・”ほほえみの国”の言論弾圧ータイ政府が”反政府”報道の外国人記者に”警告”(LaCroix)

(2020.8.21 LaCroix Thailand James Lovelock)

Thai govt tells foreign media to mind their own business

「言論の自由は人間の権利だ」と書いたプラカードを掲げる民主運動家の若者(バンコク、2020年8月20日=Photo by EPA/NARONG SANGNAK/MaxPPP)

  タイのドン・プラマットウィ ナイ副首相(外相兼務)は、自分が外国人記者に求めていることを隠さずに言うー「これ以上、何も言うな!」と。

 8月18日に行われたタイのジャーナリストたちとの会見で、副首相は「(外国の記者たちに)言ってくれーおい、お前たち。自分のためにもっと有益なことをやれよ、と」と語り、タイ駐在の外国特派員が”余計なこと”をせず、民主勢力の軍事政権に対する抗議活動を報道するのをやめるよう求める考えを示した、という。

 現地の複数の評論家は、直ちに、この発言を非難。インターネット上には「副首相が言おうとしたのは、『我々独裁政権がタイ人の人権と表現の自由を侵している間、外国人は全員、他の方を見て入れくれないか』ということだ」と批判の声も上がった。

 プラユット・チャンオチャ首相も、同じ日の同国記者団との会見で、副首相と同様の対応を見せた。首相は、バンコクで最近続いている学生たち中心の大規模な政権への抗議行動についての外国メディアの報道について聞かれ、「自分は他国の問題に介入したことはない」と述べ、暗に、外国メディアにも”同様の対応”を求めた。

 プラユット政権に対しては、「自由で公正な選挙で選ばれず、正当性に欠ける」として、高校生を含む数千人の若者たちが連日の抗議活動を長い間続けている。プラユット首相は、陸軍司令官だった2014年に軍事クーデターによって、政権を取り、首相に就任。昨年3月の総選挙での民政復帰を約束していたが、自身が率いる国民国家の力党は第2党だったにもかかわらず、同年6月の国会上下院合同選挙で首相に指名され、軍事政権トップとして独裁的地位を維持。本人や政権を批判する記者に対する威圧的な対応も目立っている。

 現地の記者たちの取材・報道活動を難しくしているのは、抗議活動をしている人々が、タイ王政の改革を公言し始めていることだ。タイでは、いかなる王室批判も禁じられており、不敬罪法で、違反者には15年の懲役刑が課せられることになっている。

 メディアの専門家向けオンラインフォーラムで、タイのテレビのニュース番組のレポーター、タパネー・エドストリチャイ氏は、オンラインニュース「The Reporters」で、「学生たちが王政について、大っぴらに論じているのを聞いてショックを受けた」と語った。「大勢の人がいる中で、この問題を議論するのを聞くとは予想していませんでした。彼らが、宣言を発するのを聞いて、『これをどうやって、報道すればいいのだろう』と自問しました」。

 王政支持派の中には、民主勢力の学生たちを「特命の外国勢力から資金支援を受け、煽動された”第五列”(祖国に歯向かう集団)」と決めつけ、タイの抱える問題の責任を外国人に押し付ける保守的なタイ人の”外国人嫌悪症”を煽る動きもある。

 タイにおける報道の自由を厳しく制限しているのは、王室に対する不敬罪法だけではない。サイバーセキュリティ法も、さまざまな形で国の政治に異議を唱えたり、批判したりすることを犯罪として取り締まる。これらの法律が、活動家たちが当局から脅迫や嫌がらせを受けていると述べているように、タイにおける報道の自由を抑える効果をもたらしているのだ。

 同国では、かつては自主独立の精神にあふれたメディアもあったが、今や記者たちは厳格な報道規制の下で活動し、当局が認めないと予想する記事を”自己検閲”で没にすることが日常化している。

 2014年の軍事クーデターからこれまで5年の軍事政権下で、積極的に声を上げるジャーナリストたちが当局の“狩り”の対象となり、審問に欠けられた。目立った活動をしたジャーナリストの中には、軍の施設に監禁され、数日にわたる”矯正措置”を受けさせられる者も出ている。

 こうした事態は、昨年3月の総選挙の後も変わっていない、と関係筋は言う。パリに本部を置き、世界の報道の自由の状況を監視している「国境なき記者団」も、昨年春の選挙は「プラユット首相をトップとする指導部による完全な支配に変化をもたらさなかった」とし、「タイ政府に対するいかなる批判も、過酷な法律と命令に従属するこの国の司法制度をもとにした、厳しい報復を免れない… 2019年2月に採択されたサイバーセキュリティ法は、当局にさらに多くの規制権限を与え、オンラインを使った情報提供活動にさらなる脅威をもたらしている」と警告している。

 支配者側にとって好ましくない、批判的な報道を裁き、沈黙させる「名誉棄損処罰法」も導入されている。報道を通して名誉を棄損したと判断される記者を、犯罪者として取り締まろうとするものだ。

 この国の政治や経済の支配者たちが意のままに、こうした法律を乱用した結果、この国の問題について報道し、あるは論評しようとするジャーナリストたちは、法的処罰に直面させられている。昨年12月、あるジャーナリストはネット上で2、3回のつぶややいだだけで、2年の懲役刑を言い渡された。彼女がつぶやいたのは、移民労働者が置かれている酷い状況、タイのある企業で頻繁に受けている虐待についてだった。

 そうした中で、タイ政府の高官たちの悩みの種は、外国メディアによる政権批判の報道だ、と関係者は言う。タイで報道活動を続けるあるジャーナリストは、UCANewsの取材にこう語った。「政府の高官たちが手を焼いていることの一つが、海外での自分たちにとって好ましくない報道です… タイの(注:海外での)のイメージを、すべての人が元気で誰もが幸せで、”ほほえみの国”にし続けたいのです」

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2020年8月22日