・中国が、1万人に上る海外在住者を”誘拐”などの手段で”非自発的帰国”させているー国際人権団体が報告書

(2022.1.21 カトリック・あい )

 スペインを拠点とする人権保護団体「SafeguardDefenders =https://safeguarddefenders.com/)が18日明らかにした調査報告書によると、習近平・主席による腐敗防止キャンペーンの一環として中国政府・共産党が2014年に始めた中国人の”国外逃亡者”の世界的捜索活動で「あらゆる手段」をとることにより、これまでに120か国以上から約1万人を国内に送還することに”成功”した。

 同報告書によると、「あらゆる手段」とは文字通りに解釈されるべきもので、中国が2018年に導入した国家監察法の規定によれば、一時帰国した家族を拘束することから、海外の”逃亡者”を脅迫して帰国させる秘密任務を帯びた係官を海外に派遣すること、さらには、海外における誘拐にまで含まれる。

 調査報告では、海外在住の中国人の正式な法的手続きによる相手国からの中国政府への引き渡しは、”非自主的帰国”のわずか1㌫だが、“非自主的帰国”の試みは64パーセントが”成功”している、としており、SafeguardDefendersは、急速に進むこのような国外の中国国籍の人々にまで監督・規制の対象を広げる行為は、「世界中のあらゆる国の国家主権と個人の権利に深刻な脅威をもたらす」と警告。こうした他国での中国国籍の人々の追跡調査、そして“非自主的帰国”の作戦に対抗し、そうした人々を保護する対応は、国際秩序を守るために必要だ、と訴えている。

*中国は海外での誘拐行為を合法化している

 Safeguard Defendersの報告書は、中国政府が新たに設置した国家監察委員会(NSC)が、国家監察法52条に定めたNSCと公安が”国外逃亡者”を帰国させる次のような手順を踏む。1つめは、”国外逃亡者”を現地で誘拐し、中国に連れ戻すやり方。2つ目は、中国と犯罪者引き渡し条約を結んでいる国、あるいは公海、国際空域内に、”国外逃亡者”を誘い入れ、現地国当局に逮捕させ、引き渡しを求めるやり方だ。

 また報告書は、具体的に、こうした行為を3つのタイプに分け、実例で説明している。

*タイプ1:中国在住の家族を拘束し、帰国するよう圧力をかける

 中国の最高裁判所判事だった謝衛東氏は海外に亡命した後、中国の刑事司法制度を公に批判した。これに対して、中国当局は彼を汚職で有罪、とし、「自発的に」帰国させようとした。彼が拒否すると、公安は中国にいる彼の妹を拘束し、さらに、彼の息子を拘束した。また、彼の元妻、長年のビジネスパートナー、彼の妹の代理弁護士などに連絡を取り、彼に帰国を説得するよう求めた。中国当局は弁護士をカナダに派遣し、直接、説得に当たらせたが…無駄だった。

*タイプ2:他国に”潜入捜査”をし、本人に帰国を働きかける

 特定の人物を強制帰国させるために、豪州で覆面捜査を行っている中国の公安関係者の活動が最初に明らかになったのは、東風氏のケースだ。彼は豪州の市民権を取得した、団体観光旅行の運営者兼バス運転手で、法輪功の学習者でもあったが、中国から秘密裏に豪州に入国した公安関係者がメルボルンに住んでいた東に近づき、帰国して”正義”を行なうよう説得した。当初は中国に戻った家族に被害が及ぶことを懸念して、彼らと連絡を取ることに同意したが、最終的には帰国を拒否した。中国の公安が豪州で”おとり捜査”をしているという情報が豪州の捜査当局に漏れ、両国の間で外交的な摩擦が生じた。

*タイプ3:海外での誘拐

 中国の人権活動家、董广平氏は2000年代初頭に政権転覆扇動の罪で3年間服役し、2014年にはさらに8か月間拘禁された後、中国から脱出、2015年にタイに入国し、国連高等弁務官事務所から公式に難民認定された。だが、バンコクの入国管理センターでカナダへの再定住の手続きをした際、中国から来た公安が、タイの警官の前で彼に手錠をかけ、中国に連れ戻した。彼は懲役3年の刑を宣告され、刑期を終えた後、2019年に解放された。

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 海外在住者の監視、捜査は「贈収賄、汚職、権力乱用などで告発された経済犯と党や政府の役人のみを対象としている」と中国当局は主張しているが、SafeguardDefendersが特定したケースの多くは、それとは異なる人々で、中国共産党・政府の政策を批判する人々や人権活動家が含まれている。具体的には、タイで誘拐されたジャーナリストの李信氏、ビルマで誘拐された人権活動家の唐志春氏、香港在住の英国籍の Lee Bo 氏、スウェーデン在住の桂民梅氏などだ。

 さらに、 ウイグル人の人権団体Uyghur Human Rights Projecも標的にされたウイグル人の数百のケースを確認している。

 

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2022年1月21日