階評価で、大学への信頼は、国民全体もプロテスタント教会員もカトリック教会員も無宗派の人々も、ほ
ぼ「5」の評価。連邦政府への信頼は、どのグループも「4」の評価になっています。
福音主義教会への信頼は、国民全体では「3.3」の評価、プロテスタント教会員は「4.3」、カトリック教会員は「3.7」の評価、無宗派の人々は「2.7」の評価でした。
ではカトリック教会への信頼は、国民全体では「2.3」、プロテスタント教会員は「2.4」、カトリック教会員自身は「3.3」、無宗派の人々は「1.8」と、どの集団も低い評価になっています。カトリック教会員自身が「カトリック教会よりもプロテスタント教会のほうが信頼できる」と考えており、カトリック教会員以外の人々からもカトリック教会の信頼性は低い評価を受けています。要するに、カトリック教会が他教会よりも、一段と信頼の危機にあることを示している、と言っていいでしょう。
*教会への愛着・結びつきはカトリックの7割が感じている
また、「信頼」に関して、「教会への愛着・結びつきの程度」を聞いたところ、プロテスタント教会員の67%、カトリック教会員の57%が「幾らか、あるいは多少、自分は教会に繋がっている」と答えましたが、「強く繋がっている」はプロテスタントは8%、カトリックは7%にとどまりました。なお、4人に一人の教会員が「自分をキリスト者とは思っていない」と答えています。
次に「教会を去ろうとする意志」については、プロテスタント教会員の65%、カトリック教会員に至っては73%が「去ることを考えている」と答えました。
プロテスタントの信徒は「宗教と教会の話題への無関心」ゆえに教会を去っており、カトリックの人は「怒りと失望」ゆえに去る決断をしていますが、適切な手段を講じるなら、それを防げないわけではないようです。「教会が過去の過ちと怠り、罪過をきちんと認めるなら、考え直す用意がある」と77%が答えており、「根本的な改革がなされるなら、教会に残るだろう」と66%が答えているのです。
*教会改革はカトリックでは賛否相半ば
福音主義教会員の大部分は自分の教会の改革を支持していますが、他方のカトリック教会は明らかに分極化の傾向を示しています。全カトリック教会員の約半数、49%は「教会改革は正しい」(全面支持が7%、「どちらかと言えば賛成」が42%)と考えていますが、ほぼ同数が「改革には問題がある」と批判的。伝統派と改革派に分極化しているようです。
どの教会についても「改革への期待」は大きい。プロテスタント教会員の4分の3以上は「現在進められている改革は正しい方向に進んでいる」、カトリック教会員の半数も「近年の改革は正しい方向に進んでいる」と受け止め、プロテスタントもカトリックも教会が社会の貧しい人々や困窮者との関わりを持つことに期待しています。
また、プロテスタントとカトリックの75%が「教会は宗教問題だけを扱うべきでない、『社会的なネットワーク』にならねばならない、と考え、宗派を超えてエキュメニカルな方向で教会間の協力が必要としている点も共通しています。教会の指導者が民主的に選ばれるべきであること、司祭の結婚を認めるべきことなどでも同様です。
以上、調査結果と彼ら自身による分析・解釈の一点だけを紹介しました。ドイツの教会は、根本的な改革をしない限り、人々の信頼を取り戻すことはできないでしょう。ローマに忠実であるだけでは教会員の脱会傾向は続くものと思われます。冒頭で述べた二人の司教が、「Erosionstendenz(侵食傾向)という言葉を使っているのも、誇張とは言えません。
注*教会員調査(KMU)については https://kmu.ekd.de、2023年11月の二人の司教の声明は https://www.dbk.de で読むことが出来ます。
(西方の一司祭)