(論考)バチカンと中国の暫定合意で否定、肯定両陣営が”アニー・ホール”状態(Crux)

(2021.9.19 Crux  Editor  John L. Allen Jr.

 そうした見方があるにもかかわらず、バチカンの”暫定合意”の当事者たちは、この同じ状況について、極めて異なる見方を導き出ているようだー1949年の中国における共産政権樹立以来、初めて、この国のすべてのカトリック司教が中国政府と教皇の両方に受け入れられるようになった、と。

 昨年10月、中国との”暫定合意”が期限を迎え、延長するかどうかの判断を迫られる時期に、私は、バチカンの交渉団の事実上のトップであるバチカン国務省のポール・ギャラガー外務局長(大司教)と話をした。その際、彼は、”暫定合意”の理屈をこう語った。

 「私たちは頭に入れておかねばなりません。何かが起こるべくして起きたのです。さもなければ、私たちは、10年後に、教皇と交わりを続ける司教がまだ存在していたとしても、ごくわずかになっていたでしょう。今、始めなければ、そうなってしまうのです」。そして、「私たちが1950年代以来初めて、中国のすべての司教たちを教皇と交わらせることができた、という事実、そして中国当局が司教たちの任命において、教皇に控えめな発言を認めている、という事実、しかし、突き詰めて言えば、最終決断は極めて注目に値します」と。

 その一方で、外務局長はこの”暫定合意”が「理想からは程遠い」ことをあっさり、しかし遠慮がちに、認めた。また、現地で人事に関する情報を収集・分析する役割を持つ大使を置いていない中国で、司教候補者を探すのはとても難しいこと、意志疎通を図る他のチャネルがわずかしかなく、まして、国によって管理されていない人と意思疎通を図るのは至難の業であること、も正直に述懐した。

 だが、それにもかかわらず、「暫定合意は、中国の教会の将来を確実にするための正しい選択」との主張は変えなかった。

 そして、「これからの数年間に、どのような障害が待ち構えているのか、誰に分かるでしょうか?」との問いには、「分からない。でも、現時点で言えることは、ゆっくりと前進する可能性がある、ということです」と答えた。

 要するに、「アニー・ホール」の例の場面にならって、暫定合意の肯定論者と否定論者がセラピストのところに治療を受けに出掛け、新たに叙階された武漢の司教について聴かれたら、次のように答えた、ということだろう。

 否定論者「彼は政府の人間だ。司教叙階されたのはひどいことだ」

 肯定論者「彼は政府の人間だ。他の候補者よりも優れている」

 そして、それが、一言で言えば、「議論の核心」なのだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年9月21日